後見人等不正事例についての実情調査結果(平成23年分以降)


目次
1 後見人等不正事例についての実情調査結果
2 被害があった事件数及び被害総額
3 全弁協の弁護士成年後見人信用保証事業
4 大阪弁護士会所属の弁護士の横領事例
5 成年後見人の解任(令和5年3月21日更新)
6 成年後見人の欠格事由としての,成年被後見人との間の訴訟
7 成年後見と任意後見の関係
8 成年後見人に対する損害賠償請求の事例
9 親族後見人による業務上横領に刑法244条1項は準用されないこと
10 関連記事その他

1 後見人等不正事例についての実情調査結果
(令和時代)
令和 元年分令和2年分令和3年分令和4年分
令和 5年分
(平成時代)
平成23年分ないし平成27年分
平成28年分平成29年分平成30年分
* 「後見人等による不正事例についての実情調査結果(令和5年分)」といったファイル名です。

2 被害があった事件数及び被害総額
(1) 被害があった事件数及び被害総額は以下のとおりです。
令和 5年:176件・約 7億円
令和 4年:191件・約 7億5000万円
令和 3年:169件・約 5億3000万円
令和 2年:186件・約 7億9000万円
2019年:201件・約11億2000万円
平成30年:243件・約11億3000万円
平成29年:294件・約14億4000万円
平成28年:502件・約26億円
平成27年:521件・約29億7000万円
平成26年:831件・約56億7000万円
平成25年:662件・約44億9000万円
平成24年:624件・約48億1000万円
平成23年:311件・約33億4000万円
(2) 上記のうち,専門職による不正事例の事件数及び被害総額は以下のとおりです。
令和 5年:29件:約2億7000万円
令和 4年:20件・約2億1000万円
令和 3年: 9件・約  7000万円
令和 2年:30件・約1億5000万円
2019年:32件・約2億円
平成30年:18件・約  5000万円
平成29年:11件・約  5000万円
平成28年:29件・約  9000万円
平成27年:35件・約1億1000万円
平成26年:22件・約5億6000万円
平成25年:14件・約  9000万円
平成24年:18件・約3億1000万円
平成23年: 6件・約1億3000万円

3 全弁協の弁護士成年後見人信用保証事業
・ 全国弁護士協同組合HPの「弁護士成年後見人信用保証事業」には以下の記載があります。
    「弁護士成年後見人信用保証制度」は、被害者救済を目的として日本弁護士連合会が考案し、推奨する制度です。全弁協が保証人となり、弁護士成年後見人等の不正による損害賠償債務を保証し、弁護士成年後見人等による横領事件が発生した場合、全弁協が、保証債務の履行として被害者(被後見 人等)の被害を弁償し、その被害の回復を図る制度です。
    保証額は、弁護士後見人等1人あたり3,000万円を上限とし、複数被害者がいる場合は、上限枠内で按分となります。保証期間は、10月1日から1年間(途中加入随時受付)で、弁護士個人単位での加入となり、年間保証料は9,900円です(途中加入の場合は、加入期間により保証料が異なります。)。


4 大阪弁護士会所属の弁護士の横領事例
(1) 大阪弁護士会に所属していた弁護士に対する,業務上横領罪の判決事例
ア 平成20年の判決事例
・ 依頼者7人から預かった遺産や保険金計3億7200万円を着服し、脅迫相手に渡す金に宛てた富田康正弁護士(37期)の場合,大阪地裁平成20年3月7日判決により懲役9年に処せられました(逮捕時に報道された着服額は約5900万円であったことにつき,弁護士法人かごしま上山法律事務所ブログの「「顧客」弁護士逮捕に関連して」(2006年12月21日付)参照)。
イ 平成25年の判決事例
・ 裁判所が作った書類を偽造したほか、成年後見人を務めた女性の預貯金を着服したなどとして、有印公文書偽造・同行使や業務上横領罪などに問われた家木祥文弁護士(58期)の場合,大阪地裁平成25年2月20日判決により懲役3年・執行猶予5年(求刑:懲役3年)(被害弁償あり)に処せられました(「横領弁護士に執行猶予判決・(大阪)家木祥文被告」参照)。
ウ 平成27年の判決事例

