メインコンテンツへスキップ
       

職務代行裁判官の制度,発令権限及び裁判例(AIリライト)

第1 職務代行裁判官の意味

1 法令上の位置付け

裁判所法19条,28条及び36条は「裁判官の職務の代行」を定め,同法31条の5は地方裁判所に関する28条を家庭裁判所に準用している。
本記事では,これらの規定又は判事補の職権の特例等に関する法律1条の2に基づき,本務庁と異なる裁判所の裁判官の職務を行う裁判官を「職務代行裁判官」という。

職務代行は,裁判事務の取扱いに必要が生じた場合に,裁判官の配置を機動的に補う制度である。
職務代行によって本務庁が直ちに変わるわけではなく,発令を受けた裁判官は,定められた裁判所及び期間について他庁の裁判官の職務を行う権限を有する。
裁判官の官名及び基本的な区分については,裁判官の種類で整理している。

2 常てん補との違い

令和7年度(情)答申第101号は,本務庁と異なる裁判所で常に勤務を行っている場合を,裁判所の慣例上「常てん補」というと説明している。
「常てん補」は勤務の実態を表す慣例上の用語であるのに対し,職務代行は裁判所法等に基づいて他庁の裁判官の職務を行わせる人事措置であるため,両者は同じ概念ではない。

もっとも,常てん補という勤務実態と,個別の法令に基づく職務権限の有無とは別に確認する必要がある。
したがって,「本庁の裁判官が支部で勤務する場合は常てん補,異なる種類の裁判所で勤務する場合は職務代行」という勤務場所だけの区別では足りない。

第2 裁判所別の発令権限と要件

裁判所法上の職務代行は,原則として「裁判事務の取扱上さし迫った必要」がある場合に,近い範囲の裁判官を用いる仕組みである。
その方法では必要を満たせない特別の事情がある場合に限り,より広い範囲の裁判官を用いる第二段階の発令が認められる。

職務を行う裁判所第一段階の発令第一段階で必要を満たせない場合根拠
高等裁判所当該高裁が,同じ高裁管内の地裁又は家裁の判事に命ずる。最高裁が,他の高裁又はその高裁管内の地裁若しくは家裁の判事に命ずる。裁判所法19条
地方裁判所所在地を管轄する高裁が,同じ高裁管内の他の地裁,家裁又は当該高裁の裁判官に命ずる。最高裁が,他の高裁管内の地裁,家裁又は高裁の裁判官に命ずる。裁判所法28条
家庭裁判所地裁についての裁判所法28条1項を準用する。同条2項を準用し,最高裁が命ずる。裁判所法31条の5・28条
簡易裁判所所在地を管轄する地裁が,その管内の他の簡裁裁判官又はその地裁の判事に命ずる。所在地を管轄する高裁が,第一段階に定める裁判官以外の同じ高裁管内の簡裁裁判官又は地裁判事に命ずる。裁判所法36条
高等裁判所の特例判事補最高裁が,当該高裁管内の地裁又は家裁に属する特例判事補に命ずる。「高等裁判所の裁判事務の取扱上特に必要があるとき」という独自の要件であり,裁判所法19条の第二段階ではない。特例法1条の2

裁判所法28条2項及び同法31条の5が定めるのは,他の高裁管内の裁判官に地裁又は家裁の裁判官の職務を行わせる場面であり,高裁判事の職務代行の根拠は同法19条である。
また,28条1項の職務代行者には,同じ高裁管内の他の地裁・家裁の裁判官だけでなく,当該高裁の裁判官も含まれる。

昭和25年法律第287号による裁判所法改正は,事件を迅速に処理するため,従前の職務代行の範囲を拡張したものである。
第9回国会衆議院法務委員会昭和25年11月30日会議録では,高裁・地裁・家裁の裁判官について全国的な職務代行を可能とし,簡裁の裁判官について同じ高裁管内での職務代行を可能とする改正であると説明されている。

簡裁の職務代行について,裁判所法36条1項が掲げるのは,対象簡裁を管轄する地裁の判事又はその地裁管内の他の簡裁の裁判官であり,家裁判事ではない。
特例判事補は,特例法1条により判事補としての職権の制限を受けず,裁判所法36条の適用について所属する地裁又は家裁の判事の権限を有する。

最高裁昭和26年11月20日第三小法廷判決(昭和26年(れ)第1529号,集刑57号137頁)は,仙台地裁判事が仙台高裁事務局長事務取扱を委嘱されていた事案について,同人は地裁判事の身分を有するため,裁判所法19条1項により仙台高裁判事の職務を適法に代行できるとした。
司法行政上の事務取扱という職名と,裁判官として職務代行を命じられる資格とを区別した判断である。

