労働関係

高年齢者雇用安定法に関するメモ書き

目次
1 総論
2 定年引き上げの経緯
3 高年齢者雇用継続給付の最大給付率
4 継続雇用
5 役職定年
6 関連記事その他

1 総論
(1) 中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法(昭和46年5月25日法律第68号)は,昭和61年4月30日法律第43号によって,「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」という名前に変わりました。
(2) HRドクターHPに「高齢者の雇用延長|継続雇用制度における再雇用制度と勤務延長制度の違いとは?」が載っています。

2 定年引き上げの経緯
・ 定年引き上げの経緯は以下のとおりです。
① 昭和61年10月1日に60歳定年が努力義務となりました。
② 平成2年10月1日に65歳までの再雇用が努力義務となりました。
③ 平成10年4月1日に60歳定年が義務となりました。
④ 平成12年10月1日に65歳までの高年齢者雇用確保措置が努力義務となりました。
⑤ 平成18年4月1日に高年齢者雇用確保措置が義務化となりました(当初は62歳までであり,平成25年4月以降は65歳までとなりました。)。
⑥ 平成25年4月1日に継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止されました(ただし,労使協定がある場合,令和7年度までの間,継続雇用制度の対象者を限定できます。)。
⑦ 令和3年4月1日に70歳までの高年齢者就業確保措置が努力義務となりました(厚生労働省HPの「シニア世代の“仕事力”を引き出す―改正高年齢者雇用安定法が4月から施行―」参照)。

3 高年齢者雇用継続給付の最大給付率
・ タヨログの「【2025年4月施行】雇用保険法に基づく高年齢雇用継続給付の縮小により、企業が受ける影響とは?」には「現行では高年齢者の60歳〜65歳までの賃金が60歳到達時の61%以下になった場合、減少額の15%相当額が該当の被保険者に支給されます。2025年4月以降は、雇用保険から給付される高年齢者雇用継続給付の最大給付率が15%から10%に引き下げられることが決定しました。」と書いてあります。

4 継続雇用
(1) 最高裁平成24年11月29日判決は,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条2項所定の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に基づく再雇用の制度を導入した事業主とその従業員との間に,当該制度に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係の存続が認められた事例です。
(2) 福岡高裁平成29年9月7日判決(判例秘書掲載)は,高年齢者雇用安定法の趣旨に反する事業主の行為,例えば,再雇用について,極めて不合理であって,労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し,到底受け入れがたいような労働条件を提示する行為は,継続雇用制度の導入の趣旨に反した違法性を有するものであり,事業主の負う高年齢者雇用確保措置を講じる義務の反射的効果として65歳まで安定的雇用を享受できるという法的保護に値する利益を侵害する不法行為となり得るとされた例です。
    結論として,時給が半分以下となり,月額賃金が約4分の1となったことについて,100万円の慰謝料の支払を命じました。

5 役職定年
(1) 最高裁平成12年9月7日判決は,みちのく銀行(青森市)に関する60歳定年制を採用していた銀行における55歳以上の行員を対象に専任職制度を導入する就業規則の変更のうち賃金減額の効果を有する部分がこれに同意しない右行員に対し効力を生じないとされた事例です。
(2) ガルベラ・パートナーズグループHP「労務管理|【高齢者の処遇】役職定年を適法に運用するために注意すべき論点」には以下の記載があります。
役職定年自体は法令上に定められた制度ではなく、あくまで企業の人事権に基づく人事制度や賃金制度の一環として運用されますので、制度設計の巧拙や労使合意状況に左右されます。他社で上手くいっている事例をマネしたところで、自社の給与水準にマッチしないとか、社内的な合意が得られないということであれば絵に描いた餅ということになります。


6 関連記事その他
(1)ア 平成23年4月1日以降の継続雇用については労使協定の締結が不可欠となりました(厚労省HPの「「継続雇用制度」の対象者の基準を、労使協定を締結せずに就業規則で定めている事業主の方へ!!」参照)。
イ 平成25年4月1日施行の改正高年齢者雇用安定法に基づき,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止され,令和7年3月31日に経過措置が終了します(厚労省HPの「平成25年4月1日から希望者全員の雇用確保を図るための高年齢者雇用安定法が施行されます!」参照)。
(2)ア 厚労省HPに「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」が載っています。
イ 厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査 結果の概況」によれば,定年制を定めている企業のうち,60歳定年が72.2%であり,65歳以上定年が24.5%(うち,65歳定年は21.1%)です。
(3) 以下の記事も参照して下さい。
・ 労働基準法に関するメモ書き
・ 有期労働契約に関するメモ書き
・ 労働協約
 同一労働同一賃金

有期労働契約に関するメモ書き

目次
1 契約期間中の解雇等
2 無期転換ルール
3 雇い止め
4 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
5 関連記事その他

1 契約期間中の解雇等
(1) 使用者は,有期労働契約について,やむを得ない事由がある場合でなければ,その契約期間が満了するまでの間において,労働者を解雇することはできません(労働契約法17条1項)。
(2) 使用者は,有期労働契約について,その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして,必要以上に短い期間を定めることにより,その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければなりません(労働契約法17条2項)。


2 無期転換ルール
(1) 無期転換ルール(労働契約法18条)とは,同一の使用者との間で,有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに,労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルールです。
(2) 厚生労働省HPに有期契約労働者の無期転換サポートサイト~無期転換を円滑にサポートします~が載っています。

3 雇い止め
(1) パート,アルバイト,契約社員及び派遣社員等の有期労働契約者のうち,以下のいずれかに当たる場合,労働契約法19条に基づく雇い止め法理が適用されます(jinjer Blogの「労働契約法19条に定められた「雇止め法理の法定化」とは?」参照)。
① 過去に反復更新された有期労働契約で,その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
② 労働者において,有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの
(2) 厚生労働省HPの「有期労働契約の新しいルールができました 労働契約法改正のあらまし」に,「参考3 雇止めに関するこれまでの裁判例の傾向」が載っています(リンク先のPDF16頁)。


4 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準
・ 厚生労働大臣は,①期間の定めのある労働契約の締結時及び②当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため,使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができます(労働基準法14条2項)ところ,有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年10月22日厚生労働省告示第357号)は以下のとおりです(平成25年4月1日から令和6年3月31日までのものです。)。
(雇止めの予告)
第一条 使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。
(雇止めの理由の明示)
第二条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 期間の定めのある労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
(契約期間についての配慮)
第三条 使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を一回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。


5 関連記事その他
(1) NECソリューションイノベータHP「有期雇用契約とは?トラブル防止のために大切なポイント」が載っています。
(2) 厚生労働省HPに「「家事使用人の雇用ガイドライン」を策定しました」(2024年2月8日付)が載っています。
(3) 以下の記事も参照して下さい。
・ 労働基準法に関するメモ書き
・ 同一労働同一賃金
・ 高年齢者雇用安定法に関するメモ書き

労働者名簿,賃金台帳及び記録の保存

目次
1 労働者名簿
2 賃金台帳
3 記録の保存
4 関連記事その他

1 労働者名簿
(1) 使用者は,各事業場ごとに労働者名簿を各労働者について調製し、労働者の氏名,生年月日,履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければなりませんし(労働基準法107条1項),記入すべき事項に変更があった場合,遅滞なく訂正しなければなりません(労働基準法107条2項)。
(2)ア 労働基準法施行規則53条1項によれば,労働者名簿には労働者の氏名,生年月日及び履歴のほか,以下の事項を記載しなければなりません。
① 性別
② 住所
③ 従事する業務の種類
④ 雇入の年月日
⑤ 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては,その理由を含む。)
⑥ 死亡の年月日及びその原因
イ 常時30人未満の労働者を使用する事業においては,従事する業務の種類を記入することを要しません(労働基準法施行規則53条2項)。

2 賃金台帳
(1) 使用者は,各事業場ごとに賃金台帳を調製し,賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければなりません(労働基準法108条)。
(2)ア 労働基準法施行規則54条1項によれば,賃金台帳には労働者各人別は以下の事項を記入しなければなりません。
① 氏名
② 性別
③ 賃金計算期間
④ 労働日数
⑤ 労働時間数
⑥ 延長した労働時間数,休日労働時間数及び深夜労働時間数
⑦ 基本給,手当その他賃金の種類ごとにその額
⑧ 労働基準法24条1項によって賃金の一部を控除した場合には,その額
イ 延長した労働時間数,休日労働時間数及び深夜労働時間数については,就業規則に基づいて算定する労働時間数をもってこれに代えることができます(労働基準法施行規則54条1項)。
(3) 賃金台帳の様式は,労働基準法施行規則55条及び様式第20号によって定められています(厚生労働省HPの「労働基準法関係主要様式」参照)。
(4) 使用者は,労働者名簿及び賃金台帳をあわせて調製することができます(労働基準法施行規則55条の2)。

3 記録の保存
(1) 使用者は,労働者名簿,賃金台帳及び雇入,解雇,災害補償,賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条)。
(2) 記録の保存期間の始期は以下のとおりです(労働基準法施行規則56条)。
① 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日
② 賃金台帳については、最後の記入をした日
③ 雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日
④ 災害補償に関する書類については、災害補償を終つた日
⑤ 賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日

4 関連記事その他
(1) 労働基準法施行規則が定める労働者名簿,賃金台帳等に用いるべき様式は,必要な事項の最小限度を記載すべきことを定めるものであって,横書き,縦書きその他異なる様式を用いることを妨げるものではありません(労働基準法施行規則59条の2第1項)。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

労働協約

目次
第1 総論
第2 労働協約の有効期間
第3 労働協約の規範的部分及び債務的部分
第4 労働協約の規範的効力の限界
第5 労働協約の拡張的効力
第6 ユニオン・ショップ協定
第7 就業規則と一体となった労働協約
第8 労使協定と労働協約の違い
第9 関連記事その他

第1 総論
1 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は,書面に作成し,両当事者が署名し,又は記名押印することによってその効力を生じます(労働組合法14条)。
2(1) 労使間の合意文書の表題が「覚書」,「了解事項」等の名称であっても,労働組合法14条に該当すれば,労働協約となります。
(2) 団体交渉議事録であっても労使双方が署名したものであれば,その内容によっては労働協約と解されることがあります。

第2 労働協約の有効期間
1 労働協約には,3年を超える有効期間の定めをすることができませんし(労働組合法15条1項),3年を超える有効期間の定めをした労働契約は,3年の有効期間を定めた労働協約とみなされます(労働組合法15条2項)。
2 有効期間の定めがない労働協約は,90日前に予告することで解約できます(労働組合法15条3項及び4項)。

第3 労働協約の規範的部分及び債務的部分
1(1) 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準は労働協約の規範的部分といいますところ,この部分に違反する労働契約の部分は無効となります(労働組合法16条)。
(2) 労働協約の規範的部分としては,賃金(額の決定・支払方法,定期・臨時の昇給,賞与),退職金,労働時間,休日・休暇,安全衛生,職場環境,災害補償,服務規律,人事異動,昇進,休職,解雇,定年制,福利厚生,職業訓練などを定めた部分があります(労働組合対策室HPの「労働協約 規範的効力と債務的効力」参照)。
(3) 以下の理由に基づき,個別の労働契約において労働協約の定める労働条件を上回ることは許されないと解されています(ユニオン対策に強い弁護士による無料相談HP「労働協約の内容よりも労働者に有利な個別契約を締結することはできますか?」参照)。
① 労働基準法13条が「基準に達しない労働条件」と定めているのと異なり,労働組合法は16条は「基準に違反する労働契約の部分」と定めていること
② 企業別に締結されることが多い日本の労働協約は,労働条件を直接設定することを意図している場合が多いこと
③ 個別の労働契約において労働協約の定める労働条件を上回ることが認められた場合,使用者は,厄介な組合員に対し,労働協約で定めた労働条件よりも有利な労働条件を提示するなどして労働組合の弱体化を図る可能性があること
2 労働組合と使用者の関係を定めた部分を労働協約の債務的部分といいますところ,労働協約の債務的部分としては,非組合員の範囲,ユニオンショップ,便宜供与(在籍専従・組合事務所・掲示板・組合休暇など),労使協議制,団体交渉のルール(委任禁止事項・団体交渉の時間なと),平和条項(労働協約の有効期間中に労働協約に定める事項の改廃を目的とした争議行為を行わないという条項)などを定めた部分があります(労働組合対策室HPの「労働協約 規範的効力と債務的効力」参照)。

第4 労働協約の規範的効力の限界
1 労働協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合,労働協約の規範的効力が否定されることがあります(朝日火災海上保険事件に関する最高裁平成9年3月27日判決参照)。
2(1) 具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約の遡及適用により処分又は変更することは許されません(最高裁平成31年4月25日判決。なお,先例として,最高裁平成元年9月7日判決及び最高裁平成8年3月26日判決参照)。
(2) 使用者と労働組合との間の当該労働組合に所属する労働者の未払賃金に係る債権を放棄する旨の合意につき,当該労働組合が当該労働者を代理して当該合意をしたなど,その効果が当該労働者に帰属することを基礎付ける事情はうかがわれないという事実関係の下においては,これにより当該債権が放棄されたということはできません(最高裁平成31年4月25日判決)。

