地方裁判所では,医療,建築,知的財産,労働,交通,行政,商事,倒産,保全及び執行などの事件を特定の民事部に配分することがある。
もっとも,「専門部」と「集中部」の名称や担当範囲は法令で全国一律に固定されているものではなく,各裁判所の事件数及び事務分配によって異なる。
この記事では,両者の実務上の意味を説明し,裁判所が現在公表している案内並びに令和8年度の京都地裁及び神戸地裁の事務分配原文に基づき,主要地裁の担当部を整理する。
第1 専門部及び集中部の意味
1 実務上の区別
市村陽典「民事訴訟における専門部・集中部について」が整理する実務上の用法によれば,専門部とは,特定分野の事件だけを集中的に担当し,通常の民事事件を担当しない部をいう。
集中部とは,特定分野の事件を集中的に担当する一方で,通常の民事事件も担当する部をいう。
例えば,知的財産事件を全件担当し,通常事件を受けない部は機能上の専門部である。
これに対し,医療事件を一定の割合で集めながら通常事件も受ける複数の部は,機能上の集中部である。
ただし,裁判所の公式ページが部名として「商事部」,「倒産部」又は「執行部」と表示し,別の資料が同じ部を「専門部」と説明することもある。
したがって,名称だけで分類するのではなく,何の事件をどの割合で受け,通常事件も担当するかを事務分配で確認する必要がある。
2 年度と根拠資料を確認する必要
民事部の担当は,組織改編,事件数及び裁判官の配置に応じて変わる。
部番号だけを記憶すると,改編後の担当分野を取り違えるおそれがある。
確認の優先順位は,①対象年度の事務分配規程,②裁判所公式サイトの手続案内及び担当裁判官一覧,③各部が公表する運用案内,④専門部等の実務書の順とするのが安全である。
書籍は実務運用の背景を理解するために重要であるが,刊行後の部番号変更を反映していないことがある。
なお,本記事の東京地裁及び大阪地裁の表は令和8年7月27日に確認した各裁判所の公開ページに基づく。
京都地裁及び神戸地裁の表は令和8年4月1日現在の事務分配規程に基づく。
3 保全・倒産・執行を一律に除外できないこと
専門部等を説明する際に,保全,倒産及び民事執行を別扱いにする資料もある。
しかし,これらを専門部から一律に除外することはできない。
東京地裁は民事第21部を民事執行専門部と説明している。
大阪地裁も民事第14部を民事執行事件を取り扱う専門部と説明している。
このため,本記事では,訴訟事件だけでなく,保全,倒産,執行及び非訟事件を専属的又は集中的に扱う部も含めて整理する。
第2 東京地方裁判所の主な担当部
1 現在の公式案内
東京地裁が現在公表している民事手続案内で確認できる主な担当部は,次のとおりである。
| 分野 | 担当部 | 公式案内上の主な取扱事件 |
|---|---|---|
| 商事 | 民事第8部 | 会社関係訴訟,商事非訟,仲裁関係事件等 |
| 保全 | 民事第9部 | 民事保全事件 |
| 労働 | 民事第11部・第19部・第33部・第36部 | 労働審判事件等 |
| 倒産 | 民事第20部 | 破産,民事再生,会社更生,特別清算等 |
| 民事執行 | 民事第21部 | 不動産執行,債権執行,財産開示等 |
| 建築等 | 民事第22部 | 建築訴訟,調停,借地非訟,共有・土地建物管理等 |
| 交通 | 民事第27部 | 交通事故関係訴訟等 |
| 知的財産 | 民事第29部・第40部・第46部・第47部 | 特許権等に関する訴訟等 |
行政事件及び医療事件については,裁判所のトップページだけでなく,担当部の案内又はダイヤルイン表も確認する必要がある。
また,労働部の構成については,東京地裁の労働審判手続案内も民事第11部,第19部,第33部及び第36部を掲げている。
2 商事部・倒産部・執行部の区別
東京地裁民事第8部は商事部である。
同部は,商事関係の訴訟,非訟及び保全事件のほか,知的財産権に関するものを除く仲裁法上の事件などを取り扱う。
これに対し,破産,民事再生,会社更生及び特別清算などを扱うのは民事第20部の倒産部である。
さらに,強制執行,担保権実行,財産開示及び第三者からの情報取得手続などを扱うのは民事第21部である。
商事,倒産及び執行は相互に関連することがあるが,申立先と担当部は同一ではない。
