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刑事確定訴訟記録の保管機関が検察庁となった経緯(AIリライト)

刑事事件の確定訴訟記録は,現在,第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官(保管検察官)が保管している(刑事確定訴訟記録法2条)。
裁判所が訴訟のなかで作成した記録を,なぜ裁判所ではなく検察庁が保管するのか。この配分は,占領期の立法過程で裁判所側と法務省側が対立し,約40年にわたって法律ではなく通達で運用された末に,昭和62年の刑事確定訴訟記録法によって決着した論点である。
本記事では,戦前の検事局による保管から現行刑事訴訟法の制定時の対立,暫定的運用の時代を経て検察庁保管が法定されるまでの経緯を,国会答弁など当時の一次資料に即して時系列で整理する。

第1 戦前――検事局が裁判所に付置され記録を保管していた時代

昭和22年5月3日に裁判所法が施行されるまで,各裁判所には検事局が付置されていた(裁判所構成法6条)。
検事局は裁判所の内部組織ではなかったが,各裁判所に対応して置かれ,公訴の提起や裁判の執行の監視などを担っていた。

この体制の下では,刑事裁判が確定すると,その執行に当たる検事局が確定訴訟記録を保管することは自然な運用であった。
記録の保管主体を裁判所と検察の系統のいずれにするかという問題は,そもそも両者が同じ裁判所に付置されていた戦前には表面化しなかった。

第2 現行刑事訴訟法の制定と保管機関をめぐる対立

1 検察庁の分離により生じた問題

昭和22年,裁判所法及び検察庁法の施行により,検察庁は裁判所から組織的に分離した。
これにより,戦前は当然であった「裁判所に付置された検事局が記録を保管する」という前提が崩れた。
裁判が終結した後の記録を,検察庁がわざわざ裁判所から送付を受けたうえで保管することに合理的な理由があるのかが,あらためて問題となったのである。

2 法務庁と最高裁判所の対立と刑事訴訟法53条4項による先送り

この問題について,昭和23年2月15日に設置された法務庁は,刑事記録は従前どおり検察庁が保管すべきであると主張した。
これに対し最高裁判所は,裁判所が作成した記録は裁判所が保管するのが当然であると主張し,両者の見解は一致しなかった。

そのため,制定当時の刑事訴訟法(昭和23年7月10日法律第131号)53条4項は,保管主体そのものを定めず,次のように将来の別の法律に決着をゆだねる形をとった。

訴訟記録の保管及びその閲覧の手数料については、別に法律でこれを定める。

この「別に法律で定める」という規定が,後の刑事確定訴訟記録法(昭和62年)の制定まで,約40年にわたって宿題として残ることになった。

3 施行後の運用――民刑訴訟記録保存規程の援用

刑事訴訟法の施行後も,保管の根拠となる新しい法律は制定されなかった。
そのため実務は,戦前からの民刑訴訟記録保存規程(大正7年6月3日司法省法務局庶第7号訓令)を基準とし,これを援用する形で検察庁が記録を保管した。
法律による決着がつかないまま,古い訓令を手がかりとする運用が続いたのである。

第3 立法までの空白期間――通達による暫定運用

1 暫定措置としての取扱要領(昭和46年・辻辰三郎法務省刑事局長答弁)

その後,法務省は,法律の制定を待たずに保存事務の適正を確保するため,検察庁が保管する訴訟記録について,新たな取扱要領(検務関係文書等保存事務暫定要領。法務省刑事局長通達)を定めた。
この要領では,禁錮以上の刑に係る判決原本を永久保存とするなどの取扱いが定められた。
「暫定」要領と呼ばれたのは,刑事訴訟法53条4項が予定する法律が制定されるまでの暫定措置という趣旨によるものである。

辻辰三郎法務省刑事局長は,昭和46年9月3日の衆議院法務委員会において,立法が実現していない理由と当時の運用状況を,次のように説明している(番号と改行は本記事で補った)。

① 刑事の確定訴訟記録の保管につきましては、ただいま御指摘のとおり、刑事訴訟法では第五十三条の第四項におきまして、法律で別に定めることになっておるわけでございます。
ところで、この法律は現在まだできておりません。なぜできてないかという問題になるわけでございますが、これは現行刑訴法になりまして、手続構造が旧法とはたいへん変わってきたわけでございます。
確定記録の保管庁が裁判所であるか検察庁であるかという点につきましていろいろな意見、いろいろな説がございます。そういう点でまずこの説を調整をしなければならないという点が第一点でございます。

② それから第二点は、この現行刑訴ができましてから各種の確定訴訟記録につきまして、どういう記録はどれくらいの保存期間を設けるべきかどうかというような各記録ごとの保存期間というものが法施行当時すぐにきめられるということは、きめられたかもしれませんが、やはり多少の運用の実績を見てからきめるのが相当であろうということで、この保存期間を少し運用実績を見てからやろうという配慮もあったわけでございまして、そういう事情で現在までこの点の法律が制定されていないわけでございます。

