目次
1 所持品検査を実施している下級裁判所の庁舎
2 入庁時の所持品検査を免除されている人
3 所持品検査の適法性に関する最高裁判例
4 エックス線検査の適法性に関する最高裁判例
5 最高裁判所長官「新年のことば」等
6 所持品検査実施に関する大阪弁護士会宛の連絡文書の一部は開示されないこと
7 最高裁判所判事等は襲撃の対象となるおそれが高いと考えられていること等
8 所持品検査の根拠となる最高裁判所規程は存在しないこと等
9 法廷内で過去に発生した事件等
9の2 所持品検査に関する平成28年3月16日の国会答弁
9の3 所持品検査に関する平成30年11月22日の国会答弁
10 所持品検査を実施していた東京家裁1階の玄関で殺人事件が発生したこと等
11 「法廷秩序維持問題」(昭和28年1月)の記載
12 関連記事その他
1 所持品検査を実施している下級裁判所の庁舎
(1) 令和元年10月現在,所持品検査を実施している下級裁判所の庁舎は以下のとおりであり,合計18の庁舎で実施されています。
ア 東京高裁管内の庁舎
① 東京高裁及び東京地裁の庁舎(平成 7年 5月16日開始)
② 東京家裁及び東京簡裁の庁舎(平成25年10月 1日開始)
③ 東京地家裁立川支部の庁舎 (平成31年 4月 1日開始)
④ 横浜地裁の庁舎 (平成30年 3月 1日開始)
⑤ 横浜家裁の庁舎 (平成31年 4月 1日開始)
⑥ さいたま地家裁の庁舎 (平成30年 3月 1日開始)
⑦ 千葉地家裁の庁舎 (平成30年 2月13日開始)
イ 大阪高裁管内の庁舎
① 大阪高裁及び大阪地裁の庁舎(平成30年 1月 9日開始)
② 大阪家裁の庁舎 (平成31年 4月 1日開始)
③ 京都地裁の庁舎 (平成31年 4月 1日開始)
④ 神戸地裁の庁舎 (平成30年 9月 3日開始)
ウ 名古屋高裁管内の庁舎
① 名古屋高裁及び名古屋地裁の庁舎(平成30年7月4日開始)
エ 広島高裁管内の庁舎
① 広島高裁及び広島地裁の庁舎(平成30年10月 1日開始)
② 広島高裁岡山支部及び岡山地家裁の庁舎(令和元年10月 1日開始)
オ 福岡高裁管内の庁舎
① 福岡高裁,福岡地裁及び福岡家裁の庁舎(平成27年1月5日開始)
・ 福岡家裁の所持品検査については,福岡高等・地方・家庭・簡易裁判所及び検察審査会合同庁舎となったことに伴い,開始しました。
カ 仙台高裁管内の庁舎
① 仙台高裁及び仙台地裁の庁舎(平成30年 1月15日開始)
キ 札幌高裁管内の庁舎
① 札幌高裁及び札幌地裁の庁舎(平成25年 3月 1日開始)
ク 高松高裁管内の庁舎
① 高松高裁及び高松地裁の庁舎(平成31年 4月 1日開始)
(2)ア 42期の村田斉志最高裁判所総務局長は,平成31年4月9日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(最高裁のほか,千葉地裁及び千葉家裁を別にカウントしています。)。
本日現在で常時検査を実施しております裁判所は、庁舎の数で申し上げますと全部で十九ございまして、具体的に申し上げますと、最高裁、東京高地裁、大阪高地裁、名古屋高地裁、広島高地裁、福岡高地家裁、仙台高地裁、札幌高地裁、高松高地裁、東京地家裁立川支部、東京家裁、横浜地裁、横浜家裁、さいたま地家裁、千葉地裁、千葉家裁、大阪家裁、京都地裁、神戸地裁、これら全部で十九庁舎でございます。
イ 千葉地裁及び千葉家裁は同じ敷地にありますから,別の庁舎としてカウントするのは変であると思います。
2 入庁時の所持品検査を免除されている人
(1) 仙台地裁HPに掲載されている平成30年5月15日開催の仙台地方裁判所委員会(第33回)議事概要3頁に以下の記載があります。
○ 入庁時の所持品検査を免除されている人やケースはあるかお聴きしたい。
□ 裁判所職員以外では,例えば,検察庁で身分を確認しているということでバッジや身分証明書を携帯する検察官や検察事務官,弁護士会で身分を確認しているということでバッジや身分証明書を携帯する弁護士や弁護士事務所の事務員,そのほかにも裁判所にほぼ毎日のように出入りする業者の方で,事前に申請をした上で一定の条件の下で入庁許可証を発行されている方などがあげられる。また,裁判員の方も,選任後は裁判所職員の身分になるということで,特に検査を受けずに入庁している。
