裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁


目次
1 裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁
2 平成18年度からの地域手当導入時の国会答弁
3 行政府としての憲法の解釈は、国会及び裁判所を拘束するものではないこと
4 平成14年の裁判官報酬法改正に関する国会答弁資料等
5 関連記事その他

1 裁判官の報酬減額の合憲性に関する国会答弁
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野沢太三法務大臣は,平成15年8月8日付の平成15年度人事院勧告に基づく裁判官の報酬減額(平成15年10月16日法律第143号参照)に関して,平成15年10月3日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① このたびの裁判官及び検察官の報酬及び俸給の引き下げにつきましては、今般の人事院勧告を受けまして、一般の政府職員につき同勧告どおりの給与の改定を行う旨閣議決定をしたことがございます。
   また、従来、裁判官及び検察官の給与については、国家公務員全体の給与体系の中で、その職務の特殊性を考慮しつつバランスのとれたものとする考え方に基づいて改定を行ってきたことなどを踏まえておるわけでございますが、政府といたしましては、裁判官及び検察官についても、一般の政府職員の給与改定に伴い、報酬月額を、その額においておおむね対応する一般の政府職員の俸給の減額に準じて改正する必要があるものとして措置を講ずることとしたものでございます。
   ところで、裁判官の報酬の減額につき、憲法第79条第6項及び第80条第2項が「在任中、これを減額することができない。」と規定しておりますことを承知しておりますが、法務省は憲法の解釈一般について政府を代表して見解を述べる立場にはございませんが、当省なりの考え方を申し上げますと、これらの憲法の規定は、裁判官の職権行使の独立性を経済的側面から担保するため、相当額の報酬を保障することによって裁判官が安んじて職務に専念することができるようにするとともに、裁判官の報酬の減額については、個々の裁判官または司法全体に何らかの圧力をかける意図でされるおそれがないとは言えないということから、このようなおそれのある報酬の減額を禁止した趣旨の規定であると解釈しております。
② ところで、今回の国家公務員の給与の引き下げは、民間企業の給与水準等に関する客観的な調査結果に基づく人事院勧告を受けて行われるものであります。
   このような国家公務員全体の給与水準の民間との均衡等の観点から、人事院勧告に基づく行政府の国家公務員の給与引き下げに伴い、法律によって一律に全裁判官の報酬についてこれと同程度の引き下げを行うことは、裁判官の職権行使の独立性や三権の均衡を害して司法府の活動に影響を及ぼすということはありません。
   したがいまして、今回の措置は、憲法第79条第6項及び80条第2項の減額禁止規定の趣旨に反するものではなく、同条に違反するものではないと考えております。
③ 確かに、委員御指摘のとおり、人事院勧告は一般の政府職員の給与などに関して行われるものでありまして、当然に同勧告によって裁判官の報酬のあり方が決められないのは御指摘のとおりであります。
   従来、裁判官の給与については、国家公務員全体の給与体系の中で、その職務の特殊性を考慮しつつバランスのとれたものとするという考え方に基づいて改定を行ってきたところであります。
   そして、一般の政府職員につきましては、人事院勧告どおりの給与の改定を行う旨、閣議決定をしたことなどを踏まえまして、今回の措置を行うものとしたところでございます。

2 平成18年度からの地域手当導入時の国会答弁
・ 27期の山崎敏充最高裁判所人事局長は,平成17年10月27日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 今回の給与改定につきまして最高裁判所の裁判官会議で御議論をいただいたという経過がございますが、その際、地域手当制度の導入については、全国いずれの裁判所においても均質な裁判を実現するため、転勤が多く、独立して職権を行使している裁判官の職務の特殊性等に照らし、これまで同様、地方都市を含め全国各地にひとしく優れた裁判官を配置できるように適切な人事上の施策を行うように努める必要があると、こういった認識が示されておりまして、私ども事務方もそのように努力してまいりたいと考えておるところでございます。
② 若干経過を御説明いたしますと、八月十五日、人事院勧告ございまして、これが裁判官の報酬に適用になった場合どういうふうに考えるかということについて下級裁判所の裁判官の意見を聞いたわけでございます。
 人事院勧告の内容もすべてお知らせし、所長から口頭で説明もし、その結果として裁判官の意見を取りまとめて私どもいただいたということになるわけですが、多くの裁判官の意見は、これは一般政府職員の給与改定に準ずる形で改定されるのはやむを得ないと。引下げが内容でございますからそんな喜んでということはもちろんないだろうと思いますが、これはやむを得ないことだと理解を示したわけですが、一部、もちろん疑問だという声はございました。例えば、地域手当の導入によりまして、今でも調整手当が違いますんで差がございますが、その差が広がることについてどうだろうかという意見もございまして、反対するという意見ももちろんあったわけでございます。
 委員がおっしゃられた、じゃ反対した裁判官についてどう評価するのかと。これは不利益に扱うなんということは全くございませんで、反対を述べられた裁判官も様々でございます。ベテランの裁判官でもそういう意見を言われた方もおられる、若い方で言われた方もおられます。そういったことを不利益に扱うなんということは全くございません。
③ 委員のお話にございましたとおり、現在におきましても大都市勤務を希望する裁判官が多いというのは事実でございます。それは調整手当が高いというそういう理由ではなくて、やはり教育の問題ですとか扶養の問題ですとか、そういうもろもろのところから来ている問題ではなかろうかと思っておりますが、そういった中で、私どもとしては全国にやはり裁判官を配置していかなきゃいけないということで異動ということを行っておりまして、これは全裁判官が異動の負担をできるだけ公平に担っていくんだという、ある種共通認識に基づいて運営がされておりまして、特に大きな問題がなく運営されているという状況だろうと思います。
 ところで、その地域手当が導入された場合でございますが、この場合にも従前の調整手当における異動保障といったもの、これは同様の特例が設けられるようでございます。それからまた、本年度の人事院勧告によりますと、今後、広域異動手当の導入も検討されているというふうに聞いておりまして、こうしたことを考慮いたしますと、裁判官の全国配置が困難になって司法サービスの提供に支障を来すという懸念は、これは少ないのではないかというふうに思っております。

