検視,解剖,調査及び検査並びに病理解剖等


目次
第1 司法検視及び行政検視
1 司法検視
2 行政検視
3 犯罪行為により死亡したと認められる死体,及び変死体
第2 死亡診断書又は死体検案書の記載事項証明書の取得方法
1 戸籍の届書類の記載事項証明書
2 利害関係人による証明書の取得
3 戸籍の届書類の保存期間
4 法務省の資料
第3 司法解剖,行政解剖及び監察医制度
1 司法解剖
2 司法解剖としての死体解剖の謝金
3 行政解剖
4 監察医制度
第4 調査及び検査
1 警察による取扱死体の調査
2 解剖の要否に関する判断の実情
3 その他
第5 司法解剖,調査法解剖及びその他の解剖の実施件数
第6 病理解剖
1 病理解剖及び病理医
2 病理解剖が必要な具体例
3 医事関係訴訟に関する統計
第7 解剖学の雑メモ
第8 孤独死の後始末
第9 埋葬等の取扱い
1 原則
2 例外
第10 検視規則
第11 関連記事その他


第1 司法検視及び行政検視
1 司法検視
(1) 検視とは,人の死亡が犯罪に起因するものであるかどうかを判断するため,五官の作用により死体の状況を見分(外表検査)する処分をいいます。
   検視は,犯罪の有無を発見するために行われる捜査前の処分であって,捜査そのものではなく,その意味で検証とは異なります。
(2)ア 変死体(変死者又は変死の疑いのある死体をいいます(検視規則1条)。)があるときは,その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は,検視をしなければなりません(刑事訴訟法229条1項)。
イ 検察官の代わりに司法警察員が検視をすることを代行検視といいます(刑事訴訟法229条2項及び検視規則5条)。
(3) 検視を行うにあたっては,令状なくして以下の処分をすることができます。
① 変死体が存在する場所に立ち入ること。
② 変死体を検査すること。
・ 医学的に外表検査と認められる限度で,眼瞼(がんけん),肛門(こうもん)を検査するなどの身体検査をすることができます。
③ 所持品等の調査
(4) 死体について検視その他の犯罪捜査に関する手続が行われるときは,当該手続が終了した後でなければ,当該死体から臓器を摘出してはなりません(臓器の移植に関する法律7条)。
(5) 衆議院議員細川律夫君提出検視、検案、司法解剖等に関する質問に対する内閣答弁書(平成16年6月29日付)には以下の記載があります。
    刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百二十九条第一項に規定する検視(以下「検視」という。)は、変死者又は変死の疑いのある死体について、その死亡が犯罪に起因するものかどうかを判断するために、五官の作用により死体の状況を見分する処分と解される。これは、検視が、変死者又は変死の疑いのある死体が存在する場合には、その背後に犯罪が伏在していることが多いと考えられることから、それらの犯罪の発見及び捜査を的確かつ迅速に行うため、緊急に行う捜査前の処分であることによるものであり、このような検視についての解釈を変更する必要はないと考えている。
2 行政検視
(1) 行政検視とは,軽犯罪法第1条第18号その他一定の行政法規に基づく申出,届出,報告,通報等により,犯罪による疑いが全くない不自然死体,例えば,行旅病死者(行き倒れ),水死体,自殺死体,災害死体等につき,公衆衛生,感染症予防,死体の処理,身元の確認等の行政目的から,警察官等が死体を見分する手続をいいます。
    犯罪捜査とは直接の関係がなく,対象・目的において司法検視とは異なります(医師法21条,戸籍法89条及び92条,行旅病人及行旅死亡人取扱法7条1項,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律12条6項,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する規則93条1項,死体解剖保存法8条等)。
(2) 行政検視の過程で,変死者又は変死の疑いがあると認めたときには,司法検視の手続に切り替えられます。
(3) 自宅で家族が死亡した場合,かかりつけ医が24時間以内に診察をしていて死亡診断書(医師法19条ただし書)を作成できるときを除き,行政検視が実施されることがあります(小さなお葬式HP「検視の流れ|御遺体が警察に安置されたらやるべきこと」参照)。
3 犯罪行為により死亡したと認められる死体,及び変死体
(1) 犯罪行為により死亡したと認められる死体については,犯罪捜査の手続として検証又は実況見分が実施され,変死体(変死者又は変死の疑いのある死体をいいます(検視規則1条)。)については検視が実施されることとなります(「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律等の解釈について」(平成25年3月8日付の警察庁刑事局捜査第一課長の文書)2頁参照)。
(2) 変死者とは,自然死(老衰死,通常の病死等)でないいわゆる不自然死で,犯罪による死亡ではないかという疑いのある死体をいいます。
    変死の疑いのある死体とは,自然死か不自然死か不明の死体であって,不自然死の疑いがあり,かつ,犯罪によるものかどうか不明なものをいいます。
(3) 不自然死には,①犯罪死(殺人,過失致死等),②変死(犯罪による死亡ではないかという疑いのあるもの)及び③非犯罪死(水泳中の溺死,衆人環視の中での飛び降り自殺,落雷による感電死等)があります。
(4) 平成13年4月20日発生の徳島・淡路父子放火殺人事件の犯人Kの場合,平成24年10月19日に死亡した直後に実施された検視では身元が判明しなかったものの,葬儀が行われる際,Kと同居していた女性がKの本名を知らなかったことを不審に思った葬儀業者が警察に通報して遺体の指紋を照合した結果,Kの身元が判明しました(心に残る家族葬HP「【おい、小池】未解決事件として11年逃亡し続けた男と迷宮入りを防いだ葬儀社」参照)。



