民事事件の裁判文書に関する文書管理


目次
1 民事事件の受付及び分配
2 事件記録の編成
3 事件記録の閲覧
4 当事者の住所の秘匿希望に関する事務連絡
5 事件記録の貸出及び送付
6 和解調書正本の送達
6の2 「その余の請求を放棄する」の意味
7 事件終了後の事件記録の取扱い
8 保存期間が満了した事件記録の廃棄
9 事件記録の特別保存に関する国会答弁
10 契印に関する平成11年4月1日以降の取扱い
11 書面による準備手続における協議結果の記録化(調書の作成)の方法
12 その他民事訴訟法関係のメモ書き
13 関連記事その他

1 民事事件の受付及び分配
(1) 民事事件の裁判文書の作成は,民事部訟廷事務室事件係の受付から開始しますところ,同係の受付は以下のような流れとなります。
① 閲読
・ 受領した訴状等の書類について不備がある場合,受付日付の表示をする前に,提出者に書類を返却し,補正した後に書類を再提出するように指示してくることがあります。
② 受付日付の表示
・ 受付日付印を書類の第1頁の余白の見やすい場所に押します。
③ 帳簿への搭載
④ 符号及び番号の記載
・ 民事事件については,民事事件記録符号規程,行政事件記録符号規程,刑事事件記録符号規程,家庭事件記録符号規程等に基づき,事件番号を付けます。
・ 例えば,地方裁判所における民事通常訴訟事件の符号は「ワ」であり,簡易裁判所における民事通常訴訟事件の符号は「ハ」です。
⑤ 収入印紙の消印等
(2) 受付手続を終えた書類のうち事件簿に搭載した書類については,表紙を付し,必要な用紙を加えて,記録を編成します。
(3) 記録の編成を終えた場合(記録を編成しない書類にあっては,受付手続を終えた場合),裁判事務の分配の定めにしたが,速やかにこれを民事部に配布します。
   民事事件の分配の具体的方法は,下級裁判所事務処理規則6条に基づき,それぞれの裁判所の事務分配で定められています。
(4)ア 受付及び分配については,事件の受付及び分配に関する事務の取扱いについて(平成4年8月21日付の最高裁判所事務総長通達)(受付分配通達)で定められています。
イ 事件の符号については,「最高裁判所の事件記録符号規程」を参照してください。
(5) 閉庁時間中に裁判所の夜間郵便受け等に投かんされた書類の取扱いについて(平成27年9月1日付の最高裁判所事務総局総務局第一課長,民事局第一課長,刑事局第一課長,行政局第一課長,家庭局第一課長事務連絡)を掲載しています。

2 事件記録の編成
(1) 事件処理は民事部の裁判官の下で行われますところ,その過程で代理人弁護士等から準備書面,書証等の書類が提出され,裁判所では口頭弁論調書,判決書等の書類が作成されます。
   これらの書類は,当該事件を担当する裁判所書記官によって編成され,事件記録としてまとめられてきます。
(2)ア 民事事件記録の具体的な編成方法は,民事訴訟記録の編成について(平成9年7月16日付の最高裁判所事務総長通達)(民事編成通達)に書いてあります。
   これによれば,弁論関係書類(第一分類),証拠関係書類(第二分類)及びその他の書類(第三分類)に分けて編成され(いわゆる「三分方式」),それぞれについてつづりこむ順序と書類が定められています。
イ 刑事事件記録では,五分方式が採用されています。
(3) 口頭弁論調書等の作成方法については,民事事件の口頭弁論調書等の様式及び記載方法について(平成16年1月23日付けの最高裁判所総務局長,民事局長及び家庭局長通達)(民事調書通達)に書いてあります。