公式案内で事件類型と担当部を照合することが必要である。
3 医療担当部と資料の日付
東京地裁が現在公開している霞が関庁舎のダイヤルイン表では,民事第14部,第30部,第34部及び第35部に医療担当の表示がある。
他方で,部別ページや概要資料は更新時点がそろっていないことがある。
このような場合,部番号だけを転載するのではなく,資料名,公表日又は確認日を併記するのが相当である。
事件の提出先を確認する場面では,最新の裁判所公式ページ又は担当窓口で再確認する必要がある。
第3 大阪地方裁判所の主な担当部
1 現在の公式案内
大阪地裁が現在公表している民事手続案内及び担当裁判官一覧で確認できる主な担当部は,次のとおりである。
| 分野 | 担当部 | 公式案内上の主な取扱事件 |
|---|---|---|
| 保全 | 民事第1部 | 民事保全,配偶者暴力等保護命令等 |
| 租税・行政 | 民事第2部・第7部 | 租税・行政事件 |
| 商事 | 民事第4部 | 商事訴訟,商事保全,商事非訟等 |
| 労働 | 民事第5部 | 労働訴訟,労働審判,労働保全 |
| 倒産 | 民事第6部 | 破産,民事再生等 |
| 建築等 | 民事第10部 | 建築訴訟,調停,借地非訟,共有・土地建物管理等 |
| 民事執行 | 民事第14部 | 不動産執行,債権執行,財産開示等 |
| 交通 | 民事第15部 | 交通事故関係訴訟等 |
| 医療 | 民事第17部・第19部・第20部 | 医療訴訟 |
| 知的財産 | 民事第21部・第26部 | 知的財産事件 |
大阪地裁では,専門分野ごとに手続案内が整備されている。
実際の申立てに当たっては,事件類型ごとのページで受付場所,必要書類及び担当係を確認する必要がある。
2 租税・行政部と執行部
大阪地裁の令和8年7月17日現在の担当裁判官一覧は,民事第2部及び第7部を「租税・行政部」と表示している。
行政事件の担当を確認するときは,民事手続案内に現れない場合でも,担当裁判官一覧及び窓口案内を併せて確認すべきである。
民事第14部は,大阪市淀川区の民事執行センターで執務する執行部であり,裁判所公式ページが「民事執行事件を取り扱う専門部」と明記している。
この例からも,専門部という語が訴訟事件だけに用いられるわけではないことが分かる。
第4 京都・神戸の令和8年度事務分配
1 京都地方裁判所
京都地裁の事務分配等規程に掲載した令和8年4月1日現在の原文によれば,京都地裁本庁の主な集中先は次のとおりである。
| 分野 | 担当部 | 通常事件との関係 |
|---|---|---|
| 知的財産 | 民事第2部 | 知的財産事件を担当し,通常事件も担当 |
| 行政 | 民事第3部 | 行政事件を担当し,通常事件も担当 |
| 交通 | 民事第4部 | 交通事件を担当し,通常事件も担当 |
| 労働 | 民事第6部 | 労働事件を担当し,通常事件も担当 |
| 保全・執行・倒産等 | 民事第5部 | 保全,執行,破産,再生及び会社更生等を担当 |
民事第2部,第3部,第4部及び第6部は,特定分野の事件と通常事件の双方を受けるため,機能上は集中部に当たる。
民事第5部は,保全,執行及び倒産関係などをまとめて扱う構成である。
京都地裁の例は,「一つの裁判所に専門分野が一つだけある」のではなく,事件分野ごとに異なる部へ集中させる仕組みであることを示している。
2 神戸地方裁判所
神戸地裁事務分配等規程(令和8年4月1日現在)によれば,神戸地裁本庁の主な集中先は次のとおりである。
| 分野 | 担当部 | 事務分配上の取扱い |
|---|---|---|
| 交通 | 民事第1部 | 交通事故に基づく損害賠償請求等 |
| 行政・知的財産 | 民事第2部 | 行政事件及び知的財産事件等 |
| 保全・執行・倒産等 | 民事第3部 | 保全,執行,破産,再生及び会社更生等 |
| 労働 | 民事第6部 | 労働関係事件 |
| 医療 | 民事第1部・第2部・第4部・第5部・第6部 | 医療過誤に基づく損害賠償請求等 |
神戸地裁では,行政事件と知的財産事件を民事第2部に集め,労働事件を民事第6部に集めている。
