第1 本記事の対象と長官所長会同の位置付け
1 収録範囲
本記事は,平成17年度から平成30年度までの長官所長会同について,各年度の開催日,配布資料,協議結果概要,議事概要及び協議テーマを原資料へのリンク付きで整理するものである。会同の沿革,運営及び文書の取扱いについては,「長官所長会同(原則として毎年6月開催)―法的位置付け・運営・開催日(AIリライト)」を,令和元年度以降の資料については,「令和元年度以降の長官所長会同の資料及び議事概要」を参照されたい。
2 正式名称と制度上の性質
正式名称は,「高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同」である。対象期間中は,平成18年度を除き毎年6月に開催され,平成18年度だけは平成18年7月5日及び6日に開催された。
裁判所法12条は,最高裁判所の司法行政事務を裁判官会議の議によるものとし,最高裁判所長官がこれを総括すると定めている。他方,令和3年度(情)答申第50号2頁~3頁は,長官所長会同を長官及び所長が当面の司法行政上の問題点等について自由な協議を行う場と説明し,意見表明に当たって必ずしも組織的な意思決定を経る必要はないとしている。本記事では,会同資料に記録された意見又は共通認識と,裁判官会議による機関決定とを区別して扱う。
第2 平成17年度から平成19年度までの資料と協議テーマ
平成17年度ないし平成19年度の長官所長会同の資料(裁判所時報からの抜粋)には,3年度分の開催記事及び協議結果概要が収録されている。以下のテーマは同資料の表記に合わせたものである。
1 平成17年度
平成17年度の会同は,平成17年6月22日及び23日に開催された。協議テーマは次のとおりである。
① 司法制度改革を踏まえ,中長期的視野から,裁判所の事務処理態勢の整備等司法行政上考慮すべき事項
② 裁判官に相応しい人材を確保するために執るべき方策
③ 裁判員法成立後1年間の準備状況を踏まえ,裁判員制度の円滑な導入に向けて,重点的に取り組むべき事項
2 平成18年度
平成18年度の会同は,平成18年7月5日及び6日に開催された。協議テーマは次のとおりである。
① 新しい司法修習制度の下における修習の在り方
② 裁判員法施行まで3年を切った現段階において,制度の円滑な導入に向け,重点的に取り組むべき事項
③ 司法制度改革の実施状況・事件動向等を踏まえ,裁判部の事務処理態勢整備について司法行政上考慮すべき事項
④ 社会の変化に対応した家庭裁判所の事件処理の在り方
3 平成19年度
平成19年度の会同は,平成19年6月20日及び21日に開催された。協議テーマは次のとおりである。
① 裁判員法施行を約2年後に控え,制度の円滑な導入に向けて重点的に取り組むべき事項
② 判事補の主体的・自律的な成長を支援するために,所長が果たすべき役割について
③ 社会の変化を踏まえ家庭裁判所がその機能を十全に発揮するために司法行政上考慮すべき事項
第3 平成20年度から平成24年度までの資料と協議テーマ
1 平成20年度
平成20年度の会同は,平成20年6月18日及び19日に開催された。平成20年度長官所長会同の資料及び協議結果概要に記録された協議テーマは次のとおりである。
① 裁判員法施行まで1年を切った現段階において,制度の円滑な導入に向けて重点的に取り組むべき事項(長崎地裁及び福島地裁)
② 今後事件数が増加するとともに,専門化・複雑化が進んでいくことが予想される民事事件に適切に対処していくために考慮すべき事項(京都地裁)
③ これからの若手裁判官の育成について考慮すべき事項(長野地家裁)
2 平成21年度
平成21年度の会同は,平成21年6月17日及び18日に開催された。平成21年度長官所長会同の資料及び協議結果概要に記録された協議テーマは次のとおりである。
① 裁判員制度を適切に運営し,国民の間に着実に定着させていくために,今後重点的に取り組むべき事項(福岡地裁)
② 法曹人口の増加等の構造的要因に基づく将来の民事訴訟の量的・質的変化を見据えて,その適切な処理を図るために,今から検討を始めるべき事項(金沢地裁)。資料18頁は,国民の権利意識の鋭敏化,行政等による調整機能の減退及び法曹人口の拡大に伴う事件の掘り起こし等を挙げ,民事訴訟が今後量的に拡大することが確実と思われるとしている。この見通しと後年の新受件数は,第6で比較する。
