第1 家事調停の対象と三つの事件類型
1 家事調停の役割
家事調停は,家庭に関する紛争について,裁判官1人と家事調停委員2人以上で構成される調停委員会が双方から事情を聴き,合意による解決を図る非公開の手続である。
勝敗を判定する訴訟とは異なるが,必要に応じて資料の提出,事実の調査及び証拠調べが行われる。
家事調停で扱う事件は,別表第2調停事件,特殊調停事件及び一般調停事件に分かれ,成立時の効力と不成立後の手続が異なる。
最初に事件類型を確認しなければ,調停が成立しなかった後に審判へ自動的に移るのか,別に訴訟を提起する必要があるのかを判断できない。
2 別表第2調停,特殊調停及び一般調停の違い
| 事件類型 | 主な例 | 合意ができた場合 | 合意ができない場合 |
|---|---|---|---|
| 別表第2調停事件 | 親権者の変更,養育費,婚姻費用,遺産分割等 | 調停調書の記載は確定した審判と同一の効力を有する。 | 調停不成立後,自動的に審判手続が始まる。 |
| 特殊調停事件 | 協議離婚の無効確認,親子関係不存在確認,嫡出否認,認知等 | 一定の要件を満たすときは,通常の調停成立ではなく,合意に相当する審判がされる。 | 必要に応じて人事訴訟を提起する。 |
| 一般調停事件 | 離婚,夫婦関係の円満調整その他の家庭に関する紛争 | 調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有する。 | 訴訟で解決できる事項は,別に訴訟を提起する。離婚及び離縁は人事訴訟による。 |
特殊調停事件では,当事者間に審判を受けることの合意があり,原因事実に争いがなく,家庭裁判所が事実を調査した上で合意を正当と認めることが必要である(家事事件手続法277条)。
単に当事者が話し合って一致しただけで,身分関係が当然に変更されるわけではない。
3 調停前置
離婚,認知その他の人事訴訟を提起しようとする者は,原則として,先に家庭裁判所へ家事調停を申し立てなければならない(家事事件手続法257条1項)。
調停を経ずに訴えを提起した場合,裁判所は原則として事件を家事調停に付すが,調停に付することが相当でないと認めるときは例外となる(同条2項)。
第2 管轄裁判所,移送及び申立て
1 管轄裁判所
家事調停は,原則として,相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てる(家事事件手続法245条1項)。
事件の種類によって特別の管轄規定があるため,裁判所の家事調停申立書一覧で事件別の案内を確認する必要がある。
家庭裁判所は,手続の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要と認めるとき等には,申立て又は職権で事件を他の管轄裁判所へ移送できる。
他方で,管轄がない場合でも,事件を処理するため特に必要があると認めるときは,申立て又は職権で自ら処理できる(家事事件手続法9条)。
2 本庁と支部の取扱い
最高裁昭和44年3月25日第三小法廷決定(昭和44年(し)第3号・刑集23巻3号212頁)は,地方裁判所の本庁と支部又は支部相互間の事件の回付は,裁判所内部の事務分配であって,訴訟法上の管轄移転ではないとした。
家庭裁判所の本庁と支部についても,法律上の管轄と,支部設置規則等による内部的な事務分配を区別する必要がある。
この回付と,家事事件手続法9条に基づく家庭裁判所間の移送は別の制度である。
同条による移送の裁判及び移送申立てを却下する裁判には,即時抗告が認められている。
3 申立書,添付資料及び費用
申立書には,当事者,申立ての趣旨,申立ての理由その他の事件を特定する事項を記載し,事件ごとに求められる戸籍資料,収入資料,財産資料等を添付する。
必要な書式,添付資料,収入印紙及び郵便切手は事件類型と申立先によって異なるため,全国一律の一覧だけで判断せず,裁判所の家事調停申立書一覧及び申立先の家庭裁判所の案内を確認するのが確実である。
家事事件手続の費用は,原則として各自が負担する(家事事件手続法28条1項)。
もっとも,家庭裁判所は,事情により,費用の全部又は一部を当事者に負担させることができる。
第3 申立書の送付,住所等の秘匿及び記録
1 申立書等が相手方へ送られる範囲
家庭裁判所は,家事調停の申立てがあったときは,原則として申立書の写しを相手方へ送付しなければならない(家事事件手続法256条1項)。
