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裁判官人事評価情報の提供方法と人事評価制度(AIリライト)

第1 裁判官人事評価情報の位置付け

1 制度の目的

裁判官人事評価情報の提供とは,裁判官の法廷での言動,事件処理,部の運営その他の職務について具体的な事実を知る者が,その裁判官の毎年度の人事評価に用いる情報を裁判所へ提出する制度である。法的根拠は,裁判官の人事評価に関する規則(平成16年最高裁判所規則第1号)3条2項である。

この制度は,裁判の結論を変更するための不服申立手続ではない。判決又は決定の変更を求める場合は,法律が定める上訴その他の手続による必要があり,司法行政上の監督権によって裁判官の裁判権に影響を及ぼし,又はこれを制限することはできない(裁判所法81条)。

2 区別すべき四つの情報経路

裁判官に関する情報収集には,目的と提出先が異なる複数の仕組みがある。本記事では,次の四つを区別する。

情報経路主な目的提出先等裁判所への到達
裁判官の人事評価に関する外部情報毎年度の人事評価対象裁判官の所属裁判所の総務課評価権者が内容を取捨選択して評価資料とすることがある
再任期裁判官に関する情報判事への再任候補者等の指名の適否弁護士会を経由して下級裁判所裁判官指名諮問委員会の地域委員会等再任審査の資料となり得る
弁護士会独自の裁判官アンケート職務情報の集計,会員への情報提供等各弁護士会会ごとの取扱いによる。大阪弁護士会の令和8年資料では,個別情報を裁判所へ届けていない
民間の公開レビュー一般公開又は民間データベースでの情報提供民間の運営者公式人事評価に自動的に用いられることを示す公表資料は確認できない

第2 人事評価の基準日,評価期間及び評価項目

1 基準日と評価期間

最高裁判所の制度概要によれば,人事評価は毎年1回,8月1日を基準日として行われ,原則として前年8月1日から当年7月31日までが評価期間となる。対象は判事,判事補及び簡易裁判所判事である。

2 評価項目

規則3条1項が定める評価項目は,①事件処理能力,②部等を適切に運営する能力,③裁判官として職務を行う上で必要な一般的資質及び能力である。評価は,具体的かつ客観的な事実に基づき,独立,多角的かつ総合的に行うものとされている。

事件処理能力には,法的判断の正確性,法的知識,事実認定能力,手続運用能力,迅速性,法的判断を適切に表現する能力等が含まれる。一般的資質及び能力には,公平さ,廉直さ,責任感,協調性,積極性,自己研さん能力等が含まれるが,個々の裁判の結論の当否を評価する仕組みではない。

3 裁判官の独立との関係

日本国憲法76条3項は,裁判官が良心に従い独立して職権を行い,憲法及び法律にのみ拘束されると定める。裁判所法81条も,司法行政上の監督権によって裁判官の裁判権に影響を及ぼし,又はこれを制限することはできないと定めている。

そのため,個々の裁判結果への不満だけを述べる情報は,人事評価資料として考慮しないと最高裁判所は説明している。他方,審理の準備状況,当事者への応対,期日運営,判断の説明その他の職務遂行に現れた具体的事実は,裁判結果そのものとは区別して情報提供の対象となり得る。

第3 裁判官人事評価情報の提出方法

1 提出先

「裁判官の人事評価に関する規則の運用について」(平成16年3月26日付け最高裁人任E第421号最高裁判所事務総長通達)によれば,外部情報は,対象裁判官が所属する裁判所の総務課で受け付ける。対象裁判官が簡易裁判所に所属する場合は,その所在地を管轄する地方裁判所の総務課が受付先となる。

最高裁判所の現行案内は,郵送する場合に「総務課長親展」とするよう案内している。現行案内には持参による提出が明記されていないため,提出方法に疑問がある場合は,送付前に対象裁判官の所属裁判所の総務課へ確認するのが確実である。

2 書面に記載する事項

外部情報は,原則として,①情報提供者の氏名及び連絡先,②対象裁判官を特定する事項,③評価の根拠となる具体的事実を記載した書面で提出する。情報の的確性を検証できるようにすることが,実名,連絡先及び具体的事実を求める理由である。

