労災保険に関する審査請求及び再審査請求

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目次
第1 総論
第2 労災保険審査官に対する審査請求
第3 労働保険審査会に対する再審査請求
第4 文書その他の物件の閲覧等
第5 労災保険審査参与及び雇用保険審査参与
第6 労働保険審査会参与
第7 関連記事その他

第1 総論
1 労災保険に対する不服申立方法としては,労災保険審査官に対する審査請求,及び労働保険審査会に対する再審査請求があります。
2   労働災害に該当する交通事故との関係でいえば,労働基準監督署による症状固定の判断が速すぎるという理由で休業補償給付不支給決定に対する審査請求をしたり,労働基準監督署による後遺障害等級の認定がおかしいという理由で障害補償給付不支給決定に対する審査請求をしたりすることができます。
3 審査請求又は再審査請求に納得できない場合,地方裁判所に対する取消訴訟を提起することができます。

第2 労災保険審査官に対する審査請求
1 労災保険の後遺障害等級認定に関して,認定を知った日から3ヶ月以内に(労働保険審査官及び労働保険審査会法8条1項),都道府県労働局労災保険審査官(例えば,大阪労働局労働基準部労災補償課にいる大阪労働局大阪労災保険審査官)に対する審査請求をすることができます。

2(1) 労災保険審査官及び雇用保険審査官をあわせて労働保険審査官といいます(労働保険審査官及び労働保険審査会法1条)ところ,労働保険審査官は各都道府県労働局に設置されています(労働保険審査官及び労働保険審査会法2条の2)。
(2)   労災保険審査官に対する郵便物の宛先は労働局労働基準部労災補償課になっていることがありますものの,厳密に言えば,労災保険審査官は労災補償課に所属しているわけではありません。

3(1) 審査請求の代理人は,審査請求人のために,当該審査請求に関する一切の行為をすることができます(労働保険審査官及び労働保険審査会法9条の2第2項)。
そのため,例えば,労災保険審査官との面談に同席することができます。
(2) 審査請求をすると,原処分庁(労働基準監督署長のことです。)の意見書が送付されますところ,そこには,以下の事項が記載されています。
① 審査請求人等
→ 審査請求人氏名,所属事業場等が記載されます。
② 意見
→ 「本件審査請求を棄却されたい。」などと記載されています。
③ 理由
→ 「事実」として,災害事実の概要,処分に至るまでの経緯(①負傷又は発症後の療養経過,②本審査請求に関連する保険給付に関する処分経過,③療養期間等,④その他)が記載され,「処分の理由」として,該当する判断基準等及び判断が記載されています。

4(1) 労災保険に対する審査請求をした場合は通常,労働局に赴いて労災保険審査官と面談した上で,審査請求人の口頭での言い分を供述調書にまとめてもらいます。
その際,署名押印をしますから,認め印を持参する必要があります。
(2)   労災保険審査官と面談する前に,審査請求書及び原処分庁の意見書を読み直した方がいいです。
(3)ア 大阪労働局労働基準部労災補償課は,大阪市交通局の谷町四丁目駅の近くにある大阪合同庁舎第2号館(西隣にある大阪合同庁舎第4号館とは異なります。)9階にあります(大阪労働局HPの「大阪労働局へのアクセス」参照)。
また,館内に入館する場合,受付で入館証を記載する必要があります。
イ 奈良労働局労働基準部労災補償課は,近鉄新大宮駅(奈良駅の一つ前の駅であり,快速急行も停まります。)から北方向に徒歩8分の場所にある奈良第3地方合同庁舎2階にあります(奈良労働局HPの「奈良労働局のご案内」参照)。

5 労災保険に対する審査請求をした場合,以下の文面を含む同意書を提出するように指示されますし,過去の医療機関受診歴等を詳細に調査されることがあります。
今般,私が労働者災害補償保険審査官に審査請求を行った件に関し,労働者災害補償保険審査官が本件請求に係る調査・決定に際し,医療機関に対しレントゲンフィルム・診療録・意見書等の提出を求められること,関係機関等に対し資料等の提出を求められること,及び,関係機関等(医療機関を含む。)に対し照会を行われることに異議なく,本書をもって同意します。

6 平成27年度から平成30年度までの労災保険審査関係統計表を以下のとおり掲載しています。
① 平成27年度労災保険審査関係統計表
・ 平成27年度の場合,後遺障害等級の認定に争いがあるものに関する407件の決定のうち,棄却が323件,取消が78件,却下が6件でした。
・ 業務上外の認定のうち,反応性うつ病等の精神障害に係るものに関する340件のうち,棄却が329件,取消しが4件,却下が7件でした。
そのため,労基署において精神障害が業務外であると判断した場合,審査請求で取り消してもらえる確率は1.2%ぐらいということになります。
② 平成28年度労災保険審査関係統計表
③ 平成29年度労災保険審査関係統計表
④ 平成30年度労災保険審査関係統計表

