送達に関するメモ書き


目次
1 送達事務取扱者
2 送達実施機関
3 書記官送達
4 出会送達
5 法人に対する送達
6 補充送達
7 付郵便送達
8 銀行口座しか分からない人に対する訴訟提起が可能となる場合があること
9 送達が不要となるケース
10 関連記事その他

1 送達事務取扱者
(1) 受訴裁判所の裁判所書記官は,送達事務取扱者として送達に関する事務を取り扱います(民事訴訟法98条2項)。
(2) 公証人,執行官等が例外的に送達事務取扱者となることがあります。

 送達実施機関
(1)ア 送達実施機関は,送達事務取扱者の指示に基づいて送達を実施し,民事訴訟法109条に基づき送達報告書を作成する機関です。
イ 送達実施機関としては,郵便業務従事者,裁判所書記官,執行官,廷吏及び公証人があります。
(2)ア 郵便業務従事者は,特別送達(郵便法66条)の方法による交付送達を行います(民事訴訟法99条)。
イ 郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人である受送達者本人の氏名を冒書する行為は,同人名義の受領書を偽造したものとして,有印私文書偽造罪を構成します(最高裁平成16年11月30日決定)。
(3) 裁判所書記官は,書記官送達(民事訴訟法100条),出会送達(民事訴訟法105条),付郵便送達(民事訴訟法107条)及び公示送達(民事訴訟法110条)を行います。


3 書記官送達
(1)ア 裁判所書記官は,その所属する裁判所の事件について出頭した者に対しては,自ら送達をすることができますところ,これを「書記官送達」といいます(民事訴訟法100条)。
イ 旧民事訴訟法163条では,裁判所書記官が自ら送達をすることができる場合を,送達を受けるべき者(受送達者)が当該事件について出頭した場合に限定していたものの,平成10年1月1日施行の現行民事訴訟法100条では,そのような限定は廃止されました。
(2) 書記官送達を実施するためには,当事者が「裁判所書記官の所属する裁判所」の「事件について出頭した」ことが必要ですから,①大阪高裁の事件について出頭した当事者に対して大阪地裁の裁判所書記官が書記官送達をすることはできませんし,②およそ事件とは無関係に来庁したに過ぎない当事者に対して書記官送達をすることはできません。
    このような場合,当事者が送達を受けることを拒まない場合に限り,出会送達をできるにすぎません(民事訴訟法105条後段)。
(3) 勤務弁護士が所長弁護士の印鑑を持参して所長弁護士の名前で書記官送達を受けたような場合,当該送達は有効です(最高裁昭和27年8月22日判決参照)。


4 出会送達
(1) 出会送達は,受送達者が出会った場所での送達を受けることを拒まない場合に可能となりますところ,その具体例として以下のものが記載されています(民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-125頁参照)。
① 郵便業務従事者が,不在のため郵便局に持ち帰った後に,郵便局窓口に出頭した受送達者又はその補充送達受領資格者に交付する場合
・ 出会送達では, この場合のみ補充送達受領資格者にも交付可能となります(民事訴訟法106条1項後段)。
② 執行官送達において,送達場所以外の場所で受送達者に出会った場合
③ 書記官送達において,書記官の所属する裁判所の事件以外の関係で出頭した受送達者に出会った場合
(2) 係属部の書記官室において書記官送達又は出会送達を受けた場合,送達費用が発生しないこともあって,実務上,両者は必ずしも厳格に区別されているわけではないと思います。
    ただし,民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-231頁には「裁判所での出会送達」に関して,「(山中注:送達報告書は)基本的には,上記1の書記官送達に準ずることになるが,送達の場所は「出会場所」になるので, 「当庁○○において」等と具体的に記載する必要がある。」と書いてあります。


