最高裁判所の庁舎平面図の開示範囲

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   最高裁判所の庁舎平面図の一部開示について判断した,平成28年度(最情)答申第48号(平成29年3月17日答申)は以下のとおりです。

答 申 書

第1 委員会の結論
   「最高裁判所の庁舎内部の見取り図(約240ある部屋が具体的にどこにあるかが分かる図面)(職員配置図は除く。)」(以下「本件開示申出文書」という。)の開示の申出に対し,最高裁判所事務総長が平面図7枚(以下,まとめて「本件対象文書」という。)を対象文書とし,その一部を不開示とした判断(以下「原判断」という。)は,妥当である。
第2 事案の概要
   本件は,苦情申出人からの本件開示申出文書についての裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱(以下「取扱要綱」という。)記第2に定める開示の申出に対し,最高裁判所事務総長が平成28年11月30日付けで原判断を行ったところ,取扱要綱記第11の1に定める苦情が申し出られ,取扱要綱記第11の4に定める諮問がされたものである。
第3 苦情申出人の主張の要旨
1 次の事情によっても何らかの弊害が発生しているわけではないから,本件対象文書のうち,不開示部分の全部が行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)5条6号に規定する不開示情報に相当するわけではない。
(1) 平成25年10月1日現在の最高裁判所職員配置図が開示されている。
(2) 日本女性法律家協会による鬼丸かおる最高裁判所判事に対する取材結果から,以下の事実がインターネットで公表されている。
ア 多くの最高裁判所裁判官は北玄関に秘書官が迎えに来ること。
イ 1フロアーに1つの小法廷の5人の裁判官室が並んでいること。
ウ 最高裁判所裁判官はだいたい5時に北玄関に車が来て帰っていること。
エ 最高裁判所裁判官の登庁時の車は北玄関に着くこと。
(3) 平成24年4月5日に発行された「最高裁回想録」によって以下の事実が明らかにされている。
ア 最高裁判所の正面玄関の真上に大応接室があること。
イ 裁判官棟の1階,裁判官室の真下に特別会議室があること。
ウ 毎週午前10時半からの裁判官会議は,皇居のお堀に面した裁判官棟4階の第一小法廷裁判官室の並びにある会議室で行われること。
エ 裁判官棟2階に予備室があること。
オ 小法廷の評議室は裁判官棟各階の裁判官室の並びにあること。
カ 裁判官室の前室として秘書官室があること。
キ 皇居のお堀沿いに裁判官室の窓がずらりと並んでいること。
ク 初めて公務員のクールビズが喧伝された年には,大会議室で開催される長官・所長会同の会場にマスコミのカメラが入ってきたこと。
(4) グーグルマップの航空写真と照合すれば,各建物の位置関係が分かる。
(5) 最高裁判所長官公邸については,平成21年6月付けの最高裁判所長官公邸の整備に関する有識者委員会報告においてその間取りが公表されている。
(6) 苦情申出人が情報公開の手続のために最高裁判所庁舎を訪問した際,記録閲覧室に行く途中の廊下に最高裁判所庁舎の案内図が掲示されていた。
(7) 国会議員の場合,内閣総理大臣も含めて議員会館における事務室の部屋割りが衆議院及び参議院のホームページで公表されている。
(8) 内閣府等の省庁の場合,国務大臣室を含む部屋割りがインターネットで公表されている。
2 昭和50年以降,「空間と象徴-最高裁判所庁舎における建築構想の展開」という書籍が販売されているから,少なくとも当該書籍に記載されていることは不開示情報に該当しない。
3 法令上の守秘義務を負わない法科大学院生であっても最高裁判所判事室や審議室を見学できるし,最高裁判所裁判官の秘書官から最高裁判所の建物自体や各法廷の構造等についての説明を受けることができることからしても,最高裁判所判事室及び審議室の図面は不開示情報に該当しない。
4 最高裁判所判事経験者等を通じて公表され,何人でも知り得る状態にある情報は,不開示情報に該当しない。
5 アメリカ合衆国のホワイトハウスの場合,大統領執務室の所在も含めて公開されていることとの比較からしても,本件対象文書のうち,不開示部分の全部が法5条6号に相当するわけではない。
第4 最高裁判所事務総長の説明の要旨
   最高裁判所事務総長の説明は,理由説明書及び補充理由説明書によれば,以下のとおりである。
1 原判断において不開示とした部分は,本件対象文書中の傍聴人や裁判所見学者が立ち入る場所を除く場所に係る部分であり,当該部分については,法5条6号に相当するとしている。このように判断した理由は,次のとおりである。
   すなわち,最高裁判所の庁舎は,各門扉に警備員を配し,一般的に公開されている法廷等の部分を除き,許可のない者の入構を禁止していることから明らかなとおり,庁舎全体についての高度なセキュリティを確保する必要のある建物であることから,原則として最高裁判所の間取りや位置関係等が分かる部分は,これらを公にすることにより全体として警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,不開示とすべきものである。
   一方で,最高裁判所庁舎のうち,法廷等来庁者の出入りが予想され,一般に公開されていると評価できる部分については,例外的に当該部分の位置関係等が分かる情報を開示したとしても特段の警備事務等の支障はない。原判断においては,このような考え方に従って,開示すべき部分と不開示とすべき部分とを決したものである。
   なお,下級裁判所では,書記官室において,当事者に対する手続教示や書面の授受等が行われており,当事者等の出入りが予定されていることから,書記官室の位置関係を開示しても警備事務に支障を及ぼすものではない。しかし,最高裁判所においては,手続教示や書面の授受といった下級裁判所の書記官室で行われている対外的業務を全て第二訟廷事務室で行っており,書記官室への当事者等の出入りは予定されていない。そうすると,最高裁判所の書記官室は一般に公開されている部分とはいえないことから,書記官室の位置関係が分かる部分については,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,不開示とすることが相当である。