第2 死亡診断書又は死体検案書の記載事項証明書の取得方法

1 戸籍の届書類の記載事項証明書
(1) 戸籍の届書類(添付書類を含む。以下同じ。)については,これを市区町村が保管している間は当該市区町村が,法務局に送付された後は当該法務局が,それぞれ届書類の記載事項証明書を発行しています(戸籍法48条2項)。
(2) 戸籍法施行規則48条2項に基づき,市区町村は毎月,管轄の法務局に戸籍の届書類を送付しています。
2 利害関係人による証明書の取得
(1)ア 利害関係人は,特別の事由がある場合,死亡届に添付された死亡診断書又は死体検案書の記載事項に関する証明書を市区町村又は法務局において取得できます(戸籍法48条2項)(佐賀地方法務局HP「戸籍の届書記載事項証明書の請求について」,及び大阪市HP「戸籍届書の記載事項証明書の交付請求」参照)。
イ 特別の事由を疎明する書類は以下のとおりです(「大阪法務局 記載事項証明書発行事務取扱要領(平成23年3月31日付)」参照)。
① 簡易生命保険の保険証書(平成19年9月SO日 (郵政民営化)前に効力を生じているもの, コピーも可)
② 年金手帳,年金請求用紙等の年金請求に使用するということが確認できるもの(コピーも可)
③ 石綿による健康被害,労働者災害補償に係る依頼書等
(2) 本籍地とは異なる,死亡地又は住所地の市区町村に死亡届が提出された場合,当該市区町村は遅滞なく本籍地に死亡届を送付します(戸籍法施行規則26条)ところ,控えとしてコピーした書類を1年間,保存しています(戸籍法施行規則48条3項)。
    そのため,この期間内であれば,当該市区町村においても死亡届に添付された死亡診断書又は死体検案書の記載事項に関する証明書を取得できます(戸籍法48条2項)。
3 戸籍の届書類の保存期間
    法務局における戸籍の届書類の保存期間は27年が原則である(戸籍法施行規則49条2項)ものの,戸籍事務がコンピュータ化されている場合,戸籍の副本データが遅滞なく法務局に送信される関係で5年です(戸籍法施行規則49条の2)。
4 法務省の資料
    戸籍制度に関する研究会(法務省)の資料としての,「システムの一元化に伴う制度の見直しの要否について」が参考になります。

