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裁判官の育児休業に関する国会答弁(AIリライト)

第1 裁判官の育児休業に関する法律の概要

1 目的と法的位置付け

裁判官の育児休業に関する法律(平成3年法律第111号。以下「本法」という。)は,平成3年12月24日に公布され,平成4年4月1日に施行された。
第1条は,本法の目的を「育児休業に関する制度を設けて子を養育する裁判官の継続的な勤務を促進し、もって裁判官の福祉を増進するとともに、裁判事務等の円滑な運営に資すること」と定めている。

裁判官は司法権の独立の観点から一般職の国家公務員とは異なる身分保障を受けており,育児休業についても,国家公務員の育児休業等に関する法律(平成3年法律第109号)とは別に,本法という独自の法律が定められている。
もっとも,本法の内容は,制定以来,一般職の国家公務員向けの育児休業法制の改正に歩調を合わせる形で改正が重ねられてきた。
本記事は,本法の制定から現在までの改正の経緯と,各改正の際に国会でされた関係者の答弁を,時系列に沿って整理するものである。

2 現行の条文構成

本法は,令和4年法律第31号による改正(令和4年10月1日施行)後の現行条文で,次の8か条から成る。

① 第1条(目的)
② 第2条(育児休業の承認)-裁判官は,最高裁判所の承認を受けて,その3歳に満たない子を養育するための育児休業をすることができる。ただし,同一の子について既に2回の育児休業をしたことがある場合は,原則としてこれ以上の育児休業をすることができない(後記第6の2参照)。最高裁判所は,請求に係る期間について裁判官の事務を処理するための措置を講ずることが著しく困難である場合を除き,これを承認しなければならない。
③ 第3条(育児休業の期間の延長)-延長は,最高裁判所規則で定める特別の事情がある場合を除き,1回に限られる。
④ 第4条(育児休業の効果)-育児休業をしている裁判官は,裁判官としての身分を保有するが,その期間中,報酬その他の給与を受けない。
⑤ 第5条(育児休業の承認の失効等)-産前休業の開始・出産,裁判官弾劾法第39条による職務停止,子の死亡等により失効する。
⑥ 第5条の2(期末手当等の支給)-第4条により報酬は支給されないが,期末手当又は勤勉手当は,国家公務員の育児休業等に関する法律の適用を受ける職員の例に準じて支給される。
⑦ 第6条(不利益取扱いの禁止)-裁判官は,育児休業を理由として,不利益な取扱いを受けない。
⑧ 第7条(退職手当に関する育児休業の期間の取扱い)
⑨ 第8条(最高裁判所規則)

3 制定以来の改正の経緯

本法は,制定後,少なくとも次の7回にわたり改正されている。
このうち,対象年齢の拡大(平成13年),配偶者要件の撤廃(平成21年),対象となる子の範囲拡大(平成28年),取得回数制限の緩和(令和4年)の各改正については,後記第3から第6までで内容を詳述する。

① 平成11年法律第144号(平成11年11月25日公布,同日施行。ただし期末手当等の支給に関する規定は平成12年1月1日施行)-育児休業をしている裁判官に対し,国家公務員の育児休業等に関する法律の適用を受ける職員の例に準じて期末手当・勤勉手当を支給することとした(第5条の2の新設)。臼井日出男法務大臣が,平成11年11月17日の衆議院法務委員会及び同月11日の参議院法務委員会において提案理由を説明している。
② 平成13年法律第144号(平成13年12月7日公布,平成14年4月1日施行)-後記第3参照。
③ 平成17年法律第115号(平成17年11月7日公布,平成18年4月1日施行)-国会会議録検索システムで本法の題名を用いた質疑を検索した限りでは,この改正に固有の実質的な国会審議は確認できなかった。同時期は裁判官・検察官の給与構造改革が行われた時期であり,技術的な規定整備にとどまるものであった可能性がある。
④ 平成21年法律第95号(平成21年11月30日公布,平成22年6月30日までの間において政令で定める日から施行)-後記第4参照。
⑤ 平成28年法律第63号(平成28年6月3日公布,平成29年4月1日施行)-国会会議録検索システムで本法の題名を用いた質疑を検索した限りでは,この改正に固有の実質的な国会審議は確認できなかった。
⑥ 平成28年法律第96号(平成28年12月2日公布,平成29年1月1日施行)-後記第5参照。
⑦ 令和4年法律第31号(令和4年4月22日公布,令和4年10月1日施行)-後記第6参照。

