職務代行裁判官


目次
1 最高裁判所が命ずる職務代行裁判官
2 高等裁判所が命ずる職務代行裁判官
3 地方裁判所が命ずる職務代行裁判官
4 必要性の程度から区別した職務代行裁判官の種類
5 関連条文
6 関連記事その他

1 最高裁判所が命ずる職務代行裁判官
(1) 最高裁判所が命ずる職務代行判事
ア 法律の定め
・ 最高裁判所は,高裁レベルでの職務代行裁判官の発令だけでは差し迫った必要を満たすことができない特別の事情がある場合,他の高裁判事に対し,高裁判事の職務代行を命ずることができます(裁判所法19条2項)。
・ 最高裁判所は,高裁レベルでの職務代行裁判官の発令だけでは差し迫った必要を満たすことができない特別の事情がある場合,地家裁判事に対し,高裁判事の職務代行を命ずることができます(裁判所法28条2項並びに31条の5)。
イ 運用の細則
・ 最高裁判所が命ずる職務代行判事の詳細については,最高裁判所の命ずる裁判官の職務代行について(昭和25年12月28日付の最高裁判所事務総長依命通達)に書いてあります。
(2) 最高裁判所が命ずる職務代行判事補
ア 法律の定め
・ 最高裁判所は,当分の間,高等裁判所の裁判事務の取扱い上特に必要があるときは,その高裁管内の特例判事補に対し,その高裁判事の職務を代行させることができます(判事補の職権の特例等に関する法律1条の2第1項)。
イ 最近の実例
・ 平成30年10月1日に弁護士任官した新61期の木上寛子判事補は平成31年1月16日に判事になるまでの間,高裁判事の職務を代行する特例判事補をしていました。
・ 令和2年4月1日に弁護士任官した新63期の河野申二郎判事補及び新63期の豊平(塩谷)真理絵判事補は令和3年1月16日に判事になるまでの間,高裁判事の職務を代行する特例判事補をしていました。
(3) 最高裁判所十年の回顧の記載等
ア 最高裁判所十年の回顧(三)には以下の記載がありますし(昭和32年12月発行の法曹時報9巻12号38頁),立法趣旨に関しては,昭和32年4月5日の衆議院法務委員会における位野木益雄(いのきますお)法務大臣官房調査課長の答弁も同趣旨のものとなっています。
     一方、立法の面における第一審強化方策として、第二十六国会を通過した「判事補の職権の特例等に関する法律の一部を改正する法律」がある。この法律は本年五月一日から施行されているが、その趣旨とするところは、第一審の充実強化を円滑に行うため、当分の間の措置として、いわゆる職権特例判事補に高等裁判所の判事の職務を行わせることができるようになったことである。現在地方裁判所で単独事件を処理している職権特例判事補は二百名以上にも達しているが、これをできる限り判事と交替させることが望ましい。この判事の供給源は、さしあたりこれを高等裁判所に求めなければならない。そこで高等裁判所判事を地方裁判所に配置換えし、その後を職権特例の判事補でおぎない、高等裁判所の合議体の一員に加えようとするものである。これによって第一審の充実強化をはかるとともに、一面、高等裁判所にも清新の気を送り、あわせて人事の交流をはかろうとするものである。
    この法律の施行にともなって、最高裁判所は、裁判官の配置換えを行っているが、本年十一月二十日までに、すでに判事補八名が高等裁判所に送りこまれている。
イ 制定経緯からすれば,「高等裁判所の裁判事務の取扱上特に必要があるとき」というのは,「第一審強化のために地裁に配置換えされた高裁判事の欠員を埋めるために特に必要があるとき」といった意味合いになります。


2 高等裁判所が命ずる職務代行判事
(1) 法律の定め

ア 高等裁判所は,裁判事務の取扱上差し迫った必要があるときは,管内の地家裁判事に対し,高裁判事の職務代行を命じたり(裁判所法19条1項),他の地家裁判事の職務代行を命じたりできます(裁判所法28条1項・31条の5)。
イ 高等裁判所は,地裁レベルでの職務代行裁判官の発令では差し迫った必要を満たすことができない特別の事情がある場合,他の地裁又はその管轄区域内の簡裁の判事に対し,簡裁判事の職務代行を命じることができます(裁判所法36条2項)。
(2) 運用の細則
・ 高等裁判所が裁判官の職務代行を命じたり,免じたりしたときは,その旨を最高裁判所に報告する必要があります(「高等裁判所が命ずる裁判官の職務代行の報告について」(昭和60年11月27日付の最高裁判所人事局長の通達)参照)。
(3) 現実の運用
ア ①小さな高等裁判所の判事不足を補ったり,②ある程度の期間,病欠している高等裁判所判事のピンチヒッターとしたりするために,高等裁判所が命ずる職務代行判事が利用されているみたいです(西野法律事務所ブログの「特例判事補」参照)。
イ   実例として,35期の樋口英明名古屋家庭裁判所部総括裁判官は,平成27年4月1日,名古屋高等裁判所から福井地方裁判所判事職務代行を命ぜられた上で,同月14日,高浜原発再稼働差し止めの仮処分決定を出しました。

