国家公務員採用総合職試験(院卒者試験)の法務区分は,司法試験合格者を国の行政機関に採用するため,平成24年度に創設された区分である。
法務区分は令和7年度試験を最後に廃止され,令和8年度からは「司法試験合格者に係る係員級選考採用」に移行した。本記事では,旧法務区分の受験資格,試験内容,年度別実施結果及び実際の採用者数を整理した上で,廃止の経緯と後継制度を説明する。
第1 法務区分の位置付け及び現在の制度
1 法務区分は令和7年度試験を最後に廃止されたこと
法務区分は,法的知識及び能力を必要とする国の行政機関の業務に司法試験合格者を誘致するための競争試験として,平成24年度に創設された。したがって,従前の記事にあった「平成25年度から実施された」との記載は正確でない。
人事院は,司法試験の日程変更により,司法試験に合格した年に法務区分を受験することが困難になったことなどを理由として,法務区分を廃止した。関係する人事院規則等は令和7年7月31日に公布され,同年12月1日に施行されたため,令和7年度の春試験が最後の法務区分試験となった。
2 令和8年度から選考採用に移行したこと
令和8年度からは,人事院が申込みを一括して受け付け,各府省が人物試験等を行う司法試験合格者に係る係員級選考採用が実施されている。国家公務員採用試験を受ける制度ではないものの,司法試験合格だけで直ちに採用されるのではなく,各府省による選考を経る必要がある。
なお,旧法務区分の最終合格者を記載した採用候補者名簿の有効期間は3年間である。後継制度への移行後も,令和6年度又は令和7年度の法務区分合格者が,有効な名簿から採用されることがある。
第2 法務区分の創設から廃止まで
1 平成24年度の創設
人事院は,司法制度改革及び法科大学院制度の進展を背景として,法的知識及び能力を必要とする行政機関の業務を志望する司法試験合格者を採用するため,平成24年度に法務区分を創設した。創設年度の申込者数は95人,第1次試験合格者数は68人,最終合格者数は35人であった。
2 令和2年度の延期及び令和5年度の実施休止
法務区分は当初,他の総合職試験とは別に,司法試験合格発表後の秋に実施されていた。ただし,令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響で司法試験の日程が変更されたことに伴い,法務区分の日程も延期された。
司法試験の実施時期が5月から7月へ変更された後,法務区分は令和5年度には実施されなかった。人事院は,令和5年度年次報告書において,従来は秋に実施していた法務区分を令和5年度には実施せず,令和6年度から他の区分と同じ春に実施することとした旨を説明している。
3 令和6年度及び令和7年度の春試験
法務区分は,令和6年度及び令和7年度には,他の総合職試験と同じ春に実施された。令和6年度は申込者15人,最終合格者10人であり,令和7年度は申込者6人,最終合格者5人であった。
もっとも,春に試験を移しても,受験時点では当該年の司法試験にまだ合格していないため,司法試験合格直後の者をその年に採用試験へ誘導するという問題は解消しなかった。人事院は,日程に柔軟に対応できる各府省の選考採用へ移行することとし,法務区分の廃止等を行った。
4 制度改正に対する意見
日本弁護士連合会は,令和7年5月28日付け「国家公務員採用総合職試験(院卒者試験)法務区分の廃止等に関する意見書」において,法務区分を拙速に廃止せず,周知及び受験上の配慮を改善し,応募者数及び採用者数の推移を見た上で再検討すべきであるなどと述べた。また,選考採用へ移行する場合には,採用予定府省,採用予定数,時期及び方法を明らかにし,人事院が一元的な周知を行うべきであるとした。
人事院は,意見公募に対し,司法試験日程の変更に対応した制度改正が必要であり,人事院が各府省の募集を取りまとめ,採用予定府省及び採用予定数を案内するなどと回答した。後継制度は,この回答に沿って,人事院による一括申込みと各府省による選考を組み合わせた仕組みになっている。
第3 旧法務区分の受験資格及び試験内容
1 令和4年度受験案内における受験資格
令和4年度の受験案内では,所定の年齢要件を満たし,法科大学院の課程を修了して司法試験に合格した者,又は司法試験予備試験に合格した上で司法試験に合格した者が受験できた。日本国籍を有しない者や,国家公務員法38条所定の欠格事由に該当する者などは受験できなかった。
その後,在学中受験資格による司法試験が導入されたことを踏まえ,法科大学院の課程を修了する見込みで司法試験に合格した者も対象に加える改正が行われた。この改正は令和5年3月15日に公布され,同年12月1日に施行された。
2 第1次試験及び第2次試験
令和4年度の第1次試験は,基礎能力試験30題を2時間20分で解答する多肢選択式試験であり,配点比率は全体の7分の2であった。司法試験合格を受験資格としていたため,法律科目の専門試験は置かれていなかった。