第3 司法解剖,行政解剖及び監察医制度
1 司法解剖
(1) 検証,実況見分又は検視の結果,犯罪性がある,又は犯罪性が疑われる場合,犯罪の捜査をするについて必要があるときに当たるとして,検察官又は司法警察職員は,医師に鑑定を嘱託します(刑事訴訟法223条1項)。
   嘱託を受けた医師は,鑑定処分許可状(刑事訴訟法225条1項)に基づき,死体を解剖します(刑事訴訟法168条1項)ところ,これを司法解剖といいます(死体解剖保存法2条1項4号参照)。
(2) 司法解剖の場合,遺族の承諾は不要です(死体解剖保存法7条3号)が,遺族としては,死者の死体が礼を失する態度によるなどして不当に傷付けられないことに対する法的な利益を有します(最高裁令和2年3月24日決定)。
(3) 平成31年1月29日付の法務省の連絡文書によれば,検察修習における司法修習生の解剖立会いの実施方法が書いてある文書は存在しません。
(4) 検察修習中に犯罪死体又は変死体が出てきた場合,司法修習生として司法解剖に立ち会う機会がありますところ,法律よもやま話HP「変死体と検視・司法解剖」には以下の記載があります(改行を追加しました。)。
① 当然、犯罪死でありまともな死体ではない。私の見たのは母親と子供を殺害した事件の被害者両名の司法解剖であった。
    解剖は外傷のある部分だけ行うわけではない。頭部に傷はなくても、頭蓋骨をノコギリで切り開いて脳を取り出して観察するのである。もちろん胸や腹の中の臓器は当然である。
    しかも、摘出した臓器をどんどん無造作に積み重ねていく。ひとつひとつ戻しながら見分するのではないのである。そこには「もと人間であったもの」という尊厳はない。肉屋じゃないんだから勘弁してくれ、という感じである。
    しかし、そうでもしなければ解剖は1時間や2時間じゃ終わらないのである。
② それより辛いのは死体そのものの匂い、薬品の匂いである。匂いが気分に与える影響は極めて大きい。
    私は解剖の場面をビデオに録画したものであれば平気で見ていられると思うが、匂いがあるととても辛い。私は脂汗を流して耐えていた。
③ 司法解剖の最後もひどい。臓器はどんどん摘出して積み上げているから、元通りに戻るはずがない。
    だから、だいたいの位置にとにかく入れる(というか、突っ込む)のである。子供の脳などは、柔らかいため摘出するともとの位置には戻らないそうで、何と脳はお腹に入れ、頭には別の臓器を詰めていた。
    閉じてしまえば外観上は分からない。しかし、もうそこでは死体は単なる物である。
2 司法解剖としての死体解剖の謝金
(1) 警察法37条1項・警察法施行令2条4号は,犯罪鑑識に必要な検案解剖委託費は国庫が支弁するとしています。
(2) 衆議院議員細川律夫君提出検視、検案、司法解剖等に関する質問に対する内閣答弁書(平成16年6月29日付)には以下の記載があります。
 警察法施行令(昭和二十九年政令第百五十一号)第二条第四号に掲げられている「犯罪鑑識に必要な検案解剖委託費及び謝金」としては、刑事訴訟法第二百二十九条第二項に基づき司法警察員である警察官が行う検視への立会いに係る死体検案謝金、同法第二百二十三条第一項に基づき警察官が鑑定を嘱託して行われる死体の解剖に係る死体解剖謝金等が計上されており、これらは、予算科目上、医師等に対して支払う謝金として区分され、所要の予算措置が講じられている。
 警察官が刑事訴訟法の規定に基づき鑑定を嘱託する場合には、犯罪捜査規範(昭和三十二年国家公安委員会規則第二号)第百九十二条第一項により、鑑定の経過及び結果が簡単であるときを除き、鑑定人から、鑑定の日時、場所、経過及び結果を記載した鑑定書の提出を求めるようにしなければならないとされており、死体の解剖を伴う鑑定については、通常、鑑定人から鑑定書が提出されているものと承知している。
なお、死体の解剖は大学における医学教育・研究の一環として必要な業務であるという側面もあり、死体解剖謝金と医師等の行為との間に必ずしも対価性があるとは考えていない。

