第1 日弁連の意思決定機関
日弁連の理事会と常務理事会は,構成員と審議する事項が異なる会議体である。
常務理事は理事の中から互選されるため,常務理事39人を理事75人へ加算するものではない。
| 比較項目 | 理事会 | 常務理事会 |
|---|---|---|
| 構成員 | 会長・副会長・理事 | 会長・副会長・常務理事 |
| 人数の目安 | 定数に基づけば91人(1+15+75) | 常務理事39人の表示に基づけば55人(1+15+39) |
| 主な審議事項 | 運営上の重要事項,総会・代議員会の議案,規則の制定・変更など | 運営事項,各弁護士会の会則承認,登録・資格審査・懲戒,理事会からの委任事項など |
| 根拠 | 会則第58条・第59条 | 会則第59条の2・第59条の3 |
上の人数は欠員や個々の会議の出席人数を示すものではない。
構成員の範囲を比べるための計算であり,理事の定数と会議の出席者数は区別する必要がある。
出典:日弁連会則(https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/rules/kaisoku/kaisoku_no_1.pdf),日弁連「日弁連の機構・財政」の機構図(https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/organization/mechanism.html)。
1 法的な位置付け
弁護士法45条は,全国の弁護士会が日本弁護士連合会を設立するものとし,同法46条は,日弁連の会則に記載すべき事項を定めている。日弁連は弁護士法に基づく自治組織であり,日弁連会則は,総会,代議員会,理事会及び常務理事会を会務に関する意思決定機関として設けている。
総会は会則34条の事項を,代議員会は会則43条の事項を,理事会は会則59条の事項を,常務理事会は会則59条の3の事項をそれぞれ審議する。
このため,委員会又は本部による案の作成,執行部による議案提出,理事会又は常務理事会の議決,総会又は代議員会の議決及び外部機関による最終決定は,意思形成の異なる段階として区別する必要がある。
2 理事会と常務理事会はどう違うのか
理事会は,日弁連の運営に関する重要事項,総会及び代議員会に付する議案並びに規則の制定又は変更等を審議する。これに対し,常務理事会は,登録,資格審査,懲戒その他の日常的かつ大量に処理を要する事項を含む会務を審議し,理事会が委任した事項も取り扱う。
したがって,常務理事会は単なる理事会の準備機関ではなく,会則59条の3に基づいて固有の審議事項を処理する意思決定機関である。ただし,常務理事会の審議事項と理事会の「日弁連の運営に関する重要事項」とが接する場合には,事項の重要性,理事会からの委任並びに総会又は代議員会による議決の要否を個別に確認する必要がある。
第2 理事会
1 構成
日弁連会則56条1項は,会長1人,副会長15人,理事75人及び監事5人を役員として定めている。同会則58条1項によれば,理事会は会長,副会長及び理事によって構成されるため,定数どおりであれば構成員は合計91人である。
監事は,会則第60条により日弁連の財務を監査する役員であり,会則第58条第1項が列挙する理事会の構成員には含まれない。
理事の選任方法,地域代表性及び男女共同参画に関する定めについては,日弁連の理事を参照されたい。
令和8年度に就任した理事の氏名・所属弁護士会は,令和8年度の日弁連理事一覧(AI作成)を参照されたい。
同一覧は就任時の資料に基づくものであり,年度途中の交代を反映した在任者一覧とは区別している。
2 理事会では何を決めるのか
日弁連会則59条が定める理事会の審議事項は,以下のとおりである。
① 日弁連の運営に関する重要事項
② 総会及び代議員会に付する議案
③ 規則の制定又は変更
④ 弁護士会の総会の決議の取消し
⑤ 名誉会員に関する事項