③及び⑤の2回の改正については,e-Gov法令検索の改正履歴に改正法の番号・公布日・施行日は明記されているものの,国会会議録検索システムで「裁判官の育児休業に関する法律」を検索語として調査した限りでは,これらの改正に固有の実質的な質疑を見出すことができなかった。
他の法律の改正に伴う技術的な規定整備(引用条文番号の整理等)にとどまる改正であった可能性があるが,断定はしない。

4 関連する裁判例の有無

裁判所ウェブサイトの裁判例検索において,全文検索欄に「育児休業」,絞り込み検索欄に「裁判官」を指定して検索したところ74件,「育休」と「裁判官」の組合せでは23件が該当したが,いずれも当事者は民間企業や地方公務員等であり,裁判官本人の育児休業の取得・拒否・不利益取扱いそのものが争点となった裁判例は確認できなかった。
また,裁判官の分限事件(事件符号「(分)」「(分ク)」)は裁判所ウェブサイトに合計6件掲載されているが,育児休業との関連をうかがわせるものはなかった。
裁判所ウェブサイトに掲載されていないことは,当該裁判例が存在しないことを意味するものではない。
もっとも,本法が裁判官という特殊な職についての内部の人事運用を定めるものであることに照らすと,通常の訴訟にはなじみにくい分野であると考えられる。

第2 平成3年の国会答弁

・ 15期の泉徳治最高裁判所人事局長は,平成3年12月16日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしている(ナンバリングを追加している。)。

① 現在女性の裁判官は百五十五人でございまして、そのうち九十七人が結婚をいたしております。
  それからこの女性の裁判官の出産でございますが、昨年女性裁判官で出産いたしました者は九人でございます。過去五年間の平均をとりますと、平均八人の女性裁判官が出産をいたしております。
② この育児休業法ができましたときには何人ぐらいの育児休業をとる者が予想されるかという御質問でございますけれども、平均でまいりますと、最大八人とる可能性はございます。
  ただ、現在女子教職員等について育児休業制度というのはできておりますが、それの取得率を見ますと、七割というふうに聞いておりますので、七割といたしますと、六人ということになります。六人から八人程度の者がとることが予想されるわけでございます。

この答弁は,本法が国会で審議されていた平成3年当時,最高裁判所が育児休業の取得者数をどの程度と見込んでいたかを示すものである。
この予測(年6人から8人程度)と,後記第3以下でみる実際の取得者数の推移とを対比すると,制度発足当初の女性裁判官の育児休業取得率がいかに高かったか,そして男性裁判官の取得がいかに例外的であったかが浮かび上がる。

第3 平成13年の法改正と国会答弁

1 法改正の内容

平成13年法律第144号による改正は,裁判官の育児休業の対象となる子の年齢を,それまでの「1歳に満たない子」から「3歳に満たない子」に引き上げるものであった。
森山眞弓法務大臣は,平成13年11月27日の参議院法務委員会において,次のとおり提案理由を説明している。

「この法律案は、最近における我が国の社会経済情勢にかんがみ、子を養育する裁判官の継続的勤務を促進し、裁判事務等の一層の円滑な運営等に資するため、裁判官の育児休業の対象となる子の年齢を、現行の一歳未満から三歳未満に引き上げるとともに、所要の経過措置を定めるものであります。」

同改正案は,平成13年11月29日の参議院法務委員会で全会一致で可決された。
委員長報告(高野博師参議院法務委員長)は,審議の内容として「育児休業中の代替措置等環境整備の必要性、育児休業取得による再任への影響の有無、男性裁判官の育児休業が少ない理由、裁判官の人権教育の充実の必要性等について質疑が行われた」旨を述べている。

2 国会答弁の内容

・ 21期の金築誠志最高裁判所人事局長は,平成13年11月16日の衆議院法務委員会において,以下のとおり答弁している(ナンバリングを追加している。)。
この答弁は,前記1の法改正案の審議過程でされたものである。