2 この点について,苦情申出人は,苦情申出書の各添付文書,書籍,庁舎案内図等に,庁舎内にどのような部屋があり,どのような位置関係にあるかが分かる記載があり,これらの記載によって何らかの弊害が発生しているわけではないことから,このように位置関係が判明している部屋については不開示事由がない旨主張する。しかし,これらの書類等の記載によっても,最高裁判所庁舎内の部屋の具体的な位置関係や間取りが判明するものとはいえない。
   また,苦情申出人は,職員配置図が開示されている旨主張するが,これは,各部屋の職員の配席を示したものにすぎず,各執務室等の具体的な場所を明らかにしているものではない。
   さらに,苦情申出人は,グーグルマップの航空写真と照合すると最高裁判所庁舎の各棟の位置関係が分かる旨主張するが,同写真からは具体的な棟名は判明しないのであるから,苦情申出人が知っている情報を組み合わせることによって位置関係が推測されるとしても,正確な位置関係が明らかになるものではない。
   したがって,苦情申出人の主張は,いずれも失当というべきである。
第5 調査審議の経過
当委員会は,本件諮問について,以下のとおり調査審議を行った。
① 平成29年1月10日 諮問の受理
② 同日 最高裁判所事務総長から理由説明書を収受
③ 同月16日 苦情申出人から意見書及び資料を収受
④ 同月23日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 同年2月2日 苦情申出人から意見書及び資料を収受
⑥ 同月13日 最高裁判所事務総長から補充理由説明書を収受
⑦ 同月20日 本件対象文書の見分及び審議
⑧ 同年3月13日 審議
第6 委員会の判断の理由
1 本件開示申出は,最高裁判所の庁舎内部の見取り図の開示を求めるものであるところ,原判断は,地下2階から5階までの平面図(本件対象文書)を対象文書とした上で,その一部を不開示としたものである。主な開示部分は,次のとおりである。
地下2階 郵便局,郵便局出入口
地下1階 中庭
1階及びМ2階 北玄関,第二訟廷事務室,記録閲覧室,事件受付ロビー,
正面玄関ホール,講堂ホワイエ,講堂
2階 大法廷,大ホール,公衆待合室,検察官待合室,
弁護士待合室
3階 大法廷上部吹抜,大ホール上部吹抜,公衆控上部吹抜
4階 閲覧室,第一小法廷,第二小法廷,第三小法廷
小法廷ロビー
5階 書庫,大法廷上部吹抜,大ホール上部吹抜,
小法廷上部吹抜,屋上
2 原判断について,最高裁判所事務総長は,最高裁判所は,広く国民の庁舎内の入構が予定されている下級裁判所と異なり,許可のない者の入構を禁止しており,来庁者が自由に出入りすることができず,また,庁舎全体について極めて高度なセキュリティの確保が要請されていることから,原則として最高裁判所の間取りや位置関係等が分かる部分については,これらを公にすることにより全体として警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,不開示とすべきであるが,法廷等の来庁者の出入りが予想され,一般に公開されていると評価できる部分については,特段の警備事務等の支障はないことから,そのような部分についてのみ開示したと説明する。
   最高裁判所の庁舎は,その多くの部分が一般の来庁者の出入りが想定されていない建物であり,入構するには原則として許可が必要であることや,内部に最高裁判所判事室や事務総局の中枢部分などがあることからすると,全体として高度なセキュリティの確保が要請されており,庁舎の部屋の配置等を公にすることにより,全体として警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとする上記説明は合理的である。また,事件当事者や傍聴人,見学者等の来庁者の出入りが予想され,一般に公開されていると評価できる部分については警備事務等の支障がないとする説明も合理的である。
3 そこで,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書のうち,不開示とされた部分は,一般の来庁者の出入りが想定されていない部分であると認められる。したがって,当該部分については,公にすることにより,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,法5条6号に規定する不開示情報に相当すると認められる。
   なお,本件対象文書においては,書記官室に係る部分が不開示とされており,一般に下級裁判所の庁舎平面図においては,書記官室に係る部分は開示されていると考えられることとの関係が問題となる。しかしながら,最高裁判所事務総長の説明によれば,下級裁判所においては,書記官室で当事者に対する手続教示等を行っているから,書記官室等への当事者等の出入りが想定されている反面,最高裁判所においては,手続教示等の対外的業務を全て第二訟廷事務室で行っており,書記官室への当事者等の出入りは想定されていないとのことである。そうすると,最高裁判所の書記官室は,一般の来庁者の出入りが想定されていない部分であるから,本件対象文書のうち,書記官室の位置に係る部分を公にすると,庁舎等の部屋の配置の一部が具体的に明らかになり,警備事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるというべきであって,当該部分を不開示としたことは合理的である。
   これに対し,苦情申出人は,他の文書等に,最高裁判所の庁舎内部の部屋や位置関係が分かる記載があるから,本件対象文書のうち不開示とした部分の全部が不開示情報に該当するものではないと主張する。しかし,苦情申出人が挙げるような記載が別の文書にあったとしても,それだけで,あるいはそれらを総合することで,最高裁判所庁舎にある部屋の具体的な位置関係等が判明するものではない。したがって,苦情申出人の上記主張は,原判断の合理性を左右するものではない。
4 以上のとおりであるから,本件対象文書の一部を不開示とした原判断については,その不開示とした部分が,法5条6号に規定する不開示情報に相当すると認められるので,妥当であると判断した。
情報公開・個人情報保護審査委員会
委 員 長  髙 橋   滋
委 員    久 保   潔
委 員    門 口 正 人

