刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)


目次
1 検察庁での記録の閲覧・謄写
2 検察官の開示証拠の目的外利用の禁止
3 弁護人が被告人に検察庁の開示証拠を交付する場合の注意点
4 裁判所提出記録の閲覧・謄写
5 被害者特定事項に関する配慮
6 民事訴訟等で起訴事件の刑事記録を利用したい場合
7 判決書謄本交付請求及び調書判決
8 関連記事その他

1 検察庁での記録の閲覧・謄写
(1) 弁護人は,第1回の公判期日前に,検察官が取調べを請求する予定の証拠書類及び証拠物を閲覧する機会を与えられます(刑訴法299条,刑訴規則178条の6第1項1号参照)。
    そのため,加害者は,依頼している弁護人に依頼すれば,起訴事件の刑事記録を入手できます。
(2)ア 弁護人として大阪地検本庁で公判提出予定記録の閲覧をする場合,午前であれば11時40分までに,18階の窓口に,証拠書類閲覧・謄写申請書及び弁護人選任届等の写しを持参する必要があります。
    ただし,事前に予約をする必要はありません。
イ 弁護人として神戸地検本庁で公判提出予定記録の閲覧をする場合,神戸地検5階の会議室で閲覧することとなります。

2 検察官の開示証拠の目的外利用の禁止
(1) 平成17年11月1日施行の刑訴法に基づき,被告人又は被告人であった者が,検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠(=開示証拠)に係る複製等を,刑事裁判以外の目的で,人に交付し,又は提示し,若しくはインターネットに載せることは禁止されています(刑訴法281条の4)。
    被告人又は被告人であった者がこれに違反した場合,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(刑訴法281条の5第1項)。
(2) 東京地裁は,平成26年3月2日,法廷で警備職員にかみついた公務執行妨害事件の証拠を動画投稿サイト「ユーチューブ」に掲載した男性に対し,開示証拠の目的外使用の罪により,懲役6月,執行猶予2年の有罪判決を言い渡しました(ストーン・リバーブログ「やったな!証拠の目的外使用で逮捕・有罪!」参照)。
(3) 平成30年弁護士懲戒事件議決例集(第21集)89頁には以下の記載があります。
    審査請求人らが本件民事訴訟において,弁護士法23条の2,刑事確定訴訟記録法,民事訴訟における文書送付嘱託といった証拠収集手続を講じることなく,本件刑事訴訟の弁護人から送付を受けた記録中の文書をそのまま書証の申出として提出したことは,慎重であるべき刑事事件の記録の取扱いとしても,民事訴訟の代理人の活動としても,軽率に過ぎる。審査請求人のこのような記録の取扱いは極めて不注意であって,事件記録の保管等に関する注意義務(弁護士職務基本規程18条)及び事件処理の報告及び協議を定めた弁護士職務基本規程36条にも反すると評価せざるを得ない。

3 弁護人が被告人に検察庁の開示証拠を交付する場合の注意点
(1) 弁護士は,開示証拠の複製等を被告人に交付等するときは,被告人に対し,複製等に含まれる秘密及びプライバシーに関する情報の取扱いに配慮するように注意を与えなければなりません(開示証拠の複製等の交付等に関する規程(平成18年3月3日会規第74号)(平成18年4月1日施行)3条1項)。
   また,弁護士は,開示証拠の複製等を交付等するに当たり,被告人に対し,開示証拠の複製等を審理準備等の目的以外の目的でする交付等の禁止及びその罰則について規定する刑訴法281条の4第1項及び281条の5第1項の規定の内容を説明しなければなりません(開示証拠の複製等の交付等に関する規程3条2項)。
(2) 弁護士が被告人に刑事記録を交付する場合,事件の検討に直接関係しない犯罪被害者等の個人情報はマスキングすることがあります(東弁リブラ2014年8月号「開示記録を差し入れる際の注意点」参照)。
(3) 交通事故に関する被告人甲の刑事事件を担当した弁護士が後日,交通事故に関する甲の民事事件の代理人弁護士に対し,マスキングの処置といった秘密保持への配慮もなく刑事記録の全部を提供した場合,弁護士職務基本規程18条1項に違反することとなります(弁護士自治を考える会HPの2016年5月10日付の記事参照)。
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4 裁判所提出記録の閲覧・謄写
(1)ア 弁護人は,弁護人自身の権限(固有権)として,起訴後,裁判所において,訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し,かつ,謄写することができます(刑事訴訟法40条本文)ものの,証拠物の謄写については裁判長の許可を受ける必要があります(刑事訴訟法40条ただし書)。
イ 略式請求手続においても,弁護人は訴訟記録の閲覧謄写ができます(はてなブログの「略式命令請求手続、訴訟記録の閲覧謄写」参照)。
ウ 弁護人による刑事記録の閲覧・謄写は,被疑者・被告人の意思から独立して行うことができます(刑事訴訟法41条)。
(2) 検察官は公益の代表者ですから,起訴後,裁判所構外においても,訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し,かつ,謄写することができます(刑事訴訟法270条)。
(3) 被告人は,弁護人が付いていない場合に限り,公判調書だけを閲覧することができる(刑事訴訟法49条,刑事訴訟規則50条)のであって,それ以外の刑事記録を閲覧することはできません。
(4) 弁護人が司法協会又は弁護士協同組合を通じて刑事記録を謄写するためには裁判長の許可が必要となります(刑事訴訟規則31条)ものの,通常は裁判長の許可がおります。
(5) ビデオリンク方式により記録された記録媒体(刑事訴訟法157条の6第4項)は,証人のプライバシー,名誉,心情が害される度合いが大きいことから,閲覧のみができ,弁護人及び検察官は謄写できません(刑事訴訟法270条2項)。
(6)ア 犯罪被害者保護法3条2項のような,裁判所において謄写した訴訟記録の使用目的を制限し,その他適当と認める条件を付することができるといった定めは刑事訴訟法及び刑事訴訟規則にありません。
    そのため,弁護人が刑事記録を謄写する際,インターネットに直接接続可能なスマートフォン・タブレット等の撮影機能を使用しての撮影をしてはならないといった制限を裁判所から受ける法的根拠はないです。
イ 法務省の,刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 第6回会議(令和3年9月15日)資料24「1(4)閲覧・謄写・交付」には,「電子データである証拠等の「閲覧」・「謄写」・「交付」について,オンラインによりこれを行うことができるものとする。 」と書いてあります。