3 事件記録の閲覧
(1) 事件係属中に裁判所で保存されている事件記録及び事件書類は,当事者のほか,第三者による閲覧の対象となります(民事訴訟法91条1項)。
   具体的な手続は,事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて(平成9年8月20日付の最高裁判所総務局長通達)(閲覧等通達)に書いてあります。
(2) 事件記録は,訴訟が終わるまでの間,「事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて」(平成7年3月24日付の最高裁判所総務局長通達)(保管送付通達)に基づき,その事件を担当する裁判所書記官によって執務室内のキャビネットやロッカーで保管されます。
(3)ア 平成29年12月19日付の司法行政文書不開示通知書によれば,一般人が特定の事件に関する当事者名及び判決日を伝えて民事事件記録係に問い合わせをした場合,当該事件の事件番号を教えることになっていることが分かる文書は存在しません。
イ 一連の訴訟事件において,事件の審級や種類ごとに複数の事件番号が付されている場合に,その一部の事件番号が分かっていれば,当該事件を特定することは可能であると考えられ,裁判所ホームページに掲載されている事件番号に公表慣行が認められる場合には,他の審級等に関する事件番号についても,公表慣行があるとされています(令和元年度(行情)答申第583号(令和2年3月6日答申)参照)。

4 当事者の住所の秘匿希望に関する事務連絡
・ 当事者の住所の秘匿希望に関する事務連絡等を以下のとおり掲載しています。
① 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成25年6月28日付の最高裁判所事務総局刑事局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
② 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付の最高裁判所事務総局家庭局第二課長,民事局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
③ 被害者特定事項の秘匿決定がされた事件における被害者等の住所等の取扱いについて(平成26年9月24日付の最高裁判所事務総局刑事局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)
④ 秘匿情報の適切な管理について(平成27年2月19日付の最高裁判所事務総局総務局第一課長,民事局第一課長,刑事局第二課長及び家庭局第一課長の事務連絡)
⑤ 家事事件手続における非開示希望情報等の適切な管理について(平成28年4月26日付の最高裁判所事務総局家庭局第二課長及び総務局第三課長事務連絡)

5 事件記録の貸出及び送付
(1)ア 保管者である裁判所書記官が訴訟関係人,他の裁判所等に事件記録を貸し出す場合,事件記録出納簿に所要の記載をし,その「受領印」に事件記録の受領者の認印を受けます。
イ   訴訟関係人,他の裁判所等に事件記録を郵送し,又は使走して貸し出す場合,事件記録出納簿の「備考」にその旨を記載します。
   この場合については,事件記録の受領者から事件記録の預かり証等を提出させることによって,「受領印」への認め印に代えるものとされています。
(2) 保管者である裁判所書記官が,特定の事件を担当する裁判官,民事調停官,家事調停官,精神保健審判員,労働審判員,裁判所調査官,家庭裁判所調査官,家庭裁判所調査官補,裁判所速記官,参与員,司法委員,専門委員又は精神保健参与員に当該事件の記録を貸し出す場合,貸出カード等に貸出日,借受日,返還日等を記載して,その出納を明らかにします。
   ただし,即日に返還される場合,適宜の方法により,その出納を把握すれば足ります。
(3)ア 移送決定の確定,上訴の提起,上訴判決等の確定,上訴の取下げ等によりほかの裁判所に事件記録を送付する場合,裁判所書記官は記録送付書を作成し,事件記録とともに送付します。
イ 移送決定の確定又は上訴判決等の確定により他の裁判所に事件記録を送付する場合,当該裁判の原本を分離し,その正本を作成して記録に添付します。
ウ 民事又は行政の上告提起事件及び上告受理申立て事件の表紙には,上告等事件記録の表紙を用い,これを上告状又は上告受理申立書がつづられている事件記録の表紙の上につづります。
(4) 事件記録の貸出及び送付については,「事件記録の保管及び送付に関する事務の取扱いについて」(平成7年3月24日付の最高裁判所総務局長通達)(保管送付通達)で定められています。

6 和解調書正本の送達
(1) 民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-4頁には以下の記載があります。
   判決書については法255条に職権により送達する規定があるが,和解調書,認諾調書,請求の放棄調書については明文上の規定がない。実務上,和解調書等については,当事者からの送達申請を待ってその正本を送達するという扱いが定着しており,次のような内容の定型の用紙又は記録の裏表紙に印刷したものを用意して,和解成立時に口頭で確認する扱いが多い。
【参考例・調書送達申請】
平成 年(ワ)第   号
和解 認諾 放棄 調書送達申請
申請年月日 平成 年 月 日
受送達者  当事者双方 利害関係人
申請人   原告(代理人)    被告(代理人)
              ○○地方裁判所
                      裁判所書記官 印
(2) 申立てその他の申述は,特別の定めのない限り口頭でも可能ですし(民事訴訟規則1条),訴訟記録の閲覧等の請求の方式等に関する民事訴訟規則33条の2(平成28年1月1日から施行された条文です。)は,和解調書正本の送達申請については適用がありません。

