第1 令和8年4月1日現在の報酬・俸給月額
1 判検事トップと主な行政特別職の比較
裁判所データブック2026「裁判官の報酬等」,裁判官の報酬等に関する法律,検察官の俸給等に関する法律及び特別職の職員の給与に関する法律に基づく比較は,次のとおりである。
| 裁判官・検察官の区分 | 報酬・俸給月額 | 同額の主な行政特別職 |
|---|---|---|
| 最高裁判所長官 | 2,095,000円 | 内閣総理大臣 |
| 最高裁判所判事・検事総長 | 1,528,000円 | 国務大臣,会計検査院長,人事院総裁 |
| 東京高等裁判所長官 | 1,466,000円 | 内閣法制局長官,内閣官房副長官,副大臣,国家公務員倫理審査会の常勤の会長,公正取引委員会委員長,原子力規制委員会委員長,宮内庁長官等 |
| その他の高等裁判所長官・東京高等検察庁検事長 | 1,358,000円 | 本記事で比較する主な行政特別職には同額区分がない |
| 次長検事・その他の検事長 | 1,250,000円 | 検査官,人事官,内閣危機管理監,国家安全保障局長,デジタル監,個人情報保護委員会委員長,カジノ管理委員会委員長,サイバー通信情報監理委員会委員長等 |
| 判事1号・検事1号 | 1,224,000円 | 内閣広報官,内閣情報官,内閣サイバー官,常勤の大臣補佐官,国家公務員倫理審査会の常勤の委員,公正取引委員会委員等 |
最高裁判所長官と内閣総理大臣,最高裁判所判事及び検事総長と国務大臣等は,同じ月額に設定されている。
もっとも,各区分にはそれぞれ別の法律が適用されるため,同額であることは,法的身分又は給与制度が同一であることを意味しない。
2 東京高裁長官とその他の高裁長官の違い
東京高等裁判所長官は1,466,000円であるのに対し,その他の高等裁判所長官は1,358,000円である。
また,検察官では,東京高等検察庁検事長が1,358,000円であり,次長検事及びその他の検事長は1,250,000円である。
したがって,「高裁長官」又は「検事長」という職名だけでは報酬・俸給月額を特定できず,東京の長官であるかどうかを確認する必要がある。
第2 表の金額は手取り額を含む「月収」ではない
1 報酬月額・俸給月額と給与総額の区別
裁判官について法律上用いられる用語は「報酬月額」であり,検察官及び行政特別職については「俸給月額」である。
第1の表は,これらの法定基礎額を比較したものであり,地域手当,通勤手当,期末手当その他の給与,税金及び社会保険料を反映した手取り月収を示すものではない。
裁判官の報酬法9条は,報酬及び退官手当以外の給与を別に定め,裁判官の報酬以外の給与に関する規則は,初任給調整手当,扶養手当,地域手当,広域異動手当,通勤手当,単身赴任手当,裁判官特別勤務手当,期末手当及び勤勉手当等を定めている。
検察官についても,俸給月額のほかに法令上支給される給与がある。
2 地域手当の20%は「月収の20%」ではない
東京都特別区の地域手当の支給割合は20%であるが,その20%を手取り額又は月収全体に乗じるわけではない。
最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和3年5月20日答申(令和3年度(最情)答申第3号)は,判事補の地域手当について,報酬及び扶養手当の月額の合計額に,地域手当の級地に応じた割合を乗じて算定すると説明している。
したがって,「地域手当として別途,月収の20%が加算される」との説明は不正確である。
なお,勤務地が異なれば支給割合も異なるため,同じ報酬月額又は俸給月額であっても,実際の給与総額は一致しないことがある。
3 行政特別職の本府省業務調整手当
令和7年法律第90号は,常勤の行政特別職に本府省業務調整手当を支給する制度を導入し,その改正を令和7年4月1日から適用した。
人事院月報2026年4月号によれば,指定職俸給表の適用を受ける本府省職員等の手当額は月額51,800円である。
そのため,行政特別職について「月額給与」を論じる場合には,俸給月額,地域手当及び本府省業務調整手当を区別する必要がある。
4 国会議員が行政特別職を兼ねる場合
令和7年法律第90号は,当分の間,国会議員が内閣総理大臣,国務大臣,内閣官房副長官,内閣総理大臣補佐官,副大臣,大臣政務官又は大臣補佐官を兼ねる場合,兼職する行政特別職として受けるべき給与を支給しないこととした。
この不支給規定は,公布日である令和7年12月24日から施行されている。
したがって,内閣総理大臣又は国務大臣の法定俸給月額と,現に国会議員を兼ねる者への支給額は区別しなければならない。
第3 令和2年1月7日当時の比較
1 令和2年当時の正しい金額
令和2年1月7日当時の裁判官報酬法,検察官俸給法及び特別職給与法に基づく金額は,次のとおりである。
| 裁判官・検察官の区分 | 令和2年1月7日当時 | 令和8年4月1日現在 | 増加額 |
|---|---|---|---|
| 最高裁判所長官 | 2,010,000円 | 2,095,000円 | 85,000円 |
