百日裁判事件(公職選挙法違反)


目次
第1 百日裁判事件(公職選挙法違反)
第2 関連記事その他

第1 百日裁判事件(公職選挙法違反)
・ 「百日裁判事件処理に関する執務資料(平成13年度版 含,百日裁判事件概説)」の「第1部 百日裁判事件概説」には以下の記載があります。

第1 百日裁判の対象
   以下の記述は,公刊物等に登載された公職選挙法の解説のうち百日裁判に関する部分を当刑事局(山中注:最高裁判所事務総局刑事局)で取りまとめたものである。
1 百日裁判の意義
   公職選挙法(以下,単に「法」という。)は,法253条の2第1項において, 当選人や選挙運動の総括主宰者ら(いわゆる連座対象者)による一定の選挙犯罪事件については,訴訟の判決は,事件を受理した日から百日以内にこれをするように努めなければならないと定めている。これに基づいて行われる裁判を一般に百日裁判と呼んでいる。
   百日裁判の対象となる事件は,大きく分けると,
① 当選人の選挙犯罪
② 法251条の2第1項各号に掲げる総括主宰者,出納責任者,地域主宰者,公職の候補者等の親族,公職の候補者等の秘書の選挙犯罪
③ 法251条の3第1項に掲げる組織的選挙運動管理者等の選挙犯罪
④ 法251条の4第1項各号に掲げる公務員等の選挙犯罪
の4つに分けられる。このうち②~④は,公職の候補者(以下,単に「候補者」という。)以外の者による選挙犯罪であり,その有罪判決の効果が当選無効(②,③は立候補制限も含む) という形で当該候補者に及びうるとされていることから,一般に連座対象者の選挙犯罪と呼ばれている(連座制)。
   百日裁判の規定が設けられた趣旨は, 当選無効等の効果を生じさせるこの種の事件については,できる限り速やかに裁判を終了して,選挙結果の早期安定を図るとともに, 当選無効等の効果に実効性をあらしめる点にあるとされている。
※ 法213条は,選挙等の効力に関する訴訟の判決【①選挙の効力に関する訴訟の裁判,②当選人の当選の効力に関する訴訟の裁判,③連座制の適用による当該候補者の当選無効及び立候補制限に関する訴訟の裁判(連座裁判)】についても事件を受理した日から百日以内に判決するように努めなければならないとしており, これについても百日裁判と呼ばれることがある。
2 百日裁判の対象となる事件
(1)  当選人の選挙犯罪
ア 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
   当選人については,公職選挙法16章に掲げるすべての罪のうち次の条文に記載される罪を除き,百日裁判の対象となる。
・235条の6 (あいさつを目的とする有料広告の制限違反)
・245条(選挙期日後のあいさつ行為の制限違反)
・246条(選挙運動に関する収入及び支出の規制違反)第2~9号
・248条(寄附の制限違反)
・249条の2 (公職の候補者等の寄附の制限違反)第3~5項, 7項
・249条の3 (公職の候補者等の関係会社等の寄附の制限違反)
・249条の4 (公職の候補者等の氏名等を冠した団体の寄附の制限違反)
・249条の5 (後援団体に関する寄附等の制限違反)第1項, 3項
・252条の2 (推薦団体の選挙運動の規制違反)
・252条の3 (政党その他の政治活動を行う団体の政治活動の規制違反)
・253条(選挙人等の偽証罪)
イ 百日裁判の規定の適用除外の有無
   当選人の場合,公職選挙法に規定するすべての選挙(※1)におけるア記載の選挙犯罪につき百日裁判の規定の適用がある。
   これに対し,選挙犯罪を犯した当選人が起訴前に辞職した場合, あるいは,落選者についての選挙犯罪事件は百日裁判としては取り扱う必要はないと解されている。また,起訴後に当選人が辞職した場合には, それ以降百日裁判として処理する必要がないと解されている(※2)。これは,当選人本人の選挙犯罪の場合,百日裁判実施の目的は法251条に定める当選人の当選無効の効果を実効あらしめることにあり,既に当選人が辞職したり,あるいは候補者が落選している場合は,その実施目的が消滅していると考えられることが理由とされている(※3)。