6の2 「その余の請求を放棄する」の意味
・ 民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~34頁及び35頁には以下の記載があります。
    和解条項において明示的に定められた内容が原告の訴訟上の請求内容に達しない場合に、その達しない部分についての訴訟物の処理を明らかにするために、原告が「その余の請求を放棄する。」との合意がされ、そのことを和解条項に記載することが多い。この条項の性質については、和解の訴訟終了効により和解は当然に訴訟物全部についてされたものとなるため、法律上の効力には関係がなく、当事者の意思を尊重して記載する任意条項とする見解と、訴訟物としての請求の一部を譲歩の手段として放棄する清算的合意であり、債務免除契約として実体法上の効力を有する効力条項(形成条項)とする見解がある。

7 事件終了後の事件記録の取扱い
(1) 事件記録は,訴訟が終結した後,訟廷事務室記録係で保管されます。
   その際,事件記録から,事件書類(例えば,判決原本及び和解調書)が分離されます。
   そのため,民事事件の裁判文書には,民事事件記録及び事件書類があることとなります。
(2) 事件記録等保存規程別表第一・3項によれば,民事通常訴訟事件の事件記録は5年,和解調書は30年,判決原本は50年,保存されます。
   これに対して,事件記録等保存規程別表第一・1項によれば,訴え提起前の和解事件(即決和解事件)の場合,事件記録は3年,和解調書は30年,保存されます。
(3) 事件終了後に裁判所で保存されている事件記録及び事件書類は,当事者のほか,第三者による閲覧の対象となります(民事訴訟法91条1項)。
   具体的な手続は,事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて(平成9年8月20日付の最高裁判所総務局長通達)(閲覧等通達)に書いてあります。


8 保存期間が満了した事件記録の廃棄
(1) 事件記録については,事件記録等保存規程(昭和39年12月12日最高裁判所規程第8号)(保存規程)9条に基づく特別保存の対象とならない限り,保存期間が満了した次の年度で廃棄されます。
(2) 記録の廃棄は,訟廷管理官(訟廷管理官の置かれていない裁判所にあっては訟廷事務をつかさどる主任書記官,主任書記官の置かれていない裁判所にあっては上席の裁判所書記官)が立ち会った上,焼却,細断又は消磁の方法により行い,細断をしたものについては,物品管理官又は分任物品管理官に引き継がれます(保存通達第5.3)。
(3)ア 昭和30年までに完結した民事事件の判決原本,及び最高裁判所において特別保存の対象となっていた事件記録については,国立公文書館に移管されました。
イ 「民事事件の判決原本の国立公文書館への移管」も参照してください。
(4) 裁判官以外の裁判所の職員が所持する裁判事務に関する書類の廃棄について(平成31年2月20日付の最高裁判所事務総長通達)には以下の記載があります(1及び2を①及び②に置き換えています。)。
① 職員は,その所持する裁判事務に関する書類を職務上利用する必要がなくなったときは,速やかにこれを廃棄しなければならない。
② 職員(退職し,又はその任期が満了した後に,再び職員として勤務することが予定されている者を除く。)は,退職し,又はその任期が満了するまでに,その所持する裁判事務に関する書類を全て廃棄しなければならない。

