最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧


目次
第1 最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧
令和5年の最高裁判所大法廷の判決(4本。ただし,実質3本)
令和4年の最高裁判所大法廷の判決(1本)
令和3年の最高裁判所大法廷の判決(1本)
令和3年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
令和2年の最高裁判所大法廷の判決(3本。ただし,実質2本)
令和2年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
平成31年→令和元年の最高裁判所大法廷の判決及び決定(0本)
平成30年の最高裁判所大法廷の判決(2本。ただし,実質1本)
平成30年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
平成29年の最高裁判所大法廷の判決(5本。ただし,実質4本)
平成28年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
平成27年の最高裁判所大法廷の判決(5本,ただし,実質4本)
平成26年の最高裁判所大法廷の判決(2本。ただし,実質1本)
平成25年の最高裁判所大法廷の判決・決定(3本。ただし,実質2本)
平成24年の最高裁判所大法廷の判決(2本。ただし,実質1本)
平成23年の最高裁判所大法廷の判決・決定(4本。ただし,実質3本)
平成22年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
平成21年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
平成20年の最高裁判所大法廷の判決(3本。ただし,実質2本)
平成19年の最高裁判所大法廷の判決(1本)
平成18年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
平成17年の最高裁判所大法廷の判決(3本)
平成16年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
平成15年の最高裁判所大法廷の判決(1本)
平成14年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
平成13年の最高裁判所大法廷の判決・決定(2本)
第2 大法廷回付
1 最高裁判所事務処理規則9条
2 書記官室の事務
3 大阪空港訴訟における大法廷回付
第3 徴する判決の問題点
第4 関連記事その他


令和5年の最高裁判所大法廷の判決(4本。ただし,実質3本)
最高裁大法廷令和5年10月25日決定の判示内容
 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は、憲法13条に違反する。
最高裁大法廷令和5年10月18日判決及び最高裁大法廷令和5年10月18日判決の判示内容
 令和4年7月10日に行われた参議院議員通常選挙当時、平成30年法律第75号による改正後の公職選挙法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず、上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない
最高裁大法廷令和5年1月25日判決の判示内容
 令和3年10月31日施行の衆議院議員総選挙当時、公職選挙法(令和4年法律第89号による改正前のもの)13条1項、別表第1の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、上記規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。

令和4年の最高裁判所大法廷の判決
最高裁大法廷令和4年5月25日判決の判示内容
1 最高裁判所裁判官国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反する
2 在外国民が、国が自らに対して次回の国民審査において審査権の行使をさせないことが違法であることの確認を求める訴えは、適法である
3 在外国民に国民審査に係る審査権の行使を認める制度を創設する立法措置がとられなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとされた事例


令和3年の最高裁判所大法廷の判決(1本)
最高裁大法廷令和3年2月24日判決の判示事項
   市長が都市公園内の国公有地上に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して同施設の敷地の使用料を全額免除した行為が憲法20条3項に違反するとされた事例
令和3年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
最高裁大法廷令和3年6月23日決定の判示事項
   民法750条及び戸籍法74条1号は,憲法24条に違反しない
→ 最高裁大法廷平成27年12月16日判決と同趣旨の判断です。

令和2年の最高裁判所大法廷の判決(3本。ただし,実質2本)

最高裁大法廷令和2年11月25日判決の判示事項
   普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となる。
最高裁大法廷令和2年11月18日判決及び最高裁大法廷令和2年11月18日判決の判示事項
    令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙当時,平成30年法律第75号による改正後の公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない。
令和2年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
最高裁大法廷令和2年8月26日決定の裁判要旨
   裁判官がインターネットを利用して投稿による情報発信等を行うことができる情報ネットワーク上で投稿をした行為は,次の⑴~⑶など判示の事情の下においては,裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たる。
⑴ 当該投稿は,以前に当該裁判官がインターネットを利用した情報ネットワーク上で閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて興味本位で強盗殺人及び強盗強姦未遂事件についての判決を閲覧するよう誘導しようとする投稿をして,上記事件の被害者の遺族から抗議等がされていたという経緯の下でされたものであった。
⑵ 当該投稿は,根拠を示すことなく,上記遺族が当該裁判官を非難するよう東京高等裁判所事務局等から洗脳されている旨の表現を用いたものであり,あたかも上記遺族が自ら判断をする能力がなく,上記事務局等の思惑どおりに不合理な非難を続けている人物であるかのような印象を与える侮辱的なものであって,上記(1)の以前の投稿によって心情を害されていた上記遺族の心情を更に傷つけるものであった。
⑶ 当該投稿は,自らが裁判官であることを示しつつ多数の者に向けてされたものであった。
* 最高裁大法廷令和2年8月26日決定が出される原因となったブログ記事は「下級裁判所判例集に掲載する裁判例の選別基準等」です。