(2) ニュースサイト ハンターHPの「裁判所「所持品検査」フリーパス 司法記者クラブに資格はあるか? 」(平成27年1月15日付)には以下の記載があります。
裁判所側に尋ねたところ、所持品検査をパスして入庁できるのは、まず裁判官、次に検察官、弁護士、裁判所職員だという。こちらから言い出すまで出てこなかったが、じつは「司法記者クラブ」所属の記者もフリーパス。民間人では唯一といっていい「例外」なのである。記者クラブ側は、“大手メディアの記者なら当たり前”と思っているのだろうが……。
3 所持品検査の適法性に関する最高裁判例
(1) 最高裁昭和43年8月2日判決は以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
① おもうに、使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう、いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であつて、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとつて必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行なわれ、これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもつて、当然に適法視されうるものではない。
問題は、その検査の方法ないし程度であつて、所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。
② そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行なわれるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務があり、かく解しても所論憲法の条項に反するものでないことは、昭和二六年四月四日大法廷決定(民集五巻五号二一四頁)の趣旨に徴して明らかである。
(2)ア 最高裁昭和53年9月7日判決は以下のとおり判示しています。
警職法二条一項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべぎである(最高裁判所昭和五二年(あ)第一四三五号同五三年六月二〇日第三小法廷判決参照)。
イ 最高裁昭和63年9月16日決定,最高裁平成7年5月30日決定及び最高裁平成15年5月26日決定は,最高裁昭和53年9月7日判決を先例として引用しています。
4 エックス線検査の適法性に関する最高裁判例
最高裁平成21年9月28日決定は以下のとおり判示しています(改行を追加しました。)。
本件エックス線検査は,荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ることなく,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが,その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上,内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから,検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。
そして,本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって,検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は,違法であるといわざるを得ない。
5 最高裁判所長官「新年のことば」等
(1)ア 平成29年1月1日付の最高裁判所長官「新年のことば」には以下の記載があります。
昨年4月に,ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書及び最高裁判所裁判官会議談話が公表され,かつての開廷場所指定の運用が違法と判断されたことは御承知のとおりです。報告書は,司法行政事務に携わる職員に対し,人権に対する鋭敏な感覚を持って事務処理を行うよう求めていますが,このことは裁判所で働く全ての裁判官及び職員に対し向けられるべきものでもあります。長らく続けられてきた事務処理であっても,それが法令等に則ったものであるかを再確認する意識を失わず,併せて社会通念上是認されるものであるかといった観点にも目配りをして,改めるべきは躊躇なく見直すという姿勢が求められます。
