裁判官人事評価情報の提供

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目次
1 総論
2 評価権者
3 裁判官第三カード,人事評価のための面談及び評価書
4 裁判官の人事評価に関する国会答弁
5 関連記事その他
   
1 総論
(1) 裁判官「人事」評価情報の提供は,平成16年4月1日施行の裁判官の人事評価に関する規則(平成16年1月7日最高裁規則第1号)3条2項後段に基づく制度であり,所属裁判所の事務局総務課長に対し,郵送(親展表示)又は持参する方法で提出します。
(2)  裁判官「人事」評価情報の提供は,評価権者(例えば,地裁所長)による人事評価のための情報提供ですから,時期を限定せずに一年中受け付けています。
  ただし,裁判官に対する裁判所での人事評価は毎年8月1日を基準日として行われますから,7月頃から評価権者による裁判官の面接が始まります。
  そのため,日弁連では,6月末を集中期間としてこの時期に裁判官人事評価情報を集めて裁判所に提供するように努力しています。
(3) 裁判官の人事評価に関する規則の運用について(平成16年3月26日付の最高裁判所事務総長通達)(規則6条参照)には,「裁判所外部からの情報の把握」として以下の記載があります。
  裁判所外部からの裁判官の人事評価に関する情報については,その裁判官が所属する裁判所(簡易裁判所である場合は,その所在地を管轄する地方裁判所)の総務課において受け付ける。この場合においては,情報の的確性を検証できるようにするという観点から,原則として,当該情報を提供した者の氏名及び連絡先を記載した書面であって具体的な根拠となる事実を記載したものによって,情報の提供を受けるものとする。
(4) 「裁判官の職務情報提供推進委員会報告」(東弁LIBRA2016年6月号)には,以下の記載があります。
   平成24年10月から平成25年9月までの一年間の人事評価の情報提供数は,東京弁護士会で分かった範囲で40件以上,再任適否の職務情報は数件であった。
  訴訟指揮や判決等を通じた法的知識,論点理解力, 審理を運営してゆくためのマネジメント能力,当事者との意思疎通,説得力,柔軟性,法廷における態度などにつき,例えば,訴訟指揮が強引だ,当事者の意見を聞こうとしない,判決文が簡潔過ぎて意味が不明だ,判決日が何度も延びる,和解の押しつけがある等のケ ースに出会われたら,報告をお願いしたい。 

2 評価権者
(1) 原則(規則2条1項及び2項)
ア 人事評価は,判事及び判事補についてはその所属する裁判所の長が,簡易裁判所判事についてはその所属する簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の長が,それぞれ行う(規則2条1項)。
イ 地方裁判所又は家庭裁判所の長が行った人事評価については,その地方裁判所又は家庭裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の長官が,調整及び補充を行います(規則2条2項)。
ウ 簡易裁判所判事と兼任している判事又は判事補の人事評価については,判事又は判事補の評価権者が行います。
エ 複数の裁判所に補職されている裁判官の人事評価については,本務庁(簡易裁判所である場合は,その所在地を管轄する地方裁判所)の長が評価権者となります。
   ただし,評価対象裁判官が主として兼務庁において職務を行っている場合であって,人事評価を適正に行う上で必要があるときは,本務庁の長及び兼務庁の長の協議により,兼務庁の長が評価権者となることがあります。   
(2) 規則2条3項に基づく定め
ア 地方裁判所長又は家庭裁判所長の人事評価については,その所属する裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の長官が評価権者となります。
イ 補職されている裁判所(=補職庁)と異なる裁判所の裁判官の職務を行う裁判官の人事評価については,補職庁の長が評価権者となります。
ウ 最高裁判所事務総局の審議官又は局課長の人事評価については,最高裁判所事務総長が評価権者となります。
エ 最高裁判所事務総局の各局課に勤務する裁判官(局課長を除く。)の人事評価については,その勤務する局課の局課長が評価権者となります。
オ 最高裁判所の裁判所調査官(首席調査官を除く。)の人事評価については,最高裁判所首席調査官が評価権者となります。
カ 最高裁判所の研修所に勤務する裁判官(研修所長を除く。)の人事評価については,その勤務する研修所の所長が評価権者となります。
キ  個々の裁判の結論の当否を問題とするものなど,裁判官の独立(憲法76条3項参照)への影響が懸念される情報については,裁判官人事評価情報として考慮してもらうことはできません。
   
