裁判所の所持品検査

1 各地の裁判所における所持品検査の開始時期等
(1)   以下の裁判所で所持品検査が実施されています。
① 東京高裁及び東京地裁の庁舎
・ 昔からゲート式金属探知機・X線手荷物検査装置を設置して入場者の持ち物検査を実施しています。
・ cocoic HP「東京地方裁判所の裁判傍聴に行ってみた感想をレポート。初心者のための流れやアクセス等も」に,東京地裁の手荷物検査のことが書いてあります。

② 札幌高裁及び札幌地裁の庁舎:平成25年3月1日開始(札幌弁護士会HPの「裁判所入庁者に対する所持品検査の中止を求める会長声明」参照)
・ 空港の手荷物検査と同様,金属探知機を使用するに先立って手荷物の開披を求める運用がなされているみたいです(北海道合同法律事務所HPの「裁判所入庁者に対する所持品検査に関する抗議書兼要求」参照)。
・ 札幌高等裁判所と北海道セキュリティ事業協同組合が締結した,札幌高等裁判所等庁舎警備業務に関する契約書(平成29年4月3日付)を掲載しています。
③ 東京家裁及び東京簡裁の庁舎:平成25年10月1日開始(町田総合法律事務所HPの「東京家庭裁判所,東京簡易裁判所でも金属探知機・手荷物検査を実施」参照)
④ 福岡高裁及び福岡地裁の庁舎:平成27年1月5日開始(福岡高裁HPの「入庁時の所持品検査について」参照)
・ 飛行機搭乗時の身体検査・手荷物検査と全く同じ検査がなされているみたいです(本人訴訟を検証するブログ「福岡高裁の入所者検査が異常!」参照)。
・ 福岡高等裁判所と首都圏ビルサービス協同組合が締結した,福岡高等裁判所等庁舎警備等業務に関する契約書(平成29年4月3日付)を掲載しています。
⑤ 大阪高裁及び大阪地裁の庁舎:平成30年1月9日開始(大阪地裁HPの「入庁者に対する所持品検査について」及び「大阪高等・地方・簡易裁判所の西門及び合同庁舎の一部の玄関の閉鎖等について」参照)
・ 大阪高等・地方・簡易裁判所合同庁舎入庁検査業務請負契約に関する決裁文書(平成29年10月12日決裁)を掲載しています。
・ 大阪高等・地方・簡易裁判所庁舎における入庁検査の実施について(平成29年12月12日付の大阪高裁事務局長の文書)を掲載しています。

・ 大阪高等裁判所と株式会社セノンが締結した,大阪高等・地方・簡易裁判所合同庁舎入庁検査業務に関する大阪高裁と株式会社セノンとの契約書(平成29年11月24日付)を掲載しています。
   平成30年1月9日から同年3月31日までの間(82日間)の契約金額は2222万6400円ですから,1日当たり27万1054円となります。
・ 大阪高等裁判所と首都圏ビルサービス株式会社が締結した,大阪高等・地方・簡易裁判所合同庁舎の警備業務に関する請負契約書(平成30年4月2日付)及び変更契約書(平成30年6月19日付)を掲載しています。

 変更契約書によれば,平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間の契約金額は1億2199万1038円ですから,1日当たり33万4222円となります。
⑥ 仙台高裁及び仙台地裁の庁舎:平成30年1月15日開始(仙台弁護士会HPの「仙台高等裁判所・仙台地方裁判所に対し、裁判所庁舎入口付近における所持品検査に関する意見書」参照)
⑦ 千葉地家裁の庁舎:平成30年2月13日開始(千葉地裁HPの「入庁時所持品検査の実施について」参照) 
⑧ さいたま地家裁の庁舎:平成30年3月1日開始(さいたま地裁HPの「所持品検査の実施について」参照)
⑨ 横浜地裁の庁舎:平成30年3月1日開始(横浜地裁HPの「入庁時の所持品検査の実施等について(お知らせ)」参照)
⑩ 名古屋高裁及び名古屋地裁の庁舎:平成30年7月4日開始(名古屋高裁HPの「入庁時の所持品検査の実施等について(お知らせ)」参照)
⑪ 神戸地裁の庁舎:平成30年9月3日開始(神戸地裁HPの「神戸地方・簡易裁判所庁舎本館における入庁者に対する所持品検査について」及び大弁HPの「神戸地裁・簡裁庁舎本館における入庁者への所持品検査の開始について」のほか,YouTube動画の「神戸地裁 9月から本館で所持品検査実施」参照)
⑫ 広島高裁及び広島地裁の庁舎:平成30年10月1日開始(広島地裁HPの「入庁時の所持品検査の実施について」参照)
⑬ 京都地裁の庁舎:平成31年4月1日開始(京都新聞社HP「手荷物検査は「過剰」? 裁判所の警備強化に弁護士会反発」参照)
⑭ 大阪家裁の庁舎:平成31年4月1日開始(大阪家裁HPの「大阪家庭裁判所本庁における入庁者に対する所持品検査の実施等について」参照)