③ そこで、現在どうなっておるかということになりますと、確定記録は大部分は検察庁において保管をいたしておりますけれども、一部の高等裁判所あるいは最高裁判所もそれに当たるかと思うのでございますが、一部の裁判所におきましては判決原本というようなものは裁判所で御保管になっておるという実情もございます。
しかしながら、大部分の確定訴訟記録は、現状におきましては検察庁が保管をいたしておるわけでございますので、私どもといたしましては、この法律ができ上がるまで保存事務の適正を期するという観点から、施行当時から最近まではずっと昔の通達によりましてまかなってまいったわけでございますが、本年に至りましてとりあえず暫定措置といたしまして、検察庁に保管しております訴訟記録につきましては新たな取り扱い要領を定めまして、法律ができますまでの適正な保存事務を行なっていこうということにいたしておるわけでございます。

答弁のうち「本年に至りましてとりあえず暫定措置といたしまして……新たな取り扱い要領を定めまして」との部分が,上記の暫定要領を指している。
保管主体の対立の調整と,各記録ごとの保存期間を運用実績を見てから定めたいという2点が,立法が遅れた理由として挙げられている。

2 立法が進まなかった理由(昭和60年・筧榮一法務省刑事局長答弁)

暫定要領による運用は,その後も長く続いた。
筧榮一法務省刑事局長は,昭和60年4月10日の衆議院法務委員会において,制定当時からの経緯と,なお立法に至らない理由を次のように述べている。

昭和二十四年でございますか、現行の刑事訴訟法制定当時、訴訟記録の保管事務につきまして検討はされたわけでございますが、裁判所、検察庁その他、これを保管すべき機関について、従来のいきさつ等もあってまだ意見の調整を図る必要があるということ、あるいは各種訴訟記録の保存期間については相当期間の運用実績を検討した上で法定することが妥当であるというような事情から、当時法律制定には至らなかったわけでございます。

その後法務省といたしましても、訴訟記録の保管に関する立法につきまして検討を重ねてまいったところでございますが、保管機関をどこにするか、その方法をどうするか、記録あるいは原本双方についていろいろ問題があろうかと思います。あるいは保存期間をどの程度にするかというような多岐にわたる問題がございまして、これらについて慎重に検討する必要があるということで現在までまだ制定には至っておらないというのが現状でございます。

保管機関の選択,保管の方法,記録と判決原本の扱い,保存期間といった論点が多岐にわたり,慎重な検討を要したことが,立法が長期化した背景として説明されている。

第4 刑事確定訴訟記録法の制定――検察庁保管の確定

1 昭和62年法律第64号による決着

約40年続いた宿題は,刑事確定訴訟記録法(昭和62年6月2日法律第64号,昭和63年1月1日施行)によって決着した。
同法は,刑事確定訴訟記録の保管機関を検察庁とし,第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官(保管検察官)が記録を保管するものと定めた(同法2条)。
刑事訴訟法53条4項がいう「別に法律で定める」法律が,ここでようやく制定されたことになる。

2 検察庁を保管機関とした理由(昭和62年・吉丸眞最高裁判所事務総局刑事局長答弁)

裁判所が作成した記録を検察庁が保管することとした理由について,吉丸眞最高裁判所事務総局刑事局長は,昭和62年5月26日の衆議院法務委員会で説明している。
以下では,その答弁を論点ごとに分けて紹介する(番号と改行は本記事で補った)。

(1) 裁判の執行その他の事務の便宜

まず,記録を裁判所に残す考え方もあり得たとしたうえで,判決確定後は検察庁が裁判の執行指揮など各種の事務を行うため記録を必要とすること,運用上も検察庁保管で支障がなかったことを理由に,検察庁保管が相当であると述べている。

① 訴訟記録はもともと裁判所が訴訟上作成、保管するものであるということなどから、確定後も引き続き裁判所において保管するのが相当であるというような考え方もございます。
しかし他方、判決の確定後には、先ほど法務省からも御説明がございましたとおり、検察庁において裁判の執行指揮その他各種の事務を行うこととなりますところ、これらの事務を適正かつ円滑に行うためには訴訟記録を必要とするという実情がございます。
現行刑訴法の制定過程におきまして裁判所と法務省との間で見解が分かれたのは、主として今申し上げましたようなところからでございます。