具体的事実を記載する際は,裁判所名,担当部,時期,情報提供者がその事実を知った立場,問題となる言動又は事件処理の内容を,評価語だけでなく検証可能な形で示すことが望ましい。ただし,事件番号その他の記載方法は,公表された規則が一律の必須項目として定めているものではない。

3 提出時期

最高裁判所の現行案内は,特定の受付期間を設けていない。東京弁護士会は,毎年8月1日の評価基準日に合わせ,例年6月頃に人事評価権者へ提出すると説明しているが,これは同会が会員から取りまとめる場合の運用であり,全国の弁護士会について一律に6月末が締切りであることを示すものではない。

4 人事評価資料とならない情報

個々の裁判の結論の当否を問題とする情報は,裁判官の独立への影響が懸念されるため,人事評価資料として考慮できないとされている。また,提供者又は具体的事実が明らかでなく,内容の的確性を検証できない情報は,評価資料として用いることが困難である。

裁判所の事務の取扱方法に対する司法行政上の不服については,裁判所法82条に基づく監督権の発動を求める申出という別の仕組みがある。本ブログの裁判所法82条に基づく不服の処理状況も参照されたい。

第4 評価権者

1 原則

判事及び判事補の人事評価は,原則として所属裁判所の長が行う。簡易裁判所判事の人事評価は,その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所長が行う。

地方裁判所長又は家庭裁判所長が行った評価については,その所在地を管轄する高等裁判所長官が調整及び補充を行う。複数の裁判所に補職されている場合,評価期間中に異動した場合その他の事情があるときは,規則及び通達が評価権者又は資料の引継ぎについて特則を置いている。

2 規則2条3項に基づく主な特則

主な特則は,次のとおりである。すべての兼務・異動事例を網羅するものではないため,個別の評価権者は最高裁人任E第421号通達で確認する必要がある。

評価対象裁判官評価権者
地方裁判所長又は家庭裁判所長管轄高等裁判所長官
最高裁判所事務総局の事務次長,審議官又は局課長最高裁判所事務総長
最高裁判所事務総局の各局課に勤務する裁判官(局課長を除く。)勤務する局課の局課長
最高裁判所の裁判所調査官(首席調査官を除く。)最高裁判所首席調査官
司法研修所又は裁判所職員総合研修所に勤務する裁判官(各研修所長を除く。)勤務する研修所の所長

第5 裁判官第三カード,面談及び評価書

1 裁判官第三カード

評価対象裁判官は,評価権者が指定する期限までに,担当した職務の状況に関する書面を提出する。この書面が裁判官第三カードであり,自己の職務に関する客観的事実,関連する状況及びそれらに対する所感等を記載する。

裁判官第三カードは,評価権者が作成する評価書そのものではない。裁判官第一カード,裁判官第二カード及び裁判官第三カードでは,三つのカードの目的,作成者及び記載事項の違いを整理している。

2 人事評価のための面談

評価権者は,評価書を作成する前に,裁判官第三カードその他の情報を踏まえて評価対象裁判官と面談する。評価権者が対象人数等のため自ら面談することが困難な場合は,通達が定める裁判官に面談を代行させることができる。

3 評価書

評価書は,事件処理能力,部等を適切に運営する能力及び一般的資質・能力の各項目について,具体的事実を踏まえた文章で作成される。評語を選択する段階評価や,裁判官相互の順位付けを行う方式ではない。

第6 評価書の開示,不服申出及び保存

1 評価書の開示

評価対象裁判官は,毎年定められる1週間の申出期間内に,評価書の開示を申し出ることができる。開示は評価書の写しの交付によって行われる。

開示対象は評価書であり,評価の基礎となった外部情報の書面その他の生の情報が当然に開示される制度ではない。人事評価制度の検討過程でも,評価書の内容を開示することと,基礎情報を開示することは区別されていた。

2 不服申出

評価書の開示を受けた裁判官は,開示日から1週間以内に,理由を記載した書面で評価権者へ不服を申し出ることができる。評価権者は必要な調査をして評価を再検討し,評価を変更する場合は変更後の評価書の写しを交付し,変更しない場合はその旨を通知する。

