最高裁判所における違憲判決の一覧


目次
1 法令違憲の判決及び決定
2 適用違憲の判決
3 違憲判決の効力
4 関連記事その他

1 法令違憲の判決及び決定
* 法令違憲の判決は最高裁大法廷平成25年9月4日決定及び最高裁大法廷令和5年10月25日決定だけです。
(1) 最高裁大法廷昭和48年 4月 4日判決
・ 刑法200条(尊属殺重罰規定)が憲法14条1項に違反すると判示しました。
・ 日経ビジネスHPに「「父殺しの女性」を救った日本初の法令違憲判決」が載っています。
・ 同じ日付で3件の違憲判決が言い渡されています。


(2) 最高裁大法廷昭和50年 4月30日判決
・ 薬事法6条2項(薬局の距離制限規定)が憲法22条1項に違反すると判示しました。
(3) 最高裁大法廷昭和51年 4月14日判決
・ 公職選挙法の衆議院議員定数配分規定が憲法14条及び44条ただし書に違反すると判示しました。
(4) 最高裁大法廷昭和60年 7月17日判決
・ 公職選挙法の衆議院議員定数配分規定が憲法14条及び44条ただし書に違反すると判示しました。
(5) 最高裁大法廷昭和62年 4月22日判決
・ 森林法186条(共有林の分割制限)が憲法29条2項に違反すると判示しました。
(6) 最高裁大法廷平成14年 9月11日判決
・ 郵便法68条及び73条(郵便業務従事者の過失により発生した損害賠償責任の免除)が憲法17条に違反すると判示しました。
(7) 最高裁大法廷平成17年 9月14日判決
・ 在外日本人に対し,国政選挙における選挙権行使の全部又は一部を認めていなかった公職選挙法が憲法15条1項,3項,43条1項及び44条ただし書に違反すると判示しました。
・ 立法不作為を理由として,原告1人当たり5000円の国家賠償を認めました。
・ 平成12年5月1日,在外日本人が国政選挙のうち比例代表選挙において選挙権を行使できるようになり,平成19年6月1日,在外日本人が衆議院小選挙区及び参議院選挙区においても選挙権を行使できるようになりました(総務省HPの「在外選挙制度について」参照)。
(8) 最高裁大法廷平成20年 6月 4日判決
・ 日本国籍を有する父と外国人女性との間に生まれ,父親から生後認知を受けた非嫡出子について,父母が婚姻しなければ,日本国籍を取得できないとする国籍法3条1項が憲法14条1項に違反すると判示しました。
・ この大法廷判決言渡しの際,当事者席に原告の少女が着席しましたところ,未成年者が当事者席に着席したのは,おそらく大法廷で初めてのことと思われるみたいです(自由と正義2013年6月号15頁)。
・ 平成21年1月1日,改正国籍法3条の施行により,出生後に日本人に認知されていれば,父母が結婚していない場合にも届出によって日本国籍を取得できるようになりました(法務省HPの「国籍法が改正されました」参照)。
・ 同じ日付で2件の違憲判決が言い渡されています。
(9) 最高裁大法廷平成25年 9月 4日決定
・ 非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1であるとする民法900条4号ただし書前段は,遅くとも平成13年7月の時点では憲法14条1項に違反するに至っていたと判示しました。
・ 民法900条4号ただし書前段は憲法14条1項に違反しないとした最高裁大法廷平成7年7月5日決定を変更しました。
・ 平成25年12月11日,改正民法900条の施行により,平成25年9月5日以後に開始した相続については,嫡出子と非嫡出子の相続分は等しいものとなりました(法務省HPの「民法の一部が改正されました」参照)。
(10) 最高裁大法廷平成27年12月16日判決
・ 女性の再婚禁止期間を100日を超えるものとしている民法733条1項は過剰な制約であり,遅くとも平成20年の時点では憲法14条1項,24条2項に違反するに至っていたと判示しました。
・ 同じ日付で2件の違憲判決が言い渡されています。
・ 平成28年6月7日,改正民法733条1項の施行により,女性の再婚禁止期間は100日に短縮されました(法務省HPの「民法の一部を改正する法律(再婚禁止期間の短縮等)について」参照)。
(11) 最高裁大法廷令和4年5月25日判決
・ 最高裁判所裁判官国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは,憲法15条1項,79条2項,3項に違反すると判示しました。
(12) 最高裁大法廷令和5年10月25日決定
・  性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は,憲法13条に違反すると判示しました。
(13) 最高裁大法廷令和6年7月3日判決
・ 優生保護法中のいわゆる優生規定(同法3条1項1号から3号まで,10条及び13条2項)は憲法13条及び14条1項に違反すると判示しました。