9 事件記録の特別保存に関する国会答弁
・ 47期の小野寺真也最高裁判所総務局長は,令和4年10月27日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 事件記録等保存規程におきましては、史料又は参考資料となるべきものについては保存期間満了後も保存に付するというふうにされておるところでございます。
 これを特別保存というふうに私ども呼称しておりますけれども、最高裁の通達(山中注:事件記録等保存規程の運用について(平成4年2月7日付の最高裁判所事務総長依命通達)のこと。))におきましては、その特別保存の対象になり得るものとして、重要な憲法判断が示された事件、重要な判例となった裁判がされた事件など、重要な判例となった裁判がされた事件など法令の解釈運用上特に参考になる判断が示された事件、世相を反映した事件で史料的価値の高いもの、全国的に社会の耳目を集めた事件又は当該地方における特殊な意義を有する事件で特に重要なもの等を挙げております。
② 特別保存に付すべきか否かの判断につきましては、原則として、当該事件記録を保存している第一審裁判所の裁判官会議の判断によるということになります。もっとも、通常は、そうした司法行政上の判断は各裁判所の所長に委任されていることも多いものというふうに承知しております。
 また、各庁におきましては、特別保存に付するか否かの選定手続につきまして運用要領を定めております。例えば、令和二年に定められました東京地裁の運用要領(山中注:令和2年2月18日付の東京地裁の運用要領のこと)におきましては、最高裁判所民事判例集等に判決等が掲載された事件、事件担当部から保存に付するよう申出がされた事件、主要日刊紙二紙以上に終局に関する記事が掲載された事件につきまして特別保存に付するといった客観的な基準を設けております。
 また、弁護士会や学術研究者等から要望がございました場合には、これを特別保存に付するかどうか適切に判断するために、裁判所内に設置いたしました保存記録選定委員会の意見を踏まえまして、最終的に東京地裁において特別保存の要否を判断するというようなものになってございます。

10 契印に関する平成11年4月1日以降の取扱い
(1) 平成11年4月1日以降,民事事件,行政事件及び家事事件に関する文書の契印の取扱いについて(平成11年2月3日付の最高裁判所総務局長,民事局長,行政局長,家庭局長通知)に基づき以下の取扱いがされています。
1 裁判所職員が作成する文書の契印
   (1) 専ら裁判所において保管する文書は,契印を不要とする。ただし,ページ数を付するなど,文書の連続性が容易に認識できる措置を執ることが相当である。
   (2) (1)以外の文書は,契印又は契印に準ずる措置を執る。
2 当事者等が作成する文書の契印
    契印を不要とする。ただし,当事者等に対し,ページ数を付するなど,文書の連続性が容易に認識できる措置を求めることが相当である。
(2) 裁判所では,契印事務の効率化を図るため,パーフォーレター(自動契印機)を昭和62年度から高・地・簡裁を中心に配布されるようになり,平成2年度からは家裁にも配布されるようになりました(最高裁総務局・人事局各課長,参事官を囲む座談会(平成2年5月11日開催)における最高裁総務局参事官の発言(全国裁判所書記官協議会第111号15頁参照)参照)。
(3) 最高裁判所の令和4年度概算要求書(説明資料)157頁には,「パーフォレータ【要望】」として以下の記載があります。
<要求要旨>
    裁判所においては,その作成する書類の一部抜取りや改ざん防止のため,裁判関係文書謄本等の各葉にわたって契印をすることが必要とされているが,裁判関係文書謄本等は一度に複数部作成することや大部になることもあり,その一葉ごとにページをめくって,手作業で押印する負担は無視できない。契印に代えて,細かい穴による文字,記号等を文書の初葉から末葉まで打ち抜くことにより,契印事務を大幅に省力化するため,パーフォレータを整備する必要がある。
    また,パーフォレータの使用頻度は極めて高く,かつ,上記のとおり手作業で代替することは現実的でないことから,裁判関係文書謄本等に対する信頼確保を図りつつ,裁判事務に支障が生じないように,耐用年数に応じた鍵付きのパーフォレータを各裁判所に整備するために必要な経費を要求する。
<整備計画>
    令和4年度は,220台の更新整備にかかる経費を要求する。

11 書面による準備手続における協議結果の記録化(調書の作成)の方法
・ 大阪弁護士会が作成した,「書面による準備手続における協議結果の記録化(調書の作成)の方法について」82頁ないし84頁には,下記1の質問に対する大阪地裁の回答として下記2の記載があります。

記1

(1) 書面による準備手続(民事訴訟法175条)の協議結果の記録化(調書の作成)の方法について,会員に周知されたい。
(2) 協議結果の記録化(調書の作成)の際の記載事項を紹介されたい。たとえば,裁判所が書面による準備手続を実施した場所について記載されるのか。
(3) 協議結果の記録(調書)は,訴訟記録のどの分類に編綴されるのか,周知されたい。