① この育児休業制度が施行されましたのは平成四年の四月一日からでございます。それから本年の九月一日現在まででほぼ十年弱でございますが、育児休業をとった裁判官は合計百十四人でございます。その後、現在までにまた数人ふえております。
  男女別で申しますと、今申し上げました九月一日までの百十四人は全員女性の裁判官でございまして、その後現在までに取得した数名の中の一名が男性でございます。
② 夫がとるか妻がとるか、これは個々の裁判官の家庭事情で、夫婦で話し合ったりしてお決めになっていることだと思います。夫と妻とどちらがとるかということを、どういう理由でそうしたのかということを調査しているかということなんですけれども、これは家庭のプライバシーのことでもありますので、今までそういうことを調査したことはございません。
  いずれにいたしましても、これまでの育休自体の取得状況から見ましても、裁判所において子供を持った裁判官が育休をとりにくいという環境にはないというふうに考えておりまして、男性裁判官についてもこの点は基本的には当てはまるのではないかというふうに思っております。
③ 復帰するときのポジションという御質問で、判事補が育児休業をとりまして、任期内であればまた判事補に戻る、それから、育児休業中に異動をさせるということは普通は考えられませんので、例えばある裁判所に配置されている裁判官であれば、同じその裁判所の裁判官として戻るということになると思います。ですから、原則として同じポジションに戻るということになりましょうか。
  今例としてお尋ねになりました、九年目の判事補が三年間育児休業を取得してどういう形で戻るのかという御質問だったかと思いますが、この場合は、途中で、判事補の任期が十年で終了いたしまして判事へ任命する、俗称は再任と申しておりますが、この問題がちょっと絡みますので、こうした点についても育児休業を取得することによる不利益を負わせないという基本的な姿勢で考えていくべきものかと思いますけれども、再任自体については、これは裁判官に対しての新しい任命でございますので、いろいろなほかの問題もございまして、総合的な見地から判断して決定していかなければならない。ですから、九年目で三年やった場合にはどういう形で戻るかということを一律に申し上げるということがなかなかできないんじゃないかと思っております。
④ いわゆる宅調というものは、これは昔、裁判所の施設、部屋、机等も十分でなかった時期に、非開廷日には家で判決を書いたり記録を検討したりするということで事実上かなり行われていた制度でございまして、現在でも、例えば判決を集中して書く、特に長い大きな判決を書くときなどは、役所へ参りますとどうしても電話がかかってきたりいろいろな人が来たりして、十分落ち着いて、妨げられずにできにくいということで、事実上自宅でそういう仕事をする。これが宅調と言われているものでございますが、これは、今申し上げましたように、あくまでも仕事のために必要なときにするということで、育児というようなものを宅調制度を利用してやるというのは、ちょっと考えられないのではないか。
  仕事、育児を担う裁判官について、育児休業制度以外の面で裁判所がどういう配慮、努力をするかという点では、事件の分担などは各裁判所が事務分配で自律的に決めておりますが、そういう場合にある程度何かの配慮をしているというケースもあるかもしれませんし、任地でございますと、育児について協力してくれる親御さんがおりますと、できるだけその近くに配置してあげるとか、そういうふうないろいろな配慮はしております。
⑤ まず現在から申し上げますと、十月十七日現在の数でございますが、全裁判官三千六人のうち、女性は三百七十九人、一二・六%でございます。内訳を申し上げますと、判事が千四百十四人中百二十九人で九・一%、判事補が八百人中百九十七人で二四・六%、簡裁判事が七百九十二人中五十三人で六・七%。今申し上げましたように、判事補の割合が圧倒的に高うございます。ということは、つまり、最近の若い方の女性の比率が非常にふえておりまして、非常に増加傾向にあるということでございます。
⑥ 裁判官育児休業法六条にいいます「不利益な取扱い」は、裁判官の意思に反する免官、転官、転所、職務の停止等が考えられるわけでございますが、こうしたことは、裁判官につきましては原則として「その意思に反して、免官、転官、転所、職務の停止又は報酬の減額をされることはない」というふうに規定されておりますので、そういう取り扱いは本来あり得ないところではございます。
  しかし、仮に育児休業を取得した裁判官が育児休業を取得したこと自体を理由としてそういった不利益な取り扱いを受けたということになりました場合には、それが行政処分に当たります場合には、行政不服審査法に基づく異議申し立て、あるいは行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟の提起をすることができるというふうに解されております。また、その不利益な取り扱いが行政処分に当たらないという場合には、権限を有する者に事実上の申し出をするとか損害賠償請求等の民事訴訟を提起するといったことも考えられるということになります。

