目次
1 戦前は検事局が保管していたこと
2 刑事訴訟法の制定及びその後の状況
3 刑事確定訴訟記録法の制定
4 関連記事その他
1 戦前は検事局が保管していたこと
昭和22年5月3日に裁判所法が施行されるまで,各裁判所に検事局が付置されていました(裁判所構成法6条1項)。
そのため,刑事裁判が確定した場合,その執行に当たる検事局が裁判所の「付置」機関として刑事確定訴訟記録を保管することは当然のことでした。
2 刑事訴訟法の制定及びその後の状況
(1)ア 裁判所法及び検察庁法施行により,検察庁が裁判所から分離しましたから,検察庁が裁判終結後の記録をわざわざ裁判所から送付を受けたうえで,保存することについて合理的理由があるかが問題となりました。
昭和23年2月15日設置の法務庁は,刑事記録は従前通り検察庁が保管すべきと主張したのに対し,最高裁判所は,裁判所が作成した刑事記録は裁判所が保管するのが当然であると主張しました。
結局,両者の主張の一致を見るに至りませんでしたから,制定当時の刑事訴訟法(昭和23年7月10日法律第131号)53条4項は,「訴訟記録の保管及びその閲覧の手数料については、別に法律でこれを定める。」と定め,将来の「別の法律」に対立する議論の決着をゆだねることとしました。
イ 刑事記録については,刑事訴訟法施行後も民刑訴訟記録保存規程(大正7年6月3日司法省法務局庶第7号訓令)を基準として,検察庁が保管することとなりました。
(2) 昭和45年11月,検務関係文書等保存事務暫定要領(法務省刑事局長通達)が制定され,禁固以上の刑の判決原本については永久保存とされました。
「暫定要領」とされたのは,刑事訴訟法53条4項に基づく法律が制定されるまでの暫定措置という意味合いがあったからです。
(3)ア 辻辰三郎法務省刑事局長は,昭和46年9月3日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
① 刑事の確定訴訟記録の保管につきましては、ただいま御指摘のとおり、刑事訴訟法では第五十三条の第四項におきまして、法律で別に定めることになっておるわけでございます。
ところで、この法律は現在まだできておりません。なぜできてないかという問題になるわけでございますが、これは現行刑訴法になりまして、手続構造が旧法とはたいへん変わってきたわけでございます。
確定記録の保管庁が裁判所であるか検察庁であるかという点につきましていろいろな意見、いろいろな説がございます。そういう点でまずこの説を調整をしなければならないという点が第一点でございます。
② それから第二点は、この現行刑訴ができましてから各種の確定訴訟記録につきまして、どういう記録はどれくらいの保存期間を設けるべきかどうかというような各記録ごとの保存期間というものが法施行当時すぐにきめられるということは、きめられたかもしれませんが、やはり多少の運用の実績を見てからきめるのが相当であろうということで、この保存期間を少し運用実績を見てからやろうという配慮もあったわけでございまして、そういう事情で現在までこの点の法律が制定されていないわけでございます。
③ そこで、現在どうなっておるかということになりますと、確定記録は大部分は検察庁において保管をいたしておりますけれども、一部の高等裁判所あるいは最高裁判所もそれに当たるかと思うのでございますが、一部の裁判所におきましては判決原本というようなものは裁判所で御保管になっておるという実情もございます。
しかしながら、大部分の確定訴訟記録は、現状におきましては検察庁が保管をいたしておるわけでございますので、私どもといたしましては、この法律ができ上がるまで保存事務の適正を期するという観点から、施行当時から最近まではずっと昔の通達によりましてまかなってまいったわけでございますが、本年に至りましてとりあえず暫定措置といたしまして、検察庁に保管しております訴訟記録につきましては新たな取り扱い要領を定めまして、法律ができますまでの適正な保存事務を行なっていこうということにいたしておるわけでございます。
イ 筧榮一法務省刑事局長は,昭和60年4月10日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
昭和二十四年でございますか、現行の刑事訴訟法制定当時、訴訟記録の保管事務につきまして検討はされたわけでございますが、裁判所、検察庁その他、これを保管すべき機関について、従来のいきさつ等もあってまだ意見の調整を図る必要があるということ、あるいは各種訴訟記録の保存期間については相当期間の運用実績を検討した上で法定することが妥当であるというような事情から、当時法律制定には至らなかったわけでございます。