第2次試験は,政策課題討議試験及び人物試験で構成され,配点比率はそれぞれ7分の2及び7分の3であった。政策課題討議試験では,課題について小論文を作成した後,集団討議及び個別発表を行い,人物試験では人柄,対人的能力等について個別面接を受けたほか,所定の英語試験の成績に応じて15点又は25点が加算された。
3 最終合格と採用は別であったこと
最終合格者は得点順に採用候補者名簿へ記載され,名簿の有効期間は3年間であった。最終合格は各府省への採用を意味せず,採用されるためには官庁訪問を行い,各府省による面接等を受ける必要があった。
各府省は,名簿記載者に対する面接等を経て採用者を決定した。司法修習と国家公務員としての勤務は同時に行うことができないため,司法修習の申込み後に採用される者は,採用時までに司法修習を辞退する必要があった。
第4 法務区分の年度別実施結果
1 平成24年度から令和7年度までの結果
人事院の各年度の実施結果及び年次報告書に基づく申込者数,第1次試験合格者数及び最終合格者数は,次のとおりである。令和5年度は,制度が廃止されたのではなく,春試験へ移行する過程で実施されなかった年度である。
| 試験年度 | 申込者数 | 第1次試験合格者数 | 最終合格者数 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 平成24年度 | 95人 | 68人 | 35人 | 創設年度 |
| 平成25年度 | 150人 | 68人 | 36人 | |
| 平成26年度 | 87人 | 64人 | 39人 | |
| 平成27年度 | 62人 | 46人 | 28人 | |
| 平成28年度 | 66人 | 41人 | 32人 | |
| 平成29年度 | 23人 | 17人 | 12人 | |
| 平成30年度 | 22人 | 12人 | 11人 | |
| 令和元年度 | 20人 | 12人 | 11人 | |
| 令和2年度 | 24人 | 18人 | 17人 | 司法試験日程の変更に伴い延期 |
| 令和3年度 | 17人 | 10人 | 8人 | |
| 令和4年度 | 13人 | 9人 | 9人 | 秋試験としての最終年度 |
| 令和5年度 | ― | ― | ― | 実施せず |
| 令和6年度 | 15人 | 11人 | 10人 | 春試験へ移行 |
| 令和7年度 | 6人 | 5人 | 5人 | 最後の試験 |
2 数値を読む際の注意点
申込者数は平成25年度の150人を最多として減少し,最後の令和7年度には6人となった。ただし,公表された統計だけから,減少の原因を一つに特定することはできない。
また,最終合格者数は実際の採用者数ではない。最終合格後に官庁訪問をしない者,他の進路を選択する者又は各府省の採用に至らない者がいるため,制度の利用実態を把握するには,次に示す採用者数を別に見る必要がある。
第5 最終合格者数と実際の採用者数
1 人事院が公表する試験年度別採用者数
人事院が令和6年4月1日現在として公表した平成26年度試験以降の採用者数は,次のとおりである。平成29年度及び令和5年度は0人であり,そのほかの年度も1人から5人にとどまっている。
| 試験年度 | 採用者数 |
|---|---|
| 平成26年度 | 5人(うち女性3人) |
| 平成27年度 | 5人(うち女性3人) |
| 平成28年度 | 2人(うち女性1人) |
| 平成29年度 | 0人 |
| 平成30年度 | 2人(うち女性1人) |
| 令和元年度 | 1人 |
| 令和2年度 | 1人 |
| 令和3年度 | 1人 |
| 令和4年度 | 1人(うち女性1人) |
| 令和5年度 | 0人(試験を実施せず) |
採用府省等として公表されているのは,公正取引委員会,金融庁,財務省,文部科学省,農林水産省,衆議院法制局及び参議院法制局である。もっとも,上の表は特定の基準日現在の集計であり,3年間有効の採用候補者名簿から基準日後に採用される場合がある。
2 創設当初の採用状況
法務省の平成27年10月実施分の国の行政機関等における法曹有資格者の採用状況についての調査結果報告では,平成24年度,平成25年度及び平成26年度の採用者数は,それぞれ8人,8人及び4人であった。これに対し,後年の人事院資料では平成26年度試験の採用者数が5人とされており,基準日後の採用又は集計方法の違いが考えられる。
このように,異なる資料の採用者数を比較する際には,試験年度,採用年度,集計基準日及び採用候補者名簿の有効期間を区別する必要がある。高橋滋『分権・公務改革と行政法学』(弘文堂,令和6年)281頁~284頁も,法務区分の最終合格者の多くが最終的に公務を選択していないことを指摘している。
