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最高裁判所は大審院の法律上の承継者ではない―最大判昭和23年7月19日と制度移行(AIリライト)

第1 「大審院の後身ではない」という判示の意味

最高裁判所大法廷昭和23年7月19日判決は,最高裁判所について,大審院の後身でも承継者でもなく,両者の間に同一性を認めることもできないと判示した。
この判示が否定したのは,大審院に係属していた事件を最高裁判所が当然に承継するという法制度上の同一性又は包括承継である。

大審院と最高裁判所は,根拠となる憲法及び法律,組織,裁判官の構成,権限並びに司法行政の仕組みが異なる。
他方,両者には全国の司法裁判所体系の最上級に位置して法令解釈を統一するという機能上の共通点があり,裁判所法施行法及び裁判所法施行令は,旧係属事件,裁判官,判例及び法令上の名称について個別の経過措置を設けた。

したがって,一般的な司法史の説明で大審院を最高裁判所の「前身」と呼ぶことと,本件判決が法律上の当然承継を否定したことは両立する。
本記事では,この区別を前提として,判決の射程と制度移行の具体的内容を説明する。

第2 最高裁大法廷昭和23年7月19日判決

1 事件と争点

最高裁判所大法廷昭和23年7月19日判決は,昭和22年(れ)第194号住居侵入被告事件に関する上告審判決であり,集刑3号267頁に掲載されている。
被告人は,日本国憲法施行前に大審院へ係属した事件は最高裁判所が承継すべきであり,裁判所法施行令1条により東京高等裁判所が裁判したことは違法であると主張した。

この争点の背景には,大審院の廃止時に未済事件をどの裁判所が,どの手続及び審理権限で処理するかという経過法上の問題があった。
第92回帝国議会貴族院裁判所法案特別委員会では,昭和22年2月末現在,大審院に民事276件及び刑事992件が係属していると政府が説明している。

2 大法廷の結論

大法廷は,句読点を改めると,次のように判示した。

「最高裁判所は所論のように,大審院の後身でもなく,その承継者でもなく,又両者の間に同一性を認めることもできない。」

大法廷は,大審院が明治憲法及び裁判所構成法に基づく裁判所であるのに対し,最高裁判所は日本国憲法及び裁判所法に基づく裁判所であり,両者は組織,構成,権限,職務,使命及び性格を異にすると説明した。
そのため,大審院の旧係属事件を最高裁判所が当然に承継して審判しなければならないという憲法上の要請はないとした。

さらに,大法廷は,日本国憲法81条が最高裁判所を違憲審査の終審裁判所とする一方,それ以外の裁判権及び審級制度は法律で定めることができると解した。
現行の裁判所法も,最高裁判所の裁判権を定める7条とは別に,高等裁判所が一定の上告事件を扱うことを16条で定めている。

以上から,大法廷は,大審院でされた事件の受理その他の手続を東京高等裁判所でされたものとみなした裁判所法施行令1条を合憲かつ適法とし,上告を棄却した。

3 判決の射程

本件判決は,大審院と最高裁判所のあらゆる歴史的又は機能的な関係を否定したものではない。
判決が直接解決したのは,大審院の旧係属事件を最高裁判所が当然に承継するか,その事件を東京高等裁判所へ移す経過措置が許されるかという問題である。

そのため,「最高裁判所は大審院の後身ではない」という一文だけを取り出し,大審院判例の先例上の扱い,裁判官の身分移行又は既存法令中の名称読替まで否定するのは,判決の射程を超える。
これらの連続性は,後記第4のとおり,法令が個別に定めている。

4 個別意見

判決全文PDFには,裁判所法施行令1条の委任の適法性等に関する複数の個別意見が収録されている。
個別意見の一つは,最高裁判所が法的に発足しても人的・物的な体制が直ちには整わなかったこと,旧事件の当事者に従前の上告理由及び事実審理の利益を保つ必要があったこと並びに東京高等裁判所が5人の合議体で審理したことを,移管措置の合理性として説明した。

他方,裁判所の管轄及び合議体の構成という重要事項を政令で定めた点について,法律の委任範囲を超えるとの個別意見もあった。
したがって,移管措置を適法とした結論と,その理由の全てが一致していたこととは区別する必要がある。

第3 大審院から最高裁判所への制度転換

1 大審院の成立と廃止

大審院は,明治8年(1875年)4月に全国の上等裁判を扱う裁判所として設置された。
明治23年(1890年)制定の裁判所構成法の下では,区裁判所,地方裁判所,控訴院及び大審院からなる司法裁判所体系の最上級裁判所として,原則として上告を扱った。