第5 労働協約の拡張適用
1(1) 一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至った場合,当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても,不利益部分も含めて,当該労働協約が適用されます(労働組合法17条のほか,最高裁平成8年3月26日判決)。
(2) 労働組合法17条の趣旨は,主として一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し,労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあります(最高裁平成8年3月26日判決)。
(3) 同種の労働者の4分の3以上かどうかにつき,最高裁平成8年3月26日判決では支店単位で判断されました。
2(1) 労働協約の拡張適用が認められるのは,労働協約の規範的部分だけです(最高裁昭和48年11月8日判決)。
(2) 労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容,労働協約が締結されるに至った経緯,右労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし,労働協約を右労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,その効力を右労働者に及ぼすことはできません(最高裁平成8年3月26日判決)。
3 厚生労働省HPに「労働協約の拡張適用について」が載っています。

第6 ユニオン・ショップ協定
1 ユニオン・ショップ協定は,労働協約の一種でありますところ,労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に,使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものです。
2 ユニオン・ショップ協定のうち,締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は,民法90条により無効です(日本シェーリング事件に関する最高裁平成元年12月14日判決)。

第7 就業規則と一体となった労働協約
・ 就業規則は,労働条件を統一的・画一的に定めるものとして,本来有効期間の定めのないものであり,労働協約が失効して空白となる労働契約の内容を補充する機能も有すべきものであることを考慮すれば,就業規則に取り入れられこれと一体となっている右退職金協定の支給基準は,右退職金協定が有効期間の満了により失効しても,当然には効力を失わず,退職金額の決定についてよるべき退職金協定のない労働者については,右の支給基準により退職金額が決定されます(最高裁平成元年9月7日判決)。

第8 労働協約と労使協定の違い
1 労働協約は以下の点で労使協定と異なります(労働政策研究・研修機構HP「労働協約と労使協定」参照)。
① 趣旨・目的
・   労働協約は,組合員を代表する労働組合が,労働者と使用者間に存在する交渉力格差を集団的交渉によって解消し,よりよい労働条件を獲得しようとするものであり,組合員の労働契約の規律を本来の目的としています。
    労働組合が労働協約によって労働条件を独自に設定する自由(協約自治)は憲法28条により保障され,労働協約には労働組合法16条によって規範的効力が付与されています。
・ 労使協定は,国家が定める最低労働条件を全面的・一律に適用することが実務上不都合と考えられる事項について,事業場の全従業員のために最低労働条件規制の例外を認めるための手段として,法政策上導入されたものです。
    例えば,労働時間は,1日8時間・週40時間が上限である(労働基準法32条)が,いついかなる場合もこの法定労働時間を超えてはならないとすると,業務上の必要性に対応できず,また労働者の意向にも反することがあるため,現場の労使の判断を尊重する趣旨で,労働者代表との合意(労使協定)による労働時間延長が許容されています(労働基準法36条1項)。
② 締結主体
・ 労働協約は労働組合(労働組合法2条)が締結主体であり,多数組合(過半数組合)か少数組合かに関わらず,すべての労働組合が締結権限を持ちます。
・ 労使協定は,当該事業場で過半数を組織する労働組合が存在する場合にはその労働組合,そうした労働組合が存在しない場合には,過半数を代表する者(過半数代表者)が締結主体となり,「過半数」の代表であることが要件です。
    ただし,労使協定は,労働組合が組織されていない事業場でも,過半数代表者を1名選出すれば,その者が締結できるという点では,締結主体の選択肢が広いです。
③ 効力要件
・ 労働協約の効力要件は書面で作成されていること及び両当事者の署名又は記名押印です(労働組合法14条)。
・ 労使協定の効力要件は書面で作成されていることのほか,①労働基準法,②育児・介護休業法又は③高年齢者雇用安定法9条2項(ただし,平成24年9月5日法律第78号による改正前のものであり,令和6年度までに限る。)所定の事項が記載されていることです。
    また,36協定のように,一部の労使協定については,労働基準監督署への届出が効力要件とされています。
④ 効力範囲
・ 労働協約は労働組合を単位として適用されるものであり,原則として当該協約を締結した組合の組合員にのみ適用されます。
・ 労使協定は事業場を単位として適用されるものであり,当該事業場の全労働者に適用することが予定されています。
⑤ 規範的効力の有無
・ 労働協約の規範的部分は労働契約を規律する規範的効力を有します(労働組合法16条)。
・ 労働基準法上の労使協定の効力は,その協定に定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果を持つものであり,労働者の民事上の義務は,当該協定から直接生じるものではなく,労働協約,就業規則等の根拠が必要です(改正労働基準法の施行について(昭和63年1月1日付の労働書労働基準局長及び婦人局長の通達の「労使協定の効力」参照)
2 労働政策研究・研修機構HP「労働協約と労使協定」には以下の記載があります。
     労使協定自体から労働契約を規律する効力は生じないので,それに基づく処遇を行うには,労働協約,就業規則又は労働契約による具体的権利義務の設定が必要である。問題は,労使協定が過半数組合と使用者の間で,労組法 14条の要件を満たして締結された場合に,当該協定を同時に労働協約と扱うことができるかである。労使協定には書面性が必要であり,労組法 14条の要件はこれに加えて署名または記名押印を要求するにとどまるので,労使協定が同条の形式を満たすことは実際上多いと考えられる。
     通説は,現行法が労使協定を労働協約の形式で締結しうることを前提としている(労基法施行規則16条2項(山中注:現在の労働基準法施行規則17条1項1号),24条の2第2項)ことから,当該労使協定は同時に労働協約であり,当該組合の組合員に対しては規範的効力が及ぶとしている。

第9 関連記事その他
1 労働者及び使用者は,労働協約,就業規則及び労働契約を遵守し,誠実に各々その義務を履行しなければなりません(労働基準法2条2項)。
2 就業規則が法令又は労働協約に反する場合,法令又は労働協約が優先します(労働契約法13条)。
3 以下の記事も参照してください。
・ 同一労働同一賃金
・ 高年齢者雇用安定法に関するメモ書き
・ 就業規則に関するメモ書き
・ 労働基準法に関するメモ書き

時間外労働,休日労働及び深夜労働並びに残業代請求

目次
第1 総論
第2 労働基準法上の労働時間の意義
第3 労働時間の管理
第4 36協定
第5 時間外労働
第6 休日労働
第7 深夜労働
第8 割増賃金の基礎となる賃金
第9 管理監督者
第10 残業代請求
第11 固定残業代
第12 歩合給と残業代
第13 関連記事その他

第1 総論
1 使用者は,労働者に時間外労働,休日労働,深夜労働を行わせた場合,法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃金を支払う必要があります(時間外労働又は休日労働につき労働基準法37条1項・労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成6年1月4日政令第5号),深夜労働につき労働基準法37条4項。)。
2(1) 割増賃金率は時間外労働が25%以上(1か月60時間を超える時間外労働については50%以上),休日労働が35%以上,深夜労働が25%以上です。
(2) 休日労働の割増賃金が35%となったのは平成6年4月1日です。
(3) 1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金が50%となったのは平成22年4月1日です(厚生労働省HPの「労働基準法の一部改正法が成立~平成22年4月1日から施行されます~」参照)。
3 割増賃金は,1時間当たりの賃金額×時間外労働,休日労働又は深夜労働を行わせた時間数×割増賃金率で計算されます。
4 残業時間の削減方法につき,社会保険労務士はなだ事務所HPの「ノー残業の労務管理術」が参考になります。
5(1) 平成11年3月31日までは,女性労働者については原則として,一定の時間を超える時間外労働のほか,休日労働及び深夜労働が禁止されていましたが,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律(平成9年6月18日法律第92号)により,これらの制限が撤廃されました。
(2) やまがた労働情報HPに,「3.労働時間などに係る女性保護規定について」が載っています。

第2 労働基準法上の労働時間の意義
1 労働基準法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,右の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではありません(三菱重工業長崎造船所事件に関する最高裁平成12年3月9日判決)。
2(1) 大星ビル管理事件に関する最高裁平成14年2月28日判決は,ビル管理会社の従業員が従事する泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるとされた事例です。
(2) 大林ファシリティーズ事件に関する最高裁平成19年10月19日判決はマンションの住み込み管理員が所定労働時間の前後の一定の時間に断続的な業務に従事していた場合において,上記一定の時間が,管理員室の隣の居室に居て実作業に従事していない時間を含めて労働基準法上の労働時間に当たるとされた事例です。
3 厚生労働省HPに「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について」(平成30年11月19日の配布資料),及び「医師の宿日直許可基準・研鑽に係る労働時間に関する通達」が載っています。

第3 労働時間の管理
1 厚生労働省HPに「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」が載っています。
2 名古屋の弁護士による企業法務相談HPに「-タイムカードの意味-打刻時間と残業時間」が載っています。
3 福岡 顧問弁護士労務相談HP「賃金や労働時間の端数処理は労基法違反?認められるのはどんなとき?」が載っています。
4 愛媛労働局HPの「労働時間や賃金計算の端数処理にはルールがあります!【新居浜労働基準監督署】」に,「端数処理のソレダメ!」と題するチラシが載っています。
5 最高裁令和5年3月10日判決は,雇用契約に基づく残業手当等の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断に違法があるとされた事例です。


第4 36協定
1(1) 使用者が労働者に時間外労働又は休日労働を行わせるためには,労働基準法36条に基づき,時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)を労働組合又は労働者の過半数代表者(労働基準法施行規則6条の2)との間で締結し,36協定を労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法36条1項)。
(2) この場合における休日労働は,法定休日における労働のことです。
2 使用者は,36協定をする場合,時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由,業務の種類,労働者の数並びに一日及び一日を超える一定の期間についての延長することができる時間又は労働させることができる休日について,協定しなければなりません(労働基準法施行規則16条1項)。
3 36協定は就業規則と同様に,①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,②書面を交付すること等の方法により,労働者に周知する必要があります(労働基準法106条1項・労働基準法施行規則52条の2)。
4 36協定は,労働協約による場合を除き,有効期間を定める必要があります(労働基準法施行規則16条2項)。
5(1) 厚生労働省HPに「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」が載っていますところ,平成31年4月1日以降(大企業の場合)又は令和2年4月1日以降(中小企業)については,36協定で定める時間数の範囲内であっても,時間外労働及び休日労働の合計の時間数については,1ヶ月100時間未満,2ヶ月から6ヶ月平均80時間以内とする必要があります。
(2) 働き方改革研究所HPに「「知らなかった」では済まされない!36協定の基礎知識」が載っています。
6(1) 平成31年3月31日以前(大企業の場合)又は令和2年4月1日以前(中小企業の場合)につき,労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年10月28日労働省告示第154号)(通称は「限度基準告示」です。)が適用されていましたところ,限度基準告示によれば,一般の労働者の場合,延長時間の限度は以下のとおりでした(厚生労働省HPの「時間外労働の限度に関する基準」参照)。
1週間当たり 15時間
2週間当たり 27時間
4週間当たり 43時間
1か月当たり 45時間
2か月当たり 81時間
3か月当たり120時間
1年間当たり360時間
(2) 限度基準告示が制定される以前は,昭和57年制定の目安指針があるだけでした(厚生労働省HPの「労働時間制度の変遷」参照)。
7 労働基準法32条の労働時間を延長して労働させることにつき,使用者が,当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し,これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において,使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは,当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り,それが具体的労働契約の内容をなすから,右就業規則の規定の適用を受ける労働者は,その定めるところに従い,労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負います(最高裁平成3年11月28日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和43年12月25日判決最高裁昭和61年3月13日判決参照)。


第5 時間外労働
1(1) 1日8時間,1週間40時間が法定労働時間です(労働基準法32条)から,それを超過した分が法定時間外労働となります。
(2) 法定労働時間は,週48時間(昭和22年)→週46時間(昭和63年)→週44時間(平成3年)→原則として週40時間(平成6年)→週40時間(平成9年)と推移しています(厚生労働省HPの「労働時間制度の変遷」参照)。
2(1) 就業規則等で定められた労働時間が所定労働時間です。
そして,所定労働時間を超過するものの,法定労働時間を超過しない場合,法内時間外労働(法定内残業)となります。
(2) いわゆる残業は所定外労働のことであり,法内時間外労働及び法定時間外労働の両方が含まれます。
3 25%以上の割増賃金が発生するのは法定時間外労働だけです。


第6 休日労働
1 休日労働には,割増率が35%となる法定休日労働と,割増率が25%又は0%となる法定外休日労働があります。
2(1)   就業規則で法定休日が定められている場合,その日が法定休日となります(労働基準法35条1項参照)。
そのため,例えば,就業規則で日曜日が法定休日と定められている場合,日曜日に働いた分が法定休日労働となります。
(2)   就業規則で法定休日が特定されていない場合で,歴週(日~土)の日曜日及び土曜日の両方に労働した場合,当該歴週において後順に位置する土曜日における労働が法定休日労働となります(厚生労働省HPの「改正労働基準法に係る質疑応答」(平成21年10月5日付)のA10参照)。
3(1) 就業規則等で定められた休日に働いた分のうち,法定休日労働に当たらないものが法定外休日労働となります。
(2) 法定外休日労働のうち,1週間40時間を超える分については法定時間外労働(法定外残業)として割増率が25%となり,1週間40時間を超えない分については法内時間外労働(法定内残業)として割増率が0%となります。
4   予め休日と定められていた日を労働日とし,その代わりに他の労働日を休日としたという振替休日の場合,あらかじめ休日と定められた日が「労働日」となり,その代わりとして振り返られた日が「休日」となりますから,もともとの休日の労働させた日については「休日労働」とはならず,休日労働に対する割増賃金の支払義務は発生しません。
    これに対して休日労働が行われた後に,その代償としてその後の特定の労働日を休日としたという代休の場合,前もって休日を振り替えたことになりませんから,休日労働に対する割増賃金の支払義務が発生します(厚生労働省HPの「振替休日と代休の違いは何か。」参照)。