※1 公職選挙法に規定されるすべての選挙とは,衆議院小選挙区選出議員選挙(衆議院小選挙区選挙),同比例代表選出議員選挙(衆議院比例区選挙),同小選挙区。比例代表選出議員並立選挙(衆議院重複立候補選挙),参議院選挙区選出議員選挙(参議院選挙区選挙),同比例代表選出議員選挙(参議院比例区選挙),地方公共団体の議会の議員及び長の選挙である。
※2 この場合も,当該審級限りにおいて,百日裁判の処理に関する調査票を作成する取扱いがなされている。
※3 百日裁判の規定の適用がなくなることにより,裁判が長引き,被告人が裁判中に次期選挙に立候補し, 当選するという事態が生じうることになる。しかし,一部の例外を除き当該選挙犯罪事件につき有罪判決が確定すれば,法252条により被選挙権が停止され,その確定時期が次期選挙の当選告知等により議員又は長の身分を取得する前であれば,法99条により当選失格となり,身分取得後であれば,国会法109条,地方自治法127条, 143条によりその身分を失う。
ウ 選挙犯罪事件の刑が確定した場合の効果
   法251条は, 当選人がアの対象選挙犯罪を犯し, 「刑に処せられたときは,その当選人の当選は,無効とする」として, 当選無効をその効果として規定している。ここでいう 「刑に処せられた」とは,刑が確定したことをいい.執行猶予が付された場合も含まれる。
※ 後述する連座対象者による選挙犯罪の場合とは異なり,当選人自らの選挙犯罪の場合には,立候補制限(同一選挙区の同一選挙における5年間の立候補の制限)は科せられない。これは,当選人の選挙犯罪について刑力職定すれば,法252条の規定によって,当選人は選挙権及び被選挙権を5年の期間停止(ただし,情状により停止免除,あるいは期間減縮となる場合がある。)され,事実上立候補制限と同様の効果が発生するからであろうと説明されている。
(2) 法251条の2第1項各号に掲げる総括主宰者,出納責任者,地域主宰者,候補者等の親族,候補者等の秘書の選挙犯罪
ア 意義
(ア) 総括主宰者(法251条の2第1項1号)
   特定の候補者を当選させる目的で, その選挙運動に関する諸般の事務を事実上総括指揮し,実質において選挙運動の中心的勢力を形成した者である。いわゆる選挙事務長,選挙参謀等と呼ばれているものがこれに当たることが多いと思われるが,総括主宰者は届出制ではないので,その者が総括主宰者に当たるかどうかは,現実に行われた選挙運動の実情に即して実質的に判断きれなければならない(最判昭43.4.3刑集22巻4号167頁参照)。
   なお,上記最高裁判決は, ここでいう選挙運動とは,当該候補者が正式の立候補届出又は推薦届出により候補者としての地位を有するにいたってから以後に行われたものを指称すると解するの力湘当であるとしている。
(イ) 出納責任者(同2号)
   公職選挙法上,出納責任者とは,候補者によって選任された選挙運動に関する収入及び支出の責任者とされ, この者の氏名等は,選挙管理委員会に届け出なければならないものときれている(法180条)。出納責任者は,候補者によって選任される者であるから候補者の立候補届出前又は推薦届出前の段階では存在しない。
   また,本号では候補者又は届出のあった出納責任者と意思を通じて選挙運動費用の法定限度額の2分の1以上に相当する額を支出した者も連座対象者とされている。これは,届出のあった形式上の出納責任者の影に居て,選挙費用の収支に関する実権を握り,現実の収支をした事実上の出納責任者についても罰則(第16章)の関係では,出納責任者と同様に処罰する場合がある(法221条3項3号等参照)ことを受けたものである。
(ウ) 地域主宰者(同3号)
   3以内に分けられた選挙区(選挙区がないときは,選挙の行われる区域)の地域のうち1又は2の地域における選挙運動を主宰すべき者,すなわち,分けられた地域のうちの1又は2の地域内の全地域について,その候補者のための選挙運動に関する支配権を有すべき者として,候補者又は総括主宰者から定められ,当該地域における選挙運動を主宰した者をいう。
   「3以内」とは選挙区が2又は3に分けられていれば,原則として分けられた地域の広狭は問わない。
   「候補者又は総括主宰者から定められた」とは,文書による任命や委嘱という要式行為を必要とする趣旨ではない。口頭での依頼を受けて応諾した場合はもちろん,その者が候補者又は総括主宰者と意思を通じて, これと密接に連絡を取りつつ,動いているような客観的な事実があれば,地域主宰者に該当するとされている。
