メインコンテンツへスキップ
       

日弁連最高裁判所裁判官推薦諮問委員会の仕組みと推薦手続(AIリライト)

第1 日弁連の推薦と内閣の任命権

日弁連最高裁判所裁判官推薦諮問委員会は,日弁連が最高裁判所裁判官候補者を推薦する場合に,日弁連会長の諮問を受け,候補者を審査して答申する日弁連内部の委員会である。

日本国憲法79条1項は,長官以外の最高裁判所裁判官を内閣が任命すると定めている。また,裁判所法39条は,最高裁判所判事を内閣が任命し,その任免を天皇が認証すると定めている。

したがって,日弁連の推薦は法令上の任命手続ではなく,内閣の任命判断を法的に拘束するものでもない。最高裁判所判事には,任命実務上,裁判官,検察官,弁護士,行政官,外交官及び法学者等の出身分野を考慮する慣行があるが,いわゆる「弁護士枠」は法律上の固定枠ではない。本記事では,この人事慣行上の区分を「弁護士出身者のポスト」と表記する。

公表資料から確認できる流れは,委員会が日弁連会長へ答申し,日弁連会長が最高裁判所長官側へ候補者を推薦し,最高裁判所側の人選を経て内閣が任命を決定するというものである。日弁連の答申,最高裁判所側の候補者選定及び内閣の任命は,それぞれ別の段階である。

第2 候補者推薦の手続

1 委員会への諮問

日本弁護士連合会が推薦する最高裁判所裁判官候補者の選考に関する運用基準2条は,日弁連が最高裁判所裁判官候補者を推薦する場合,日弁連会長があらかじめ委員会へ諮問することができると定めている。

同条は諮問を法的義務とはしていないが,日弁連の年度別会務報告書では,委員会による候補者募集,面接,審議及び答申を経た推薦が繰り返し報告されている。

2 第一次推薦と50人要件

運用基準3条によれば,委員会は,日弁連会員及び弁護士会に候補者の第一次推薦を依頼する。会員又は弁護士会は,委員会へ直接,又は所属地域の弁護士会連合会を通じて候補者を推薦でき,弁護士会連合会は意見を付して取り次ぐことができる。

弁護士会による推薦を除き,個人を推薦するには50人以上の日弁連会員の推薦が必要である。これは日弁連段階の要件であり,各弁護士会が内部手続として設ける推薦人の人数又は公募方法とは区別する必要がある。

3 推薦基準

運用基準4条は,委員会が選考の都度,推薦基準を定めて会員へ公表すると定めている。

令和6年9月4日に決定された選考基準は,①憲法の理念を踏まえ,広く国民的視野に立つ高い識見と人格,②弁護士実務及び弁護士会活動等により培われた市民感覚,人権感覚及び司法改革への熱意,③学識,洞察力,説得的な議論能力及び少数意見を含めて積極的に意見を表明する姿勢を主要な柱としていた。

もっとも,推薦基準は恒久的に同一の文言で固定されたものではない。具体的な選考では,当該時点に公表された基準を確認する必要がある。

4 面接,適正人数,順位及び答申

運用基準5条によれば,委員会は第一次推薦候補者に出席を求めて質問し,必要な資料を会員及び弁護士会に求めることができる。年度別会務報告書でも,推薦を受けた候補者全員を面接した例が複数確認できる。

運用基準6条は,委員会が第一次推薦候補者の中から,日弁連が推薦するにふさわしい適正な人数の候補者とその順位を選考し,日弁連会長への答申内容を議決すると定めている。したがって,委員会が候補者に順位を付けることは推測ではなく,現行規程に明記された制度である。

日弁連会長は答申を受けて最高裁判所長官側へ候補者を推薦する。ただし,日弁連の順位が最高裁判所側又は内閣の選考でどのように扱われるかは,公表資料からは確認できない。

第3 委員会の構成と非公開性

1 委員の構成

令和8年8月8日に日弁連会員用サイトで確認した現行の設置要綱によれば,委員会は17人以内で構成される。

委員は,東京三弁護士会,大阪弁護士会及び全国8弁護士会連合会から各1人の推薦者,日弁連会長,直前会長,事務総長並びに会長が指名する2人以内の者である。女性委員が3人以上となるよう努めるものとされ,委員長は日弁連会長が務める。委員の任期は原則として毎年4月1日から1年間である。

平成14年に政府の検討会へ提出された資料には15人構成が記載されているが,これは当時の制度である。現行制度の説明に用いる場合は,その後の改正を反映した17人以内という構成へ更新する必要がある。