第7 深夜労働
1 1日8時間以内又は1週間40時間以内であっても,午後10時から午前5時の時間帯に働いた場合,深夜労働時間となります。
2 法定時間外労働が深夜労働となった場合,割増率は50%以上となり,休日労働が深夜労働となった場合,割増率は60%以上となります。
3 タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に,時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは,右歩合給の支給によって労働基準法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできません(最高裁平成6年6月13日判決)。
4 NPO法人長崎人権研究所HPに「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」(平成10年労働省告示第21号)及び「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」(平成10年6月11日付の労働省女性局長通達)が載っています。

第8 割増賃金の基礎となる賃金
1 割増賃金の基礎となるのは,所定労働時間の労働に対して支払われる1時間当たりの賃金額です。
例えば,月給制の場合,各種手当も含めた月給を1か月の所定労働時間で割って,1時間当たりの賃金額を算出します。
その際,以下の①ないし⑦は,労働と直接的な関係が薄く,個人的事情に基づいて支給されていることなどから,基礎となる賃金から除外できます(労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条)。
① 家族手当
② 通勤手当
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
2 厚生労働省HPの「割増賃金の基礎となる賃金とは?」が参考になります。


第9 管理監督者
1(1) 管理監督者の場合,労働基準法で定められた労働時間(32条),休憩(34条)及び休日(36条及び37条)の制限を受けません(41条2号)。
(2) 管理監督者であっても労働基準法37条3項に基づく深夜割増賃金を請求することはできるものの,管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることはできません(最高裁平成21年12月18日判決)。
2(1) 管理監督者に該当するかどうかは以下の判断基準に基づき総合的に判断して決まるのであって,役職名で決まるわけではありません(厚生労働省HPの「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」参照)。
① 労働時間,休憩,休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるをえない重要な職務内容を有していること
② 労働時間,休憩,休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
③ 現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないようなものであること
④ 賃金等について,その地位にふさわしい待遇がなされていること
(2) 判例タイムズ1351号(2021年9月15日号)に「管理監督者性をめぐる裁判例と実務」(執筆者は43期の福島政幸裁判官)が載っています。
3 平成31年4月1日以降については,使用者は管理監督者についても労働時間を把握する必要があります(労働安全衛生法66条の8の3)。
4 弁護士による企業経営に役立つ労働コラム「管理監督者の残業代|管理者との違いとは」には「管理職の肩書は与えられているものの、実際の働き方や待遇をみると管理監督者とはいえない「名ばかり管理職」に対しては、会社は残業代を支払わなければなりません。」と書いてあります。


第10 残業代請求
1 労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解されています(最高裁平成29年7月7日判決。なお,先例として,最高裁昭和47年4月6日判決参照)。
2 外部HPの「正しく計算されていますか?~残業代の計算方法」のほか,「従業員の未払い残業代請求における企業側の反論の重要ポイントを弁護士が解説」が参考になります。
3(1) 退職労働者の賃金に係る遅延利息は年14.6%となっています(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・賃金の支払の確保等に関する法律施行令1条)。
(2) 「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つている」場合,遅延利息は年3%となります(賃金の支払の確保等に関する法律6条2項,賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条4号)。
4(1) 賃金請求権の消滅時効は2年であり,退職金請求権の消滅時効は5年です(労働基準法115条)。
(2) 昭和63年4月1日施行の労働基準法の一部を改正する法律(昭和62年9月26日法律第99号)による改正前は,退職金請求権の消滅時効も2年でした(最高裁昭和49年11月8日判決)。
(3) 労働問題弁護士ナビ「【2020年4月から】残業代請求の時効は3年に延長|時効を中断させる方法まで」が載っています(労働基準法115条・143条1項)。
5 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)等の解説が厚生労働省HPの「労働時間等の設定の改善」に載っています。
6 残業代請求請求訴訟を提起した場合,京都第一法律事務所が作成した「きょうとソフト」を使用するように裁判所からいわれることがあります(ダウンロードページにつき,京都第一法律事務所HPの「残業代計算ソフト(エクセルシート)「給与第一」」参照)。
ただし,変形労働時間制には対応していません。
7   二弁フロンティア2017年7月号「残業代請求事件対応の基礎と最新実務~労働者側から~(前編)」が載っていて,二弁フロンティア2017年8月号「残業代請求事件対応の基礎と最新実務~使用者側から~(後編)」が載っています。
8 浦部孝法弁護士ブログに「残業代請求するよりも職探しした方がよい件」(平成26年5月2日付)が載っています。
9   残業代請求の実体験談HPの「労働基準監督署は動いてくれるのか?」には以下の記載があります。
証拠が充分に揃っていて違法性が高く、複数の人が関係する案件では動いてくれますが、個人の案件では動いてくれない様な感じですね。後で弁護士さんから聞いたんですが、時間管理を行っていない事自体が問題で、厳しい対応をしなければいけないはずなんです。担当弁護士さんも呆れてましたね。結局、のらりくらりでかわされて時間だけ無駄に使ってしまいました。


第11 固定残業代
1 基本給に固定残業代が含まれているというタイプの固定残業代制度が有効となるためには,通常の労働に対する賃金部分と固定残業部分(一定時間分の残業代)とが明確に区別されている必要があります(未払い賃金・残業代請求ネット相談室HP「基本給に固定残業代が含まれるとの主張は有効か?」のほか,テックジャパン事件判決(最高裁平成24年3月8日判決)参照)。
2 未払い賃金・残業代請求ネット相談室HP「最一小判昭和63年7月14日(小里機材事件判決)」には「最高裁としても,小里事件判決上告審は,固定残業代制度の判断基準を最高裁として示した判決ではない(あくまで原審の判断を挙げているだけ)というように捉えているというではないかと思われます。」と書いてあります。


第12 歩合給と残業代
1 最高裁令和2年3月30日判決は,歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づいてされた残業手当等の支払により労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないとされた事例です。
2 最高裁令和5年3月10日判決は,雇用契約に基づく残業手当等の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断に違法があるとされた事例でありますところ,例えば,以下の判示があります。
    新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。そうすると、本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。


第13 関連記事その他
1   日本労働組合総連合会(連合)HP「世論調査」に掲載されている「36協定に関する調査2017」(2017年7月7日掲載)には以下の趣旨の記載があります。
① 「残業を命じられることがある」6割強、1ヶ月の残業時間 平均22.5時間
② 「会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要」
③ 認知率は5割半ば、20代では半数を下回る結果に
④ 勤め先が36協定を「締結している」4割半ば、
⑤ 「締結していない」2割弱、「締結しているかどうかわからない」4割弱
⑥ 心身の健康に支障をきたすと感じる1ヶ月の残業時間 平均46.2時間
2(1) ホワイトカラーエグゼンプションとは,従来の管理監督者に加え,仕事や時間管理において自己裁量の高いホワイトカラー労働者に対し,労働時間等の規制の適用を免除することをいいます。
この場合,ホワイトカラーとして裁量的業務の従事者であり,かつ,一定以上の年収の労働者であれば,労使協定の締結等により時間管理のエグゼンプト(適用除外)を行えることとなります。
(2) 日本経済団体連合会は,平成17年6月21日付の「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」において年収400万円以上のホワイトカラーについてホワイトカラーエグゼンプションを適用すべきと主張しています。
3 icare HPに「フレックスタイム制の基本が8分でわかる!」が載っています。
4(1) 国立国会図書館HP「調査資料」2018年に,「人工知能・ロボットと労働・雇用をめぐる視点(平成29年度 科学技術に関する調査プロジェクト)」が載っています。
(2) ヨケン by IT Forward「「休憩時間が取れなかった場合」どうする?3つのケースで考える」が載っています。
(3) 労務事情2024年2月1日号に「定額残業代に関する裁判例の動向から見る実務上の留意点」が載っています。
5 令和4年5月9日発効の,東京弁護士会の戒告の「処分の理由の要旨」は以下のとおりです。
  被懲戒者は、所属事務所の代表者であったところ、2016年9月頃、上記事務所に事務員として勤務してきた懲戒請求者から残業代の取扱いにつき改善を求める書面を受け取り、上記事務所における事務員の残業代の取扱いに問題があることを認識したにもかかわらず、2017年12月下旬頃まで残業代の取扱いについて改善是正する措置を実施しなかった。
  被懲戒者の上記行為は、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
6 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

就業規則に関するメモ書き

目次
1 総論
2 就業規則の記載事項
2の2 福利厚生と就業規則
3 就業規則の作成手続
4 就業規則の周知及びその法的効果
5 就業規則に基づく懲戒
6 就業規則の変更
7 就業規則で定める基準に達しない労働条件
8 公序良俗違反で就業規則が無効となった事例
9 賞与の支給日に関する就業規則の記載
10 関連記事その他

1 総論
(1) 就業規則は,労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること,職場内の規律などについて定めた職場における規則集です(厚生労働省HPの「就業規則を作成しましょう」参照)。
(2) 常時10人以上の労働者を使用する事業場が就業規則を作成し,又は変更する場合,所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法89条柱書)。
(3) 就業規則の一括届出制度は,一括して届け出る本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が同じ内容であるものに限り利用できます(東京労働局HPの「就業規則一括届出制度」参照)。
(4)ア 賃金規程及び育児介護休業規程のように就業規則に関連するものについても労基署への届出義務があります。
イ みらいコンサルティンググループHP「相談室Q&A」には「就業規則とは別に定めている規程であっても、就業規則の記載事項に関する規程については、就業規則の一部として届け出をする必要がある」と書いてあります。

2 就業規則の記載事項
(1) 就業規則の絶対的記載事項は以下のとおりです。
① 始業及び終業の時刻,休憩時間,休日,休暇,就業時転換に関する事項
② 賃金の決定,計算及び支払の方法,賃金の締め切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇事由を含む。)
(2) 就業規則の相対的記載事項は以下のとおりです。
① 退職手当について,適用される労働者の範囲,決定,計算及び支払の方法並びに支払の時期に関する事項
② 臨時の賃金及び最低賃金額に関する事項
③ 食費、作業用品その他の労働者の負担に関する事項
④ 安全及び衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰・制裁の定めについてその種類・程度に関する事項
⑧ 当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項
(3) 労働基準法89条に列挙された事項以外の事項であっても,使用者は就業規則に任意の事項を記載することができ,これを任意的記載事項といいます。


2の2 福利厚生と就業規則
(1)ア 労働条件を決定する根拠は,労働協約,就業規則及び労働契約であります(労働基準法2条)ところ,短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律3条は「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、その就業の実態等を考慮して、適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善及び通常の労働者への転換(短時間・有期雇用労働者が雇用される事業所において通常の労働者として雇い入れられることをいう。以下同じ。)の推進(以下「雇用管理の改善等」という。)に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとする。」と定めていて,労働条件と福利厚生を区別しています。
イ 労働条件にも該当する福利厚生制度の例としては,①通常の社宅(つまり,業務社宅以外の社宅),②団体定期保険を支払原資とする死亡退職金及び弔慰金並びに③留学・研修補助があります(労働政策研究・研修機構HP「福利厚生と労働法上の諸問題」参照)。
(2)ア 労働政策研究・研修機構HP「福利厚生と労働法上の諸問題」には以下の記載があります。
    労基法89条が定める就業規則の必要記載事項については,同条で列挙されている個別事項に該当しない福利厚生でも, 「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては, これに関する事項」 (同条10号) にあたれば,相対的必要記載事項として就業規則に規定すべきこととされている。現実にも,就業規則本体ないし別規程で福利厚生につき定める例が少なくない 。 しかし,福利厚生については個別の必要記載事項として明示されていないために, 当該事業場の労働者すべてに適用される福利厚生であっても,就業規則としての作成をはじめ,労基法所定の手続が十分になされず,労基法違反が問題となったり,単なる社内内規として存在し,その法的意義が問題となる例も少なくない。
イ 社食DELI(お弁当専門の社員食堂サービス)HP「福利厚生を導入したら就業規則に書かないといけない? 正しい手順と注意点を解説」には以下の記載があります。
    特定の商品やサービスに対する社員割引制度は、福利厚生として一般的に提供されるものです。割引制度は労働条件の一部ではありませんし、個々の割引制度の詳細(割引率、対象商品など)は頻繁に変更されることがあるため、就業規則への記載は必要なく、一般的には社内の通知やガイドラインなどで管理されることが多いです。