③ 裁判の第一線を担う職員の職業意識を高め,職場の活性化を図るための方策(宇都宮地裁)
④ 創設60周年を迎えた家庭裁判所の家事事件処理の在り方について検討すべき課題(大阪家裁)
3 平成22年度
平成22年度の会同は,平成22年6月9日及び10日に開催された。平成22年度長官所長会同の資料及び協議結果概要に記録された協議テーマは次のとおりである。
① 裁判員法施行後1年が経過した現段階において,裁判員制度の安定的運用を早期に確立し,国民の理解と信頼をより確かなものにするために取り組むべき課題(京都地裁)
② 予測される民事訴訟の将来動向に即して,合理的な訴訟運営を考える上で検討すべき事項(水戸地裁)。資料20頁は,平成21年度会同において,法曹人口の増加及び社会・経済情勢の変化等により民事訴訟は量的に拡大するであろうとの予測が共通認識として確認されたとしている。
③ 法曹養成制度及び裁判官制度の改革を踏まえた判事補の成長支援の在り方(青森地家裁)
④ 社会の要請に応え得る家事事件の処理に向けて家庭裁判所が克服すべき課題と今後の方策(名古屋家裁)
4 平成23年度
平成23年度の会同は,平成23年6月9日に開催された。平成23年度長官所長会同の資料及び協議結果概要に記録された協議テーマは次のとおりである。
① 非常災害時における司法行政上の対応について(東日本大震災の経験と教訓)
② 裁判員法施行後2年が経過した現段階において,裁判員と裁判官とのより実質的な協働の実現などその適切な運用に向けて取り組むべき課題(千葉地裁)
5 平成24年度
平成24年度の会同は,平成24年6月13日及び14日に開催された。平成24年度長官所長会同の資料及び協議結果概要に記録された協議テーマは次のとおりである。
① 3年間の運用の実態を踏まえ,裁判員制度の導入の趣旨に照らし,制度,運用等の面において考慮すべき事項(前橋地裁)
② 裁判の運営を支える官職としての書記官の現状と課題(高松地裁)
③ 家事事件手続法施行の節目に当たり,家庭裁判所が,国民の信頼を強固にし,高まる社会の要請に応えるために取り組むべき課題(福岡家裁)
④ 新任判事補の成長支援について考慮すべき事項(札幌地裁)
第4 平成25年度から平成30年度までの資料と協議テーマ
1 平成25年度
平成25年度の会同は,平成25年6月19日及び20日に開催された。平成25年度長官所長会同の資料及び平成25年度長官所長会同の議事概要に記録された協議テーマは次のとおりである。
① 裁判員法施行後4年間の運用の実態を踏まえ,裁判員制度の導入の趣旨に照らし,より適切な運用に向けて取り組むべき課題について(福岡地裁)
② 裁判の運営を支える官職としての書記官の現状と課題(岡山地裁)
③ 家事事件手続法の下での調停運営における裁判官関与の在り方と今後取り組むべき課題について(名古屋家裁)
④ 民事訴訟の複雑困難化に対応した質の高い判断を実現するとともに,継続的な訴訟運営改善の要請に応えるために,民事部の機能の活性化及び司法行政上の支援について検討すべき事項(水戸地裁)
2 平成26年度
平成26年度の会同は,平成26年6月18日及び19日に開催された。平成26年度長官所長会同の資料及び平成26年度長官所長会同の議事概要に記録された協議テーマは次のとおりである。
① 民事裁判の紛争解決機能を全体として高めるために取り組むべき課題について(札幌地裁)
② 家庭裁判所の機能強化に向けて裁判官がその役割を適切に果たしていくために取り組むべき課題について(千葉家裁)
③ 裁判員法施行後5年を経て裁判運営の経験が蓄積されつつある中で,裁判官と裁判員とのより実質的な協働を実現するために取り組むべき課題について(京都地裁)
④ 若手・中堅裁判官の成長支援について考慮すべき事項(名古屋地裁)
3 平成27年度
平成27年度の会同は,平成27年6月18日及び19日に開催された。平成27年度長官所長会同の資料,平成27年度長官所長会同における事務総局からの説明及び平成27年度長官所長会同の議事概要を掲載している。
(1) 裁判所の紛争解決機能を高める司法行政上の方策
協議テーマは,裁判所の紛争解決機能を全体として高めていくための司法行政上の方策についてであり,金沢地裁,広島地裁,横浜家裁,千葉家裁及び松山地裁が提出庁とされた。サブテーマは次のとおりである。
① 事件処理の実情及び課題
② 本庁支部間の連携の現状と課題
