第1 iDeCoの基本構造
1 制度の根拠と実施主体
個人型確定拠出年金(愛称は「iDeCo」である。)は,確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度であり,同法により国民年金基金連合会が個人型年金の実施者に指定されている。加入の申込みは,金融機関,保険会社等の運営管理機関を通じて国民年金基金連合会に対して行い,年金資産の運用は,加入者が自ら選択した運用商品によって個別に行われる。公式の説明としては,iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)の「iDeCoってなに?」及び厚生労働省HPの「iDeCoの概要」がある。
2 加入することができる者
個人型年金加入者となることができるのは,確定拠出年金法62条1項が掲げる次の4種類の者である。すなわち,①国民年金の第1号被保険者(保険料免除者を除く。),②第2号被保険者(企業型年金加入者掛金を拠出する企業型年金加入者等を除く。),③第3号被保険者,④国民年金法附則5条1項の規定による被保険者(いわゆる任意加入被保険者)である。したがって,加入することができる年齢は,国民年金の被保険者であるかどうかによって定まる仕組みになっており,第1号被保険者であれば60歳未満,第2号被保険者又は任意加入被保険者であれば原則として65歳未満ということになる。
任意加入被保険者が個人型年金加入者となることができるようになったのは,厚生労働省HPの「2020年の制度改正」によれば,令和4年5月1日である。60歳までに老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていない場合や,40年の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給することができない場合に,60歳以降も国民年金に加入している者が,これに当たる。
なお,確定拠出年金法62条2項1号は,個人型年金の老齢給付金の受給権を有する者及び有していた者を個人型年金加入者としない旨を定めている。この点は,後記第4の5のとおり,受給の開始時期を検討する際に無視することができない。
3 拠出限度額
拠出限度額は,確定拠出年金法施行令36条が加入者の区分ごとに定めている。第1号加入者及び第4号加入者(第1号被保険者及び任意加入被保険者)は月額6万8000円であり,国民年金の付加保険料又は国民年金基金の掛金を納付している月については,その額を控除した残額が限度額となる。第2号加入者は月額2万3000円が原則であり,企業型年金加入者又は他制度加入者である場合は月額2万円を基準としつつ,事業主掛金等の額が月額3万5000円を上回るときはその超過額を控除する仕組みになっている。第3号加入者は月額2万3000円である。
第2 国民年金基金との異同
1 共通する税制上の取扱い
国民年金基金の掛金も個人型確定拠出年金の掛金も,全額が所得控除の対象となる。また,年金として受け取る場合は公的年金等控除の対象となり,一時金として受け取る場合は退職所得控除の対象となる点も共通している。もっとも,後記第5の3及び4のとおり,退職所得控除については他の退職手当等との重複調整があるため,控除の枠が単純に確保されているわけではない。
2 iDeCoに固有の性質
個人型確定拠出年金は,個人単位の運用であるため,新規加入者であることを理由に不利に取り扱われることはなく,他の加入者の運用結果に起因する繰越不足金の問題も生じない。自らの運用次第で年金の受取額を増やすことができ,インフレーションにも対応し得る反面,受取額が掛金の総額を下回ることもある。
この点との対比でいえば,国民年金基金連合会HPの「資産運用状況」に掲載された「2024年(令和6年)4月以降の基本ポートフォリオの見直しの考え方の概要」によると,同連合会の積立金の新基本ポートフォリオは,グローバル債券(円ヘッジ)39%,グローバル債券(ヘッジなし)6%,グローバル株式55%である。2018年度に策定された旧基本ポートフォリオはグローバル債券52%,グローバル株式48%であったから,株式の構成割合はむしろ引き上げられている。加入者が運用の指図をしないというだけであって,資金そのものは相応の価格変動を伴う資産で運用されていると考えられる。もっとも,これは各国民年金基金の運用ではなく,中途脱退者の掛金や基金の委託を受けた分を運用する国民年金基金連合会の積立金についての基本ポートフォリオである。