*1 「最高裁判所庁舎」も参照してください。
*2 令和元年5月現在,日本の古本屋HPの「古書を探す」において,「最高裁判所庁舎 鹿島出版会」といったキーワードで検索すれば,「空間と象徴 最高裁判所庁舎における建築構想の展開」(昭和49年の書籍)を入手できます。
   当該書籍118頁では,最高裁判所の構内図が載っていますし,当該書籍119頁では,最高裁判所の庁舎平面図(ただし,地下1階から地上5階までの分)が載っています。
   そのため,例えば,最高裁判所長官室及びその秘書官室・応接室,最高裁判所判事室及びその秘書官室,並びに評議室及び裁判官会議室が裁判官棟のどこにあるかが分かります。
*3 令和元年5月現在,横浜地裁の向かい側にある横浜情報文化センター8階の放送ライブラリー視聴ホールにおいて,「NHK特集 最高裁判所」(昭和62年5月3日放送)(番組IDは004003)を視聴できます。
   当該番組では,最高裁判所長官室,最高裁判所判事室,最高裁判所事務総長室,最高裁判所調査官室,最高裁判所の中庭等の映像が流れています。
*4 宮内庁HPの「宮殿の各棟,各室等の名称」では宮殿における各部屋の位置関係が説明されていますし,宮内庁HPの「宮殿の写真」には,石橋(しゃっきょう)の間,春秋の間,豊明殿,松の間,竹の間,松の間等の写真が掲載されています。
*5 東弁リブラ2008年12月号「前 最高裁判所判事 才口千晴 会員」には,以下の記載があります。
判事室の広さは,21 坪(42 畳),皇居が一望できる閑静な居住まいで,秘書官と事務官の2 人が様々なバックアップをしてくれますので,居心地はよろしいのですが,毎日ここで大量の記録と格闘するのですから大変です。

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