3 就業規則の作成手続
(1)ア 使用者は,就業規則の作成又は変更について,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労働基準法90条1項)。
イ 就業規則に添付する意見書は,労働者を代表する者の氏名を記載したものでなければなりません(労働基準法施行規則49条2項)。
(2) 労働者の過半数を代表する者は以下のいずれにも該当する者であり(労働基準法施行規則6条の2第1項)
① 管理監督者(労働基準法41条2号)ではないこと
② 労使協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。
→ 「過半数代表者の選出方法として、(a)その者が労働者の過半数を代表して労使協定を締結することの適否について判断する機会が当該事業場の労働者に与えられており、すなわち、使用者の指名などその意向に沿って選出するようなものであってはならず、かつ、(b)当該事業場の過半数の労働者がその者を支持していると認められる民主的な手続が採られていること、すなわち、労働者の投票、挙手等の方法により選出されること」とされています(昭和63年1月1日基発第1号の「労使協定の締結の適正手続」参照)。
(3) 使用者は,労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労働基準法施行規則6条の2第3項)。


4 就業規則の周知及びその法的効果
(1) 使用者は,就業規則を以下の方法により,労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条1項,労働基準法施行規則52条の2)。
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること。
② 書面を労働者に交付すること。
③ 磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
(2) 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合,労働契約の内容は,別段の合意がない限り,その就業規則で定める労働条件によるものとされます(労働契約法7条)。
(3) 平成24年8月10日付の労働契約法の施行通達10頁及び11頁には以下の記載があります。
ア 法第7条本文の「合理的な労働条件」は、個々の労働条件について判断されるものであり、就業規則において合理的な労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じ、合理的でない労働条件を定めた部分については同条本文の法的効果が生じないこととなるものであること。
就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定趣旨や根本精神を宣言した規定、労使協議の手続に関する規定等労働条件でないものについては、法第7条本文によっても労働契約の内容とはならないものであること。
イ 法第7条の「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第89条の「就業規則」と同様であるが、法第7条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第89条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれるものであること。
ウ 法第7条の「周知」とは、例えば、
①  常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
②  書面を労働者に交付すること
③  磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいうものであること。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、法第7条の「周知させていた」に該当するものであること。なお、労働基準法第106条の「周知」は、労働基準法施行規則第52条の2により、①から③までのいずれかの方法によるべきこととされているが、法第7条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるものであること。
(4) 届出事業場に所属する労働者等からの就業規則の開示要請の取扱いについて(平成13年4月10日付の厚生労働省労働基準局長の文書)には「開示を行う対象者」として以下の記載があります。
    開示を行う対象者は、当該届出事業場に所属する労働者(労働基準法第9条に該当する者)及び使用者(同法第10条に該当する者)のほか、当該届出事業場を退職した者であって、当該事業場との間で権利義務関係に争い等を有しているものであること。


5 就業規則に基づく懲戒
(1) 使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要します(最高裁平成15年10月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和54年10月30日判決参照)。
(2) 就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁大法廷昭和43年12月15日判決)ものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要します(最高裁平成15年10月10日判決)。
(3) 使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は無効となります(労働契約法15条)。
(4)  懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為の存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることは,特段の事情のない限り,許されません(山口観光事件に関する最高裁平成8年9月26日判決)。


6 就業規則の変更
(1) 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,労働契約において別段の合意が存在していた場合を除き,当該変更後の就業規則に定めるところによることとなります(労働契約法10条)。
(2)ア 労働契約に定年の定めがないということは,ただ,雇用期間の定めがないというだけのことで,労働者に対して終身雇用を保障したり,将来にわたって定年制を採用しないことを意味するものではありません(最高裁大法廷昭和43年12月25日判決)。
イ 55歳から60歳への定年延長に伴い従前の58歳までの定年後在職制度の下で期待することができた賃金等の労働条件に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更が有効とされた事例として,第四銀行事件に関する最高裁平成9年2月28日判決があります。
(3) 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものです(最高裁平成28年2月19日判決)。

7 就業規則で定める基準に達しない労働条件
・ 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については,無効となります。この場合,無効となった部分は,就業規則で定める基準によります(労働契約法12条)。

8 公序良俗違反で就業規則が無効となった事例
・ 会社がその就業規則中に定年年齢を男子60歳,女子55歳と定めた場合において,担当職務が相当広範囲にわたっていて女子従業員全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員とみるべき根拠はなく,労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡は生じておらず,少なくとも60歳前後までは男女とも右会社の通常の職務であれば職務遂行能力に欠けるところはなく,一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないなど,原判示の事情があって,会社の企業経営上定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは,右就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は,性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効です(最高裁昭和56年3月24日判決)。


9 賞与の支給日に関する就業規則の記載
・ 就業規則の「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき一回支給する。」との定めが「賞与は決算期毎の業績により支給日に在籍している者に対し各決算期につき一回支給する。」と改訂された場合において,右改訂前から,年二回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し,右就業規則の改訂は単に従業員組合の要請によつて右慣行を明文化したにとどまるものであって,その内容においても合理性を有するときは,賞与の支給日前に退職した者は当該賞与の受給権を有しません(最高裁昭和57年10月7日判決)。


10 関連記事その他
(1) 厚生労働省HPの「モデル就業規則について」モデル就業規則(令和3年4月)が載っています。
(2) 労働者及び使用者は,労働協約,就業規則及び労働契約を遵守し,誠実に各々その義務を履行しなければなりません(労働基準法2条2項)。
(3) 最高裁平成22年3月25日判決は,金属工作機械部分品の製造等を業とするX会社を退職後の競業避止義務に関する特約等の定めなく退職した従業員において,別会社を事業主体として,X会社と同種の事業を営み,その取引先から継続的に仕事を受注した行為が,X会社に対する不法行為に当たらないとされた事例です。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

年次有給休暇に関するメモ書き

目次
第1 総論
1 年次有給休暇の付与
2 時季指定権及び時季変更権
3 不利益取扱いの禁止
第2 労働者の時季指定権
1 総論
2 労働者の時季指定権の限界
3 その他
第3 使用者の時季指定義務及び計画年休
1 使用者の時季指定義務
2 年次有給休暇の計画的付与
3 その他
第4 使用者の時季変更権
1 総論
2 勤務割による勤務体制が取られている場合の時季変更権
3 使用者の時季指定権行使を適法とした最高裁判例
第5 年次有給休暇の賃金及び買取
1 年次有給休暇の賃金
2 年次有給休暇の買取
第6 年次有給休暇と休業補償給付及び傷病手当金との関係

1 年次有給休暇と休業補償給付との関係
2 年次有給休暇と傷病手当金との関係
第7 関連記事その他

第1 総論
1 年次有給休暇の付与
(1) 雇入れの日から6か月間継続勤務し,全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては最低10日の年次有給休暇を与える必要があります(労働基準法39条1項)。
(2) 通常の労働者の年次有給休暇の日数は、その後、勤続年数が1年増すごとに所定の日数を加えた年次有給休暇を付与しなければならないのであって,勤続6年半以上の場合,毎年20日の年次有給休暇を与える必要があります(労働基準法39条2項)。 
2 時季指定権及び時季変更権

・ 年次有給休暇は,計画的付与の場合を除き,労働者の請求する時季に与えなければなりません。ただし,労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,使用者は他の時季に変更することができます(労働基準法39条5項)。
3 不利益取扱いの禁止
・ 年次有給休暇を取得した労働者に対して,賃金の減額や精皆勤手当,賞与の額の算定に際しての年次有給休暇取得日を欠勤として取扱う等の不利益な取扱いをしてはなりません(労働基準法附則136条)。

第2 労働者の時季指定権
1 総論
(1) 休暇の時季指定の効果は,使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって,年次休暇の成立要件として,労働者による「休暇の請求」や,これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はありません。
    そのため,労働基準法39条に基づき,労働者が,その有する年次有給休暇の日数の範囲内で,始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは,客観的に同条5項ただし書所定の事由が存在し,かつ,これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り,右の指定によって年次有給休暇が成立し,当該労働日における就労義務が消滅します(最高裁昭和48年3月2日判決)。
(2) 年次有給休暇における休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり,休暇をどのように利用するかは,使用者の干渉を許さない労働者の自由である(最高裁昭和48年3月2日判決)ものの,時季指定権の行使が権利の濫用として無効とされるとき場合,年次有給休暇の自由利用の原則が問題とされる余地はありません(東京高裁平成11年4月20日判決)。
(3) 年次有給休暇は,1日単位で与えることが原則ですが,労使協定を結べば,1時間単位で与えることができます(ただし,上限は1年で5日分までです)(労働基準法39条4項)
2 労働者の時季指定権の限界 
(1) 労働者が請求していた年次有給休暇の時季指定日に,たまたまその所属する事業場において予定を繰り上げてストライキが実施されることになり,当該労働者が,右ストライキに参加しその事業場の業務の正常な運営を阻害する目的をもって,右請求を維持して職場を離脱した場合には,右請求に係る時季指定日に年次有給休暇は成立しません(最高裁平成3年11月19日判決)。
(2) 労基法39条5項は,労働者の時季指定権に対抗するための手段として,使用者に対して時季変更権を付与しているにとどまり,使用者としては,時季指定権の行使に対しては,常に時季変更権によって対抗することができるだけであるという趣旨まで含むものではありません(東京高裁平成11年4月20日判決)。
3 その他
・ 会社の業務として実施される社員旅行を休む場合,年次有給休暇を取得するのが普通であると思います。

第3 使用者の時季指定義務及び計画年休
1 使用者の時季指定義務
    年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません(厚生労働省HPの「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」の4の問9の答え参照)。
    ただし,平成31年4月から,全ての企業において,年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して,年次有給休暇の日数のうち年5日については,使用者が時季を指定して取得させることが必要となりました(厚生労働省HPの「年次有給休暇の時季指定義務」参照)。
(2) 年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては,使用者による時季指定は不要です(労働基準法39条8項)。
2 年次有給休暇の計画的付与
(1) 年次有給休暇の付与日数のうち,5日を超える部分については,労使協定を結べば,計画的に年次有給休暇の取得日を割り振ることができます(労働基準法39条6項)。
(2) 年次有給休暇の計画的付与のパターンとしては,①会社単位で取得する方法(一斉付与方式),②組織単位で取得する方法(交替制付与方式)及び③個人単位で取得する方法(個人別付与方式)があります。
(3) 自由参加の社員旅行を計画年休日に実施すれば,年5日の年次有給休暇の確実な取得に資すると思います。
3 その他 
・ 厚労省HPに「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 2019年4月施行」が載っています。


第4 使用者の時季変更権
1 総論
(1) 労働者から指定された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合,その時季を変更することができます(労働基準法39条5項ただし書)ところ,「事業の正常な運営を妨げる」か否かは,当該労働者の所属する事業場を基準として判断されます(最高裁昭和48年3月2日判決)。
(2) 労働者の指定した年次有給休暇の期間が開始し又は経過したのちに使用者が時季変更権を行使した場合であっても,労働者の右休暇の請求がその指定した期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには,客観的に右時季変更権を行使しうる事由があり,かつ,その行使が遅滞なくされたものであれば,適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力が認められます(最高裁昭和57年3月18日判決)。
2 勤務割による勤務体制が取られている場合の時季変更権
(1)  郵政事業に勤務する職員の年次有給休暇のうち,所属長が年度の初頭において職員の請求により業務の繁閑等をしんしゃくして各人別に決定した休暇付与計画による休暇についての年度の途中における時季変更権の行使は,計画決定時には予測できなかった事態発生の可能性が生じた場合において,かつ,右事態発生の予測が可能になってから合理的期間内に限り,許されます(最高裁昭和58年9月30日判決)。
(2) 勤務割による勤務体制がとられている事業場において,勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果,代替勤務者が配置されなかったときは,必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできません(最高裁平成元年7月4日判決。なお,先例として,最高裁昭和62年7月10日判決及び最高裁昭和62年9月22日判決参照)。
3 使用者の時季指定権行使を適法とした最高裁判例
① 最高裁平成元年7月4日判決は,勤務割による勤務予定日についての年次休暇の時季指定に対し使用者が代替勤務者確保のための配慮をせずにした時季変更権の行使が適法とされた事例です。
② 最高裁平成4年6月23日判決は,「通信社の記者が始期と終期を特定して休日等を含め約一箇月の長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をしたのに対し使用者が右休暇の後半部分についてした時季変更権の行使が適法とされた事例」です。
③ 事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため,各職場の代表者を参加させて,一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識,技能を修得させ,これを職場に持ち帰らせることによって,各職場全体の業務の改善,向上に資することを目的として行われた訓練の期間中に,訓練に参加している労働者から年次有給休暇が請求されたときは,使用者は,当該休暇期間における具体的な訓練の内容がこれを欠席しても予定された知識,技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り,事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができます(最高裁平成12年3月31日判決)。

第5 年次有給休暇の賃金及び買取
1 年次有給休暇の賃金
・ 年次有給休暇に対しては,原則として,①労働基準法で定める平均賃金,②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金,③健康保険法に定める標準報酬月額の30分の1に相当する金額のいずれかを支払う必要があり,いずれを選択するかについては,就業規則などに明確に規定しておく必要があります。なお,③による場合,労使協定を締結する必要があります(労働基準法39条9項)。
2 年次有給休暇の買い取り

