目次
1 69期の要請文書
2 69期の要請文書の発出について,文書によるやり取りはなかったこと
3 70期ないし72期の要請文書
4 72期の要請文書に関して,文書のやり取りは存在しないこと
5 関連記事その他
1 69期の要請文書
(1) 72期以前につき,日弁連は,単位弁護士会会長を通じて日弁連会員(弁護士)に対し,毎年,採用のための勧誘行為自粛を要請していました。
(2) 69期の場合,日弁連は,日弁連会員に対し,以下の要請をしています(第69期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(平成27年9月3日付の日弁連会長要請)(ナンバリングを1ないし5から①ないし⑤に変えています。))。
① 会員は,第69期の司法修習生及び司法修習予定者(以下合わせて「司法修習生等」という。)に対し,平成28年2月28日まで,採用のための勧誘行為は行ってはならない。
なお,採用情報の提供(修習開始の前後を問わず弁護士会が主催して行う採用説明会を含む。)及び事務所見学の案内は含まれない。
② 会員は,司法修習生等に対し,過度の飲食提供,その他不相当な方法による採用のための勧誘行為を行ってはならない。
③ 会員は,第69期の司法修習生等から採用申込みを受けても,平成28年2月28日までは,これを応諾してはならない。
④ 会員は,第69期司法修習生等に対する採用決定(内定を含む。)により,司法修習生等を拘束してはならない。
会員は,第69期司法修習生等の会員に対する採用の申込み又は会員からの採用の申込みに対する第69期司法修習生等の承諾につき,司法修習生等が撤回することを妨げてはならない。
⑤ 会員は,職業選択に関する司法修習生等の自由な意思を尊重しなければならない。
(2) 73期以降の司法修習生については,司法修習開始前の採用活動が正式に解禁されました(「司法修習生等に対する採用に関する日弁連の文書(73期以降の取扱い)」参照)。
2 69期の要請文書の発出について,文書によるやり取りはなかったこと
(1) 69期の場合,司法研修所事務局長は,日弁連事務次長との間で,口頭で,前年までと同様の内容による要請文書を発出することを改めて確認していますが,文書によるやり取りはしていません(平成28年度(最情)答申第9号(平成28年4月27日答申))。
(2) 日弁連の文書には,平成22年度から法務省との間でも協議を重ねてきたと書いてありますが,司法修習生に対する採用のための勧誘行為自粛について,法務省が最高裁及び日弁連と協議を行ってきた事実は確認されていません(平成28年度(行情)答申第321号(平成28年9月14日答申))。
3 70期ないし72期の要請文書
(1)ア 第70期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(平成28年10月27日付の日弁連会長要請)(以下「70期要請文書」といいます。)を掲載しています。
イ 69期までと異なり,協議した相手が司法研修所だけになっていました。
(2) 平成29年10月19日付の最高裁判所事務総長の理由説明書には,「70期要請文書の発出に当たっては,司法研修所事務局長と日弁連事務次長との間で協議が行われ,同文書の案文を作成,取得しているが,この案文は,同文書の内容が確定した時点で,保有する必要がなくなったため廃棄した。」と書いてあります。
(3) 以下の文書を掲載しています。
・ 第71期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(平成29年9月7日付の日弁連会長要請)
・ 第72期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(平成30年10月4日付の日弁連会長要請)
4 72期の要請文書に関して,文書のやり取りは存在しないこと
(1) 平成31年1月15日付の理由説明書には「(3) 最高裁判所の考え方及びその理由」として以下の記載があります。 ア 本件対象文書には公にすると法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報(担当者直通の電話番号)が記載されている。
よって,行政機関情報公開法第5条第2号イに定める不開示情報に相当することから,当該情報が記載されている部分を不開示とした。
なお,苦情申出人は, 日本弁護士連合会ホームページに同会法制部法制第一課の電話番号が公表されている旨主張するが,同電話番号は,本件で不開示とした電話番号とは異なる。
イ また,苦情申出人は,本件対象文書の原案が存在する旨主張するところ,本件対象文書の発出に当たり司法研修所事務局長と日本弁護士連合会事務次長との間で協議は行われたが,本件対象文書の内容は昨年版から修習の期及び日付が変更されたのみで実質的な内容には変更がなかったことから,文書のやりとりは行われていない。したがって,本件対象文書以外に本件開示申出文書に該当する文書を作成又は取得していない。
(2) 本件開示申出文書は,「第72期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関して,最高裁が日弁連と協議した際に作成し,又は取得した文書」です。
5 関連記事その他
(1) 少なくとも69期の場合,第1クールが終了した平成28年2月28日(日)までに,弁護士会主催の就職説明会はほぼ終了していました(「司法修習の日程」参照)。
(2) ジュリナビHPのカレンダー及びアットリーガルHPの法律事務所説明会カレンダーを見る限り,平成28年3月以降,69期を対象とした法律事務所説明会はあまり開催されなかったように思われます。
(3) 34期の林道晴司法研修所事務局長が寄稿した「新司法修習のポイント」には以下の記載があります(自由と正義2008年10月号54頁。なお,改行を追加しました。)。
近時、一部の法律事務所の中には、司法修習が開始される前に(新司法試験の合格発表前の例すらあるようである。)、司法修習生への採用申込みをする者に弁護士としての採用の内定を出している例もあるようである。その結果、司法修習生の中には、内定先の法律事務所での執務に関係のない科目(特に、刑事系の科目)の修習に熱意を見せない者が出てきているなどとの指摘が配属庁会の指導官からされている。
こうしたことこそが、各人の自己実現の機会を制約するだけでなく、統一修習システムの根幹を揺るがすことにもつながりかねない極めて憂慮すべき事態ではなかろうか。
弁護士事務所への就職難という状況があるにしても、少なくとも司法修習の導入部に当たる期間は、司法修習生が落ち着いた環境で修習に専念する必要性が大きいことは異論のないところであり、そのためにはこうした期間内に、修習環境の整備が図られる必要があると考えている。
(4) 令和3年4月30日時点における「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第406号)(略称は「事業主等指針」です。)には以下の記載があります。
ロ 事業主は、採用内定者について労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定の取消しは無効とされることについて十分に留意し、採用内定の取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずること。
また、やむを得ない事情により採用内定の取消し又は入職時期の繰下げを行う場合には、当該取消しの対象となった学校等の新規卒業予定者の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、当該取消し又は繰下げの対象となった者からの補償等の要求には誠意を持って対応すること。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の就職関係情報等が載ってあるHP及びブログ
・ 司法修習生等に対する採用に関する日弁連の文書(73期以降の取扱い)
東京地裁H24.12.28
新卒内定者が承諾書提出後、入社前日に内定辞退。会社が損害賠償請求
→辞退が不法行為になるには「信義則違反の程度が一定のレベルに達していることが必要」と判示。内定後のプレゼン研修での厳しい指摘が辞退の一因であり信義則違反が著しいとまでは言い難いとして請求認めず。
— 弁護士 西川暢春 弁護士法人咲くやこの花法律事務所 新刊『問題社員トラブル円満解決の実践的手法』 (@nobunobuno) August 4, 2022