3 行政府としての憲法の解釈は、国会及び裁判所を拘束するものではないこと
・ 参議院議員小西洋之君提出内閣の解釈変更と議院内閣制等との関係に関する質問に対する答弁書(平成27年10月6日付)には以下の記載があります。
   憲法の解釈を最終的に確定する権能を有する国家機関は、憲法第八十一条によりいわゆる違憲立法審査権を与えられている最高裁判所である。他方、行政府においても、いわゆる立憲主義の原則を始め、憲法第九十九条が公務員の憲法尊重擁護義務を定めていることなども踏まえ、その権限を行使するに当たって、憲法を適正に解釈していくことは当然のことであり、このような行政府としての憲法の解釈については、第一次的には法律の執行の任に当たる行政機関が行い、最終的には、憲法第六十五条において「行政権は、内閣に属する。」と規定されているとおり、行政権の帰属主体である内閣がその責任において行うものである。行政府としての憲法の解釈は、国会及び裁判所を拘束するものではない。
   その上で、憲法を始めとする法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮し、また、議論の積み重ねのあるものについては全体の整合性を保つことにも留意して論理的に確定されるべきものであり、政府による憲法の解釈は、このような考え方に基づき、それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたものであって、諸情勢の変化とそれから生ずる新たな要請を考慮すべきことは当然であるとしても、なお、前記のような考え方を離れて政府が自由に憲法の解釈を変更することができるという性質のものではないと考えている。仮に、政府において、憲法解釈を便宜的、意図的に変更するようなことをするとすれば、政府の憲法解釈ひいては憲法規範そのものに対する国民の信頼が損なわれかねないと考えられる。
    このようなことを前提に検討を行った結果、従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には、これを変更することがおよそ許されないというものではないと考えられるが、政府として、御指摘のような「歴代政府の解釈に対して論理的整合性を逸脱し、法的安定性を損ねるような解釈変更」を行うことはない。

4 平成14年の裁判官報酬法改正に関する国会答弁資料及び法律案審議録
1 戦後始めて裁判官の報酬減額を実施した裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律(平成14年11月27日法律第113号)に関する国会答弁資料及び法律案審議録を以下のとおり掲載しています。
(1) 国会答弁資料
① 平成14年11月13日の衆議院法務委員会
② 平成14年11月19日の参議院法務委員会
(2) 法律案審議録(法務省開示分)
→ ①最高裁判所事務総長コメント,②裁判官の報酬の減額について,③検察官の俸給を一律に引き下げることについて,及び④裁判官報酬法及び検察官俸給法の改正に関する用例集(平成14年10月の法務省大臣官房司法法制部司法法制課の文書)が含まれています。
2 裁判官報酬の減額を受け入れた,平成14年9月4日の最高裁判所の裁判官会議議事録の本文には「人事院勧告について」として以下の記載があります。
    金築人事局長から,裁判官の報酬の取扱いについて補充説明があり,政府が人事院勧告を完全実施した場合,裁判官の報酬についても一般の国家公務員同様に減額するという方針に立って対処することについて了承した。
3 最高裁判所事務総長コメントは以下のとおりです。
    政府においては,今年度の人事院勧告に沿って,特別職を含め,国家公務員の給与全体を引き下げることとした旨決定したと聞いております。
そこで,本日,先般の最高裁判所裁判官会議の結果に基づいて,裁判官の報酬等に関する法律を所管する法務省の担当部局に対し,裁判官の報酬について,国家公務員同様の引き下げを行う旨の立法関係作業を依頼することとしました。
裁判官会議では,憲法上,裁判官の報酬について特に保障規定が設けられている趣旨及びその重みを十分に踏まえて検討し,人事院勧告の完全実施に伴い,国家公務員の給与全体が引き下げられるような場合に,裁判官の報酬を同様に引き下げても,司法の独立を侵すものではないことなどから,憲法に違反しない旨確認したものと理解しています。

5 関連記事
・ 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等
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