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司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛の要請に関する最高裁及び法務省の対応(AIリライト)

第1 本記事の対象と基準日

1 対象とする文書と期

(1) 対象とする要請文書と情報公開の手続

本記事は,日弁連会長が各弁護士会会長に宛てて発出していた「司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(要請)」のうち,第68期から第72期までの5通を対象とする。
あわせて,これらの要請文書の発出に当たって最高裁判所(司法研修所),法務省及び日弁連がどのように協議したかについて,情報公開の手続で開示された文書と,不服申立てに対する答申の内容を整理する。

(2) 調査の基準日と資料の対象期間

調査の基準日は令和8年9月19日である。
扱う資料の対象期間は,第68期の要請文書(平成26年9月8日付)から第72期に関する答申を受けた最高裁判所の通知(令和元年8月23日付)までである。

2 第73期以降の扱いとの関係

第73期(令和元年12月5日修習開始)からは,日弁連会長の文書(令和元年9月3日付日弁連法1第246号)の表題が「司法修習生等に対する採用に関する協力について(要請)」に変わり,一定の期日まで採用のための勧誘行為及び採用申込みの応諾をしてはならないとする項目がなくなった。
もっとも,第73期の文書も,事務所見学,採用選考等の日程を司法修習への影響を低減するよう配慮して決めること,導入修習期間中は司法修習の欠席を要する事務所見学,採用選考等を行わないこと,過度の飲食提供をしないこと,採用決定により司法修習生等を拘束しないことなどを求めている。
第73期以降の文書は,「司法修習生等に対する採用に関する日弁連の文書(73期以降の取扱い)」に掲載している。

第2 第68期から第72期までの要請文書

1 要請の内容

(1) 要請の前文と対象外とされた勧誘

第69期の要請文書(平成27年9月3日付日弁連法1第158号)は,前文で,日弁連が「現下の司法修習生の厳しい就業状況に鑑み,平成22年度から,最高裁判所及び法務省との間で,司法修習生に対する採用のための勧誘行為の在り方について協議を重ねてきた」と述べる。
その上で,「とりわけ司法修習開始直後の第1クール終了までの間について,可能な限り司法修習生の修習に専念できる平穏な修習環境を維持するためにお互いに協力する必要があるとの認識を法曹三者で改めて再確認しております。」としている。
また,行き過ぎた勧誘行為等が認められた場合には,弁護士会が当該会員に対し個別に実情に応じた対応をとるなどして協力するよう依頼している。
ひまわり基金法律事務所等の公設事務所及び日本司法支援センターの常勤弁護士への赴任希望者の勧誘は,要請の対象外とされている。

(2) 会員に求められた5項目

第69期の要請文書の「記」は,次の5項目である(原文の1~5を①~⑤に改めた)。
① 会員は,第69期の司法修習生及び司法修習予定者(以下合わせて「司法修習生等」という。)に対し,平成28年2月28日まで,採用のための勧誘行為は行ってはならない。なお,採用情報の提供(修習開始の前後を問わず弁護士会が主催して行う採用説明会を含む。)及び事務所見学の案内は含まれない。
② 会員は,司法修習生等に対し,過度の飲食提供,その他不相当な方法による採用のための勧誘行為を行ってはならない。
③ 会員は,第69期の司法修習生等から採用申込みを受けても,平成28年2月28日までは,これを応諾してはならない。
④ 会員は,第69期司法修習生等に対する採用決定(内定を含む。)により,司法修習生等を拘束してはならない。会員は,第69期司法修習生等の会員に対する採用の申込み又は会員からの採用の申込みに対する第69期司法修習生等の承諾につき,司法修習生等が撤回することを妨げてはならない。
⑤ 会員は,職業選択に関する司法修習生等の自由な意思を尊重しなければならない。

第68期及び第70期から第72期までの要請文書も,期名と期日を除き,この5項目と同じ内容である。
期限が付されているのは①の勧誘行為と③の応諾の制限であり,採用情報の提供と事務所見学の案内は①の勧誘行為に含まれないとされている。
②の過度の飲食提供等の禁止,④の拘束及び撤回妨害の禁止並びに⑤の職業選択の自由の尊重には,期限が付されていない。

