◯古川龍一事件に関する平成13年3月14日付の最高裁判所調査委員会報告書の「4 裁判部門から司法行政部門への情報伝達の在り方」の「(1) 一般的な検討」には以下の記載があります。
裁判部門は,独立してその職権を行使するのであるから,裁判部門の情報は,原則として当該部門内にとどめられるべきものであり,みだりに司法行政部門に開示することは,裁判の公正を確保する見地から許されない。しかし,同時に司法行政部門は,裁判が適正迅速に行われるよう,これを支援するためにあるのであるから,このような目的を達するために合理的な必要がある限りにおいては、裁判部門から司法行政部門に対して情報を伝達することも,許されると解すべきである。この場合においても,令状請求事件については,捜査の密行性の要請がとりわけ強く,また,令状請求の時点では,一般的にいえば司法行政上の必要性も限られたものであることが通例であるから,その情報については,特に厳格な取扱いを要するというべきであり,このような情報提供が許されるのは例外的な場合に限られよう。
司法行政上の措置を必要とする場合として通常想定されるのは,(1)当該令状請求事件の裁判を担当する裁判官をはじめとする裁判関係者や,宿舎,庁舎の警備が必要となる場合,(2)忌避,回避の問題を生じて,裁判官の配置を変更したり,担当事務に変更を加えることを考えなければならないときなど,当該事件の裁判の公正性,適正性に対する信頼を確保するために必要な場合,(3)極めて例外的であるが,裁判官本人及び裁判官の妻子が犯罪の被疑者として捜査の対象となっているときのように,公正な裁判の遂行に対する差し迫った障害があり,当該裁判官がそのまま裁判事務を統けることが相当かどうかを検討しなければならない場合などであろう。
このような場合,司法行政部門はこのような裁判部門からの情報のみによって行動しなければならないわけではなく,必要に応じ,然るべきルートを通じて,捜査の責任者から差し支えない範囲で情報を開示してもらう場合も少なくないが,そのような司法行政上の手段をとる前提として,必要最小限の情報が裁判部門から司法行政部門に伝えられる必要がある。
なお,裁判部門から司法行政部門に裁判情報を伝えるかどうかの判断に際しては,原則的に当該令状事務を担当した裁判官の判断を経るものとすることも考えられるところである。
次に,伝達することが許容される情報の範囲は,伝達する目的に照らして相当なものであることが必要であり,ことにここでは捜査資料という高度の秘密性のある情報が対象であるから,必要最小限のものに限られるべきであって,通常は,(1)令状が発付された事実と令状の種類,(2)被疑者名,(3)被疑事実の概要のほか,上記の司法行政上の目的との関係で,(4)警備を必要とする事情や被疑者と親族関係にある裁判所職員の存在などが伝達の許容される限度であると考えられる。それ以上の詳細な情報は,上記のとおり,捜査機関から司法行政上の正規のルートで獲得すべきものであろう。なお,例えば,被疑事実が複雑であるなど特別な事情がある場合に令状請求書の被疑事実の部分のコピーを取ることが一切許されないとは言えないにしても,捜査書類のコピーをとって報告資料とすることは,極めて例外的な場合に限られるであろう。
伝達の経路については,被疑者の関係者を経由することがないようにすることは当然として,捜査情報を知る者が必要最小限の者に限られるよう,各庁の実情に応じた経路を定めておく必要がある。