第1 この記事が扱う不服申立て
1 三つの手続を区別する
弁護士登録関係の不利益な取扱いに対する手続は,どの機関が何をしたかによって異なる。弁護士会が登録又は登録換え請求の進達を拒絶した場合は日弁連への審査請求,弁護士会が日弁連に登録取消しを請求した場合は日弁連への異議の申出,日弁連の裁決,決定又は登録拒絶に不服がある場合は東京高裁への取消訴訟が問題となる。
これらの審査請求,異議の申出及び取消訴訟は,名称だけでなく,申立期間,提出先及び審理手続が異なる。以下では,現行の弁護士法,行政不服審査法及び行政事件訴訟法に基づいて順に説明する。
2 弁護士法17条の登録取消しとの区別
本記事で説明する異議の申出は,弁護士会が弁護士法13条に基づいて日弁連に登録取消しを請求した場合の手続である。死亡,欠格事由への該当その他の法定事由による同法17条の登録取消しとは別の制度であるから,登録取消しのすべてについて同法14条の異議の申出ができるわけではない。
第2 弁護士会の進達拒絶に対する審査請求
1 明示の進達拒絶
弁護士名簿の登録又は登録換えを請求すると,入会しようとする弁護士会が請求を審査し,日弁連への進達の可否を判断する。弁護士会が進達を拒絶するときは,請求者に対し,速やかにその旨及び理由を書面で通知しなければならない(弁護士法12条3項)。
請求者は,この進達拒絶について,行政不服審査法に基づき日弁連へ審査請求できる。審査請求では,書面で示された拒絶理由と,弁護士法12条1項各号の拒絶事由との対応が審査対象となる。
2 3か月の不進達によるみなし拒絶
登録又は登録換えの請求後3か月を経過しても弁護士会が日弁連へ進達しないときは,進達を拒絶されたものとみなして審査請求できる(弁護士法12条4項)。明示の拒絶通知を待たなければ審査請求できないという制度ではない。
3か月の起算点を明らかにするため,請求書の控え,受付印,配達記録その他の受理日を確認できる資料を保存する必要がある。みなし拒絶後の期間計算には個別の受理日及び経過を確認する必要があるため,3か月経過後は速やかに手続を検討することが望ましい。
3 審査請求期間及び審査請求書
明示の進達拒絶に対する審査請求期間は,正当な理由がある場合を除き,原則として処分があったことを知った日の翌日から3か月以内,かつ,処分の日の翌日から1年以内である(行政不服審査法18条)。期間末日が休日に当たる場合及び郵送による提出については,同条及び日弁連資格審査手続規程の期間計算に関する規定を確認する必要がある。
審査請求書には,審査請求人の氏名及び住所,審査請求に係る処分の内容,処分があったことを知った年月日,審査請求の趣旨及び理由等を記載する(行政不服審査法19条)。日弁連資格審査手続規程28条により,正本及び副本を日弁連又は進達拒絶をした弁護士会へ提出できる。
4 資格審査会による審査
日弁連は,日弁連資格審査会の議決に基づいて裁決する(弁護士法12条の2第1項)。審査請求に理由があると認めるときは,弁護士会に登録又は登録換え請求の進達を命じなければならない(同条2項)。
この審査請求には,通常の行政不服審査における審理員制度及び審理員による審理手続は適用されず,行政不服審査法の一部について適用除外又は読替えがある(弁護士法12条の2第3項・第4項)。したがって,通常の審理員手続における権利がそのまま認められると説明するのは正確でなく,手続保障は弁護士法及び日弁連資格審査手続規程に即して確認する必要がある。
資格審査会の審査は非公開で,書面審理を原則とする一方,申立てによる審尋,証人等の取調べ,書類その他の物件の提出要求等が規定されている。また,資格審査会が登録若しくは登録換えを拒絶すべき旨又は登録取消請求を相当とする旨を議決するには,あらかじめ本人に通知し,陳述及び資料提出の機会を与えなければならない(弁護士法55条2項)。
5 裁決及び3か月の不作為
審査請求を却下又は棄却する裁決は,主文,事案の概要,審査請求人の主張の要旨及び理由を記載した裁決書によって行われる。裁決に不服がある場合は,行政不服審査法上の再度の審査請求ではなく,弁護士法16条による東京高裁への取消訴訟が問題となる。
