全司法本部の中央執行委員長が裁判所職員の定員に関して国会で述べた意見

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○全司法本部の中矢正晴中央執行委員長は,参考人として招致された平成29年3月24日の衆議院法務委員会において以下の意見を述べています(ナンバリングを追加しました。)(全司法新聞2017年4月号(2262号)の「中矢委員長 衆議院参考人招致 裁判所の職場実態を国会で述べる」参照)。

1 おはようございます。私は、裁判所職員でつくっております全司法の中央執行委員長をやっております中矢と申します。
  最初に、このような機会を与えていただいたことに対して、皆様に心から感謝を申し上げたいと思います。
  私は、裁判所職員の職員団体ということでありますし、私自身、昭和六十三年から、全司法の委員長に就任しますまで二十七年間、裁判所書記官として仕事をしてまいりましたので、その裁判所職員の立場から、今般提出されております裁判所職員定員法の一部を改正する法律案について、私なりの考え方をお話ししたいと思っております。
2(1)  最初に結論を申し上げますと、大変失礼な言い方になって恐縮ではありますが、あえて申し上げるなら、十分なものではないと言わざるを得ないと思っております。その理由は、次に述べる三点であります。
  第一点目でありますが、裁判官、裁判所書記官について、今年度の増員を下回る増員数となっている点であります。
  定員振りかえを除く実質的な増員数で見ますと、今年度の増員数は、裁判官三十二人、書記官三十九人でしたが、平成二十九年度の増員数として示されているものは、裁判官が二十七人、書記官が二十四人となっております。職場実態からしますと、本来はもっと多くの増員が必要だと考えておりますが、少なくとも、今年度と比較してその増員数を下回る理由はないのではないかと思っております。
  裁判官の増員も重要ですが、私のきょうの立場でありますので、職員のことを中心にお話をさせていただきたいと思います。
(2)ア  現在、裁判所の中でとりわけ増員の必要性が高いのが家庭裁判所であります。事件数も増加傾向にあることに加えて、三点申し上げます。
  一つ目として、離婚や子供をめぐる問題など家庭を取り巻く社会環境が複雑になっているもとで、裁判所に求められる役割も大きくなっております。
  また、二つ目ですが、平成二十五年から家事事件手続法が施行され、これまで以上にきめ細かな事件の処理が求められるようになっている点であります。
  第三点目に、成年後見制度でありますが、認知症などの方に裁判所が後見人や保佐人をつけるシステムでありますので、高齢化社会が進むもとで、今後ますます重要になります。昨年四月には成年後見利用促進法が成立をし、今月中にも政府における基本計画が策定されて、これに従った取り組みが実施されていくというふうに承知をしておりますので、これを踏まえた人的体制の整備が必要であります。
  この成年後見のように、家庭裁判所の手続には、民事や刑事の訴訟、いわゆる争いとは違って、申し立てに基づいて裁判所が事実を調査し決定をする、いわゆる非訟事件と呼ばれる手続が多く存在します。こういう手続では、裁判官の指示を受けて実際の実務を担当する書記官が、当事者との調整を行ったり判断に必要な資料をそろえたりと、大きな役割を果たします。また、家庭裁判所においては、弁護士を頼まずに当事者御本人が申し立てをする事件も多いことから、手続を進めていく上で、書記官が時間をかけて丁寧に説明するという必要性も大きくなっております。
イ  家裁の体制が実際に必要だということで、この数年間、全国の家庭裁判所に一定数の書記官が増配置をされてきました。しかし、毎年の増員数が家庭裁判所に増配置するだけの人数に足りないために、その大部分は地方裁判所や簡易裁判所からの配置がえ、私どもは人員シフトと呼んでおりますが、この人員シフトによって行われております。
(3)  それでは、人員が減らされている地方裁判所の方はどうかというふうに見ますと、民事事件では、昨今の社会経済情勢を受けて、ますます複雑困難化する事件について適正迅速に処理することが必要であります。
