証人尋問及び当事者尋問


目次
1 尋問前の準備等
2 尋問当日の流れ
3 尋問の雰囲気
4 文書等を利用した尋問
4の2 誘導質問
5 付き添い及び遮へい
6 書類に基づく陳述はできないこと
7 公開の法廷で行われること
7の2 証人尋問の際のマスク着用
8 裁判所HPでの説明
9 岡口基一裁判官の説明
10 反対尋問の「べからず」集
11 関連記事その他


1 尋問前の準備等

(1) 訴訟手続を進めていく中で証人尋問又は依頼者本人の当事者尋問が必要になった場合,証人の方又は依頼者本人に必ず裁判所の法廷に来てもらう必要があります。
(2) 「当事者は,主張及び立証を尽くすため,あらかじめ,証人その他の証拠について事実関係を詳細に調査しなければならない。」(民事訴訟規則85条)とされています。
   そのため,依頼した弁護士が証人及び依頼者本人との間で尋問に関する打ち合わせをすることは,民事訴訟規則が当然に予定していることです。
(3) 尋問のための事情聴取の際は,有利不利を問わず,関係する事情を一通り話して下さい。
    依頼した弁護士が十分に当事者又は証人の言い分を把握していない場合,当事者又は証人の法廷での証言において,言い間違い,記憶違い等があった場合,依頼者に不利な事実が法廷で初めて明らかになる危険を排除できないことから,言い間違い等を訂正するための質問ができなくなることがあります。
(4) 証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人の口頭による意見の陳述において使用する予定の文書は,証人等の陳述の信用性を争うための証拠(=弾劾証拠)として使用するものを除き,当該尋問又は意見の陳述を開始する時の相当期間前までに提出する必要があります(民事訴訟規則102条)。
(5)ア 証人尋問又は当事者尋問を申請する場合,尋問に要する見込みの時間等を記載した証拠申出書(民事訴訟規則106条・127条)と一緒に,できる限り個別的かつ具体的に記載した尋問事項書を裁判所に提出します(民事訴訟規則107条・127条)。
    相手方に自宅を知られたくない場合,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階 林弘法律事務所内」といった感じで,勤務先を住所として記載すればいいです。
イ 証人及び当事者本人の尋問の申し出は,できる限り一括してしなければなりません(民事訴訟規則100条)。
ウ 証拠申出書,証拠説明書等の書式が日弁連HPの「裁判文
書」に載っています。
(6)ア 証人尋問又は当事者尋問における主尋問及び反対尋問の時間(「尋問予定時間」といいます。)は,裁判所が,陳述書,尋問事項書等を踏まえた上で,当事者と協議しながら決定します。
イ 証人又は当事者を尋問する旨の決定があったときは,尋問の申出をした当事者は,証人又は当事者本人を期日に出頭させるように努める必要があります(民事訴訟規則109条・127条)。

    また,証人又は当事者本人は,期日に出頭することができない事由が生じたときは,直ちに,その事由を明らかにして裁判所に届け出る必要があります(民事訴訟規則110条・127条)。
(7) 尋問当日の服装に特に決まりはありませんが,裁判所という公の場で供述する以上,カジュアルな服装は避けて,その場にふさわしい清潔感のある服装が無難です。
    例えば,会社員の場合はスーツ姿,学生の場合は制服が無難ですが,ネクタイまではしなくてもいい気がします。
(8) 最低限,尋問当日に持参すべきものとしては,①印鑑(認め印でいいですが,シャチハタは避けた方が無難です。),②依頼した弁護士からもらった尋問に関するメモ書き等(尋問直前,依頼した弁護士の事務所で最後の確認をするのが通常と思います。)となります。


2 尋問当日の流れ
(1)ア 尋問当日は,トイレをすませた上で,期日が開始する10分前ぐらいまでに法廷に入った方がいいです。
   そうすれば,期日開始前に,宣誓書に当事者又は証人として署名押印をしたり,証人等出頭カードに住所,氏名,職業及び年齢を記入したりすることができ,時間に余裕を持てます。
イ 印鑑を忘れた場合,押印の代わりに指印(指に朱肉を付けて指形(ゆびがた)を押すこと。)を押すことになります。