(エ) 候補者等の親族(同4号)
   候補者又は候補者になろうとする者(以下後者を「立候補予定者」といい,両者あわせて「候補者等」という。)の父母,配偶者,子又は兄弟姉妹で,候補者等,総括主宰者又は地域主宰者と意思を通じて選挙運動をした者をいう。養親子関係はここにいう親族に当たるが, 内縁関係は当たらない。また,姻族は含まれない。
   「意思を通じて」とは,選挙運動をすることについて意思を通じるという意味で,買収等の個々の選挙犯罪を行うことについてまで意思を通じる必要はない。また,明示の意思の疎通に限らず,黙示の意思の疎通も含まれる。
※ 法251条の2第1項4号の親族及び後述する5号の秘書は, _候補者が立候補する前の段階から生じている身分であり立候補予定者のための選挙運動に関する選挙犯罪も当然に想定されているから,法は, これらも連座制の適用犯罪(百日裁判の対象)に含めている。
   なお,後述する組織的選挙運動管理者等についても,立候補予定者のための選挙運動に関する選挙犯罪が連座制の適用犯罪(百日裁判の対象)とされている点については,親族らと同様である。
(オ) 候補者等の秘書(同5号)
   秘書(候補者等に使用される者で, 当該候補者等の政治活動を補佐する者)で,候補者等,総括主宰者又は地域主宰者と意思を通じて選挙運動をした者をいう。
   秘書に当たるかどうかは,その実態から判断すべき事項であり, 当該人と候補者等の間に雇用関係が存在している必要はない。例えば,政党職員の身分であっても,実質的に候補者等の意思を受けて行動していればこれに当たることになる。ただし,「補佐」するとあることから,単なる事務上の手足としての助力では足りず,一定程度の裁量をもって事務を遂行すること,あるいは, スタッフ的な助言をすることが必要になると解されている。
   なお, 当該候補者等の承諾又は容認のもとに候補者等の秘書という名称又はこれに類似する名称を使用する者については,連座制の適用につき秘書と推定される旨の規定がある(法251条の2第2項)。
イ 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
   以下の選挙犯罪が百日裁判の対象となる。
・ 221条(買収及び利害誘導罪)
・ 222条(多数人買収及び多数人利害誘導罪)
・ 223条(公職の候補者及び当選人に対する買収及び利害誘導罪)
・ 223条の2 (新聞紙, 雑誌の不法利用罪)
   なお,出納責任者((事実上の出納責任者を除く) については, 247条(選挙費用の法定額違反) も百日裁判の対象となる。
※ 総括主宰者,出納責任者,地域主宰者は,法221条ないし223条の2の選挙犯罪については,その身分があることにより刑が加重されるいわゆる加重的身分となっている(法221条3項,222条3項, 223条3項, 223条の2第2項)。
ウ 百日裁判の規定の適用除外の有無
(ア) 衆議院比例区選挙における選挙犯罪については,百日裁判の規定の適用がない。
   衆議院比例区選挙については,法251条の2第5項に,連座制が適用されない旨の除外規定がある。比例区選挙は,政党選挙であり,選挙人は,候補者個人ではなく,政党に投票し,政党の獲得した議席数に従って,当選人が決まる。このような選挙では, 仮にある政党の選挙事務長(総括主宰者であるとする。)が買収罪を犯した場合, それがどの名簿登載者の当選に寄与したのか明確ではない。ここに,連座制を適用すると,考え方によっては, 当該政党が届出する衆議院名簿登載者すべてについて当選無効等の効果を及ぼさねばならないことにもなるが, これではあまりに選挙人の意思を不当に歪める結果となり,著しく妥当性を欠くと考えられることがその理由とされている。
   ところで,参議院比例区選挙については,従前は衆議院と同様に連座制が適用されず,同選挙における選挙犯罪も百日裁判の規定が適用されていなかったが,平成12年11月29日公布の同年法律第130号による公職選挙法の改正により,投票の方式が候補者の氏名と政党等の名称のいずれを記載してもよいことになった。そのため,連座制を適用すべき候補者の特定が可能となり,参議院比例区選挙が連座制の適用対象選挙に加えられ,その選挙犯罪は,百日裁判で行われることになった。