  刑事事件でありますが、このところ、準抗告といいまして、勾留など、被告人などの身柄の決定に対する不服申し立ての手続ですとか、医療観察といいまして、心神喪失等の状態で重要な行為を行った者に対して入院を決定するような手続が増加をしております。また、国対被告人の関係で、犯罪を犯した者を処罰するというのが刑事手続の基本的な構造でありますが、近年は、被害者保護のためのさまざまな手続が導入をされ、事件関係者の情報の秘匿ということも求められるということであります。
  敷衍しておきますと、裁判の公開という基本的な考え方がありますので、かつては、裁判所に出されたものは公開されるものだという考え方が主流でありましたが、現在では、個人情報の秘匿については、刑事事件だけではなく、民事や家事の事件においても厳格になってきておりまして、その分、慎重さが求められ、事務量もふえているという問題もございます。
  このように、従来の刑事裁判という枠におさまり切らない事務もふえてきており、それに従って、事件数にあらわれない現場の負担も増加をしているところであります。とりわけ、昨年五月に刑事訴訟法が改正をされ、順次施行されておりますことから、今後これに対する対応も必要になります。
  地方裁判所についていいましても、これまでにお話ししてきましたとおり、家裁へのシフトの受け皿ということではなくて、むしろ、それぞれの分野について人的体制の整備を図る必要があると考えております。
  また、人員シフトという問題では、地方から都市への人員シフトという問題もあります。家裁を中心に大都市の人員が必要であることから、この間、毎年地方の庁の職員が減員をされており、今年度でいえば、札幌高裁管内で七名、広島高裁管内で十一名、高松高裁管内で七名、福岡高裁管内で十五名が削減をされました。決して地方の職場に余裕があるわけではありませんし、人数の少ない小規模庁において人員を削減するということの影響は、大規模庁と比較しても大きいものがあります。また、地方における国民の司法アクセスという観点からも、地方へのしわ寄せは限界があります。
  以上のことから、法案の数にとどまらない、大幅増員が必要であると考えております。この点が一点目であります。
3(1)  第二点目として、家庭裁判所調査官の増員がない点であります。
  家裁調査官は、心理学、社会学、社会福祉学、教育学などの専門的知識を活用し、調査、調整活動を行う専門職であります。本日お配りをしてあります資料の最初がレジュメになっておりますが、開いていただきますと、三ページ、四ページあたりのところに、現場の家裁調査官からの聞き取りをもとに作成をしました家裁調査官の役割と昨今の職場実態について記載してありますので、ごらんをいただければ幸いに思います。
  ここでは、家裁調査官の仕事について簡単に説明をさせていただきますと、少年事件でいいますと、未成年者が引き起こした事件は、まず、原則として全件家庭裁判所にやってきます。その中で、家庭裁判所調査官が最初に面談を行って、非行の原因や背景、少年の状況などを調査し、それを踏まえて処分に対する意見を述べています。調査官の取り組みは、単なる事実の調査ではなく、少年の立ち直りや再犯防止のために大きな役割を果たしております。家事事件について申しますと、夫婦関係を調整する事件における子供の意思を調査したり、子供と離れて暮らしている親との面会交流をコーディネートしたりする。あるいは、成年後見において、成年後見を受ける本人の調査や、複雑困難な事件の調査をするといった役割を担っております。
  このように、家庭裁判所における調査官の役割は極めて大きく、かつ、調査官の調査の対象になっております少年や子供、家庭をめぐる状況がどんどん複雑になっているわけですから、その仕事も年を追うごとに複雑になり繁忙になっております。人と向き合う仕事でありますので、時間で区切ることも難しく、きちんと行おうとすればするほど非常に時間と労力を要する仕事であることを御理解いただきたい、こういうふうに考えております。
  そして、家裁の充実を図ろうとすれば、家裁調査官の人員体制の整備なしには考えられません。しかし、家庭裁判所調査官は平成二十一年度に五人の増員を行ったのを最後に増員が行われておらず、今般提出されております法案でも増員がありません。