・ 依頼人から預かった現金計約5200万円を着服した梁英哲弁護士(53期)の場合,大阪地裁平成27年3月19日判決により懲役4年6月(求刑:懲役6年)に処せられました(弁護士自治を考える会ブログの「業務上横領罪:5200万円着服の元弁護士に実刑判決」参照)。
エ 平成28年の判決事例
・ 代理人としての立場を悪用し、顧客からの預かり金など計約5億400万円を着服、詐取したとして、業務上横領や詐欺などの罪に問われた久保田昇弁護士(35期)の場合,大阪地裁平成28年3月28日判決により懲役11年(求刑:懲役13年)に処せられました(産経新聞HPの「5億円着服・詐欺で弁護士に懲役11年判決 大阪地裁」参照)。
オ 令和元年の判決事例
・ 平成25年から平成26年にかけて19回にわたり土地建物の管理会社から預かっていたビルの「賃料相当損害金」を,自身の口座に振り込むなどの手口であわせて1億8200万円以上を着服した洪性模弁護士(36期)の場合,大阪地裁令和元年5月9日判決によって懲役5年に処せられました(弁護士自治を考える会ブログの「洪性模弁護士(大阪)懲戒処分の要旨 2019年7月号」参照)。
カ 令和3年の判決事例
① 依頼人から預かっていた遺産の相続金4200万円ぐらいを使い込んだとして業務上横領罪に問われた川窪仁帥弁護士(26期)の場合,大阪地裁令和3年2月3日判決によって懲役5年に処せられました(弁護士自治を考える会ブログの「依頼人から預かった遺産”約4200万円”を横領 川窪仁帥弁護士(大阪)に懲役5年の判決」参照)。
② 依頼された民事訴訟の和解金など約2100万円を使い込んだとして業務上横領罪に問われた鈴木敬一弁護士(37期)の場合,大阪地裁令和3年3月10日判決によって懲役3年に処せられました(弁護士自治を考える会ブログの「和解金など2100万円横領した鈴木敬一元弁護士に実刑判決「信頼踏みにじる悪質性高い犯行」大阪弁護タヒ会」参照)。
③ 詐欺事件の被告から被害者に弁済するための資金として預かっていた現金約500万円を着服したり,別の依頼人からの預り金およそ800万円を着服したり,所属していた会派の口座からおよそ2000万円を着服したりして業務上横領罪に問われた吉村卓輝弁護士(61期)の場合,大阪地裁令和3年5月12日判決によって懲役3年・執行猶予5年(求刑:懲役4年)に処せられました(弁護士自治を考える会ブログの「依頼人から預かった金など着服 元弁護士に執行猶予付きの有罪判決 大阪地裁」参照)。
④ 管理していた遺産2800万円ぐらいを使い込んだとして業務上横領罪に問われた黒川勉弁護士(29期)の場合,大阪地裁令和3年8月25日判決によって懲役4年(求刑:懲役6年)に処せられました(弁護士を考える旧(雑記)ブログの「大阪地裁 遺産着服の黒川勉弁護士(大阪)に懲役4年の実刑」参照)。


(2) 直近の逮捕事例
ア 未成年後見人の業務上横領については全弁協の弁護士成年後見人信用保証事業の適用はないところ,大阪弁護士会HPに載っている令和3年9月17日付の「綱紀調査請求した旨の公表」には,同日に天満警察署に逮捕された古賀大樹弁護士(57期)の業務上横領に関して以下の記載があります(文中の対象会員は古賀大樹弁護士のことです。)。
(1)令和3年1月15日付調査請求事案
    対象会員は、大阪弁護士会に所属する弁護士であり、上記の事務所所在地にて弁護士業を行っている者であるが、大阪家庭裁判所から選任された成年後見事件及び未成年後見事件において、平成30年9月から令和2年3月までの間、預かり管理していた成年被後見人及び未成年被後見人の銀行口座から、複数回にわたり合計7800万円あまりの金員を出金し、これを自らの遊興費や事務所運営経費等に充てて費消し、その発覚を免れるため、家庭裁判所への事務報告において改ざんした通帳の写し及びこれに基づく財産目録を提出して虚偽の事務報告を行ったものである。
(2)令和3年9月13日付調査請求事案
    対象会員は、刑事弁護の依頼を受けていた依頼者に対し、被害者への被害弁償名目で送金を指示し、令和3年5月31日から同年8月2日にかけて預かり金口座に合計660万円の送金を受けたが、これを被害弁償に使用することなくその大半を出金し、また保釈保証金300万円についても還付を受けているにもかかわらず、いずれの金員も依頼者に返還していないこと、さらには依頼者が対象会員と連絡がとれない状況に至っていること等から、依頼者からの預り金合計960万円について詐取ないし横領が疑われるものである。
イ トリちゃんのお見通し報告書「古賀大樹Facebook顔画像・経歴特定「バカは金づる!キャバクラ三昧」独立すぐ横領開始」が載っています。
(3) その他
ア 弁護士自治を考える会ブログに「弁護士の詐欺・横領事件・刑期の相場」が載っています。
イ 松井良太弁護士(56期)は,遺産の分割に関する依頼を受けて預かっていた現金約1860万円を着服した疑いで令和2年7月7日までに逮捕され,令和3年7月9日付で弁護士法17条1号(例:禁錮以上の刑に処せられたこと)により大阪弁護士会を退会しました(令和3年8月24日付の官報号外第193号)が,令和3年9月20日現在,刑事事件に関する判決情報はインターネット上に見当たりません。