⑥の答弁は,本法第6条の「不利益な取扱い」の意義及びこれに違反した場合の救済手段について,最高裁判所自身が示した解釈である。
同条にいう「不利益な取扱い」とは,裁判官の意思に反する免官・転官・転所・職務の停止等をいい,これが本法第6条に違反して行われた場合,当該取扱いが行政処分に当たるときは行政不服審査法に基づく審査請求又は行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟が,行政処分に当たらないときは民事訴訟(損害賠償請求等)が,それぞれの救済手段として想定されている。

第4 平成21年の法改正と国会答弁

1 法改正の内容

平成21年法律第95号による改正前は,育児休業を取得しようとする裁判官の配偶者が育児休業をしている場合,又は配偶者が専業主婦であるなど当該裁判官以外の子の親がその子を常態として養育することができる場合には,裁判官は育児休業を取得することができないとされていた(以下「配偶者要件」という。)。
この規定は,共働きでない限り男性裁判官が育児休業を取得できないことを意味し,男性裁判官の育児休業取得がほとんど広がらなかった制度的な要因の一つであったと考えられる。

平成21年法律第95号は,この配偶者要件を撤廃するとともに,子の出生の日から一定期間内に最初の育児休業をした裁判官について,再度の育児休業をすることができるようにするものであった。
千葉景子法務大臣は,平成21年11月27日の参議院法務委員会において,次のとおり提案理由を説明している。

「裁判官の育児休業について、配偶者が育児休業をしている場合にもこれをすることができるようにする等の必要があることから、この法律案を提出した次第でありまして、改正の内容は、次のとおりでございます。
 第一に、配偶者が育児休業をしている裁判官について、育児休業をすることができるようにいたしております。
 第二に、子の出生の日から一定期間内に最初の育児休業をした裁判官について、再度の育児休業をすることができるようにいたしております。」

木庭健太郎参議院議員は,同日の質疑において,改正前の制度を「現在は、育児休業を取得しようとする裁判官の配偶者が育児休業をしている場合及び配偶者が専業主婦であるなど当該裁判官以外の子の親がその子を常態として養育することができる場合には裁判官は育児休業を取ることができないとされている」と説明した上で,「男性裁判官の育児休業をとにかく促進したいと、これを少し進めたいというようなどうも改正の内容だ」と指摘している。

2 国会答弁の内容

・ 29期の大谷直人最高裁判所人事局長は,平成21年11月27日の参議院法務委員会において以下の答弁をしている(ナンバリングを追加している。)。

① 今の御質問(山中注:平成4年4月1日の育児休業制度の開始以来,育児休業を取得した男性裁判官は何人であるかという質問)の点については、男性裁判官は一名でございます。
② 最高裁としましては、育児休業を申し出られた際にはすべてこれを認めるという運用で来ているわけでございます。女性裁判官につきましては、ですからかなりの数が申し出られているわけでございますが、裁判官については今御指摘のとおりということでございます。ちょっと原因について、なぜ取得しないのかということはつまびらかではありませんが、いずれにせよ今回の改正でその環境整備をしていきたいと、こんなふうには考えております。
③ まず私どもとしては、何といっても言わばユーザーといいますか若い世代の裁判官がこの制度について正しく理解しているということが必要だろうと思うわけでありまして、この点については、判事補に任官したこの時点の、この段階から育児休業制度の趣旨あるいは内容、利用方法というものは十分説明してまいりました。
  さらに、それぞれの各庁におきまして、所長が妊娠の事実を把握したときには、改めてこういう制度があるということについての注意を喚起してまいりましたし、それからまた、育児休業を取得しやすい職場の雰囲気づくりということであれば、これは部総括裁判官、受け入れる側の部総括裁判官の認識あるいは理解も十分必要だろうと思うわけで、この点については、部総括の研究会でこれまでもその重要性について、制度の重要性についてはいろいろ告知をしてきたところでございます。その運用、こういった運用、いろいろな機会において、更に今回の改正がされた際には、その制度の趣旨を含めて十分伝えていきたいと、このように考えております。

①の答弁が示す「男性裁判官は一名」という数字について,木庭健太郎議員は,同じ質疑の中で「十七年間で何人取ったかというと、一人でございます。それも、聞きましたら、平成十三年のお一人いらっしゃったということでございますが」と述べている。
これは,平成13年10月に育児休業を取得した後記第8の1の平野哲郎判事補(当時)を指すものであり,平成4年の制度発足から平成21年に至るまでの17年余りの間,男性裁判官による育児休業の取得例はこの1件のみであったことが,この答弁により裏付けられる。

