犯歴事務解説(法務総合研究所の,平成30年3月5日発行の五訂版)
95頁ないし102頁には,「第2 前科調書(規程第13条第2項)」として以下の記載があります(規程とあるのは,犯歴事務規程(昭和59年4月26日付の法務大臣訓令)のことです。また,文中の前科調書等の画像は元の文献に含まれていません。)。
1 前科調書
(1) 前科調書は,検察事務官が作成する前科の調査結果の報告書である。前科調書の作成名義は,電子計算機により出力された前科調書(甲)については,地方検察庁本庁の犯歴担当事務官であり,犯歴票等に基づき作成される前科調書(乙),前科調書(丙)及び前科調書(丁)については,本籍地方検察庁の犯歴担当事務官である(注)。
ただし,急速を要する場合において,地方検察庁の本庁からメール等により前科調書(甲)の送付を受けた支部等にあっては,その作成名義を支部等の犯歴担当事務官としても差し支えないであろう。
なお,前科調書は,原則的には電子計算機より出力されたもの又は犯歴票等に基づいて作成されたものであるが,場合によっては,裁判書原本又は訴訟記録中に編てつされている前科調書等によって作成しても差し支えない。
(注)昭40検務実務家会同犯歴事務関係9問答参照
(2) 犯歴担当事務官が,特定の者が有罪の裁判を受けた事実を明らかにする書面を作成する場合には,前科調書(甲),前科調書(乙),前科調書(丙)又は前科調書(丁)による。
前科調書(甲)は電算処理対象犯歴に係る前科照会に,前科調書(乙)は非電算処理対象犯歴(道交犯歴を除く。)に係る前科照会に,前科調書(丙)は道交犯歴に係る前科照会に,前科調書(丁)は犯歴票の写しを添付することとなるときに, それぞれ作成することとされている(注)。
(注)運用通達の記の第2.5.(2)
(3) 前科調書に記載する前科は,特定の者に係る全ての有罪の確定裁判である。
しかし,前科調書を必要とする理由によっては,例えば,刑の執行猶予の言渡しの取消しを請求する場合において,執行を猶予された刑と当該執行猶予の言渡しの取消原因刑とを記載すれば足りるようなときは,確定裁判の一部のみを記載して差し支えない。
(4) 前科調書を作成するに当たっては,電子計算機により把握されていたものだからとして盲信したり,単に犯歴票等から機械的に転記したりするのではなく,内容に誤りがないかどうか,記載されている事項に矛盾はないかどうか等を子細に点検し,正確を期さなければならない。
前科調書(甲)の印字は勝手に訂正・補正することは認められないから,訂正・補正の必要がある場合は,戸籍事項訂正又は犯歴事項訂正の手続を行うこととなる。
2 前科調書(甲)の作成
(1) 前科調書(甲)は,電子計算機から出力されるものであり,記載されている内容は,データを入力する際及び更新処理の際にチェックされているので, その内容は間違いがないはずであるが,前科調書(甲)に印字された者の氏名,生年月日及び本籍地の表示と照会に係る者のそれらとが一致するか否か,及び犯歴事項の内容に誤りや矛盾がないかどうかを点検・確認した上で,署名押印を行うべきである。
(2) 照会に係る者と氏名コード及び生年月日は一致するが本籍地表示が異なるなどのいわゆる類似者については,前科調書(甲)に印字された者と照会に係る者とが同一人であるか否かについて対査・点検し, その結果, 同一人と特定し難い場合には, いわゆる認証をせず,氏名欄に赤色で「類似者」と表示するとともに,前科調書(甲)の身分事項中照会に係る者の身分事項と異なる部分を赤色で囲むなどして相違点を明らかにする(注1)。
また,前科調書(甲)が,例えば.本籍地A,生年月日○年○月○日,氏名乙山丙男という者について電子計算機から出力された前科調書(甲)に印字された前科が検察庁において犯歴として把握されているという事実の報告書であることに鑑みれば.前科調書(甲)の印字の訂正や補正は,原則として認められない。したがって,その訂正等の必要はあるが訂正のための更新入力手続をとるいとまがないような場合で,特にその相違について説明を要するときは,戸籍騰本を添付し, あるいは,別途相違事実についての報告書を作成添付する等の方法を考慮することになろう (注2)。なお, このような場合には,直ちに,電子計算機によって把握されている当該事項についての訂正手続をとる必要があることはいうまでもない。
(注1)昭57.3.5刑総163号刑事局総務課長通達「電算化犯歴に係る類似者の前科調背(丙)の取扱いについて」。 (なお,通達中の「前科調書(丙)」は,現行の「前科調書(甲)」に相当するものである。)
(注2)昭53検務実務家会同犯歴事務関係1問答(なお, 間中の「前科調書(丙)」は,現行の「前科調書(甲)」に相当するものである。)
3 前科調書(乙)及び前科調書(丙)の作成
(1) 前科調書(乙)及び前科調書(丙)は,犯歴票等に基づき作成する。作成上注意すべき事項は,次のとおりである。
ア 氏名,生年月日,本籍(国籍)の各欄
(ア) 氏名,生年月日,本籍(国籍)は,人の特定上必要な事項であるから,正確に記載しなければならない。文字は,楷書で,丁寧に書き,数字は,誤読されないように特に注意して,正確に記載しなければならない。また,生年月日は, 日本人については元号表記によることとされているので,前科調書の様式に元号が印刷されていないからといって,西暦による表記は許されないから注意を要する。
(イ) 作成の際転籍していることが判明しているときは,新本籍を記載し,犯歴票を訂正する(犯歴票等を保管することとなる本籍地方検察庁の変更については,第4章,第3,5-78ページ参照)。