記2

    民事訴訟手続のIT化が現在フェーズ1の段階にあって, より良い運用を目指して各裁判体により工夫を重ねている状況である。また,書面による準備手続において調書を作成するか否かは裁判長等の判断に委ねられているので,大阪地裁には協議結果の記録化に関する統一的な運用方針等は存在しない。そこで,これから運用例を紹介したい。
    まず,問題の(1)では,書面による準備手続調書(以下, 「調書」という。),又は経過表により協議結果の記録化をしている。調書と経過表の使い分けについては,裁判体の判断によるが,協議で確認した事項や当事者の準備事項を記載する場合には調書を選択する裁判体が多い。経過表は,調書として記録化をしておく必要のある事項が特にない場合や,専ら和解協議を行った場合などに用いるという裁判体もあるが,経過表と調書が混在すると見づらいことから,調書のみを用いる裁判体もある。
    なお,次回までの当事者の準備事項等については,調書等に記載することとは別に, メッセージ機能などを利用して代理人に伝達している裁判体もある。
    次に,問題の(2)では,まず調書の記載事項については,各裁判体において工夫を重ねつつあるところで,現状において統一的な運用には至っていないが,形式面では,おおむね口頭弁論調書や弁論準備手続調書の記載に準じたものになっている。具体的には, 「書面による準備手続調書」という表題を付した上で,事件の表示,協議の日時,場所,裁判官,裁判所書記官,通話先等,手続の要領等の各項目について記載する例が多い状況である。また,協議の場所については,裁判官が参加した場所については, 「大阪地方裁判所第○民事部準備手続室」と記載する例が多い。
    次に,代理人の通話先の場所としては,住所を記載せずに「代理人事務所」とだけ記載する例や,住所を記載する例としては, 「代理人事務所(委任状記載の住所地)」,又は「○○市○○区の原告代理人事務所」,又は「通話先の場所○○市○○区○○町○○事務所」といった例がある。
    次に,手続の要領等の欄については, 「Web会議の方法により協議した結果は次のとおり」との記載に続いて審理の結果を記載する例が多い。
    また,審理の結果に関する具体的な記載内容の例として,裁判官のした求釈明事項, 当事者が裁判官に求釈明の促しをした事項, 当事者による求釈明に対する回答,協議で合意した当事者の準備事項,準備書面の提出期間(これは民事訴訟法176条2項,162条に定められている。) 口頭議論の結果の要旨,暫定的な争点,今後の審理計画などがある。また,争点整理案を添付する例もある。
    なお,書面による準備手続においても, ノンコミットメントルールが適用されることから, 当事者の発言を調書に残すときは裁判官がその都度確認している。
    次に,問題の(3)では,調書については,訴訟記録の第1分類の調書群に口頭弁論調書,弁論準備手続調書等とともに編年体で編綴している。経過表については,第1分類の調書群の末尾に編綴している例や,ほかには口頭弁論調書,弁論準備手続調書等とともに第1分類の調書群の中に編年体で編綴している例がある。
    末尾に編綴しないで単なる編年体で編綴している例については, 1つの事件の中で調書と経過表が併用されるような場合は,経過表が複数の箇所に分かれて編綴されることもある。