第5 平成28年の法改正

平成28年法律第96号による改正は,裁判官の育児休業の対象となる子の範囲を拡大するものであった。
金田勝年法務大臣は,平成28年11月22日の参議院法務委員会において,次のとおり提案理由を説明している。

「裁判官の育児休業の対象となる子の範囲を拡大する必要があることから、対象となる子の範囲を、特別養子縁組の成立が請求され、現に監護されている者、児童福祉法の規定により養子縁組里親に委託されている児童など、法律上の親子関係に準ずる関係にある者にも拡大するものであります。
 この改正は、平成二十九年一月一日から施行することとしております。」

秋野公造参議院法務委員長の本会議報告によれば,この改正は「一般の政府職員の育児休業法の改正に伴い、裁判官に係る育児休業の対象となる子の範囲を拡大しようとするもの」であり,同時に審議された裁判官・検察官の給与改定法案(賛成多数で可決)とは異なり,全会一致で可決された。
参議院法務委員会では,佐々木さやか議員が,特別養子縁組を活用した新生児期からの里親委託(いわゆる愛知方式)の後押しになるとの理解を示した上で,厚生労働省の取組を質問している。

この改正により,本法第2条第1項にいう「子」には,実子・養子のほか,①民法第817条の2第1項の特別養子縁組の成立を裁判官が家庭裁判所に請求し,現に監護している者(当該請求に係る家事審判事件が係属している場合に限る。),②児童福祉法第27条第1項第3号の規定により養子縁組里親である裁判官に委託されている児童,③その他これらに準ずる者として最高裁判所規則で定める者が含まれることとなった。

第6 令和4年の法改正と国会答弁

1 法改正前の国会答弁(令和4年3月4日)

・ 47期の小野寺真也最高裁判所総務局長は,令和4年3月4日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしている。

裁判官が育休を取得した場合でありましても、全国的規模の異動、所属裁判所内での配置換え、事件配填の変更、係属事件の配填替えなどの措置を講ずることで、裁判等の事務に支障が生じないよう対応しておりますほか、各庁に裁判官を配置するに当たりましては、こうした事情も総合考慮して配置を行っているところであります。
今回の判事補四十人の減員につきましては、充員の状況のほか、育休取得等の観点も考慮に入れました上で、減員しても将来の事件処理に支障を生じさせない範囲であるというふうに考えておりまして、今後も引き続き、裁判官の育休取得に対しても適切な対応を行っていくことができるものと考えております。

この答弁は,裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(判事補を40人減員する内容)に関する質疑の中でされたものである。
質問者の五十嵐清衆議院議員は,「裁判官育休法改正が成立をしますれば、今後、育休を取得する男性裁判官が更に増えることが予想されます」と述べた上で,判事補の減員が育休取得者の増加と両立するかを質している。
後記3でみるとおり,この予想は的中し,男性裁判官の育児休業取得率はこの後急速に上昇することになる。

2 法改正の内容

令和4年法律第31号による改正は,裁判官の育児休業の取得回数の制限を緩和するものであった。
同法案は,前記1の裁判所職員定員法改正案と一括して国会に提出され,審議された。
古川禎久法務大臣は,令和4年3月2日の衆議院法務委員会において,次のとおり提案理由を説明している。

「裁判官について育児休業の取得回数の制限を緩和する必要があることから、育児休業を原則二回まで取得可能とすることに加え、子の出生後五十七日間以内に育児休業を二回まで取得可能とするものであります。」

これは,民間労働者を対象とする育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の令和3年改正(令和4年10月1日施行)により,出生後8週間以内に2回まで取得できる出生時育児休業(いわゆる産後パパ育休)が新設されたことに対応するものであり,本法の改正も令和4年10月1日に施行された。
改正後の本法第2条第1項ただし書は,同一の子について既に2回の育児休業をした場合,原則としてそれ以上の育児休業をすることができない旨を定めつつ,子の出生の日から最高裁判所規則で定める期間(産後の休業をすることができる期間を考慮して定められる。)内にした最初の育児休業及び2回目の育児休業は,この2回の制限の対象から除外している。
したがって,裁判官は,出生後間もない時期の育児休業を最大2回取得した上で,別途,通常の育児休業を原則として2回まで取得することができることになる。

もっとも,民間労働者向けの出生時育児休業には,労使協定を締結した場合に限り,労働者の合意の範囲内で休業期間中に部分的に就労することを認める仕組みがあるのに対し,本法上の育児休業は,前記第1の2の②のとおり「職務に従事しないこと」と定義されており,休業中の部分的な職務従事という概念自体が存在しない。
この点は,裁判官の育児休業と民間労働者の出生時育児休業との制度上の大きな相違点である。