5 法人に対する送達
(1)ア 法人に対する送達はその代表者が受送達者となりますし(民事訴訟法37条及び102条),法文上はその代表者の住所等に送達するのが原則です(民事訴訟法103条1項本文)。
    しかし,実務上は通常,その例外規定である法人の営業所又は事務所に送達されていて(民事訴訟法103条1項ただし書),当該送達ができなかった場合に代表者の住所等に送達されています。
イ 例えば,大阪市北区西天満4丁目7番3号にある甲株式会社代表取締役Xの自宅に訴状等を送達する場合,「大阪市北区西天満4丁目7番3号 X様方 甲株式会社代表取締役X」が宛先となります。
(2)  債権差押及び転付命令が特別送達に付され,名宛人として甲銀行乙支店代表取締役丙と表示されていた場合に,右郵便物が郵便局員により乙支店の受付係へ交付されたときは,これにより送達の効力を生じ,その後に本店へ転送されても,送達の効力には影響を及ぼしません(最高裁昭和54年1月30日判決)。


6 補充送達
(1)ア 送達場所で送達名宛人に出会わない場合,送達名宛人の使用人その他の従業者又は同居者であって相当のわきまえのある者に書類を交付することにより,送達の効力が生じます(民事訴訟法106条1項及び2項)ところ,これを補充送達といいます。
イ 就業場所で補充送達がなされた場合,裁判所書記官はその旨を受送達者に通知しなければなりません(民事訴訟規則43条)。
(2) 受送達者宛の訴訟関係書類の交付を受けた民訴法106条1項所定の同居者等と受送達者との間に,その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合には,当該同居者等に対して上記書類を交付することによって,受送達者に対する補充送達の効力が生じます(最高裁平成19年3月20日決定)。


7 付郵便送達
(1)ア 被告の住居所が明らかであり,実際に居住しているにもかかわらず,被告が訴状を受け取らない場合,書留郵便に付する送達(付郵便送達)ができます(民事訴訟法107条)。
イ 付郵便送達の場合,裁判所が被告に対し,訴状を書留郵便で発送した時点で送達が完了します。
ウ 付郵便送達をした場合,裁判所書記官はその旨を受送達者に通知しなければなりません(民事訴訟規則44条)。
(2) 最高裁平成10年9月10日判決は,前訴において相手方当事者の不法行為により訴訟手続に関与する機会のないまま判決が確定した場合に右判決に基づく債務の弁済として支払った金員につき損害賠償請求をすることが許されないとされた,付郵便送達に関する事例判例です。
(3) 付郵便送達の要件充足を調査するため,マンション管理会社等に対する調査嘱託(民訴法186条)又は釈明処分としての調査嘱託(民訴法151条1項6号)を利用できる場合があると思います。
(4) 住居所調査の内容としては,①表札の確認,②呼び鈴を鳴らしたときの応対の確認,③郵便受けの確認,④電気メーターの確認,⑤水道/ガスメーターの確認,⑥洗濯物の確認窓の確認,⑦車両や自転車などの確認,⑧直接訪問,⑨関係者/近隣者/共同住宅所有者/管理会社への聞き込み及び⑩根拠を示す写真撮影があります(クローバー総合調査HP「付郵便送達を行う際の注意点」参照)。



