AIでリライトしたこの記事は,岡口基一裁判官(46期)のツイート,分限裁判その他に関して作成又は取得されたとされる裁判所の司法行政文書について,開示を申し出た人に対し最高裁判所が示した「不開示」(存否を明らかにしない対応を含む。)又は「不存在」の判断を,最高裁判所事務総長の理由説明書及び情報公開・個人情報保護審査委員会の答申の原典に当たりながら整理したものです。個々の判断の対象文書,法的根拠及び原典へのリンクを一覧できるようにしています。
取り上げるのは平成29年(2017年)から平成31年(2019年)にかけての開示申出に対する判断です。岡口氏はその後,令和6年(2024年)4月3日に裁判官弾劾裁判所の判決で罷免されましたが,本記事はそれ以前の情報公開をめぐる記録であり,罷免に至る経緯自体は関連記事に譲ります。
第1 この記事について
1 対象・情報源と記事の現在時点
裁判所が保有する司法行政文書の開示は,行政機関の情報公開制度とは別に,最高裁判所が定める「裁判所の保有する司法行政文書の開示に関する事務の取扱要綱」に基づいて運用されています。開示申出に対する裁判所の対応に不服があるときは,裁判所は行政機関ではないため行政不服審査の対象とならず,最高裁判所の情報公開・個人情報保護審査委員会に対する苦情申出を経て,同委員会の答申が示される仕組みになっています。
この記事の情報源は,いずれも公表されている次の二種類の一次資料です。第一に,開示申出に対して最高裁判所事務総長が不開示等の理由を述べた理由説明書(山中理司のブログに全文のPDFを掲載しています。)。第二に,苦情申出に対する情報公開・個人情報保護審査委員会の答申(最高裁判所ウェブサイトに掲載されています。)。本文の各項目に,対応する原典へのリンクを付しています。
記載内容は平成29年〜平成31年当時の判断であり,最終更新時点(2026年)で各リンク先の所在を確認しています。
2 岡口基一裁判官をめぐる経緯(平成28年〜令和6年)
本記事が扱う各文書の背景として,岡口氏をめぐる経緯の要点を時系列で示します。個々の分限裁判・弾劾裁判の内容は関連記事に譲り,ここでは情報公開の対象文書が生じた文脈を確認できる範囲にとどめます。
- 平成28年(2016年)6月21日 東京高等裁判所長官が,下級裁判所事務処理規則21条に基づき岡口判事に口頭で注意(後掲の答申第1号・第2号の対象)。
- 平成29年(2017年)12月 殺人事件の民事判決に関するツイートが問題化。東京高裁は平成30年(2018年)3月に文書による厳重注意を実施。
- 平成30年(2018年)10月17日 最高裁判所大法廷が戒告の決定(インターネット投稿を理由とする裁判官の懲戒として初の事例)。
- 令和2年(2020年)8月26日 最高裁判所大法廷が2度目の戒告の決定。
- 令和3年(2021年)6月 裁判官訴追委員会が弾劾裁判所への訴追を議決。
- 令和6年(2024年)4月3日 裁判官弾劾裁判所が罷免の判決。これにより岡口氏は法曹資格を失いました。
本記事が整理する開示申出(平成29年〜平成31年)は,この経緯のうち口頭注意・厳重注意から1度目の分限裁判に至る時期に関する文書を主な対象としています。
3 「開示しない」三つの類型―不開示・存否応答拒否・不存在
裁判所が文書を「開示しない」と一口にいっても,その理由は法的に三つに分かれます。この違いを押さえると,以下の各判断が読み分けやすくなります。
第一は不開示です。文書は存在するものの,そこに記録された情報が不開示情報に当たるとして内容を開示しない対応です。裁判所の取扱要綱は,不開示情報の判断基準として行政機関情報公開法5条各号を用いています。本記事に登場する主な根拠は,同条1号(特定の個人を識別できる個人識別情報)と,同条6号ニ(人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ)です。裁判事務に関わる文書については,同条6号本文(事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ)も用いられます。