イ 平成31年1月1日付の最高裁判所長官「新年のことば」には以下の記載があります。
改めていうまでもなく,裁判所は,法にのっとり社会に生起する紛争の解決を図ることによって法の支配を実現する使命を託されています。裁判所に働く者一人一人が,それぞれの職場において,安易に先例に頼るのではなく,常にその行為が適正なものといえるかを問う姿勢で職務に当たることが求められていることに思いを致し,自らを戒めなければならないと感じています。
(2) 最高裁判所長官「新年のことば」は毎年,裁判所時報1月1日号に掲載されています(「裁判所時報」参照)。
(3)ア 平成29年11月22日付の司法行政文書不開示通知書によれば,札幌高裁及び福岡高裁で実施されている所持品検査が,最高裁昭和53年6月20日判決が判示する所持品検査の適法性の要件を満たしているかどうかを検討した際に作成した文書は存在しません。
イ 平成29年12月25日付の司法行政文書不開示通知書によれば,最高裁判所が,平成25年3月1日以降に,東京高裁,福岡高裁及び札幌高裁の所持品検査の運用状況に関して取得した文書は存在しません。
6 所持品検査実施に関する大阪弁護士会宛の連絡文書の一部は開示されないこと
(1) 大阪高等・地方・簡易裁判所庁舎における入庁検査の実施について(平成29年12月12日付の大阪高裁事務局長の文書)(黒塗りあり)につき,黒塗りの理由として,平成31年3月12日付の理由説明書の「最高裁判所の考え方及びその理由」には以下の記載があります。
ア 原判断庁[山中注:大阪高裁のこと。]が開示しないこととした部分には,入庁検査の具体的な方法や所持品検査の使用機器,所持品検査除外者に関する事項などが記載されているところ,これらの情報を公にすると,入庁検査の妨害等を企てられて庁舎内に危険物を持ち込まれるおそれがあり,ひいては裁判所利用者等の生命又は身体に危険が及ぶおそれがある。
よって,これらの情報を公にすることは,適正な警備事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから, これらの情報は行政機関情報公開法第5条第6号に定める不開示情報に相当する。
イ なお,苦情申出人は,原判断において不開示とした情報のうち,入庁検査の実施時間帯,障がい者等の入館時の検査方法及び所持品検査の使用機器については,原判断庁の当直室の利用実態や原判断庁の入口を観察することによって誰でも認識できる情報として, 同使用機器及び所持品検査除外者に関する事項については, 「仙台地方裁判所委員会(第33回)議事概要」において開示されている情報であるとして不開示情報に相当しないと主張する。
しかし, これらの情報(以下「本件不開示情報」という。)については,いずれも原判断庁において公表していない情報であり,原判断庁を観察すること等により認識できる情報及びその他の庁の入庁検査につき公表されている情報からは,いずれも原判断庁における取扱いが推測されるのみであり,本件不開示情報が明らかになるものではない。また,警備態勢については,各庁の規模や構造等の事情を踏まえて決められるものであるところう入庁検査の情報につき他の庁で公表されていることをもって,各庁における当該情報を開示しなければならないとすると,それらの情報を分析されることにより,総合的に裁判所の警備態勢の傾向が予測され,今後の裁判所全体における警備実施に支障を及ぼすおそれがある。
ウ したがって,本件不開示情報を含む不開示部分についての原判断は相当であると考える。
(2) 全く黒塗りのない文書が大阪弁護士会HPに「大阪高等・地方・簡易裁判所庁舎における入庁検査の実施について(平成29年12月12日付の大阪高裁事務局長の文書)」として載っていますところ,令和元年10月4日付の理由説明書の「理由」には以下の記載があります。
本件対象文書中の不開示部分は,いずれも公にすることにより適正な警備事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,原判断庁である大阪高等裁判所が不開示と判断したものである。