平成31年→令和元年の最高裁判所大法廷の判決及び決定
なし。

平成30年の最高裁判所大法廷の判決(2本。ただし,実質1本)

最高裁大法廷平成30年12月19日判決及び最高裁大法廷平成30年12月19日判決の判示事項
    平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙当時,公職選挙法13条1項,別表第1の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず,上記規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない 。

平成30年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
最高裁大法廷平成30年10月17日決定の裁判要旨
1 裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」とは,職務上の行為であると,純然たる私的行為であるとを問わず,およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね,又は裁判の公正を疑わせるような言動をいう。
2 裁判官がインターネットを利用して短文の投稿をすることができる情報ネットワーク上で投稿をした行為は,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たる。
(1) 当該投稿は,これをした者が裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で行われた。
(2) 当該投稿は,判決が確定した当該裁判官の担当外の民事訴訟事件に関し,その内容を十分に検討した形跡を示さず,表面的な情報のみを掲げて,私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えるものであった。
(3) 当該投稿は,上記原告が訴訟を提起したことを揶揄するものともとれるその表現振りとあいまって,同人の感情を傷つけるものであった。
 (2につき補足意見がある。)

平成29年の最高裁判所大法廷の判決(5本。ただし,実質4本)
最高裁大法廷平成29年12月6日判決の裁判要旨
1 放送法64条1項は,受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり,日本放送協会からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,その者に対して承諾の意思表示を命ずる判決の確定によって受信契約が成立する
2 放送法64条1項は,同法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして,憲法13条,21条,29条に違反しない
3 受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により受信契約が成立した場合,同契約に基づき,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する
4 受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は,受信契約成立時から進行する


最高裁大法廷平成29年11月29日判決の判決文抜粋
   刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。
最高裁大法廷平成29年9月27日判決及び最高裁大法廷平成29年9月27日判決の裁判要旨
    平成28年7月10日施行の参議院議員通常選挙当時,平成27年法律第60号による改正後の公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,上記規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
 (意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成29年3月15日判決の裁判要旨
   車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は,個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり,令状がなければ行うことができない強制の処分である。


平成28年の最高裁判所大法廷の決定(1本)
最高裁大法廷平成28年12月19日決定の裁判要旨
   共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。
(補足意見及び意見がある。)。

平成27年の最高裁判所大法廷の判決(5本,ただし,実質4本)
最高裁大法廷平成27年12月16日判決の裁判要旨
1 民法733条1項の規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は,憲法14条1項,24条2項に違反しない。
2 民法733条1項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は,平成20年当時において,憲法14条1項,24条2項に違反するに至っていた。
3 法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがある。
4 平成20年当時において国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことは,(1)同項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分が合理性を欠くに至ったのが昭和22年民法改正後の医療や科学技術の発達及び社会状況の変化等によるものであり,(2)平成7年には国会が同条を改廃しなかったことにつき直ちにその立法不作為が違法となる例外的な場合に当たると解する余地のないことは明らかであるとの最高裁判所第三小法廷の判断が示され,(3)その後も上記部分について違憲の問題が生ずるとの司法判断がされてこなかったなど判示の事情の下では,上記部分が違憲であることが国会にとって明白であったということは困難であり,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
(1につき補足意見,1,2につき補足意見及び意見,1~4につき補足意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成27年12月16日判決の裁判要旨
1 民法750条は,憲法13条に違反しない。
2 民法750条は,憲法14条1項に違反しない。
3 民法750条は,憲法24条に違反しない。
(3につき補足意見,意見,反対意見がある。)
最高裁大法廷平成27年11月25日判決及び最高裁大法廷平成27年11月25日判決の裁判要旨
   平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙当時において,公職選挙法13条1項,別表第1の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは,前回の平成24年12月16日施行の衆議院議員総選挙当時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったが,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
 (補足意見,意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成27年3月4日判決の裁判要旨
1 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,損害賠償額を算定するに当たり,上記の遺族補償年金につき,その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。
2 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である。


平成26年の最高裁判所大法廷の判決(2本。ただし,実質1本)
最高裁大法廷平成26年11月26日判決及び最高裁大法廷平成26年11月26日判決の裁判要旨
   平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙当時において,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下で,選挙区間における投票価値の不均衡は平成24年法律第94号による改正後も違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったが,上記選挙までの間に更に上記規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない。
 (補足意見及び反対意見がある。)

