第1 司法試験受験生の面接対策の結論
1 裁判所が第一志望であると装わないこと
司法試験を受けた事実又は今後の受験予定がある場合,それを隠したり,本人の意思に反して「裁判所が第一志望であり,司法試験に合格しても司法修習へ進まない」と述べたりすることを,本記事は勧めない。
本当に裁判所職員が第一志望であるならば,その理由を率直に説明すればよい。進路を決め切れていないならば,現時点の意思,判断時期及び判断要素を具体的に説明すべきである。法曹への進路が第一志望であるならば,その事実を前提として,なお裁判所職員を現実の選択肢とする理由と条件を説明する必要がある。
裁判所職員として働く現実の意思がない場合は,表現を工夫して面接を通過するという問題ではない。
2 事実,現在の意思及び将来の判断を分けて答えること
司法試験との関係を尋ねられた場合は,次の四点を分けて答えると整理しやすい。
① 現在の事実――司法試験の受験歴,合否待ち又は今後の受験予定
② 現在の意思――裁判所から採用の提示を受けた場合に勤務する意思
③ 職務上の理由――裁判所事務官のどの仕事に,なぜ魅力を感じるのか
④ 将来の判断――司法修習との関係を,いつまでに,どのような要素を考慮して決めるのか
事情又は意思が後に変わることはあり得る。もっとも,変更の可能性があることと,現在の意思と異なる説明をすることは別である。事情が変わった場合は,採用担当者に速やかに連絡すべきである。
第2 現行の人物試験と採用手続
1 人物試験は法律知識の試験ではないこと
裁判所の採用Q&Aは,人物試験について,専門科目等の知識を問うものではなく,人物面から裁判所職員としての適格性を判断する試験であると説明している。
一般職試験(裁判所事務官,大卒程度区分)の合格者決定方法によれば,基礎能力試験,専門試験,論文試験及び人物試験の配点比率は,それぞれ1.25,1.25,0.5及び2である。人物試験は配点比率の合計5のうち2,すなわち40%を占める。
人物試験はAからDまでの四段階で評価され,最終合格者は人物試験がAからCまでの者から決定される。司法試験の学習経験があっても,法律知識を示すだけでは足りず,人物試験への独立した準備が必要である。
2 最終合格と採用は同じではないこと
裁判所の受験から採用までの流れによれば,最終合格者は採用候補者名簿に高点順に記載されるが,名簿の有効期間内に推薦又は採用されない場合もある。各裁判所は推薦を受けた者に採用諾否の意向照会を行い,場合によっては面接も行う。
したがって,人物試験だけを通過すればよいのではなく,面接カード,勤務希望地等調査票,人物試験及び最終合格後の意向照会を通じて,事実と意思について一貫した説明をする必要がある。
年度別の受験者数,合格者数等は,裁判所職員採用試験に関する各種データに掲載している。
第3 現在の面接カードと勤務希望地等調査票
1 面接カードの六項目
最高裁判所の令和8年度裁判所職員採用試験インターネット申込操作マニュアル37頁に掲載された一般職試験の人物試験受験票兼面接カードには,次の入力項目がある。
① 裁判所職員を志望した動機(200字)
② 趣味・特技(好きなスポーツなど)(30字)
③ これまで加入したクラブ活動・サークル活動等の集団活動(30字)
④ 個人として力を入れて取り組んできた活動や経験(300字)
⑤ 目標達成に向けて周囲と協力して取り組んだ活動や経験(300字)
⑥ 自己PR(長所など)(300字)
同マニュアルでは入力画面の制限時間が30分とされている。また,裁判所のインターネット申込みの説明によれば,登録完了後は入力内容を修正できない。
そこで,入力前に,個人で取り組んだ経験とチームで取り組んだ経験を明確に分け,それぞれについて課題,自分の行動,周囲との関係,結果及び学びを説明できるようにしておく必要がある。自己PRも,抽象的な長所だけでなく,その長所が現れた具体的事実と結び付けるべきである。
