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弁護士の社会保険(AIリライト)

第1 弁護士の働き方と加入する保険

1 最初に確認する一覧

弁護士に適用される保険は,開業弁護士又は勤務弁護士という呼称だけでは決まらない。事務所が法人か個人経営か,個人経営の場合に常時何人を使用しているか,本人が事業主か事務所に使用される者かを順に確認する必要がある。

働き方又は事務所形態健康保険及び年金の原則
個人で法律事務所を経営する弁護士その個人事業所の健康保険及び厚生年金保険の被保険者にはならず,市町村国保又は加入資格のある国民健康保険組合と国民年金を利用する。
弁護士法人に常用的に使用される弁護士又は従業員原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者となる。
個人経営で常時5人以上を使用する法律事務所に常用的に使用される弁護士又は従業員令和4年10月1日以後は,原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者となる。
個人経営で常時5人未満を使用する法律事務所に勤務する人事務所は原則として強制適用外であり,任意適用事業所となっているかを確認する。
業務委託,カウンセルその他の名称で法律事務所に所属する弁護士契約名ではなく,指揮監督,勤務時間及び場所の拘束,報酬の労務対償性その他の実態から,事務所に使用される者に当たるかを判断する。

2 社会保険と労働保険の区別

一般に,健康保険及び厚生年金保険を狭義の社会保険といい,労災保険及び雇用保険を労働保険という。健康保険と厚生年金保険は事務所形態や従業員数によって強制適用の有無が変わる一方,労災保険は原則として労働者を1人でも使用する事業に適用されるため,両者を一括して判断してはならない。

第2 法律事務所の健康保険及び厚生年金保険

1 弁護士法人

弁護士法人は法人の事業所であり,常時従業員を使用する場合には,健康保険法3条3項2号及び厚生年金保険法6条1項2号の強制適用事業所となる。加入要件を満たす社員弁護士,勤務弁護士及び従業員について,新規適用届,被保険者資格取得届その他の必要な届出を行う。

2 個人経営で常時5人以上を使用する法律事務所

令和4年10月1日から,弁護士等が法令に基づいて行う法律又は会計に係る業務が,健康保険法及び厚生年金保険法の法定業種に追加された。このため,個人経営であっても,常時5人以上の従業員を使用する法律事務所は,健康保険及び厚生年金保険の強制適用事業所となる。

3 5人の数え方と短時間労働者

5人の算定には,正社員だけでなく,1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が,同じ事務所で同様の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるパート又はアルバイトも含まれる。日々雇い入れられる人など,常時使用される者でない人は含まれない。

令和8年7月現在,通常の労働者の4分の3未満で働く人であっても,厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等に属し,週の所定労働時間が20時間以上,所定内賃金が月額8万8000円以上であることなどの短時間労働者の要件を満たす場合には,被保険者となる。月額8万8000円以上という賃金要件は令和8年10月に撤廃される予定であり,企業規模要件も,令和9年10月に36人以上,令和11年10月に21人以上,令和14年10月に11人以上へ縮小され,令和17年10月に撤廃される予定である。

4 個人経営で常時5人未満を使用する法律事務所

常時使用される従業員が5人未満の個人経営の法律事務所は,原則として健康保険及び厚生年金保険の強制適用事業所ではない。ただし,従業員の半数以上の同意を得て事業主が申請し,厚生労働大臣の認可を受ける任意適用の制度がある。

5 個人経営の事業主本人

個人経営の法律事務所の事業主本人は,従業員が5人以上となって事務所が強制適用事業所になっても,その個人事業所の健康保険及び厚生年金保険の被保険者にはならない。事業主本人は,市町村国保又は加入資格のある国民健康保険組合と国民年金を利用するのが基本となる。

6 勤務弁護士が被保険者となるかの判断

勤務弁護士,アソシエイト,カウンセル又は業務委託という名称だけで,被保険者性を決めることはできない。仕事の依頼を断る自由,事件処理に関する指揮監督,勤務場所及び時間の拘束,報酬の計算方法,経費負担,代替性並びに他の依頼者の事件を受任できるかなどを総合して,事務所との使用関係を判断する。

弁護士の事件処理には専門的裁量があるが,専門職であることだけを理由に使用関係が否定されるわけではない。この論点については,東京弁護士会LIBRA2005年4月号「私って労働者?-勤務弁護士の労働者性について-」も参考になる。