ただし,申立てが不適法で補正できないとき,又は手続の円滑な進行を妨げるおそれがあると認めるときは送付しないことがあり,後者の場合は申立てがあったことを通知することで足りる。
提出書面は,裁判所だけが見る私的な手紙ではない。
相手方に知られたくない住所,勤務先,電話番号その他の情報を記載したまま提出する前に,送付,閲覧及び謄写の対象となる可能性を検討する必要がある。
2 住所等を知られたくない場合
住所等を相手方に知られることで社会生活を営むのに著しい支障が生ずるおそれがある場合には,住所・氏名等の秘匿制度を利用できることがある。
これとは別に,提出書面の一部を黒塗りにするマスキングや,非開示希望の申出を利用する場面もあるため,裁判所の「当事者に対する住所,氏名等の秘匿制度等」及び申立先の案内に従う必要がある。
非開示希望の申出をすれば必ず非開示になるわけではなく,裁判官が法令上の要件を踏まえて判断する。
また,黒塗りにした部分の原本を別の提出資料に重ねて記載すると保護できないため,提出書類全体を通じて確認する必要がある。
3 記録の閲覧・謄写と終局文書の交付
家事調停事件の記録の閲覧又は謄写は,原則として家庭裁判所の許可を要する(家事事件手続法254条1項)。
裁判所は,当事者又は第三者の私生活若しくは業務の平穏を害するおそれ,子の利益を害するおそれその他同条所定の事情を考慮して判断する。
当事者が,裁判書,調停成立・不成立等を記載した調書又は証明書の正本,謄本若しくは抄本の交付を求める場合には,同条4項により,記録一般の閲覧・謄写とは異なる取扱いとなる。
必要な文書は自動的に特別送達されると決めつけず,用途に応じて交付又は送達を申請する必要がある。
第4 調停期日の進行と資料提出
1 調停委員会と事情聴取
調停委員会は,当事者双方から事情及び意見を聴き,必要に応じて解決案を提示し,又は助言する。
双方を同席させるか,交互に別席で聴くかは,事件の内容,安全への配慮及び協議の進み方に応じて決められ,同じ部屋に一定時間そろうことが常に必要なわけではない。
DV,虐待,ストーカー行為その他の事情により相手方と顔を合わせることに不安がある場合は,待合場所,入退庁の時間,別席又はウェブ会議の利用について,できるだけ早く家庭裁判所へ伝えるのが適切である。
ウェブ会議を利用するかどうかは,当事者の意見と具体的事情を踏まえて家庭裁判所が判断する。
2 主張書面と資料
調停は合意を目指す手続であるが,解決条件を検討するには,争点に応じた資料が必要である。
例えば,養育費及び婚姻費用では双方の収入資料,財産分与及び遺産分割では財産の存在,名義,取得時期及び評価を示す資料が中心となる。
書面は,①求める結論,②その理由となる事実,③事実を裏付ける資料,④相手方の説明に対する認否,⑤合意できる条件を区別して作成すると,争点を確認しやすい。
資料を提出するときは,相手方への開示の可否と,住所等の保護の必要性も同時に確認する必要がある。
子に影響する処分を取り扱う場合,家庭裁判所は,子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を把握するよう努め,審判をするときは子の意思を考慮しなければならない(家事事件手続法65条,258条1項)。
子の安全又は監護状況の専門的な調査が必要な事件では,家庭裁判所調査官が関与することがある。
3 電話会議とウェブ会議
家庭裁判所は,当事者が遠方に住んでいる場合,相手方と同じ空間では安心して話せない場合その他相当と認める場合に,当事者の意見を聴いた上で,電話会議又は映像と音声を用いるウェブ会議によって期日の手続を行うことができる(家事事件手続法54条,258条1項)。
利用は当事者の一方的な選択ではなく,裁判所が通信環境,事件の内容及び本人確認等を踏まえて決める。
令和7年3月1日以降,離婚又は離縁の調停は,映像と音声を用いるウェブ会議で成立させることができる(家事事件手続法268条3項)。
音声だけの電話会議では,離婚又は離縁の調停を成立させることはできない。
第5 調停成立,特殊調停及び成立後の手続
1 調停成立と調停調書
当事者間に合意が成立し,その内容が調停調書に記載されると,別表第2調停事件では確定した審判と,一般調停事件では確定判決と同一の効力を有する(家事事件手続法268条1項)。
調停条項は,支払う者と受け取る者,金額,期限,支払方法,対象財産,登記手続,費用負担その他の履行に必要な事項を,調書だけから特定できるように定める必要がある。