2 勤務希望地等調査票には司法試験の欄があること
同マニュアル44頁の勤務希望地等調査票には,就職活動等の状況として「司法試験」の欄がある。司法試験受験の事実を面接でどう言い換えるかではなく,面接カード,勤務希望地等調査票及びその後の採用手続で矛盾しない説明を準備することが重要である。
もっとも,この調査票があることだけから,人物試験の全回答がその後の採用担当者にどの範囲で共有されるかまでは分からない。公開資料から確認できない情報共有の有無を前提にして,回答を変えるべきではない。
第4 司法試験との関係を問われた場合の答え方
1 裁判所職員が第一志望である場合
司法試験を受けた経緯を否定する必要はない。法律学習を通じて裁判手続又は裁判所組織に関心を持った経緯と,個別事件の代理人ではなく,裁判の適正かつ迅速な運営を組織の内部から支える職務を選ぶ理由とを,自分の経験に即して説明すべきである。
「法律知識を使えるから」という理由だけでは,裁判所事務官と法曹との違いを説明できない。裁判部と事務局の双方に配置され得ること,正確な事務処理,利用者対応及び組織的な協働を含む職務であることまで理解しておく必要がある。
2 進路を決め切れていない場合
進路未定であることを隠すのではなく,現時点の考えと判断時期を具体化すべきである。例えば,司法試験の合否,司法修習に進む場合の時期,裁判所からの採用提示及び勤務開始時期を踏まえ,いつまでに意思を決めるのかを説明する方法がある。
「どちらにも魅力がある」だけでは,採用された場合に勤務する意思の程度が分からない。裁判所職員として働く可能性をどの程度具体的に考えているのか,判断を左右する条件は何かまで説明できるようにする必要がある。
3 法曹への進路が第一志望である場合
法曹への進路が第一志望である者が,裁判所を第一志望であると装うべきではない。裁判所職員も現実の選択肢であるならば,その理由,採用を受ける条件及び意思決定の時期を率直に説明すべきである。
例えば,「司法試験に不合格なら裁判所に行く」という結論だけでは,裁判所職員の職務を選ぶ積極的な理由が示されない。裁判所の仕事を理解した上で,なぜその仕事を担いたいのかを別に説明する必要がある。
4 準備しておくべき確認事項
次の事項は,裁判所が公表した質問集ではなく,現行の面接カード,勤務希望地等調査票,職務説明及び採用手続から導いた準備事項である。
① 司法試験を受けた目的と,現在の進路選択はどのようにつながっているか
② 法曹ではなく,又は法曹に加えて,裁判所事務官を志望する理由は何か
③ 法律学習の経験を,正確な事務,利用者対応又はチームでの協働にどう活かせるか
④ 採用された場合に勤務できる時期と勤務地はどこか
⑤ 司法試験に合格した場合,司法修習との関係をいつ決めるか
⑥ 将来,裁判所書記官を目指す場合でも,まず裁判所事務官として担う職務を理解しているか
⑦ 個人で取り組んだ経験と,周囲と協力した経験を,別の具体例で説明できるか
第5 志望動機の前提となる職務理解
1 裁判所事務官と裁判所書記官を区別すること
裁判所の職種紹介によれば,裁判所事務官は,裁判部では裁判所書記官の下で各種の裁判事務に従事し,事務局では総務,人事,会計等の事務全般に従事する。
これに対し,裁判所書記官は,法律専門職として固有の権限を有し,法廷立会,調書作成,法令・判例の調査,訴訟関係者との打合せ等を行う。司法試験受験生は,法律知識を使う仕事という抽象的な説明にとどまらず,採用時の官職である裁判所事務官と,将来目指し得る裁判所書記官とを区別して志望動機を作る必要がある。
2 司法試験の学習経験をどう結び付けるか
法律学習の経験は,条文や判例の知識量だけでなく,事実と評価を分ける力,期限内に大量の情報を整理する力,異なる見解を踏まえて結論を説明する力として示すことができる。