(イ)  当選人自身による選挙犯罪の場合と異なり,候補者が落選し,又は当選後に辞職した場合であっても,前記切に記載された選挙における選挙犯罪は,百日裁判として処理される。これは,法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪にかかる連座制は,その効果として当選無効のみならず,立候補制限の効果もあるから,候補者が落選又は辞職した場合であっても,百日裁判を実施して,立候補制限の効果を早期に確定させ, 当該候補者の次期選挙における立候補,当選を防ぐ必要があることが理由とされている。
エ 選挙犯罪事件の刑が確定した場合の効果
   法251条の2第1項各号の連座対象者が所定の選挙犯罪を犯し,刑に処せられたとき(※1)には,連座訴訟(※2)の結果等を待って,①当該候補者等の当選無効,②同人の今後5年間の同一選挙区における同一選挙の立候補制限(※3 以下単に「立候補制限」という)の連座制の効果が発生する(法251条の2第1項)。
   さらに,衆議院重複立候補選挙において, 当該候補者等が小選挙区で落選したものの,比例区で当選し,かつウ小選挙区選挙でその連座対象者が選挙犯罪を犯し刑に処せられた場合には, 当該候補者等につき,小選挙区選挙での立候補制限の効果が発生するほか,③比例区選挙の当選も無効となるという特別効(波及効※4)が発生する
(法251条の2第1項後段)。
※1 「刑に処せられた」とは,当選人の選挙犯罪の場合と同様,刑が確定した場合を指し,執行猶予付の判決が確定した場合も含む。総括主宰者,出納責任者及び地域主宰者については「罰金以上の刑」が確定した場合が,親族及び秘書については「禁鍜以上の刑」が確定した場合が,それぞれ連座制の効果の発生要件とされている。
※2 連座訴訟と免責
(ア) 連座訴訟とは,連座対象者が選挙犯罪を犯しその者につき有罪判決が確定した場合に, 当該候補者等に連座制の効果を発生させるために行われる行政事件訴訟である(法210条,211条)。候補者等は,連座訴訟の中で連座身分の不存在や免責事由を主張して連座制の効果の発生を争うことができる。
(イ) 免責
   法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪が「おとり」又は「寝返り」によって行われた場合には,連座制の効果の一部を生じさせないと規定されている(同条第4項)。
   「おとり」とは,当該候補者等に対し,当選無効又は立候補制限の効果を生じさせることを目的として,他の候補者等の陣営と意思を通じて,当該候補者等の連座対象者を誘導し又はこれを挑発して,選挙犯罪を行わせることを指し, 「寝返り」とは, 当該候補者等に対し,当選無効又は立候補制限の効果を生じさせることを目的として,当該候補者等の連座対象者斌他の候補者等の陣営と意思を通じて,選挙犯罪を行うことを指す。
   連座制の効果のうち免責が認められるのは,当該候補者等に対する立候補制限の効果及び衆議院重複立候補選挙の場合における比例区選挙の当選を無効とする効果(波及効)についてのみであって, 当該候補者等の当該選挙の当選無効については免責されない。これは,法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪によって当該候補者等が当選無効となるのは, このような選挙において主要な地位を占める者が買収罪等の悪質な選挙犯罪を犯した場合,その選挙全体が客観的には不公正な方法で行われたとの推認が成り立ちうるからであるところ, その制度目的に照らすと,たとえ「おとり」などの当該候補者等に帰責できない事由があっても,それらの者により買収等が行われた以上,同様の推認が成り立ち得るから当選無効の効果を発生させるべきであると考えられたことによるとされている。
※3 立候補制限の効力は,平成6年の公職選挙法の一部改正の際に盛り込まれたものである。それまでも連座制による当選無効の制度はあったが,裁判が遅延すると,任期満了等により当選無効は空振りになることが起こり得ること,及び連座対象者による選挙犯罪の場合252条に基づく被選挙権の停止の効力は,あくまで連座対象者自身について生じ,当該候補者等には事後の立候補に何らの制限も課せられていなかったことから,連座制の効果としての当選無効の制度の実効性を確保することを主な目的として,連座制の効力に,立候補制限の効力が付加されたとされている。