第3 特例判事補による高裁職務代行

1 要件及び合議体での制限

特例判事補とは,判事補,検察官又は弁護士等としての在職年数が通算5年以上となる者のうち,最高裁の指名を受け,判事補としての職権の制限を受けない者である。
最高裁は,高裁の裁判事務の取扱上特に必要があるときは,その高裁管内の地裁又は家裁に属する特例判事補に,高裁判事の職務を行わせることができる。

高裁判事の職務を代行する特例判事補は,同時に2人以上が同じ合議体へ加わることができず,裁判長になることもできない。
この制限は特例法1条の2第2項に定められており,高裁職務代行の発令根拠である同条1項と併せて確認する必要がある。

2 昭和32年改正の目的と現在の運用

第26回国会参議院法務委員会昭和32年3月28日会議録及び同衆議院法務委員会同年4月5日会議録によれば,特例判事補による高裁職務代行制度は,第一審へ経験豊かな判事を配置するため,高裁判事を地裁へ配置換えし,その後を経験を積んだ特例判事補で補う構想から導入された。
『最高裁判所十年の回顧(三)』38頁~39頁も,第一審の充実強化,高裁への新しい人材の導入及び人事交流という制度目的を説明している。

裁判所の裁判官の人事評価の在り方に関する研究会報告書等は,特例判事補のうち少数が高裁の職務代行を命じられ,控訴事件の陪席裁判官を経験すると説明している。
したがって,特例法1条の指名を受ければ当然に高裁の職務を行うのではなく,特例法1条の2に基づく別の発令を要する。

3 弁護士任官者に対する判断

令和3年度(最情)答申第8号によれば,弁護士任官した特例判事補に高裁判事の職務を行わせるかどうかは,個別にその都度必要な検討をした上で決定される。
弁護士任官者について別の取扱いを定める規定はなく,高裁職務代行の要件に該当する事情を一般化した文書も作成又は取得されていないとされた。

第4 発令期間,申請及び報告

1 最高裁が命ずる職務代行

「最高裁判所の命ずる裁判官の職務代行について」(昭和25年12月28日人給第四四六号)は,最高裁が職務代行の期間を定め,発令及び解除を関係裁判所へ通知するものとしている。
職務代行期間は原則として3か月以内の単位で示し,申請には必要な理由,員数,担当職務,候補者,希望期間及び宿舎等を記載する。

期間を延長する必要がある場合は,原則として満了日の2週間前までに申し出る。
期間満了前に必要がなくなった場合は,速やかに期間短縮を申し出るものとされている。

2 高裁が命ずる職務代行の報告

「高等裁判所が命ずる裁判官の職務代行の報告について」(昭和60年11月27日最高裁人任E第751号)は,高裁が職務代行を命じ,又は免じた場合に,所定の様式で最高裁へ報告するものとしている。
再任又は転補等によって職務代行が終了した場合も,報告様式上の終了事由として扱われる。

3 発令期間中の職務権限

福岡高裁昭和54年9月27日第一刑事部決定(昭和51年(く)第31号,高裁判例集32巻2号186頁)は,昭和51年4月1日付けで転補された裁判官に,同日から同月30日まで熊本地裁支部判事補の職務代行が命じられていた事案を扱った。
同決定は,職務代行期間中は同支部の裁判事務について職務権限を有し,裁判及び裁判書の作成に関与できるとした。

また,決定日に現地で執務することも,裁判書への署名押印を決定日当日に行うことも要しないとした。
転補の日と職務代行の終期が異なる場合に,発令期間が裁判事務へ関与できる範囲を画することを示した判断である。

第5 公告,告知及び裁判書の表示

札幌高裁昭和24年4月22日判決(昭和24年(わ)第15号,高裁判例集2巻1号7頁)は,裁判所法28条による地裁裁判官の職務代行について,高裁が公告その他の方法で管内住民へ周知することも,裁判長が被告人へ告知することも要しないとした。
公判調書及び判決書には裁判官の官氏名を記載すれば足り,職務代行である旨の記載も要しないとした。

最高裁昭和30年12月14日第二小法廷決定(昭和28年(あ)第5314号,刑集9巻13号2771頁)も,地裁判事に簡裁裁判官の職務を行わせた裁判所法36条1項の発令について,管内住民へ周知する手続は法の要求するところではないとした。
これらの裁判例が不要としたのは対外的な公告,告知又は裁判書上の付記であり,権限の根拠となる職務代行発令そのものではない。