2 適用違憲の判決
(1) 最高裁大法廷昭和23年 7月19日判決
・ 不当に長い拘禁の後に自白を証拠に採ることは憲法38条2項に違反すると判示しました。
(2) 最高裁大法廷昭和25年 7月12日判決
・ 第一審における被告人の自白及び司法警察員に対する自白だけで有罪を認定するのは憲法38条3項に違反すると判示しました。
(3) 最高裁大法廷昭和28年 7月22日判決最高裁大法廷昭和28年 7月22日判決
・ 占領目的阻害行為処罰令を講和条約発効後に適用することは憲法21条,39条に違反すると判示しました。
(4) 最高裁大法廷昭和30年 4月27日判決
・ 占領目的阻害行為処罰令を講和条約発効後に適用することは憲法21条に違反すると判示しました。
(5) 最高裁大法廷昭和35年 7月 6日決定
・ 性質上純然たる訴訟事件につき,当事者の意思にかかわらず,終局的に事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判は,憲法所定の例外を除き,公開の対審及び判決によってなされなければ,憲法82条及び32条に違反すると判示しました。
(6) 最高裁大法廷昭和37年11月28日判決
・ 第三者の所有物を没収する場合において,その没収に関して当該所有者に対し,何ら告知,弁解,防御の機会を与えることなく,その所有権を奪うことは憲法29条1項及び31条に違反すると判示しました。
・ 刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法(昭和38年7月12日法律第138号)が制定されました。
(7) 最高裁大法廷昭和40年 4月28日判決
・ 第三者に対し告知,弁解,防御の機会を与えないで追徴を命ずることは,憲法29条1項及び31条に違反すると判示しました。
(8) 最高裁大法廷昭和42年 7月 5日判決
・ 起訴されていない犯罪事実で,被告人の捜査官に対する自白のほかに証拠のないものをいわゆる余罪として認定し,これをも実質上処罰する趣旨のもとに重い刑を科することは憲法31条,38条3項に違反すると判示しました。
(9) 最高裁大法廷昭和45年11月25日判決
・ 偽計によって被疑者が心理的強制を受け,その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には,偽計によって獲得された自白はその任意性に疑いがあるものとして証拠能力を否定すべきであり,このような自白を証拠に採用することは,刑訴法319条1項,憲法38条2項に違反すると判示しました。
(10) 最高裁大法廷昭和47年12月20日判決(高田事件)
・ 15年余りの公判の中断がなされ,被告人自らが迅速な裁判を受ける権利を放棄したといえない事情の下で,憲法37条1項に違反する状態に立ち至っていたとして免訴の判決を出しました。
(11) 最高裁大法廷平成 9年 4月 2日判決(愛媛玉串訴訟)
・ 愛媛県知事が,戦没者の遺族の援護行政のために靖国神社及び愛媛県護国神社に対し玉串料を支出したことが憲法20条3項及び89条に違反すると判示しました。
・ 住民訴訟の被告となった愛媛県知事の白石春樹は,平成9年3月30日に死亡していました。
・ 「愛媛玉ぐし訴訟大法廷判決(最高裁大法廷平成9年4月2日判決)の事前漏えい疑惑に関する国会答弁」も参照して下さい。
(12) 最高裁大法廷平成22年 1月20日判決(砂川政教分離訴訟のうち,空知太(そらちぶと)神社事件)
・ 砂川市が市有地を宗教団体に無償提供したことが憲法20条3項及び89条に違反すると判示しました。
(13) 最高裁大法廷令和 3年 2月24日判決(孔子廟訴訟)
・  那覇市長が都市公園内の国公有地上に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して同施設の敷地の使用料を全額免除した行為が憲法20条3項に違反すると判示しました。


