裁判所職員の旧姓使用


目次

1 裁判所職員の旧姓使用に関する文書
2 裁判官を含む裁判所職員が旧姓を使用できる場合
3 銀行口座等の旧姓使用に係る協力要請
4 官報,最高裁判所の裁判官会議議事録及び裁判所時報における使い分け
5 関連記事その他

1 裁判所職員の旧姓使用に関する文書
(平成13年9月の文書)
① 裁判所職員の旧姓使用について(平成13年9月14日付の最高裁判所人事局長の通達)
② 裁判所職員の旧姓使用について(平成13年9月14日付の最高裁判所人事局給与課長及び任用課長事務連絡)
(平成29年7月の文書)
③ 裁判所職員の旧姓使用について(平成29年7月3日付の最高裁判所事務総長の通達)
④ 非常勤職員の旧姓使用について(平成29年7月13日付の最高裁判所人事局長の通達)

2 裁判官を含む裁判所職員が旧姓を使用できる場合

(1) 裁判官を含む裁判所職員は,平成13年10月1日以降,以下の場合に旧姓を使用できることとなりました。
1 職場での呼称
2 座席表
3 職員録(各裁判所で作成しているもの)
4 電話番号表
5 原稿執筆
6 人事異動通知書
7 出勤簿
8 休暇簿
(2) 裁判官を含む裁判所職員は,平成29年9月1日以降,裁判関係文書を含む以下の場合に旧姓を使用できることとなりました。
1 職場における呼称
2 職員の配置に関する文書
3 職員録(各裁判所で作成しているもの)
4 原稿執筆
5 協議会に関する文書(職員以外の者が参加する協議会に関するものを除く。)
6 決裁票,供覧票,回覧票
7 司法行政上の連絡文書
8 図書の受入及び貸出に関する文書
9 職員を対象とする試験及び選考に関する文書
10 人事異動通知書(裁判官に関するものを除く。)
11 裁判官第二カード,裁判官第三カード
12 身上報告書
13 辞職願(裁判官の退官願を除く。)
14 出勤簿(登庁簿を含む)
15 人事評価に関する文書
16 研修及び研究会に関する文書(裁判所以外の機関が実施する研修及び研究会に関するものを除く。)
17 外国旅行又は海外渡航の申請,承認及び通知に関する文書
18 兼職又は兼業の申請,承認,許可及び通知に関する文書
19 勤務時間,休日及び休暇並びにその他の職務専念義務免除の申請,承認及び通知に関する文書
20 育児休業,自己啓発等休業及び配偶者同行休業の申請,承認及び通知に関する文書
21 表彰に関する文書
22 職員に対する注意書
23 職員に対する分限処分及び懲戒処分に関する文書
24 旅費支給事務に関する文書
25 裁判事務の分配,裁判官の配置及び裁判官に差し支えのあるときの代理順序を定めた文書
26 裁判関係文書
27 旧姓使用中止届

3 銀行口座等の旧姓使用に係る協力要請(1) 

金融庁HPの「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」につき,「銀行口座等の旧姓使用に係る協力要請について」(平成29年7月・8月の文書)には以下の記載があります。
○ 政府としては、女性活躍の視点に立った制度整備の一環として、「旧姓の通称としての使用の拡大」に向けた取組みを進めているところ。
○ その中で、先日、内閣府男女共同参画局長から、銀行口座等の旧姓使用に関する協力要請がなされたものと承知。
○ 各金融機関におかれては、本取組みの趣旨をご理解いただき、口座開設等の申し込みを行う方等が希望した場合に、実情に応じて可能な限り円滑に旧姓による口座開設等が行えるよう、よろしくお願いしたい。
(2) 以下の資料を掲載しています。
・ 弁護士の職務上の氏名を使用する口座開設について(令和3年10月12日付の,金融庁監督局総務課長の周知依頼)9通
・ 銀行口座等の旧姓使用の協力要請について(平成29年7月5日付の内閣府男女共同参画局長の依頼)8通
・ 旧姓の通称としての使用の拡大に向けた取組について(平成29年7月5日付の内閣府男女共同参画局長の依頼)5通