イ 裁判・確定・刑終了の日等欄(裁判・確定欄)
(ア) 年月日の記載要領は,生年月日のそれと同様である。
(イ) 仮釈放期間満了により刑の執行が終了している場合には,仮釈放の日も記載する。
(ウ) 1個の裁判で2個以上の刑が言い渡されている場合には,各刑ごとに刑終了日を記載する。
ウ 罪名欄
罪名が複数あるときは,全て記載し, 「窃盗等」などと略記してはならない。
エ 刑名・刑期・金額等欄(刑名・刑期欄)
数字は,誤読されないよう特に注意して,正確に記載しなければならない。
執行猶予の言渡しの裁判がなされているのに執行猶予期間の記載を脱落したり,保護観察に付されているのに該当文字の囲み(「付保護観察」を脱落したりすれば,不当な結果を生ぜしめるおそれがあるので,特に注意を要する。
刑の一部の執行猶予が言い渡された場合は,「○年○月につき」として,執行が猶予された部分の期間も記載する。
オ 恩赦事項・その他欄
この欄に記載すべき主な事項は,恩赦事項のほか,次のとおりである。
(ア) 刑執行猶予言渡し取消決定の日,取消し裁判所,取消決定確定の日
(イ) 犯行時少年の場合は,その年齢
(ウ) 公民権停止・不停止の別,停止期間
(エ) 保護観察付き執行猶予にあっては,保護観察の仮解除その取消しの日
(オ) 仮釈放中の刑については,保護観察の停止,その解除・取消しの日
(カ) 仮釈放取消しの日,仮釈放取消しによる残刑執行の始期
(キ) 補導処分に付きれた者にあっては,その終了の日
カ 態様欄
この欄には,違反態様(例えば「酒酔い」, 「無免許」等)を記載する(注)。
(注)昭48.6.25刑総379号刑事局長通達「事件事務規程及び犯歴事務規程の一部を改正する訓令の運用について」の記の三,3
(2) 前科調書は,前述のとおり検察事務官の作成する報告書であるから,前科調書(乙),前科調書(丙)又は前科調書(丁)を作成した場合には, これに署名押印しなければならない(刑事訴訟規則第58条第1項)。
また,文字を加え,削り,又は欄外に記入したときは,その範囲を明らかにして,訂正した部分に認印し(同規則第59条),犯数が多いため継続用紙を使用した場合には,毎葉ごとに契印しなければならない(同規則第58条第3項)。
4 前科調書(丁)の作成
(1) 前科調書(丁)は,事務の能率化を図る見地から,犯歴票を複写して添付する取扱いとなっている。
(2) 前科調書は,裁判所に提出きれたり,警察等へ送付されたりするため,犯歴票の記載が乱雑であったり,記載事項が加除訂正等により判然としないため誤読されるおそれがあるような場合には,前科調書(乙)を改めて作成すべきである(注)。
(注)昭49.12.26刑総755号刑事局総務課長通達「前科調書の作成等について」の記の三(なお,通達中の「前科調書(乙)」は現行の「前科調書(丁)」に, 「前科調書(甲)」は現行の「前科調書(乙)」に相当するものである。)
5 刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた場合における前科調書(甲)及び前科調書(乙)の読み方について
(1) 刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは,実刑部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽され,実刑部分の期間の執行を終わった日等において,刑の執行を受け終わったものとすることとされた(刑法第27条の7)。
刑の全部の執行猶予と同様に,刑の一部の執行猶予についてもその猶予の期間を満了した旨の通知が検察庁に対してなきれることはないため,猶予の期間の経過の有無が直接前科調書に記載されることはないものの,前科調書の記載内容を確認することによって,猶予の期間を経過したか否かを判断することが可能である。
すなわち,前科調書上, 「実刑部分の期間の執行終了の日」及び「一部執行猶予期間の起算日」の記載があり, 「執行猶予取消確定の日」の記載がない場合において, 「一部執行猶予期間の起算日」から起算して猶予の期間を経過したときは,その猶予の期間を経過したものとして取り扱うこととなる。
他方,前科調書上,「実刑部分の期間の執行終了の日」が記載されていながら, 「一部執行猶予期間の起算日」が記載されていない場合は,実刑部分の期間の執行終了後に引き続き他刑が執行されるなどの事由により,猶予の期間が起算きれていないため,猶予の期間を経過したとは認められない。また, 「実刑部分の期間の執行終了の日」の記載があり, 「執行猶予取消確定の日」が記載されている場合は,執行猶予の言渡しが取り消されているので,猶予の期間を経過したとは認められない。
(2) なお,刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過した場合,前科調書上の「実刑部分の期間の執行終了の日」がその刑の執行終了の日となる。この場合, 「刑執行終了の日」は空欄となるが,その理由は,仮に「刑執行終了の日」に「実刑部分の期間の執行終了の日」と同じ日を記載することとすると,前述のように,猶予の期間を満了した旨の通知が検察庁に対してなされることはないのに,再犯等を犯した者でない者についても,猶予の期間を経過したかどうかを常に把握しなければならなくなるからである。そのため,あえて「刑執行終了の日」に「実刑部分の期間の執行終了の日」と同じ日を記載していないので,留意されたい。
* 以下の記事も参照してください。
① 検察庁による身上照会
② 刑法第34条の2の規定による刑の消滅