3  違憲判決の効力
(1) 5期の筧栄一法務省刑事局長は,昭和59年4月19日の衆議院決算委員会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 今、先生御指摘のように、昭和四十八年刑法二百条が違憲であるという最高裁の判決が下されたわけでございます。
   これを受けまして、その尊属殺に関します一般社会その他いろいろの意見を参照いたしまして、法務省といたしましては尊属関係の加重規定を廃止するという案を考えまして、第七十一回国会に提出すべく準備をいたしましたが、各方面の御了解が得られなくて提案までに至らなかった次第でございます。その後も各方面のいろいろの御意見を伺っておるわけでございますが、申し上げるまでもなく、この問題は最高裁の判決自体が法定刑、死刑または無期ということが重過ぎるということでございまして、直ちに全部がいかぬという趣旨でもございません。いろいろ軸足意見あるいは別の意見もあるわけでございます。
   したがいまして、これに対しましては、親子関係をめぐる道徳に関連する問題でございますとか、いろいろの道徳観、倫理観あるいは家族観と申しますか人生観に基づきますいろいろな考え方が各方面にあるわけでございまして、それを検討を続けておるわけでございます。その間、先生御指摘のように、刑法全面改正の作業が進みまして改正草案ができ、さらにそれをまた検討を続けておるわけでございます。
② 私どもといたしましては、刑法の全面改正をできるだけ近い機会に実現いたしたいと考えておりまして、その一環として当然にこの尊属関係の規定につきましても、最高裁の判決の趣旨を体しまして改正を行うという方針で現在も進めておるところでございます。
(2) 26期の中山隆夫最高裁判所総務局長は,平成13年11月21日の参議院憲法調査会において以下の答弁をしています。
   今、御質問の中にもございましたように、我が国では付随的違憲審査制をとっております。当該事件の解決に必要な限りで違憲審査を行うということにしておりますことから、違憲判決の効力もその当該事件に限って効力を持つ、いわゆる個別的効力説というのが通説とされております。もっとも、個別的効力といいましても、他の国家機関、立法機関あるいは行政機関は、最高裁判所の違憲判決を尊重すべきであるというふうに言われているところであります。
 そのような観点からいえば、違憲判決が出されましたときに、その執行に当たる行政機関においてその条項を適用しないようにし、あるいは法令の制定機関によって速やかにその廃止または改正がされる、それが一番好ましいことであろうとは考えております。
(3) 34期の谷垣禎一法務大臣は,平成25年11月20日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています(ナンバリングを追加しています。)。
① 今、椎名委員がおっしゃったように、違憲審査も付随的審査制である、それから個別的効力説であるというのが大方の理解ですね。その前提の上でありましても、違憲無効と判断されますと、その判断はやはり後の判決等も拘束して、事実上の拘束力を持つということになりますから、その時点以降は当該法令は無効という形で処理される、これが大方の理解であろうと思うんです。
   しかしながら、本件(山中注:最高裁大法廷平成25年9月4日決定が取り扱った,非嫡出子相続分差別規定に関する事件)においては、遅くとも平成十三年七月当時においては違憲であったと判断しながら、七月以降に相続を開始した事案のうち、確定的なものとなった法律関係には影響を及ぼさないものとして、この事実上の拘束力の及ぶ範囲を、今までの考え方からすると相当立ち入って判断をしている。委員は、これが付随的違憲審査制を超えて立法作用を営んでいるのではないか、こういうお考え、感じをお持ちなんだろうと思うんです。
② 実は私も、こういう違憲判決をもし出すとすれば、遡及的適用なんかをやったらこれはもう法的安定性もないから、一体ここをどう最高裁は判断するのかな、どういう判決を書くんだろうか、それによって法務省の対応も変わってくるしと思いながら見ていたら、余りにもあっさりと遡及効はないんだとおっしゃったので、やや拍子抜け、拍子抜けと言うと言葉は悪いですが、肩透かしを食ったような気になったことは事実でございます。
   今回の最高裁判決は、私が今申し上げたその遡及効までやってしまったら、原則からすれば多分遡及効になるんでしょうけれども、遡及効までやってしまったら世の中の法的安定性を著しく害してしまうという前提で、違憲判断の拘束力を一部拘束、制限したものというふうな理解ができるのではないか。最高裁の違憲審査権、判断権の行使のあり方として、違憲判断の効力の及ぶ範囲をフルに使ったのではなく、限定したというふうに見ることができるのではないか。そうすると、この限定するということは許されることであって、三権分立に反するということにはならないのではないかというのが、私もその後、法務省内部の議論をいろいろ聞きまして、そういうふうに理解するのかなと現在思っているわけでございます。
   そして、これはもちろん、こういう判断手法が過去に例があったわけではございません。違憲判断についての新たな判例法理をつくったものだというふうに理解しております。
   

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4 関連記事その他
(1) 事件記録等の廃棄留保について(令和元年11月18日付の最高裁判所総務局第三課長の事務連絡)を掲載しています。
(2) 「「法の番人」内閣法制局の矜持」(著者は阪田雅裕 元内閣法制局長官)52頁には以下の記載があります。
   残念ながら、法制局は新しい立法についてしか判断できない。新たな立法や法改正をするときには、それが憲法の規定に反しないかということについて意見を述べることができます。しかし、時代は変わるのですね。尊属殺や民法900条もそうですし、他のさまざまな規制にしてもそうですが、いまやもう合理性がないではないかというものもないではない。しかし、それらについて法制局が主導して変えるということはできないわけです。逐一法律を点検しているわけではありませんから。こうしたことは立法を企画する各省庁、あるいは立法府である国会が気をつけなければならないわけですが、やはり司法に期待せざるをえないということです。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧
・ 最高裁が出した,一票の格差に関する違憲状態の判決及び違憲判決の一覧
・ 弁護人上告に基づき原判決を破棄した最高裁判決の判示事項(平成元年以降の分)
・ 民事事件の判決原本の国立公文書館への移管
・ 日本国憲法外で法的効力を有していたポツダム命令


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