4 官報,最高裁判所の裁判官会議議事録及び裁判所時報における使い分け(1) 官報の場合

ア 官報の場合,内閣人事(つまり,判事,判事補等の任命人事)には戸籍姓が表示され,最高裁人事(つまり,補職人事)には旧姓が表示されていると思います。
イ 令和5年度(最情)答申第7号(令和5年10月3日答申)には以下の記載があります。
     最高裁判所の説明を確認した結果によれば、裁判官の人事情報を官報の「人事異動」欄に掲載する事務については、旧姓使用通達において旧姓の使用が制限されている事由には当たらないものと解し、旧姓使用がされている場合には旧姓を表示するようにし、これにより、当該事務について旧姓を表示することを記載した文書を作成する必要まではなく、それによって特段支障も生じていないとのことであるが、上記旧姓使用の経過や旧姓使用通達の規定の内容に照らし、その説明が特段不合理であるとまではいえない。
(2) 最高裁判所の裁判官会議議事録及び裁判所時報の場合
ア 最高裁判所の裁判官会議議事録には現姓が表示されているのに対し(「矢島優香裁判官(64期)の経歴」参照),裁判所時報の場合,旧姓が表示されていると思います。
イ 令和6年度(最情)答申第8号(令和6年10月24日答申)には以下の記載があります。
     裁判所においては、旧姓使用通達により、旧姓使用により事務処理上の支障が生じる一定の場合を除き、全ての文書について旧姓使用が認められている(令和5年度(最情)答申第7号参照)。
     最高裁判所事務総長は、本件開示申出文書(山中注:旧姓使用を認められている裁判官の人事情報が最高裁判所裁判官会議議事録に掲載される場合、裁判官の姓として戸籍姓と旧姓のどちらが表示されているかが分かる文書)を作成し、又は取得していない理由について、本件開示申出文書を作成する定めはなく、実際の事務においては旧姓使用通達を参考にしながら運用しているところ、運用に関して本件開示申出文書を作成する必要もないと説明しているが、人事情報としての裁判官の姓に関して旧姓と戸籍姓のいずれを記載するかについても、旧姓使用通達を参考にしながら、当該事務に関する特別の文書を作成することなく運用することは可能であると考えられ、上記最高裁判所事務総長の説明が不合理であるとはいえない。

5 関連記事その他

(1) 最高裁大法廷令和3年6月23日決定の裁判官深山卓也,同岡村和美,同長嶺安政の補足意見には以下の記載があります。
     通称使用の拡大は,これにより夫婦が別氏を称することに対する人々の違和感が減少し,ひいては,戸籍上夫婦が同一の氏を称するとされていることの意義に疑問を生じさせる側面があることは否定できないが,基本的には,平成27年大法廷判決(山中注:最高裁大法廷平成27年12月16日判決のこと。)が判示するとおり,婚姻に伴い氏を改める者が受ける不利益を一定程度緩和する側面が大きいものとみられよう。
(2) 弁政連ニュース77号(2024年10月発行)には,大山みこ(経団連 ソーシャル・コミュニケーション本部統括主幹)の以下の発言が載っています。
    旧姓の通称使用は、9割以上の企業が認めています。しかし、企業向けのアンケート結果では、税や社会保険、契約書や登記など公的な手続き場面や、出張時の航空券や宿泊予約時に使う姓、また、人事部門などが社員名簿などを扱うときに戸籍上の姓と旧姓を二重に管理するコストやシステム対応。さらに、今は3組に1組が離婚するといわれているなかで、そういうプライバシーに関わる情報まで知られてしまうなど、様々なトラブル例が寄せられています。
    女性役員向けのアンケートでも、旧姓の通称利用では、何らかの不便、不都合・不利益が生じると回答した方が88%に上るという結果でした。
    通称と戸籍姓の違いによるトラブルや弊害の分かりやすい例として、海外渡航時のトラブルがあります。パスポートは旧姓の併記が可能ですが、ICチップやVISA、航空券は、国際基準に則って、戸籍上の姓しか登録されません。今は、入国審査は勿論、政府機関でも民間施設でも入館にあたってセキュリティーが強化されており、ICチップには戸籍姓しか入っていないので、いちいち足止めを食う。また、ダブルネームは海外では認知されていないため、自分で説明し証明しなければならず、時間のロスだけでなく、同僚や上司を待たせてしまったり、ややもすれば重要な商談に遅れてしまったらビジネスを失うかもしれない、といった精神的な負担やビジネス上のリスクも抱えています。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 最高裁判所判事の旧姓使用
・ 弁護士の職務上の氏名
・ 歴代の女性最高裁判所判事一覧


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