加入後の取扱いにも違いがある。国民年金基金については,国民年金法127条3項が加入員の資格喪失事由を5個に限定して列挙しており,任意に脱退することを認める規定は置かれていない。これに対し,個人型確定拠出年金は,後記第3の要件を満たす限りで脱退一時金の請求が可能である。予定利率の世代間格差や繰越不足金を理由として国民年金基金を脱退することはできないということであり,マネーの達人HPの「国民年金基金の合併の背景にある「古参が得で新参が損」という構造」(平成28年8月3日付)が指摘する新規加入者の不利益は,加入後に解消する手段が乏しい。
3 掛金の所得控除の範囲の違い
国民年金基金の掛金は,社会保険料控除として,生計を一にする配偶者その他の親族の分も所得控除の対象となる(国税庁HPのタックスアンサー「No.1130 社会保険料控除」参照)。これに対し,個人型確定拠出年金の掛金は,所得税法75条1項及び2項2号により小規模企業共済等掛金控除として控除されるところ,同項は「個人型年金加入者掛金」を掲げているから,控除の対象となるのは自分自身の掛金に限られる。家族の分をまとめて控除することができるかどうかという点で,両者は明確に異なる。
なお,掛金の額の変更は,確定拠出年金法施行令29条3号により,個人型掛金拠出単位期間につき1回に限り行うことができる。
4 日本弁護士国民年金基金
日本弁護士国民年金基金HPの「個人型確定拠出年金」には,個人型確定拠出年金について「60歳未満の自由業・自営業者等は、月額6万8000円(年額81万6000円)から国民年金基金等の掛け金を控除して残額がある場合、この残額を拠出限度額として、個人型に加入することができます。」との記載があり,「生命保険会社等が行う私的年金よりは、有利な制度と思われます。」との評価が示されている。同ページには,同基金が従前受託していた国民年金基金連合会の加入手続の一部について,2014年(平成26年)12月末日をもって受託を終了した旨の記載もあるから,現在の各種手続は運営管理機関を通じて国民年金基金連合会に対して行うことになる。
第3 60歳前に引き出すことができる場合
個人型確定拠出年金の資産を60歳前に引き出すことができるのは,確定拠出年金法附則3条1項が定める脱退一時金の要件を満たす場合に限られる。同項は,①60歳未満であること,②企業型年金加入者でないこと,③同法62条1項各号に掲げる者に該当しないこと,④国民年金法附則5条1項3号に掲げる者に該当しないこと,⑤障害給付金の受給権者でないこと,⑥通算拠出期間が政令で定める期間内であること又は個人別管理資産の額が政令で定める額以下であること,⑦最後に加入者の資格を喪失した日から起算して2年を経過していないこと,の7要件を全て満たすことを求めている。
このうち⑥の政令で定める期間及び額は,確定拠出年金法施行令60条1項及び3項により,通算拠出期間が1月以上5年以下,個人別管理資産の額が25万円と定められている。⑥は「又は」で結ばれているから,通算拠出期間が5年を超えていても個人別管理資産の額が25万円以下であれば要件を満たす。逆にいえば,通算拠出期間が5年を超え,かつ,個人別管理資産の額が25万円を超えると,⑥を満たさなくなる。
要件が7個あり,そのいずれか一つでも欠けると請求することができない仕組みであるから,実際に脱退一時金を受け取ることができる場面はかなり限られる。掛金の拠出を開始する時点で,60歳まで引き出せないことを前提に資金計画を立てておく必要がある。
第4 受給を開始することができる時期
1 受給開始可能年齢は通算加入者等期間で決まる
老齢給付金は,60歳になれば当然に請求することができるものではない。確定拠出年金法33条1項は,通算加入者等期間の長さに応じて請求することができる年齢を定めており,同法73条により個人型年金にも準用されている。条文は,その年齢で請求するために必要な通算加入者等期間を掲げる形式になっている。
| 請求する時の年齢 | 必要な通算加入者等期間 |
|---|---|
| 60歳以上61歳未満 | 10年 |
| 61歳以上62歳未満 | 8年 |
| 62歳以上63歳未満 | 6年 |
| 63歳以上64歳未満 | 4年 |
| 64歳以上65歳未満 | 2年 |
| 65歳以上 | 1月 |
したがって,50歳代で加入した者は,60歳の時点では請求することができない。例えば53歳で加入した者は,60歳の時点で通算加入者等期間が7年であるから,62歳になるまで請求することができないことになる。退職金と合わせて借入れを返済する計画を立てていた場合,この2年のずれが資金繰りに直結する。
2 判定は60歳到達時点で締め切られる
確定拠出年金法33条2項は,通算加入者等期間について「その者が六十歳に達した日の前日が属する月以前の期間に限る。」と明記している。60歳より後に掛金を積み増しても,通算加入者等期間は増えない。
前記の例でいえば,60歳の時点で7年であった者が,61歳になって通算8年に達したように見えても,受給開始可能年齢は62歳のままである。「あと1年待てば1年早く受け取ることができる」という発想が成り立たない点は,加入の時期を検討する段階で押さえておく必要がある。