③ 裁判所全体として紛争解決機能を高めていくためにどのような司法行政上の方策を講じていくべきか
(2) 組織的対応と所長の役割
協議テーマは,組織的に対応すべき事項に対する所長の役割であり,大阪地裁及び熊本地裁が提出庁とされた。サブテーマは次のとおりである。
① 日常的な情報伝達,共有について
② 非常事態の見極めと所長の役割
4 平成28年度
平成28年度の会同は,平成28年6月23日及び24日に開催された。平成28年度長官所長会同の資料及び平成28年度長官所長会同の議事概要を掲載している。
(1) 裁判所の紛争解決機能を高める司法行政上の方策
協議テーマは,裁判所の紛争解決機能を全体として高めていくための司法行政上の方策についてであり,新潟地裁,福岡地裁,津地家裁,徳島地家裁,神戸家裁,那覇家裁及び広島地裁が提出庁とされた。サブテーマは次のとおりである。
① 事件処理の実情及び課題
② 今後,事件処理上の課題について,どのような司法行政上の方策を講じていくべきか。また,裁判所全体として紛争解決機能を高めていくために,どのような司法行政上の方策を講じていくべきか。
(2) 組織的対応と所長の役割
協議テーマは,組織的に対応すべき事項に対する所長の役割である。サブテーマは次のとおりである。
① 非常事態への対応
② 司法行政事務における日常的な取組~職員の指導等における所長の役割
5 平成29年度
平成29年度の会同は,平成29年6月21日及び22日に開催された。平成29年度長官所長会同の資料及び議事概要を掲載している。
(1) 裁判所の紛争解決機能を高める司法行政上の方策
協議テーマは,裁判所の紛争解決機能を全体として高めていくための司法行政上の方策についてであり,横浜地裁,高松地裁,熊本地裁,函館地家裁,大阪家裁及び秋田地家裁が提出庁とされた。サブテーマは次のとおりである。
① 事件処理の実情及び課題
② 各庁の実情や裁判官の認識に対応して,今後,各分野の課題について,具体的にどのような司法行政上の方策を講じ,所長としてどのような関与をしていくべきか。とりわけ,裁判官の力量向上のために,どのような方策を講じ,所長としてどのような取組をしていくべきか。
(2) 組織的対応と所長の役割
協議テーマは,組織的に対応すべき事項に対する所長の役割である。サブテーマは次のとおりである。
① 情報流通上の課題
② 日常事務における事務処理の適正化
6 平成30年度
平成30年度の会同は,平成30年6月20日及び21日に開催された。平成30年度長官所長会同の資料及び議事概要を掲載している。
(1) 裁判所の紛争解決機能を高める司法行政上の方策
協議テーマは,裁判所の紛争解決機能を全体として高めていくための司法行政上の方策についてであり,千葉地裁,奈良地家裁,鳥取地家裁,仙台地裁,名古屋家裁及び宮崎地家裁が提出庁とされた。検討事項は次のとおりである。
① 各事件分野(民事・刑事・家裁)における裁判部門の現状と課題をどのように認識しているか。この1年間で実情は変化しているのか,変化していないのか,今後の施策や取組を考えていく上で,まず,民事・刑事・家裁の各分野で,各庁の実情にはどのような変化・改善が見られているのか。
② 上記課題の検討の中心となるべき部総括裁判官(部のない家庭裁判所においては上席裁判官)に対する働き掛けは,どうあるべきか。
③ ①で議論した各分野の問題意識や課題について,まず,部の内部で共有し,さらに,部や庁を超えて,その解決に当たるために,どのような方策を講じていくべきか。
(2) 組織的対応と所長の役割
協議テーマは,組織的に対応すべき事項に対する所長の役割である。サブテーマは次のとおりである。
① 裁判手続のIT化について
② 本庁による支部(出張所)の実情把握と本庁からの支援について
第5 協議テーマの推移
平成17年度から平成19年度までは,司法制度改革,新しい司法修習,裁判員制度の導入準備及び判事補の成長支援が中心であった。平成20年度から平成22年度までは,裁判員制度の導入及び定着に加えて,民事事件の増加又は質的変化への対応が継続して取り上げられた。平成23年度には東日本大震災の経験と教訓を踏まえた非常災害時の対応が独立の協議事項となり,平成24年度から平成26年度までは,裁判員制度の運用,書記官,家事事件手続法,民事裁判の紛争解決機能及び裁判官の成長支援が並行して扱われた。