平成25年の最高裁判所大法廷の判決・決定(3本。ただし,実質2本)
最高裁大法廷平成25年11月20日判決及び最高裁大法廷平成25年11月20日判決の裁判要旨
   平成24年12月16日施行の衆議院議員総選挙当時において,公職選挙法(平成24年法律第95号による改正前のもの)13条1項,別表第1の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは,前回の平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙当時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったが,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
 (意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成25年9月4日決定の裁判要旨
1 民法900条4号ただし書前段の規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していた。
2 民法900条4号ただし書前段の規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は,上記当時から同判断時までの間に開始された他の相続につき,同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
 (1,2につき補足意見がある。)

平成24年の最高裁判所大法廷の判決(2本。ただし,実質1本)
最高裁大法廷平成24年10月17日判決及び最高裁大法廷平成24年10月17日判決の裁判要旨
   公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下で,平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたが,上記選挙までの間に上記規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない。
 (補足意見,意見及び反対意見がある。)

平成23年の最高裁判所大法廷の判決・決定(4本。ただし,実質3本)
最高裁大法廷平成23年11月16日判決の裁判要旨
1 憲法は,刑事裁判における国民の司法参加を許容しており,憲法の定める適正な刑事裁判を実現するための諸原則が確保されている限り,その内容を立法政策に委ねている。
2 裁判員制度は,憲法31条,32条,37条1項,76条1項,80条1項に違反しない。
3 裁判員制度は,憲法76条3項に違反しない。
4 裁判員制度は,憲法76条2項に違反しない。
5 裁判員の職務等は,憲法18条後段が禁ずる「苦役」に当たらない。
最高裁大法廷平成23年5月31日決定の裁判要旨
   最高裁判所長官が,裁判員制度の実施に係る司法行政事務に関与したからといって,同制度の憲法適合性を争点とする事件について,「不公平な裁判をする虞」があるということはできない。
最高裁大法廷平成23年3月23日判決及び最高裁大法廷平成23年3月23日判決の裁判要旨
    平成21年8月30日施行の総選挙当時において,衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りの基準のうち,同条2項のいわゆる1人別枠方式に係る部分は,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っており,同基準に従って平成14年に改定された公職選挙法13条1項,別表第1の定める選挙区割りも,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたが,いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,上記各規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
 (補足意見,意見及び反対意見がある。)

平成22年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
最高裁大法廷平成22年1月20日判決の裁判要旨
1 市が連合町内会に対し市有地を無償で建物(地域の集会場等であるが,その内部に祠が設置され,外壁に神社の表示が設けられている。),鳥居及び地神宮の敷地としての利用に供している行為は,次の(1),(2)など判示の事情の下では,上記行為がもともとは小学校敷地の拡張に協力した地元住民に報いるという世俗的,公共的な目的から始まったものであるとしても,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものであって,憲法89条,20条1項後段に違反する。
(1) 鳥居,地神宮,神社と表示された建物入口から祠に至る上記各物件は,一体として神道の神社施設に当たるもので,そこで行われている諸行事も,このような施設の性格に沿って宗教的行事として行われている。
(2) 上記各物件を管理し,祭事を行っている氏子集団は,祭事に伴う建物使用の対価を連合町内会に支払うほかは,上記各物件の設置に通常必要とされる対価を支払うことなく,その設置に伴う便益を長期間にわたり継続的に享受しており,前記行為は,その直接の効果として,宗教団体である氏子集団が神社を利用した宗教的活動を行うことを容易にするものである。
2 市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法の定める政教分離原則に違反し,市長において同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民が怠る事実の違法確認を求めている住民訴訟において,上記行為が違憲と判断される場合に,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,その違憲性を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて審理判断せず,当事者に対し釈明権を行使しないまま,上記怠る事実を違法とした原審の判断には,違法がある。
(1) 上記神社施設を直ちに撤去させるべきものとすることは,氏子集団の同施設を利用した宗教的活動を著しく困難なものにし,その構成員の信教の自由に重大な不利益を及ぼすものとなる。
(2) 神社施設の撤去及び土地明渡請求以外に,例えば土地の譲与,有償譲渡又は適正な対価による貸付け等,上記行為の違憲性を解消するための他の手段があり得ることは,当事者の主張の有無にかかわらず明らかである。
(3) 原審は,当事者がほぼ共通する他の住民訴訟の審理を通じて,上記行為の違憲性を解消するための他の手段が存在する可能性があり,市長がこうした手段を講ずる場合があることを職務上知っていた。
 (1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成22年1月20日判決の裁判要旨
   市が町内会に対し無償で神社施設の敷地としての利用に供していた市有地を同町内会に譲与したことは,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,憲法20条3項,89条に違反しない。
(1) 上記神社施設は明らかに神道の神社施設であり,そこでは神道の方式にのっとった宗教的行事が行われており,上記のような市有地の提供行為をそのまま継続することは,一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されるおそれがあった。
(2) 上記譲与は,市が,監査委員の指摘を考慮し,上記(1)のような憲法の趣旨に適合しないおそれのある状態を是正解消するために行ったものである。
(3) 上記市有地は,もともと上記町内会の前身の団体から戦前に小学校の教員住宅用地として寄附されたが,戦後,上記教員住宅の取壊しに伴いその用途が廃止されたものである。