※4 波及効は,小選挙区選挙において行われた選挙犯罪の効果が,別選挙だからという理由で比例区選挙には及ばず,当該候補者が比例区選挙の当選人として議員等の地位にあり続けるという不都合を是正すべく,平成6年の改正の際に採り入れられた制度である。小選挙区での当選無効を補完するためのものとされており,比例区選挙についての立候補制限の効果までは含まれていない。
(3) 組織的選挙運動管理者等(法251条の3第1項)の選挙犯罪
ア 意義
   組織的選挙運動管理者等とは,候補者等と意思を通じて組織により行われる選挙運動において,
(ア) 選挙運動の計画の立案若しくは調整を行う者
(イ) 選挙運動に従事する者の指揮若しくは監督を行う者
(ウ) その他選挙運動の管理を行う者
である(ただし,総括主宰者,出納責任者,地域主宰者を除く)。
   「組織」とは,特定の候補者等を当選させる目的をもって,複数の人が,役割を分担し,相互の力を利用し合い,協力し合って活動する実態をもった人の集合体及びその連合体をいうと解されており,例えば,政党,政党の支部,政党の青年部・婦人部,候補者等の後援会,系列の地方議員の後援会,協力支援関係にある首長の後援会,地元事務所,選挙事務所,政治支援団体,選挙支持母体等がこれに当たるほか,本来選挙活動以外の目的で存在する会社,労働組合,宗教団体,業界団体,青年団,同窓会,町内会等も,特定の候補者等を当選させる目的をもって,役割を分担し,協力し合って選挙運動を行う場合には,「組織」に当たると解されている。
   選挙運動力喉補者等と意思を通じて組織として行われることが要件とされているが, その組織の総括的立場にある者と候補者等との間に選挙運動を行うことについての意思の連絡が認められれば足り,候補者等と組織的選挙運動管理者等との間には, そのような意思の連絡は不要ときれている。
イ 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
   法251条の3第1項に規定されており,前記の法251条の2第1項各号の連座対象者と犯罪の種類は同様である(ただし,法247条の出納責任者による選挙費用の法定額違反は対象外となる。)。
ウ 百日裁判の規定の適用除外の有無
   法251条の2第1項各号の連座対象者の場合と同様である。
(ア) 衆議院比例区選挙における選挙犯罪については,百日裁判の規定の適用がない(法251条の3第3項参照)。
(イ) 候補者等が落選し,又は当選後に辞職した場合であっても百日裁判の規定が適用される。
エ 選挙犯罪事件の刑が確定した場合の効果
   その犯した選挙犯罪につき禁錮以上の刑(執行猶予の言渡しを受けた場合を含む。)が確定した場合に,連座訴訟の結果を待って,①当該候補者等の当選無効,②同人に対する立候補制限の効果が生じ(法251条の3第1項前段),③衆議院重複立候補選挙については,小選挙区選挙で連座制が適用された場合に比例区選挙の当選無効の効果(波及効)が生じる(同項後段)。
※ 免責
   組織的選挙運動管理者等に関しても,当該選挙犯罪が「おとり」又は「寝返り」によって行われた場合には候補者等は免責される旨の規定が設けられている(法251条の3第2項1号, 2号)。また,候補者等がその組織的選挙運動管理者等が選挙犯罪を犯すことを防止するための「相当の注意を怠らなかった」場合も免責の適用があると規定されている(法251条の3第2項3号)。
   組織的選挙運動管理者等にかかる連座制は,平成6年の公職選挙法の一部改正の際に,候補者等に対して選挙浄化に関する厳しい責任を負わせ,候補者等の自らの手で徹底的な選挙浄化を行わせることにより腐敗選挙の一掃を図ることを目的として導入された制度であり,それまでの連座制と異なる新しい類型であるとされているが, その目的との関連から,候補者等が選挙浄化に向けて相当な注意を怠らなかったときや,当該選挙犯罪が「おとり」, 「寝返り」によって行われたような場合には,連座制を適用させる必要はないと考えられたことによるものと思われる。