(2) 尋問を開始する際,裁判長が当事者又は証人に対し,人定質問として,証人等出頭カードを見ながら,「住所,氏名,職業及び年齢は証人等出頭カードに記載したとおりですね。」と確認しますから,「はい。間違いありません。」と答えます。
   個人情報保護のため,証人等出頭カードに記載した住所,氏名,職業及び年齢が朗読されることはまずありません。
(3) 人定質問の直後に,起立して宣誓書を朗読します。
   詳細については,後述しています。
(4) 宣誓書朗読が終わると,裁判官から虚偽の陳述をした場合の制裁について告知されます。
   証人尋問の場合は偽証罪を,当事者尋問の場合は過料の制裁を告知されます。
(5)ア 偽証罪等の告知が終わると,事前に決められている尋問予定時間を目安に,当事者又は証人が着席したまま証言します。
   通常は,依頼した弁護士(主尋問),相手の弁護士(反対尋問),裁判官(補充尋問)という順番で尋問が行われます(民事訴訟規則113条1項)。
イ 当事者又は証人の陳述書を書証として提出している場合,主尋問の冒頭において,弁護士が陳述書の署名押印部分を示した上で,「これはあなたが署名押印したものということで間違いありませんか?」などと確認することで,陳述書の成立の真正を立証することが多いです。
(6) 尋問が終わると,当事者であれば当事者席に座ることができますし,証人であればそのまま帰るか,傍聴席で裁判の続きを傍聴することができます。
     
3 尋問の雰囲気
   証人尋問及び当事者尋問の大体の雰囲気としては,テレビドラマのとおりです。
   ただし,尋問者の核心を突いた質問に対し,証人又は当事者本人が一方的に自白を始めるようなことは絶対にあり得ません。
   
4 文書等を利用した尋問
(1) 当事者は,裁判長の許可を得て,文書,図面,写真,模型,装置その他の適当な物件を利用して証人又は当事者に質問することができます(民事訴訟規則116条1項・127条)。
    この場合,依頼を受けた弁護士又は相手方の弁護士が,「甲第1号証の3頁目を示します。」とか,「原告準備書面(1)の上から3行目以下を示します。」などと述べることで,弁護士が証人又は当事者に対してどの書面を示しているかを明確にしつつ質問します。
(2) 刑事裁判の場合,書面等を示すことができるのは以下の三つの場合に限定されていますものの,民事裁判の場合,特に限定されていません。
① 書面又は物に関し,その成立,同一性その他これに準ずる事項について尋問する場合(刑事訴訟規則199条の10)
② 証人の記憶を喚起するために示す場合(刑事訴訟規則199条の11)
③ 供述を明確にするために図面,写真,模型,装置等を示す場合(刑事訴訟規則199条の12)


4の2 誘導質問
(1)  誘導質問(尋問者が期待する答えを示唆・暗示するような質問)は禁止されています(民事訴訟規則115条2項2号・127条本文)。
   そのため,例えば,依頼した弁護士に対し,主尋問において,「はい」とだけ答えれば済むような質問(「クローズドクエスチョン」といいます。)だけをしてもらうことはできません。
(2) 以下の事項については,例外的に主尋問でも誘導質問できます(刑事訴訟規則199条の3第3項1号ないし3号参照)。
① 証人又は当事者の身分,経歴,交友関係等で,実質的な尋問に入るに先だって明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。
② 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき。
③ 証人又は当事者の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき。
(3) 訴訟の心得98頁には以下の記載があります。
    主たる争点となっているような事項や,目的・意図などの主観的な事項,客観的に1つに定まらない事項(◯◯会社の社員かどうかは客観的に1つに定める),感情などデジタル的ではなくアナログ的な事項(これは元々イエス・ノーで回答できるような代物ではない)などについては,イエス・ノーで回答を求めるのは適切でなく,誘導になりうるのである。


5 付き添い及び遮へい
(1) 証人又は当事者の年齢又は心身の状態その他の事情を考慮し,証人又は当事者が尋問を受ける場合に著しく不安又は緊張を覚えるおそれがある場合,証人尋問又は当事者尋問の際,裁判長の許可があれば,適当な人を付き添わせることができます(民事訴訟法203条の2・210条,民事訴訟規則122条の2・127条)。
(2) 事案の性質,証人の年齢又は心身の状態,証人と当事者本人等との関係その他の事情により,証人又は当事者が当事者本人等の面前で陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合,証人尋問又は当事者尋問の際,裁判長の許可があれば,遮蔽の措置をとってもらえます(民事訴訟法203条の3・210条,民事訴訟規則122条の3・127条)。