第6 司法試験合格者に係る係員級選考採用
1 選考採用の法的性質及び対象となる官職
国家公務員法36条は,職員の採用を原則として競争試験によるものとしつつ,競争試験以外の能力の実証に基づく試験である選考による採用を認めている。同法57条によれば,選考による採用は,任命権者が標準職務遂行能力及び適性を有すると認める者の中から行う。
後継制度の対象は,主に総合職試験合格者が従事する政策の企画立案,調査研究等のうち,法に関する知識及び能力を必要とする係員級の官職である。採用時の職務の級は,総合職試験(院卒者試験)合格者に相当するものとされている。
2 令和8年度選考の受験資格
令和8年度の受験案内では,平成8年4月2日以降に生まれ,司法試験に合格した者が基本的な対象である。日本国籍を有しない者,国家公務員法38条により国家公務員となることができない者などは対象にならない。
司法試験合格後に直ちに申し込む必要はなく,所定の年齢要件を満たす既合格者も申し込むことができる。ただし,受験資格を満たしても,希望する府省が当該年度に採用を予定しているとは限らないため,人事院が公表する最新の府省等別採用予定数を確認する必要がある。
3 申込み及び選考方法
令和8年度の申込受付期間は,同年3月16日午前10時から4月30日までであり,5月1日に受付終了が公表された。第1次選考では,人事院が司法試験合格を証明する書類を確認し,合格を確認できた申込者は第1次選考の合格者となる。
第2次選考は,各府省が令和8年6月1日以降に人物試験を実施する。府省によっては,小論文その他の筆記試験を追加する場合があるため,国家公務員採用試験を受けないことと,採用のための能力実証を受けないことは同じではない。
採用時期は原則として令和9年4月1日であるが,各府省との調整により,それより前に採用される場合がある。司法修習と国家公務員としての勤務は同時に行うことができないため,司法修習を予定する者は採用時期を各府省と調整する必要がある。
4 旧法務区分との主な違い
旧法務区分と後継の選考採用との違いは,次のとおりである。
| 項目 | 旧法務区分 | 令和8年度からの選考採用 |
|---|---|---|
| 制度の性質 | 人事院が実施する競争試験 | 各府省の任命権者による選考採用 |
| 申込み | 法務区分試験への申込み | 人事院が各府省分を一括受付 |
| 第1段階 | 基礎能力試験 | 人事院による司法試験合格書類の確認 |
| 第2段階 | 政策課題討議試験及び人物試験 | 各府省の人物試験等 |
| 採用候補者名簿 | 最終合格者を3年間記載 | 旧法務区分と同じ名簿方式ではない |
| 採用主体 | 名簿記載者から各府省が採用 | 各府省が自ら選考して採用 |
5 選考結果の公表状況
人事院は,選考結果を実施後に掲載すると案内している。しかし,令和8年8月8日現在,令和8年度選考の申込者数,第1次選考合格者数,各府省の第2次選考結果及び採用者数は,人事院の選考ページに掲載されていない。
後継制度の利用状況を評価するには,今後公表される申込者数,選考合格者数及び実際の採用者数を区別して確認する必要がある。また,旧法務区分の採用候補者名簿からの採用も当面並行し得るため,両制度の採用者を混同しないことが重要である。
第7 出典
1 法令及び人事院の制度資料
① e-Gov法令検索「国家公務員法」では,令和8年8月8日現在の36条,38条,56条及び57条を確認した。人事院「総合職試験(院卒者試験)法務区分の廃止等」では,創設目的,廃止理由,公布日及び施行日を確認した。
② 人事院「司法試験合格者に係る係員級選考採用」及び令和8年度受験案内では,受験資格,申込期間,選考方法,採用時期及び結果の公表状況を確認した。人事院「任免関係の運用通知」では,司法試験合格者を選考採用できる官職並びに募集及び能力実証の取扱いを確認した。
2 試験結果及び採用実績
① 人事院の各年度の年次報告書及び試験実施結果を用いた。直近の数値は,令和6年度試験実施状況及び令和7年度試験実施状況で確認した。
② 実採用者数及び採用府省等は,人事院「法科大学院生の皆さんへ」で確認した。創設当初の申込者数,最終合格者数,官庁訪問者数及び採用者数は,法務省「国の行政機関等における法曹有資格者の採用状況についての調査結果報告」4頁で確認した。
3 意見書及び専門文献
① 制度改正に対する意見は,日本弁護士連合会「国家公務員採用総合職試験(院卒者試験)法務区分の廃止等に関する意見書」(令和7年5月28日)及び人事院の意見公募結果で確認した。両者の立場を区別して本文へ反映した。
② 専門文献として,高橋滋『分権・公務改革と行政法学』(弘文堂,令和6年)281頁~284頁を参照した。同書は,法務区分の創設,直近の試験結果及び最終合格者と実採用との隔たりを論じている。