(1) 有給休暇の買い取りは原則として禁止されているのであって,例外的に認められるのは以下の三つのケースです(HRソリューションラボHPの「有給休暇の買取は原則NG!例外で認められるケースとそのルールを解説」参照)。
① 法律で定められた日数を上回る有給休暇
② 退職時に残っている有給休暇
③ 時効により消滅した有給休暇
(2) 賃金請求権の消滅時効が3年になった令和2年4月以降についても,年次有給休暇の消滅時効は2年です。


第6 年次有給休暇と休業補償給付及び傷病手当金との関係
1 年次有給休暇と休業補償給付との関係
・ 労働災害無料相談金沢HP「労災の休業補償のポイントと注意点【弁護士が解説】」には以下の記載があります(休業補償給付が支給されるのは休業4日目からです。)。
    休業補償給付を受け取るケースでも「年次有給休暇」を使うことは可能です。
    休業補償給付からは賃金の80%までしか支給されないので、年次有給休暇によって100%の賃金をもらえればメリットはあるといえます。
    もっとも,休業補償給付の対象日を年次有給休暇として扱ってしまうと,休業補償給付の支給対象外になってしまうので,年次有給休暇を利用するのか,労災の休業補償給付を利用するのかを,よく検討する必要があります。
2 年次有給休暇と傷病手当金との関係
(1) 業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後,4日目以降の仕事に就けなかった日に対しては,傷病手当金が支給されます(協会けんぽHPの「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」参照)。
(2) 傷病手当金の支給条件の一つに「休業期間に給与支払いがされてないこと」とあります(健康保険法108条)から,有給休暇と傷病手当金の両方を受け取ることはできません。

第7 関連記事その他
1 厚生労働省HPに「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」が載っています。
2 年次有給休暇の基準日を個々の労働者の採用日に関係なく統一的に定めることもできますところ,この場合,勤務期間の切捨ては認められず,常に切り上げる必要があります。
3 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は,労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれます(最高裁平成25年6月6日判決)。
4 公休とは,会社が社員に対して与えている「労働義務のない休み」のことであって,一般的な「週休二日制」で与えられる休日がこの公休に該当します(jinjerBlogの「公休とは?パート・アルバイトの公休の扱いなどの基礎知識を解説」参照)。
5(1) 会社を休みにした上で自由参加の社員旅行を実施する場合,公休日に実施するわけですから,そもそも社員旅行に参加するのに有給を使う必要はありません。
(2) 労使協定に基づく会社の計画年休日に社員旅行を実施する場合,社員旅行に参加するかどうかにかかわらず,すべての社員が有給を使用することになります。
6 交通事故によって長期間にわたり会社を休まざるを得なくなった場合,8割以上の出勤の条件を満たすことができず,有給休暇の付与を受けることができない可能性がありますところ,大阪地裁平成20年9月8日判決(判例秘書に掲載)は有給休暇の減少分を交通事故と相当因果関係のある損害として認めています。
7 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

職場におけるハラスメント防止に関するメモ書き

目次
1 総論
2 パワハラ関係
3 パワハラに関する懲戒処分の最高裁判例
4 関連記事その他

1 総論
(1) 職場におけるパワーハラスメントとは,職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって,②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,③労働者の就業環境が害されるものであり,①から③までの要素を全て満たすものをいいます(厚生労働省HPの「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」参照)。
(2) 職場で発生しやすいハラスメントとしては,セクシュアルハラスメント(セクハラ),パワーハラスメント(パワハラ),マタニティハラスメント(マタハラ),アルコールハラスメント(アルハラ)及び時短ハラスメント(ジタハラ)があります(弁護士法人ALG&Associates HP「職場でのハラスメントを防止するために取るべき対応策」参照)。


2 パワハラ関係
(1) 派遣のミカタHP「パワハラ防止法はなぜできた?法制定の歴史と判例を紹介」には以下の記載があります。
    ハラスメントという言葉が広く知られるきっかけとなったひとつが、1970年代にアメリカで「セクシャルハラスメント(いわゆるセクハラ)」という性的嫌がらせを意味する造語が誕生したことです。その10年後となる1980年代には、日本でもセクハラという言葉を耳にするようになりました。
    日本では、それまでにも性別に端を発した言動が問題にはなっていたものの、それが「セクハラ」という名前であると認知されたことで社会問題となり、今では多くの人に認知されることになりました。
(2) 東弁リブラ2022年6月号「どう変わる?ハラスメント対応-労働者の人権保障と企業価値の向上に向けて-」には,「パワハラが生じた場合の企業のリスク」として以下の記載があります(同書8頁)。
    パワハラの加害者は,自身が行っているのはあくまで注意・指導や通常のコミュニケーションの範疇であるなど,パワハラを行っているという認識がないことが多いため,人前でもパワハラに該当するような言動を行っていることが多い。そのような場合,被害者従業員のみではなく,被害者従業員が日々怒鳴られているのを見聞きしている第三者も含めた従業員の業務能率が低下したり,人財流出やブラック企業のレッテルが貼られるなどのレピュテーションリスクにつながる,場合によっては訴訟に発展するなど,企業には様々なリスクが生じ得る。そのため,企業としては,パワハラについて早期に適切な対応をとることが重要となる。


(3) あかるい職場応援団HP「ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置」が載っています。


(4) 厚生労働省HPの「精神障害の労災認定」に載ってある「精神障害の労災認定基準」によれば,心理的負荷が「強」となる「◯ 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」として以下の記載があります。
【「強」である例】
・ 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・ 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・ 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
・ 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
・ 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様は手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

3 パワハラに関する懲戒処分の最高裁判例
(1) 最高裁令和4年6月14日判決は,地方公共団体の職員が暴行等を理由とする懲戒処分の停職期間中に同僚等に対して行った同処分に関する働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(2)  最高裁令和4年9月13日判決は,部下への暴行等を繰り返す行為をした地方公共団体の職員が地方公務員法28条1項3号に該当するとしてされた分限免職処分が違法であるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。


4 関連記事その他
(1) 厚生労働省HPに以下の資料が載っています。
・ 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン
・ 「就活ハラスメント防止対策企業事例集を作成しました!~学生向けの周知コンテンツも公開しました~」(令和5年3月7日付)

・ 「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」
→ 
各種ハラスメントの防止に関するパンフレット,事業主指針,施行通達等が載っています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 昭和51年の30期前期修習で発生した,女性司法修習生に対する司法研修所裁判教官等の差別発言問題(教官等の弁明が正しいことを前提として厳重注意で終了した事件)

労働安全衛生法に関するメモ書き

目次
1 労働安全衛生法の概要
2 労働者の労働時間の状況の把握義務
3 労働災害防止計画
4 その他

第2 労働安全衛生法に関するメモ書き
1 労働安全衛生法の概要
    厚生労働省HPの「安全・衛生」には「労働安全衛生法の概要」として以下の記載があります。
・ 事業場における安全衛生管理体制の確立
 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医等の選任
 安全委員会、衛生委員会等の設置
・ 事業場における労働災害防止のための具体的措置
 危害防止基準:機械、作業、環境等による危険に対する措置の実施
 安全衛生教育:雇入れ時、危険有害業務就業時に実施
 就業制限 :クレーンの運転等特定の危険業務は有資格者の配置が必要
 作業環境測定:有害業務を行う屋内作業場等において実施
 健康診断 :一般健康診断、有害業務従事者に対する特殊健康診断等を定期的に実施
・ 国による労働災害防止計画の策定
 厚生労働大臣は、労働災害を減少させるために国が重点的に取り組む事項を定めた中期計画を策定。
※ 労働安全衛生法のほか、労働安全衛生分野の法律として、じん肺法や作業環境測定法がある。
2 労働者の労働時間の状況の把握義務
(1) 平成31年4月1日以降,事業者は,タイムカードによる記録,パソコン等の電子計算機の使用時間の記録その他の適切な方法により,労働者の労働時間の状況を把握しなければならなくなりました(労働安全衛生法66条の8の3及び労働安全衛生規則52条の7の3のほか,労務SEARCH「【社労士監修】労働時間の把握が義務化!企業の管理方法や罰則は?」参照)。
(2)ア 厚生労働省HPの「働き方改革関連法により2019年4月1日から「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます」の6頁及び7頁に,平成31年4月1日以降に実施すべき具体的な勤務時間の把握方法が書いてあります。
イ 厚生労働省HPの「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」(平成30年12月28日付の厚生労働省労働基準局長の通知)8頁ないし11頁に,労働時間の状況の把握に関する問答が載っています。
(3) 労務事情2022年11月1日号に「〈Q&A〉労働時間管理に関する実務対応」及び「〈Q&A〉自動車管理に関する法的留意点」が載っています。
(4)ア 最高裁平成26年1月24日判決は,募集型の企画旅行における添乗員の業務につき,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとされた事例です。
イ 最高裁令和6年4月16日判決は, 外国人の技能実習に係る監理団体の指導員が事業場外で従事した業務につき,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例です(つまり,「労働時間を算定し難いとき」に当たる可能性があるということです。)。


3 労働災害防止計画
(1) 厚生労働大臣は,労働政策審議会の意見をきいて、労働災害の防止のための主要な対策に関する事項その他労働災害の防止に関し重要な事項を定めた計画(労働災害防止計画)を作成し(労働安全衛生法6条),公表する必要があります(労働安全衛生法8条)。
(2) 厚生労働省HPの「2018年4月から第13次労働災害防止計画が始まります。」には以下の記載があります。
 「労働災害防止計画」とは、労働災害を減少させるために国が重点的に取り組む事項を定めた中期計画です。
 厚生労働省は、過労死やメンタルヘルス不調への対策の重要性が増していることや、就業構造の変化及び労働者の働き方の多様化を踏まえ、労働災害を少しでも減らし、安心して健康に働くことができる職場の実現に向け、国、事業者、労働者等の関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めた 2018 年 4 月~ 2023 年 3 月までの 5 年間を計画期間とする「第 13 次労働災害防止計画」を 2018 年 2 月 28 日に策定し、 3 月 19 日に公示しました。

4 関連記事その他

(1) 一般財団法人中小建設業特別教育協会HP「職長・安全衛生責任者教育 教育課程」が載っています。
(2) 最高裁平成26年1月24日判決は,募集型の企画旅行における添乗員の業務につき,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとされた事例です。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

職業安定法及び採用活動に関するメモ書き

目次
第1 職業安定法に関するメモ書き
1 職業紹介事業の許可制
2 ハローワークインターネットサービス
3 社員紹介制度
4 職業紹介事業に係る法令・指針
5 その他
第2 採用活動に関するメモ書き
1 公正な採用選考
2 求職者等の個人情報の取得制限
3 その他
第3 関連記事その他

1 職業紹介事業の許可制
(1) 求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんするという意味での職業紹介事業(職業安定法4条1項)を営むためには,管轄都道府県労働局を経由して,厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(職業安定法30条1項及び33条1項の他,厚生労働省HPの「職業紹介事業制度の概要」参照)。
(2) 職業安定法4条1項(成立時の職業安定法5条1項)の「雇用関係」とは,必ずしも厳格に民法623条の意義に解すべきものではなく,広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的,精神的労務を供給する関係にあれば足ります(最高裁昭和29年3月11日判決)。


2 ハローワークインターネットサービス
・ ハローワークインターネットサービスには,「仕事をお探しの方へのサービスのご案内」及び「事業主の方へのサービスのご案内」とかが載っています。

3 社員紹介制度
(1) 社員紹介制度と労働基準法6条及び職業安定法40条との関係については,BUSINESS LAWYERS HP「社員紹介制度における法的な問題はどこにあるか」が参考になります。
(2)    単発で社員候補者を紹介した社員に対し,就業規則に基づく賃金等として支払うのであれば,問題ありません。

4 職業紹介事業に係る法令・指針
・ 厚生労働省HPの「職業紹介事業に係る法令・指針」には以下の資料が掲載されています。
① 職業安定法
② 職業安定法施行令
③ 職業安定法施行規則
④ 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針
⑤ 職業安定法施行規則第二十条第二項の規定に基づき厚生労働大臣の定める額



5 職業選択の自由及び均等待遇

(1) 職業安定法2条(職業選択の自由)は「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定めていて,職業安定法3条(均等待遇)本文は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と定めています。
(2) 求人者に紹介するために求職者を探索し,求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為は,職業安定法5条1項にいう職業紹介におけるあっ旋に当たります(最高裁平成6年4月22日判決)。


第2 採用活動に関するメモ書き
1 公正な採用選考

(1) 厚生労働省HPの「新たな履歴書の様式例の作成について~「様式例」を参考にして、公正な採用選考をお願いします~」には「厚生労働省が作成した履歴書様式例」(令和3年4月16日付)が載っていますところ,【厚生労働省履歴書様式例とJIS規格様式例の相違点】として以下の記載があります。
1. 性別欄は〔男・女〕の選択ではなく任意記載欄としました。なお、未記載とすることも可能としています。
2.「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の各項目は設けないことにしました。
(2) 厚生労働省HPの「公正な採用選考チェックポイント」では,例えば,以下の事項はNGとなっています。
・ 応募者から戸籍謄(抄)本・住民票の写しを提出させている。
・ 面接において、本人が生まれたところや家族構成・家族の職業などを尋ねることがある。
・ 面接において、人生観・生活信条・尊敬する人・愛読書などを尋ねることがある。
・ 家庭状況等の身元調査を実施している。
・ 内定者から、戸籍謄(抄)本等を一律に提出させている。
(3) 職業安定法2条(職業選択の自由)は「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業を自由に選択することができる。」と定めていて,職業安定法3条(均等待遇)本文は「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」と定めています。