2 会議,議決及び守秘義務

現行の設置要綱によれば,定足数は委員の3分の2であり,議決は原則として秘密投票による。全員一致の場合には,秘密投票以外の方法を採ることができる。

委員会の会議は非公開であり,議事録が作成・保存される。委員には,退任後も継続する守秘義務がある。

そのため,公表資料から確認できるのは,制度,日程,面接人数,推薦人数及び任命後に公表された事項等に限られる。候補者全員の氏名,順位,個人別評価又は具体的な審議内容を推測で補うべきではない。

第4 理事会報告と任命後の公表

1 運用基準7条による報告

運用基準7条1項によれば,日弁連会長は推薦手続の完了後,推薦した候補者の氏名並びに審議の経過及び内容を理事会へ報告する。

同条2項によれば,日弁連は,推薦した候補者が任命された後,その氏名と推薦理由を会員へ公表する。これは,候補者全員,順位又は個人別評価を一般公衆へ公表する規定ではない。

2 理事会議事録の閲覧又は謄写

日本弁護士連合会議事規程59条4項は,会長が,理事会の議事録又はその概要の閲覧又は謄写を求められた場合,これを許可することができると定めている。

同項は請求者を日弁連会員に限定しておらず,対象も議事録だけでなくその概要を含む。また,許可することが「できる」と定める裁量規定であり,当然の閲覧又は謄写請求権を定めたものではない。

今回確認した公開規程及び会員用サイトでは,一般的な許可判断基準までは確認できなかった。また,この規定から,非公開である委員会の候補者順位又は個人別評価を当然に閲覧できるとはいえない。

第5 公表資料に現れた運用例

1 平成30年度及び令和2年度

平成30年度の日弁連会務報告書63頁によれば,一つの後任人事について第一次推薦候補者15人全員を面接し,11人を日弁連推薦候補者として選考した。

令和2年度の日弁連会務報告書58頁によれば,二つの後任人事について推薦された14人全員を面接し,10人を選考した上で,令和3年2月に日弁連会長が最高裁判所長官へ推薦した。

これらの例は,日弁連が1人だけを推薦する制度ではなく,複数の候補者を選考して推薦する実務があることを示している。

2 令和5年度から令和7年度まで

令和4年度及び令和5年度の会務報告書によれば,令和4年6月に候補者の第一次推薦を依頼し,推薦された7人全員を令和5年3月に面接・審議した。日弁連会長が同年4月に最高裁判所長官へ推薦した後,宮川美津子判事が同年11月6日に任命された。

令和6年度の会務報告書53頁によれば,令和6年9月に面接・審議を行い,同年10月に日弁連会長が最高裁判所長官へ推薦した。その後,高須順一判事が令和7年3月27日に任命された。

令和7年度の会務報告書60頁によれば,令和7年7月に面接・審議を行い,日弁連会長が最高裁判所長官へ推薦した。その後,阿多博文判事が令和8年2月2日に任命された。

これらは,任命された者が日弁連の推薦候補者に含まれていたことを示す。しかし,日弁連内部の順位,最高裁判所側の絞込み又は内閣による比較判断までは明らかにしない。

3 令和8年度の予定

令和7年度の日弁連会務報告書60頁は,令和10年12月まで弁護士出身判事の定年退官がないため,令和8年度には委員会の開催予定がないとしている。

これは令和8年8月8日時点の会務上の見通しであり,将来の辞任その他の事情により変わる可能性がある。

第6 委員会の沿革

1 昭和48年の設置

平成14年11月12日に政府の法曹制度検討会へ提出された日弁連資料によれば,日弁連最高裁判所裁判官推薦諮問委員会は,昭和48年7月21日の理事会議決により設置された。

設置前は,歴代会長経験者による顧問会議の意見を聴いて会長が推薦候補者を決めていた。委員会の設置は,全国的に候補者を求め,基準に従って審査し,その結果を会長へ答申する仕組みへ移行する意味を持った。

学術研究は,日弁連が組織として候補者を推薦した最初の確認例を昭和32年としている。これは新聞資料及び団体史等による歴史的な復元であり,現行規程の根拠とは区別して扱う必要がある。

2 全国化と個人推薦

平成3年には,最高裁判所裁判官の選考をより開かれた民主的なものとする方針が決議され,平成5年以降,全国の弁護士会から直接候補者を推薦できる仕組みが整えられたと報告されている。