もっとも,裁判所の仕事は個人の法律知識だけで完結しない。正確な事務処理,裁判所利用者への対応,他職種との連携及び組織の一員としての協働に,その経験をどう活かすのかを具体化すべきである。
福嶋祐「裁判所書記官という仕事――ある裁判所書記官の選択と機会」は,法科大学院修了後に司法試験に合格した著者の進路を通じ,裁判部と司法行政部門の仕事,書記官への進路及びチームで事件を検討する実務を紹介しており,職務理解を深める参考になる。ただし,同稿は面接の評価基準ではない。
第6 過去の体験談を読む際の注意点
1 平成27年の面接体験記は現行の基準ではないこと
旧記事が長く引用していた平成27年の個人ブログは,司法試験受験生が裁判所職員の面接を受けた一例としては参考になる。しかし,記憶に基づく一受験者の体験談であり,現在の質問,面接官の構成,情報共有の範囲又は模範回答を示す資料ではない。
同記事にある「圧迫面接でストレス耐性を確認する」,「主査は裁判官である」,「司法試験受験生の流入で難易度が上がった」といった記述は,本人の推測又は伝聞を含むため,一般的な面接対策の前提にはできない。
2 「三振」及び年齢に関する古い情報に注意すること
旧記事が引用していた平成31年の個人体験記は,複数回の司法試験不合格後に裁判所事務官として採用された個人の経過である。しかし,その記述にある「三振」又は当時の年齢に関する説明を,現在の制度として用いることはできない。
法務省の令和8年司法試験に関するQ&Aによれば,法科大学院修了又は予備試験合格による受験期間は,受験資格を取得した日後の最初の4月1日から5年間である。また,平成26年の司法試験法改正により,この期間内の受験回数制限は廃止された。
裁判所職員採用一般職試験の受験資格も年度ごとに生年月日で定められる。受験年度の試験概要と受験案内を確認すべきであり,「29歳まで」といった過年度の表現だけで判断してはならない。
3 後に進路が変わった事例との区別
第198回国会参議院文教科学委員会会議録の参考人発言には,裁判所事務官及び裁判所書記官として勤務しながら夜間の法科大学院で学び,司法試験合格後に退職した旨の職歴が記録されている。
この例は,採用後に学修を続け,後に進路を変更した経歴が実在することを示すにとどまる。将来の意思変更があり得ることは,面接時に現在の意思と異なることを述べてよい理由にはならない。
裁判所職員に関するその他の記事は,裁判所職員に関する記事の一覧に掲載している。
第7 出典・参考資料
1 裁判所及び法務省の公表資料
① 最高裁判所「令和8年度裁判所職員採用試験受験案内」
② 最高裁判所「裁判所職員採用一般職試験(裁判所事務官,大卒程度区分)」
③ 最高裁判所「裁判所職員採用一般職試験(裁判所事務官,大卒程度区分)の合格者決定方法」
④ 最高裁判所「採用Q&A」
⑤ 最高裁判所「受験から採用までの流れ」
⑥ 最高裁判所「裁判所の仕事について」
⑦ 最高裁判所「インターネット申込みの説明」
⑧ 最高裁判所「令和8年度裁判所職員採用試験インターネット申込操作マニュアル」37頁,44頁
⑨ 法務省「令和8年司法試験に関するQ&A」
⑩ 法務省「司法試験法の一部改正等について」
2 文献及び個人の体験記等
① 福嶋祐「裁判所書記官という仕事――ある裁判所書記官の選択と機会」『法学部発,活躍の場―法学セミナーe-Book No.29』(日本評論社,令和4年,弁護士ドットコムライブラリー版表示24頁~27頁)。元掲載誌は『法学セミナー』令和4年3月号(通巻806号)である。日本評論社の商品ページ
② ダーレム「追記 司法試験受験生による公務員試験対策【裁判所職員 一般職】」(平成27年8月28日付)
③ 加藤大貴「僕が国家公務員を辞めて『成年後見』分野に飛び込む理由」(平成31年3月26日付)
④ 第198回国会参議院文教科学委員会第11号,内山宙参考人発言(発言番号187)(令和元年5月23日)