5 成年後見人の解任
(1) 家事事件手続法下における書記官事務の運用に関する実証的研究-別表第一事件を中心に-(司法協会)174頁には,「5 成年後見人の解任(別表第一5の項,民法846条)」として以下の記載があります。
【どんな事件?】
    成年後見人に不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所は,その成年後見人を解任できる。
    ※ 「不正な行為」とは,違法な行為又は社会的に見て非難されるべき行為をいい,財産に関する不正な行為(横領など)を行う場合が考えられる。また,「著しい不行跡」とは,品行ないし操行が甚だしく悪いことをいい,財産管理について成年被後見人に危険を生じさせるものも含まれるとするのが多数説である。「その他後見の任務に適しない事由」なり得るものとしては,成年後見人の職務の怠慢,家庭裁判所の後見監督の指示に従わないことなどが考えられる。
(2)ア 成年後見人の解任を認めた名古屋高裁平成29年3月28日決定に対する許可抗告は許可されませんでしたし,成年後見人を解任された司法書士が提起した国家賠償請求訴訟は東京地裁平成30年1月22日判決(判例体系に掲載),東京高裁平成30年6月27日判決及び最高裁平成31年1月29日決定(上告不受理決定)によって棄却されました(一般社団法人比較後見法制研究所HP「研究成果」に載ってある季刊比較後見法制16号70頁ないし75頁参照)。
イ 以下の裁判例を掲載しています。
・ 名古屋高裁平成29年3月28日決定(東京法務局の情報公開文書)
・ 東京高裁平成30年6月27日判決(東京法務局の情報公開文書)
(3) 二弁フロンティア2023年10月号に載ってある「成年後見実務の運用と諸課題 後編」には以下の記載があります。
    令和3年1月から12月までの1年間の東京家裁本庁及び立川支部での解任の申立ては15件、職権で解任を立件したものが7件となっている。これらの事件の終局事由としては、認容が7件、却下が12件、取下げが3件となっており、認容の7件はすべて職権立件によるものである。
    また、令和4年1月から10月末までで解任申立てがされたのは28件、職権で解任を立件したものが8件となっている。これらの事件の終局事由は、認容が7件、却下が12件、取下げが6件、それ以外は継続中となっており、認容の7件はすべて職権立件によるものである。
(4) 令和6年3月7日に公表された成年後見制度の在り方に関する研究会報告書(令和6年2月)74頁及び75頁には「現行法の規律」として以下の記載があります。
    現行の成年後見制度には、成年後見人等の交代に関する独自の規律は設けられておらず、成年後見人の辞任(民法第844条)、成年後見人の解任(同法第846条)及び成年後見人の選任(同法第843条)を組み合わせることにより成年後見人の交代が実現する(保佐人について同法第876条の2第2項により、補助人について同法第876条の7第2項によりこれらの規定が準用されている。)。
    まず、成年後見人の辞任(民法第844条)については、成年後見人は「正当な事由」があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができるとされており、辞任に正当な事由を求めている。これは、成年後見人は、家庭裁判所によって後見等の事務の適任者と認められ、本人の保護のために選任された者であるから、自由に辞任することを認めると、本人の利益を害するおそれがあることが背景にある。そして、正当な事由としては、例えば、①成年後見人が職業上の必要等から遠隔地に住居を移転し、後見等の事務の遂行に支障が生じた場合、②成年後見人が老齢・疾病等により後見等の事務の遂行に支障が生じた場合、③本人又はその親族との間に不和が生じた場合等が想定されている。
    また、成年後見人の解任(民法第846条)については、成年後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、本人若しくはその親族若しくは検察官の請求又は職権により、これを解任することができるとされており、一定の解任事由を求めている。そして、不正な行為とは、違法な行為又は社会的に非難されるべき行為を意味するとされ、また著しい不行跡とは、品行や操行が甚だしく悪いことを意味するとされている。これらが解任事由とされているのは判断能力の不十分な本人の保護という成年後見人の職責の重要性及び権限濫用による被害の重大性に鑑みたものとの指摘がされている。また、裁判所から解任された成年後見人等は後見人となることができないこととされている(解任されたことが成年後見人等の欠格事由とされている。同法第847条第2号)。
    そして、成年後見人が欠けた場合の選任(民法第843条第2項)については、家庭裁判所は、本人若しくはその親族その他の利害関係人の請求又は職権で、成年後見人を選任するとされている。なお、成年後見人が辞任することによって新たに成年後見人を選任する必要が生じたときは、その成年後見人は、遅滞なく新たな成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならないとされている(同法第845条)。