第6 発令の欠缺と裁判所の構成

1 最高裁昭和42年7月5日大法廷決定

最高裁昭和42年7月5日大法廷決定(昭和40年(し)第98号,刑集21巻6号764頁)は,東京高裁判事が浦和地裁・家裁所長へ転補された後,形式上の職務代行発令がないまま東京高裁の評議へ関与した事案を扱った。
同決定は,転補の事前了解,通知についての誤解,評議の経緯及び同人が裁判所法19条1項により職務代行を命じられ得る資格を有したこと等の具体的事情の下では,憲法37条1項の公平な裁判所による裁判ではないとはいえないとした。

この決定は,具体的事情の下で憲法上の公平を否定しなかったものである。
一般に職務代行の発令を不要とし,又は発令の欠缺が常に治癒されるとしたものではない。

2 最高裁平成19年7月10日第三小法廷判決

最高裁平成19年7月10日第三小法廷判決(平成19年(あ)第567号,刑集61巻5号436頁)は,特例法1条の2第1項に基づく最高裁の発令を受けていない判事補が,札幌高裁の判決宣告時の構成に加わった事案を扱った。
最高裁は,宣告手続において法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法があるとして,刑事訴訟法411条1号及び413条により原判決を破棄し,札幌高裁へ差し戻した。

最高裁は,破棄事由の性質,被告事件の内容及び審理経過等に照らし,同法408条の口頭弁論を経ることも要しないとした。
昭和42年大法廷決定と異なり,高裁の判決宣告手続における法定の裁判所構成違反を明示した判決である。

3 刑事訴訟及び民事訴訟への影響

刑事訴訟法377条1号は,法律に従って判決裁判所を構成しなかったことを絶対的控訴理由としている。
最高裁平成19年判決は,上告審においても,発令のない判事補が高裁判決の宣告時の構成に加わった違法を刑事訴訟法411条1号による破棄理由とした。

民事訴訟法312条2項1号も,法律に従って判決裁判所を構成しなかったことを絶対的上告理由とし,同法338条1項1号は,同じ事由を確定判決に対する再審事由としている。
したがって,民事事件でも,職務代行発令の欠缺が判決裁判所の構成に影響する態様であれば,同法312条2項1号に当たり得る。
もっとも,職務代行発令の欠缺へ同号を直接適用した公刊民事裁判例は,本記事で確認した範囲では見当たらない。

第7 出典・参考資料

1 法令・国会会議録

裁判所法(昭和22年法律第59号)19条,28条,31条の5及び36条(e-Gov法令検索)
判事補の職権の特例等に関する法律(昭和23年法律第146号)1条及び1条の2(e-Gov法令検索)
刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)377条,408条,411条及び413条(e-Gov法令検索)
民事訴訟法(平成8年法律第109号)312条及び338条(e-Gov法令検索)
第9回国会衆議院法務委員会第2号・昭和25年11月30日会議録(国会会議録検索システム)
第26回国会参議院法務委員会第11号・昭和32年3月28日会議録(国会会議録検索システム)
第26回国会衆議院法務委員会第24号・昭和32年4月5日会議録(国会会議録検索システム)

2 裁判例

札幌高等裁判所昭和24年4月22日判決(昭和24年(わ)第15号,高裁判例集2巻1号7頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷昭和26年11月20日判決(昭和26年(れ)第1529号,集刑57号137頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第二小法廷昭和30年12月14日決定(昭和28年(あ)第5314号,刑集9巻13号2771頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所大法廷昭和42年7月5日決定(昭和40年(し)第98号,刑集21巻6号764頁,裁判所ウェブサイト)
福岡高等裁判所第一刑事部昭和54年9月27日決定(昭和51年(く)第31号,高裁判例集32巻2号186頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所第三小法廷平成19年7月10日判決(平成19年(あ)第567号,刑集61巻5号436頁,裁判所ウェブサイト)

3 公文書・通達

最高裁判所事務総長依命通達「最高裁判所の命ずる裁判官の職務代行について」(昭和25年12月28日人給第四四六号)
最高裁判所人事局長通達「高等裁判所が命ずる裁判官の職務代行の報告について」(昭和60年11月27日最高裁人任E第751号)
最高裁判所「裁判官の人事評価の在り方に関する研究会報告書等」(「裁判官制度の概要」3)
情報公開・個人情報保護審査委員会令和3年度(最情)答申第8号1頁~2頁(PDF1頁~2頁)
情報公開・個人情報保護審査委員会令和7年度(情)答申第101号2頁~3頁(PDF2頁~3頁)

4 文献

①最高裁判所事務総局「最高裁判所十年の回顧(三)」法曹時報9巻12号(法曹会,1957年)38頁~39頁
②中山善房ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法〔第3版〕第9巻』(青林書院,2023年)134頁,198頁,622頁
③秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』(日本評論社,2016年)25頁