 警察法施行令第二条第四号に掲げられている「犯罪鑑識に必要な検案解剖委託費」とは、司法警察員である警察官が行う検視に医師の立会いを求める場合又は死体の解剖を伴う鑑定を警察官が嘱託する場合に必要となる経費であり、こうした経費については警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)第三十七条第一項の規定により国庫が支弁することとされている。これらの規定に基づき前述の死体検案謝金、死体解剖謝金等の予算措置が講じられているのであるから、「法令に違反している」との御指摘は当たらない。
3 行政解剖
(1) 公衆衛生,食中毒の原因調査,検疫感染症の検査,死因調査のために行う解剖を行政解剖といいます(死体解剖保存法2条1項3号,5号,6号及び7号)。
(2) 公衆衛生(監察医制度が前提です。)又は死因調査のために解剖を行う場合,遺族の承諾は不要です(死体解剖保存法7条3号)。
   しかし,食中毒の原因調査又は検疫感染症の検査のために解剖を行う場合,原則として遺族の承諾が必要です(食品衛生法59条,検疫法13条2項)。
(3) 衆議院議員細川律夫君提出検視、検案、司法解剖等に関する質問に対する内閣答弁書(平成16年6月29日付)には以下の記載があります。
    刑事訴訟法に規定する手続以外の手続により行われた解剖において、当該死体につき犯罪と関係のある異常が認められたときは、死体解剖保存法(昭和二十四年法律第二百四号)第十一条により、死体を解剖した者は、二十四時間以内に解剖をした地の警察署長に届け出なければならないこととされ、これにより捜査機関への情報提供がなされ、適正な捜査活動の開始が期待されることから、刑事訴訟法に規定する解剖とそれ以外の解剖とが制度上区別されていることによる特段の弊害はないと考えている。
4 監察医制度
(1) 政令で定める地を管轄する都道府県知事は,その地域内における伝染病,中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について,その死因を明らかにするため監察医を置き,これに検案をさせ,又は検案によっても死因の判明しない場合には解剖させることができます死体解剖保存法8条)。
(2) 監察医が設置されているのは,東京23区内,横浜市,名古屋市,大阪市及び神戸市です(監察医を置くべき地域を定める政令。なお,厚生労働省HPの「監察医制度の概要」参照)。
(3) 千葉大学付属法医学教育研究センターHP「Vol.4 監察医制度の落とし穴」には以下の記載があります(改行を追加しました。)。
① 司法解剖が行われる場合、警察本部から検視官が出動し、所轄署に対して適切な捜査指揮を行う。
    全ての変死体に関して、初動捜査の一環として司法解剖が実施されている限り、綿密な死因調査の上に、充分な状況捜査がなされることが期待できるので、正しい結論が導き出される可能性が比較的高い。
② 監察医の検案による遺体の処分は、警察本部への報告も、検視官から要請される追加捜査も要さないし、また監察医の行う行政解剖実施に当たっては裁判所への令状請求も要さないので、司法解剖に比べれば格段に簡便な手続きなのである。


第4 調査及び検査
1 警察による取扱死体の調査
(1) 警察官は,犯罪行為により死亡したと認められる死体又は変死体「以外の」死体について,その死因及び身元を明らかにするため,外表の調査,死体の発見された場所の調査,関係者に対する質問等の必要な調査をしなければなりません(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(平成24年6月22日法律第34号)4条2項)。
(2) 警察署長は,取扱死体(犯罪捜査の手続きが行われる死体を除きます。)について,その死因を明らかにするために体内の状況を調査する必要があると認めるときは,警察嘱託医を通じて,その必要な限度において,体内から体液を採取して行う出血状況の確認,体液又は尿を採取して行う薬物又は毒物に係る検査,死亡時画像診断等を行うことができます(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律5条1項及び2項)。
(3) 警察署長は、取扱死体の組織の一部を採取した場合において、当該取扱死体の身元を明らかにするため必要があると認めるときは、警視庁又は道府県警察本部の科学捜査研究所長に当該資料を送付することにより、当該資料のDNA型鑑定を嘱託することができます(死体取扱規則(平成25年国家公安委員会規則)4条1項)。
2 解剖の要否に関する判断の実情
(1) 警察署長は,取扱死体について、国公立大学法人又は学校法人等に所属する医師その他法医学に関する専門的な知識経験を有する者の意見を聴き,死因を明らかにするため特に必要があると認めるときは,医師に解剖を実施させることができます(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律6条1項)ところ,これを「調査法解剖」といいます。
(2) 千葉大学付属法医学教育研究センターHP「Vol.16 停滞を続ける死因究明制度改革」には,「法医学者の意見を聴くように規定されたものの、現実には電話で「持っていってもいいか」の確認をするのみで終わっている。わが国は解剖の要否を一切警察官の判断に依っているのが実情だ。」と書いてあります。
3 その他
(1) 厚生労働省HPに,死因究明等の推進に関する法律(平成24年6月22日法律第33号)に基づき作成された死因究明等推進計画(平成26年6月)が載っています。
(2) 警察庁HPに「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律等の解釈について」(平成25年3月8日付の警察庁刑事局捜査第一課長の文書)が載っています。
(3) メディカルリサーチ株式会社HP「画像鑑定」にCTやMRIを使用した死亡時画像診断のことが書いてあります。
   ただし,入墨等がある遺体についてMRI検査をした場合,加熱による物理的変化が発生するという問題があります(遺体管理学HP「死因究明のためのAi」参照)。
(4) 行旅中に死亡して引取者がいない者を行旅死亡人といいます(行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治32年3月28日法律第93号)1条1項)ところ,行旅死亡人となった場合,その状況,遺留物件等が官報に公示されます(行旅病人及行旅死亡人取扱法9条)。
(5) 指掌紋(ししょうもん)の取扱については以下の文書があります。
① 指掌紋取扱規則(平成9年国家公安委員会規則第13号)
② 指掌紋取扱細則(平成18年12月26日付の警察庁訓令)
③ 十指指紋の分類に関する訓令(昭和44年9月4日付の警察庁訓令)