3 評価書等の保存

「裁判官の人事評価に係る評価書の保管等について」(平成16年3月26日付け最高裁人任E第424号最高裁判所事務総局人事局長通達)によれば,評価権者が保管する評価書の写し,裁判官第三カード及びその添付書面は,原則として当該評価年度の翌年度の初日から10年間保存し,その後速やかに廃棄する。

また,評価対象裁判官が高等裁判所長官に任命された場合,退官した場合又は検察官等へ転官した場合にも,通達所定の時点で速やかに廃棄する。したがって,保存期間を一律に「作成日から10年」と説明するのは正確でない。

第7 情報提供者の氏名と事実確認

1 氏名を評価書に記載しない運用

東京弁護士会の公表資料は,情報提供者の氏名を対象裁判官に明らかにしない運用が採られていると説明している。また,裁判所の人事に関与した経験者への同会の聞き取りでは,情報源が分かるような記載を評価書にはしないとの説明がされている。

もっとも,公開されている規則本文は,情報提供者の氏名があらゆる場面で絶対に判明しないことまで保証していない。人事評価研究会報告書は,評価の基礎とする重要な事実関係を評価対象裁判官に確認する必要があるとしており,具体的事実の内容から情報提供者が推知される可能性も否定できない。

2 評価権者による取捨選択

外部から情報が提供されても,その内容がそのまま評価書へ転記されるわけではない。評価権者は,具体性,客観性,情報提供者の立場,確認できる事実関係,裁判官の独立への影響等を考慮して情報を取捨選択する。

人事評価制度の検討過程では,弁護士会等が組織的に行うアンケートを当然の評価資料とすることについて,回答者の偏り,人気投票化,裁判官の独立への影響及び実施可能性が問題とされた。他方,自発的に寄せられた外部情報は一律に排除せず,評価権者が適切に判断する制度が採用された。

第8 弁護士会アンケートとの違い

1 東京弁護士会の令和6年アンケート

東京弁護士会は,令和6年5月に裁判官の職務情報に関するウェブアンケートを独自に実施し,46件の情報が寄せられたとLIBRA令和7年4月号で報告した。指摘が多かった問題行動は,不公平又は高圧的な訴訟指揮,不適切な心証開示及び準備不足であり,望ましい資質としては,当事者の主張を聞く姿勢,多角的で柔軟な検討及び公平な取扱いが多く挙げられた。

同資料は,この独自アンケートと,①再任期裁判官に関する情報提供,②裁判官の人事評価に関する情報提供とを別制度として説明している。独自アンケートの結果は当時会内だけで利用され,裁判所への提供や会員向けウェブ閲覧は今後の検討事項とされていた。

2 大阪弁護士会の第10回集計

大阪弁護士会の令和8年7月号「裁判官評価情報の『集計と分析』10」は,令和7年4月1日から令和8年3月31日までに158通の回答があり,内訳は民事115通,家事14通,刑事29通であったと報告している。

同資料は,同会へ投稿された個別の評価情報は裁判所へ届けていないと明記し,公式の人事評価情報及び再任審査情報とは別の仕組みであると説明している。また,民事・家事担当裁判官84人のうち,2通以上の回答があった裁判官は29人であり,個々の裁判官の評価を分析するには回答母数が不足しているとの限界も示している。

令和7年2月1日以降,2通以上の回答がある裁判官について,評価項目ごとの平均点を大阪弁護士会会員及び対象裁判官が閲覧できる取扱いが開始された。この平均点も,同会独自のアンケート結果であり,裁判所が作成する人事評価書とは異なる。

3 民間の公開レビュー

匿名投稿や星の数による民間の公開レビューも,裁判所の人事評価制度とは異なる。公表された資料からは,民間レビューが裁判所の評価資料として自動的に収集され,又は利用される仕組みは確認できない。

裁判官の職務評価では,当事者間に利害対立があること,敗訴結果への不満が投稿に影響し得ること,具体的事実の確認が必要であること及び裁判官の独立への配慮を要することから,一般の店舗レビューと単純に同じものとして扱うことはできない。

第9 開示申出件数と公表資料の限界

1 平成26年度の開示申出

平成27年5月14日の参議院法務委員会における最高裁判所事務総局の答弁によれば,平成26年度の評価書開示申出は217件であり,すべてについて評価書の写しが交付された。この数値は平成26年度の単年度実績であり,現在の申出件数を示すものではない。

