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労働安全衛生法の概要,労働時間の状況把握及び令和7年改正(AIリライト)

第1 この記事の対象及び労働安全衛生法の目的

1 この記事の対象

この記事は,令和8年9月2日現在の法令及び厚生労働省の公表資料に基づき,労働安全衛生法の目的と主な規制,労働時間の状況の把握,第14次労働災害防止計画及び令和7年改正の施行状況を整理するものである。
安全管理者,衛生管理者,産業医,健康診断及び残業代の個別論点は,後掲の関連記事で詳しく取り扱う。

2 法律の目的

労働安全衛生法1条は,労働基準法と相まって,労働災害防止のための危害防止基準の確立,責任体制の明確化及び自主的活動の促進等により,職場における労働者の安全と健康を確保し,快適な職場環境の形成を促進することを目的としている。
労働災害が発生した後の補償だけでなく,危険又は健康障害を発生させないための管理体制及び具体的措置を定める法律である。

3 主な規制分野

労働安全衛生法が定める主な事項は,次のとおりである。
①事業場の規模及び業種に応じた安全衛生管理体制並びに安全委員会及び衛生委員会の設置である。
②機械,爆発性物質,電気,作業方法等による危険及び原材料,ガス,粉じん,騒音,振動等による健康障害を防止する措置である。
③雇入れ時等の安全衛生教育及び一定の危険又は有害な業務についての就業制限である。
④作業環境測定,健康診断,長時間労働者に対する面接指導その他の健康確保措置である。
⑤国が重点的に取り組む事項を定める労働災害防止計画である。

第2 事業者及び注文者等の責務

1 事業者の責務

労働安全衛生法3条1項は,事業者に対し,法令上の最低基準を守るだけでなく,快適な職場環境の実現及び労働条件の改善を通じて,労働者の安全と健康を確保するよう求めている。
個別の義務は事業場の業種,規模,設備及び作業内容によって異なるため,法律だけでなく,労働安全衛生法施行令及び労働安全衛生規則も確認する必要がある。

2 仕事を他人に請け負わせる者の配慮

令和7年法律第33号による改正後の労働安全衛生法3条3項は,建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者に対し,施工方法,作業方法,工期,納期等について,安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないよう配慮することを求めている。
令和7年改正により,令和7年5月14日から,この配慮規定が建設工事以外の仕事を他人に請け負わせる者にも広く適用されることが明確化された。

3 安全衛生管理体制

総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者,産業医,安全衛生推進者及び衛生推進者の選任要件は,職種ごとに対象業種,事業場の労働者数,資格,専任又は専属の要否及び職務が異なる。
これらの詳細は,総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医並びに安全衛生推進者及び衛生推進者を参照されたい。

第3 労働時間の状況の把握義務

1 把握義務の目的及び対象者

平成31年4月1日以降,事業者は,長時間労働者に対する医師の面接指導等を適切に実施するため,労働安全衛生法66条の8の3及び労働安全衛生規則52条の7の3に基づき,労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。
ここでいう労働時間の状況の把握は,労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間,労務を提供し得る状態にあったかを健康確保の観点から把握するものである。

厚生労働省の働き方改革関連法に関するパンフレット6頁~7頁によれば,対象には,管理監督者,事業場外労働のみなし労働時間制の適用者及び裁量労働制の適用者も含まれる。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者は労働安全衛生法66条の8の3の対象外であるが,別に健康管理時間を把握する制度が設けられている。

2 把握方法及び記録の保存

労働安全衛生規則52条の7の3は,タイムカードによる記録,パソコン等の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法によって把握し,その記録を作成して3年間保存するための措置を講ずるよう定めている。
厚生労働省の平成30年12月28日付け基発1228第16号8頁~11頁は,客観的な方法による把握がやむを得ず困難な場合に自己申告を用いるときは,労働者への説明,必要に応じた実態調査及び補正並びに適正な申告を阻害する措置の禁止等が必要であると説明している。

直行直帰であることだけから,客観的な方法による把握が困難であるとはいえない。
社内システムへのアクセス時刻その他の客観的な記録を利用できる場合は,その記録を踏まえて労働時間の状況を把握する必要がある。

3 労働基準法上の労働時間との違い

労働安全衛生法上の労働時間の状況は,健康確保措置を実施するための把握対象であるのに対し,労働基準法上の労働時間は,使用者の指揮命令下に置かれている時間として,割増賃金等の計算の基礎となる。
管理監督者又は事業場外労働のみなし労働時間制の適用者が労働安全衛生法上の把握対象に含まれることは,その者のすべての時間が労働基準法上の労働時間になることを意味しない。

最高裁平成26年1月24日第二小法廷判決(平成24年(受)第1475号,裁判集民事246号1頁)は,募集型企画旅行の添乗員について,旅行日程,業務上の指示,携帯電話による連絡及び添乗日報等により勤務状況を具体的に把握できたことから,労働基準法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした。
これは事業場外で働けば当然にみなし労働時間制が適用されるわけではないことを示す事例判決である。