第5 司法解剖,調査法解剖及びその他の解剖の実施件数
・ 衆議院議員阿部知子君提出公衆衛生政策の観点から拡充すべき死因究明制度に関する質問に対する答弁書(令和3年3月5日付)によれば,以下のことが分かります。
(1) 令和2年において警察が取り扱った死体のうち,①司法解剖,②調査法解剖,③その他の解剖(死体解剖保存法8条1項による解剖及び遺族の承諾を得て行う解剖のこと。)を実施したものの数は以下のとおりです。
北海道 ①七百八十九体 ②三十一体 ③一体
青森県 ①二百五十体 ②三体 ③零体
岩手県 ①百十七体 ②六体 ③零体
宮城県 ①二百四十九体 ②六十一体 ③零体
秋田県 ①百九体 ②三十九体 ③七体
山形県 ①九十四体 ②四十八体 ③零体
福島県 ①百一体 ②十五体 ③零体
茨城県 ①百九十三体 ②四十三体 ③三十六体
栃木県 ①百四体 ②三十九体 ③零体
群馬県 ①八十体 ②六体 ③一体
埼玉県 ①四百四体 ②二十六体 ③十一体
千葉県 ①二百九十九体 ②三十七体 ③六体
東京都 ①百七十四体 ②五百三十三体 ③三千四十七体
神奈川県 ①四百三十五体 ②七百五十七体 ③二千四百四十八体
新潟県 ①百四十四体 ②十四体 ③五体
富山県 ①百八十六体 ②十四体 ③零体
石川県 ①百三十四体 ②六体 ③零体
福井県 ①八十体 ②六体 ③零体
山梨県 ①六十九体 ②八体 ③零体
長野県 ①二百十二体 ②三体 ③零体
岐阜県 ①百十八体 ②十四体 ③零体
静岡県 ①百九十二体 ②十七体 ③零体
愛知県 ①三百八体 ②四十三体 ③零体
三重県 ①百二十二体 ②二十体 ③零体
滋賀県 ①百三体 ②四十七体 ③零体
京都府 ①百五十七体 ②六十八体 ③零体
大阪府 ①四百九十六体 ②百体 ③四百四十七体
兵庫県 ①二百二十一体 ②四百三十四体 ③千百八十八体
奈良県 ①百七十二体 ②二十二体 ③零体
和歌山県 ①百六十体 ②八十三体 ③零体
鳥取県 ①五十四体 ②十四体 ③零体
島根県 ①六十三体 ②二十一体 ③零体
岡山県 ①百十四体 ②二十八体 ③零体
広島県 ①六十体 ②四体 ③零体
山口県 ①百十一体 ②二十三体 ③一体
徳島県 ①七十体 ②五体 ③零体
香川県 ①七十四体 ②十八体 ③零体
愛媛県 ①九十二体 ②二十四体 ③零体
高知県 ①七十六体 ②十五体 ③零体
福岡県 ①三百二十二体 ②三十二体 ③零体
佐賀県 ①六十九体 ②九体 ③三体
長崎県 ①百八十九体 ②三体 ③十二体
熊本県 ①百三十一体 ②四体 ③零体
大分県 ①四十四体 ②七体 ③零体
宮崎県 ①七十八体 ②八体 ③零体
鹿児島県 ①九十五体 ②二十三体 ③零体
沖縄県 ①二百一体 ②二百二体 ③二十八体
(2) 「政府が把握している限りにおいては、令和二年中に警察が取り扱った死体の数については、十六万九千四百九十六体であり、このうち、解剖を実施したものの数については、一万八千三百三十九体である。」とのことです。