5 被害者特定事項に関する配慮
(1) 証人等の安全が害されるおそれがある場合,弁護人は,被告人を含む関係者に対し,証人等の安全について配慮を求めることができます(刑訴法299条の2)。
(2) 被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の安全が著しく害されるおそれがある場合において,検察官から配慮を求められたときは,弁護人は,被告人その他の者に被害者特定事項を知られないように配慮しなければなりません(刑訴法299条の3)。

6 民事訴訟等で起訴事件の刑事記録を利用したい場合
(1) 民事事件等で起訴事件の刑事記録を利用したい場合,検察官請求証拠又は弁号証として取り調べられた書証を刑事事件が係属している裁判所で刑訴法40条1項本文に基づきコピーし,住所・電話番号その他事件の結論とは関係のない個人情報を黒塗りにした上で,そのコピーを提出すればいいと思います。
(2)ア 「刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)について(1)」には,刑訴法40条に基づくコピーは,検察官開示記録と同様に,刑訴法281条の4第1項各号所定の目的でしか使用できないという趣旨のことが書いてあります(法曹時報57巻7号29頁及び30頁)。
    しかし,弁護人又は被告人の手元にある検察官開示記録は第三者の閲覧を予定したものでは全くないのに対し,刑事記録は,被告事件の終結後,何人でも閲覧できる(刑訴法53条1項)わけです。
    そのため,何人でも閲覧できる刑事記録のコピーを民事訴訟で利用できないという解釈はおかしいと思いますし,第三者による記録閲覧が予定されていない弁護士の懲戒請求,検察審査会への審査申立て等で利用できないという解釈はなおさらおかしいと思います。
イ  平成18年3月3日の日弁連臨時総会の議事概要には,以下の記載があります。
    石崎和彦会員(第二東京)より、例えば、松川事件の広津和郎氏の場合のように、裁判所において取り調べ済みの捜査記録を報道機関などに資料として提示するなど、社会に向かって不当性を訴えていくことは、第4条に該当するか、また、第4条にただし書として、違法性がない旨を入れて頂きたいとの質問がなされた。これに対し、星副会長から、十分に理解のできることであるが、例えば、強姦事件の被害者の調書、有名人のプライバシーを記載した調書、企業秘密に属することが記載された調書などのように、公開の法廷において調べられた記録であれば、目的を問わず、どんな使用をしても懲戒の対象にはならない旨明文で言い切ってしまうことは賛成し難いが、被告人の防御のため、法廷で取り調べ済みのもの、現実に第三者の秘密、プライバシー、名誉が侵害されたのでなければ、多くの場合違法性が阻却されるであろうことは、刑訴法第281条の4第2項で考慮すべき事項として盛られていて、無罪を勝ち取るために闘っている弁護人が懲戒の対象になることは、例外的なケースであると思われ、ただ、自主判断事項なので、弁護士自治により我々が懲戒手続の中で判断することになるとの答弁がなされた。 


7 判決書謄本交付請求及び調書判決
(1) 弁護人が裁判所に対し,判決宣告の日から14日以内に判決書謄本の交付請求をした場合(刑事訴訟法46条),判決書を必ず作成してもらえます(刑事訴訟規則219条1項ただし書)。

   しかし,弁護人が裁判所に対し,判決書謄本の交付請求をしなかった場合,裁判所書記官が判決主文並びに罪となるべき事実の要旨及び適用した罰条を判決の宣告をした公判期日の調書の末尾に記載することで,判決書に代えることがあり(刑事訴訟規則219条1項本文),これを調書判決といいます。
(2) 判決書が作成された場合,調書判決と異なり,証拠の標目が記載されます(刑事訴訟法335条1項参照)し,通常は量刑の理由も記載されます。
(3) 弁護人が判決書謄本の交付請求をする場合,1枚当たり60円の収入印紙が必要となります(刑事訴訟法施行法10条1項前段)。

8 関連記事その他
(1)ア 前田恒彦 元検事によれば,捜査当局は捜査情報をマスコミにリークすることがあるみたいです。
① なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(1)
② なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(2)
③ なぜ捜査当局は極秘の捜査情報をマスコミにリークするのか(3)
イ ちなみに,ライブドア事件に関して,平成18年1月16日午後4時過ぎ,ライブドアに捜索に入ったとNHKテレビニュースで報道されたものの,ライブドアが入居していた六本木ヒルズに東京地検特捜部の捜査官が到着したのは同日午後6時半過ぎでした(Cnet.Japanの「ライブドアショックの舞台裏とその余震」(2006年1月26日付)参照)。
(2)  国際人権規約(自由権規約)14条1項は以下のとおりです。
    すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
 加害者の刑事裁判の判決が確定した後の,起訴事件の刑事記録の入手方法
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧


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