2 求職者等の個人情報の取得制限
(1) 労働者の募集を行おうとする者は,求職者等の個人情報を収集し,保管し,又は使用するに当たっては,本人の同意がある場合を除き,その業務の目的の達成に必要な範囲内で,収集し,保管し,及び使用しなければなりません(職業安定法5条の5第1項)。
(2)ア 個人情報取扱事業者は,偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはなりません(個人情報保護法20条1項)。
イ 探偵業者は,当該探偵業務に係る調査の結果が犯罪行為,違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いられることを知ったときは,当該探偵業務を行ってはなりません(探偵業の業務の適正化に関する法律9条1項)。


3 経歴詐称
(1) 労働問題.comに「経歴詐称でいかなる懲戒処分ができるか?」が載っています。
(2) 東京地裁平成20年4月25日判決(判例秘書に掲載)は,精神保健福祉士としての採用時に精神疾患の病歴等について虚偽の回答をしたことが解雇事由として考慮されるべき事由に当たるとした事例であります。
    当該判決は,「A(山中注:被告である医療法人社団の代表者)は、(山中注:従業員が)精神病に罹患していた場合、精神病患者と接触した場合相互の病状を悪化させる可能性があること、採用された場合は職務上自動車運転を要するところ、抗精神病薬のうちには自動車運転が制限されるものが多いことから、上記の質問をしたものと認められる」などと判示しています。


4 募集及び採用に際して例外として年齢制限が認められる場合
(1) 例えば,以下のような事由がある場合,期間の定めのない労働契約を締結することを目的とするのであれば,募集及び採用に際して年齢制限をすることができます(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則1条の3第3号イ及びロ)。
① 長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的として、青少年その他特定の年齢を下回る労働者の募集及び採用を行うとき
② 当該事業主が雇用する特定の年齢の範囲に属する特定の職種の労働者の数が相当程度少ない場合において、当該職種の業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の継承を図ることを目的として、特定労働者の募集及び採用を行うとき
(2) 厚労省HPに「2.例外として年齢制限が認められる場合があります」が載っています。


第3 関連記事その他
1 労務事情2022年7月15日号に「〈Q&A〉採用にまつわる労務管理上の諸問題への対応」が載っています。
2 東京高裁令和5年4月5日判決(判例タイムズ1516号(2024年3月号))は,有期労働契約に設けられた試用期間中の解雇が有効と判断された事例です。
3 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医並びに安全衛生推進者及び衛生推進者

目次
1 総論
2 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医
3 安全衛生推進者及び衛生推進者
4 労働安全コンサルタント試験及び労働衛生コンサルタント試験の試験区分
5 関連記事その他

1 総論
(1) 総括安全衛生管理者等は選任が必要な状態になった日から14日以内に選任し,かつ,労基署に報告する必要がありますところ,厚生労働省HPに「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」が載っています。
(2) 安全衛生推進者及び衛生推進者については労基署への報告義務はないものの,選任が必要な状態になった日から14日以内に選任する必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の3第1項1号)。

2 総括安全衛生管理者,安全管理者,衛生管理者及び産業医
(1) 総括安全衛生管理者(労働安全衛生法10条)は,建設業,運送業等については100人以上の事業場で必要となり,製造業等については300人以上の事業場で必要となり,その他の業種では1000人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令2条)ところ,当該事業場においてその事業の実施を実質的統括管理する権限及び責任を有する者(例えば,支店長及び工場長)から選任する必要があります。
(2) 安全管理者(労働安全衛生法11条)は,50人以上の事業場で必要となりますし,建設業等については300人以上の事業場で専任の安全管理者が必要となります(労働安全衛生法施行令3条)ところ,産業安全に関する実務経験又は労働安全コンサルタントの資格が必要になります。
    また,新たに安全管理者を選任する場合,従来の学歴と実務経験に加え,厚生労働大臣が定める安全管理者選任時研修を修了している必要があります(労働安全衛生法施行規則5条)。
(3) 衛生管理者(労働安全衛生法12条)は,50人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令4条)ところ,衛生管理者免許,衛生工学衛生管理者免許,医師,歯科医師,労働衛生コンサルタント等の資格が必要になります。
    なお,製造業,運送業等の衛生管理者については第二種衛生管理者免許では足りません。
(4) 産業医(労働安全衛生法13条)は,50人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行令5条)ところ,医師であることに加え,労働衛生コンサルタント試験(試験区分は保健衛生)に合格していること等が必要になります。
(5) 東京労働局HPの「共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」 「産業医」のあらまし」が参考になります。

3 安全衛生推進者及び衛生推進者
(1) 安全衛生推進者又は衛生推進者(労働安全衛生法12条の2)は,10人以上の事業場で必要となります(労働安全衛生法施行規則12条の2)ところ,労働安全コンサルタント又は労働衛生コンサルタント等でない限り,事業場に専属の者を選任する必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の3第1項)し,関係労働者に氏名を周知させる必要があります(労働安全衛生法施行規則12条の4)。
(2) 建設業,運送業,製造業,自動車整備業等の業種の場合,安全衛生推進者が必要となり,その他の業種の場合,衛生推進者が必要となります。
(3) 安全衛生推進者及び衛生推進者は,都道府県労働局長の登録を受けたもの(例えば,公益社団法人労務管理教育センター)が行う講習(安全衛生推進者養成講習及び衛生推進者養成講習)の修了者でもなることができます。

4 労働安全コンサルタント試験及び労働衛生コンサルタント試験の試験区分
(1) 労働安全コンサルタント試験の試験区分は機械,電気,化学,土木及び建築です。
(2) 労働衛生コンサルタント試験の試験区分は保健衛生及び労働衛生工学です。


5 関連記事その他
(1) 厚生労働省HPに「「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」「産業医」の選任と職務のあらまし」が載っています。
(2) 建設業及び造船業において選任される統括安全衛生責任者は,総括安全衛生管理者とは異なります(職場のあんぜんサイトの「統括安全衛生責任者」参照)。
(3) 以下の記事も参照して下さい。
・ 労働基準法に関するメモ書き
・ 労働保険に関するメモ書き
・ 社会保険に関するメモ書き

労働者派遣法に関するメモ書き

目次
1 労働者派遣法の沿革
2 労働者派遣の禁止業務
3 労働者供給事業の原則禁止
4 労働者派遣契約
5 紹介予定派遣
6 厚生労働省HPの説明
7 労働者派遣と在籍型出向との差異
8 関連記事その他

1 労働者派遣法の沿革
・ ①労働者派遣法が施行された昭和61年当時,労働者派遣業の対象業務は専門知識が必要な13業務(ただし,施行後直ちに3業務が追加されて16業務)とされていて,②平成8年に10業務が追加されて26業務となり,③平成11年に対象業務が原則として自由化され(「対象業務のネガティブリスト化」といいます。),④平成16年に製造業務への派遣解禁及び派遣期間の延長があり,⑤平成24年に日雇い派遣の原則禁止があり,⑥平成27年に派遣期間の上限の3年統一及び労働者派遣事業の許可制への統一があり,⑦令和2年に同一労働同一賃金が導入があり,⑧令和3年に派遣労働者への説明義務の強化がありました(アデコHPの「労働者派遣法とは? 改正の歴史や罰則まで押さえるべきポイントをまとめて解説」参照)。

2 労働者派遣の禁止業務
(1) 労働者派遣の禁止業務としては,港湾運送業務,建設業務,警備業務があり(労働者派遣法4条1項),労働者派遣の原則禁止業務としては病院等における医療関連業務があります(労働者派遣法施行令2条)。
(2) 厚生労働省HPの「労働者派遣事業を行うことができない業務は・・・」には「2 その他労働者派遣事業ができない業務等」として以下の記載があります。
◯ 次の業務は、当該業務について定める各法令の趣旨から、労働者派遣事業を行うことはできません。
① 弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務
② 公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士の業務(それぞれ一部の業務を除きます。)
③ 建築士事務所の管理建築士の業務
◯ 人事労務管理関係のうち、派遣先において団体交渉又は労働基準法に規定する協定の締結等のための労使協議の際に使用者側の直接当事者として行う業務は、法第25条の趣旨に照らして行うことはできません。
◯ 同盟罷業(ストライキ)若しくは作業所閉鎖(ロックアウト)中又は争議行為が発生しており、同盟罷業や作業書閉鎖に至るおそれの多い事業所への新たな労働者派遣を行ってはなりません。(法第24条、職業安定法第20条)
◯ 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をすることはできません。(法第58条)

3 労働者供給事業の原則禁止との関係
(1) リクルートスタッフィングHP「労働者派遣法①|わかりやすく解説「派遣法」の歴史【前編1986〜2004】」には「強制的な労働や搾取が横行した人材ビジネス」として以下の記載があります。
    江戸時代から戦前までの労働者供給は「人貸し」「組請負」などと呼ばれ、供給業者による労働者の不当な支配が伴っていました。雇用関係や責任所在が曖昧だったため、劣悪な労働環境や供給元による賃金の搾取(いわゆるピンハネ)といった問題が蔓延します。これらの問題を受け、戦後1947年に公布された職業安定法第44条により、「労働者供給事業」は原則として禁止されるに至りました。
(2) 大阪労働局HPの「労働者派遣事業の概要」には以下の記載があります。
    労働者派遣事業は、昭和61年の労働者派遣法の施行に伴い改正される前の職業安定法第44条によって労働組合が厚生労働大臣の許可を受けて無料で行う場合を除き、全面的に禁止されていた労働者供給事業(下図 i. 参照)の中から、供給元と労働者との間に雇用関係があり、供給先と労働者との間に指揮命令関係しか生じさせないような形態を取り出し、種々の規制の下に適法に行えることとしたものです。

4 労働者派遣契約
(1) 派遣元である派遣会社と労働者を派遣してもらう派遣先は労働者派遣契約を締結する必要がありますところ,派遣契約には労働者派遣法26条及び労働者派遣法施行規則22条所定の事項を定める必要があります。
(2) 労働者派遣契約には基本契約及び個別契約の2種類がありますところ,①基本契約書には料金(通常の派遣料金や派遣先都合による損害金など)やお互いが履行すべき義務(法令遵守や守秘義務),損害賠償に関する取り決め,禁止事項,知的所有権の帰属,契約解除に関する事項など,契約の基本となる内容を盛り込み,②個別契約書には業務内容や派遣期間,人数,就業日,就業時間,残業など,具体的な就業条件を盛り込みます(マネーフォワードクラウド契約「労働者派遣契約法とは?個別契約と基本契約についてもご紹介」参照)。

5 紹介予定派遣
・ 紹介予定派遣の場合,派遣先の企業は直接雇用を前提にしていることを事前に明示する必要がありますし,就業前の書類選考や面接が認められていますし,派遣期間は6ヶ月だけですし,契約期間の途中に直接雇用に切り替えることができます(アデコHPの「紹介予定派遣とは?通常の派遣との違いとメリット」参照)。

6 厚生労働省HPの説明
(1) 平成24年10月1日,労働者派遣法の正式名が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正され,法律の目的にも,派遣労働者の保護のための法律であることが明記されました(厚生労働省HPの「労働者派遣法が改正されました」参照)。
(2) 厚生労働省HPの「平成27年労働者派遣法の改正について」には以下の記載があります。
派遣労働という働き方、およびその利用は、臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、常用代替を防止するとともに、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図るため、労働者派遣法が改正されました(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律」平成27年9月11日成立、平成27年9月30日施行)。
(3) 厚生労働省HPの「派遣労働者の同一労働同一賃金について」には以下の記載があります。
働き方改革関連法による改正労働者派遣法により、派遣元事業主は、
1「派遣先均等・均衡方式」(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇の確保)、
2「労使協定方式」(一定の要件を満たす労使協定による待遇の確保)
のいずれかの待遇決定方式により派遣労働者の待遇を確保することとされ、令和2年4月1日に施行されました。

7 労働者派遣と在籍型出向との差異
・ 厚生労働省HPの「労働者派遣と在籍型出向との差異」には以下の記載があります。
◯ いわゆる出向は、出向元事業主と何らかの関係を保ちながら、出向先事業主との間において新たな雇用契約関係に基づき相当期間継続的に勤務する形態である。
◯ 在籍型出向については、出向元事業主との間に雇用契約関係があるだけではなく、出向元事業主と出向先事業主との間の出向契約により、出向労働者を出向先事業主に雇用させることを約して行われていることから、労働者派遣には該当しない。
◯ しかし、在籍型出向の形態は、労働者供給に該当するので、その在籍型出向が「業として行われる」場合には、職業安定法第44条により禁止される労働者供給事業に該当する。
◯ 在籍型出向のうち、
①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
②経営指導、技術指導の実施
③職業能力開発の一環として行う
④企業グループ内の人事交流の一環として行う
等の目的を有しているものについては、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと考えている。