2 年度別・下級裁判所別集計文書の不存在

令和7年度(最情)答申第39号は,評価書の開示申出件数を年度別・下級裁判所別に集計した文書を最高裁判所が保有していないとする判断を妥当とした。作成又は取得を義務付ける定めも,作成又は取得する必要もないとされた。

同答申は,制度開始後20年以上が経過しているため,集計文書が一度も作成・取得されなかったのか,過去に作成・取得された後に廃棄されたのかは判然としないとも述べる。文書が保有されていないことは,開示申出又は不服申出が一件もなかったことを意味しない。

第10 人事評価方式の沿革

平成10年までの評価書式には,「事件処理能力」,「指導能力」,「法律知識及び教養」,「健康」,「人物性格の特徴」及び「総合判定」という項目が設けられ,所定の評価文言を選択する方式が用いられていた。

この方式が廃止されたのは,各項目自体が不適切だったからではない。最高裁判所の研究会資料によれば,評価の視点が固定的になり,人物の特徴も平板な記載になりやすかったため,担当事務,経験及び個性に応じて文章で自由に記載する方が,適性等を具体的に把握できると考えられたためである。

平成13年の司法制度改革審議会意見書は,裁判官の人事評価について,評価権者及び評価基準の明確化・透明化,評価内容の本人開示並びに不服申立方法等の整備を提言した。これを受けて規則が制定され,現在の制度は平成16年4月1日に施行された。

第11 関連記事

裁判官の毎年度の人事評価情報と,再任審査のための情報は目的及び提出経路が異なる。裁判官再任評価情報の提供では,下級裁判所裁判官指名諮問委員会に関係する情報提供を扱っている。

裁判官第三カードと,任地・担当事務等の希望を記載する裁判官第二カードは別の人事資料である。三つのカードの根拠通達と記載事項は,裁判官第一カード,裁判官第二カード及び裁判官第三カードで整理している。

出典・参考資料

1 法令・規則・通達

日本国憲法76条3項(e-Gov法令検索)

裁判所法(昭和22年法律第59号)81条・82条(e-Gov法令検索)

③最高裁判所「裁判官の人事評価に関する規則(平成16年最高裁判所規則第1号)

④最高裁判所事務総長「裁判官の人事評価に関する規則の運用について」(平成16年3月26日付け最高裁人任E第421号)

⑤最高裁判所事務総局人事局長「裁判官の人事評価の実施等について」(平成16年3月26日付け最高裁人任E第422号,PDF実頁1頁~8頁)

⑥最高裁判所事務総局人事局長「裁判官の人事評価に係る評価書の保管等について」(平成16年3月26日付け最高裁人任E第424号,PDF実頁1頁~5頁)

2 裁判所公表資料

①最高裁判所「裁判官の新しい人事評価制度の概要について

②裁判官の人事評価の在り方に関する研究会「第4 我が国の裁判官の人事評価の在り方に関する検討

③裁判官の人事評価の在り方に関する研究会「第2 裁判官の人事評価の現状と関連する裁判官人事の概況

④最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「令和7年度(最情)答申第39号」(令和7年10月10日)

3 国会会議録

第163回国会参議院法務委員会第3号(平成17年10月27日,国立国会図書館国会会議録検索システム)

第189回国会参議院法務委員会第11号(平成27年5月14日,国立国会図書館国会会議録検索システム)

4 弁護士会資料

①東京弁護士会「裁判官の職務情報提供推進委員会報告」LIBRA平成28年6月号38頁

②東京弁護士会「特集 ご存知ですか?裁判官の人事評価制度」LIBRA平成30年9月号2頁~19頁

③東京弁護士会裁判官の職務情報提供推進委員会「裁判官の職務情報に関する当会会員に対するアンケート結果をお知らせします。」LIBRA令和7年4月号26頁~27頁

④大阪弁護士会裁判官情報連絡協議会「裁判官評価情報の『集計と分析』10―弁護士が見た裁判官のすがた―」月刊大阪弁護士会令和8年7月号29頁~49頁