2 期ごとの変遷

(1) 期限と協議の相手の一覧

5通の要請文書を並べると,次のとおりである。

期要請文書の日付・番号修習開始日勧誘・応諾をしてはならない期限前文に記載された協議の相手
第68期平成26年9月8日・日弁連法1第168号平成26年12月2日平成27年3月1日最高裁判所及び法務省(平成22年度から)
第69期平成27年9月3日・日弁連法1第158号平成27年12月2日平成28年2月28日最高裁判所及び法務省(平成22年度から)
第70期平成28年10月27日・日弁連法1第236号平成28年12月2日平成29年2月27日司法研修所
第71期平成29年9月7日・日弁連法1第172号平成29年12月4日平成30年2月28日司法研修所
第72期平成30年10月4日・日弁連法1第237号平成30年12月3日平成31年2月27日司法研修所

第69期から第72期までの期限は,いずれもその期の実務修習第1クールの最終日と一致している(山中法律事務所「司法修習の日程」によれば,例えば第69期の第1クールは平成28年1月4日から同年2月28日までである)。
第68期の第1クールの日程は,本記事では確認していない。

(2) 前文の書き方の変化

第68期及び第69期の前文は,「平成22年度から,最高裁判所及び法務省との間で」協議を重ねてきたとし,法曹三者で認識を「改めて再確認」したと述べていた。
第70期の前文は,「現下の司法修習生の厳しい就業状況を踏まえつつ」,平穏な修習環境の維持について「司法研修所と協議しました」とし,法務省への言及がなくなった。
第71期及び第72期の前文は,協議の相手を司法研修所とする点は第70期と同じであり,「厳しい就業状況」への言及もなくなっている。

第3 第69期の協議に関する最高裁と法務省の説明

1 最高裁判所の説明と答申第9号

(1) 事務総長の説明

「第69期司法修習生に対する採用のための勧誘行為自粛について,最高裁が法務省・検察庁及び日弁連との間で授受した文書(実質的な協議に関する文書を含む。)」の開示申出に対し,最高裁判所事務総長は,第69期の要請文書だけを対象文書として特定し,これを開示した(平成27年11月25日付の司法行政文書開示通知書)。
他の文書があるはずだとする苦情の申出について,事務総長は,「司法修習生に対する採用のための勧誘行為自粛については,最高裁判所,法務省・検察庁及び日本弁護士連合会が協議の上,同連合会において,各弁護士会会長に宛てて文書を発出している。」と説明した。
同時に,その協議は,担当者である司法研修所事務局長と日弁連事務次長との間で,口頭で前年までと同様の内容による要請文書を発出することを確認したものであり,文書等のやり取りは行っていないとも説明した(平成28年度(最情)答申第9号2頁)。

(2) 情報公開・個人情報保護審査委員会の判断

情報公開・個人情報保護審査委員会は,最高裁判所事務総長から提出された第68期の要請文書と第69期の要請文書とを見分し,両者の違いは司法修習期と勧誘行為を自粛すべき具体的期日だけであると認めた。
その上で,確認すべき事項が前年とほぼ同様の内容で自粛を要請すること及びその期間を設定することにとどまる以上,口頭のやり取りでも十分に確認できるとして,文書によるやり取りはしていないとする説明を合理的とし,最高裁判所の判断を妥当とした(平成28年度(最情)答申第9号(平成28年4月27日答申)3頁~4頁)。

2 法務省の説明と答申第321号

(1) 不開示決定

法務大臣は,「司法修習生に対する採用のための勧誘行為自粛について,開始当初から現在までの間に,法務省が最高裁及び日弁連との間で授受した文書(実質的な協議に関する文書を含む。)」の開示請求に対し,行政文書を保有していないとして不開示とした(平成28年2月18日付法務省人文第41号の行政文書不開示決定通知書)。

(2) 情報公開・個人情報保護審査会への説明と判断

異議申立てを受けた情報公開・個人情報保護審査会は,事務局職員を通じて法務省に「再確認」や「協議」の有無を確認させた。
法務省は,日弁連の要請文書にいう「再確認」等は司法研修所の事務局長と日弁連の事務次長の間で口頭で取り交わされたものと承知しており,法務省が関与した事実はなく,要請文書を取得・保有した事実もないと回答した。
法務省は,関与していなかったことについて日弁連及び最高裁に確認し,同様の認識である旨の回答を得たとしている。
さらに,第69期より前の勧誘自粛についても,法務省が最高裁及び日弁連と協議を行ってきた事実を確認できなかったと回答した。
審査会は,法務省の説明に不自然,不合理な点はないとし,不開示決定を妥当とした(平成28年度(行情)答申第321号(平成28年9月14日答申)4頁)。