6 成年後見人の欠格事由としての,成年被後見人との間の訴訟
(1)ア 後見人の欠格事由を定めた民法847条4号は以下のとおりです。
    次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
イ 新基本法コンメンタール親族法280頁には以下の記載があります。
    「訴訟」とは、民事訴訟を意味し、調停や審判は含まれない。もっとも、審判であっても、家事事件手続法別表第二事件は、紛争性を有し当事者の利害が対立するので、本条にいう「訴訟」に含まれると解される(新井誠=赤沼康弘=大貫正男編・成年後見制度一法の理論と実務(第2版)[2014,有斐閣)42頁〔赤沼康弘〕)。これに対して、調停はすべて「訴訟」には含まれない。したがって、例えば、遺産分割(家事手続別表第二12)の調停が行われている段階では欠格事由は発生しないが、調停から審判に移行したときに欠格事由が発生する(犬伏・前掲335頁)。
(2)ア 和歌山地裁昭和48年8月1日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています(改行を追加しました。)。
    被後見人に対して訴訟を為し、又は為したる者」とは、その訴訟係属が後見人選任の前後を問わず,また当該訴訟における原・被告たるの地位を問わないが、ただ単に被後見人との間に形式的に訴訟が係属したというだけでは足りず、その内容において、実質上被後見人との間で利害が相反する関係にあることを要すると解すべきである。
    しかし,その請求原因たる事実が存せず、訴の提起維持を事実上支配する者において、請求が理由のないことを知っているか、知らないとしても知らないことにつき過失がある場合等特別の事情が存する場合には、後見人が右訴訟に応訴することはやむを得ない措置として合理性があるのみならず,被後見人の利益を害することにならないので、実質上利害相反しないものというべきである。
イ 大阪高裁昭和52年2月8日決定は以下の判示をしています。
    民法第八四六条第五号(平成11年12月8日法律第149号による改正後の民法847条4号)には、「被後見人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族」は後見人となることができない旨規定しており、右は、旧民法(明治三一年六月二一日公布法第九号)第九〇八条第六号と全く同旨の規定であり、民法が被後見人と訴訟関係に立ち、または立つた者を後見人の欠格者とした趣旨が、被後見人の利益保護に出発し、かかる訴訟関係者は、感情の上でも被後見人との間に融和を欠くおそれがあり、被後見人として適当でないことが考慮されたものであることを考えると、右法条にいわゆる「訴訟をし、」 とは実体上被後見人の利益に反するにもかかわらず、これに対して訴訟をするという意味であつて、形式上被後見人を訴訟当事者とする場合でも、両者の実質的な利益相反関係という具体的基準に照らし、これに反しない場合には、前記法条の「訴訟」には包含しない法意であると解するのが相当である(大判明治四三年一一月二九日、民録一六輯八五五頁参照)。
ウ 大審院明治43年11月29日判決は判例秘書に載っています。
(3) 任意後見人の欠格事由を定める任意後見契約に関する法律4条1項3号ロは,民法847条4号と同趣旨の定めをしています。


7 成年後見と任意後見の関係
(1) 任意後見契約に基づき任意後見監督人を選任する場合において,本人が成年被後見人等である場合,家庭裁判所は,当該本人に係る後見開始の審判等を取り消さなければなりません(任意後見契約に関する法律4条2項)。
(2) 任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所は,本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り,後見開始の審判等をすることができます(任意後見契約に関する法律10条1項)。
(3) 大阪家裁後見センターだよりは,第9回で「任意後見監督人選任の申立てに関して,裁判官の立場から見た留意点」について記載し,第10回で「任意後見と法定後見の関係」について記載しています。