昭和22年(1947年)5月3日,日本国憲法及び裁判所法の施行に伴って裁判所構成法が廃止され,大審院は廃止された。
同日に最高裁判所が法的に発足したが,最初の最高裁判所長官及び最高裁判所裁判官が任命され,実際の裁判体制が整うまでには移行期間があった。

2 憲法上の位置付けと司法行政

日本国憲法76条は,全ての司法権を最高裁判所及び法律により設置する下級裁判所に属させ,特別裁判所の設置を禁止した。
同法77条は訴訟手続,弁護士,裁判所内部の規律及び司法事務処理に関する最高裁判所の規則制定権を定め,同法81条は最高裁判所を違憲審査権を有する終審裁判所とした。

裁判所構成法下の大審院は,民事及び刑事の司法裁判所体系における終審裁判所であり,行政事件は別系統の行政裁判所が扱った。
これに対し,日本国憲法は特別裁判所を禁止し,最高裁判所を民事,刑事及び行政事件を通じた現行裁判所体系の最上級に位置付けた。

明治憲法下の司法行政は司法大臣の監督に属していたのに対し,裁判所法12条は最高裁判所の司法行政事務を裁判官会議の議によって行うものとし,同法80条は最高裁判所による下級裁判所の監督を定めている。
司法行政及び裁判所規則の帰属が行政部から裁判所へ移ったことは,両制度の重要な相違である。

大審院には,日本国憲法81条に相当する終審の違憲審査権を定めた憲法上の明文規定はなかった。
もっとも,明治憲法下の裁判所が行政命令の法律適合性又は委任範囲を審査した例もあるため,「大審院は法令の適法性を一切審査しなかった」と説明するのも正確ではない。

3 裁判官数と審理体制

第92回帝国議会衆議院司法委員会では,当時の大審院判事は31人であるのに対し,新しい最高裁判所裁判官は15人であり,両者の性格も大きく異なると政府が説明した。
裁判所法5条は最高裁判所を長官及び14人の判事で構成し,同法9条及び10条は大法廷又は小法廷で事件を扱う仕組みを定めている。

旧大審院係属事件を東京高等裁判所で扱う際には,裁判所法施行令1条が5人の裁判官による合議体を定めた。
これは,通常の高等裁判所の3人合議とは異なる経過措置であり,旧事件の審理を単純に通常の高裁事件へ置き換えたものではない。

第4 法令が定めた個別の連続性

1 旧係属事件は東京高等裁判所へ移管されたこと

裁判所法施行法2条1項は,従前の裁判所でされた事件の受理その他の手続を,政令の定めるところにより,最高裁判所又は下級裁判所でされたものとみなすことを定めた。
これを受けた裁判所法施行令1条は,大審院でされた事件の受理その他の手続を東京高等裁判所でされたものとみなし,一定の旧事件について,同裁判所に大審院と同一の裁判権を認めた。

この移管は,大審院の事件が制度上の当然の帰結として東京高等裁判所へ承継されたことを意味しない。
裁判所法施行法の委任に基づき,旧事件ごとに受理その他の手続を東京高等裁判所でされたものと扱う経過措置である。

2 裁判官の身分と緊急処理

裁判所法施行法3条1項は,裁判所法施行時の大審院長又は大審院判事で最高裁判所裁判官に任命されなかった者を,東京高等裁判所判事に補せられたものとみなした。
この規定は人員の移行先を東京高等裁判所としたものであり,最高裁判所と大審院の組織上の同一性を定めたものではない。

日本国憲法103条は,当時の国務大臣,国会議員,裁判官その他の公務員について,後任者が選挙又は任命されるまで当然には地位を失わない旨を定めた。
さらに,裁判所法施行令12条は,最高裁判所裁判官が任命されるまでの間,従前の大審院長又は大審院判事が,最高裁判所長官又は最高裁判所裁判官に代わって緊急やむを得ない処分を行うことを認め,その処分を最高裁判所側の処分とみなした。

これは最高裁判所の発足直後に裁判機能を空白にしないための限定的な暫定措置である。
同条は,最高裁判所裁判官が任命された後に,最高裁判所が暫定処分を取り消すことができるとも定めていた。