3 両者の説明の食い違い

(1) 資料の記載の違い

日弁連の要請文書は,平成22年度から「最高裁判所及び法務省との間で」協議を重ねてきたと記載し,最高裁判所事務総長の説明も,法務省・検察庁を協議の当事者に挙げていた。
これに対し,法務省は,少なくとも第69期の「再確認」には関与しておらず,それより前の協議の事実も確認できないと説明した。
平成28年度(行情)答申第321号は,最高裁判所事務総長の理由説明書(平成28年1月7日付)に上記の記載があることを確認した上で,法務省の説明を受け入れている(同答申3頁~4頁)。

(2) 答申から確認できる範囲

最高裁判所事務総長の説明も,実際の協議は司法研修所事務局長と日弁連事務次長の間で行われたとしており,法務省によれば最高裁判所も法務省の関与がないとの認識を示している。
そのため,公表された答申からは,第69期の要請文書の発出に当たって法務省が実際に協議に加わった事実は確認できない。
法務省・検察庁を協議の当事者とする最高裁判所の説明は,協議の枠組みを一般的に述べたものと考えられる。
第70期の要請文書(平成28年10月27日付)以降は,前文の協議の相手が司法研修所だけになった(第2の2(2))。

第4 第70期の協議と答申第70号

1 開示された文書と苦情の申出

「第70期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関して,最高裁が日弁連と協議した際に作成し,又は取得した文書」の開示申出に対し,最高裁判所事務総長は,平成29年5月12日付けで,第70期の要請文書(平成28年10月27日付日弁連法1第236号)を対象文書として特定して開示した。
これに対し,最高裁判所が日弁連との間で文書のやり取りを全くしていないとは思えないとする苦情の申出がされた。

2 案文の廃棄と委員会の判断

(1) 事務総長の理由説明書

最高裁判所事務総長の平成29年10月19日付の理由説明書は,「70期要請文書の発出に当たっては,司法研修所事務局長と日弁連事務次長との間で協議が行われ,同文書の案文を作成,取得しているが,この案文は,同文書の内容が確定した時点で,保有する必要がなくなったため廃棄した。」とし,その他に日弁連との間で文書によるやり取りは行われていないと説明した。

(2) 答申第70号

情報公開・個人情報保護審査委員会は,第70期の要請文書が日弁連の弁護士会会長に対する要請文書であり,その記載内容に照らせば,最高裁判所事務総長の説明の内容が不合理とはいえないとし,第70期の要請文書以外に対象文書を保有していないとした最高裁判所の判断を妥当とした(平成29年度(最情)答申第70号(平成30年3月23日答申)2頁)。

第5 第72期の協議と答申第25号

1 開示された事務連絡

「第72期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関して,最高裁が日弁連と協議した際に作成し,又は取得した文書」の開示申出に対し,最高裁判所事務総長は,日弁連事務総長が司法研修所事務局長に宛てた平成30年10月10日付日弁連法1第240号の事務連絡「第72期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する要請について」を対象文書として特定した(平成30年12月11日付の司法行政文書開示通知書)。
この事務連絡は,「貴所との協議に基づき」弁護士会に対して要請を行ったとして,平成30年10月4日付の第72期の要請文書を参考として送付するものである。
氏名,メールアドレス及び裁判所職員の印影は個人識別情報として,電話番号は法人等の正当な利益を害するおそれがある情報として,それぞれ不開示とされた。
令和元年度(最情)答申第25号によれば,不開示部分は日弁連の職員の氏名,電話番号及びメールアドレス並びに裁判所職員の印影である。

2 理由説明書と答申第25号

(1) 事務総長の理由説明書

苦情の申出を受けた最高裁判所事務総長の平成31年1月15日付の理由説明書は,不開示とした電話番号は日弁連ホームページに公表されている法制部法制第一課の電話番号とは異なると説明した。
また,第72期の要請文書の発出に当たり司法研修所事務局長と日弁連事務次長との間で協議は行われたが,文書の内容は昨年版から修習の期及び日付が変更されたのみで実質的な内容には変更がなかったことから,文書のやりとりは行われていないと説明した。