第6 病理解剖
1 病理解剖及び病理医
(1)   病理解剖とは,御遺族の承諾のもとで病死された患者さんの御遺体を解剖することをいい,略称は「剖検(ぼうけん)」です。また,剖検率とは,その病院で1年間に亡くなった患者さんに対する剖検数の割合をいいます(済生会滋賀県病院HP「3.剖検率」参照)。
(2) 病理解剖,組織診断及び細胞診断を行う医師として病理医がいます(日本病理学会HP「病理医」参照)。
2 病理解剖が必要な具体例
(1) 日本病理学会HP「病理解剖について」によれば,病理解剖が必要な具体例は以下のとおりです。
①  診療中の病気の経過や死因について、臨床的には説明がつかない、あるいは、病理解剖以外の方法では確実な説明がつかない場合*
②  病理解剖によって、予期されなかった合併症が明らかになると考えられる場合
③  診療行為中、あるいはその直後に予期されない死亡をされた場合**
④  治療中の方で、院内において突然死あるいは予期されない死亡**をされ、診療行為と関係がないと考えられると同時に、司法解剖の対象とならない場合***
⑤  治験、臨床研究に参加している方が亡くなられた場合
⑥  臓器移植のドナー(臓器提供者)、ならびにレシピエント(臓器移植を受けた方)が亡くなられた場合
⑦  病理解剖の結果によって、ご遺族や一般の人の不安や疑念が解消できると考えられる場合
⑧  妊産婦の方が亡くなられた場合(全例)
⑨  全ての周産期あるいは小児死亡例
⑩  職業、あるいは環境に関連する原因で亡くなられたと考えられる場合
⑪  心肺停止状態で搬送された方で、その死亡について事件性がなく、司法解剖などの対象ではない場合****
 * 死因については、臨床的な検討や死亡時画像などに基づく方法によっても判断されるが、確実な診断を得るには病理解剖を行うことが望ましい。
**医療法に定められた医療事故調査制度の対象になる死亡例が含まれる。調査制度の「予期されない死亡」の定義については、平成27年厚生労働省令第100号(平成27年5月8日付交付)を参照のこと。
*** 診療中の患者さんが治療中の疾患あるいは治療行為に関係なく突然、あるいは予期せず死亡した場合をさす。例えば就寝中に死亡していた場合などが挙げられる。
**** 司法解剖および「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」の対象となる場合(いわゆる新法解剖)は病理解剖の対象とならない。
(2) 病理解剖に必要な費用は原則として病院が負担するため,患者及びその遺族が支払う必要はないそうです。
   また,病理解剖でご遺体及びその臓器を調べた結果は,生前の症状や検査結果と総合的に判断して「病理解剖診断書」としてまとめられ,1ヶ月から数ヶ月後に主治医に報告されます。ご遺族の方も,主治医を通じて病理解剖診断書について知ることができるそうです。
3 医事関係訴訟に関する統計
(1) 以下の統計を掲載しています。
① 平成16年から平成29年までの医事関係訴訟新受件数(地裁別)
② 医事関係訴訟既済件数(診療科目別)(平成18年~平成30年3月)
(2) 最新データについては,「最高裁判所が作成している事件数データ」に掲載しています。


第7 解剖学の雑メモ
1 溺死した死体の肺には水が入っているのに対し,陸で死んだ死体の肺には空気が入っていますから,陸で死んだ死体が海で見つかった場合,その人は殺害されたと推測されます(ウェブ1丁目図書館HP「海に死体を遺棄しても必ずばれる。解剖学の前では素人の浅知恵は通用しない。」参照)。
2 外傷がない死体は,何が死因か見た目で判断するのは困難ですし,その死体を解剖するのも手間がかかります。
   しかし,死亡時画像診断(Ai)として死体をCTやMRIで画像診断をすれば,メスを入れる前に怪しい部分を発見できる場合があります。
   脳や胸部に異常が見られるとなれば,その部分だけを解剖すれば,それで死因を究明できるといわれています(ウェブ1丁目図書館HP「死亡時画像診断(Ai)導入で困るのは警察でも医師でもなく製薬会社かもしれない 」参照)。

第8 孤独死の後始末
   「仏壇・位牌の整理」をしたい人向け,お役立ち情報サイト「遺品整理&孤独死後の仕舞い」に以下のページが載っています。
・ 孤独死を発見したら最初にすること:慌てないための初期対応
・ 孤独死発見後の緊急対策:腐敗臭とハエの拡散防止
・ 孤独死の部屋の消臭方法:死臭(腐敗臭)はどうすれば消えるか?