| 最高裁判所判事・検事総長 | 1,466,000円 | 1,528,000円 | 62,000円 |
| 東京高等裁判所長官 | 1,406,000円 | 1,466,000円 | 60,000円 |
| その他の高等裁判所長官・東京高等検察庁検事長 | 1,302,000円 | 1,358,000円 | 56,000円 |
| 次長検事・その他の検事長 | 1,199,000円 | 1,250,000円 | 51,000円 |
| 判事1号・検事1号 | 1,175,000円 | 1,224,000円 | 49,000円 |
令和2年当時の最高裁判所長官の報酬月額は,内閣総理大臣の俸給月額と同じ2,010,000円であった。
令和2年当時の金額と令和8年現在の金額は区別して参照する必要がある。
2 古い給与表と現在額を混同しないこと
令和3年1月1日現在の裁判官・検察官の給与月額表を紹介したX投稿は,過去の給与表を確認する資料として有用である。
もっとも,給与表の基準日は令和3年1月1日であり,令和8年現在の金額を示すものではない。
現在額を確認する場合は,裁判所データブック2026又は現行法令の別表を用いる必要がある。
第4 なぜ判検事と行政特別職の月額が対応するのか
1 別々の法律による給与体系
裁判官,検察官及び行政特別職の給与体系は,それぞれ別の法律で定められている。
裁判官の報酬は,裁判官の報酬等に関する法律により,検察官の俸給は,検察官の俸給等に関する法律により定められる。
行政特別職の俸給は,特別職の職員の給与に関する法律により定められる。
検察官は国家公務員法上の一般職であるが,職務と責任の特殊性等から独自の俸給法が設けられている。
制度の沿革については,裁判官報酬法及び検察官俸給法が別に存在する理由も参照されたい。
2 一般の政府職員の給与改定との均衡
令和7年の改定では,行政特別職は令和7年法律第90号,裁判官は同年法律第93号,検察官は同年法律第94号という別々の法律で改定された。
衆議院法務委員会令和7年12月10日会議録は,一般の政府職員の給与改定に伴い,裁判官及び検察官についても一般の政府職員の例に準じて給与を改定する趣旨を説明している。
したがって,判検事と行政特別職の同額関係は,同じ給与法が直接適用される結果ではなく,国家公務員全体の給与体系との均衡を保ちながら,各法律の別表を対応させて改定してきた結果と理解すべきである。
第5 裁判官の地域手当をめぐる係属事件と関連裁判例
1 名古屋地方裁判所令和6年(行ウ)第53号事件
CALL4掲載の訴訟資料によれば,名古屋地方裁判所令和6年(行ウ)第53号事件では,勤務地による地域手当の差が日本国憲法80条2項の報酬減額禁止等に反するかが争われている。
同事件は,令和8年7月28日現在,係属中であり,裁判所の判断はまだ示されていない。
したがって,原告の主張を確定した法解釈として扱うことはできない。
争点,双方の主張及び関連資料については,裁判官の地域手当の合憲性で詳しく整理している。
2 国家賠償請求に関する周辺判例
最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・昭和53年(オ)第1240号・民集39巻7号1512頁は,国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となる場合を限定する基本的な判断枠組みを示した。
最高裁平成17年9月14日大法廷判決・平成13年(行ツ)第82号,第83号及び同年(行ヒ)第76号,第77号・民集59巻7号2087頁は,憲法上の権利行使の機会を確保する立法が必要不可欠であることが明白で,国会が正当な理由なく長期にわたりこれを怠る場合等には,国家賠償法上違法となり得るとした。
これらは係属事件の国家賠償請求に関係し得る一般判例であるが,裁判官の報酬月額又は地域手当の合憲性を直接判断した判例ではない。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索及び公開判例資料で確認した限り,判検事トップと行政特別職の月額対応又は裁判官の地域手当の合憲性を直接判断した日本の確定裁判例は確認できなかった。
裁判所ウェブサイトには全裁判例が掲載されるわけではないため,直接判例が存在しないと断定するものではない。
第6 関連記事
④裁判官の給料と他の国家公務員の給料との整合性に関する答弁例
第7 出典
⑧最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会令和3年度(最情)答申第3号
⑨CALL4・地域による報酬格差は違憲!裁判官の独立と良心を守る訴訟
⑩公務人材開発協会人事行政研究所『令和2年版 国家公務員給与のてびき―その仕組みと取扱い―』(令和2年)211頁及び309頁~312頁
⑪公務人材開発協会人事行政研究所『令和2年版 別冊・国家公務員給与のてびき―主要俸給表の基準と沿革―』(令和2年)540頁~541頁