8 銀行口座しか分からない人に対する訴訟提起が可能となる場合があること

(1) 名古屋高裁平成16年12月28日決定は,以下の判示をしています(ナンバリング及び改行を追加した他,判例体系では「」となっている部分を「◯◯」等と記載しました。)。
① なるほど、訴状の被告名は上記預金口座の名義人である片仮名の名前にすぎず、しかも、住所表示(訴状送達の便宜等のために有益であり、また、被告を特定する上で有用であることから実務上記載されるのが一般である。)は「不詳」とされている。
 しかし、抗告人は、本件訴訟提起前に、弁護士照会等により、所轄の◯◯警察署長及び上記預金口座のある◯◯銀行◯◯支店宛に「◯◯◯◯」の住所及び氏名(漢字)を問い合わせるなどの手段を尽くしたものの、協力が得られず、やむなく上記の記載の訴状による訴えを提起したことが認められる。
 そして、抗告人は、本件訴訟提起と同時に上記銀行に対する調査嘱託を申し立てているところ、これらの方法により、「◯◯◯◯」の住所、氏名(漢字)が明らかとなり、本件被告の住所、氏名の表示に関する訴状の補正がなされることも予想できる。
② したがって、本件のように、被告の特定について困難な事情があり、原告である抗告人において、被告の特定につき可及的努力を行っていると認められる例外的な場合には、訴状の被告の住所及び氏名の表示が上記のとおりであるからといって、上記の調査嘱託等をすることなく、直ちに訴状を却下することは許されないというべきである。
(2) 名古屋高裁平成16年12月28日決定には,「訴状において、不法行為に基づく損害賠償請求の相手方である被告の表示につき、被告名を「◯◯◯◯」と、住所地を「住所不詳(後記する振込先預金口座の登録住所)」とそれぞれ記載した上、その振込先預金口座として、「◯◯銀行◯◯支店、普通預金、口座番号 、名義人」と記載していることが認められる。」と書いてあります(判例体系では「」とあるのを「◯◯」という風に変えました。)。


9 送達が不要となるケース
(1) 不適法なことが明らかであって当事者の訴訟活動により適法とすることが全く期待できない訴えにつき,口頭弁論を経ずに,訴えを却下するか,又は却下判決に対する控訴を棄却する場合には,訴状において被告とされている者に対し訴状,控訴状又は判決正本を送達することを要しません(最高裁平成8年5月28日判決)。
(2) 再審裁判所は,再審の訴えが再審の要件を欠く不適法なものであり,その瑕疵を補正することができないときは,民事訴訟法140条により,口頭弁論を経ないで訴えを却下することができます(最高裁平成8年9月26日判決(判例体系に掲載)参照)。



10 関連記事その他
(1) 和解調書,放棄調書及び認諾調書等については,判決書のように職権送達の規定(民事訴訟法255条)が明文上存在しないため,実務上は当事者の口頭の申立てを促した上で送達されます。
(2)ア 日本郵政HPに「郵政150年史」が載っています。
イ 3桁又は5桁の郵便番号制度は昭和43年7月1日に開始し,7桁の郵便番号制度は平成10年2月2日に開始しました。
(3) レターパック等につき,インターネットによって追跡を行える期間は約100日です(日本郵便HPの「Q.郵便追跡は、どれくらいの期間、確認が可能ですか?」参照)。
(4)ア 国税不服審判所平成9年10月15日裁決は,住民票を異動したり、郵便受箱を撤去するなどした行為は、通知書の送達を回避することを意図してなされたものであり、請求人の住所は本件住所にあるとして、差置送達の効力を認めた事例です。
イ 国税不服審判所平成9年12月15日裁決は,郵便局に郵便物を留め置く手続をしている場合の送達の時期は、当該郵便局に郵便物が留め置かれた時に送達の効力が生ずるとした事例です。
ウ 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において,受取人が,不在配達通知書の記載その他の事情から,その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ,また,受取人に受領の意思があれば,郵便物の受取方法を指定することによって,さしたる労力,困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなどといった事情の下においては,右遺留分減殺の意思表示は,社会通念上,受取人の了知可能な状態に置かれ,遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められます(最高裁平成10年6月11日判決)。
(5) 東京パトレ税務法務オフィスHPに「日本郵便のWebレターを使ってみました」が載っています。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 更正決定等に伴い国費を支出する場合の基本的な考え方等について(令和3年7月28日付の最高裁判所総務局第一課長等の事務連絡)
・ 書記官等の事務処理の誤りに伴い国費を支出する場合の基本的な考え方等について(平成31年4月16日付の最高裁判所経理局の事務連絡)
・ 特別送達における郵便業務従事者への注意喚起の方法について(平成28年3月22日付の最高裁判所事務総局総務局第三課長の事務連絡)(「本人渡し事務連絡」ともいいます。)
→ 課長補佐の事務連絡もあります。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 外国送達
・ 訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件の裁判文書に関する文書管理



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