7(1)   労災保険の後遺障害等級認定に関する取消訴訟は,審査請求に対する労災保険審査官の決定を経た後でなければ,提起することができません(労災保険法40条)。
(2)   労災保険審査官に対する審査請求をした日から3箇月を経過しても審査請求についての決定がない場合,労災保険審査官が審査請求を棄却したものとみなした(労災保険法38条2項)上で,取消訴訟を提起することができます。

第3 労働保険審査会に対する再審査請求
1(1) 労災保険審査官の決定に対して不服がある場合,労災保険審査官の決定書の謄本が送付された日から2ヶ月以内に(労災保険審査官及び労災保険審査会法38条1項),労働保険審査会に対する再審査請求をすることができます。
平成28年4月1日以降,労災保険の後遺障害等級認定に関する取消訴訟は,労働保険審査会に対する再審査請求を経ずして,提起することができるようになりました(労災保険法40条参照)。
(2) 再審査請求の代理人は,審査請求人のために,当該審査請求に関する一切の行為をすることができます(労働保険審査官及び労働保険審査会法50条・9条の2第2項)。

2 労働保険審査会は,労災保険及び雇用保険の給付処分に関して,第二審として行政不服審査を行う国の機関です(厚生労働省HPの「労働保険審査会」参照)。

3 労働保険審査会の審理期日の体験談が,外部ブログの「労働保険審査会の救済機関としての改善の方向-テレビ会議システムは是か非か-」に載っています。

4 厚生労働省HPの「労働保険審査会」に載ってある労働保険再審査取扱状況の「(第3表)事件種類別裁決件数」によれば,労災保険において後遺障害を理由とする再審査請求の裁決状況は以下のとおりであって,労働保険審査会に対する再審査請求において後遺障害等級認定が変わることはまずありませんから,取消訴訟を提起した方がいいと思います。
令和元年度:取消が1件,棄却が47件,却下が3件
平成30年度:取消が0件,棄却が55件,却下が2件
平成29年度:取消が3件,棄却が59件,却下が3件
平成28年度:取消が1件,棄却が98件,却下が4件
平成27年度:取消が0件,棄却が83件,却下が3件
平成26年度:取消が0件,棄却が83件,却下が6件
平成25年度:取消が0件,棄却が76件,却下が3件
平成24年度:取消が0件,棄却が98件,却下が1件
平成23年度:取消が5件,棄却が106件,却下が3件
平成22年度:取消が6件,棄却が120件,却下が3件
平成21年度:取消が3件,棄却が97件,却下が1件
平成20年度:取消が6件,棄却が133件,却下が4件
平成19年度:取消が6件,棄却が126件,却下が6件
平成18年度:取消が2件,棄却が143件,却下が2件

第4 文書その他の物件の閲覧等
1 審査請求人は,決定があるまでの間,労災保険審査官に対し,文書の閲覧,文書の写しの交付等を請求できます(労働保険審査官及び労働保険審査会法16条の3第1項)。

2 閲覧の場合,日時及び場所の指定があります(労働保険審査官及び労働保険審査会法16条の3第3項)。
謄写の場合,白黒コピーにつき1枚10円,カラーコピーにつき1枚20年の手数料が必要となります(労働保険審査官及び労働保険審査会法16条の3第4項・同法施行令14条の5第1項)。

3 文書その他の物件の閲覧等の対象は,以下に掲げるものであり,申立てがなされた時点で審査官が保有するものに限られます。
① 労働保険審査官及び労働保険審査会法14条の3第1項に基づき,審査請求人,利害関係者又は参与から提出された証拠文書その他の物件
② 労働保険審査官及び労働保険審査会法14条の3第2項にもとづき,原処分庁から提出された仮処分の理由となる事実を証する文書その他の物件
③ 労働保険審査官及び労働保険審査会法15条1項に基づく審理のための処分により提出された文書その他の物件

4 文書その他の物件の閲覧等申立書の書式は以下のとおりです。

表題:文書その他の物件の閲覧等申立書
本文:
   下記1の審査請求に関し,労災保険審査官及び労災保険審査会法16条の3第1項の規定に基づき,下記2の文書その他の物件の閲覧等を求めます。

1 事件の表示
   平成29年○月○日付で,審査請求人○○が行った○○補償給付不支給処分取消審査請求事件
2 閲覧等を求める文書その他の物件
   上記1の事件の審理に関して,審査官が収集した資料一式

