第一次世界大戦におけるドイツの賠償金の,現在の日本円への換算等


目次第1 1921年5月に決定された賠償金の金額等

1 1921年5月に決定された賠償金の金額
2 現在の日本円への換算
3 1928年末までの支払額
第2 1930年5月発効のヤング案で減額された賠償金の金額等
1 1930年5月発効のヤング案で減額された賠償金の金額
2 ナチスドイツによるモラトリアム実施後の経緯
第3 賠償金の配分率等
1 賠償金の配分率
2 1人当たりの賠償金等
3 日本は対日平和条約で賠償請求権を放棄したこと
第4 関連記事その他
1 日本の普通国債の残高
2 東京電力福島第一原子力発電所事故の賠償実績
3 関連記事

第1 1921年5月に決定された賠償金の金額等
1 1921年5月に決定された賠償金の金額
(1) ドイツの賠償金についてはパリ講和会議で決着が付かなかったため,1919年6月28日に署名されたヴェルサイユ条約では,第八編231条において大戦の結果生じた損失の責任は「ドイツ及びその同盟国」にあることが明記され,232条においてドイツに完全な補償を行う能力がないことを認識した上で,すべての損害に対する賠償が行われるべきこと等が定められるにとどまり,賠償金の決定は先送りされました。
(2)ア ベルサイユ条約(リンク先は英文です。)233条及び244条第二附属書によって設置された連合国賠償委員会は,1921年4月28日,第一次世界大戦におけるドイツの賠償金は1320億金マルク(純金ベースで4万7256トン)であると決定し,同年5月5日,30年間の分割払いとすることを決定し,同年5月11日,ドイツはこれらを受諾しました。
イ 1320億金マルクは,1913年のドイツ国民総所得(GNI)の2.5倍でした(Wikipediaの「第一次世界大戦の賠償」)。
(3) なんぼやHP「金のこれまでの採掘量と地球に残された埋蔵量」(2018年5月23日付)には,「これまで人類が採掘してきた金の総量は約18万tです。」と書いてあります。

2 現在の日本円への換算

(1) 「ドイツのハイパーインフレ」(平成24年5月25日作成)には以下の記載があります。
 1320億マルクがどれくらいのものかを推測してみました。
   【計算1】大戦前の為替レートでは、1マルク=50銭。
   当時の日本の勤労者家族の一か月の平均的な支出は100円くらい。
   これを現代の40万円とすると、当時の1円は現代の4000円に相当します。
   すると、当時の1マルクは現代の2000円、1320億マルクは264兆円になります。
   【計算2】この1マルクは金0.358423グラムと等価の1金マルクです。
   最近金相場は高騰しており、1g=約4600円。
   1320億マルクの金は、218兆円になります。
   どちらにしても、200兆円。なるほど、大変な賠償金です。
(2) 田中貴金属工業HPの「金価格推移」によれば,ドイツが1320億金マルクの賠償金を受諾してから100年後となる2021年5月11日の金1グラムの店頭小売価格は7097円でありますところ,この金額で現代の価格に換算した場合,335兆円になります。
3 1928年末までの支払額
・ 1924年4月9日策定のドーズ案に基づき,ドイツは,ドーズ債(アメリカが中心となって引き受けた賠償金支払のための公債)の導入によって好景気となり,1928年末までに合計60億マルクを支払いました(Wikipediaの「第一次世界大戦の賠償」参照)。


