弁護士の自殺者数の推移(平成18年以降)


目次
第1 弁護士の自殺者数の推移
第2 健康習慣等
第3 メンタルヘルス不調になりそうなとき,なったときの対処法
1 弁護士がメンタルヘルス不調になる状況
2 メンタルヘルス不調になったときの心がけ
3 具体的な対処法
第4 過労死及び過労自殺に関する厚労省の基本的な考え方
1 過労死に関する厚労省の基本的な考え方
2 過労自殺に関する厚労省の基本的な考え方
第5 参考になる外部記事
第6 関連記事その他

第1 弁護士の自殺者数の推移
1 警察庁HPの「統計」のうち,「自殺者数」に掲載されている警察庁生活安全局地域課の資料によれば,弁護士の自殺者数の推移は以下のとおりです。
(令和時代)
・ 令和 5年:10人(うち,女性1人)(令和6年3月29日付の「令和 5年中における自殺の状況」末尾31頁)
・ 令和 4年: 9人(うち,女性2人)(令和5年3月14日付の「令和 4年中における自殺の状況」末尾35頁)
・ 令和 3年: 8人(うち,女性0人)(令和4年3月15日付の「令和 3年中における自殺の状況」末尾37頁)
・ 令和 2年: 8人(うち,女性1人)(令和3年3月16日付の「令和 2年中における自殺の状況」末尾35頁)
・ 令和 元年: 9人(うち,女性0人)(令和2年3月17日付の「令和 元年中における自殺の状況」末尾35頁)
(平成時代)
・ 平成30年: 7人(うち,女性1人)(平成31年3月28日付の「平成30年中における自殺の状況」末尾36頁)
・ 平成29年: 8人(うち,女性0人)(平成30年3月16日付の「平成29年中における自殺の状況」末尾37頁)
・ 平成28年:10人(うち,女性1人)(平成29年3月23日付の「平成28年中における自殺の状況 」末尾37頁)
・ 平成27年: 7人(うち,女性0人)(平成28年3月18日付の「平成27年中における自殺の概要」末尾17頁)
・ 平成26年: 9人(うち,女性0人)(平成27年3月12日付の「平成26年中における自殺の概要」末尾17頁)
・ 平成25年: 8人(うち,女性0人)(平成26年3月13日付の「平成25年中における自殺の概要」末尾17頁)
・ 平成24年:13人(うち,女性4人)(平成25年3月付の「平成24年中における自殺の概要資料」資料2末尾17頁)
・ 平成23年: 8人(うち,女性1人)(平成24年3月付の「平成23年中における自殺の概要資料」資料2末尾17頁)
・ 平成22年:13人(うち,女性0人)(平成23年3月付の「平成22年中における自殺の概要資料」末尾11頁)
・ 平成21年:10人(うち,女性3人)(平成22年5月付の「平成21年中における自殺の概要資料」末尾11頁)
・ 平成20年: 8人(うち,女性1人)(平成21年5月付の,「平成20年中における自殺の概要資料」末尾11頁)
・ 平成19年: 9人(うち,女性0人)(平成20年6月付の,「平成19年中における自殺の概要資料」末尾8頁)
・ 平成18年:13人(うち,女性0人)(平成19年6月付の,「平成18年中における自殺の概要資料」6頁)
→ 「弁護士等」の人数です。
2 警察庁の統計では,職業別自殺者数の「専門・技術職」の内訳として,「教員」,「医療・保健従事者」,「芸能人・プロスポーツ選手」,「弁護士」,「その他の専門・技術職」となっていて,「専門・技術職」の中でも弁護士だけが別に記載されています。
3 刑裁サイ太のゴ3ネタブログ「弁護士の自殺」(2015年10月30日付)が載っています。