当事者は,成立内容を読み合わせる際に,裁判所で合意した内容と調書案が一致するか,期限及び対象に曖昧さがないかを確認する必要がある。
成立後に合意内容を一方的に変更することはできないため,疑問がある条項は成立前に確認すべきである。
2 合意に相当する審判
特殊調停事件では,通常の調停成立に代えて,家庭裁判所が合意に相当する審判をすることがある。
家庭裁判所は,当事者間に審判を受けることの合意があり,原因事実に争いがなく,必要な事実調査を経た上で合意を正当と認めるときに限り,審判をすることができる(家事事件手続法277条1項)。
当事者又は一定の利害関係人は,審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができる。
適法な異議があると審判は効力を失い,異議がないまま確定した審判は確定判決と同一の効力を有する。
3 調書等の取得と届出
調停調書の正本又は謄本は,家庭裁判所に交付を申請して取得する。
戸籍届,登記,年金分割又は強制執行等の用途によって必要な文書と追加書類が異なるため,提出先の案内を確認する必要がある。
離婚調停が成立した場合,申立人は成立の日から10日以内に市区町村へ離婚届を提出しなければならない。
年金分割の割合を定めた場合も,家庭裁判所の調停だけで自動的に年金記録が分割されるわけではなく,年金事務所等で別の請求手続が必要である。
第6 調停不成立,取下げ及び調停に代わる審判
1 調停をしない場合と調停不成立
家庭裁判所は,事件が性質上調停に適しないと認めるとき,又は当事者が不当な目的でみだりに申立てをしたと認めるときは,調停をしないで事件を終了させることができる(家事事件手続法271条)。
合意が成立する見込みがない場合は,調停不成立として事件が終了する(同法272条1項)。
別表第2調停事件は,不成立後に審判手続へ移る。
これに対し,一般調停事件及び特殊調停事件は,不成立だけで訴訟が始まるわけではなく,訴訟による解決を求める者が別に訴えを提起する必要がある。
調停不成立の通知を受けた日から2週間以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは,その請求については調停申立ての時に訴えを提起したものとみなされる(家事事件手続法272条3項)。
この期間は,調停前置とは別に,調停申立時への時点接続が必要な事件で確認すべき期間である。
2 申立ての取下げ
申立人は,原則として調停事件を取り下げることができる。
もっとも,令和8年施行の改正後は,相続開始から10年を経過した後に申し立てた遺産分割事件の一定の取下げには相手方の同意が必要となり,親権者指定の調停申立ての取下げには家庭裁判所の許可が必要となる(家事事件手続法273条)。
家庭裁判所が調停に代わる審判をした後は,申立てを取り下げることができない(家事事件手続法285条)。
取下げを検討するときは,不成立,審判移行及び訴訟提起と効果が異なるため,次の手続まで含めて判断する必要がある。
3 調停に代わる審判と異議
家庭裁判所は,調停が成立しない場合でも,相当と認めるときは,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で調停に代わる審判をすることができる(家事事件手続法284条1項)。
手続を調停委員会で行っている場合は,これを組織する家事調停委員の意見を聴かなければならず,審判では子の引渡し,金銭の支払その他の給付を命ずることができるが,特殊調停事件は対象外である(同条2項・3項)。
当事者は,審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができる。
適法な異議があると審判は効力を失い,異議がないまま確定した審判は確定判決と同一の効力を有する(家事事件手続法286条)。
第7 終了後の記録,履行勧告及び強制執行
1 後続訴訟における記録の扱い
調停が不成立となって後に訴訟が提起されても,調停記録の全体が訴訟記録へ当然に引き継がれるわけではない。
訴訟で裁判所の判断資料にする必要がある書面又は資料は,開示の可否,証拠としての必要性及び立証趣旨を検討した上で,訴訟手続に提出する必要がある。
調停は自由な話合いを促す非公開手続であり,期日における全発言の逐語録を作る手続ではない。
後日の立証が必要な事実は,調停で述べただけにせず,客観資料の保存と提出方法を別に検討する必要がある。