苦情申出人は,本件対象文書は,マスキングされていない状態で大阪弁護士会ホームページにおいて公表されているにもかかわらず,入庁検査の妨害等を企てられて庁舎内に危険物を持ち込まれるといった事態は発生していないことから,上記不開示部分は,不開示情報には当たらない旨主張する。
この点,文書開示手続においては,開示申出を受けた各裁判所が,対象となる文書の内容を個別具体的に検討し,各裁判所が独自に開示・不開示の判断を行うものであるところ,対象文書が特定団体のホームページ上で公表されているとしても,それは当該特定団体が自らの判断で公表しているに過ぎず,開示申出を受けた裁判所の判断を拘束するものではない。
なお,対象文書中の不開示部分は,警備に関する具体的な運用が記載されており, この情報を公にすることは,警備レベルの低下を招くことになるから, この情報の流通を拡大させることは,原判断庁にとって,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれにつながる。また,現在まで庁舎内の安全が脅かされる事態が発生していないからといって,今後も発生するおそれがないとはいえない。
よって,原判断は相当であると考える。
7 最高裁判所判事等は襲撃の対象となるおそれが高いと考えられていること等
(1) 最高裁判所判事の視察日程は不開示情報に該当するとした,平成28年度(情)答申第14号(平成28年10月24日答申)の記載
・ 最高裁判所は,司法権及び司法行政権の最高機関であるから,最高裁判所判事が要人として犯罪行為等の標的となることは否定できない。そして,憲法週間における最高裁判所判事による下級裁判所の視察が毎年行われるものであることも考慮すると,視察の際の日程等の詳細が公になると,それを蓄積して移動手段や日程等の傾向を分析され,今後の視察の行動を予測されるなどして,犯罪行為等の実行に利用されるおそれがあるとする上記説明も,不合理とはいえない。
(2) 最高裁判所長官室の写真等を不開示情報に該当するとした,平成29年度(最情)答申第27号(平成29年8月7日答申)の記載
・ 本件不開示部分(注:最高裁判所長官室,最高裁判所判事室及び最高裁判所首席調査官室の写真並びにその撮影場所)のうちその余の部分については,その記載等の内容からすれば,上記部分を公にすると,最高裁判所長官室,最高裁判所判事室及び最高裁判所首席調査官室の位置及び構造が明らかになるものと認められる。そうすると,最高裁判所長官及び最高裁判所判事は,裁判所の業務に係る意思決定において極めて重要な役割を担っており,最高裁判所首席調査官は,最高裁判所の裁判所調査官の事務を総括していることから,いずれも襲撃の対象となるおそれが高く,上記各室は極めて高度なセキュリティが要請されるという最高裁判所事務総長の上記説明が不合理とはいえず,上記部分を公にすることにより,庁舎管理事務及び警備事務に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
(3) 最高裁判所の,大法廷棟,小法廷棟,図書館棟,裁判官棟,裁判部棟,事務北棟及び事務西棟の位置関係等は不開示情報に該当するとした,平成28年度(最情)答申第48号(平成29年3月17日答申)
・ 原判断において不開示とした部分は,本件対象文書中の傍聴人や裁判所見学者が立ち入る場所を除く場所に係る部分であり,当該部分については,法5条6号に相当するとしている。このように判断した理由は,次のとおりである。
すなわち,最高裁判所の庁舎は,各門扉に警備員を配し,一般的に公開されている法廷等の部分を除き,許可のない者の入構を禁止していることから明らかなとおり,庁舎全体についての高度なセキュリティを確保する必要のある建物であることから,原則として最高裁判所の間取りや位置関係等が分かる部分は,これらを公にすることにより全体として警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,不開示とすべきものである。
一方で,最高裁判所庁舎のうち,法廷等来庁者の出入りが予想され,一般に公開されていると評価できる部分については,例外的に当該部分の位置関係等が分かる情報を開示したとしても特段の警備事務等の支障はない。原判断においては,このような考え方に従って,開示すべき部分と不開示とすべき部分とを決したものである。