第2 健康習慣等
    自由と正義2012年8月号の「メンタルヘルス問題について 国内一般企業における現状、取り組みと弁護士業界への示唆」には以下の記載があります(自由と正義2012年8月号35頁。改行を追加しています。)。
     メンタルヘルスの話題になると、ストレスにどう対処するかが話題になりますが、産業医の立場から申し上げると、それ以前に基本的な健康習慣を、仕事の状況に合わせて1つでも毎日実践することが大事です。
     健康習慣とは、①週平均7時間睡眠をとる、②寝る前にお風呂で湯船につかる、③栄養のバランスを考えて食べる(単品でなく定食を)、④1日3食とる、⑤食事で1口30回かむ、⑥タバコを吸わない、⑦積極的に運動をする(ストレッチ体操やラジオ体操でも可)、⑧お酒を飲まない(もしくは週2日休肝日をつくる)になります。
     その他としては、⑨気になる事は紙に書くか、誰かに相談する、⑩仕事と無関係な友人をつくる、⑪趣味を持つ(但し、コンピュータやネットはダメ)、⑫仕事とプライベートをしっかり区切る、です。
    優先順位は、1に睡眠、2に食事です。仕事が多忙な割には体調管理をしている方は、週1日は朝寝坊や昼寝をして、平日の睡眠不足を解消しています。
    2011年第17回弁護士業務改革シンポジウムの「弁護士のワークライフバランス」分科会の調査結果でも、「弁護士業務を行う上でストレスをためないように工夫していること」として、男女の数値を合わせた合計で第1位が「睡眠をとる」、第2位が「休日をしっかり取る」、第3位が「相談できる人を持つ」であり、弁誰士の方々も有効なストレス対策を経験的に体得されているようです。
   同じ調査結果の中で「個人的な問題を相談する相手」として、第1位が「配偶者・パートナー」、第2位が「同業者」、第3位が「同業者以外の友人」でした。


第3 メンタルヘルス不調になりそうなとき,なったときの対処法
・ 月刊大阪弁護士会2022年9月号に,メンタルヘルス不調になりそうなとき,なったときの対処法が載っていますところ,項目を抜粋すると以下のとおりです。
1 弁護士がメンタルヘルス不調になる状況
(1) キャパシティを超える業務があり,処理が遅滞している。
(2) 困難な事案や依頼者に対処できず,強いストレスを抱えている。
(3) 事務所の人間関係がよくない,パワハラなど事務所の環境に問題がある。
(4) 収入が上がらない。
(5) ワークライフバランス,または,いわゆる営業活動と弁護士業務とのバランスが崩れている。
(6) 近しい人との不和,離別があった。
(7) 健康上の問題を抱えている。


2 メンタルヘルス不調になったときの心がけ
(1) 「あるがまま」を受け入れる。
(2) 「自分の能力やスキルを高めなければならない」という価値観を一旦やめてみる。
(3) 自分一人でできること,考えられることは限られていることを知る。
(4) その代わり,その時点で自分ができる範囲のことは熱心にやる。
(5) 過去のことを後悔しても仕方がない,未来のことを不安がっても仕方がない。
(6) パーフェクトな人間もいないし,正解もない。
(7) 同時に2つのことはできない。
(8) できない約束はしない。
(9) 以前にした約束を守ることを大原則にする。
(10) 嘘は絶対につかない。



3 具体的な対処法
(1) キャパシティを越えた,超えそうだ,というときは,仕事量を減らす。
(2) やらなければならないことを紙に書き出す。
(3) やるべきことを具体的なアクションに落とし込んでいく。
(4) 裁判経過報告書を送ることを習慣づける。
(5) 準備書面など一気に書き上げようとしない。
(6) 依頼者に対して,できない約束をしない。
(7) 常に原理原則に立って考える。
(8) 期限をうまく使う。
(9) 事件途中で,うまくいかないことが分かるとき,何が問題となっているか依頼者に説明する。
(10) 会って話ができなければ,せめてメールか手紙を書いて送る。
(11) 会って話をすれば,うまくいくことも多い。
(12) 難しい依頼者と応対しないといけないときは,応援を頼む。
(13) 困ったとき,先輩,同期,後輩に相談する。
(14) 誰にも相談できないなら,自分に相談する。
(15) 依頼者からの電話が最も怖い。
(16) 嘘は絶対につかない。
(17) 市民窓口の「連絡書」,懲戒請求書,紛議調停申立書が届くのは大きなチャンス。
(18) 延々と悩み続けない。
(19) アンガーマネジメントは人のためではなく,自分のため。



第4 過労死及び過労自殺に関する厚労省の基本的な考え方
1 過労死に関する厚労省の基本的な考え方

(1) 厚労省HPの「脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました」に載ってある,血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(令和3年9月14日付の厚生労働省労働基準局長の文書)の「第1 基本的な考え方」には以下の記載があります。
    脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)は、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が、長い年月の生活の営みの中で徐々に形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するものである。
    しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因する疾病として取り扱う。
    このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷及び長期間にわたる疲労の蓄積を考慮する。
    これらの業務による過重負荷の判断に当たっては、労働時間の長さ等で表される業務量や、業務内容、作業環境等を具体的かつ客観的に把握し、総合的に判断する必要がある。
(2) 令和3年9月14日限りで廃止された「脳血管疾患及び虚血性心疾患(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日付の厚生労働省労働基準局長の文書)に関する解説文書である,脳・心臓疾患の労災認定実務要領(平成15年3月の,厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室)を掲載しています。