3 大審院判例の先例上の扱い

裁判所法10条3号は,小法廷が従前の最高裁判所の裁判と異なる意見を採ろうとするときは,大法廷で裁判しなければならないと定めている。
裁判所法施行令5条は,この規定の適用上,大審院の判決を従前の最高裁判所の判決とみなした。

したがって,大審院判例には,最高裁判所の小法廷が自由に変更できないという先例上の連続性が明示的に与えられた。
これは法令解釈の統一を維持するための個別措置であり,二つの裁判所が同一の組織であることを意味しない。

4 既存法令中の「大審院」の読替え

裁判所法施行令19条2号は,別段の定めがない限り,他の法令中の「大審院」を「最高裁判所」と読み替えることを定めた。
既存法令を新しい裁判所体系に適合させるための規定であり,この読替規定だけから最高裁判所による大審院の包括承継を導くことはできない。

以上のように,旧事件,人員,緊急処理,判例及び名称には連続性があるが,その範囲はいずれも法令が個別に定めたものである。
本件判決のいう「後身でも承継者でもない」と,これらの経過措置を併せて読むことにより,制度上の断絶と実務上必要な連続性の双方を説明できる。

第5 大審院から最高裁判所への移行に関する裁判例

1 旧係属事件の東京高等裁判所への移管

裁判所法施行令1条による旧係属事件の移管を直接扱った公表裁判例として,次の6件を確認できる。

① 最高裁判所大法廷昭和23年7月7日判決,昭和22年(れ)第188号,窃盗,刑集2巻8号801頁
② 最高裁判所大法廷昭和23年7月19日判決,昭和22年(れ)第126号,物価統制令違反,刑集2巻8号922頁
③ 最高裁判所大法廷昭和23年7月19日判決,昭和22年(れ)第194号,住居侵入,集刑3号267頁
④ 最高裁判所大法廷昭和23年7月29日判決,昭和22年(れ)第304号,食糧管理法違反,集刑3号389頁
⑤ 最高裁判所第二小法廷昭和23年10月2日判決,昭和23年(れ)第586号,昭和20年厚生省令第46号違反・阿片法違反,集刑4号233頁
⑥ 最高裁判所第二小法廷昭和24年2月22日判決,昭和23年(れ)第1414号,食糧管理法違反,刑集3巻2号221頁

昭和23年7月7日大法廷判決が先行して移管を適法とし,本件判決及び同日判決が同じ問題を扱い,その後の判決が先行大法廷判決を援用した。
各判決は事件ごとの上告理由に応答しているため,判示内容が全て同一という意味ではない。

2 選挙訴訟の移管

最高裁判所第二小法廷昭和23年11月13日判決は,昭和23年(オ)第66号参議院全国選出議員選挙無効事件であり,集民1号483頁に掲載されている。
日本国憲法施行前に大審院へ提起された選挙訴訟が東京高等裁判所へ移管されたことを前提として,最高裁判所への上告理由の範囲を判断した裁判例である。

3 大審院判決に対する再審の管轄

大審院が言い渡した判決に対する再審について,最高裁判所ではなく東京高等裁判所を管轄裁判所とした公表裁判例として,次の5件を確認できる。

① 最高裁判所大法廷昭和24年2月25日決定,昭和23年(ね)第2号,殺人・放火・死体損壊被告事件に対する再審請求,刑集3巻3号246頁
② 最高裁判所第二小法廷昭和24年7月6日決定,昭和24年(ヤ)第1号,契約金請求事件につきなした確定判決に対する再審,民集3巻8号279頁
③ 最高裁判所第三小法廷昭和25年6月12日決定,昭和25年(ヤ)第2号,麻加工製作禁止並損害賠償請求,集民3号385頁
④ 最高裁判所第一小法廷昭和26年9月12日決定,昭和26年(マ)第1号,所有権移転登記手続請求,集民5号409頁
⑤ 最高裁判所第二小法廷昭和27年2月1日決定,昭和26年(ヤ)第5号,約束手形金請求事件に対する再審の申立,集民6号55頁

これらの決定は,大審院判決に対する再審を最高裁判所が当然に扱うのではなく,裁判所法施行令1条の経過措置に従って東京高等裁判所が扱うことを具体化したものである。
本件判決の命題が抽象的な歴史評価ではなく,旧事件及び旧判決の管轄を決める法的命題であることを示している。