3 裁判官第三カード,人事評価のための面談及び評価書
(1) 人事評価の実施等の詳細については,裁判官の人事評価の実施等について(平成16年3月26日付の最高裁判所人事局長通達)に書いてあります。
   評価対象裁判官は,評価権者に対し,人事評価のための面談の前に,「担当した職務の状況に関する書面」として裁判官第三カードを提出しています。
(2)  裁判官の人事評価に関する規則の運用について(平成16年3月26日付の最高裁判所事務総長通達)には,「人事評価のための面談」として以下の記載があります。
   評価権者は,規則第4条の人事評価を記載した書面(以下「評価書」という。)の作成に先立って,評価対象裁判官と規則第3条第3項に定める面談を行う。ただし,評価権者は,評価対象裁判官の人数等の事情に照らし自ら面談を行うことが困難な場合には,人事局長が定めるところにより,この面談を,下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)第22条第1項に定める高等裁判所長官,地方裁判所長若しくは家庭裁判所長の司法行政事務を代理する者,同規則第3条第1項の規定により支部長を命じられた裁判官又は裁判所法第37条の規定により簡易裁判所の司法行政事務を掌理する者に指名された裁判官に代行させることができる。
(3) 評価権者は,評価対象裁判官から申し出があった場合,評価書を開示します(規則4条)。
(4) 裁判官は,評価書の記載内容について,評価権者に対して不服を申し出ることができます(規則5条1項)。
(5) 評価書に対する不服の申出があった場合,評価権者は,必要な調査をし,その結果に基づき,その申出に理由があると認めるときは,評価書の記載内容を修正し,その申出に理由がないと認めるときは,その旨を評価書に記載します(規則5条2項)。
(6) 平成29年1月31日付の司法行政文書不開示通知書によれば,裁判官の人事評価に関する規則5条に基づく不服申立ての件数が,評価権者ごと及び年度ごとに分かる文書(平成16年度から平成26年度までの分)は存在しません。
(7) 評価書の保管等については,裁判官の人事評価に係る評価書の保管等について(平成16年3月26日付の最高裁判所人事局長通達)に書いてあります。
 作成した日から10年が経過するか,又は評価対象裁判官が高裁長官に任命されたり,退官したりしたときに廃棄されるそうです。
 