(2)  私どもに対する最高裁の説明では、近年のピークであった昭和五十九年と比較して、近年で三十余年前の五十九年だそうでありますが、五十九年と比較をして少年事件が著しく減少していることが増員を要求しない理由とされていますが、平成十一年以降、司法制度改革が行われ、及び先ほどから述べています近年の社会状況によりますと、家庭裁判所が扱う事件の領域は格段に広くなっておりますし、求められる役割も大きくなっております。また、減少したとされる少年事件についても、少年をめぐる社会状況が複雑になっていることに加えて、被害者保護のための取り組みなどもあって、三十年以上前の昭和の時代とは比較できない事務処理状況にあるというふうに考えております。
  現場の調査官からは、近年の少年の特徴として、自分の世界にこもりがちで非社会的な少年がふえており、少年がどのようなメカニズムから非行を起こしてしまったのかを解明するために少年の話を聞き出すのも非常に時間や手間がかかっているということの声も聞かれます。
  以上のことから、家裁調査官の増員が必要不可欠であるという点が二点目であります。
4(1)  第三点目でありますが、協力義務のない政府の定員合理化計画に協力をしている点であります。
  法案では、裁判所裁判官、裁判所書記官の合計で六十三人の増員がある一方、政府の定員合理化計画に協力をして七十一人を削減するために、差し引きで八人の減員となっております。
  きょうお配りをしてあります資料の中に、こういう二十年ほどの裁判所予算と定員、定員振りかえを除いておりますので、少し、その点はありますが、増員分などを記載した一覧表を入れております。
  政府は、平成二十六年七月に、定員合理化計画を閣議決定いたしました。裁判所はこの計画の対象ではありません。ところが、政府が定員合理化に対する協力を要請し、最高裁がこれに協力をする形で、毎年必ず定員削減が行われています。私たちの理解では、裁判所はこの定員合理化については協力する義務がないというふうに考えておりますが、いかがでございましょうか。
(2)  削減される定員は、技能労務職員が対象になっております。具体的に言いますと、庁舎清掃などを担当する庁務員、庁舎管理などのための守衛、裁判所の声の窓口となってきた電話交換手、庁外の尋問や検証、少年事件における身柄押送などを担ってきた自動車運転手などの職種であります。裁判所は、従来、これらの職員を自前で配置することによって、きめ細かく行き届いた運営がされてきたものであります。この定員削減が行われることは、職員の立場としてはじくじたる思いがあります。
  仮に、政府の政策によってこれらの職種が担ってきた業務をアウトソーシングせざるを得ないのであれば、せめてこの定員を削減するのではなくて、定員振りかえなどの措置も使いながら、裁判所の定員として活用していただきたいと考えています。さきに述べた裁判部門の充実に充てるということはもとより、職員の目から見ますと、事務局部門であっても、情報セキュリティーは非常に大切な問題になっておりますが、情報セキュリティーの対策であったり、情報公開や裁判制度を広く国民に伝えるための広報活動、あるいは、国民が安心して利用できる庁舎にするためにかかわる業務など、人的体制を整備する部門はたくさんあるというふうに考えております。さらに視野を広げれば、裁判官不在庁の解消を初めとした国民の司法アクセスの拡充のための人員配置など、司法の容量拡大の観点から必要な人員配置もあるものと考えます。
  さらには、社会情勢が大きく動いておりますもとで、昨今、原発訴訟でありますとか基地訴訟を初め、国民的な議論や社会的な論点を含んだ事件も多く係属するようになりました。こうした傾向は今後ますます強まるのではないかと考えています。私は、こうした事件について適正迅速に対応する上でも、裁判官や裁判所職員の人員配置の整備が重要だと思います。
  裁判所の予算は、かつては国家予算の約〇・四%と言われておりましたが、現在は〇・三%台を推移しております。ある意味、マンパワーが全ての役所であります。そのほとんどが人件費でありますので、必要な人的体制を整備することを正面に据えて、予算の面でも三権分立にふさわしい拡充が図られることを願っております。
  以上のことを訴えまして、私からの陳述といたします。
  御清聴ありがとうございました。(拍手