平成21年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
最高裁大法廷平成21年11月18日判決の裁判要旨
   地方自治法施行令115条,113条,108条2項及び109条の各規定のうち,公職選挙法89条1項を準用することにより,公務員につき議員の解職請求代表者となることを禁止している部分は,その資格制限が解職の請求手続にまで及ぼされる限りで,同法中の選挙に関する規定を解職の投票に準用する地方自治法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超え,無効である。
 (補足意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成21年9月30日判決の裁判要旨
   公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は,平成19年7月29日施行の参議院議員通常選挙当時,憲法14条1項に違反していたものということはできない。
 (補足意見及び反対意見がある。)

平成20年の最高裁判所大法廷の判決(3本。ただし,実質2本)
最高裁大法廷平成20年9月10日判決の裁判要旨
   市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
 (補足意見及び意見がある。)
最高裁大法廷平成20年6月4日判決の裁判要旨
 1 国籍法3条1項が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正のあった)場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていることによって,認知されたにとどまる子と準正のあった子との間に日本国籍の取得に関する区別を生じさせていることは,遅くとも上告人らが国籍取得届を提出した平成17年当時において,憲法14条1項に違反していたものである。
 2 日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子は,国籍法3条1項所定の国籍取得の要件のうち,日本国籍の取得に関して憲法14条1項に違反する区別を生じさせている部分,すなわち父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分(準正要件)を除いた要件が満たされるときは,国籍法3条1項に基づいて日本国籍を取得する。
 (1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成20年6月4日判決の裁判要旨
1 国籍法3条1項が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正のあった)場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていることによって,認知されたにとどまる子と準正のあった子との間に日本国籍の取得に関する区別を生じさせていることは,遅くとも上告人が国籍取得届を提出した平成15年当時において,憲法14条1項に違反していたものである。
2 日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子は,国籍法3条1項所定の国籍取得の要件のうち,日本国籍の取得に関して憲法14条1項に違反する区別を生じさせている部分,すなわち父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分(準正要件)を除いた要件が満たされるときは,国籍法3条1項に基づいて日本国籍を取得する。
(1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。)

平成19年の最高裁判所大法廷の判決(1本)
最高裁大法廷平成19年6月13日判決の裁判要旨
1 衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条のいわゆる1人別枠方式を含む衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りの基準を定める規定は,憲法14条1項に違反するものとはいえず,平成14年法律第95号による公職選挙法の改正により上記基準に従って改定された同法13条1項,別表第1の上記区割りを定める規定は,その改定当時においても,平成17年9月11日施行の衆議院議員選挙当時においても,憲法14条1項に違反していたものということはできない。
2 衆議院小選挙区選出議員の選挙において候補者届出政党に政見放送その他の選挙運動を認める公職選挙法の規定は,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に選挙運動の上で差異を生ずるものであるが,その差異が合理性を有するとは考えられない程度に達しているとまで断ずることはできず,憲法14条1項に違反するとはいえない。
 (1につき補足意見,意見及び反対意見,2につき意見及び反対意見がある。)