7 士業への適用拡大の経緯

個人経営の法律事務所は,令和4年9月30日までは法定業種に含まれていなかった。次の画像は,厚生労働省が令和元年11月に示した適用事業所の見直し資料を基に既存記事へ掲載されていたものであり,令和4年改正前の検討経緯を示す資料として参照すべきものである。

士業の法人化と社会保険適用に関する令和元年の厚生労働省資料
被用者保険の強制適用事業所の変遷に関する令和元年の厚生労働省資料

第3 弁護士国保と協会けんぽ

1 東京都弁護士国民健康保険組合の沿革及び加入資格

東京都弁護士国民健康保険組合は,昭和31年9月5日に設立認可を受け,同年10月1日に事業を開始した。第一東京弁護士会編『われらの弁護士会史』438頁は,東京三弁護士会が合同で実施した最初期の事業であったことを記録している。

現在,同組合へ加入できるのは,東京弁護士会,第一東京弁護士会,第二東京弁護士会,神奈川県弁護士会,千葉県弁護士会又は埼玉県弁護士会に所属する弁護士及び外国法事務弁護士並びにその法律事務所等に勤務して業務に従事する人のうち,組合規約で定める地区に住所を有する人である。健康保険,共済組合又は他の国民健康保険組合の被保険者若しくは被扶養者など,国民健康保険法6条の適用除外に当たる人は加入できないため,所属弁護士会と居住地だけでなく,現在の医療保険資格も確認する必要がある。

2 家族の取扱い

国民健康保険には,被用者保険と同じ意味での被扶養者制度がない。組合員と同一世帯に属する家族も一人の被保険者となり,一人ごとに保険料がかかるが,同一世帯であることだけで当然に加入できるわけではなく,他の健康保険の被保険者又は被扶養者でないことなどの資格要件を満たす必要がある。

3 健康保険の適用除外承認

弁護士法人又は強制適用となる個人経営の法律事務所に常用的に使用される人は,原則として協会けんぽ等の健康保険及び厚生年金保険の被保険者となる。ただし,弁護士国保の加入資格を有する人は,健康保険被保険者適用除外承認を受けることにより,健康保険については弁護士国保に加入しながら,厚生年金保険に加入できる場合がある。

東京都弁護士国民健康保険組合は,弁護士法人の設立,事業所の強制適用化又は雇入れなどの事由発生日から14日以内に年金事務所へ申請書を提出できるよう準備することを案内している。従前からの組合員が事業所の適用に伴って加入を継続する場合と,適用事業所が新たに人を雇い入れる場合とでは組合上の手続及び資格区分が異なり得るため,事由が生じる前に弁護士国保及び年金事務所へ確認する必要がある。

4 弁護士国保と協会けんぽの相違点

比較項目弁護士国保協会けんぽ
保険料の基本所得に連動せず,年齢区分ごとの定額を一人ずつ負担する。標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を乗じる。
事業主負担健康保険法上の労使折半はない。原則として事業主と被保険者が折半する。
家族家族も一人の被保険者となり,一人ごとに保険料がかかる。被扶養者の認定を受けた家族には,個別の健康保険料がかからない。
休業中の所得保障現在の公式給付一覧には,一般の傷病手当金及び出産手当金は掲載されていない。要件を満たす被保険者には,傷病手当金又は出産手当金が支給される。
年金との関係個人開業弁護士は通常は国民年金であるが,適用除外承認を受けた被用者は厚生年金保険に加入する。健康保険の被保険者は,年齢等の要件に応じて厚生年金保険にも加入する。

一定所得を超えれば弁護士国保の方が必ず安いと判断することはできない。本人負担だけでなく,事業主負担,家族数,年齢,介護保険料,休業時の給付及び将来の年金額を同一条件で比較する必要がある。

令和8年度の子ども・子育て支援金についても徴収方法が異なる。協会けんぽの支援金率は0.23%であり,標準報酬月額及び標準賞与額を基礎として,事業主と被保険者が折半して負担する一方,弁護士国保では,18歳以上の組合員及び家族について一人当たり月額600円が定額保険料に含まれる。