第9 埋葬等の取扱い
1 原則

(1) 埋葬又は火葬(以下「埋葬等」といいます。)は,死後24時間を経過した後でなければ,することができません(墓地、埋葬等に関する法律(略称は「墓埋法」です。)3条)。
(2) 火葬を行おうとする場合,死亡届を受理した市区町村長から火葬許可証を取得する必要があります(墓埋法5条)。
(3) 墓地の管理者は,火葬許可証を受理した後でなければ,焼骨の埋蔵をさせてはなりません(墓埋法14条1項)。
(4)ア 埋葬とは,死体を土中に葬ることをいい(墓埋法2条1項),火葬とは,死体を葬るために,これを焼くことをいいます(墓埋法2条2項)。
イ 日本の場合,埋葬等の99%は火葬です(「埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」参照)。
2 例外
(1)ア 感染症により死亡したご遺体の場合,火葬場以外の場所への移動が制限されます(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(略称は「感染症法」です。)30条1項)し,都道府県知事の許可がない限り火葬が義務づけられますし(感染症法30条2項),24時間以内に埋葬等をすることができます(感染症法30条3項)。
イ 火葬の実施までに長期間を要し,公衆衛生上の問題が生じるおそれが高まった場合,都道府県は,新型インフルエンザに感染した遺体に十分な消毒等を行った上で墓地に埋葬することを認めることについても考慮するものとされています(「埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン」参照)。
(2) 最も危険な一類感染症であっても,100度を超える温度にさらされた場合には失活します。
   その関係で,焼骨に触れることにより一類感染症に感染することはないため、墓地及び納骨堂の管理者は、一類感染症による死亡であることを理由として焼骨の埋蔵又は収蔵を拒むことはできません(平成27年9月24日付の厚生労働省健康局結核感染症課長及び生活衛生課長通知))。
3 新型コロナウィルス感染症の取扱い
   新型コロナウィルス感染症により死亡したご遺体の場合,感染症法6条8項,7条1項及び66条に基づいて定められた新型コロナウィルス感染症を指定感染症として定める等の政令(令和2年1月28日政令第11号)3条が感染症法30条を準用していますから,感染症法30条に基づく取扱いとなります。

第10 検視規則

   検視規則(昭和33年11月27日国家公安委員会規則第3号)は以下のとおりです。

(この規則の目的)
第一条 この規則は、警察官が変死者又は変死の疑のある死体(以下「変死体」という。)を発見し、又はこれがある旨の届出を受けたときの検視に関する手続、方法その他必要な事項を定めることを目的とする。
(報告)
第二条 警察官は、変死体を発見し、又はこれがある旨の届出を受けたときは、直ちに、その変死体の所在地を管轄する警察署長にその旨を報告しなければならない。
(検察官への通知)
第三条 前条の規定により報告を受けた警察署長は、すみやかに、警察本部長(警視総監又は道府県警察本部長をいう。以下同じ。)にその旨を報告するとともに、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百二十九条第一項の規定による検視が行われるよう、その死体の所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官に次の各号に掲げる事項を通知しなければならない。
一 変死体発見の年月日時、場所及びその状況
二 変死体発見者の氏名その他参考となるべき事項
(現場の保存)
第四条 警察官は、検視が行われるまでは、変死体及びその現場の状況を保存するように努めるとともに、事後の捜査又は身元調査に支障をきたさないようにしなければならない。
(検視の代行)
第五条 刑事訴訟法第二百二十九条第二項の規定により変死体について検視する場合においては、医師の立会を求めてこれを行い、すみやかに検察官に、その結果を報告するとともに、検視調書を作成して、撮影した写真等とともに送付しなければならない。
(検視の要領)
第六条 検視に当つては、次の各号に掲げる事項を綿密に調査しなければならない。
一 変死体の氏名、年齢、住居及び性別
二 変死体の位置、姿勢並びに創傷その他の変異及び特徴
三 着衣、携帯品及び遺留品
四 周囲の地形及び事物の状況
五 死亡の推定年月日時及び場所
六 死因(特に犯罪行為に基因するか否か。)
七 凶器その他犯罪行為に供した疑のある物件
八 自殺の疑がある死体については、自殺の原因及び方法、教唆者、ほう助者等の有無並びに遺書があるときはその真偽
九 中毒死の疑があるときは、症状、毒物の種類及び中毒するに至つた経緯
2 前項の調査に当つて必要がある場合には、立会医師の意見を徴し、家人、親族、隣人、発見者その他の関係者について必要な事項を聴取し、かつ、人相、全身の形状、特徴のある身体の部位、着衣その他特徴のある所持品の撮影及び記録並びに指紋の採取等を行わなければならない。

