司法修習生の兼業許可の具体的基準を定めた文書は存在しないこと

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兼業許可の具体的基準を定めた文書(=本件開示申出文書1)は存在しないことに関して,平成28年度(最情)答申第3号(平成28年4月14日答申)には以下の記載があります(ナンバリングをしたり,改行部分を増やしたりしています。)。

(1) 最高裁判所事務総長が提出した資料及び最高裁判所の職員の口頭説明の結果によれば,司法研修所においては,修習資金の貸与制の対象である平成25年度以降の司法修習生については,兼業の許可に係る運用を従前より緩和し,申請及び許可の数も増加したものの,各申請に対する許否については,事例ごとに個別に判断しており,許可基準のようなものは作成していないとのことである。
   また,上記資料等によれば,緩和の前提として,政府に設置された法曹養成制度検討会議の最終取りまとめにおいて,法の定める修習専念義務を前提に,その趣旨や司法修習の現状を踏まえ,司法修習生の中立公正性や品位を損なわないなど司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和し,司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めるべきとの提言がされ,平成25年7月16日に開催された法曹養成制度関係閣僚会議において上記提言を是認する内容の決定がされたという状況があったことが認められる。
   司法研修所事務局長が平成25年度以降の司法修習生採用内定者宛てに発出した兼業に関する事務連絡にも,これらの状況について言及されているが,許可にあたっては,「事例ごとに個別具体的な事情を確認する必要があるものの,その業務内容に照らし,休日等に行う限りにおいては,許可しても差し支えない場合が多いと考えられる」とあるだけで,具体的基準は示されていない。
(2)   そこで検討するに,司法修習生は,その修習期間中,その修習に専念しなければならないこととされ(裁判所法67条2項),最高裁判所の許可を受けなければ,他の職業に就き,若しくは財産上の利益を目的とする業務を行うこと,すなわち兼職や兼業をすることができないものとされ(規則2条),修習専念義務が課されている。また,最高裁判所は,司法修習生の行状がその品位を辱めるものと認めるときその他司法修習生について最高裁判所の定める事由があると認めるときは,その司法修習生を罷免することができる(同法68条)とされており,司法修習生には品位保持義務が課されている。
   さらに,司法修習生は,修習にあたって知った秘密を漏らしてはならない(規則3条)とされ,高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えるように努めなければならない(規則4条)とされているから,司法修習生は,その地位の性質上,当然に中立公正性を保持しなければならないということができる。
   そうすると,司法修習生から兼業の許可の申請を受けた最高裁判所としては,司法修習の性質上,その兼業の内容等が,上記のような裁判所法又は規則に定められた修習専念義務,品位保持義務及び中立公正性に抵触しないか否かを判断する必要があるということができ,これらが一種の基準となっていると解することができる一方,それ以上の詳細な具体的な基準を作成することは,兼業許可の制度の運用を硬直化することになりかねないとも考えられる。
   また,最高裁判所の職員の口頭説明の結果によれば,平成25年度の司法修習生及び平成26年度の司法修習生についての兼業許可については,上記の裁判所法又は規則上の義務等を考慮して個別に判断する方法で運用されているところ,その許否の判断は適切に行われていると認められる。
(3)   以上を総合すると,司法修習生の兼業許可については,上記の法令の基準に沿った運用がされていて,具体的な基準の定めはないが,それによって許可の事務に支障は生じていないと認められるから,具体的な基準を定めた文書は作成し,又は取得していないとする最高裁判所事務総長の説明は合理的であるということができる。
   したがって,最高裁判所において,本件開示申出文書1は保有していないものと認められる。