日弁連が審査請求を受けた後3か月を経過しても裁決をしないときは,審査請求を棄却したものとみなして取消訴訟を提起できる(弁護士法16条2項)。実際の出訴判断では,日弁連が審査請求を受理した日を客観的な資料で確認する必要がある。
第3 登録取消請求に対する異議の申出
1 制度の対象及び性質
弁護士会が弁護士法13条に基づいて日弁連へ登録取消しを請求した場合,弁護士会は対象となる弁護士に対し,速やかにその旨及び理由を書面で通知しなければならない。同法14条の異議の申出は,この登録取消請求に対して日弁連が登録取消しを判断する前に設けられた弁護士法独自の手続であり,行政不服審査法上の審査請求ではない。
2 3か月の申出期間及び申出書
異議の申出は,登録取消請求の通知を受けた日の翌日から起算して3か月以内にしなければならない(弁護士法14条1項)。従前の60日という期間は,平成26年法律第69号による改正前のものであり,平成28年4月1日以後の現行法では3か月である。
異議申出書の正本及び副本は日弁連へ提出する。申出書には,異議申出人の氏名,住所及び所属弁護士会,異議申出の趣旨及び理由並びに異議申出年月日等を記載する(日弁連資格審査手続規程32条・33条)。
3 日弁連の決定及び不作為
日弁連は,資格審査会の議決に基づき,異議の申出に理由があると認めるときは登録取消請求を弁護士会へ差し戻し,理由がないと認めるときは異議の申出を棄却する(弁護士法14条2項)。決定は,理由を付した書面によって本人及び弁護士会に通知される(同条3項)。
異議の申出後3か月を経過しても日弁連が決定をしないときは,異議の申出を棄却したものとみなして東京高裁へ取消訴訟を提起できる(弁護士法16条2項)。ここでも,異議申出書の受理日を確認できる資料の保存が重要となる。
第4 日弁連による登録拒絶と不作為
1 日弁連による直接の登録拒絶
弁護士会が登録又は登録換え請求を日弁連へ進達しても,日弁連は,弁護士法12条1項各号に掲げる事由があると認めるときは,資格審査会の議決に基づいて登録又は登録換えを拒絶できる(弁護士法15条)。これは,弁護士会による進達拒絶とは処分主体及び不服申立ての経路が異なる。
日弁連による登録拒絶について,日弁連自身へ行政不服審査法上の審査請求をすることはできない。弁護士法に基づいて日弁連がした処分又はその不作為には,行政不服審査法による審査請求が認められていないためである(弁護士法49条の3)。
2 進達後3か月の日弁連の不作為
登録又は登録換え請求が日弁連へ進達された後3か月を経過しても,日弁連が登録又は登録換えをしないときは,これを拒絶したものとみなして東京高裁へ取消訴訟を提起できる(弁護士法16条2項)。この場合も,弁護士会が請求を受けた日ではなく,日弁連が進達を受けた日を確認する必要がある。
第5 東京高裁への取消訴訟
1 取消訴訟の対象,管轄及び被告
東京高裁へ取消訴訟を提起できるのは,①進達拒絶に対する審査請求を却下又は棄却された者,②登録取消請求に対する異議の申出を却下又は棄却された者,③日弁連から登録又は登録換えを拒絶された者である(弁護士法16条1項)。同条2項によって棄却又は拒絶とみなされる3か月の不作為も,この特別の司法救済の対象となる。
第一審の専属管轄は東京高裁であり,被告は日弁連である。通常の取消訴訟と異なる裁判所を法律が直接指定している点に注意を要する。
2 弁護士会の進達拒絶を直接訴えないこと
弁護士会の進達拒絶については,その処分自体を直接の対象として取消訴訟を提起するのではなく,日弁連の審査請求に対する裁決についてのみ取消訴訟を提起できる(弁護士法16条3項)。したがって,弁護士会の進達拒絶を受けた場合は,まず日弁連への審査請求という経路を経る必要がある。
3 出訴期間
取消訴訟の出訴期間は,正当な理由がある場合を除き,原則として処分又は裁決があったことを知った日から6か月以内,かつ,処分又は裁決の日から1年以内である(行政事件訴訟法14条)。書面が送達された日,日弁連が審査請求等を受理した日及び日弁連が進達を受けた日は,期間計算の基礎となり得るため,関係書類とともに記録する必要がある。