第11 脳死に関するメモ書き
1 法的脳死判定の項目は,①深い昏睡(顔面への疼痛刺激),②瞳孔の散大と固定(瞳孔に光を当てて観察),③脳幹反射の消失(対光反射,角膜反射,毛様体脊髄反射,眼球頭反射,前庭反射,咽頭反射及び咳反射の消失),④平坦な脳派(脳波の検出),⑤自発呼吸の停止(無呼吸テスト)及び⑥6時間以上経過した後の同じ一連の検査です(日本臓器移植ネットワークHPの「法的脳死判定の検査方法」参照)。
2 ①脳死(全脳死)の場合,脳幹を含めた脳全体が働かなくなった状態であって,二度と戻らないの対し,②植物状態の場合,大脳は働かなくなっているものの,脳幹は働いているため,自分で呼吸できることが多く,回復することもあります(岡山県臓器バンクネットHPの「脳死と植物状態について」参照)。
3 広島地裁令和3年7月28日判決(担当裁判官は42期の森實将人,51期の竹尾信道及び68期の中山さほ子)は,テレビ局が脳死患者からの臓器移植手術を取材して制作されたテレビ番組を放送したこと等が,遺族に対する不法行為に当たらないなどとされた事例です。

第12 関連記事その他
1(1) 死体を検案して異状を認めた医師は,自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも,医師法21条の届出義務を負うとすることは,憲法38条1項に違反しません(最高裁平成16年4月13日判決)。
(2) 平成16年12月17日に帝王切開手術を受けた産婦が死亡した福島県立大野病院事件の場合,平成18年2月18日,手術を執刀した医師が業務上過失致死罪及び医師法21条違反で逮捕されたものの,福島地裁平成20年8月20日判決(判例秘書に掲載)によって無罪となり,そのまま確定しました。
2(1) 総務省HPに「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査<結果に基づく通知>」(令和2年3月13日付)が載っています。
(2) 国土交通省HPに「「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました」(令和3年10月8日付)が載っています。
3 法律事務所 弁護士法人ロイヤーズ・ハイHP「交通事故で死亡した場合の遺体の解剖から引き取りまでの流れを知りたい」が載っています。
4 刑法190条の死体損壊罪は,死体を物理的に損傷,毀壞する場合をいうのであって,これを姦淫するような行為は含まれません(最高裁昭和23年11月16日判決)。
5 袴田事件第二次再審請求に関する即時抗告審としての東京高裁平成30年6月11日決定は以下の判示をしています(リンク先の29頁であり,改行を追加しています。ただし,棄却決定の結論自体は最高裁令和2年12月22日決定によって破棄されました。)。
    一般に,自然科学の分野では,実験結果等から一定の仮説が立てられると,他人にその仮説の正当性を理解してもらうために,その理論的根拠や実験の手法等を明らかにし,多くの者がその理論的正当性を審査し,同様の手法によりその仮説に基づいたとおりの結果が得られるか否かを確認する機会を付与して,多くの批判的な審査や実験的な検証にさらすことによって,その仮説が信頼性や正当性を獲得し,科学的な原理・手法として確立していくのである。
したがって,一般的には,未だ科学的な原理・知見として認知されておらず,その手法が科学的に確立したものとはいえない新規の手法を鑑定で用いることは,その結果に十分な信頼性をおくことはできないので相当とはいえず,やむを得ずにこれを用いた場合には,事情によっては直ちに不適切とはいえないとしても,科学的な証拠として高い証明力を認めることには相当に慎重でなければならないというべきである。

6 以下の記事も参照してください。
・ 法務省作成の検事期別名簿
 法務・検察幹部名簿(平成24年4月以降)
 検事総長,次長検事及び検事長任命の閣議書


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