弁護士任官等に関する協議の取りまとめ(平成13年12月7日付)


目次
第1 弁護士任官等に関する協議の取りまとめ(平成13年12月7日付)
第2 関連記事
第1 弁護士任官等に関する協議の取りまとめ(平成13年12月7日付)

・ 平成13年12月7日付の「弁護士任官等に関する協議の取りまとめ」は以下のとおりです。

   最高裁判所と日本弁護士連合会とは,裁判官の給源の多様化・多元化を図り,21世紀の我が国社会における司法を担う質の高い裁判官を安定的に確保するため,弁護士からの裁判官任官を大幅に拡大することが極めて重要であるとの基本認識の下に,任官することの魅力と任官しやすさを増し,弁護士任官制度を実効あらしめるための具体的方策について,本年4月から,おおむね月2回のペースで協議を重ねた結果,当面講ずべき措置について,以下のとおり協議が整った。

1 日本弁護士連合会の任官推薦基準及び推薦手続
   日本弁護士連合会は,別紙1「任官推薦基準及び推薦手続」を策定するとともに,同記載の「推薦基準」に基づき,同記載の「推薦手続」を経ることを通じて,司法制度改革審議会が示したような多様で豊かな知識・経験と人間性を備えた裁判官となり得る資質,能力を有する弁護士が,できる限り多く裁判官候補者として推薦されるよう努めるものとし,最高裁判所はこれを了承する。
2 最高裁判所の採用手続
   最高裁判所は,日本弁護士連合会から上記手続を経て任官希望者の申込書類が提出された場合には,日本弁護士連合会を通じて提出された資料,実際の訴訟活動等を通じて収集された任官希望者の法律実務家としての資質・能力等裁判官としての適格性に関する資料及びその他の資料を判断材料として,任官希望者の採否について,能力,識見,人柄等を考慮し,総合的に見て裁判官としてふさわしいか否かという観点から検討するものとし,日本弁護士連合会はこれを了承する。
   なお,不採用の場合には,本人から申し出があれば,書面により,その理由を本人に対し開示するものとする。
3 日本弁護士連合会が行う弁護士任官推進のための環境整備方策
   日本弁護士連合会は,弁護士が裁判官に任官しやすくするための環境をより一層整備するとの観点から,以下の方策を推進する。
(1)各弁護士会又は弁護士会連合会に「弁護士任官適格者選考委員会」を設置し,弁護士任官希望者の推薦手続を行う体制を整備する。また,この推薦手続を継続的に行うことができるようにするために,任官希望者名簿の整備を進める。
(2)弁護士任官に伴う事件の引継に関する支障を除去するために,今般の弁護士法の一部を改正する法律に基づく法律事務所の法人化及び共同化を進めることにより,弁護士任官を促進するための環境整備を図る。
(3)任官に伴う受任事件の引継を円滑に行うとともに,退官後の弁護士への復帰を容易にするなどの観点から,弁護士任官希望者や弁護士任官の退官者で,特に必要のある者が在籍することができる事務所の設置,運営を促進する等,弁護士任官を推進するための制度の整備を進める。
4 最高裁判所が行う弁護士任官推進のための環境整備方策
   最高裁判所は,弁護士が裁判官に任官しやすくするための環境をより一層整備するとの観点から,以下の方策を推進する。
(1)「弁護士からの裁判官採用選考要領」を別紙2のとおり改訂する。
   なお,この改訂について,最高裁判所から以下のとおりの説明がされ,日本弁護士連合会はこれを了承した。
ア 従前の「弁護士からの裁判官採用選考要領」3のただし書きの関係について
は,平成19年3月31日までの間の任官者については,引き続き従前と同様の取扱いをするものとする。なお,その間の弁護士任官及びその受入れ側の状況によっては,この期限を更に延長するか否かについて協議する。
イ 「弁護士からの裁判官採用選考要領」5の「採用の形態」については,本人の希望を踏まえ,積極的に取り組むものとする。すなわち,
①短期間の任官については,本人の希望を踏まえ,積極的に取り組む。
②倒産事件,知的財産権事件,商事事件,家庭事件等の専門的分野へ
の任官についても,本人の希望を踏まえ,積極的に取り組む。
   なお,本人の専門的識見の程度によっては,①の場合よりも短期間であっても採用可能な場合もあり得る。
ウ 「弁護士からの裁判官採用選考要領」6(2)のただし書きについては,4月1日付けの採用を原則とするが,平成19年10月までの間は,事情によっては,例外的に10月1日付けの採用も行うものとする。この場合においては,当面は,当年1月10日までに採用申込みをした者を対象に検討するものとする。なお,その間の弁護士任官及びその受入れ側の状況によっては,この期限を更に延長するか否かについて協議する。
(2)本年8月1日,京都地方裁判所において弁護士任官者を中心とする部を発足させたが,今後とも,弁護士任官者の配置の在り方等を工夫,改善し, O.J.T.の充実を図る。
(3)弁護士任官者に対する研修について,より一層の充実を図る。
(4)日本弁護士連合会から,非常勤裁判官の制度化を検討すべきである旨の考えが示され,これに対し,最高裁判所から,この構想の制度化については,憲法上の問題点等が指摘されているが,常勤の裁判官への任官を促進する機能も期待できるので,民事調停事件及び家事調停事件の分野について,いわゆる非常勤裁判官制度を導入する方向で具体的に検討を開始したい,また,その他の非訟事件についても,導入できる分野がないか研究したい旨の説明がされ,日本弁護士連合会はこれを了承した。
5 判事補が裁判官の身分を離れて弁護士の職務経験を積む制度を実効あらしめるための方策
   最高裁判所と日本弁護士連合会は,判事補が裁判官の身分を離れて弁護士の職務経験を積む制度について,司法制度改革推進本部等の関係機関と協力し,司法制度改革審議会の意見の趣旨にのっとった制度設計がされ,その実施に必要な制度の整備がされるように努力する。
6 協議の継続
   最高裁判所と日本弁護士連合会は,弁護士任官の推進,判事補に弁護士の職務経験を積ませる制度及び恒常的協力体制の整備等について,今後とも継続して協議する。