8 関連記事その他
(1) 労働者派遣の形態としては,有期雇用派遣,無期雇用派遣及び紹介予定派遣があります。
(2)ア プログラミング道場HPに「損保ジャパンの配置転換に至るまでの経緯【それってリストラ?】」が載っていて,日刊ゲンダイHPに「損保ジャパン社員「介護へ配置転換」次はあなたの会社かもしれない」(2019年7月2日付)が載っています。
(3)ア 厚生労働省HPの「労働者派遣事業に係る法令・指針・疑義応答集・関連情報等」には例えば,以下の資料が載っています。
・ 労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド
・ 労働者派遣と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示
・ 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)関係疑義応答集
・ 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針
・ 派遣先が講ずべき措置に関する指針
イ RELO総務人事タイムズHP「労働者派遣法の概要と改正の歴史|企業が気をつけたいポイントとは?」が載っています。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

従業員の健康診断

目次
1 健康診断の実施
2 雇入時の健康診断
3 定期健康診断
4 健康診断実施後の措置
5 健康診断を受けている間の賃金
6 関連記事その他

1 総論
(1) 労働者を雇い入れた場合,事業主は健康診断を行う必要があります(労働安全衛生法66条・労働安全衛生規則43条)。
(2) 事業主は,1年以内ごとに1回,労働者の健康診断を行う必要があります(労働安全衛生法66条・労働安全衛生規則44条)。
(3) RELO総務人事タイムズHP「健康診断の代行業者を活用する。業務負担軽減に役立つ代行業者3社」が載っています。

2 雇入時の健康診断
(1) 栃木労働局HPの「定期健康診断等について」には以下の記載があります。
 パート・アルバイトについても、次の1~3までのいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるときは、健康診断を実施する必要があります。
 なお、4分の3未満であっても、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の概ね2分の1以上であるときは、健康診断を実施することが望ましいとされています。
1. 雇用期間の定めのない者
2. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)使用される予定の者
3. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)引き続き使用されている者
(注)特定業務従事者(深夜業、有機溶剤等有害業務従事者)にあっては6ヶ月以上 
(2) 例えば,「雇入れ時健康診断 大阪市」でグーグル検索すれば,大阪市内で雇入れ時健康診断を実施している医療機関を調べることができます。

3 定期健康診断
(1) 定期健康診断の項目は以下の11項目です(労働安全衛生規則44条1項のほか,BeHealthの「健康診断の義務(実施・負担・把握・報告・保管)について」参照)。
(調査事項)
一 既往歴及び業務歴の調査
(検査事項)
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
四 胸部エックス線検査及び喀痰検査
五 血圧の測定
六 貧血検査(赤血球数、血色素量)
七 肝機能検査(AST、ALT、γ-GT)
八 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
九 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
十 尿検査(糖・蛋白の有無)
十一 心電図検査
(2) 定期健康診断の場合,身長,腹囲,胸部X線検査,喀痰(かくたん)検査,貧血検査,肝機能検査,血中脂質検査,血糖検査及び心電図検査については,それぞれの基準に基づき,医師が必要でないと認めるときは省略できます(労働安全衛生規則44条2項)。
(3)ア Sanpo Naviの「定期健康診断の費用は会社負担?健診の種類・項目・義務内容のおさらい」には以下の記載があります。
健康診断は法律により企業に実施が義務付けられているものですので、費用は企業が全額負担することが労働安全衛生法にて定められています。
健康診断は保険適用外のため自由診療となり、費用はさまざまです。
定期健康診断の場合、一人当たり5000円~15000円前後に設定している医療機関・健診機関が多いようです。
イ 労働安全衛生法および同法施行令の施行について(昭和47年9月18日付の労働省労働基準局長通達)には「(山中注:労働安全衛生法66条)第一項から第四項までの規定により実施される健康診断の費用については、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること。」と書いてあります。
(4) 例えば,「定期健康診断 大阪市」でグーグル検索すれば,大阪市内で定期健康診断を実施している医療機関を調べることができます。

4 健康診断実施後の措置
(1) 健康診断個人票の作成及び定期健康診断結果報告書
ア 健康診断の結果については健康診断個人票を作成し,5年間は保存しておく必要があります(労働安全衛生法66条の3)。
イ 長崎労働局HPの「健康診断個人票」に,健康診断個人票(雇入時)健康診断個人票(定期)等の書式が載っています。
ウ 常時50人以上の労働者を使用する事業者は,所轄の労働基準監督署に対し,定期健康診断結果報告書を提出する必要があります(岡山労働局HPの「健康診断の種類及び報告義務」参照)。
エ 定期健康診断結果報告書は,労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービスを利用して作成することもできます。
(2) 健康診断の結果に基づく措置
ア 健康診断の結果に基づき,健康診断の項目に異常の所見のある労働者について,労働者の健康を保持するために必要な措置について,医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の意見を聞く必要があります(労働安全衛生法66条の4)。
イ 医師又は歯科医師の意見を勘案し必要があると認めるときは,作業の転換,労働時間の短縮等の適切な措置をとる必要があります(労働安全衛生法66条の5)。
ウ 健康診断結果は、労働者に通知する必要があります(労働安全衛生法66条の6)。
エ  健康診断の結果に基づく保健指導健康診断の結果,特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し,医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(労働安全衛生法66条の7)。
(3) 個人情報保護法との関係
ア 健康診断その他の検査の結果は,要配慮個人情報です(個人情報保護法2条3項,個人情報保護法施行令2条2号)。
イ 個人情報保護委員会HP「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」には以下の記載があります。
事業者が外部機関にこれらの健康診断又は面接指導を委託するために必要な労働者の個人情報を外部機関に提供し、また、外部機関が委託元である事業者に対して労働者の健康診断又は面接指導の結果を報告(提供)することは、それぞれ安衛法に基づく事業者の義務を遂行する行為であり、法第 23 条第1項第1号の「法令に基づく場合」に該当し、本人の同意を得なくても第三者提供の制限は受けない。
ウ Growbase HPの「健康診断の結果提出を会社が命じられる?誰が把握できるかもチェック」には「健康診断の結果を把握するのは、実施するのと同様に会社の義務と考えられます。ただし、労働安全衛生法で定められた11項目以外の検査結果に関しては個人情報保護法が優先されるため、本人の同意を得た上で把握しましょう。」と書いてあります。


5 健康診断を受けている間の賃金
(1) 厚生労働省HPの「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」には「回答」として以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    健康診断には大きく分けて一般健康診断と特殊健康診断があります。
    一般健康診断とは、職種に関係なく、労働者の雇入れ時と、雇入れ後1年以内ごとに一回、定期的に行う健康診断です。特殊健康診断とは、法定の有害業務に従事する労働者が受ける健康診断です。
    一般健康診断は、一般的な健康確保を目的として事業者に実施義務を課したものですので、業務遂行との直接の関連において行われるものではありません。そのため、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきものになります。ただし、円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいでしょう。
    特殊健康診断は業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断ですので、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要です。
(2) 2分で読める労務ワンポイントHPの「健康診断の休日実施」には以下の記載があります。
    最近は、従業員の健康状態を把握する必要性が高まっています。できる限り、未受診者を減らすために、定期健康診断は勤務時間内に行って、賃金を控除しない取扱いが望ましいです。
    一般的にも、定期健康診断は勤務時間内に行って、賃金を控除しない会社が多数です。

6 関連記事その他
(1) 厚生労働省HPに「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」が載っています。
(2) Carely「定期健康診断の健診項目は省略してはいけません、その理由はこれです。」が載っています。
(3) 労務事情1251号(2013年5月1日付)に「従業員の健康管理にかかわる留意点」が載っています。
(4)ア 国税庁HPに「人間ドックの費用負担」が載っていますところ,健診料相当額を医療機関に直接支払う必要があるかどうかの記載はありません。
イ 「従業員の健康診断費用を事業主の福利厚生費とするためには、事業主が直接、従業員の健康診断費用を診療機関に支払う必要があると定めている法令解釈通達その他の文書(最新版)」は 国税庁に存在しません(令和4年12月12日付の国税庁長官の行政文書不開示決定通知書参照)。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

同一労働同一賃金

目次
1 総論
2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
3 無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外であること
4 派遣労働者の同一労働同一賃金
5 福利厚生施設の利用の機会の付与
6 関連記事その他

1 総論
(1) 令和2年4月1日の同一労働同一賃金の導入は,①同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と②非正規雇用労働者(有期雇用労働者,パートタイム労働者及び派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものであります(厚生労働省の「同一労働同一賃金特集ページ」参照)。
(2)ア ①正規雇用労働者と非正規雇用労働者の業務内容に違いがあれば,違いに応じた賃金を支払うというのが均衡待遇であり,②「職務内容」並びに「職務内容及び配置の変更の範囲」の2点で同じ業務内容であれば同じ賃金を支払うというのが均等待遇です(株式会社夢テクノロジーHPの「人事担当者が知っておきたい同一労働同一賃金:均等待遇と均衡待遇」参照)。
イ ①均衡待遇は,平成25年4月1日施行の労働契約法20条(有期雇用労働者を対象としたもの)及び平成27年4月1日施行の改正パートタイム労働法8条(短時間労働者を対象としたもの)で定められるようになりました。
    ②均等待遇は,平成20年4月1日施行の改正パートタイム労働法9条(短時間労働者を対象としたもの)で定められるようになりました。
ウ 独立行政法人日本スポーツ振興センターが被告となった東京地裁令和3年1月21日判決(判例秘書掲載)では,令和2年4月1日施行のパートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)は旧労働契約法20条の内容を明確にして統合したものであるから. 同条に関する当事者の主張をパートタイム・有期雇用労働法8条の主張と整理した上で、判断されています。
エ 派遣労働者と派遣先の通常の労働者とに係る均等待遇を定めた改正労働者派遣法30条の3第2項は令和2年4月1日に施行されました。


2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
(1)ア 労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めたものであり,令和2年4月1日以降のパートタイム・有期雇用労働法8条に相当する条文です。)に基づく同一労働同一賃金に関する最高裁判例としては以下のものがあります(東京都労働相談情報センターHPの「2-2-2 同一労働・同一賃金をめぐる最高裁判所判例」参照)。
① 最高裁平成30年6月1日判決ハマキョウレックス事件)
→ 原告はドライバーとして働く有期雇用労働者であり,通勤手当,皆勤手当,休職手当,作業手当及び無事故手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
② 最高裁平成30年6月1日判決長澤運輸事件)
→ 原告は定年後に再雇用された嘱託乗務員であり,精勤手当及び時間外手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
③ 最高裁令和2年10月13日判決大阪医科大学事件)
→ 原告はアルバイト職員であり,賞与のほか,私傷病による欠勤中の賃金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
④ 最高裁令和2年10月13日判決メトロコマース事件)
→ 原告は有期労働契約社員であり,退職金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
⑤ 最高裁令和2年10月15日判決(日本郵便事件。東京大阪及び佐賀があります。)
→ 原告は有期の時給制契約社員(いずれも契約更新を繰り返している社員)であり,年末年始勤務手当,年始期間の勤務に対する祝日給,扶養手当,病気休暇及び夏季冬季休暇を与えない待遇差は不合理であるとされました。
イ 名古屋自動車学校事件に関する最高裁令和5年7月20日判決は, 無期契約労働者と有期契約労働者との間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違の一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(2) 東京高裁令和2年6月24日判決(裁判長は36期の白井幸夫)は,家族手当及び住宅手当を大学の非常勤講師に支給しないことは不合理ではないと判断しました(note 9thの「中央学院事件・東京高判令2.6.24 ~職務の内容の相違は住宅手当等の不支給の不合理性判断に影響するか~【前編】」参照)。
(3) ビジネス法務2023年10月号75頁には,①基本給,賞与及び退職金については事業主の裁量が広く認められるのに対し,②諸手当及び福利厚生については裁判所が介入して適法・違法が判断されやすい傾向にあるという趣旨のことが書いてあります。


3 無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外であること
(1) COMPANY HP「同一労働同一賃金における企業が対応すべきポイントと手順【対応状況アンケート公開】」には以下の記載があります。
    厚生労働省によると、
・有期雇用契約労働者
・パートタイム労働者
・派遣労働者
の3種類を「非正規雇用労働者」と表現し、同一労働同一賃金の対象としています。
反対に、同一労働同一賃金の対象とならないのは「正社員(無期雇用フルタイム労働者)」と示されています。
(2)ア 無期雇用フルタイム労働者についても適用される労働契約法3条2項は「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」と定めています。
イ 日本の人事部HPの「同一労働同一賃金に対応して無期転換することについての解説」には以下の記載があります。
    無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外ですが、同じ仕事を同じ責任の度合いで行っているのであれば、無期転換した社員はその待遇の差に不満を感じてしまいます。社員からの訴えによる労使トラブルやモチベーション低下、それらに伴う会社全体の生産性低下につながることもあるでしょう。
    既存の正社員との間に待遇格差を設けるのであれば、仕事内容や労働条件、責任度合いなどの違いを明確にし、無期転換する社員が納得できる合理的な理由の説明が必要です。