   なお,免責の効果については,法251条の2第1項各号の連座対象者の選挙犯罪の場合と異なり,組織的選挙運動管理者等の選挙犯罪に関して免責が認められた場合には,連座制の効果のすべて,すなわち,立候補制限の効果と衆議院重複立候補選挙の場合の波及効の効果のみならず,候補者等の当該選挙の当選無効の効果についても発生しないと規定されている(法251条の3第2項)。
(4) 公務員等(法251条の4第1項各号)の選挙犯罪
ア 意義
   本条の連座対象者は,以前,国又は地方公共団体の公務員特定独立行政法人の役員又は職員及び公団等の役職員等(国会議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の職にある者を除く。)であった者が, その職を離れた日以後3年以内に行われた衆議院又は参議院議員選挙(国政選挙)のうち最初に立候補した選挙で当選した場合(※)に
① その当選人と, 同人が離職する前3年間に就いていた職の後任者,直系の上司又は部下の関係にあり, その当選人から当該選挙に関し,直接指示又は要請を受けた者
② その当選人と, 同人が離職する前3年間に就いていた職の直系の上司又は部下の関係にあり,①の者からその当選人の当該選挙に関し,指示又は要請を受けた者
③ その当選人と,同人が離職する前3年間に就いていた職と同種であり,かつ,その処理に関しこれと関係がある事務に従事する地方公共団体の公務員,特定独立行政法人の役員又は職員及び公団等の役職員等で, 当選人又は①及び②の者から当該選挙に関し,指示又は要請を受けた者
   である。
※ 離職後3年以内に2度の国政選挙に立候補して, 2度目に当選した場合は,本条の対象には含まれないが,国政選挙への立候補が初めてであれば,すでに国政選挙以外の選挙に立候補している場合であっても本条の対象となる。
イ 百日裁判の対象となる選挙犯罪の種類
法251条の4第1項に規定されており,前記組織的選挙運動管理者等で掲げた犯罪のほか,以下の選挙犯罪も百日裁判の対象となる。
・225条(選挙の自由妨害罪)
・226条(職権濫用による選挙の自由妨害罪)
・239条(事前運動,教育者の地位利用,戸別訪問等の制限違反) 1項1号, 3号,4号
・239条の2 (公務員等の選挙運動等の制限違反)
ウ 百日裁判の規定の適用除外の有無
(ア) 国政選挙における選挙犯罪のみが百日裁判の対象と.なるが,政党選挙である衆議院比例区選挙における選挙犯罪については,他の連座対象者の場合と同様,百日裁判の規定の適用はない(法251条の4第2項)。
(イ) 候補者が落選した場合を含まないことは条文から明らかであるが,連座制の効果が当選無効のみであることからすれば,当選人による選挙犯罪の場合と同様,辞職した場合には当該事件につき百日裁判として処理する必要はないと解される。
エ 選挙犯罪の刑力蠅定した場合の効果
   その犯した選挙犯罪につき罰金以上の刑(執行猶予の言渡しを受けた場合を含む。)が確定した場合に,連座訴訟の結果を待って,当該候補者の当選無効の効果が生ずる。他の連座対象者の場合と異なり,連座制の効果には立候補制限の効果は含まれておらず,衆議院重複立候補選挙における比例区選挙の当選無効(波及効)の規定もない。免責の規定も存在しない。

   別紙1「百日裁判対象範囲表」,別紙2「衆議院小選挙区・比例代表選出議員並立選挙における百日裁判対象範囲表」,別紙3「選挙犯罪の刑が確定した場合の効果と免責の有無及び免責事由」参照。

第2 関連記事その他
1 刑事事件の処理について定める公職選挙法253条の2は以下のとおりです。
① 当選人に係るこの章に掲げる罪(第二百三十五条の六、第二百三十六条の二、第二百四十五条、第二百四十六条第二号から第九号まで、第二百四十八条、第二百四十九条の二第三項から第五項まで及び第七項、第二百四十九条の三、第二百四十九条の四、第二百四十九条の五第一項及び第三項、第二百五十二条の二、第二百五十二条の三並びに第二百五十三条の罪を除く。)、第二百五十一条の二第一項各号に掲げる者若しくは第二百五十一条の三第一項に規定する組織的選挙運動管理者等に係る第二百二十一条、第二百二十二条、第二百二十三条若しくは第二百二十三条の二の罪、出納責任者に係る第二百四十七条の罪又は第二百五十一条の四第一項各号に掲げる者に係る第二百二十一条から第二百二十三条の二まで、第二百二十五条、第二百二十六条、第二百三十九条第一項第一号、第三号若しくは第四号若しくは第二百三十九条の二の罪に関する刑事事件については、訴訟の判決は、事件を受理した日から百日以内にこれをするように努めなければならない。