なお,下級裁判所では,書記官室において,当事者に対する手続教示や書面の授受等が行われており,当事者等の出入りが予定されていることから,書記官室の位置関係を開示しても警備事務に支障を及ぼすものではない。しかし,最高裁判所においては,手続教示や書面の授受といった下級裁判所の書記官室で行われている対外的業務を全て第二訟廷事務室で行っており,書記官室への当事者等の出入りは予定されていない。そうすると,最高裁判所の書記官室は一般に公開されている部分とはいえないことから,書記官室の位置関係が分かる部分については,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,不開示とすることが相当である。
8 所持品検査の根拠となる最高裁判所規程は存在しないこと等
(1) 平成30年2月13日付の司法行政文書不開示通知書によれば,裁判所における所持品検査の根拠となっている最高裁判所規程(条文中に「所持品検査」という文言を含むもの。)は存在しません。
(2) 以下の最高裁判所規則を掲載しています。
① 法廷等の秩序維持に関する規則(昭和27年9月1日最高裁判所規則第20号)
② 裁判所傍聴規則(昭和27年9月1日最高裁判所規則第21号)
(3) 以下の通達を掲載しています。
① 裁判所の庁舎等の管理に関する規程の運用について(昭和43年6月10日付の最高裁判所事務総長依命通達)
・ 別紙として,裁判所の庁舎等の管理に関する規程(昭和43年6月10日最高裁判所規程第4号)が含まれています。
② 裁判所の庁舎等の管理に関する規程の運用について(昭和60年12月28日付の最高裁判所事務総局経理局長通達)
③ 法廷秩序維持等のための警備状況の報告について(平成4年12月24日付の最高裁判所刑事局長通達)
9 法廷内で過去に発生した事件等
(1) 昭和27年5月13日の午後,広島地裁で実施された勾留理由開示において,多数の傍聴人が法廷の柵を乗り越えて4人の被疑者を奪還するという事件が発生しました(Wikipediaの「広島地裁被疑者奪回事件」参照)。
(2) 昭和49年10月29日の午後,社青同解放派(日本の新左翼)の5人が東京高裁長官室及び東京高裁事務局長室に乱入するという事件が発生していました(Wikipediaの「東京高裁長官室乱入事件」参照)。
(3) 昭和51年9月17日,社青同解放派(日本の新左翼)の3人が公用車乗車中の東京高裁刑事部部総括を殴打するという事件が発生していました(Wikipediaの「東京高裁判事襲撃事件」参照)。
(4) 平成29年6月16日,盗撮等の罪で懲役1年の実刑判決を受けた保釈中の被告人Aが,判決宣告中にあらかじめ法廷内に持ち込んだ刃物で,傍聴席にいた2名の警察官(被告人Aを取り押さえようとした人です。)に斬りつけて怪我を負わせ,殺人未遂罪によりその場で現行犯逮捕されたという事件が発生しました(刑事被告事件の法廷等の入口における所持品検査の実施について(平成29年6月16日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡),及びM家の実情ブログの「【○○○○】経歴は?YouTube動画が超絶キモイ!過去の犯罪歴~」(○○○○は被告人Aの実名につき省略)参照)。
9の2 所持品検査に関する平成28年3月16日の国会答弁
・ 42期の笠井之彦最高裁判所経理局長は,平成28年3月16日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 委員御指摘のとおり、裁判所におきましては、さまざまな利害の相対立する事件等を日常的に扱っております。その中で、適切に裁判を実施していくとともに、来庁する国民が安全かつ安心して裁判所を利用できるということ、そのために庁舎内の安全を確保するということ、これは裁判所の重要な責務であるというふうに考えているところでございます。
そのために、日常的に、庁舎敷地内への入構、あるいは庁舎内への入庁、法廷内への入退出、法廷での審理、そういった場面におきまして、事案に応じまして適切な警備体制を整えているというところでございます。