3 法改正後の国会審議(令和4年4月14日)

裁判所職員定員法改正案及び裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案は,衆議院での可決を経て,令和4年4月14日の参議院法務委員会で実質審議が行われた。
47期の徳岡治最高裁判所事務総局人事局長は,同委員会において,複数の議員の質問に対して以下のとおり答弁している(ナンバリングを追加している。)。

① 清水真人議員から,男性裁判官の育児休業取得率が平成28年には5・6%であったのに対し令和2年には36・9%まで伸びていることを踏まえ,今回の改正によりどの程度取得率が伸びると予測されるかを問われたのに対し,次のとおり答弁している。

「今回の育児休業法の改正によりまして柔軟な育児休業の取得が可能となります。これによりまして育児休業の取得が拡大をするというふうに思われますけれども、それが実際どの程度拡大するのかを試算することは困難でございますが、改正の趣旨に即して、制度の周知に努めるとともに、必要があるときはちゅうちょしないで育児休業を申し出ることができるよう、環境の整備に努めてまいりたいというふうに考えております。
なお、裁判官が育児休業を取得する場合には、各庁の実情を踏まえて、当該裁判所における裁判官の配置換えや事件配填の変更、係属事件の配填換え等の工夫のほか、裁判官の異動等の措置により、裁判運営等に支障が生じないよう対応してきたところでございます。」

② 真山勇一議員から,令和2年度の育児休業取得率が一般職の国家公務員では62・4%であるのに対し裁判官は36・9%にとどまっていることを指摘されたのに対し,次のとおり答弁している。
なお,同議員は,この質疑の中で,裁判官については民間企業や一般職の国家公務員と異なり勤務時間そのものを把握する仕組みがないことも問題視している。

「委員御指摘のとおり、男性の裁判官の育児休業の取得率あるいは年次休暇についての裁判官の取得状況は一般職とは若干状況が違うということは委員御指摘のとおりでございます。裁判官についてもワーク・ライフ・バランスは重要であるというふうに考えておりまして、今後も仕事と育児や介護との両立支援制度の周知に努めるなどして積極的に取り組んでまいりたいというふうに思っております。」

③ 高良鉄美議員(沖縄の風)から,第5次男女共同参画基本計画(令和3年度から実施。指導的地位に占める女性の割合を令和2年代の可能な限り早期に30%程度とする目標を掲げ,最高裁判事を含む裁判官全体に占める女性の割合を高めるよう関係方面に要請することを盛り込んでいる。)を踏まえ,裁判所職員に占める女性の割合及び育児休業取得率を問われたのに対し,次のとおり答弁している。

「令和三年十二月一日現在における裁判官に占める女性の割合、これは二三・七%でございます。令和三年七月一日現在における裁判官以外の裁判所職員につきましては、書記官が三七・二%、家庭裁判所調査官、これには家庭裁判所調査官補を含みますけれども、が五五・九%、事務官が四六・〇%という女性割合でございます。
裁判官以外の裁判所職員の令和三年七月一日における最高裁課長相当職以上に占める女性の割合、これは一七・四%、下級裁課長、最高裁課長補佐相当職に占める女性の割合は三〇・〇%、係長相当職に占める女性の割合は四八・一%でございます。
令和二年度における裁判官の育児休業の取得率は、女性が一〇〇%、男性が三六・九%でございます。裁判官以外の裁判職員の育児休業取得率は、女性が一〇〇%、男性が六二・四%でございまして、裁判所全体では、女性が一〇〇%、男性が五六・七%ということになります。」

同委員会の採決では,山添拓議員(日本共産党)が,裁判所職員定員法改正案(判事補を含む定員の純減)には反対する一方,「裁判官育児休業法改正案は育児休業の取得回数制限を緩和するもので、裁判官にとっても育児休業制度の改善になるため、賛成です」と述べており,高良鉄美議員も同様に,定員法改正案には反対しつつ育児休業法改正案には賛成する立場を明らかにしている。
裁判官の育児休業に関する法律の一部を改正する法律案自体は,全会派の賛成により可決された。