4 派遣労働者の同一労働同一賃金
(1)ア 派遣労働者の待遇について,派遣元事業主には,①派遣先均等・均衡方式(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇)(労働者派遣法30条の3)又は②労使協定方式(一定の要件を満たす労使協定による待遇)(労働者派遣法30条の4)のいずれかを確保することが令和2年4月1日より義務化されました。
イ 労使協定方式の場合,派遣先から派遣元に派遣契約締結前に提供する待遇情報は,①業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の内容,及び②福利厚生施設(食堂,休憩室及び更衣室)の内容となります(労働者派遣法施行規則24条の4第2号)ところ,①及び②については,派遣先の通常の労働者との均等・均衡確保が必要となります(労働者派遣法40条2項及び3項)。
ウ 令和5年6月1日現在,派遣先均等・均衡方式が7.9%であり,労使協定方式が88.8%であり,併用が3.3%となっています(第365回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会(令和6年1月26日開催)労使協定書の賃金等の記載状況(一部事業所の集計結果(令和5年度))について(資料1-2)参照)。
(2) 派遣先指針9(1)には「派遣先は、その指揮命令の下に労働させている派遣労働者について、派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、労働者派遣法第40条第1項から第3項までに定めるもののほか、セクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持並びに派遣先が設置及び運営しセクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持並びに派遣先が設置及び運営し、その雇用する労働者が通常利用している物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設等の施設の利用に関する便宜の供与の措置を講ずるように配慮しなければならないこと。」 と書いてあります。
(3)ア 厚生労働省HPの「派遣労働者の同一労働同一賃金について」「派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要(平成30年労働者派遣法改正~令和2年4月1日施行~)」が載っています。
イ パーソナルエクセルHRパートナーズHP「【おさらいリーガル知識】派遣先から派遣元への待遇情報の提供とは?」が載っています。
(4) ミカタ社会保険労務士法人HP「事業報告書の集計結果が、毎年1月・3月に公表されます」が載っています。

5 福利厚生施設の利用の機会の付与
(1) 給食施設,休憩室及び更衣室は健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものですから,これらの施設について通常の労働者に対して利用の機会を与える場合,短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法12条及び同法施行規則5条のほか,短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成31年1月30日付の厚生労働省労働基準局長等の通知)第3・7(1)参照)。
(2) 給食施設,休憩室及び更衣室は業務の円滑な遂行に資するものですから,これらの施設について通常の労働者に対して利用の機会を与える場合,短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(労働者派遣法40条3項及び同法施行規則32条の3のほか,働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令等の公布について(平成30年12月28日付の厚生労働省職業安定局長の通知)第6・3(4)参照)。

6 関連記事その他

(1) パートタイム・有期雇用労働法8条の「待遇」には,基本的に,全ての賃金,教育訓練,福利厚生施設,休憩,休日,休暇,安全衛生,災害補償,解雇等の全ての待遇が含まれます(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成31年1月30日付の厚生労働省労働基準局長等の通知)第3・3(6))。
(2) 同一労働同一賃金について事業者側が抱える問題点としては,①人件費が高くなること,②賃金格差が消えるわけではないこと,及び③労働者への説明が必要になることがあるみたいです(jinjerBlog「同一労働同一賃金の問題点と日本・海外との考え方の違い」参照)。
(3)ア 厚生労働省HPの「配偶者手当の在り方の検討」に,「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」 (平成28年4月)が載っています。
イ 厚生労働省HPの「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」には「令和4年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正がされ、情報公表項目に「男女の賃金の差異」を追加するともに、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して、当該項目の公表が義務づけられることとなりました。」と書いてあります。
(4) 厚生労働省職業安定局の人材サービス総合サイト「許可・届出事業所の検索」において,労働者派遣事業の事業主を検索できます。
(5) ビジネス法務2023年10月号に「同一労働同一賃金
重要判例総まとめ」が載っています。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 労働協約
・ 職業安定法及び採用活動に関するメモ書き
・ 就業規則に関するメモ書き
・ 労働基準法に関するメモ書き

「労働者性」の判断基準

目次
1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
5 関連記事その他

1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
(1) 労働基準法における「労働者性」の判断基準の概要は以下のとおりです(業務委託契約書の達人HP「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは」参照)。
ア 「使用従属性」に関する判断基準
① 「指揮監督下の労働」であること
a. 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b. 業務遂行上の指揮監督の有無
c. 拘束性の有無
d. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
② 「報酬の労務対償性」があること
イ 「労働者性」の判断を補強する要素
① 事業者性の有無
② 専属性の程度
(2)ア  最高裁平成8年11月28日判決は,車の持込み運転手が労働基準法及び労災保険法上の労働者に当たらないとされた事例であり,最高裁平成19年6月28日判決は,作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事する形態で稼働していた大工が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例です。
イ 最高裁平成17年6月3日判決関西医科大学事件)は,臨床研修として病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する医師は,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り労働基準法上の労働者に当たるとされた事例です。
(3)ア 一人親方建設業共済会HPに載ってある「労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告 」(平成8年3月)には,建設業手間請け従事者及び芸能関係者について,労働者性の判断基準が書いてあります。
イ 社会保険労務士法人大野事務所HP「労働基準法における「労働者性」の判断基準」では,「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)」(略称は「フリーランスガイドライン」です。)で示された考え方が図解されています。
(4) 未払い残業代請求の法律相談(2022年9月20日付)261頁には「労蟇法上の労働者に該当すると判断されるリスクが相当程度あると考えられる場合には,業務従事者の労働時間の長さを確認又は推知することができる資料を収集,確保しておくことが必要となります。」と書いてあります。


2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
(1) 厚生労働省HPの「「労使関係法研究会報告書」について~労働組合法上の労働者性の判断基準を初めて提示~」(平成23年7月25日付)では,労働組合法上の労働者に該当するかどうかについては,以下の判断要素を用いて綜合的に判断すべきものとしています。
(1)基本的判断要素
  1 事業組織への組み入れ
   労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか。
  2 契約内容の一方的・定型的決定
   契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか。
  3 報酬の労務対価性
   労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか。
(2)補充的判断要素
  4 業務の依頼に応ずべき関係
   労務供給者が相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか。
  5 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
   労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務の供給を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘
  束を受けているか。
(3)消極的判断要素
  6 顕著な事業者性
   労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られるか。
(2) 労働組合法上の労働者であると判断した最高裁判例としては以下のものがあります。
① 最高裁昭和51年5月6日判決(CBC管弦楽団労組事件)
・ 民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例です。
② 最高裁平成7年2月28日判決朝日放送事件)
・ 雇用主との間の請負契約により労働者の派遣を受けている事業主が労働組合法七条にいう「使用者」に当たるとされた事例です。
③ 最高裁平成23年4月12日判決新国立劇場運営財団事件)
・  年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
④ 最高裁平成23年4月12日判決(INAXメンテナンス事件)
・  住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者が,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
・ Wikipediaの「INAX」には「INAX(イナックス)は、LIXILが展開する衛生陶器・住宅設備機器・建材のブランド名である。また、株式会社INAX(英: INAX Corporation)は、2011年3月までこれらの事業を展開していた企業で、現在のLIXILの前身の一つである。」と書いてあります。
⑤ 最高裁平成24年2月21日判決(ビクターサービスエンジニアリング事件)
・ 音響製品等の設置,修理等を業とする会社と業務委託契約を締結して顧客宅等での出張修理業務に従事する受託者につき,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)ア 人事・労働・労務相談ALG「労働組合法上の労働者性|労働基準法との違い」には以下の記載があります。
労働基準法上では、「労働者」は専用従属性を中心として判断されます。それとは異なり、労働組合法上の「労働者」は経済的従属性を中心として判断されることから、労働基準法上の労働者性よりも緩やかに認められるという点に特徴があります。
イ NHKの受託業務従事者(いわゆる地域スタッフ)は,労働基準法及び労働契約法上の労働者ではない(大阪高裁平成28年7月29日判決参照)ものの,労働組合法上の労働者ではあります(東京高裁令和元年5月15日判決参照)。
ウ vnnn’s blogの「NHK集金人には法人委託と地域スタッフの2種類います」には以下の記載があります。
あなたの部屋に何度もやってくるNHK集金人には、法人委託の集金人と地域スタッフの集金人の2種類います。法人委託の集金人は会社員でNHKが委託(仕事を頼んでいる)法人に所属している会社員です。それに対して、地域スタッフは個人事業主で個人でNHK業務委託契約を結んで、個人事業主として集金人をやっています。
(4)ア  使用者が誠実に団体交渉に応ずべき義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,使用者に対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することができます(山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件に関する最高裁令和4年3月18日判決)。
イ 東京都労働委員会は,令和4年11月25日,ウーバーイーツ配達員は労働組合法上の労働者であると判断しました(東京都労働委員会HPの「Uber Japan事件命令書交付について」参照)。 


3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
・ 平成30年(労)第219号に関する労働保険審査会の裁決は,会社及びグループの代表者である一方、実質上のトップから業務全般の指示を受けていた者は労働者ではないと判断した事例でありますところ,一般論として以下の判断をしています。
労災保険法は、労働者について定義規定を置いていないが、同法制定の経緯等からみて、同法にいう労働者とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)にいう労働者と同義であると解される。そして、昭和60年の労働基準法研究会報告書では、労働者性の判断基準が示され、仕事の依頼・業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、報酬の労務対償性の有無などの「使用従属性」に関する判断基準と「労働者性の判断を補強する要素」の諸要素を勘案して総合的に判断する必要があるとされているところであり、上記報告書の判断枠組みは当審査会としても合理性を有するものと考えるので、本件における労働者性の判断に当たっては、その判断枠組みを基準にして、判断の諸要素を総合的に検討すべきものと考える。

4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
・ 雇用保険に関する業務取扱要領20351(1)「労働者性の判断を要する場合」には「ル 在宅勤務者」として以下の記載があります(リンク先21頁及び22頁)。
    在宅勤務者(労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ、自己の住所又は居所において勤務することを常とする者をいう。)については、事業所勤務労働者との同一性が確認できれば原則として被保険者となりうる。
    この事業所勤務労働者との同一性とは、所属事業所において勤務する他の労働者と同一の就業規則等の諸規定(その性質上在宅勤務者に適用できない条項を除く。)が適用されること(在宅勤務者に関する特別の就業規則等(労働条件、福利厚生が他の労働者とおおむね同等以上であるものに限る。)が適用される場合を含む。)をいう。
    なお、この事業所勤務労働者との同一性を判断するにあたっては、次の点に留意した上で総合的に判断することとする。
(イ) 指揮監督系統の明確性
    在宅勤務者の業務遂行状況を直接的に管理することが可能な特定の事業所が、当該在宅勤務者の所属事業所として指定されていること
(ロ) 拘束時間等の明確性
所定労働日及び休日が就業規則、勤務計画表等により予め特定されていること
各労働日の始業及び終業時刻、休憩時間等が就業規則等に明示されていること
(ハ) 勤務管理の明確性
    各日の始業、終業時刻等の勤務実績が、事業主により把握されていること
(ニ) 報酬の労働対償性の明確性
    報酬中に月給、日給、時間給等勤務した期間又は時間を基礎として算定される部分があること
(ホ) 請負・委任的色彩の不存在
a 機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷(労働者の故意・過失によるものを除く。)、事業主や顧客等との通信費用等について本人の金銭的負担がないこと又は事業主の全額負担であることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
b 他の事業主の業務への従事禁止について、雇用契約書、就業規則等に明示されていること


5 関連記事その他
(1)ア 厚生労働省HPに載ってある「「労働者」について」には,労働基準法上の労働者性に関する裁判例及び労働組合法上の労働者性に関する裁判例等が載っています。
イ 労働政策研究・研修機構HPに「労働政策研究報告書 No.206 労働者性に係る監督復命書等の内容分析」(2021年2月10日付)が載っています。
(2) 労働安全衛生法の労働者は労働基準法の労働者と同じであり(同法2条2号),最低賃金法の労働者も労働基準法の労働者と同じです(同法2条1号)。
(3) インターンシップにおける学生は,以下のような実態がある場合,労働者に該当します(長野労働局HPの「インターンシップ受入れにあたって」参照)。
① 見学や体験的な要素が少ない。
② 使用者から業務に関わる指揮命令をうけている。
③ 学生が直接の生産活動に従事し、それによる利益・効果が当該事業所に帰属する。
④ 学生に対して、実態として何らかの報酬が支払われている
(4) 東京高裁令和4年5月18日判決(判例タイムズ1511号(2023年10月号)153頁以下)は,「組合規約上,「組合費及び機関で決定したその他の賦課金を納める義務」と定められているのみで,賦課金納付の条件や額についての定めがない場合には,賦課金納付義務の具体的な内容が特定されているとはいえず,また,上記規定と一体となる賦課金規程等も存在せず,機関で具体的な納付義務の内容が決定されたともいえないという事実関係の下では,上記規定に基づき,控訴人の組合員が労働争議の解決時に使用者から支払われた解決金の20%に相当する賦課金を控訴人に支払う義務を負うとは認められないとされた事例」です。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き