5 令和8年度の弁護士国保の保険料

令和8年度の東京都弁護士国民健康保険組合の月額保険料は,次のとおりである。

区分年齢月額保険料
組合員0歳から17歳まで3万1600円
組合員18歳から39歳まで又は65歳から74歳まで3万2200円
組合員40歳から64歳まで3万7900円
家族一人ごと0歳から17歳まで1万3400円
家族一人ごと18歳から39歳まで又は65歳から74歳まで1万4000円
家族一人ごと40歳から64歳まで1万9700円

令和8年度の市町村国保の賦課限度額は,基礎賦課分67万円,後期高齢者支援金等賦課分26万円,介護納付金賦課分17万円及び子ども・子育て支援納付金賦課分3万円である。介護分の対象世帯では合計113万円,介護分の対象外世帯では合計96万円となるが,実際の保険料は各市町村の条例,前年所得,世帯構成及び年齢等によって決まる。

6 給付及び産前産後期間の保険料軽減

東京都弁護士国民健康保険組合の現在の給付案内には,療養費,高額療養費,出産育児一時金及び葬祭費等が掲載されているが,一般の傷病手当金及び出産手当金は掲載されていない。東京弁護士会LIBRA2013年7月号「東京都弁護士国民健康保険組合のご案内」も当時同様の説明をしていたが,現在の結論は組合の最新の給付案内によって確認すべきである。

同組合では,令和6年1月1日から,出産する被保険者本人について,出産予定月又は出産月の前月から翌々月までの保険料を免除する産前産後期間相当分の軽減措置が設けられている。多胎妊娠の場合は,出産予定月又は出産月の3か月前から6か月相当分が免除されるが,被用者保険における産前産後休業又は育児休業期間中の保険料免除とは別の制度である。

7 マイナ保険証又は資格確認書による受診

従来の健康保険証は,最長でも令和7年12月1日で有効期限を終えた。現在は,マイナンバーカードを健康保険証として利用登録したマイナ保険証又は保険者から交付される資格確認書を用いて受診するため,令和4年度の保険証交付に関する経過措置は現在の加入案内としての意味を持たない。

第4 雇用保険及び労災保険

1 労働者を1人でも雇用した場合

事業主が労働者を1人でも雇っていれば,原則として労働保険に加入し,労働保険料を納付する必要がある。労災保険と雇用保険は保険給付を別々に行う制度であり,労災保険料は事業主が全額を負担し,雇用保険料は事業主と労働者がそれぞれ負担する。

2 雇用保険の被保険者

令和8年7月現在,雇用保険は,原則として週の所定労働時間が20時間以上であり,同一の事業主に31日以上雇用されることが見込まれる労働者に適用される。勤務弁護士についても,雇用契約又は業務委託契約という名目ではなく,実際に労働者として雇用されているかを判断する。

令和10年10月1日からは,週の所定労働時間の基準が20時間以上から10時間以上へ引き下げられる。施行前後に短時間勤務者を採用するときは,資格取得時点の要件を確認する必要がある。

3 労災保険の対象

労災保険は,労働者の業務上又は通勤による負傷,疾病,障害又は死亡等を給付対象とする。勤務弁護士又は従業員が労働者に当たれば,正社員,パート又はアルバイトという呼称にかかわらず対象となる一方,個人経営の事業主本人,法人の役員又は共同経営者は原則として労働者ではない。

4 独立弁護士の労災保険特別加入

令和6年11月1日から,企業等から業務委託を受けて事業を行うフリーランスは,業種を問わず労災保険の特別加入ができるようになった。独立して業務を行う弁護士も,企業等から業務委託を受けるなどの要件を満たせば,特別加入団体を通じて加入を検討できるが,消費者だけから委託を受ける場合は対象に含まれない。

第5 傷病手当金及び令和8年度の国民年金

1 協会けんぽの傷病手当金

協会けんぽの傷病手当金は,業務外の病気又はけがの療養のために仕事を休み,連続する3日間の待期を含めて4日以上仕事に就けず,休業期間について十分な給与を受けられない場合に支給される。1日当たりの支給額は,原則として,支給開始日前12か月間の各標準報酬月額の平均額を30で除し,その3分の2を乗じて計算し,支給期間は支給開始日から通算して1年6か月である。

支給開始日前の被保険者期間が12か月未満の場合には特則があり,二以上の事業所で被保険者となる場合にも算定上の別問題がある。弁護士国保の公式給付一覧には一般の傷病手当金が掲載されていないため,保険料だけでなく,療養中の所得保障の差も比較する必要がある。