別紙1 任官推薦基準及び推薦手続

日本弁護士連合会は,全国の各地域の弁護士会連合会又は弁護士会において,「推薦基
準」(以下「1」に記載)に従った「推薦手続」(以下「2」に記載)が行われ,司法制度改革審議会が示したような多様で豊かな知識・経験と人間性を備えた裁判官となりうる資質を有する,多数の候補者が推薦されるよう努めるものとする。
1 推薦基準
(1)形式的基準は以下のとおりとする。
①弁護士経験10年以上の判事任官が望ましいが,当面弁護士経験3年以上の判事補任官も可とする。
②年齢55歳位までの者を基本とする。
③懲戒処分を受けたことがないこと
(2)実質的基準は以下のとおりとする。
①法律家としての能力,識見
a. 事実認定能力,識見
b. 法令の解釈適用上の法技術能力
c. 事件処理に必要な理論上及び実務上の専門的知識能力
d. 幅広い教養に支えられた視野の広さ
e. 人間性に対する洞察力
f. 社会事象に対する理解力
②人物・性格面
g. 廉直さ
h. 公正さ
i. 寛容さ
j. 忍耐力
k. 決断力
l. 慎重さ
m. 注意深さ
n. 独立の気概
o. 精神的勇気
p. 協調性
q. 積極性
r. 柔軟性
s. 基本的人権と正義を尊重する心情
t. 自己管理能力・自己評価能力
u. 思思いやり・親切心
③その他
推薦にあたっては,任官希望者の人種,信条,性別,社会的身分,門地,宗教については,これを考慮しない。
2 推薦手続
(1)所属弁護士会に対する推薦の申込
①他薦の場合は本人の承諾を前提とする。
②自薦,他薦を問わず,推薦者がある場合には,推薦書を添付する。
(2)所属弁護士会又は弁護士会連合会の「弁護士任官適格者選考委員会」による選考
手続
①本人から質問票への回答及び関連資料の提出を受ける。a 質問票は,情報収集のための照会先に関する事柄を含む。b 質問票は,弁護士としての実績や任官基準の適否に関する事柄が理解できる内容のものとする。c 関連資料は,取り扱った主要事件や弁護士会会務に関して作成した書面,論文及び随筆等,質問票への回答書記載の事実が認定できるものを含む。
②上記の回答に基づいて,次のうちの複数の関係者に質問票を送付する。
a. 同一事務所の所属弁護士
b. 同一弁護士会の所属弁護士
c. 司法修習の同期生
d. 事件を共同して担当した弁護士
e. 事件の相手方であった弁護士
f. 事件の審理を担当した検察官
g. 事件の審理を担当した裁判官
h. その他
③弁護士会から以下の事項に関する資料の提出を受ける。
i. 会務,役職等に関する経歴
j. 賞罰,倫理に関する事項
④上記の資料に基づいて,本人に対する面接を行う。
⑤上記の結果に基づいて,推薦の可否を答申する。
(3)所属弁護士会又は弁護士会連合会による推薦
所属弁護士会又は弁護士会連合会は,上記答申を尊重し,推薦の可否を決定する。
(4)最高裁判所への申込方法上記推薦手続に基づく任官希望者は,日本弁護士連合会を経由し,上記推薦手続を行った弁護士会又は弁護士会連合会の推薦書及び資料等を添付して,最高裁判所事務総局人事局に所定の申込書を提出する。
(5)推薦手続を経ない任官申込みの取扱い
任官希望者から最高裁判所に直接申込みがなされた場合,最高裁判所において,上記推薦手続が存在することを教示し,その手続を経る機会を与える。