平成27年度から平成30年度までは,「裁判所の紛争解決機能を全体として高めていくための司法行政上の方策」と「組織的に対応すべき事項に対する所長の役割」が継続的な枠組みとなった。平成30年度には,裁判手続のIT化及び本庁による支部・出張所への支援が所長の役割に関するサブテーマとなっている。
第6 平成21年度及び平成22年度の見通しと後年の新受件数
平成21年度及び平成22年度の資料は,当時,民事訴訟が今後量的に拡大するとの見通しが会同で示され,共有されたことを記録する歴史資料である。他方,最高裁判所の後年の統計によれば,地方裁判所民事第一審通常訴訟事件の新受件数は次のように推移した。
| 年 | 新受件数 | 原資料 |
|---|---|---|
| 平成21年 | 235,508件 | 裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回)18頁(PDF4頁) |
| 平成25年 | 147,390件 | 裁判所データブック2026・34頁(PDF1頁) |
| 平成30年 | 138,444件 | 裁判所データブック2026・34頁(PDF1頁) |
| 令和4年 | 126,666件 | 裁判所データブック2026・34頁(PDF1頁) |
| 令和7年 | 146,931件 | 裁判所データブック2026・34頁(PDF1頁) |
裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回)18頁は,平成18年以降に過払金等事件の増加に伴って新受件数が急増し,平成21年にピークとなった後に減少へ転じたと説明している。同報告書が平成30年の新受件数を138,443件とするのに対し,後年の裁判所データブック202634頁は138,444件としているため,本記事の表は後者の改訂後の数値を採用した。1件の差が生じた理由は,公表資料からは確認できない。
令和7年の新受件数は,令和4年より約16.0%多いものの,平成21年より約37.6%少ない。このため,当時の見通しと後年の長期的な件数推移とは区別する必要がある。もっとも,新受件数だけでは事件の複雑さ,審理負担,既済件数又は未済件数の推移までは示せないため,件数の減少から民事訴訟の質的変化まで否定することはできない。
第7 会同資料を読む際の留意点
1 議事概要と会同文書の範囲
各年度の協議結果概要又は議事概要は,協議事項,主な意見及び確認事項を要約した文書であり,発言の逐語記録ではない。平成27年度(最情)答申第1号9頁~10頁は,開催通知,配布資料目録,日程,会同員名簿,席図,進行予定,意見要旨及び最高裁判所長官挨拶等の20文書を特定している。したがって,本記事に掲載した配布資料及び議事概要だけが,会同に関して作成された文書の全部ではない。
2 平成27年度の開催日変更
平成27年度資料中の当初通知は,会同の期日を平成27年6月17日及び18日としていたが,実施後の議事概要は同月18日及び19日としている。平成27年度(最情)答申第1号9頁~10頁の文書目録には「開催要領の変更について」と題する文書が4点含まれるため,本記事では変更後の実施日を掲載した。
第8 出典・参考資料
1 法令
① e-Gov法令検索「裁判所法」(昭和22年法律第59号)12条
2 裁判所公表資料
① 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「平成27年度(最情)答申第1号」(平成27年12月25日答申)1頁及び9頁~10頁
② 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「令和3年度(情)答申第50号」(令和4年3月23日答申)2頁~3頁
③ 最高裁判所「裁判所データブック2026」34頁(PDF1頁)
④ 最高裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回)第2部第1 地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」18頁~19頁(PDF4頁~5頁)
3 各年度の会同資料
① 最高裁判所事務総局が作成した平成17年度から平成30年度までの会同資料,協議結果概要及び議事概要(本文第2から第4までの各年度に原資料へのリンクを掲載)