3か月の不作為によるみなし棄却又はみなし拒絶の場合は,みなしの成立日と出訴期間の関係を個別の経過に即して検討する必要がある。期間の上限だけから逆算せず,3か月経過後は速やかに出訴の要否を判断すべきである。
4 取消訴訟には当然の停止効がないこと
取消訴訟を提起しても,処分の効力,処分の執行又は手続の続行は当然には停止しない(行政事件訴訟法25条1項)。停止を求める必要がある場合は,同条の執行停止の要件及び申立ての対象を個別に検討することになる。
第6 取消訴訟で争われた主な例
1 東京高裁昭和50年1月30日判決
東京高裁昭和50年1月30日判決(昭和48年(行ケ)第9号)は,登録換えに関する日弁連の裁決を取り消した。既に他会で弁護士として職務を行っている者の登録換えについて,転入先の地域で職務を行わせることの具体的な不適当性を審査すべきことを示した裁判例である。
2 東京高裁昭和53年2月21日判決
東京高裁昭和53年2月21日判決(昭和48年(行ケ)第170号)は,過去の犯罪事実及び心身の状態が争われた事案で,日弁連の拒絶裁決を取り消した。原告は手続上の主張もしたが,判決は防御の機会が与えられたことなどを理由にその主張を採用せず,実体判断によって裁決を取り消している。
3 東京高裁平成3年9月4日判決
東京高裁平成3年9月4日判決(平成2年(行ケ)第175号)は,登録拒絶事由の判断に当たり,経歴,行為,態度その他の事情を総合考慮できるとした。他方,登録拒絶が職業遂行を妨げる重大な処分であることから,客観的かつ公正な判断を要することも判示している。
第7 公表資料で確認できる最近の運用
日弁連の令和7年度会務報告書によれば,同年度の弁護士名簿への登録は1755人,登録換えは543人,登録取消しは592人であり,令和8年3月31日現在の弁護士会員数は4万7400人である。ただし,登録取消しの総数は,弁護士法13条の登録取消請求だけを示すものではない。
同年度の日弁連資格審査会は8件の付議を受け,9回開催され,前年度からの繰越しを含む10件を議決した。その内訳は,審査請求1件の棄却と,登録請求9件の認容であり,登録拒絶は0件であった。
登録請求付議7件及び登録認容9件のうち各7件は旧々弁護士法5条3号関係である。個別案件の事実及び理由も公表資料からは確認できないため,この件数から現在の審査請求の一般的な認容率又は登録拒絶率を推測することはできない。
第8 関連記事
登録請求の入口となる手続,進達拒絶事由及び弁護士会の懲戒手続については,次の記事で説明している。
①弁護士登録の請求――手続,必要書類,費用及び登録拒絶(AIリライト)
②弁護士の登録・登録換えの進達拒絶事由と資格審査会(AIリライト)
③弁護士会の懲戒手続―綱紀委員会・懲戒委員会と異議申出(AIリライト)
第9 出典・参考資料
1 法令・会規
①e-Gov法令検索・弁護士法(昭和24年法律第205号)
②e-Gov法令検索・行政不服審査法(平成26年法律第68号)
③e-Gov法令検索・行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)
④日本弁護士連合会・資格審査手続規程(会規第21号)
2 裁判例
①東京高裁昭和50年1月30日判決(昭和48年(行ケ)第9号)
②東京高裁昭和53年2月21日判決(昭和48年(行ケ)第170号)
③東京高裁平成3年9月4日判決(平成2年(行ケ)第175号)
3 公的資料
①衆議院・行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(弁護士法14条の期間改正及び同法12条の2の特則)
②日本弁護士連合会『令和7年度会務報告書』第1「登録」及び第7「法定委員会」
4 文献
①日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法〔第5版〕』(弘文堂,令和元年)110頁~138頁,425頁~439頁
②宇賀克也『行政法概説Ⅱ〔第7版〕行政救済法』(有斐閣,令和3年)114頁
③宇賀克也『行政不服審査法の逐条解説〔第2版〕』(有斐閣,平成29年)356頁