3 60歳以降に初めて加入した場合
もっとも,確定拠出年金法33条1項ただし書は,60歳以上75歳未満の者について,通算加入者等期間を有しない場合であっても,加入者となった日その他厚生労働省令で定める日から起算して5年を経過した日から請求することができる旨を定めている。前記の表だけを見て,加入期間が短いから65歳まで請求することができないと即断してはならない。
4 上限は75歳
請求しないまま75歳に達したときは,老齢給付金が支給される(確定拠出年金法34条)。受給の開始を後ろにずらすことができるのは75歳が限界であり,この上限が,後記第5の3の重複調整と噛み合わない場面がある。なお,受給開始の上限が70歳から75歳に引き上げられたのは,前掲の厚生労働省HPの「2020年の制度改正」によれば令和4年4月1日である。
5 受給権を取得すると加入者に戻れない
前記第1の2のとおり,確定拠出年金法62条2項1号は,個人型年金の老齢給付金の受給権を有していた者を個人型年金加入者としない旨を定め,同条4項7号は受給権を有する者となったときに加入者の資格を喪失する旨を定めている。「とりあえず一部だけ受け取っておく」という選択は,その後の拠出の道を閉ざす。受給の請求は,事実上,一度きりの判断であると考えておくのが安全である。
第5 受給方法と課税
1 3つの受給方法
受給方法は,一時金として一括で受け取る方法,年金として分割で受け取る方法及びその併用の3つである。年金として受け取る場合の支給予定期間は,確定拠出年金法施行令5条1号により「五年以上二十年以下の期間」とされており,個人型年金については同令28条が同号を準用している。
2 一時金は退職所得となる
一時金は,所得税法31条3号及び同法施行令72条3項7号により退職手当等とみなされ,退職所得となる。退職所得の金額は,収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1である(所得税法30条2項。一般退職手当等の場合)。退職所得控除額は,勤続年数が20年以下であれば40万円に勤続年数を乗じた金額,20年を超える場合は800万円に70万円と20年を超える年数を乗じた金額を加えた金額であり,計算した金額が80万円に満たないときは80万円となる(同条3項及び6項2号)。勤続年数に1年未満の端数があるときは1年として計算する(同法施行令69条2項)。計算の仕組みは,国税庁HPのタックスアンサー「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」及び国税庁HPの「退職金と税」にも掲げられている。
ここでいう勤続年数について,所得税法施行令69条1項2号は,企業型年金加入者期間及び個人型年金加入者期間により計算するとしつつ,それぞれ「事業主掛金に係る当該企業型年金加入者期間に限る」「個人型年金加入者掛金に係る当該個人型年金加入者期間に限る」と限定を付している。掛金の拠出を止めて運用指図者となっていた期間は年数に算入されないから,「加入して10年」と「拠出して10年」は別の意味を持つ。
3 退職所得控除の重複調整
同一の期間について二重に控除を受けることを避けるため,前に退職手当等の支払を受けている場合には,重複する期間に対応する金額が控除額から差し引かれる。その遡る期間は,所得税法施行令70条1項2号のイ,ロ及びハで3通りに分かれている。
| 号 | 前に支払を受けたもの → その年に支払を受けるもの | 遡る期間 |
|---|---|---|
| イ | 退職手当等 → 退職手当等(ロ及びハ以外) | その年の前年以前4年内 |
| ロ | 確定拠出年金の一時金 → 退職手当等 | その年の前年以前9年内 |
| ハ | 退職手当等 → 確定拠出年金の一時金 | その年の前年以前19年内 |
一般に「5年ルール」「10年ルール」「19年ルール」などと呼ばれるものが,この3つである。呼称だけで記憶していると,どちらを先に受け取る場合の規律なのかを取り違えやすいから,号ごとに前後関係と年数を確認する必要がある。
実務上重要なのはハである。会社の退職金を先に受け取り,その後に確定拠出年金の一時金を受け取る場合,前年以前19年内に退職手当等があると重複調整を受けるから,これを外すには20年の間隔が必要となる。ところが,前記第4の4のとおり,確定拠出年金は75歳で支給される。60歳で退職金を受け取った者が受給の開始を限界まで遅らせても,75歳との間隔は15年にとどまる。定年退職者が確定拠出年金を一時金で受け取る限り,退職所得控除の枠を退職金と分け合う関係から抜けることは難しい構造になっている。この場面では,年金形式を組み合わせて公的年金等控除の枠を用いることが検討対象となる。
4 令和8年1月1日からの変更