6 書類に基づく陳述はできないこと
(1) 裁判所で尋問を受ける場合,裁判長の許可がない限り,書類に基づいて陳述することはできません(民事訴訟法203条・210条)。
(2) 書類に基づく陳述が原則として禁止されているのは,証人があらかじめ尋問事項に基づいて用意をし,メモを作成してくると,メモの作成状況が明らかでなく,他人の影響を受けやすく,自由な記憶に基づく真相を吐露しにくくなるし,一定の目的に沿う証言のみをして偽証がしやすくなるためとされています。
   また,書類に基づく陳述が例外的に許容されているのは,証人が,計算事項について証言する場合,又は相当長期間にわたる事件の経過を陳述する場合等,単に記憶に基づいて証言することが困難であり,しかも偽証するおそれもないと認められるときは,書類に基づく陳述を許容する方が真実発見に資すると考えられているからです。

7 公開の法廷で行われること
(1) 証人尋問及び当事者尋問は,公開の法廷における口頭弁論期日に行われます(憲法82条1項)。
   憲法82条1項は,裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めていますところ,その趣旨は,裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し,ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにあります(最高裁大法廷平成元年3月8日判決)。
(2) 口頭弁論期日を公開しなかった場合,最高裁判所に対する絶対的上告理由となります(民事訴訟法312条2項5号)。
   ただし,口頭弁論の公開の有無は口頭弁論調書の形式的記載事項であり(民事訴訟規則66条1項6号),口頭弁論調書によってのみ証明できる事柄です(民事訴訟法160条3項)。


7の2 証人尋問の際のマスク着用
・ 大阪弁護士会が作成した,「令和2年度司法事務協議会 協議結果要旨」30頁には,「証人尋問,被告人質問の際のマスク着用について」として以下の記載があります。
(大阪弁護士会の質問)
    証人尋問,被告人質問の際の飛沫感染防止対策として,マスク着用ではなく,フェイスシールドの着用や,証言台をアクリルパーテーションで囲うなどの措置をされたい。
    また,訴訟活動において弁護人からマスクを外すこととその代替措置の提案がなされた場合,その内容を十分検討した上適切に判断されたい。
(大阪弁護士会の質問の提出理由)
    新型コロナウイルスの飛沫感染防止のために,証人尋問や被告人質問の際,供述者にマスクを着用させたままこれを実施する事例が報告されている。しかしながら,マスクを着用した状態では,目から下がすべて覆われてしまい,供述者が供述する際の表情や感情が読み取れず,供述の信用性の判断に障害をきたす。これでは証拠の取調べにおいて極めて重要な直接主義の趣旨が没却されるものであり,相当でない。
    マスクでなくても,フェイスシールドやアクリルパーテーションなど,顔を覆い隠すことなく,飛沫感染を防止する方法があるため,これらの措置を積極的に取り入れられたい。
    また,弁護人の冒頭陳述や弁論,反対尋問の際など,表情も含めて裁判所に訴えかけることが必要な場合がある。この場合に,十分な距離をとったり,フェイスシールド等を着用するなどすれば,飛沫感染を予防することは可能である。そこで,裁判所におかれては,弁護人からマスクを外すこととその代替措置の提案がなされた場合は,その内容を十分検討した上で適切に判断されたい。
(大阪地裁の回答)
    証人尋問や被告人質問,あるいは弁護人の訴訟活動の際にいかなる感染防止措置を求めるかについては,ここの裁判体の訴訟運営上の問題であって,各裁判体においては,当事者と協議の上で適切に判断しているものと承知している。その際には,あくまでマスク着用による感染予防を基本としつつ,弁護人等の当事者から代替措置の御提案がある場合には,その理由なども踏まえて,代替措置の実効性や準備の用意さ,使用方法のほか,施設上の制約,あるいは法廷警察権ないし戒護権との関係,更には予定されている証言内容なども含めた審理内容などを考慮して,適切な判断に努めているものと承知している。

8 裁判所HPでの説明
    裁判所HPの「口頭弁論等」には以下の記載があります。
    証人は,原則として尋問を申し出た当事者が最初に尋問し,その後に相手方が尋問することになっています。裁判所は,通常は当事者が尋問を終えた後に尋問を行います。もっとも,裁判長は,必要があると考えたときは,いつでも質問することができます。証人等の尋問の順序,誘導尋問に対する制限その他の尋問のルールは民事訴訟法及び民事訴訟規則に定められていますが,一般的に言って,英米法に見られるような広範で厳格な証拠法則は,日本の制度には存在しません。