医療事件は複数の部へ配分されており,特定の一部だけを「医療部」と表示する構成ではない。
事務分配表は,担当分野だけでなく,関連する保全事件,反訴及び再審などの配分も定めている。
そのため,表の要約だけで申立先を決めず,個別事件では原文を確認すべきである。
第5 専門部・集中部の役割と国会答弁
1 知見とノウハウの蓄積
専門事件を特定の部へ集める主な意義は,同種事件を継続的に担当する裁判官及び裁判所書記官に知見を蓄積し,複雑な争点を適正かつ効率的に整理することにある。
医療,建築及び知的財産などの事件では,専門委員,鑑定人及び調停委員など外部の専門家との連携方法も重要になる。
もっとも,担当部を専門化すれば直ちに審理が短くなるとは限らない。
事件数,争点の複雑さ,当事者の主張立証,鑑定の要否及び裁判官の配置などが審理期間に影響するためである。
2 平成26年3月27日の参議院法務委員会
第186回国会参議院法務委員会第6号の発言27において,最高裁判所事務総局総務局長の中村愼は,事件数が多い庁では専門部又は集中部の体制を採り,知見及びノウハウを集中的に活用している旨を答弁した。
また,その前提として一定の事件数が必要であり,条件を満たす庁では今後もその体制を検討する旨を述べた。
続く行政部の裁判官配置に関する質問には,同会議録の発言29において,最高裁判所事務総局人事局長の安浪亮介が,各裁判所の裁判官配置は毎年それぞれの裁判所の裁判官会議の議決によって定められる旨を答弁した。
両答弁は連続しているが,専門部・集中部の一般的な説明は中村愼の答弁であり,裁判官配置の説明は安浪亮介の答弁である。
第6 専門部等の実務を知るための書籍
1 分野別の実務書
専門部又は集中部で蓄積された実務を知るための代表的な書籍として,次のものがある。
① 髙橋譲編著『医療訴訟の実務〔第2版〕』(商事法務,2019年)は,東京地裁医療集中部の実務を体系的に解説する。
② 森冨義明・村主隆行編著『交通関係訴訟の実務』(商事法務,2016年)は,東京地裁民事第27部の交通事件実務を扱う。
③ 佐々木宗啓ほか編著『類型別労働関係訴訟の実務』(青林書院,2017年)は,労働関係訴訟の類型別の主張立証を解説する。
④ 岸日出夫ほか編集代表『Q&A建築訴訟の実務』(新日本法規出版,2020年)は,建築関係訴訟の争点と審理をQ&A形式で整理する。
⑤ 朝倉佳秀・佐野義孝編著『民事保全の実務〔第4版増補版〕上』(金融財政事情研究会,2025年)は,東京地裁民事第9部の保全実務を扱う。
これらの書籍は,訴状及び答弁書の記載,争点整理,証拠収集,鑑定,和解並びに各種申立てなど,部番号の一覧だけでは分からない実務運用を理解するために有用である。
2 書籍と現在の事務分配の使い分け
実務書に記載された部構成は,原稿執筆時又は刊行時のものである。
その後に担当部が増減し,又は事件分配が変更されることがあるため,現在の提出先を実務書だけで判断してはならない。
書籍からは専門分野の審理方法及び実務上の留意点を学び,現在の担当部は対象年度の事務分配及び裁判所公式サイトで確認するという使い分けが必要である。
第7 出典・参考資料
1 公的資料及び事務分配
① 東京地方裁判所「裁判手続を利用する方へ」
② 大阪地方裁判所「裁判手続を利用する方へ」
③ 大阪地方裁判所「民事部担当裁判官一覧」
④ 京都地方裁判所事務分配等規程(令和8年4月1日現在)
⑤ 神戸地方裁判所事務分配等規程(令和8年4月1日現在)
⑥ 第186回国会参議院法務委員会第6号(平成26年3月27日)
⑦ 市村陽典「民事訴訟における専門部・集中部について」1頁~2頁
2 文献
① 新藤宗幸『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究―』(講談社,2009年)168頁,195頁~196頁,203頁
② 髙橋譲編著『医療訴訟の実務〔第2版〕』(商事法務,2019年)3頁~4頁
③ 森冨義明・村主隆行編著『交通関係訴訟の実務』(商事法務,2016年)4頁~6頁
④ 佐々木宗啓・清水響・吉田徹ほか編著『類型別労働関係訴訟の実務』(青林書院,2017年)2頁~5頁
⑤ 岸日出夫ほか編集代表『Q&A建築訴訟の実務』(新日本法規出版,2020年)3頁~5頁