平成18年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
最高裁大法廷平成18年10月4日判決の裁判要旨
   公職選挙法(平成18年法律第52号による改正前のもの)14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は,平成16年7月11日施行の参議院議員選挙当時,憲法14条1項に違反していたものということはできない。
 (補足意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成18年3月1日判決の裁判要旨
1 市町村が行う国民健康保険の保険料については,これに憲法84条の規定が直接に適用されることはないが,同条の趣旨が及ぶと解すべきであるところ,国民健康保険法81条の委任に基づき条例において賦課要件がどの程度明確に定められるべきかは,賦課徴収の強制の度合いのほか,社会保険としての国民健康保険の目的,特質等をも総合考慮して判断する必要がある。
2 旭川市国民健康保険条例(昭和34年旭川市条例第5号)が,8条(平成6年旭川市条例第29号による改正前のもの及び平成10年旭川市条例第41号による改正前のもの)において,国民健康保険の保険料率の算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めた上で,12条3項において,旭川市長に対し,保険料率を同基準に基づいて決定して告示の方式により公示することを委任したことは,国民健康保険法81条に違反せず,憲法84条の趣旨に反しない。
3 旭川市長が旭川市国民健康保険条例(昭和34年旭川市条例第5号)12条3項の規定に基づき平成6年度から同8年度までの各年度の国民健康保険の保険料率を各年度の賦課期日後に告示したことは,憲法84条の趣旨に反しない。
4 旭川市国民健康保険条例(昭和34年旭川市条例第5号)19条1項が,当該年において生じた事情の変更に伴い一時的に保険料負担能力の全部又は一部を喪失した者に対して国民健康保険の保険料を減免するにとどめ,恒常的に生活が困窮している状態にある者を保険料の減免の対象としていないことは,国民健康保険法77条の委任の範囲を超えるものではなく,憲法25条,14条に違反しない。
 (1〜3につき補足意見がある。)

平成17年の最高裁判所大法廷の判決(3本)
最高裁大法廷平成17年12月7日判決の裁判要旨
1 都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち同事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)59条2項に基づいてされた同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有する。
2 鉄道の連続立体交差化を内容とする都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち同事業に係る東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)2条5号所定の関係地域内に居住する者は,その住所地が同事業の事業地に近接していること,上記の関係地域が同事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で同事業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域として同条例13条1項に基づいて定められたことなど判示の事情の下においては,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)59条2項に基づいてされた同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有する。
3 鉄道の連続立体交差化に当たり付属街路を設置することを内容とする都市計画事業が鉄道の連続立体交差化を内容とする都市計画事業と別個の独立したものであること,上記付属街路が鉄道の連続立体交差化に当たり環境に配慮して日照への影響を軽減することを主たる目的として設置されるものであることなど判示の事情の下においては,付属街路の設置を内容とする上記事業の事業地の周辺に居住する住民は,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)59条2項に基づいてされた同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有しない。
 (1,2につき補足意見,3につき補足意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成17年9月14日判決の裁判要旨
1 平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時,公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)が,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が国政選挙において投票をするのを全く認めていなかったことは,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。
2 公職選挙法附則8項の規定のうち,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,遅くとも,本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。
3 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法である。
4 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民は,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録され ていることに基づいて投票をすることができる地位にある。
5 国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける。
6 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権行使の機会を確保するためには,上記国民に上記選挙権の行使を認める制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,上記国民の国政選挙における投票を可能にするための法律案が廃案となった後,平成8年10月20日の衆議院議員総選挙の施行に至るまで10年以上の長きにわたって国会が上記投票を可能にするための立法措置を執らなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものというべきであり,国は,上記選挙において投票をすることができなかったことにより精神的苦痛を被った上記国民に対し,慰謝料各5000円の支払義務を負う。
 (1,2,4〜6につき,補足意見,反対意見がある。)
最高裁大法廷平成17年1月26日判決の裁判要旨
1 地方公共団体が,公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。
 2 東京都が管理職に昇任すれば公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員に就任することがあることを当然の前提として任用管理を行う管理職の任用制度を設けていたなど判示の事情の下では,職員が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた東京都の措置は,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。
(1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。)

平成16年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
最高裁大法廷平成16年1月14日判決の裁判要旨
   公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は,平成13年7月29日施行の参議院議員選挙当時,憲法14条1項に違反していたものということはできない。
 (補足意見及び反対意見がある。)
最高裁大法廷平成16年1月14日判決の裁判要旨
   公職選挙法が参議院(比例代表選出)議員選挙につき採用している非拘束名簿式比例代表制は,憲法15条,43条1項に違反するとはいえない。

平成15年の最高裁判所大法廷の判決(1本)
最高裁大法廷平成15年4月23日判決の裁判要旨
1 委託を受けて他人の不動産を占有する者が,これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後,これについてほしいままに売却等の所有権移転行為を行いその旨の登記を了したときは,後行の所有権移転行為について横領罪の成立を肯定することができ,先行の抵当権設定行為が存在することは同罪の成立自体を妨げる事情にはならない。
2 委託を受けて他人の不動産を占有する者が,これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後,これについてほしいままに売却等の所有権移転行為を行いその旨の登記を了した場合において,後行の所有権移転行為のみが横領罪として起訴されたときは,裁判所は,所有権移転の点だけを審判の対象とすべきであり,犯罪の成否を決するに当たり,所有権移転行為に先立って横領罪を構成する抵当権設定行為があったかどうかといった訴因外の事情に立ち入って審理判断すべきではない。