第6 大審院及び制度移行を調べる資料

1 大審院の沿革と判例を調べる公開資料

国立公文書館アジア歴史資料センター「大審院」は,明治8年の設置,裁判所構成法下の組織及び昭和22年の廃止を簡潔に確認できる。
国立国会図書館デジタルコレクション『法令全書 明治8年』では,大審院設置時の法令原典を閲覧できる。

名古屋大学「裁判例データベース(明治・大正編)」は,大審院民事判決録及び大審院刑事判決録等を検索できるが,収録範囲及び欠落が明記されているため,検索結果を全大審院判例の一覧とみなすことはできない。
国立国会図書館リサーチ・ナビ「日本―大審院・最高裁判所判例集」は,判例集の種類,所蔵及びデータベースへの到達口を整理している。

2 関連記事

制度移行そのものについては,最高裁判所発足時の裁判官任命諮問委員会司法行政を担う裁判官会議,最高裁判所事務総長及び下級裁判所事務局長及び最高裁判所裁判事務処理規則及び先例上の大法廷回付を参照されたい。

大審院時代の裁判官制度に関しては,戦前の裁判官の報酬減額の適法性に関する国会答弁戦前の判事及び検事の定年及び裁判官及び検察官の定年が定められた経緯に関連資料がある。

出典・参考資料

1 法令

① 日本国憲法76条,77条,81条及び103条
② 裁判所法5条,7条,9条,10条,12条,16条,18条及び80条
③ 裁判所法施行法1条,2条,3条及び7条
④ 裁判所法施行令1条,5条,12条及び19条

2 裁判例

① 最高裁判所大法廷昭和23年7月7日判決,昭和22年(れ)第188号,窃盗,刑集2巻8号801頁
② 最高裁判所大法廷昭和23年7月19日判決,昭和22年(れ)第126号,物価統制令違反,刑集2巻8号922頁
③ 最高裁判所大法廷昭和23年7月19日判決,昭和22年(れ)第194号,住居侵入,集刑3号267頁
④ 最高裁判所大法廷昭和23年7月29日判決,昭和22年(れ)第304号,食糧管理法違反,集刑3号389頁
⑤ 最高裁判所第二小法廷昭和23年10月2日判決,昭和23年(れ)第586号,昭和20年厚生省令第46号違反・阿片法違反,集刑4号233頁
⑥ 最高裁判所第二小法廷昭和24年2月22日判決,昭和23年(れ)第1414号,食糧管理法違反,刑集3巻2号221頁
⑦ 最高裁判所第二小法廷昭和23年11月13日判決,昭和23年(オ)第66号,参議院全国選出議員選挙無効,集民1号483頁
⑧ 最高裁判所大法廷昭和24年2月25日決定,昭和23年(ね)第2号,殺人・放火・死体損壊被告事件に対する再審請求,刑集3巻3号246頁
⑨ 最高裁判所第二小法廷昭和24年7月6日決定,昭和24年(ヤ)第1号,契約金請求事件につきなした確定判決に対する再審,民集3巻8号279頁
⑩ 最高裁判所第三小法廷昭和25年6月12日決定,昭和25年(ヤ)第2号,麻加工製作禁止並損害賠償請求,集民3号385頁
⑪ 最高裁判所第一小法廷昭和26年9月12日決定,昭和26年(マ)第1号,所有権移転登記手続請求,集民5号409頁
⑫ 最高裁判所第二小法廷昭和27年2月1日決定,昭和26年(ヤ)第5号,約束手形金請求事件に対する再審の申立,集民6号55頁

3 公的資料・歴史資料

① 国立公文書館アジア歴史資料センター「大審院」
② 最高裁判所「司法制度改革」
③ 最高裁判所『最高裁判所50年の歴史』,PDF1頁~2頁
④ 第92回帝国議会衆議院司法委員会昭和22年3月15日会議録
⑤ 第92回帝国議会貴族院裁判所法案特別委員会昭和22年3月22日会議録
⑥ 国立国会図書館デジタルコレクション『法令全書 明治8年』,81頁~82頁(PDF102頁)
⑦ 最高裁判所事務総局編『司法組織関係法令集』,1949年
⑧ 国立国会図書館「日本国憲法の誕生―違憲審査制」
⑨ 国立国会図書館調査及び立法考査局「明治憲法下の憲法争議と法令審査権」,『レファレンス』829号,2020年

4 文献

① 霞信彦ほか『法学概論[第2版]』(慶應義塾大学出版会,2022年)140頁
② 渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅱ 総論・統治[第2版]』(日本評論社,2025年)329頁・336頁