一票の格差是正前の解散は可能であることに関する政府答弁


目次
第1 昭和60年12月11日の内閣法制局長官の答弁
第2 昭和61年4月23日の内閣法制局長官の答弁
第3 平成23年5月17日の内閣答弁書
第4 関連記事

第1 昭和60年12月11日の内閣法制局長官の答弁
・ 茂串俊内閣法制局長官は,昭和60年12月11日の衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会において以下の答弁をしています。

1 最高裁判決で違憲とされた議員定数配分規定につきまして是正措置が講じられないうちに衆議院の解散権の行使ができるかという問題につきましては、純粋の法律論としては、そのような解散権の行使が否定されることにはならないというふうに考えておるわけでございます。
2(1) その理由といたしましては、まず衆議院の解散制度は、立法府と行政府の意見が対立するとか国政上の重大な局面が生じまして主権者たる国民の意思を確かめる必要があるというような場合に、国民に訴えてその判定を求めるということを主たるねらいといたしまして、憲法に明定されておる基本的に重要な制度でございまして、この解散権の制度は、同時にまた権力分立制のもとで立法府と行政府との権力の均衡を保つという機能を果たすものであるというふうに言われております。
   そして、このように基本的に重要な機能である解散権につきまして、憲法上これを制約する明文の規定はございません。また、衆議院で不信任決議案が可決されたような場合におきましても解散権の行使が許されないということになりますと、内閣としては総辞職の道しかないことになりまして、憲法69条の趣旨が全うされないということにもなるわけでございます。
(2) さらにまた、解散がございますとそれに伴って総選挙が施行されることになりますけれども、解散は議員の身分を任期満了前に失わせる行為でございます。
   一方、総選挙は解散あるいは任期満了に伴って国民が新たに議員を選任する行為でございまして、それぞれ別々の規定に従って行われる別個のものであるということは明らかでございます。
3 こういったことを総合勘案いたしますと、純粋の法律論として言えば、定数配分規定の改正前における衆議院解散権の行使が否定されることにはならないというふうに考えておる次第でございます。

第2 昭和61年4月23日の内閣法制局長官の答弁
・ 茂串俊内閣法制局長官は,昭和61年4月23日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
1(1) ただいまの御質問には二つの意味があると思うのでございます。
一つは、仮に定数是正が行われなかった場合、実現できなかった場合に、それを理由として解散権の行使ができるかという問題、それから、もしそういうことであれば定数是正が行われる前に選挙が行われることにならざるを得ない、そうなれば違憲の判決がおりているところの定数配分規定によって選挙をすることになるがそれでよいのかという二つの問題があろうかと思うのでございます。
(2) そのうち、第一の問題については、解散権の行使というのは高度な政治的な判断を要する問題でございまして、これは法律的な見地からどうこうという問題ではないと思うのでございます。
   そういう意味で、私からこれこれというふうに直接的な御答弁をいたしますのは差し控えたいと思います。
(3)ア それから、二つ目の問題については、前々から申し上げておりますように、違憲とされる定数配分規定が是正されないままで、すなわち憲法に違反する状態のままで残っていること自体がそもそも法的に言ってあってはならないと申しますか予想されていない異例の事態でございまして、そのような特殊、異例な事態を前提としての処理ということになるわけでございますから、どうしてもそのことが法理論の展開面に反映されるということにならざるを得ないわけでございます。
   その意味におきまして、ただいま国会におかれまして与野党こぞって定数是正の実現にいろいろ御努力されておるということでございますので、このような違憲とされた定数配分規定が一日も早く是正されることを我々としても強く希望しておるところでございます。
イ ところで、任期満了に伴う総選挙でも解散に伴う総選挙でも同じでございますけれども、総選挙しなければ衆議院が組織できないわけでございまして、衆議院が不存在になってしまうということでございます。
   これは憲法に規定する前提から考えて到底放置できない事態であることは当然でございます。
   そこで総選挙をやらざるを得ないといたしまして、その選挙を執行する手続を定めておるものとしては、違憲とされた定数配分規定を含む公職選挙法しかない、ほかに準拠すべき法律がないわけでございますから、政府といたしましては、これに基づいて総選挙を行うほかはないわけであって、それによって憲法全体の秩序を全うすることができると考えておるわけでございまして、この点については過去においても何遍か御答弁申し上げているところでございます。
2 私の立場はあくまでも法律のいわば専門家と申しますか、そういう立場からの御答弁にならざるを得ないわけでございますが、一般的に申しまして衆議院の解散権というのは、言うまでもないことでございますけれども、国政の重大な局面において民意を問う手段として憲法上内閣に与えられた重要な機能でありまして、いかなる場合に衆議院を解散するかについては憲法上これを制約する明文の規定はないわけでございまして、内閣はその政治的責任で決すべきものである旨を述べているわけでございます。

   そういった法律論を私は前々から述べておるわけでございますが、しからばいかなる場合に解散するのが適当かどうかということになりますと、先ほども申し上げましたように内閣の高度の政治的判断に基づいて決定される筋合いのものでございまして、純粋に法律的な立場からとやかく御答弁申し上げることは差し控えたい、かように考えております。

第3 平成23年5月17日の内閣答弁書
・ 最高裁大法廷平成23年3月23日判決において一票の格差は違憲状態であると判示されました。
   このことと関連して,
平成23年5月17日付の,衆議院議員柿澤未途君提出内閣総理大臣の衆議院解散権に関する質問に対する答弁書(内閣衆質177第164号)には以下の記載があります。

一について
お尋ねの衆議院解散権は、内閣が、国政上の重大な局面等において主権者たる国民の意思を確かめる必要があるというような場合に、国民に訴えて、その判定を求めることを狙いとし、また、立法府と行政府の均衡を保つ見地から、憲法が行政府に与えた国政上の重要な権能であり、現行の公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)等の規定の下で内閣が衆議院の解散を決定することは否定されるものではないと考える。
二について
憲法第五十四条の規定により、衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行うこととなる。なお、内閣が衆議院の解散を決定することについて、憲法上これを制約する規定はない。
三について
憲法第五十四条の規定により、衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行うこととされていること等から、選挙期日の特例や任期の特例を規定した御指摘の平成二十三年東北地方太平洋沖地震に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律(平成二十三年法律第二号)と同様の対応をとることはできないものと考える。
四について
仮定の御質問にお答えすることは差し控えたい。なお、内閣が衆議院の解散を決定することについて、憲法上これを制約する規定はない。

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