② さらに、事件の内容等によりまして具体的な危険が予測されるという場合もございます。そういう場合につきましては、必要に応じまして、庁舎の出入り口を一部閉鎖したり、庁舎の出入り口あるいは法廷の出入り口で金属探知機等による検査を行うなど、危険の態様、度合いに応じまして警備体制をとっているところでございます。
さらに、配慮すべき事案におきましては警察官への派遣要請なども行っているところでございますが、そういった警備体制につきましては、構内、庁舎全般の日常的な警備、これは、守衛それから外注の警備員によって業務を行っているという体制でございます。
また、法廷に関しましては、これは必要に応じまして裁判所の職員を配置させていただいて対応させていただいている、また場合によっては警察官への派遣要請を行う、そういった形で対応させていただいているところでございます。
9の3 所持品検査に関する平成30年11月22日の国会答弁
(1) 42期の村田斉志最高裁判所総務局長は,平成30年11月22日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
・ 入庁時のゲート式による所持品検査につきましては今委員から御指摘のあったとおりでございますけれども、それ以外にも法廷警備という形での警備にも努めておるところでございまして、これは事案に応じて裁判体が適切な判断をしているものと承知をしております。一般的には、具体的な警備の方策を検討する際には、裁判の公平ということについても意識をしながら検討されるものと考えられます。
なお、御指摘の中で、警備を行うことが裁判の公開の関係からも問題があり得るかという点ですけれども、傍聴席にいる方に危害が加えられるようなことになりますと、これは裁判の公開という理念を脅かすということにもなりかねませんので、裁判の公開を確保するためにも法廷の安全確保が必要であると考えております。
また、法曹三者あるいは関係者との合意形成といった点についての御指摘ございましたけれども、裁判所での安全を確保するというのは、これは裁判所の責任で行うべきものでございますので、事案に応じて裁判体が判断するということになりますので、法曹三者等と合意をしなければ実施ができないというものではないと考えておりますけれども、裁判所がこの責任を果たすためには、関係者の御意見をちゃんと踏まえて、その上で実施するか否かを検討しているということになろうかと思います。
それからまた、最初に御指摘のあった入庁時の一般的な所持品検査については、弁護士会あるいは検察庁に対しても事前に丁寧な説明を行った上で実施に至っているものというふうに承知をしております。
(2) 42期の笠井之彦最高裁判所経理局長は,平成30年11月22日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
・ 裁判所を安全、安心な形で利用していただくということ、そのために庁舎内の安全を確保すること、これは裁判所の重要な責務の一つであるというふうに考えているところでございます。
先ほど委員から御指摘がありました金属探知機を用いた所持品検査、それにつきまして、入庁時に行うというものもございますし、それ以外に、各庁の実情に応じて法廷入廷時の所持品検査、こういったものにつきましても、外注警備員によるスポット的な対応を行うなどして体制を整えているところでございます。
今後でございますけれども、このような予算を確保していくということ、これ自体は非常に重要なことであるというふうに考えておりますので、裁判所としても、引き続き必要な予算の確保に努めてまいりたいというふうに考えているところでございます。
(3) 41期の堀田眞哉最高裁判所人事局長は,平成30年11月22日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
・ 法廷警備員の警備業務に関する研修につきましては、各裁判所の実情に応じて行われているところでございます。
例えば、東京地裁におきましては、法廷警備員の採用時に約半年間にわたって警備技術の教育を行っておりますほか、所持品検査の基本的動作等をまとめたDVDを整備しておりまして、このDVDについては、研修等での利用を希望する他の裁判所にも送付をして、警備に関する知識、技能の共有を図っているところでございます。
また、警備に関するマニュアルを整備したり、あるいは県警の職員を講師に招いて警備に関する講義を実施している裁判所もございまして、こうした取組により、法廷警備員に必要な知識、技能の習得が図られているものと認識しております。