別紙2 弁護士からの裁判官採用選考要領

1 選考を受けることができる者
   5年以上弁護士の職にあり,裁判官として少なくとも5年程度は勤務しうる者であって,年齢55歳位までの者。なお,当面,3年以上弁護士の職にある者も選考の対象とする。
2 報酬
   法曹としての経験年数を考慮して決定する。
3 任地
   初任地は,本人の希望,家族の状況,受入れ部署の充員状況等を考慮して決定し,その後の任地は,同期の裁判官の例に準ずる。
4 選考の内容
(1)書面及び面接による考査人物及び専門的素養について,書面及び面接による考査を行う。
(2)健康診断裁判官の職務に耐えられるかどうかについて行う。
(3)身上調査選考を受けることができる資格の有無及び申込書記載事項の真否について行う。
5 採用の形態
(1)短期間の任官本人の希望があれば,10年に満たない期間を勤務期間として予定した任官を妨げない。ただし,少なくとも5年程度であることを要する。
(2)専門的分野への任官専門的分野,例えば倒産事件,知的財産権事件,商事事件,家庭事件等の特化した領域の裁判事務を担当する形態での任官希望については,当該分野に関する本人の知識・経験,受入れ部署の実情等を踏まえ検討する。その後の任地,配置についても,同様とする。
6 申込方法
1. (1)申込書類を,最高裁判所事務総局人事局に,日本弁護士連合会を経由し又は直接提出する。
2. (2)申込受付期間随時。ただし,原則として4月1日付けの採用になるので,当面は,前年の7月1日までに申し込むものとする。
3. (3)申込書類
ア 申込書(所定の様式による。)
イ 履歴書
ウ 弁護士登録期間を証する証明書
エ 戸籍謄本
オ 写真
7 その他
   この要領1に該当しない者からの裁判官の採用については,従前のとおりとする。

(以上までが引用です。)

第2 関連記事その他
1 26期の中山隆夫最高裁判所総務局長は,平成14年2月28日の参議院法務委員会において,毎年10人は弁護士任官で裁判官になって欲しいという趣旨の答弁をしています。
2 以下の記事も参照してください。
・ 弁護士任官者研究会の資料
・ 弁護士任官に対する賛成論及び反対論
・ 法曹一元
 平成11年11月までの弁護士任官の状況
・ 我が国の裁判官制度に関する,平成12年4月当時の説明
・ 平成13年2月当時の,弁護士任官に対する最高裁判所の考え方
・ 判事補の採用に関する国会答弁
・ 修習終了後3年未満の判事補への任官
・ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員名簿


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