2 過労自殺に関する厚労省の基本的な考え方
(1)ア 令和5年9月1日,厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し,厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛てに通知し,平成23年12月26日付通達を廃止しました(厚生労働省HPの「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」参照)。
イ 心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日付の厚生労働省労働基準局長の通達)(平成11年9月14日付の「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」に代わるもの)の「第3 認定要件に関する基本的な考え方」には以下の記載がありました。
    対象疾病の発病に至る原因の考え方は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、心理的負荷が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性理論」に依拠している。
    このため、心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては、対象疾病の発病の有無、発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があることに加え、当該対象疾病の発病の前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることを掲げている。
    この場合の強い心理的負荷とは、精神障害を発病した労働者がその出来事及び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるものであり、「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいう。
    さらに、これらの要件が認められた場合であっても、明らかに業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したと認められる場合には、業務起因性が否定されるため、認定要件を上記第2のとおり定めた。
(2) 以下の部分からなる精神障害の労災認定実務要領(令和2年6月の厚生労働省労働基準局職業病認定対策室の文書)を掲載しています。
・ 認定基準の解説及び調査要領
・ 調査・取りまとめ様式及びその記入例(医学的見解を含む)
・ ICD-10診断ガイドラインに示される精神障害,関係通達等及び質疑応答集
・ 精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書(平成11年7月29日付)

第5 参考になる外部記事等
1 二弁フロンティア2015年6月号「過労死の現状と防止のための対策」に,弁護士の死亡状況が載っています。
2 東弁リブラ2021年3月号の「特集:弁護士業務の落とし穴」には以下の記事が含まれています。
総論:一人で悩まないで!  鍛冶良明
Part1:非弁提携に陥らないための転ばぬ先の杖  柴垣明彦
Part2:弁護士業務に関するアウトソーシングの限界と注意点  石本哲敏
Part3:報酬契約の落とし穴  矢野亜紀子
Part4:相続に関する利益相反等  矢野亜紀子
Part5:行き過ぎた弁護活動等  矢野亜紀子
コラム:「非弁行為」と「非弁提携」の関係
コラム:営業電話や飛び込み営業の見極め方
3(1) 人事院HPの「ハラスメント防止について」に,「職員は、ハラスメントをしてはならない。」と題するリーフレットが載っています。
(2) 厚生労働省HPに「自殺対策」が載っています。
4(1) 労務事情2022年7月15日号に「〈Q&A〉労災認定基準の改正と実務における必要知識」が載っています。
(2) 労務事情2022年10月15日号に「〈Q&A〉従業員のメンタルヘルスに関わる初期対応」が載っています。
5 判例タイムズ1465号(2019年12月号)に「損害賠償請求訴訟の最先端を考える会 精神科における損害賠償請求に係る諸問題」が載っています。



第6 関連記事その他
1(1) 交通事故により受傷した被害者が自殺した場合において,その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとしても,右事故の態様が加害者の一方的過失によるものであって被害者に大きな精神的衝撃を与え,その衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと,その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって,被害者が,災害神経症状態に陥り,その状態から抜け出せないままうつ病になり,その改善をみないまま自殺に至ったなどといった事実関係の下では,右事故と被害者の自殺との間に相当因果関係があります(最高裁平成5年9月9日判決)。
(2) 最高裁平成21年12月7日決定は,気管支ぜん息の重積発作により入院しこん睡状態にあった患者から,気道確保のため挿入されていた気管内チューブを抜管した医師の行為が,法律上許容される治療中止に当たらないとされた事例です。
(3) 大分地裁令和5年4月21日判決(裁判長は49期の石村智)は,大分県内の法律事務所で勤務していた32歳の女性弁護士が平成30年に自殺したのは代表の清源善二郎元弁護士による意に反した性的行為が原因であるとして,両親が元弁護士と事務所に約1億7千万円の損害賠償を求めた訴訟において,元弁護士と弁護士法人に対して約1億2800万円の支払を命じ(OBSオンラインの「女性弁護士自殺は「性的加害」 雇用主の法律事務所元代表らに1億2800万円賠償命令 大分」参照),福岡高裁令和6年1月25日判決(裁判長は42期の高瀬順久)は元弁護士らの控訴を棄却しました(産経新聞HPの「法律事務所代表から性被害で女性弁護士自殺、1億円超賠償支持 福岡高裁」参照)。
2 平成22年12月に自死遺族支援弁護団が結成されています(同弁護団HPの「弁護団紹介」参照)。
3 以下の記事も参照して下さい。
・ 裁判官の死亡退官
・ 叙位の対象となった裁判官
・ 裁判所職員の病気休職
・ 業務が原因で心の病を発症した場合における,民間労働者と司法修習生の比較
・ 民間労働者と司法修習生との比較


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