前記の表のロは,令和7年度税制改正によって設けられたものである。改正前は,確定拠出年金の一時金を先に受け取った場合もイと同じく前年以前4年内であったところ,ロによって前年以前9年内となった。
もっとも,所得税法施行令70条1項2号ロは,対象となる一時金を「令和八年一月一日以後に支払を受けたものに限り」と限定している。令和7年12月31日までに確定拠出年金の一時金の支払を受けていた場合には,その後に受け取る退職手当等についてイの4年内が適用されることになる。また,同号ロは,集計の対象となる「前の退職手当等」についても,令和8年1月1日以後に支払を受けたもののうち前年以前9年内のものと,同日前に支払を受けたもののうち前年以前4年内のものとに分けて定めているから,改正をまたぐ事案では区分を確認する必要がある。
5 退職手当等が少ない場合の緩和
所得税法施行令70条2項は,前に支払を受けた退職手当等の収入金額が,その退職手当等についての退職所得控除額に満たないときの特則を置いている。この場合,重複期間の計算に用いる期間は,実際の勤続期間ではなく,収入金額から逆算した期間となる。具体的には,前の退職手当等の収入金額が800万円以下であれば収入金額を40万円で除して計算した数,800万円を超える場合は収入金額から800万円を控除した金額を70万円で除して計算した数に20を加えた数であり,いずれも1に満たない端数は切り捨てる。
例えば,前に受け取った退職金が400万円であれば,逆算した期間は10年となる。退職金が小さいほど控除の枠から差し引かれる期間も短くなるということであり,退職金制度のない自営業者等について一時金による受取りが有力な選択肢となる理由は,主としてこの規定にある。もっとも,これは退職手当等の額との関係で決まる話であるから,金額を確認せずに一時金と即断すべきものではない。
6 年金は公的年金等となる
年金として受け取った場合は,所得税法施行令82条の2第2項6号により公的年金等に該当し,公的年金等控除の対象となる。退職所得控除とは別の枠であるから,退職金と枠を分け合う関係にはない。
公的年金等控除額は所得税法35条4項が定めており,公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下である場合は,40万円と,公的年金等の収入金額から50万円を控除した残額に応じた金額との合計額であり,その合計額が60万円に満たないときは60万円とされる。もっとも,65歳以上の者については,租税特別措置法41条の15の3第1項が読替えを定め,同号の「六十万円」は「百十万円」と読み替えられる。65歳以上であるかどうかの判定は,その年12月31日の年齢による(同条4項)。
したがって,控除額の下限は,60歳台前半では60万円,65歳以上では110万円である。公的年金は原則として65歳から支給されるため,60歳から64歳までは公的年金等控除の枠に余裕があるといえるものの,その枠は65歳以降より50万円小さい。他に公的年金等の収入がなければ,60歳から64歳までの5年間は年60万円までは公的年金等に係る雑所得が生じない計算になる。65歳以降は老齢基礎年金及び老齢厚生年金と合算されるから,公的年金の額が大きい者ほど枠は先に埋まり,繰上げ受給を選択した場合には60歳台前半の枠も先に埋まる。
7 社会保険料への影響
年金として受け取った分は雑所得となるため,国民健康保険料,介護保険料及び後期高齢者医療保険料の算定に影響し得る。もっとも,保険料の算定方法は市町村の条例によるから,具体的な金額を検討する場面では,居住する市町村の算定方式を確認する必要がある。所得税の負担だけを比較して年金形式を選ぶと,保険料の増加分を見落とすことになる。
第6 受給方法の選択の実情と手数料
1 一時金と年金の選択状況
運営管理機関連絡協議会が作成し,厚生労働省HPに掲載されている「確定拠出年金統計資料(2025年3月末)」は,2025年3月末基準から老齢給付金の新規裁定者数を項目化している。同資料24頁(PDF上も24頁)によれば,個人型年金の新規裁定者数は,年金が5550人(うち支給期間5年が3023人,6年から10年までが1517人,11年から20年までが925人,終身が85人),一時金が3万8557人,年金と一時金の併給が1064人である。同資料は,併給者を年金と一時金の双方に計上する旨を注記しているから,重複を除いた実人数は4万3043人となり,一時金による受取りを含む者は約9割を占めることになる(この割合は本記事で計算したものである。)。
同資料12頁の企業型年金では,一時金が9万2500人,年金が8058人,併給が2253人であり,同様に計算すると,一時金による受取りを含む者の割合は個人型年金より更に高い。年金形式の税制上の枠を用いる余地があるにもかかわらず,実際には一時金が選択されているというのが現状である。