今後とも、昨今の裁判所における加害行為の状況を踏まえつつ、各裁判所の実情に応じて、法廷警備員が必要な法廷警備に関する知識、技能の習得を図れるように取り組んでまいりたいと考えております。
(4) 「平成30年11月22日の参議院法務委員会に関する国会答弁資料のうち,裁判所の所持品検査に関するもの」の不開示判断に関する令和元年度(最情)答申第53号(令和元年10月18日答申)には以下の記載があります。
苦情申出人は,特定日の参議院法務委員会における国会答弁の内容及び参議院インターネット審議中継の動画からすれば,最高裁判所において本件開示申出文書を保有している旨主張する。しかし,当委員会において上記法務委員会の会議録を閲読し,出席者である長官代理者がした説明の内容を確認したところ,その内容を踏まえて検討すれば,議員の質問事項について,裁判所の基本的な見解を概括的に述べたものであり,上記法務委員会に係る国会答弁においては司法行政文書として長官代理者の説明案を作成していないという最高裁判所事務総長の上記説明の内容が不合理とはいえない。そのほか,最高裁判所において,本件開示申出文書に該当する文書を保有していることをうかがわせる事情は認められない。
したがって,最高裁判所において本件開示申出文書を保有していないと認められる。
10 所持品検査を実施していた東京家裁1階の玄関で殺人事件が発生したこと等
(1) 平成31年3月20日,東京家裁1階の玄関前で離婚調停中の妻(31歳)が,待ち伏せしていたアメリカ国籍の夫(32歳)に首を刺されて殺されました(「平成31年3月20日発生の,東京家裁前の殺人事件に関する国会答弁」参照)。
(2) 京都弁護士会HPの「京都地方・簡易裁判所合同庁舎への入庁方法等の変更に関する意見書」(平成31年1月24日付)には以下の記載があります。
北側玄関に出入口を一本化すると、それだけ事件の当事者や関係者がその付近で顔を合わせる可能性が高くなり、DV事案や、当事者同士の感情のもつれが激しい事案などでは、当事者・関係者同士が顔を合わすことで暴力等のトラブルが惹起されるおそれがある。トラブルが予想される事案での個別対応は検討するとしても、事案の全てでトラブル発生が予見できるわけではない。
(3) BLOGOSに「裁判所の所持品検査の持つ意味 当事者を守ることはできない 」(平成31年3月21日付)が載っています。
(4) 宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害された事故につき会社に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任があるとされた事例として,最高裁昭和59年4月10日判決があります。
平成31年3月20日に東京家裁で発生した殺人事件の第一報メールを添付しています。 pic.twitter.com/B3MbBe7jLw
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) April 24, 2020
11 「法廷秩序維持問題」(昭和28年1月)の記載
・ 法曹時報5巻1号(昭和28年1月発行)に掲載されている「法廷秩序維持問題」(筆者は田中耕太郎最高裁判所長官)には以下の記載があります。
(6頁の記載)
我が国における法廷の状態は、とくに特定の思想的傾向を帯びた事件又はかかる思想的傾向の者に関する事件の審理について、特別の立法的措置を必要とするにいたった。かような事件についての公開の法廷の情況は誠に遺憾なものがあった。傍聴人や被告人被疑者等の拍手喝采、喧騒、怒号、罵り等は往々裁判長の訴訟指揮を不可能ならしめる程度に達したこと新聞の報道や、もっと具体的には情況の録音によって明瞭である。さらに裁判官の命令や係員の制止を無視して暴力を振い、係員を傷害し建物や施設を破壊するがごとき事態も再三ならず発生するにいたった。しかも法廷のかような状態は、多くの場合に「法廷闘争」として指導され、計画的組織的に準備し遂行されているところから来ているものと推定しても誤りないのである。
(23頁及び24頁の記載)