2 令和8年度の国民年金

令和8年度の国民年金保険料は月額1万7920円である。昭和31年4月2日以後生まれの人の老齢基礎年金満額は月額7万608円,昭和31年4月1日以前生まれの人は月額7万408円であるが,実際の年金額は保険料納付済期間,免除期間その他の記録によって異なる。

第6 社会保険の未加入が判明した場合

1 健康保険及び厚生年金保険の確認請求

事業主が資格取得届を提出していない場合又は事実と異なる届出をした場合,被保険者又は被保険者であった人は,自ら年金事務所に被保険者資格の確認を請求できる。確認請求書とともに,雇用契約書,給与明細,出勤状況を示す書類,退職日を示す書類その他の使用関係を確認できる資料を提出する。

年金事務所は請求者の氏名を事業所に示して調査を行い,調査範囲は請求書の受付日から原則として2年間を遡る範囲となる。資格が確認された場合,請求者には確認期間の保険料の半額を遡って負担する義務が生じるため,記録の誤りに気付いた時点で早期に資料を確保する必要がある。

2 雇用保険の資格確認

雇用保険についても,労働者はハローワークに被保険者資格の確認を求めることができる。遡及確認は原則として2年までであるが,事業主が雇用保険料を給与から控除していたことを給与明細等で確認できる場合には,2年を超える期間が確認されることがあるため,給与明細,源泉徴収票,雇用契約書,出勤記録及び事務所との連絡記録を保存しておく必要がある。

3 労災保険は未手続でも給付請求ができること

事業主が労災保険の保険関係成立手続をしていなくても,労働者が業務又は通勤によって負傷等をした場合には,労災保険給付を請求できる。事業主証明を得られない場合でも所轄の労働基準監督署へ請求でき,未手続による保険料及び給付費の費用徴収は事業主側の問題として,労働者の給付請求と区別される。

第7 加入関係を確認するときの順序

1 保険料の有利不利だけで加入先は決まらないこと

強制適用事業所で加入要件を満たす人は,保険料が安い制度を自由に選択できるわけではない。弁護士国保を継続できるのは,加入資格を満たし,健康保険の適用除外承認を受けられる場合である。

加入関係は,①事務所が弁護士法人か個人経営か,②個人経営の場合に常時使用される従業員が5人以上か,③本人が事業主,法人の役員又は事務所に使用される人のいずれか,④勤務日数,勤務時間及び契約期間が被保険者要件を満たすか,⑤弁護士国保の所属弁護士会,居住地及び家族の資格要件を満たすか,⑥適用除外承認を期限内に申請できるか,という順序で確認すると整理しやすい。

2 保険料及び給付を比較する項目

協会けんぽと弁護士国保を比較するときは,①協会けんぽの都道府県別保険料率,標準報酬月額及び標準賞与額,②本人負担額と事業主負担額,③弁護士国保に加入する家族の人数及び年齢,④40歳から64歳までの介護保険料,⑤傷病手当金,出産手当金及び休業中の所得保障,⑥国民年金と厚生年金保険の将来給付を,同じ年度及び同じ世帯条件で計算する必要がある。

3 社会保険と別に検討する制度

国民年金基金,iDeCo,小規模企業共済及び経営セーフティ共済は,弁護士が老後資金又は事業防衛のために利用を検討し得るが,健康保険,厚生年金保険,雇用保険又は労災保険そのものではない。国民年金基金の掛金は社会保険料控除,小規模企業共済及びiDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除の対象となり,経営セーフティ共済はこれらと異なる必要経費又は損金の制度である。

関連する制度は,日本弁護士国民年金基金日本弁護士国民年金基金の年金月額を3万円とするための掛金額の推移及び個人型確定拠出年金(iDeCo)で別に説明している。

第8 出典・参考資料

1 法令

2 公的機関等の資料

3 文献

  • 中島光孝・椎名みゆき監修ほか『第2版 弁護士・社労士・税理士が書いたQ&A労働事件と労働保険・社会保険・税金』(日本加除出版,令和2年)43頁~62頁及び111頁。
  • 堀勝洋『年金保険法 第5版』(法律文化社,令和4年)205頁,207頁~208頁,617頁,630頁及び639頁。
  • 島村暁代『プレップ社会保障法』(弘文堂,令和3年)27頁。
  • 第一東京弁護士会編『われらの弁護士会史』(第一東京弁護士会,昭和46年)438頁。