② 前項の訴訟については、裁判長は、第一回の公判期日前に、審理に必要と見込まれる公判期日を、次に定めるところにより、一括して定めなければならない。
一 第一回の公判期日は、事件を受理した日から、第一審にあつては三十日以内、控訴審にあつては五十日以内の日を定めること。
二 第二回以降の公判期日は、第一回の公判期日の翌日から起算して七日を経過するごとに、その七日の期間ごとに一回以上となるように定めること。
③ 第一項の訴訟については、裁判所は、特別の事情がある場合のほかは、他の訴訟の順序にかかわらず速やかにその裁判をしなければならない。
2 Wikipediaの「売春汚職事件」には以下の記載があります。
   立松記者逮捕事件(山中注:昭和32年10月24日,東京高検が立松和博 読売新聞社会部記者を名誉毀損容疑で逮捕した事件)の影響で、公安検察の首領・岸本(山中注:岸本義広東京高検検事長)は事実上失脚し、次期検事総長争いに敗れた。岸本は、馬場派(山中注:馬場義続法務事務次官を中心とする特捜検察派)への復讐を図るべく、1960年(昭和35年)11月に第29回衆議院議員総選挙に自民党公認候補として大阪5区から出馬し当選、法務大臣を目指す。
   報復を恐れた馬場は、これを迎え撃つ形で大阪地検特捜部に選挙違反に対する徹底的な捜査を命じ、戸別訪問等の軽微な公職選挙法違反を犯した末端運動員をも逮捕した末、遂には芋蔓式に岸本本人まで逮捕させた。この結果、岸本は議員辞職を余儀なくされ、失意の中で一審有罪判決の控訴中に1965年(昭和40年)に静養先で死亡した。
3 以下の通達を掲載しています。
・ 公職選挙法違反被告事件の処理について(昭和27年12月15日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理促進について(昭和28年5月13日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 選挙法違反事件のうち受理,結果通知及び判決書謄本の送付を要する事件に関する取扱について(昭和29年3月22日付の最高裁判所訟廷部長事務取扱の通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件特に国会議員その他の当選人が被告人である事件の審理促進について(昭和30年4月23日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二に該当する事件の記録の取扱について(昭和30年4月23日付の最高裁判所訟廷部長事務取扱通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理促進について(昭和33年7月18日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理促進について(昭和34年7月28日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理計画に関する試案について(昭和36年3月31日付の最高裁判所刑事局長通知)
・ 公職選挙法第二五三条の二関係事件の審理の促進について(昭和42年12月15日付の最高裁判所事務総長通達)
・ 衆議院議員又は参議院議員の資格に影響する裁判が確定した場合における衆議院議長又は参議院議長に対する通知について(平成5年10月18日付の最高裁判所事務総長の通達)
・ 公職選挙法第253条の2関係事件に関する法曹三者の合意について(平成6年3月18日付の最高裁判所刑事局長通知)
・ 公職選挙法第254条の2第1項に基づく通知書のひな型について(平成7年1月12日付の最高裁判所刑事局長の通知)
4 以下の記事も参照して下さい。
・ 選挙違反者にとっての平成時代の恩赦
・ 政策担当秘書関係の文書
→ 公職選挙法違反事件の統計報告等を掲載しています。


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