なお,内閣府男女共同参画局「女性の政策・方針決定参画状況調べ」(最高裁判所調べに基づく。)によれば,裁判官に占める女性の割合は,その後も緩やかに上昇を続けており,令和4年12月時点で24・3%(総数3,416人,女性829人,男性2,587人),本記事執筆時点で判明している最新の令和5年12月時点では24・5%(総数3,403人,女性834人,男性2,569人)となっている。

小野寺真也氏は令和7年7月に前橋地方裁判所長に,徳岡治氏は令和7年9月に静岡地方裁判所長に,それぞれ異動している。
本記事で引用した両名の役職は,いずれも各答弁がされた当時のものである。

第7 男性裁判官の育児休業取得率の推移

以上でみた各年の国会答弁及び資料から判明する,男性裁判官の育児休業取得率の推移は,次のとおりである(女性裁判官の取得率は,各年度とも95%から100%で推移している。)。

① 平成20年度(2008年度) 0%
② 平成21年度(2009年度) 0%
③ 平成22年度(2010年度) 4・3%
④ 平成23年度(2011年度) 13・2%
⑤ 平成24年度(2012年度) 1・4%
⑥ 平成28年度(2016年度) 5・6%
⑦ 令和2年度(2020年度) 三六・九%
⑧ 令和3年度(2021年度) 五五・〇%
⑨ 令和4年度(2022年度) 四一・八%
⑩ 令和5年度(2023年度) 七八・二%

①から⑤までの数値は,姉妹記事「裁判官の配偶者同行休業,育児休業等に関する国会答弁」で紹介されている,安浪亮介最高裁判所人事局長の平成25年11月8日の衆議院法務委員会における答弁による。
⑥は前記第6の3①の清水真人議員の発言,⑦及び⑧は前記第6の3②の徳岡治人事局長の答弁のほか,徳岡治人事局長が令和4年10月28日の衆議院法務委員会で行った答弁による。
⑨及び⑩は,徳岡治人事局長が,それぞれ令和5年11月10日及び令和6年12月12日の衆議院法務委員会で行った答弁による(各答弁の原文は後記出典・参考資料の2に掲げる。)。

制度発足直後の平成20年度及び平成21年度には取得者がいなかった男性裁判官の育児休業取得率は,前記第4の配偶者要件の撤廃(平成21年改正)以降,緩やかな上昇と足踏みを繰り返しながら,前記第6の取得回数制限の緩和(令和4年改正)を挟んで急速に上昇し,令和5年度には約8割に達している。
もっとも,令和4年度に一時的に41・8%まで低下している点も含め,この間の変動の要因について,最高裁判所は明確な分析を国会で示していない。

第8 関連する人物及び資料

1 平野哲郎判事補の依願退官

平成13年10月に育児休業を取得した男性裁判官は,46期の平野哲郎大阪地家裁判事補(昭和44年10月30日生まれ)である。
同人は,育児休業について周囲の理解が得られなかったこと等を理由に,平成14年3月31日に依願退官している。
前記第4の2でみたとおり,平成21年の国会答弁にいう「男性裁判官は一名」は,この平野哲郎判事補(当時)を指すものである。

2 高橋彩裁判官の発言

東北大学法科大学院メールマガジン第50号(2009年11月30日付)には,49期の高橋彩裁判官の発言として以下のものがある。

① 今は育休期間が3年になりましたが、実際に3年間取得している人は少ないと思います。それは取得できないからではなく、その期間中に職場に戻りたくなってしまうからだと思います。やはりずっと家にいると、職場に戻りたくなってしまうので、育休の取得期間は長い人で2年、一般的なのは1年であると思われます。男性も育休を取得できますが、男性で取得する人は少ないです。
② ご夫婦で裁判官をやっている人は、基本的には、任官して最初のうちはほとんど一緒に異動していますし、同じ裁判所に勤めなくとも同居して通える範囲に赴任している人が多いです。検察官と裁判官のご夫婦の場合も、検察官の異動は2年毎、裁判官は3年毎なのでずれてしまいますが、できるだけ同居できるようにしてもらっている人が多いと思います。ただし、これは若いうちのみで、子供がある程度大きくなりそれなりの地位になると、やはり別居する場面はあると思います。