平成14年の最高裁判所大法廷の判決(2本)
最高裁大法廷平成14年9月11日判決の裁判要旨
1 郵便法68条及び73条の規定のうち,書留郵便物について,郵便の業務に従事する者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に,不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条に違反する。
2 郵便法68条及び73条の規定のうち,特別送達郵便物について,郵便の業務に従事する者の故意又は過失によって損害が生じた場合に,国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条に違反する。
 (1,2につき補足意見及び意見がある。)
最高裁大法廷平成14年2月13日判決の裁判要旨
1 証券取引法164条1項は,上場会社等の役員又は主要株主が同項所定の有価証券等の短期売買取引をして利益を得た場合には,同条8項に規定する内閣府令で定める場合に当たるとき又は類型的にみて取引の態様自体から役員若しくは主要株主がその職務若しくは地位により取得した秘密を不当に利用することが認められないときを除き,当該取引においてその者が秘密を不当に利用したか否か,その取引によって一般投資家の利益が現実に損なわれたか否かを問うことなく,当該上場会社等はその利益を提供すべきことを当該役員又は主要株主に対して請求することができるものとした規定である。
2 証券取引法164条1項は,憲法29条に違反しない。

平成13年の最高裁判所大法廷の判決・決定(2本)
最高裁大法廷平成13年3月30日決定の裁判要旨
    裁判官が,妻に対する被疑事件の捜査が逮捕可能な程度に進行した段階において,事実を確認してこれを認めたならば示談をするようにとの趣旨で検事から捜査情報の開示を受けたのに対し,妻が事実を否認したことから,捜査機関の有する証拠や立論の疑問点,問題点等を記載した書面を作成し,妻及びその弁護に当たる弁護士に交付するなどした行為は,判示の事情の下においては,犯罪の嫌疑を受けた妻を支援,擁護するものとして許容される限界を超えたものであり,裁判所法49条に該当する。
 (反対意見がある。)
最高裁大法廷平成13年3月28日判決の裁判要旨
   小作地に対していわゆる宅地並み課税がされたことによって固定資産税及び都市計画税の額が増加したことを理由として小作料の増額を請求することはできない。
 (補足意見及び反対意見がある。) 