その後法務省といたしましても、訴訟記録の保管に関する立法につきまして検討を重ねてまいったところでございますが、保管機関をどこにするか、その方法をどうするか、記録あるいは原本双方についていろいろ問題があろうかと思います。あるいは保存期間をどの程度にするかというような多岐にわたる問題がございまして、これらについて慎重に検討する必要があるということで現在までまだ制定には至っておらないというのが現状でございます。
3 刑事確定訴訟記録法の制定
(1) 昭和63年1月1日施行の刑事確定訴訟記録法(昭和62年6月2日法律第64号)では,刑事確定訴訟記録の保管機関は検察庁となりました。
(2) この点に関して10期の吉丸眞最高裁判所事務総局刑事局長は,昭和62年5月26日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
① 訴訟記録はもともと裁判所が訴訟上作成、保管するものであるということなどから、確定後も引き続き裁判所において保管するのが相当であるというような考え方もございます。
しかし他方、判決の確定後には、先ほど法務省からも御説明がございましたとおり、検察庁において裁判の執行指揮その他各種の事務を行うこととなりますところ、これらの事務を適正かつ円滑に行うためには訴訟記録を必要とするという実情がございます。
現行刑訴法の制定過程におきまして裁判所と法務省との間で見解が分かれたのは、主として今申し上げましたようなところからでございます。
② その後、確定記録は御承知のとおり法律の制定を見ないまま検察庁が保管してまいりましたが、その間の運用を見てみますと、確かに裁判の執行等のために訴訟記録は検察庁において保管する必要があるというふうに認められます。
また、記録を保管する実際上の必要といたしましては、裁判所の方が、例えば確定後にも書記官に対する司法行政上の監督権の行使等のために必要であるというような事情はあったわけでございますが、この点につきましても、この間の運用から見ますと、裁判所と検察庁との間でその点を調整することによって格別の支障なく運用されてきたという状況もございます。
そのようなことを考えまして、今回の立法に当たりましては特に裁判の執行その他の事務の適正円滑な実現というようなところを重く考えまして、検察庁で保管するのが相当であるというふうに考えたわけでございます。
③ 無罪判決の場合に裁判の執行等の問題が生じないということにつきましては、委員御指摘のとおりでございます。
ただ、御承知のとおり無罪判決は比較的数が少ないということもございますし、有罪判決の場合と無罪判決の場合とによって記録の保管の主体を異にするということは実際上いろいろ問題があろうかと思います。
例えば閲覧その他の点につきましても、統一的に検察庁において保管するということがまさるというふうに考えられるわけでございまして、無罪判決の記録につきましてはいわばそのような統一的な取り扱いという観点から有罪判決の記録に合わせたということでございます。
④ まず現在の状況(注:民事記録に関する保存に関する現在の状況)を御説明申し上げますと、現在は事件記録等保存規程で保存いたしておるわけでございますが、これは、法形式からいたしますと最高裁判所規則の一形態でございます最高裁規程に属するわけでございます。
また、確定記録の保存に関する事務はもともと裁判所の内部的な司法事務処理に関する事項に当たると考えられます。
そのようなことで、これが最高裁判所規則の範囲内に属することははっきりいたしておるところだと思います。
そのような意味で、私どもといたしましては、今後も民事の記録の保存につきましては最高裁判所の規程で定めていくのが適当であると考えております。
4 関連記事その他
(1) 木内曽益検務長官は,昭和23年5月31日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
これ(山中注:確定訴訟記録の公開の制度)は五十三條であります。何人も被告事件の終結後、原則として訴訟記録を閲覽できるものといたしたのであります。これは裁判の公正を担保する趣旨に基くものであります。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 加害者の刑事裁判の判決が確定した後の,起訴事件の刑事記録の入手方法
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 民事事件の裁判文書に関する文書管理
・ 司法行政文書に関する文書管理
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