・ 家裁単独庁舎での所持品検査の実施は全国初です。
(2) ①裁判員裁判における金属探知機による所持品検査の実施について(平成29年3月27日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡),及び②刑事被告事件の法廷等の入口における所持品検査の実施について(平成29年6月16日付の最高裁判所刑事局第二課長の事務連絡)を掲載しています。
(3) 平成29年11月29日付の札幌高裁の司法行政文書不開示通知書によれば,以下の文書は廃棄済みです。
① 札幌高裁が平成25年3月1日に来庁者に対する所持品検査を開始することを決めた際に作成し,又は取得した文書
② 札幌高裁の所持品検査に反対するという趣旨で,弁護士会その他の団体から送付されてきた文書 

2 入庁時の所持品検査を免除されている人
仙台地裁HPに掲載されている平成30年5月15日開催の仙台地方裁判所委員会(第33回)議事概要3頁に以下の記載があります。
○ 入庁時の所持品検査を免除されている人やケースはあるかお聴きしたい。
□ 裁判所職員以外では,例えば,検察庁で身分を確認しているということでバッジや身分証明書を携帯する検察官や検察事務官,弁護士会で身分を確認しているということでバッジや身分証明書を携帯する弁護士や弁護士事務所の事務員,そのほかにも裁判所にほぼ毎日のように出入りする業者の方で,事前に申請をした上で一定の条件の下で入庁許可証を発行されている方などがあげられる。また,裁判員の方も,選任後は裁判所職員の身分になるということで,特に検査を受けずに入庁している。 

3 所持品検査の適法性に関する最高裁判例
(1) 最高裁昭和43年8月2日判決は以下のとおり判示しています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
①   おもうに、使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう、いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であつて、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとつて必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行なわれ、これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもつて、当然に適法視されうるものではない。
   問題は、その検査の方法ないし程度であつて、所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。
②   そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行なわれるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務があり、かく解しても所論憲法の条項に反するものでないことは、昭和二六年四月四日大法廷決定(民集五巻五号二一四頁)の趣旨に徴して明らかである。
(2)ア   最高裁昭和53年9月7日判決は以下のとおり判示しています。
警職法二条一項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべぎである最高裁判所昭和五二年(あ)第一四三五号同五三年六月二〇日第三小法廷判決参照)。
イ 最高裁昭和63年9月16日決定最高裁平成7年5月30日決定及び最高裁平成15年5月26日決定は,最高裁昭和53年9月7日判決を先例として引用しています。

(3) ちなみに,昭和49年10月29日の午後,社青同解放派(日本の新左翼)の5人が東京高裁長官室及び東京高裁事務局長室に乱入するという事件が発生していました(Wikipediaの「東京高裁長官室乱入事件」参照)。

4 最高裁判所長官「新年のことば」等
(1)ア 平成29年1月1日付の最高裁判所長官「新年のことば」には以下の記載があります。
   昨年4月に,ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書及び最高裁判所裁判官会議談話が公表され,かつての開廷場所指定の運用が違法と判断されたことは御承知のとおりです。報告書は,司法行政事務に携わる職員に対し,人権に対する鋭敏な感覚を持って事務処理を行うよう求めていますが,このことは裁判所で働く全ての裁判官及び職員に対し向けられるべきものでもあります。長らく続けられてきた事務処理であっても,それが法令等に則ったものであるかを再確認する意識を失わず,併せて社会通念上是認されるものであるかといった観点にも目配りをして,改めるべきは躊躇なく見直すという姿勢が求められます。
イ 平成31年1月1日付の最高裁判所長官「新年のことば」には以下の記載があります。