①にいう「今は育休期間が3年になりました」とは,前記第3の1の平成13年改正(対象年齢を1歳未満から3歳未満に引き上げた改正)を指すものと考えられる。

3 関連資料

以下の資料を掲載している。

・ 裁判官の育児休業,介護休暇,配偶者同行休業取得者数(平成18年から平成27年まで)
・ 裁判所における出産・育児と仕事を両立させるための制度(最高裁判所事務総局)
・ 裁判所職員のための両立支援制度ハンドブック~妊娠・出産編~(平成29年7月)
・ 裁判所職員のための両立支援制度ハンドブック~育児編~(平成29年8月)
・ 裁判所職員のための両立支援制度ハンドブック~介護編~(平成29年3月)
・ 裁判所職員のための両立支援制度ハンドブック~フレックスタイム制編~(平成29年5月)

以下の記事も参照されたい。

・ 裁判官の配偶者同行休業,育児休業等に関する国会答弁

出典・参考資料

1 法令

① 裁判官の育児休業に関する法律(平成3年法律第111号)(e-Gov法令検索)
② 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第9条の5(e-Gov法令検索)

2 国会会議録

① 第122回国会衆議院法務委員会第3号(平成3年12月16日。泉徳治最高裁判所人事局長答弁。国立国会図書館国会会議録検索システム)
② 第153回国会衆議院法務委員会第11号(平成13年11月16日。金築誠志最高裁判所人事局長答弁。国立国会図書館国会会議録検索システム)
③ 第153回国会参議院法務委員会第10号(平成13年11月27日。森山眞弓法務大臣提案理由説明。国立国会図書館国会会議録検索システム)
④ 第153回国会参議院本会議第15号(平成13年11月30日。高野博師法務委員長報告。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑤ 第173回国会参議院法務委員会第3号(平成21年11月27日。千葉景子法務大臣提案理由説明,木庭健太郎議員質疑,大谷直人最高裁判所人事局長答弁。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑥ 第192回国会参議院法務委員会第9号(平成28年11月22日。金田勝年法務大臣提案理由説明。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑦ 第192回国会参議院本会議第13号(平成28年11月25日。秋野公造法務委員長報告。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑧ 第208回国会衆議院法務委員会第4号(令和4年3月4日。小野寺真也最高裁判所総務局長答弁,五十嵐清議員質疑。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑨ 第208回国会衆議院法務委員会第3号(令和4年3月2日。古川禎久法務大臣提案理由説明。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑩ 第208回国会参議院法務委員会第6号(令和4年4月14日。徳岡治最高裁判所事務総局人事局長答弁,清水真人議員・真山勇一議員・高良鉄美議員質疑,山添拓議員討論。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑪ 第210回国会衆議院法務委員会第3号(令和4年10月28日。徳岡治最高裁判所事務総局人事局長答弁。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑫ 第212回国会衆議院法務委員会第3号(令和5年11月10日。徳岡治最高裁判所事務総局人事局長答弁。国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑬ 第216回国会衆議院法務委員会第3号(令和6年12月12日。徳岡治最高裁判所事務総局人事局長答弁。国立国会図書館国会会議録検索システム)

3 裁判例検索

① 裁判所ウェブサイト裁判例検索(https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html)。全文検索欄「育児休業」・絞り込み欄「裁判官」(74件),全文検索欄「育休」・絞り込み欄「裁判官」(23件),事件符号「(分)」「(分ク)」(裁判官の分限事件,合計6件)のいずれの条件によっても,裁判官本人の育児休業を争点とする裁判例は確認できなかった(令和8年8月22日検索)。

4 統計・公的資料

① 内閣府男女共同参画局「令和6年度女性の政策・方針決定参画状況調べ」エ.司法①裁判官(最高裁判所調べ)
② 静岡地方裁判所ホームページ「静岡地方裁判所長」(徳岡治所長略歴)
③ 前橋地方裁判所ホームページ「前橋地方裁判所長」(小野寺真也所長略歴)

5 関連記事

① 裁判官の配偶者同行休業,育児休業等に関する国会答弁(山中弁護士ブログ)
② 泉徳治裁判官(15期)の経歴(山中弁護士ブログ)
③ 金築誠志裁判官(21期)の経歴(山中弁護士ブログ)
④ 大谷直人裁判官(29期)の経歴(山中弁護士ブログ)
⑤ 小野寺真也裁判官(47期)の経歴(山中弁護士ブログ)
⑥ 徳岡治裁判官(47期)の経歴(山中弁護士ブログ)
⑦ 高橋彩裁判官(49期)の経歴(山中弁護士ブログ)
⑧ 平野哲郎判事補(46期)の経歴(山中弁護士ブログ)
⑨ 東北大学法科大学院メールマガジン第50号(2009年11月30日付)