② その後、確定記録は御承知のとおり法律の制定を見ないまま検察庁が保管してまいりましたが、その間の運用を見てみますと、確かに裁判の執行等のために訴訟記録は検察庁において保管する必要があるというふうに認められます。
また、記録を保管する実際上の必要といたしましては、裁判所の方が、例えば確定後にも書記官に対する司法行政上の監督権の行使等のために必要であるというような事情はあったわけでございますが、この点につきましても、この間の運用から見ますと、裁判所と検察庁との間でその点を調整することによって格別の支障なく運用されてきたという状況もございます。
そのようなことを考えまして、今回の立法に当たりましては特に裁判の執行その他の事務の適正円滑な実現というようなところを重く考えまして、検察庁で保管するのが相当であるというふうに考えたわけでございます。

(2) 無罪判決の記録も検察庁に統一した理由

無罪判決の場合には裁判の執行という問題が生じないという指摘に対しては,無罪判決が比較的少数であること,有罪と無罪で保管主体を分けると閲覧などの面で不都合が生じることを理由に,統一的な取扱いとして検察庁保管に合わせたと説明している。

③ 無罪判決の場合に裁判の執行等の問題が生じないということにつきましては、委員御指摘のとおりでございます。
ただ、御承知のとおり無罪判決は比較的数が少ないということもございますし、有罪判決の場合と無罪判決の場合とによって記録の保管の主体を異にするということは実際上いろいろ問題があろうかと思います。
例えば閲覧その他の点につきましても、統一的に検察庁において保管するということがまさるというふうに考えられるわけでございまして、無罪判決の記録につきましてはいわばそのような統一的な取り扱いという観点から有罪判決の記録に合わせたということでございます。

(3) 民事の記録は最高裁判所の規程で保存する整理

刑事の確定記録を法律で検察庁保管としたのに対し,民事の記録の保存は,裁判所内部の司法事務処理に関する事項として,引き続き最高裁判所の規程(当時の事件記録等保存規程)で定めるのが適当であると整理している。
刑事と民事とで根拠形式(法律と最高裁判所規程)が分かれる理由を示した部分である。

④ まず現在の状況(注:民事記録の保存に関する現在の状況)を御説明申し上げますと、現在は事件記録等保存規程で保存いたしておるわけでございますが、これは、法形式からいたしますと最高裁判所規則の一形態でございます最高裁規程に属するわけでございます。
また、確定記録の保存に関する事務はもともと裁判所の内部的な司法事務処理に関する事項に当たると考えられます。
そのようなことで、これが最高裁判所規則の範囲内に属することははっきりいたしておるところだと思います。
そのような意味で、私どもといたしましては、今後も民事の記録の保存につきましては最高裁判所の規程で定めていくのが適当であると考えております。

第5 参考――確定訴訟記録の閲覧制度の趣旨(昭和23年・木内曽益検務長官答弁)

保管機関の問題とは別に,刑事訴訟法53条は,被告事件の終結後に何人も訴訟記録を閲覧できるとする閲覧制度を定めている。
この制度の趣旨について,現行刑事訴訟法案の審議の過程で,木内曽益検務長官は,昭和23年5月31日の衆議院司法委員会において次のように説明している。

これ(注:確定訴訟記録の公開の制度)は五十三條であります。何人も被告事件の終結後、原則として訴訟記録を閲覽できるものといたしたのであります。これは裁判の公正を担保する趣旨に基くものであります。

なお,この答弁が行われた昭和23年当時,衆議院で法務関係を所管していた常任委員会は司法委員会であり,法務委員会への改称は法務府の設置(昭和24年)以降である。
保管機関の帰属をめぐる議論は,この閲覧制度を実際にどの官署で担うかという問題と表裏の関係にあった。

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出典・参考資料

1 法令

  • 刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)53条(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
  • 刑事確定訴訟記録法(昭和62年6月2日法律第64号,昭和63年1月1日施行)2条・附則(e-Gov法令検索,日本法令索引で法令番号・施行日を確認)
  • 裁判所構成法(明治23年法律第6号)6条(日本法令索引,条文を確認。昭和22年5月3日の裁判所法施行により廃止)
  • 民刑訴訟記録保存規程(大正7年6月3日司法省法務局庶第7号訓令)

2 国会答弁(国立国会図書館・国会会議録検索システムで発言者・役職・会議名・年月日・発言内容を確認)

  • 衆議院法務委員会(昭和46年9月3日)辻辰三郎法務省刑事局長答弁
  • 衆議院法務委員会(昭和60年4月10日)筧榮一法務省刑事局長答弁
  • 衆議院法務委員会(昭和62年5月26日)吉丸眞最高裁判所事務総局刑事局長答弁
  • 衆議院司法委員会(昭和23年5月31日)木内曽益検務長官答弁

3 ウェブ資料

  • 国会会議録検索システム(国立国会図書館) https://kokkai.ndl.go.jp/
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/
  • 日本法令索引(国立国会図書館) https://hourei.ndl.go.jp/
  • 法務省「検察庁の沿革と組織」 https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji04.html