 改めていうまでもなく,裁判所は,法にのっとり社会に生起する紛争の解決を図ることによって法の支配を実現する使命を託されています。裁判所に働く者一人一人が,それぞれの職場において,安易に先例に頼るのではなく,常にその行為が適正なものといえるかを問う姿勢で職務に当たることが求められていることに思いを致し,自らを戒めなければならないと感じています。
(2) 最高裁判所長官「新年のことば」は毎年,裁判所時報1月1日号に掲載されています(「裁判所時報」参照)。 
(3)ア 平成29年11月22日付の司法行政文書不開示通知書によれば,札幌高裁及び福岡高裁で実施されている所持品検査が,最高裁昭和53年6月20日判決が判示する所持品検査の適法性の要件を満たしているかどうかを検討した際に作成した文書は存在しません。
イ 平成29年12月25日付の司法行政文書不開示通知書によれば,最高裁判所が,平成25年3月1日以降に,東京高裁,福岡高裁及び札幌高裁の所持品検査の運用状況に関して取得した文書は存在しません。
5 裁判所の所持品検査に関する,平成30年11月22日の参議院法務委員会における答弁
① 42期の村田斉志最高裁判所総務局長の答弁
 入庁時のゲート式による所持品検査につきましては今委員から御指摘のあったとおりでございますけれども、それ以外にも法廷警備という形での警備にも努めておるところでございまして、これは事案に応じて裁判体が適切な判断をしているものと承知をしております。一般的には、具体的な警備の方策を検討する際には、裁判の公平ということについても意識をしながら検討されるものと考えられます。
 なお、御指摘の中で、警備を行うことが裁判の公開の関係からも問題があり得るかという点ですけれども、傍聴席にいる方に危害が加えられるようなことになりますと、これは裁判の公開という理念を脅かすということにもなりかねませんので、裁判の公開を確保するためにも法廷の安全確保が必要であると考えております。
 また、法曹三者あるいは関係者との合意形成といった点についての御指摘ございましたけれども、裁判所での安全を確保するというのは、これは裁判所の責任で行うべきものでございますので、事案に応じて裁判体が判断するということになりますので、法曹三者等と合意をしなければ実施ができないというものではないと考えておりますけれども、裁判所がこの責任を果たすためには、関係者の御意見をちゃんと踏まえて、その上で実施するか否かを検討しているということになろうかと思います。
 それからまた、最初に御指摘のあった入庁時の一般的な所持品検査については、弁護士会あるいは検察庁に対しても事前に丁寧な説明を行った上で実施に至っているものというふうに承知をしております。
② 42期の笠井之彦最高裁判所経理局長の答弁
 裁判所を安全、安心な形で利用していただくということ、そのために庁舎内の安全を確保すること、これは裁判所の重要な責務の一つであるというふうに考えているところでございます。
 先ほど委員から御指摘がありました金属探知機を用いた所持品検査、それにつきまして、入庁時に行うというものもございますし、それ以外に、各庁の実情に応じて法廷入廷時の所持品検査、こういったものにつきましても、外注警備員によるスポット的な対応を行うなどして体制を整えているところでございます。
 今後でございますけれども、このような予算を確保していくということ、これ自体は非常に重要なことであるというふうに考えておりますので、裁判所としても、引き続き必要な予算の確保に努めてまいりたいというふうに考えているところでございます。
③ 41期の堀田眞哉最高裁判所人事局長の答弁
 法廷警備員の警備業務に関する研修につきましては、各裁判所の実情に応じて行われているところでございます。
 例えば、東京地裁におきましては、法廷警備員の採用時に約半年間にわたって警備技術の教育を行っておりますほか、所持品検査の基本的動作等をまとめたDVDを整備しておりまして、このDVDについては、研修等での利用を希望する他の裁判所にも送付をして、警備に関する知識、技能の共有を図っているところでございます。
 また、警備に関するマニュアルを整備したり、あるいは県警の職員を講師に招いて警備に関する講義を実施している裁判所もございまして、こうした取組により、法廷警備員に必要な知識、技能の習得が図られているものと認識しております。
 今後とも、昨今の裁判所における加害行為の状況を踏まえつつ、各裁判所の実情に応じて、法廷警備員が必要な法廷警備に関する知識、技能の習得を図れるように取り組んでまいりたいと考えております。 

6 最高裁判所判事等は襲撃の対象となるおそれが高いと考えられていること
   最高裁判所長官及び最高裁判所判事は,裁判所の業務に係る意思決定において極めて重要な役割を担っており,最高裁判所首席調査官は,最高裁判所の裁判所調査官の事務を総括していることから,いずれも襲撃の対象となるおそれが高いと最高裁判所は考えています平成29年度(最情)答申第27号(平成29年8月7日答申))。

7 所持品検査の根拠となる最高裁判所規程は存在しないこと等
(1)   平成30年2月13日付の司法行政文書不開示通知書によれば,裁判所における所持品検査の根拠となっている最高裁判所規程(条文中に「所持品検査」という文言を含むもの。)は存在しません。
(2) 裁判所の庁舎等の管理に関する規程の運用について(昭和43年6月10日付の最高裁判所事務総長依命通達)を掲載しています。
別紙として,裁判所の庁舎等の管理に関する規程(昭和43年6月10日最高裁判所規程第4号)が含まれています。
(3) 裁判所の庁舎等の管理に関する規程の運用について(昭和60年12月28日付の最高裁判所事務総局経理局長通達)を掲載しています。

8 その他
(1)   平成30年6月22日付の司法行政文書不開示通知書によれば,保釈中の被告人の判決宣告期日については原則として被告人に対する入廷前所持品検査を実施する旨を記載した,最高裁判所刑事局作成の文書は存在しません。
(2) 「実務修習地の選び方」も参照してください。