9 岡口基一裁判官の説明
   46期の岡口基一裁判官が著者となっている「裁判官!当職そこが知りたかったのです。-民事訴訟がはかどる本-」55頁及び56頁には以下の記載があります。
岡口   尋問で印象が変わることは少なくないですね。何で変わるかというと,じかに会って,お話を聞くから,人となりが見えてくるんですよね。
   それで,陳述書で抱いていたイメージと大分変わるんですよ。尋問でバレバレの嘘を言ったりすると,途端に今まで積み重ねてきたのも全部ダメになっちゃう。
   その人の人間性とか全部出ちゃうので,尋問って怖いですよ。むしろ裁判官は,そういうところを見ているんですね。なので,練習させておいたほうがいいかもしれません。
中村 そうですね。練習は絶対必要ですよね。私は修習中に裁判官から言われた「スーツをふだん着ていないような人がきっちり着てきたら,ちょっとうさんくさいと思いますね」というのが,すごく印象に残っているんですけど,そういうところはありますか?
岡口   自然体がいいですね,無理していない感じが。そこは信用性にかかわります。
中村 やっぱり尋問の時にも,つくり過ぎているなという印象はあまりよくないのかなと。
岡口 よくないですね。だから,練習し過ぎもよくないんですよ。
中村 すらすら出てき過ぎというのも。
岡口 そうなんですね。これは言わされているなと思っちゃうので。


10 反対尋問の「べからず」集
(1) 「民事反対尋問のスキル いつ,何を,どう聞くか?」37頁ないし87頁によれば,以下のとおりです。
① オープンな質問をしない。
② 「なぜ質問」をしない。
③ 「聞く順序を間違えるな」
④ ストレートに聞かない
⑤ 同意を求める質問をしない:「~ではないですか」質問
⑥ 同意を求める形の典型例:「普通ではないですか」
⑦ 深追いしない~引き際が肝心
⑧ 意見を聞かない,議論しない
⑨ 「仮定の質問」をしない
⑩ 不適当な言葉による質問
(2) 場合によっては,「べからず」集に載っている質問でも聞くべき場合があると思います。


11 関連記事その他
(1) 個人的には,陳述書と同趣旨のことを主尋問で話してもらうことを前提として,陳述書の文字数÷250字を1分に換算して,主尋問の予定時間を申請しています。
(2) 訴訟の心得100頁には以下の記載があります。
    「それからどうした」質問は,回答の選択肢の幅が広すぎるのである。
    しかし時系列順に聞いていくと,ついつい「それでどうなりました?」と聞くほかなくなるのである。その後に起きたイベント(上記では資金決済)を質問者から切り出さないからである。
    ここは逆に肝心な点を最初に聞いてしまい,そこから遡って聞いていくのがよい。
(3) 株式会社の代表取締役が尋問を受ける場合,当事者尋問に関する規定が準用されます(民事訴訟法211条本文,民事訴訟規則128条)。
(4) 刑事裁判の場合,証人又は被告人に示す書面等に証拠能力は必要でないという前提に立つと解されています(最高裁平成23年9月14日決定)し,被告人質問にも刑訴規則199条の10ないし199条の12が適用されると解されています(最高裁平成25年2月26日決定,及び当該決定に関する最高裁判所判例解説 刑事篇(平成25年度版)46頁参照)。
(5)  商取引に関する契約上の金員の支払を求める訴訟において,偽証等の不法行為があったため敗訴したとしても,それによって被る損害は,一般には財産上の損害だけであり,そのほかになお慰謝を要する精神上の損害もあわせて生じたといい得るためには,侵害された利益に対し,財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければなりません(最高裁昭和42年4月27日判決)。
(6)ア 判例タイムズ1340号(2011年4月1日号)に「効果的で無駄のない尋問とは何か」(東京地裁プラクティス委員会第二小委員会が寄稿したもの)が載っています。
イ 民事訴訟規則116条は「文書等の質問への利用」について定めていますところ,noteに「#コラム 民事訴訟における尋問時の文書等(書面)の提示・弾劾証拠・異議」が載っています。
(7) 以下の記事も参照して下さい。
・ 宣誓書及び宣誓拒絶
・ 尋問を受ける際の留意点
・ 裁判所が考えるところの,人証に基づく心証形成
・ 尋問の必要性等に関する東京高裁部総括の講演での発言
・ 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
・ 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
・ 民事事件記録一般の閲覧・謄写手続
・ 録音反訳方式による逐語調書
・ 訴訟費用
・ 陳述書作成の注意点
・ 陳述書の機能及び裁判官の心証形成
・ 陳述書の作成が違法となる場合に関する裁判例


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