第2 大法廷回付
1 最高裁判所事務処理規則9条
・ 最高裁判所事務処理規則9条は以下のとおりです。
第九条 事件は、まず小法廷で審理する。
② 左の場合には、小法廷の裁判長は、大法廷の裁判長にその旨を通知しなければならない。
一 裁判所法第十条第一号乃至第三号に該当する場合
二 その小法廷の裁判官の意見が二説に分れ、その説が各々同数の場合
三 大法廷で裁判することを相当と認めた場合
③ 前項の通知があつたときは、大法廷で更に審理し、裁判をしなければならない。この場合において、大法廷では、前項各号にあたる点のみについて審理及び裁判をすることを妨げない。
④ 前項後段の裁判があつた場合においては、小法廷でその他について審理及び裁判をする。
⑤ 裁判所法第十条第一号に該当する場合において、意見が前にその法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとした大法廷の裁判と同じであるときは、第二項及び第三項の規定にかかわらず、小法廷で裁判をすることができる。
⑥ 法令の解釈適用について、意見が大審院のした判決に反するときも、また前項と同様とする。
2 書記官室の事務
(1) 民事書記官実務必携(平成30年4月1日現在のもの)8頁には,大法廷回付における小法廷書記官室の事務として以下の記載があります。
別紙3-1により大法廷において審理裁判すべき旨の決裁があった場合,小法廷の首席書記官は,「通知書」 (別紙3-2)の写しを大法廷裁判長(長官)に交付する方法で通知する。小法廷の担当書記官は,民事事件係にその旨を連絡した上,訴訟記録の整理,予納郵便切手の点検等をし, これに別紙3-1及び「通知書」 (別紙3-2)を添付して大法廷書記官に引き継ぐ。システムの法廷欄を「大法廷」に変更し,回付日を入力する。
(2) 民事書記官実務必携(平成30年4月1日現在のもの)37頁には,大法廷回付における大法廷書記官室の事務として以下の記載があります。
(1) 当事者に対する回付通知は,大法廷の担当書記官が行う。
(2) (1)の通知は電話により行い,その後に書面(別紙3-3)を送付する。
送付費用は,国庫負担とする。
3 大阪空港訴訟における大法廷回付
(1) 経緯の概要
ア 大阪空港訴訟の場合,大阪高裁昭和50年11月27日判決(住民側の全面勝訴判決)に対して国が上告し,昭和53年5月22日に第1小法廷で弁論が開かれて結審しました。
イ 昭和53年6月28日に和解協議が打ち切りとなり,同年7月18日付で大法廷回付を求める上申書が国から提出され,同年8月31日に大法廷に回付され,昭和54年11月7日に大法廷の弁論が開かれて結審しました。
ウ 昭和55年4月16日,4人の最高裁判事が交代したこと(高辻正巳大塚喜一郎及び江里口清雄が定年退官し,戸田弘が在任中に死亡しました。)を理由として弁論の再開が決定され,同年12月3日に再び大法廷の弁論が開かれて結審し,最高裁大法廷昭和56年12月16日判決は差止請求却下の判決となりました。
エ 岡原昌男最高裁判所長官の在任期間は昭和52年8月26日から昭和54年3月31日までであり,服部高顕最高裁判所長官の在任期間は昭和54年4月2日から昭和57年9月30日でした。
(2) 岡原昌男最高裁判所長官の説明等
ア 岡原昌男 元最高裁判所長官が自由と正義1992年6月号148頁及び149頁に投稿した「いろめがね 司法行政と裁判の独立」には大阪空港公害訴訟が大法廷に回付された経緯が書いてありますところ,そこには以下の記載があります。
    松井弁護士の「行政が検察官を訴訟代理人にし,検察官出身の岡原長官に要請ないしは圧力をかけたのか、あるいはそうではなく、すすんで第一小法廷に長官たる地位を利用して圧力をかけたのか、そこは藪の中である。」と奥歯に物の挟まったようなことを言う(山中注:松井康浩弁護士自由と正義1992年3月号236頁ないし238頁に投稿した「最高裁長官の裁判介入 司法行政権と裁判官の独立」における記載のこと。)が、私は本件について行政筋から要請ないし圧力を受けた覚えはなく、理不尽な圧力があれば、これを撥ねつけた筈だし、反面地位を利用して圧力をかけたこともない。
イ 平成3年12月12日の毎日新聞朝刊は,一面のトップ記事で,「覆った『飛行差し止め』」「小法廷判決直前、大法廷へ、最高裁長官が意向」「一〇年前の大阪空港訴訟」という大きな見出しで岡原昌男元最高裁長官の写真入りの報道をしたところ,最高裁物語(下巻)280頁には以下の記載があります。
    その岡原(山中注:岡原昌男元最高裁長官)が、この事件をスクープした毎日新聞記者に語っている。
    「ああいう大きな訴訟だから、同種の訴訟がほかにあったとき、小法廷によって判断がちがったり、また大法廷でひっくり返ったりすると、法的安定性が崩れ訴訟経済からもまずい。私はそういう原則論をもっているから、大法廷で審理したらどうかというようなことを、あるいは言ったかもしれない。国が大法廷回附を要望していたことはまったく覚えがないな。小法廷の評議がどうなっているかは、ことさら聞かない主義だった」
    岡原に指摘されて”変心”した裁判官たちが、基本的には岡原と同じ保守であったことも響いた。大法廷回附に最後まで反対し続けたのは団藤一人だけであった。
ウ 大阪空港訴訟に関する最高裁大法廷昭和56年12月16日判決を取り扱った「誰のための司法か~團藤重光 最高裁・事件ノート~」(令和5年4月15日初放送)で紹介された團藤ノート(團藤重光最高裁判事が在職中に作成していたノート)によれば,以下のやり取りがあったとのことです。
① 昭和53年7月19日,第一小法廷の裁判長の岸上康夫最高裁判事は,同月18日付の,大法廷回付を求める国の上申書について最高裁長官室を訪問して岡原昌男最高裁長官に相談した。
② 相談の際,最高裁長官室には第二小法廷の吉田豊最高裁判事(元最高裁事務総長)及び第三小法廷の服部高顕最高裁判事(岡原の後任の最高裁長官)が同席していたところ,たまたま最高裁長官室に電話がかかってきたため,岡原長官が岸上最高裁判事に受話器を渡した。
    電話の相手は村上朝一(むらかみともかず)元最高裁長官(元法務省民事局長)であり,法務省側の意を受けた村上元長官は,岸上裁判長に対し,大法廷回付の要望を告げた。
③ 団藤最高裁判事は,村上元長官からの電話について「この種の介入は怪(け)しからぬことだ」,「いまになっての上申は好ましくない」,「和解のすすめかたをみて不利とみてこの挙に出たのだろう」,「引きのばし作戦でもあろうし、むしろ実質的には忌避の感じさえする」と団藤ノートに記載した。
エ 11期の加茂紀久男は,大阪空港訴訟に関する最高裁大法廷昭和56年12月16日判決を取り扱った「誰のための司法か~團藤重光 最高裁・事件ノート~」(令和5年4月15日初放送)に出演した際,村上朝一 元最高裁判所長官について「事実上村上元長官は法務省が長い人だし(法務省の)代理人みたいなもの」,「そういう意味じゃけしからなさそうというものが知れてると言えば知れてる。ほとんど代理人ですから」という趣旨の発言をしました。
(3) その他
・ 豊中市HPに「大阪国際空港の沿革」が載っています。
・ 「「大阪空港公害訴訟に係る団藤重光元裁判官の指摘を踏まえ,改めて司法権の独立の徹底を求める会長声明」の送付について」(令和5年4月26日付の大阪弁護士会の文書)に対する最高裁の決裁・供覧(令和5年5月1日付)を掲載しています。
・ 立命館大学HPに載ってある「最高裁の黒い霧を晴らす必要性と必然性-浮上・再浮上したわが国司法の4事例-」に「第3章 大阪空港事件をめぐる最高裁のスキャンダル」が含まれています。