5(1) 労災保険審査官は,第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき,その他正当な理由があるときでなければ,閲覧等を拒むことはできません(労働保険審査官及び労働保険審査会法16条の3第1項)。
「正当な理由」とは,例えば閲覧等に係る文書の一部又は全部が個人情報保護法14条各号に掲げる不開示情報に該当する場合等です。この場合,同法に基づく開示請求における取扱いを参考に判断されます。
また,労災保険審査官は,その必要がないものと認めるときを除き,文書その他の物件の閲覧等について提出人の意見を聴かなければなりません。ただし,労災保険審査官は,当該意見に拘束されませんから,提出人が文書の閲覧等を容認しないことのみを理由として直ちに閲覧等を拒むことはできず,当該文書の閲覧等を認めることによって提出人が被る不利益の内容や程度を検討し,文書の閲覧等を拒む「正当な理由」が認められるか否かを判断します。
(2)ア 個人情報保護法14条各号の不開示情報に該当するものについては,文書の提出人が閲覧等に同意した場合,閲覧できますものの,文書の提出人が閲覧等に同意しない場合,閲覧できません。
同条各号の不開示情報に該当しないものについては,文書の提出人が閲覧等に同意した場合,閲覧できますものの,文書の提出人が閲覧等に同意しない場合,個別に検討することとなります。
イ 個人情報保護法に基づく開示請求と比べた場合,文書の提出人が閲覧等に同意したものが追加で閲覧できることとなります。
(3) 個人情報保護法14条各号の不開示情報に該当する可能性がある情報については,個人情報開示請求をした方が不服申立てができるというメリットがあります(神奈川労災職業病センターHP「審査請求の手続きが大きく変わりました」参照)。

6(1) 再審査請求人は,決定があるまでの間,労働保険審査会に対し,文書の閲覧,文書の写しの交付等を請求できます(労働保険審査官及び労働保険審査会法50条・16条の3第1項)。
(2) 取扱いの詳細は,労災保険審査官に対する閲覧等の請求と同じであると思われます。

第5 労災保険審査参与及び雇用保険審査参与
1 厚生労働大臣は,都道府県労働局につき,労働者災害補償保険制度に関し,関係労働者を代表する者及び関係事業主を代表する者各二人を,雇用保険制度に関し,関係労働者を代表する者及び関係事業主を代表する者各二人を,それぞれ関係団体の推薦により指名します(労働保険審査官及び労働保険審査会法5条)。
2 労災保険制度の関係労働者又は関係事業主を代表する者が労災保険審査参与であり,雇用保険制度の関係労働者又は関係事業主を代表する者が雇用保険審査参与です(労働保険審査官及び労働保険審査会法施行規則1条1項)。
3(1) 労災保険審査官は労働保険審査参与が述べた意見を尊重し,雇用保険審査官は雇用保険審査参与が述べた意見を尊重しなければなりません(労働保険審査官及び労働保険審査会法13条2項,労働保険審査官及び労働保険審査会法施行令8条1項)。
(2) 労災保険審査官及び雇用保険審査官の決定書には必ず,参与が述べた意見の要旨が書いてあります。

第6 労働保険審査会参与
1 厚生労働大臣は,労働者災害補償保険制度に関し関係労働者及び関係事業主を代表する者各6人を,雇用保険制度に関し関係労働者及び関係事業主を代表する者各2人を,それぞれ,関係団体の推薦により指名します(労働保険審査官及び労働保険審査会法36条)ところ,これが労働保険審査会参与です(労働保険審査官及び労働保険審査会法施行規則1条2項)。
2 労働保険審査会は,労働保険審査会参与が提出した意見書を尊重しなければなりません(労働保険審査官及び労働保険審査会法45条2項,労働保険審査官及び労働保険審査会施行令29条4項)。

第7 関連記事その他
1 東京高裁昭和56年9月24日判決(判例秘書に掲載)は,「診療録は、その他の補助記録とともに、医師にとつて患者の症状の把握と適切な診療上の基礎資料として必要欠くべからざるものであり、また、医師の診療行為の適正を確保するために、法的に診療の都度医師本人による作成が義務づけられているものと解すべきである。従つて、診療録の記載内容は、それが後日改変されたと認められる特段の事情がない限り、医師にとつての診療上の必要性と右のような法的義務との両面によつて、その真実性が担保されている」と判示しています。
2 以下の記事も参照してください。
 労災保険の給付内容
・ 労災保険に関する書類の開示請求方法
・ 労災保険の特別加入制度
 弁護士の社会保険
・ 民間労働者と司法修習生との比較
 業務が原因で心の病を発症した場合における,民間労働者と司法修習生の比較
・ 平成30年度全国労災補償課長会議資料
 厚生労働省労働基準局の,労災保険に係る訴訟に関する対応の強化について

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