3 地方裁判所が命ずる職務代行裁判官
(1) 地方裁判所は,簡易裁判所における裁判事務の取扱上差し迫った必要があるときは,地家裁判事又は管内の簡裁判事に対し,当該簡裁の裁判官の職務代行を命じることができます(裁判所法36条1項)。
(2) 裁判所法36条1項に基づく職務代行については,管内の住民に周知する手続を取る必要はないです(最高裁昭和30年12月14日決定)。

4 必要性の程度から区別した職務代行裁判官の種類
(1) 裁判事務の取扱い上特に必要があるときに命ぜられる職務代行裁判官
・ 最高裁判所が命ずる高裁の職務代行判事判事補の職権の特例等に関する法律(昭和23年7月12日法律第146号)1条の2第1項)
(2) 管内の裁判官の職務代行の発令では差し迫った必要を満たすことができない特別の事情があるときに命ぜられる職務代行裁判官
・ 最高裁判所が命ずる高裁の職務代行判事(裁判所法19条2項)
・ 最高裁判所が命ずる地家裁の職務代行判事(裁判所法28条2項・31条の5)
・ 高等裁判所が命ずる簡裁の職務代行判事(裁判所法36条2項)
(3) 裁判事務の取扱い上差し迫った必要があるときに命ぜられる職務代行裁判
・ 高等裁判所が命ずる高裁の職務代行判事(裁判所法19条1項)
・ 高等裁判所が命ずる地家裁の職務代行判事(裁判所法28条1項・31条の5)
・ 地方裁判所が命ずる簡裁の職務代行判事(裁判所法36条1項)

5 関連条文
(1) 裁判所法(昭和22年4月16日法律第59号)
(裁判官の職務の代行)
第十九条 高等裁判所は、裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その管轄区域内の地方裁判所又は家庭裁判所の判事にその高等裁判所の判事の職務を行わせることができる。
② 前項の規定により当該高等裁判所のさし迫つた必要をみたすことができない特別の事情があるときは、最高裁判所は、他の高等裁判所又はその管轄区域内の地方裁判所若しくは家庭裁判所の判事に当該高等裁判所の判事の職務を行わせることができる。
(裁判官の職務の代行)
第二十八条 地方裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する高等裁判所は、その管轄区域内の他の地方裁判所、家庭裁判所又はその高等裁判所の裁判官に当該地方裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
② 前項の規定により当該地方裁判所のさし迫つた必要をみたすことができない特別の事情があるときは、最高裁判所は、その地方裁判所の所在地を管轄する高等裁判所以外の高等裁判所の管轄区域内の地方裁判所、家庭裁判所又はその高等裁判所の裁判官に当該地方裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
(地方裁判所の規定の準用)
第三十一条の五 第二十七条乃至第三十一条の規定は、家庭裁判所にこれを準用する。
(裁判官の職務の代行)
第三十六条 簡易裁判所において裁判事務の取扱上さし迫つた必要があるときは、その所在地を管轄する地方裁判所は、その管轄区域内の他の簡易裁判所の裁判官又はその地方裁判所の判事に当該簡易裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
② 前項の規定により当該簡易裁判所のさし迫つた必要をみたすことができない特別の事情があるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する高等裁判所は、同項に定める裁判官以外のその管轄区域内の簡易裁判所の裁判官又は地方裁判所の判事に当該簡易裁判所の裁判官の職務を行わせることができる。
(2) 判事補の職権の特例等に関する法律(昭和23年7月12日法律第146号)
第一条の二 最高裁判所は、当分の間、高等裁判所の裁判事務の取扱上特に必要があるときは、その高等裁判所の管轄区域内の地方裁判所又は家庭裁判所の判事補で前条第一項の規定による指名を受けた者にその高等裁判所の判事の職務を行わせることができる。
② 前項の規定により判事補が高等裁判所の判事の職務を行う場合においては、判事補は、同時に二人以上合議体に加わり、又は裁判長となることができない。

6 関連記事その他
(1)ア 填補裁判官の場合,本庁の裁判官が支部の裁判官の職務をするような場合に用いられるのに対し,職務代行裁判官の場合,地家裁の裁判官が高裁の裁判官の職務をしたり,高裁の裁判官が地家裁の裁判官の職務をしたりするような場合に用いられると思います。
イ 本庁の裁判官が常に特定の支部の裁判官の職務をする場合,「常填補」といわれると思います。
(2)ア 民事訴訟法312条2項1号は「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。」を絶対的上告理由としていますところ,判事補の職権の特例等に関する法律に違反することは同号に該当すると思います。
イ 判事補の職権の特例等に関する法律1条の2第1項に基づいて最高裁判所から高等裁判所判事の職務を代行させる旨の人事措置が発令されていない判事補が構成に加わった高等裁判所により宣告された原判決は,その宣告手続に法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法があり,刑訴法411条1号により破棄されます(最高裁平成19年7月10日判決)。
(3) 「裁判所からみた弁護士任官制度」(筆者は45期の氏本厚司最高裁判所総務局第一課長)には以下の記載があります(自由と正義2010年8月号24頁)。
    優れた弁護士に多数任官してもらうためには、任官しやすい環境を整備していくことが必要である。裁判所においては、裁判官の職務への円滑な導入を図るため、任官者を対象とする特別の研修を実施するほか、配置についても、まずは高等裁判所等で合議体の一員として裁判官の職務を開始し、徐々に慣れてもらうような配慮をしている。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判官の種類
・ 特例判事補
・ 裁判官の号別在職状況
 下級裁判所の裁判官の定員配置


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