12 その他民事訴訟法関係のメモ書き
(1) 土地管轄
ア 債務整理・自己破産・個人再生の弁護士相談サイト「行ったことも、住んだこともない地域の裁判所から、貸金返還の訴状が送られてきた!裁判はどこの裁判所でもできるの?」には民訴法5条1号の義務履行地に関する特別裁判籍について以下の記載があります。
貸金業者A社は、Xさんが借金の返済をすべき場所に、訴訟提起できます。
借金の返済をすべき場所とは、Xさんがお金を借りた際に指定された場所、このような指定をされなかった場合は貸金業者A社の住所地(本店所在地。支店も可)になります。
借金の返済は、お金を借りた人が、お金を貸した人の元へ借りたお金を持参して返すのが、原則だからです。
イ 地方裁判所の本庁と支部間,又は支部相互間の事件の回付は,訴訟法上の手続ではありませんから,回付の措置に対しては,当事者は,訴訟法に準拠する不服申立をすることはできません(最高裁昭和44年3月25日決定)。
ウ 東京高裁平成23年9月26日決定(判例秘書掲載)は,民訴法5条5号に基づく特別裁判籍について以下の判示をしています。
    民訴法五条五号は、「事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの」については、同業務に関する限り、その事務所又は営業所を「被告の住所地(主たる事務所の所在地)」同様とみることができるため、訴訟追行の便宜を考慮して、「当該事務所又は営業所の所在地」に管轄を認めている。同号の規定の趣旨及び取引自体が終了している場合、取引自体が業務であるとすることは背理に等しく、記録管理がその主たる業務となるはずであること等に鑑みると、「その事務所又は営業所における業務」の意義については、取引を行っていた店舗が訴え提起の時点で「事務所又は営業所」に該当しない場合、その取引又は取引終了後の記録管理業務を行う事務所又は営業所における業務をいうものと解するのが相当である。
(2) 事物管轄
・ 東弁リブラ2013年5月号の「東京地裁交通部に聞く-交通部編-」には地裁審理を求める上申書について以下の記載があります(リンク先のPDF3頁)。
    訴額が140万円以下である場合には簡易裁判所の管轄です。事物管轄が簡易裁判所にあるにもかかわらず,当部での審理を求めて当庁に訴訟提起をされる場合があります。その場合には,自庁処理(民訴法16条2項)を申し立てるときには申立書,職権発動を求めるときには上申書の提出をしていただきます。申立書又は上申書には,事前交渉の経過を踏まえた上で,予想される相手方の主張,予想される争点等から,簡易裁判所ではなく地方裁判所での審理を相当とする事情を具体的に記載してください。
(3) 訴えの変更
・ 相手方の陳述した事実に基づいて訴えの変更をする場合,請求の基礎に変更があるときでも,相手方の同意の有無にかかわらず,訴えの変更は許されます(最高裁昭和39年7月10日判決)。
(4) 和解
・ 和解無効を主張する方法としては,期日指定の申立て,和解無効確認の訴え及び請求異議の訴えがあります(法律のお勉強ブログの「訴訟上の和解の無効の主張方法」参照)。
・ 訴訟上の和解が成立したことによって訴訟が終了したことを宣言する終局判決である第1審判決に対し,被告のみが控訴し原告が控訴も附帯控訴もしなかった場合において,控訴審が第1審判決を取り消した上原告の請求の一部を認容する本案判決をすることは,不利益変更禁止の原則に違反して許されません(最高裁平成27年11月30日判決)。
・ 裁判上の和解は確定判決と同一の効力を有し既判力を有します(最高裁大法廷昭和33年3月5日判決)。
・ 東京地裁知財部(29民,40民,46民及び47民)HPに載ってある「和解条項例」の場合,放棄条項において「被告に対する」という文言がありません。

13 関連記事その他

(1) 令和6年1月30日,事件記録等の特別保存に関する規則が施行されました(裁判所HPの「「事件記録等の特別保存に関する規則」の制定について」参照)。
(2) 訟廷事務とは,①訟廷事務室事件係で行われる受付から分配までの過程,及び②訟廷事務室記録係で行われる訴訟完結後の事件記録の保存・廃棄等の過程をいいます。
(3) 民事事件の裁判文書については,受付から廃棄又は移管に至る過程を単一のルール(例えば,文書管理規則)で定められているわけではなく,執務ごとにそれぞれ別個の規程や通達で定められています。
   そのため,裁判所書記官は人事異動のたびに規程や通達をはじめから勉強する必要があることとなります。
(4) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 裁判所における主なシステム
・ 裁判所の情報化の流れ
・ 秘匿情報の管理に関する裁判所の文書
・ 民事事件の裁判原本の国立公文書館への移管
・ 司法行政文書の国立公文書館への移管
・ 公文書管理に関する経緯,公文書館に関連する法律及び国立公文書館
 最高裁判所裁判部作成の民事・刑事書記官実務必携
・ 裁判所書記官の役職
・ 書記官事務等の査察
・ 首席書記官の職務


* 平成28年度新任判事補研修の資料からの抜粋です。


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