2 受給開始年齢の分布
同資料24頁の個人型年金の老齢給付金受給開始年齢別人数は,計4万2298人のうち,60歳から64歳までが3万6033人,65歳から69歳までが5784人,70歳から74歳までが481人である。前記第5の3のとおり,退職金を先に受け取った場合の重複調整を外すには20年の間隔が必要であるところ,現実には大半が60歳台前半で受給を開始している。
3 必要な費用
確定拠出年金に係る手数料は,①加入時・移換時手数料,②口座管理手数料,③給付事務手数料,④還付事務手数料,⑤信託報酬の5種類である(りそなグループHPの「いくらかかる? なぜかかる? 確定拠出年金の手数料」参照)。このうち信託報酬は運用商品ごとに異なり,個人型確定拠出年金ナビ(iDeCoナビ)の「運用管理費用(信託報酬)ランキング」に商品別の一覧が掲載されている。
第7 令和8年12月1日施行予定の改正
厚生労働省HPの「2025年の制度改正」によれば,令和7年6月13日に成立した社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律により,令和8年12月1日から,個人型確定拠出年金の加入可能年齢が70歳未満に引き上げられる予定である。対象は,60歳以上70歳未満の者のうち,個人型年金の加入者若しくは運用指図者又は企業年金からの資産の移換者等であり,施行日から3年間の経過措置が設けられる。
同じく令和8年12月1日から,拠出限度額が引き上げられ,第1号被保険者は月額7万5000円,第2号被保険者は企業年金との共通の限度額に一本化された上で月額6万2000円となる予定である。厚生労働省の公表資料では施行期日が予定として示されているから,実際に手続を進める際は政令の公布状況を確認されたい。
第8 運用・勧誘に関する法規制と課税の沿革
1 投資助言・代理業の意義
金融商品取引法28条3項は,同法2条8項11号に掲げる行為(投資顧問契約に基づく助言)及び同項13号に掲げる行為(投資顧問契約又は投資一任契約の締結の代理又は媒介)を業として行うことを投資助言・代理業と定義している。投資顧問契約とは,有価証券の価値等又は金融商品の価値等に関して,口頭,文書その他の方法により助言を行うことを約し,相手方がそれに対し報酬を支払うことを約する契約をいい,同号は,新聞,雑誌,書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもので不特定多数の者により随時に購入可能なものを,ここでいう文書から除外している。投資一任契約とは,当事者の一方が相手方から投資判断の全部又は一部を一任されるとともに,その投資判断に基づき相手方のため投資を行うのに必要な権限を委任されることを内容とする契約をいう(同項12号ロ)。
そして,同法28条6項は,投資助言・代理業に係る業務のうち同条3項1号に掲げる行為に係る業務を投資助言業務と定義している。金融商品取引業は内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができず(同法29条),その権限は同法194条の7第1項及び6項により金融庁長官を経て財務局長又は財務支局長に委任されている。制度の概説としては,資産運用業協会HPの「資産運用業とは」がある。なお,同協会は,2026年4月に投資信託協会と日本投資顧問業協会が統合して発足した団体である。
2 登録を要しない行為
金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の「VII.監督上の評価項目と諸手続(投資助言・代理業)」は,「投資助言・代理業に該当しない行為」として,不特定多数の者を対象として,不特定多数の者が随時に購入可能な方法により投資情報等を提供する行為を挙げ,その例として,新聞,雑誌,書籍等の販売,投資分析ツール等のコンピュータソフトウェアの販売及び金融商品の価値等について助言する行為を掲げている。他方,同指針は,不特定多数の者を対象にする場合でも,情報通信技術を利用することにより個別・相対性の高い投資情報等を提供する場合や,会員登録等を行わないと投資情報等を購入・利用することができない場合には登録が必要となることに留意すべき旨を示している。
この整理によれば,個別銘柄を推奨する動画等を無償で公開し,専ら広告収入を得ているにとどまるのであれば,不特定多数の者を相手方とし,かつ,相手方からの報酬の支払もないから,投資助言・代理業の登録は要しないことになる。これに対し,有償の会員制のオンラインサロンにおいて個別銘柄を推奨する場合は,不特定多数の者が随時にその情報を購入することができるわけではないから,登録が必要になると考えられる。動画等でしばしば付される「投資は自己責任」という断り書きは,登録の要否を左右するものではなく,特定の法令上の規制に基づくものでもない。