⑥ 総会及び代議員会から委任された事項
⑦ その他会長が必要と認める事項
会則の変更には特則があり,会則99条1項により,理事会が出席者の3分の2以上の多数で総会に議案を提出し,総会において出席弁護士会及び出席弁護士の各3分の2以上の多数による議決を得る必要がある。理事会の議決だけで会則変更が完了するわけではない。
3 議決と特別利害関係
日弁連会則第58条第3項によれば,理事会の議決は,法律又は会則に別段の定めがある場合を除き,出席者の過半数で決し,可否同数のときは会長が決する。
また,日弁連議事規程第50条は,議案について特別の利害関係がある理事は,その議案の審査及び議決に加わることができないと定めている。
4 理事会の日程と通信システムによる出席
日弁連議事規程第42条は,理事会を会長が招集し,原則として会日の10日前までに通知を発すること,通知に会議の日時・場所・目的を示すことを定めている。
緊急を要する場合は通知期間を短縮できる。
同条に「毎月所定の日に開催する」という定めはない。
本記事で参照した日弁連会員用ホームページの2025年度理事会報告一覧には,令和7年4月から令和8年3月までの第1回から第12回までの報告が掲載され,いずれも連続する2日間の日付が記載されている。
これは当該年度の開催実績を示すものであり,その後の会議の日程を示すものではない。
今後の具体的な開催日は,当該会議の開催通知や日弁連の会員向け案内で確認する必要がある。
過年度の報告に記載された日付を,今後の開催予定日として読み替えることはできない。
日弁連会則第58条第2項及び日弁連議事規程第43条の2により,理事は,映像と音声を交換して相互に認識しながら通話できる通信システムを利用して出席できる。
出席場所は弁護士会,その支部,弁護士会連合会又は会長が許可した場所であり,出席及びその方法についてあらかじめ会長の許可を要する。
機器の障害等によって相互の認識が困難になった間は審査及び議決に加わることができない。
この仕組みは,令和3年3月5日の臨時総会における会則及び議事規程の改正により整備された。現行規程上の用語は「テレビ会議システム」ではなく「通信システム」である。
5 理事会の議事録は公開されるのか
日弁連会員用ホームページの「理事会報告」は,議事録が完成するまでの利用を予定した速報用メモであり,討議の順序は不同で,要点をまとめたものであると明記されている。したがって,理事会報告は会務の動きを早期に把握する資料として有用であるが,正式な議事録と同一視することはできない。
日弁連議事規程第59条第3項は,会長が理事会の議事録又はその概要を公開することができると定めている。
同条第4項は,議事録又はその概要の閲覧・謄写を求められた場合に,会長が許可することができると定めている。
これらは公開や閲覧・謄写を可能にする規定であり,全ての議事録の常時ウェブ公開を義務付ける規定ではない。
議事録の分量は議案数及び審議内容によって変わるため,根拠資料を伴わない一律の平均頁数を示すことは適切でない。
第3 常務理事会
1 構成と常務理事の選任
日弁連会則第59条の2第1項によれば,常務理事会は会長,副会長及び常務理事によって構成される。
常務理事は,同会則第61条の4第3項により理事が互選する。
したがって,常務理事会のために理事とは別枠の役員を選ぶ仕組みではない。
日弁連の機構・財政には,令和8年10月16日の閲覧時点で常務理事39人と掲載されている。
この人数を前提にすれば,会長1人及び副会長15人と合わせた常務理事会の構成員は合計55人である。
2 審議事項
日弁連会則59条の3が定める常務理事会の審議事項は,以下のとおりである。
① 日弁連の運営に関する事項
② 弁護士会の会則の承認及び弁護士会連合会の設立の承認
③ 弁護士会に対する諮問及び協議に関する事項
④ 弁護士名簿の登録,登録換え及び登録取消し
⑤ 弁護士の資格審査に関する事項
⑥ 弁護士及び弁護士法人の懲戒に関する事項