2 履行勧告と強制執行
家庭裁判所の調停又は審判で定められた取決めが守られない場合は,その手続をした家庭裁判所に履行勧告を申し出ることができる。
裁判所の「履行勧告手続」によれば,申出は書面,口頭又は電話で行うことができ,費用はかからない。
履行勧告は,相手方に履行を促す制度であり,応じない相手方に履行を強制する効力はない。
金銭支払等を強制するには,調停調書の正本等を用いて地方裁判所へ強制執行を申し立てることを検討し,子の引渡しその他の非金銭義務については,義務の内容に応じて間接強制その他の方法を検討する必要がある。
第8 令和8年施行の家族法改正と家事調停
1 離婚後の親権及び監護
令和8年4月1日施行の改正民法では,父母が協議上の離婚をするときは,その一方又は双方を親権者と定めることができる(民法819条1項)。
協議が調わず家庭裁判所が親権者を定めるときは,父母と子との関係,父母相互の関係その他一切の事情を考慮して子の利益のために判断し,虐待のおそれ,DV等又は父母が共同して親権を行うことが困難な事情がある場合には一方を親権者と定めなければならない。
共同親権となった場合でも,子の監護者の指定,監護の分掌,特定事項について親権を行う者の指定その他の紛争が生じることがある。
具体的な申立事件及び書式は,裁判所の令和8年4月1日施行改正法案内で確認できる。
2 養育費及び親子交流
令和8年4月1日以後に,父母間で養育費の取決めをしないまま離婚した場合には,養育費を取り決めるまでの暫定的かつ補充的な制度として,子1人当たり月額2万円の法定養育費が発生する(民法766条の3)。
この額は標準的な養育費の基準ではなく,父母の収入等を踏まえた適正額を協議又は家庭裁判所の手続で定める必要がある。
親子交流では,父母間で協議が調わない場合に家庭裁判所が定める制度に加え,父母以外の親族と子との交流について,子の利益のため特に必要があると認める場合の手続が設けられた(民法766条の2)。
養育費,婚姻費用及び親子交流の調停が不成立となった場合は,別表第2事件として審判手続へ移る。
3 財産分与の申立期間
令和8年4月1日以後に離婚した場合,離婚後の財産分与を家庭裁判所へ申し立てられる期間は,離婚時から5年である(民法768条2項)。
同日前に離婚した場合は,従前どおり離婚時から2年以内に申し立てる必要がある。
財産分与の対象,評価,税務及び年金分割は別の論点を含むため,離婚時の財産分与と税金(AIリライト)で整理している。
第9 家事調停に関連する資料
日本調停協会連合会の「家事調停の流れ」は,申立てから調停期日,成立又は不成立までの概略を図示している。
調停委員会の構成,事情聴取,評議及び調停条項の実務は,調停委員の役割と実務――民事・家事調停の進め方,権限と限界(AI作成)で扱っている。
事件類型別の説明は,離婚事件に関するメモ書き,相続事件に関するメモ書き及び婚姻費用算定表の見方,計算方法と特別事情(AI作成)を参照されたい。
調停不成立後に審判へ移る事件を含む家事審判の一般的な仕組みは,家事審判に関するメモ書きで扱っている。
第10 出典・参考資料
1 法令及び最高裁判所規則
①e-Gov法令検索「家事事件手続法(平成23年法律第52号)」(9条,28条,54条,65条,245条,254条~258条,268条,271条~286条)
②e-Gov法令検索「民法(明治29年法律第89号)」(766条~766条の3,768条,819条,824条の2・3)
③最高裁判所「家事事件手続規則」(令和8年5月21日施行版)(37条,42条,47条,127条~132条の2,134条~139条)
2 裁判例
①最高裁昭和44年3月25日第三小法廷決定・昭和44年(し)第3号・刑集23巻3号212頁
3 裁判所及び法務省の資料
①裁判所「調停手続一般」
②裁判所「家事事件Q&A」
③裁判所「家事調停の申立書」
④裁判所「当事者に対する住所,氏名等の秘匿制度等」
⑤裁判所「履行勧告手続」
⑥裁判所「令和8年4月1日施行の民法等一部改正法について」
⑦法務省「民法等の一部を改正する法律について」
4 文献
①甲斐哲彦編著『家庭裁判所の家事実務と理論―家事事件手続法後の実践と潮流』日本加除出版,令和3年,38頁~55頁,58頁~77頁,82頁~90頁,350頁~415頁
②秋武憲一・片岡武編著『コンメンタール家事事件手続法Ⅱ〔第159条~第293条〕』青林書院,令和3年,244頁~286頁