(2) 答申第25号と最高裁判所の通知

情報公開・個人情報保護審査委員会は,事務連絡を見分した結果,記載された電話番号は日弁連ホームページに掲載された番号と異なるとして,不開示を相当とした。
第70期の答申に案文の記載があったとの主張については,第72期に関する本件で原案の存在が直ちに推測されるとはいえないとし,文書のやりとりは行われていないとの説明は不合理とはいえないとして,最高裁判所の判断を妥当とした(令和元年度(最情)答申第25号(令和元年7月19日答申)2頁~3頁)。
最高裁判所事務総長は,この答申を踏まえ,一部不開示の判断を相当と判断した旨を通知した(令和元年8月23日付の苦情の申出に係る対応について(通知))。

第6 要請の背景となった修習専念の考え方

1 自粛の期限が第1クールの終了日とされた理由

第69期の要請文書は,実務法曹養成の実効を期すため,とりわけ司法修習開始直後の第1クール終了までの間は,司法修習生が修習に専念できる平穏な修習環境を維持する必要があるとしていた。
第70期から第72期までの要請文書も,同じ期間について平穏な司法修習環境を維持することを司法研修所と協議したとしている。
要請文書の期限が各期の第1クールの最終日に置かれているのは,この考え方に対応したものと考えられる。

2 司法研修所事務局長の寄稿

平成20年当時に司法研修所事務局長であった林道晴裁判官(34期)は,自由と正義2008年10月号(通号717号)に「新司法修習のポイント」(48頁~54頁)を寄稿している。
同稿は,同号の特集「プロセスとしての法曹養成のなかの新司法修習のゆくえ」の一編であり,新司法修習の導入期に司法研修所事務局長の立場で書かれた論稿である。

第7 関連記事

司法修習生の就職活動と採用に関する記事の役割分担は,次のとおりである。
①第73期以降の日弁連の文書は,「司法修習生等に対する採用に関する日弁連の文書(73期以降の取扱い)」に掲載している。
②現在の就職活動の時期と修習との両立は,「司法修習中の就職活動―始める時期,修習との両立及び進路別の応募・確認事項(AI作成)」で扱っている。
③就職情報サイトと弁護士会の窓口は,「司法修習生の就職関係情報等が載ってあるHP及びブログ(AIリライト)」に整理している。
④各期の修習日程は,「司法修習の年間スケジュール―第79期・第80期,A班・B班と第70期以降の日程資料(AIリライト)」から確認できる。

第8 出典・参考資料

1 情報公開の答申

①平成28年度(最情)答申第9号(平成28年4月27日答申。情報公開・個人情報保護審査委員会,裁判所ウェブサイト)2頁~4頁
②平成29年度(最情)答申第70号(平成30年3月23日答申。同委員会,裁判所ウェブサイト)1頁~2頁
③令和元年度(最情)答申第25号(令和元年7月19日答申。同委員会,裁判所ウェブサイト)1頁~3頁
④平成28年度(行情)答申第321号(平成28年9月14日答申。情報公開・個人情報保護審査会,総務省ウェブサイト)3頁~4頁

2 日弁連の要請文書及び事務連絡

①第68期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(要請)(平成26年9月8日付日弁連法1第168号。最高裁判所の開示文書)
②第69期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(要請)(平成27年9月3日付日弁連法1第158号。最高裁判所の開示文書)
③第70期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(要請)(平成28年10月27日付日弁連法1第236号)
④第71期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(要請)(平成29年9月7日付日弁連法1第172号)
⑤第72期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(要請)(平成30年10月4日付日弁連法1第237号)
⑥第72期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する要請について(事務連絡)(平成30年10月10日付日弁連法1第240号。最高裁判所の開示文書)
⑦第73期司法修習生等に対する採用に関する要請について(事務連絡)(令和元年9月9日付日弁連法1第249号。令和元年9月3日付日弁連法1第246号の会長要請を添付)

3 開示通知書・理由説明書等

①法務省の行政文書不開示決定通知書(平成28年2月18日付法務省人文第41号)
②最高裁判所事務総長の理由説明書(第70期)(平成29年10月19日付)
③最高裁判所事務総長の理由説明書(第72期)(平成31年1月15日付)
④答申書の写しの送付(第72期)(令和元年7月26日付最高裁秘書第3862号)
⑤苦情の申出に係る対応について(通知)(令和元年8月23日付最高裁秘書第4201号)

4 日程資料・文献

①山中法律事務所「司法修習の日程」(第69期から第72期までの実務修習第1クールの日程)
②林道晴「新司法修習のポイント」自由と正義2008年10月号(通号717号)48頁~54頁(国立国会図書館サーチの書誌で確認)