平成21年11月17日に現行運用基準の基礎となる規程が制定され,平成22年4月1日から,50人以上の日弁連会員による個人推薦の仕組みが施行された。

3 日弁連推薦が採用されなかったと報告される歴史的事例

佐藤駿丞による昭和44年1月から昭和54年3月までの28件を対象とした研究は,日弁連の意向に反する任命を3件確認したと報告している。具体的には,弁護士出身者の後任に検察官出身者が任命された例,日弁連推薦名簿にない弁護士が任命された例及び日弁連が推薦していない弁護士が任命された例である。

もっとも,これは特定期間の新聞記事,回想及び団体史等を用いた歴史研究の結論であり,現在の人選実務を直接示すものではない。日弁連の推薦及び順位が内閣を法的に拘束しないことを理解するための歴史資料として,対象期間と確認方法を限定して読む必要がある。

第7 山浦善樹判事が記した就任までの経過

山浦善樹判事は,「最高裁判所判事になったマチ弁の随想」一橋法学16巻1号216頁~218頁において,東京弁護士会内の公募を締切直前に知り,同会内で必要であった7人の推薦人を集めて応募し,東京弁護士会の推薦,日弁連の推薦及び閣議決定を経て,平成24年3月1日に就任した経過を記している。

ここでいう7人は,東京弁護士会内の応募手続における推薦人である。日弁連の運用基準3条2項が個人推薦について求める50人以上の日弁連会員とは,制度上の段階が異なる。

この回顧は,一人の候補者が単位弁護士会の公募から任命までに経験した手続と時間経過を知る資料として有用である。他方,候補者全員の氏名,委員会の順位,最高裁判所側の絞込み又は内閣の比較判断を示す資料ではないため,本記事では長文を転載せず,確認できる経過のみを要約した。

第8 公開資料から確認できない部分と関連記事

1 公開資料の限界

現行規程と会務報告書により,第一次推薦,面接,適正人数と順位の選考,日弁連会長による推薦及び任命後の会員向け公表までは確認できる。

これに対し,委員会の非公開審議,候補者全員の順位及び個人別評価,最高裁判所側が候補者を整理する方法並びに内閣の比較判断は,公表資料からは確認できない。確認できない部分を慣行又は推測で補わず,公開された制度と実績の範囲にとどめる必要がある。

2 関連記事

① 弁護士出身の最高裁判所裁判官の氏名の推移

② 最高裁判所が内閣に推薦した最高裁判所裁判官候補者

③ 最高裁判所裁判官の任命に関する各種説明

④ 最高裁判所裁判官の任命諮問制度に関する歴史資料

第9 出典・参考資料

1 法令及び現行規程

① 日本国憲法79条1項(e-Gov法令検索)

② 裁判所法39条,41条及び50条(e-Gov法令検索)

③ 日本弁護士連合会が推薦する最高裁判所裁判官候補者の選考に関する運用基準(令和8年8月8日確認)

④ 日本弁護士連合会議事規程59条(令和8年8月8日確認)

⑤ 日弁連「最高裁判所裁判官推薦諮問委員会設置要綱」(日弁連会員用サイト,令和8年8月8日原頁確認)

⑥ 日弁連最高裁判所裁判官推薦諮問委員会「最高裁判所裁判官候補者選考に当たっての基準」(令和6年9月4日決定,日弁連会員用サイトで令和8年8月8日原頁確認)

2 政府資料,国会会議録及び会務報告書

① 司法制度改革推進本部法曹制度検討会第12回資料5(平成14年11月12日)

② 衆議院法務委員会平成16年3月25日会議録

③ 衆議院法務委員会平成29年3月31日会議録

④ 日弁連「平成30年度の日弁連の会務報告書」63頁,「令和2年度の日弁連の会務報告書」58頁,「令和4年度の日弁連の会務報告書」59頁,「令和5年度の日弁連の会務報告書」53頁,「令和6年度の日弁連の会務報告書」53頁及び「令和7年度の日弁連の会務報告書」60頁(各原本PDFの該当頁を確認)

3 歴史資料及び文献

① 「日本弁護士連合会による最高裁判所裁判官候補者の推薦方法等について」(司法制度改革推進本部法曹制度検討会第12回配布資料,平成14年11月12日)

② 「日本弁護士連合会最高裁判所裁判官推薦諮問委員会関係資料」(同日配布資料)

③ 佐藤駿丞「内閣は最高裁判所裁判官の指名・任命をめぐる慣行を尊重してきたか」政治経済学研究論集9号(令和3年9月)61頁~82頁

④ 山浦善樹最高裁判所判事になったマチ弁の随想」一橋法学16巻1号(平成29年3月)207頁~239頁