3 損失補てんの禁止
金融商品取引法41条の2第5号は,金融商品取引業者等が,その助言を受けた取引により生じた顧客の損失の全部又は一部を補てんし,又はその助言を受けた取引により生じた顧客の利益に追加するため,顧客又は第三者に対し財産上の利益を提供し,若しくは第三者に提供させることを禁止している(事故による損失の補てんを除く。)。なお,投資助言業に関する規制は,平成19年9月30日までは,有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(昭和61年5月27日法律第74号)に基づいて行われていた。
4 適合性の原則
最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決(平成15年(受)第1284号,民集59巻6号1323頁)は,証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となる旨を判示した。
もっとも,同判決は,この一般論を示した上で,株価指数オプションが上場商品として広く投資者の参加を予定するものであったこと,顧客である会社が20億円以上の資金を有しその相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと,資金運用を担当する取締役らが信用取引や先物取引等の経験と知識を蓄積していたことなどを挙げて,当該勧誘が適合性の原則から著しく逸脱するものであったとはいえないとし,原判決を破棄して差し戻した事例である。一般論の部分だけを取り出して援用することができる射程の判断ではない。
5 昭和63年改正前の株式譲渡益課税
現在は運用益が非課税とされる制度が用意されているが,かつては上場株式の譲渡益そのものが原則として非課税とされていた時期がある。最高裁昭和59年3月16日第三小法廷判決(昭和55年(あ)第1491号,集刑236号179頁)は,所得税法9条1項11号イの規定は憲法84条に違反しない旨を判示したものであるが,その理由中で,同号イを受けた当時の所得税法施行令26条が,1項において営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得を課税対象とし,2項において「その売買の回数が五十回以上であること」及び「その売買をした株数又は口数の合計が二十万以上であること」の双方に該当するときは,他の事情を問わずこれに該当する旨を定めていたことを摘示している。年間の売買回数が49回以下であり,かつ,売買をした株数が20万株未満であれば一律に非課税とされていたということであり,この仕組みは昭和63年12月30日法律第109号及び関連政令による改正によって改められた。
第9 関連記事及び参考資料
制度の概説としては,弁護士法人栄光 栄光綜合法律事務所HPの「iDeCo(個人型確定拠出年金制度)」がある。また,資産運用業協会HPの「老後にしっかり備える!確定拠出年金の話」には,自営業者について個人型確定拠出年金と国民年金基金の併用が可能であり,掛金の上限は両者の合計で月額6万8000円である旨の説明が掲げられている。
当ブログの次の記事も参照されたい。
出典・参考資料
法令
- 確定拠出年金法(平成13年法律第88号)33条,34条,35条,62条,73条,附則3条 https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000088
- 確定拠出年金法施行令(平成13年政令第248号)5条,28条,29条,36条,60条 https://laws.e-gov.go.jp/law/413CO0000000248
- 所得税法(昭和40年法律第33号)30条,31条,35条,75条 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 所得税法施行令(昭和40年政令第96号)69条,70条,72条,82条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 租税特別措置法(昭和32年法律第26号)41条の15の3 https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 国民年金法(昭和34年法律第141号)127条 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000141
- 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)2条,28条,29条,41条の2,194条の7 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025