(山中注:法廷等の秩序維持のために)採るべき措置の第二は刑法第九十五条の公務執行妨害罪や職務強要罪の規程を活用することである。私はこれ等の規定が従来裁判官、検察官等裁判関係者の職務執行に関しどの位の程度において適用されてきたかを知らないのであるが、恐らくこれ等の規定が眠っているのではないかを疑わしめるのである。しかるに法廷の内外における情況は痛切にこれ等の規定の発動を要求するような状態にある。法廷の内外における計画的な暴行主義を以てする、裁判所の職務執行に対する妨害行為は、正に第一項の構成要件を充足するものと認められる。暴行については疑問の余地は存しない。裁判官やその家族に対し日夜を分たず書面や電報によって繰り返される脅迫ことに「人民政府成立の暁には裁判官自らが絞首刑に処せられるだろう」というごとき脅迫を以て被告人や被害者の無罪や釈放を強要するがごときことは、第一項又は第二項の罪に該当する行為ではなかろうか。
12 関連記事その他
(1) 以下の文書を掲載しています。
① 裁判員裁判における金属探知機による所持品検査の実施について(平成29年3月27日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)
② 刑事被告事件の法廷等の入口における所持品検査の実施について(平成29年6月16日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)
③ 平成30年度新しい日本のための優先課題推進枠説明資料1/2(最高裁判所秘書課,広報課,情報政策課,総務局,経理局,民事局及び刑事局)
→ 末尾49頁及び50頁(PDF44頁及び45頁)(最高裁判所経理局の資料の一部です。)に,ゲート式金属探知機及びエックス線検査装置のことが書いてあります。
(2)ア 平成29年11月29日付の札幌高裁の司法行政文書不開示通知書によれば,以下の文書は廃棄済みです。
① 札幌高裁が平成25年3月1日に来庁者に対する所持品検査を開始することを決めた際に作成し,又は取得した文書
② 札幌高裁の所持品検査に反対するという趣旨で,弁護士会その他の団体から送付されてきた文書
イ 北海道合同法律事務所HPに載ってある「裁判所入庁者に対する所持品検査に関する抗議書兼要求書」(平成25年3月1日付)には以下の記載があります。
貴庁は、北海道弁護士連合会や札幌弁護士会に対して、一切の意見聴取を行わず、一切の協議の場を設けることもなく、本年2月18日に一方的に本件所持品検査の実態を通告してきた。そればかりでなく、貴庁は、かかる通告を受けた札幌弁護士会からの、書面による正式な協議申し入れに対し、これを拒絶した。
(3) 法曹時報5巻1号(昭和28年1月発行)に掲載されている「法廷秩序維持問題」(筆者は田中耕太郎最高裁判所長官)6頁には以下の記載があります。
我が国における法廷の状態は、とくに特定の思想的傾向を帯びた事件又はかかる思想的傾向の者に関する事件の審理について、特別の立法的措置(山中注:法廷等の秩序維持に関する法律の制定)を必要とするにいたった。かような事件についての公開の法廷の情況は誠に遺憾なものがあった。傍聴人や被告人被疑者等の拍手喝采、喧騒、怒号、罵り等は往々裁判長の訴訟指揮を不可能ならしめる程度に達したこと新聞の報道や、もっと具体的には情況の録音によって明瞭である。さらに裁判官の命令や係員の制止を無視して暴力を振い、係員を傷害し建物や施設を破壊するがごとき事態も再三ならず発生するにいたった。しかも法廷のかような状態は、多くの場合に「法廷闘争」として指導され、計画的組織的に準備し遂行されているところから来ているものと推定しても誤りないのである。
(4)ア 平成30年6月22日付の司法行政文書不開示通知書によれば,保釈中の被告人の判決宣告期日については原則として被告人に対する入廷前所持品検査を実施する旨を記載した,最高裁判所刑事局作成の文書は存在しません。
イ 平成31年3月19日付の司法行政文書不開示通知書によれば,平成17年から平成30年までの,裁判所職員に対する加害行為の件数を年単位で取りまとめた文書は同日までに廃棄されました。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 全国の下級裁判所における所持品検査の実施状況
・ 平成31年3月20日発生の,東京家裁前の殺人事件に関する国会答弁
・ 裁判所の庁舎等の管理に関する規程及びその運用