8 成年後見人に対する損害賠償請求の事例
(1) 広島高裁平成24年2月20日判決(担当裁判官は,29期の宇田川基32期の近下秀明及び47期の松葉佐隆之))は,成年後見人らが被後見人の預金から金員を払い戻してこれを着服するという横領を行っていたにもかかわらず,これを認識した家事審判官が更なる横領を防止する適切な監督処分をしなかったことが,家事審判官に与えられた権限を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に当たるとされた事例です(日経新聞HPの「国に230万円賠償命令 後見人横領、広島高裁が一審判決変更」参照)。
(2) 松江地裁平成29年1月16日判決(判例体系に掲載)(担当裁判官は44期の杉山順一新60期の大和隆之及び68期の本村理絵)は,成年後見人が,成年被後見人について,①不必要な食事サービスの提供契約及び車椅子の賃貸借契約を解除しなかったこと,並びに②障害年金の受給申請手続をしなかった結果として同受給権を時効により一部消滅させたことは,成年後見人としての善管注意義務に違反したものと認められるから,成年後見人は,成年被後見人に対し,債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任(元金だけで1076万円余り)を負うとされた事例です。


9 親族後見人による業務上横領に刑法244条1項は準用されないこと
(1) 未成年後見人の場合
・ 最高裁平成20年2月18日決定は以下の判示をしています。
    刑法255条が準用する同法244条1項は,親族間の一定の財産犯罪については,国家が刑罰権の行使を差し控え,親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき,その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず,その犯罪の成立を否定したものではない(最高裁昭和25年(れ)第1284号同年12月12日第三小法廷判決・刑集4巻12号2543頁参照)。
    一方,家庭裁判所から選任された未成年後見人は,未成年被後見人の財産を管理し,その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項),その権限の行使に当たっては,未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず,善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条,644条),家庭裁判所の監督を受ける(同法863条)。また,家庭裁判所は,未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは,職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように,民法上,未成年後見人は,未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく,等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。
    そうすると,未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,家庭裁判所から選任された未成年後見人が,業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に,上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。
(2) 成年後見人の場合
・ 最高裁平成24年10月9日決定は以下の判示をしています。
    家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから,成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより,その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではないというべきである(最高裁平成19年(あ)第1230号同20年2月18日第一小法廷決定・刑集62巻2号37頁参照)。

10 関連記事その他
(1)ア 裁判所HPに「後見人等による不正事例」が載っています。
イ DQトピックスの「人が不正をするのはなぜか? 要素をモデル化した「不正のトライアングル」の紹介」には「この「不正のトライアングル」では、不正行為は①「機会」②「動機 (プレッシャー/インセンティブ)」③「正当化」の3つの不正リスク (不正リスクの3要素) が揃ったときに発生すると考えられています。」と書いてあります。
(2)ア 二弁フロンティア2021年8・9月号及び10月号に,成年後見実務の運用と諸問題[前編]及び[後編]が載っています。
イ 二弁フロンティア2022年8・9月合併号「【講演録】東京三会合同研修会 成年後見実務の運用と諸問題[前編]」が載っていて,二弁フロンティア2022年10月号「【講演録】東京三会合同研修会 成年後見実務の運用と諸問題[後編]」が載っています(講師は48期の村主幸子裁判官59期の日野進司裁判官及び65期の島田旭裁判官)。
(3) 高齢者の認知症を専門とする医師が,紛争が生じる前に本人を診察し,医学的知見に基づく検査方法に則った検査を行った上,その結果に基づいて作成した診断書については,その信用性を疑わせる特段の事情がない限り,信用性は高いものといえます(最高裁平成23年11月17日判決(判例時報2161号20頁及び21頁)参照)。
(4)ア  家庭裁判所から選任された未成年後見人が業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合,未成年後見人と未成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,その後見事務は公的性格を有するものであり,同条項は準用されません(最高裁平成20年2月18日決定)。
イ  他人の物の非占有者が業務上占有者と共謀して横領した場合における非占有者に対する公訴時効は5年です(最高裁令和4年6月9日判決)。
(5) たとえ被相続人が所有財産を他に仮装売買したとしても,単にその推定相続人であるというだけでは,右売買の無効(売買契約より生じた法律関係の不存在)の確認を求めることはできませんし,被相続人の権利を代位行使することはできません(最高裁昭和30年12月26日判決)。
(6)  保佐開始の審判事件を本案とする保全処分の事件において選任された財産の管理者が家庭裁判所に提出した財産目録及び財産の状況についての報告書は、上記保全処分の事件の記録には当たりません(最高裁令和4年6月20日決定)。
(7) 以下の記事も参照してください。
・ 裁判所関係国賠事件
・ 平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)
→ 管理継続中の本人数一覧表(家裁本庁,支部別/事件類型別内訳)も掲載しています。
・ 大阪家裁後見センターだより


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