4 裁判官の人事評価に関する国会答弁,及び元裁判官の発言
(1) 41期の堀田眞哉最高裁判所人事局長は,平成27年5月14日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 裁判官の人事評価につきましては、平成十六年四月以降、裁判官の資質、能力を高めるとともに、国民の裁判官に対する信頼を高め、人事評価の透明性、客観性を確保するという観点から、裁判官の人事評価に関する規則、最高裁の規則でございますが、に基づいて新しい人事評価制度が実施されてきているところでございます。
 この人事評価制度によりまして、人事評価の透明性、客観性が高まっただけではなく、裁判官の主体的な能力向上に資するものとして、制度として定着し、安定的に運用されてきているものというふうに認識しております。
② 新しい人事評価制度におきましては、最高裁規則に基づきまして、人事評価を行う評価権者を所属の庁の長、すなわち地家裁所長あるいは高裁長官等と明確に規定をいたしまして、さらに評価項目を定めて評価基準が明確化されているなど、人事評価制度としての透明性を向上させてきているというところでございます。
 このような裁判官の新しい人事評価制度の概要につきましては、裁判所のウエブサイトにも掲載いたしまして公開しているところでございます。そういう意味においても、国民に対する透明性も向上しているものというふうに考えております。
③ 平成二十六年度の数字で申し上げますと、評価書の開示の申出件数は二百十七件でございまして、当然ながら全部について写しを交付して開示をしております。
④ 裁判所外部からの情報の多くは、訴訟等の場で日常的に裁判官に接しております弁護士からのものでございます。具体的には、裁判官の法廷等における言動等に関する情報などでございます。
 受け付けました外部情報を人事評価に取り入れるに当たりましては、当該情報の的確性について検証する必要がございますので、原則として提供者の名前が明らかにされており、かつ具体的な根拠事実が明らかになっているものに限って活用をしております。
 もっとも、個々の裁判の結論の当否を問題にするというものなど、裁判官の独立に影響を及ぼすおそれのあるような情報については考慮することができないというふうに考えております。
⑤ 裁判官の人事評価に関する規則におきましては、評価権者は、人事評価に当たり、裁判官の独立に配慮しつつ、多面的かつ多角的な情報の把握に努めなければならないというふうに規定をされております。
 評価権者であります地家裁所長、高裁長官等は、裁判官、その他の裁判所職員からの裁判所内部の情報のほか、先ほど申し上げましたような裁判所外部からの情報についても配慮するものとされておりまして、それらを活用して評価を行ってきているところでございます。
(2) 「司法の可能性と限界と-司法に役割を果たさせるために」(令和元年11月23日の第50回司法制度研究集会・基調報告②。講演者は31期の井戸謙一 元裁判官には以下の記載があります(法と民主主義2019年12月号19頁)。
 人事がブラヅクボックス化していることも大きな問題です。だれが人事を決めているのかわからない。形式的にはもちろん最高裁人事局が決めているわけですが、たとえば大阪高裁管内の人事において、一人ひとりの裁判官がどういう仕事をしているか、どういう能力があるかということについて、最高裁人事局は、大阪高裁しか情報源がないはずです。そして、大阪高裁でだれがその情報を管理して人事局に伝えているかがわからない。
 司法改革で、裁判官制度の改革の一つとして、裁判官評価について、評価権者を明確にして、本人の希望があったら評価内容を開示する制度ができました。評価権者は所長ということになったんですね。裁判官が請求すれば自分の評価について開示を受けられます。
 私も自分の評価の開示を受けたことがあります。それを読んでみて、結局、無難なこと、当たり障りのないことしか書いていないことが判りました。こんな情報で人事管理はできません。開示制度ができたために、本当に大事な情報は、さらにその奥に隠れたのだと思います。それではその情報をいったい誰が収集して、だれが管理して、どこに集約して、どのように人事が行われているかということが全くブラックボックスですから、現場の裁判官たちは、何をすれば自分の処遇に有利になるのかがわからない。結局、疑心暗鬼のまま生活しているという状況であって、それが更に萎縮を招きます。
   
5 関連記事
(1) 31期の瀬木比呂志裁判官が著した絶望の裁判所には以下の記載があります。
(90頁の記載)
   裁判長たちについても、前記のとおり、事務総局が望ましいと考える方向と異なった判決や論文を書いた者など事務総局の気に入らない者については、所長になる時期を何年も遅らせ、後輩の後に赴任させることによって屈辱を噛み締めさせ、あるいは所長にすらしないといった形で、いたぶり、かつ、見せしめにすることが可能である。さらに、地家裁の所長たちについてさえ、当局の気に入らない者については、本来なら次には東京高裁の裁判長になるのが当然である人を何年も地方の高裁の裁判長にとどめおくといった形でやはりいたぶり人事ができる。これは、本人にとってはかなりのダメージになる。プライドも傷付くし、単身赴任も長くなるからである。
(91頁の記載)
   事務総局は、裁判官が犯した、事務総局からみての「間違い」であるような裁判、研究、公私にわたる行動については詳細に記録していて、決して忘れない。たとえば、その「間違い」から長い時間が経った後に、地方の所長になっている裁判官に対して、「あなたはもう絶対に関東には戻しません。定年まで地方を回っていなさい。でも、公証人にならしてあげますよ」と引導を渡すなどといった形で、いつか必ず報復する。このように、事務総局は、気に入らない者については、かなりヒエラルキーの階段を上ってからでも、簡単に切り捨てることができる。なお、右の例は、単なるたとえではなく、実際にあった一つのケースである。窮鼠が猫を噛まないように、後のポストがちゃんと用意されているところに注目していただきたい。実に用意周到なのである。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会で再任不適当とされた裁判官の数の推移
・ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員名簿
平成20年度以降,任期終了により退官した裁判官の一覧
・ 裁判官再任評価情報の提供
・ 裁判官第一カード,裁判官第二カード及び裁判官第三カード

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