- 昭和63年12月30日法律第109号 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/11319881230109.htm
裁判例
- 最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決(平成15年(受)第1284号,民集59巻6号1323頁) https://www.courts.go.jp/hanrei/52383/detail2/index.html
- 最高裁昭和59年3月16日第三小法廷判決(昭和55年(あ)第1491号,集刑236号179頁) https://www.courts.go.jp/hanrei/58154/detail2/index.html
統計・公的資料
- 運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料(2025年3月末)」12頁,24頁,25頁(厚生労働省HP掲載) https://www.mhlw.go.jp/content/001058200.pdf
- 厚生労働省「iDeCoの概要」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html
- 厚生労働省「2020年の制度改正」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2020kaisei.html
- 厚生労働省「2025年の制度改正」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2025kaisei.html
- 金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 VII.監督上の評価項目と諸手続(投資助言・代理業)」 https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kinyushohin/07.html
- 国税庁タックスアンサー「No.1130 社会保険料控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1130.htm
- 国税庁タックスアンサー「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 国税庁「退職金と税」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_3.htm
- 国民年金基金連合会「資産運用状況」及び「2024年(令和6年)4月以降の基本ポートフォリオの見直しの考え方の概要」1頁 https://www.npfa.or.jp/org/property.html
ウェブ資料
- iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)「iDeCoってなに?」 https://www.ideco-koushiki.jp/guide/
- 日本弁護士国民年金基金「個人型確定拠出年金」 https://www.bknk.or.jp/kakutei/kakutei.htm
- 資産運用業協会「資産運用業とは」 https://www.imaj.or.jp/study/assetmanagement/
- 資産運用業協会「老後にしっかり備える!確定拠出年金の話」 https://www.imaj.or.jp/dc_contents/
- りそなグループ「いくらかかる? なぜかかる? 確定拠出年金の手数料」 https://www.resonabank.co.jp/nenkin/ideco/column/pay-401k-fee.html
- 個人型確定拠出年金ナビ(iDeCoナビ)「運用管理費用(信託報酬)ランキング」 https://www.dcnenkin.jp/cost/
- マネーの達人「国民年金基金の合併の背景にある「古参が得で新参が損」という構造」(平成28年8月3日付) https://manetatsu.com/article/2016/08/03/71462.html
- 弁護士法人栄光 栄光綜合法律事務所「iDeCo(個人型確定拠出年金制度)」 http://www.eiko.gr.jp/law/ideco%EF%BC%88%E5%80%8B%E4%BA%BA%E5%9E%8B%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E6%8B%A0%E5%87%BA%E5%B9%B4%E9%87%91%E5%88%B6%E5%BA%A6%EF%BC%89/