⑦ 外国法事務弁護士となる資格を有する者の弁護士業務を行う承認の取消しについての意見具申に関する事項
⑧ 外国法事務弁護士となる資格を有する者の承認及び承認の取消し並びに特定外国法の指定及び指定の取消しについての意見具申に関する事項
⑨ 外国法事務弁護士名簿の登録,登録換え及び登録取消し
⑩ 外国法事務弁護士及び外国法事務弁護士法人の懲戒に関する事項
⑩の2 共同法人の懲戒に関する事項
⑪ 弁護士会が行う司法修習生の修習に関する事項
⑫ 最高裁判所に対する報告及び官公署の調査に関する事項
⑬ 理事会から委任された事項
⑭ その他会長が必要と認める事項
3 議決と通信システムによる出席
日弁連会則59条の2第3項によれば,常務理事会の議事は出席者の過半数で決し,可否同数のときは会長が決する。日弁連議事規程68条により,議決について特別の利害関係を有する常務理事は,その議決に加わることができない。
日弁連会則59条の2第2項及び日弁連議事規程61条の2は,常務理事会についても通信システムによる出席を認めている。出席場所,会長の承認及び通信障害時の取扱いは,理事会の場合と同様である。
4 実際の運営と担当主査理事への委任
日本弁護士連合会「令和7年度会務報告書」資料印字29頁~33頁(PDF実頁34頁~38頁)によれば,令和7年度には常務理事会が11回開催された。同報告書には,弁護士会の会則の制定又は変更に関する事項958件及び弁護士名簿の登録に関する事項204件等が掲載されており,常務理事会が多数の個別事項を継続的に処理していることが分かる。
同会務報告書によれば,常務理事会は,会則変更の認可,登録,資格審査,懲戒その他の一定事項を担当主査理事に委任し,必要な案件は常務理事会で改めて審議する運用を採っている。このため,常務理事会の実務を理解するには,会則上の審議権限だけでなく,担当主査理事への委任と常務理事会への再付議という事務処理の層も区別する必要がある。
第4 議事手続と資料の読み分け
1 適用される現行規程
理事会の議事手続は日弁連議事規程42条から59条の2までに,常務理事会の議事手続は同規程60条から78条までに定められている。日弁連の会規は改正されることがあるため,過去の日付を付したPDFを固定的に参照するのではなく,日弁連の会則・会規等から現行版を確認する必要がある。
2 会則,会務報告書,理事会報告及び議事録の違い
会則及び議事規程は,機関の構成,権限及び手続を確認するための一次資料である。これに対し,会務報告書は年度内の開催状況及び処理事項を,理事会報告は議事録完成前の要点を,議事録は正式な議事経過をそれぞれ確認するための資料であり,証明できる範囲が異なる。
委員会又は本部の資料は議案形成の経緯を確認する資料となり得るが,その記載だけから理事会,常務理事会,総会又は代議員会の議決があったと推定してはならない。日弁連の意思決定を確認するときは,提案主体,審議機関,議決の有無及び外部機関による決定の有無を順に確かめる必要がある。
理事会の決定内容を調べるときは,対象となる会議の日付と議案名を特定し,資料が理事会報告,議事録又は議事録の概要のいずれであるかを確認する。
議事録又はその概要の閲覧・謄写を求める場合は,議事規程第59条第4項に基づく許可の取扱いを日弁連に確認する。
規則の制定・変更を調べる場合は,日弁連の会則・会規等から現行本文と制定改廃の公示を照合する。
第5 関連記事
① 日弁連の組織
② 日弁連の理事
④ 日弁連の代議員会
⑤ 日弁連会則
⑦ 日弁連の総会,代議員会,人権擁護大会,弁護士業務改革シンポジウム,司法シンポジウム及び国選弁護シンポジウム
第6 出典・参考資料
1 法令・会規
2 会務報告・ウェブ資料
③ 日本弁護士連合会「令和7年度会務報告書」資料印字29頁~33頁(PDF実頁34頁~38頁)
④ 日本弁護士連合会「2025年度理事会報告」及び「2026年度理事会報告」(日弁連会員用ホームページ)