第3 徴する判決の問題点
・ 最高裁回想録156頁には,「徴する判決」の問題点について以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    最高裁がしばしば先例を引用して上告人の主張を退けることには、右にも見たように、それなりの理由があるか、少なくともやむを得ないところがあるが、ただその引用の仕方には、なお大きな問題が残されているように思われる。
    それは何よりも、「以上は、当審のこれこれの判例の趣旨に徴して明らかである」と述べるいわゆる「徴する判決」についてである。このような引用の仕方は、恐らく、その判断を権威付けるために、できるだけ引用判例を多くして説得力を増そうという意図に立つものであるが、しかし、「徴された」判決の中には、しばしば、理論的に見て、一体何故それが当該事件の先例となり得るのか、甚だ怪しいものが無いではない。
    私には、こういった引用の仕方は、むしろ当該判決延いては最高裁の判例全体に対する不信感を増しこそすれ、決して権威付けることにはならないように思われるのである。    
    ある事件の個別意見において私は、このことを指摘しようとしたのであるが、担当調査官に「それだけは何卒ご容赦を」と泣かんばかりに懇願されて、遂にほだされてしまったのであった。

第4 関連記事その他
1 事件記録等の廃棄留保について(令和元年11月18日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)を掲載しています。
2 「裁判官とは何者か?-その実像と虚像との間から見えるもの-」(講演者は24期の千葉勝美 元最高裁判所判事)には以下の記載があります(リンク先のPDF25頁)。
問2:最高裁大法廷判決は、誰を読み手と想定して判決文を書いているのか?
答え:最高裁の判決は、事件当事者に対する判断であるが、法令の合憲性審査については、対立法府が念頭にあることは当然である。しかし、憲法判断のように、テーマが、国民の多様な価値観の相違や政治的社会的対立の大きなテーマに関する場合には、常に、このような司法部の判断が国民の多くに理解され受け入れられるかどうか、司法判断としての信頼を勝ち得ることになるかどうかが大きな関心事であって、読者としては第一次的には国民全体、すなわち、多くの国民がどのように判決を受け止めてくれるのかが念頭にある。これは、我が国に限らず、欧米諸国の憲法判例の展開を見てみると、大きな政治的に重要な問題が訴訟で争われる場合に、各国の最高裁判所が、国民全体の意識、政治状況、将来を見据えた影響力等を見極めながら、あるときは積極的に乗り出した判断をし、逆に、あるときは火中の栗を拾い紛争を拡大しないように控えめな対応を選択して痛み分け的な判断をするなどの対応が見られるところであるが、これと同様である。
3 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所における違憲判決の一覧
・ 最高裁が出した,一票の格差に関する違憲状態の判決及び違憲判決の一覧
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
・ 高裁の各種事件数,及び最高裁における民事・行政事件の概況
・ 日本国憲法外で法的効力を有していたポツダム命令


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