最高裁令和6年4月16日第三小法廷判決(令和5年(受)第365号)は,外国人技能実習の監理団体の指導員について,業務日報の正確性及び具体的な指示・報告の状況等を十分に検討しないまま「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした原審判断を違法として,原判決の一部を破棄し,福岡高等裁判所に差し戻した。
最高裁が同制度の適用を確定した判決ではない。

差戻審である福岡高裁令和7年8月28日判決(令和6年(ネ)第403号)は,業務日報等から具体的な勤務状況を把握できなかったと認められる外勤日について同制度の適用を認めた一方,業務の遂行態様が異なる日については別に判断した。
事業場外みなし制の適否は,業務の性質,使用者の具体的な指示,報告方法及び客観的記録等に即して判断されるため,詳細は時間外労働,休日労働及び深夜労働並びに残業代請求を参照されたい。

第4 労働災害防止計画

1 法律上の根拠

労働安全衛生法6条は,厚生労働大臣が,労働政策審議会の意見を聴いて,労働災害防止計画を策定するものと定めている。
同法8条は,厚生労働大臣が同計画を策定したときは,遅滞なく公表するものと定めている。

2 第14次労働災害防止計画

現行の計画は,令和5年4月1日から令和10年3月31日までを計画期間とする第14次労働災害防止計画である。
厚生労働省は,同計画を令和5年3月8日に策定し,同月27日に公示した。

第13次労働災害防止計画は,平成30年4月から令和5年3月までを計画期間とした過去の計画である。
現在の政策目標又は重点事項を確認するときは,第14次計画及びその後に公表された関連資料を参照する必要がある。

第5 令和7年改正及び近時の施行事項

1 令和7年法律第33号の概要

労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)は,令和7年5月14日に公布された。
改正の柱は,①個人事業者等に対する安全衛生対策,②職場のメンタルヘルス対策,③化学物質による健康障害防止,④機械等による労働災害防止及び⑤高年齢労働者の労働災害防止である。

改正規定は,公布日,令和8年1月1日,同年4月1日,同年10月1日,令和9年1月1日,同年4月1日その他政令で定める日に分けて施行される。
令和8年9月2日現在,公布日,令和8年1月1日及び同年4月1日施行分は施行済みであり,同年10月1日以後の施行分は未施行である。

2 小規模事業場のストレスチェック

令和7年改正法は,常時使用する労働者が50人未満の事業場についても,ストレスチェックの実施を義務とする。
その施行日は令和10年4月1日であり,同日前は50人未満の事業場について現行の努力義務が続く。

ストレスチェックの実施方法,結果の取扱い及び面接指導は,労働者のプライバシーに関わる別個の制度である。
施行準備については,厚生労働省のストレスチェック制度に関するページ及び最新のマニュアルを確認する必要がある。

3 熱中症を生ずるおそれのある作業への対応

令和7年6月1日施行の労働安全衛生規則612条の2は,熱中症を生ずるおそれのある作業について,熱中症の自覚症状がある者又は熱中症のおそれがある者を把握した者が報告するための体制を整備し,関係作業者に周知することを事業者に求めている。
事業者は,作業からの離脱,身体の冷却,医師の診察又は処置,緊急連絡網その他の必要な措置の内容及び実施手順もあらかじめ定め,関係作業者に周知しなければならない。

対象となる作業の判断及び手順の作成に当たっては,厚生労働省の令和7年5月20日付け基発0520第6号その他の最新資料を確認する必要がある。

第6 関連記事

労働安全衛生法及び関連する労働法令の個別論点については,次の記事も参照されたい。
労働基準法に関するメモ書き(AIリライト)は,労働条件,賃金,解雇及び労働関係記録等を取り扱う。
総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医並びに安全衛生推進者及び衛生推進者は,安全衛生管理体制の選任要件を取り扱う。
従業員の健康診断は,一般健康診断及び健康診断後の措置等を取り扱う。
時間外労働,休日労働及び深夜労働並びに残業代請求は,労働基準法上の労働時間,割増賃金及び残業代請求を取り扱う。

第7 出典・参考資料

1 法令

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)1条,3条,6条,8条及び66条の8の3である。
労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)52条の7の3及び612条の2である。

2 所管行政機関の解説・運用資料

①厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から『産業医・産業保健機能』と『長時間労働者に対する面接指導等』が強化されます」6頁~7頁である。
②厚生労働省労働基準局長「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」(平成30年12月28日付け基発1228第16号)8頁~11頁である。
③厚生労働省「労働災害防止計画について」及び第14次労働災害防止計画である。
④厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」である。
⑤厚生労働省労働基準局長「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について」(令和7年5月14日付け基発0514第1号)である。
⑥厚生労働省労働基準局長「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」(令和7年5月20日付け基発0520第6号)である。

3 裁判例

最高裁平成26年1月24日第二小法廷判決(平成24年(受)第1475号,裁判集民事246号1頁)である。
最高裁令和6年4月16日第三小法廷判決(令和5年(受)第365号)である。
福岡高裁令和7年8月28日判決(令和6年(ネ)第403号)である。