第2 1930年5月発効のヤング案で減額された賠償金の金額等
1 1930年5月発効のヤング案で減額された賠償金の金額

(1) 1929年6月4日にヤング委員会において大枠が合意され,1930年5月17日に発効したヤング案では,ドイツの賠償残額は358億1400万ライヒスマルクとされ,59年間の分割払いとなりました。
(2) ライヒスマルクは,1923年のハイパーインフレに対処するため,パピルスマルクの代替として1924年に導入されたものであり,4.2ライヒスマルクが1米ドルとされていました。
   そのため,ヤング案の賠償金を米ドルに換算した場合,85億2714万2857米ドルとなります。
(3) 1929年10月に大恐慌が発生するまでは,1トロイオンス(31.1035グラム)の金が20.67米ドルと等しいとされていました(1トロイオンスが35米ドルとなったのは1934年から1971年8月15日のニクソンショックまでです。)。
   そのため,ヤング案の賠償金を金(ゴールド)に換算した場合,4億1253万7148トロイオンスとなり,128億3134万9182グラム,つまり,約1万2831トンとなります。
(4) 金相場を1グラム4000円とした場合,約51兆3240億円となります(ただし,直近5年の金相場はもっと高いことにつき,田中貴金属工業HP「金価格推移」参照)。
   そのため,1年当たりの支払金額は約8700億円となります。
2 ナチスドイツによるモラトリアム実施後の経緯
(1) 1933年7月,ナチスドイツは外債のモラトリアム(支払停止)を実施しましたから,ヤング案に基づく賠償金の支払が停止しました。
(2) 1953年2月のロンドン債務協定では、戦前債務135億ドイツマルクが75億ドイツマルクに圧縮されています(「ドイツの戦後補償」参照)ところ,ヤング案に基づく賠償残額との連続性はよく分かりません。
(3) ドイツは,ロンドン債務協定5条1項( Consideration of governmental claims against Germany arising out of the first World War shall be deferred until a final general settlement of this matter.)に基づき,東西ドイツの統一後に,ヤング案に基づく賠償金等の支払を再開しました。
   そのため,ドイツが,ロンドン債務協定で減額された後の,ヤング案に基づく賠償金等の支払を終了したのは2010年10月3日です。


第3 賠償金の配分率等

1 賠償金の配分率
・ 1920年7月,ベルギーのスパで開催された会議の結果,賠償金の配分率はフランスが52%,イギリスが22%,イタリアが10%,ベルギーが8%,日本及びポーランドが0.75%とされ,残りの6.5%はユーゴスラビア、ルーマニア、ギリシャを含めた協定非署名国のため留保すると定められました(Wikipediaの「第一次世界大戦の賠償」参照)。
2 1人当たりの賠償金等
(1) Wikipediaの「第一次世界大戦の犠牲者」によれば,民間人を含めた連合国の戦没者は約940万人であり,戦傷者は約1280万人でありますところ,計算しやすいように222兆円を2220万人(連合国の戦没者及び戦傷者の合計)で割った場合,1人当たり1000万円となります。
(2) Wikipediaの「第一次世界大戦の犠牲者」には以下の記載があります。なお,補償対象とは別に,船舶賠償,物納・家畜賠償,石炭納入その他の賠償がありました。
   補償対象はヴェルサイユ条約244条第一付属書によって定められた。
・ 戦争行為による戦死者及び負傷者に対する補償
・ ドイツとその同盟国が原因である民間人死者・負傷者への補償
・ ドイツとその同盟国によって行われた民間人に対する不法行為への補償
・ 捕虜虐待への補償
・ 負傷した連合国軍人に対して連合国が支払う恩給金額
・ 兵士・捕虜とその家族に対して連合国が支払う恩給金額
・ ドイツとその同盟国による民間人強制徴用に対する補償
・ 連合国の非軍事物損害への補償
・ ドイツとその同盟国が連合国民に課した罰金・賦課金の補償
3 日本は対日平和条約で賠償請求権を放棄したこと
・ 日本は,太平洋戦争の講和条約である対日平和条約8条(c)に基づき,ドイツに対する第一次世界大戦における賠償請求権を放棄しました。


第4 関連記事その他
1 日本の普通国債の残高

(1) 平成31年3月末時点における日本の普通国債の残高は874兆434億円です(うち,建設国債が270兆1853億円であり,特例国債(いわゆる赤字国債)が573兆4461億円です。)。
(2) 財務省HPに「最近20カ年間の年度末の国債残高の推移(建設・特例・減税特例・国鉄・林野・交付税・復興債・年金特例及び財投債別、種類別)」が載っています。
2 東京電力福島第一原子力発電所事故の賠償実績
・ 日経新聞HPの「原発事故の賠償、4人世帯で9000万円 東電が実績公表」(平成25年10月26日付)には,「文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は25日、東京電力福島第1原子力発電所の事故の賠償実績を公表した。東電が帰還困難区域の住民に支払った額は4人世帯で平均9000万円だった。」とか,「1人あたり月10万円を支払っている避難指示区域の住民への慰謝料は、避難指示を解除してから1年間払い続ける方向で大筋合意した。」と書いてあります。
3 関連記事
・ ドイツの戦後補償
・ 旧ドイツ東部領土からのドイツ人追放,及びドイツ・ポーランド間の国境確定
・ 日本の戦後賠償の金額等


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