第二は存否応答拒否です。文書が存在するか否かを答えるだけで不開示情報を開示することになる場合に,存否自体を明らかにしないで開示申出を拒否する対応で,取扱要綱記第5に基づきます。行政機関情報公開法8条と同じ考え方です。たとえば「特定の裁判官が抗議を受けた文書があるか」に存否を答えれば,抗議を受けた事実の有無という個人に関する情報が明らかになってしまうため,存否を伏せる,という論法です。以下の第3の1・2・3・4・5がこの類型です。
第三は不存在です。そもそも当該文書を作成も取得もしていない場合で,開示すべき対象が存在しないという対応です。以下の第4がこの類型です。
第2 開示されなかった文書の一覧
本記事で取り上げる各判断を一覧にすると次のとおりです。「判断」欄の類型は前記第1の3に対応します。原典欄のリンクは,本文の各項目及び末尾の第5・出典に再掲しています。
| 対象とされた文書 | 最高裁の判断 | 主な根拠 | 原典(理由説明書・答申) |
|---|---|---|---|
| ツイートへの抗議に関して作成・取得した文書 | 存否応答拒否 | 個人識別情報(法5条1号) | 平成30年4月23日理由説明書 |
| 21条に基づく注意に関する文書(有無を含む。) | 存否応答拒否 | 人事管理(法5条6号ニ) | 平成29年度(情)答申第2号 |
| 東京高裁長官等と岡口判事の会話の録音反訳・費用文書 | 存否応答拒否 | 個人識別情報(1号)・人事管理(6号ニ) | 平成30年10月27日理由説明書 |
| 「分限裁判の記録」ブログに関して作成・取得した文書 | 存否応答拒否 | 個人識別情報(1号)・人事管理(6号ニ) | 平成30年10月27日理由説明書 |
| ツイート内容を印刷した文書 | 存否応答拒否 | 人事管理(6号ニ) | 平成30年10月3日理由説明書 |
| 平成30年9月11日の審問期日に関して作成・取得した文書 | 不開示(一部不存在) | 裁判事務の適正な遂行(法5条6号) | 平成31年1月15日理由説明書 |
| 調査官氏名文書の「備考」欄 | 不開示 | 裁判事務の適正な遂行(法5条6号) | 平成31年2月21日理由説明書 |
| 平成28年6月21日の口頭注意の際に作成した文書 | 不存在 | 作成が必ず求められるものではない | 平成29年度(情)答申第1号 |
| ツイッター投稿に関し東京高裁が作成した全文書 | 全部不開示 | ― | 平成30年度(情)答申第22号 |
第3 不開示(存否応答拒否を含む。)とされた文書
1 ツイートへの抗議に関して作成・取得した文書
「平成29年12月,東京高裁が岡口基一裁判官のツイートに関する抗議を受けた際に作成し,又は取得した文書」の開示申出に対し,最高裁判所は存否を明らかにしないで不開示としました(平成30年4月23日付の理由説明書)。
理由の要点は,当該文書の存否を明らかにすると「特定の裁判官が,私的にツイートした内容に関し,第三者から抗議がなされた事実の有無」という個人識別情報(法5条1号)が公になる,というものです。抗議が報道されている点については,その報道は東京高裁が取材に応じた結果として報道機関の責任でされたにとどまり,裁判所として公表したものではないから,慣行として公にされている情報(同号イ)には当たらないとされました(平成29年度(情)答申第2号を参照)。
2 下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意の有無
この項目は,本記事の中で最も詳しい理由が示されている部分です。根拠は平成29年度(情)答申第2号(平成29年4月28日答申)です。
下級裁判所事務処理規則21条は,「高等裁判所長官(略)は,所属の裁判所の監督に服する裁判所職員に対し,事務の取扱及び行状について注意を与えることができる」と定めています。答申は,同条に基づく注意を,事務の取扱いや行状の改善を目的とするもので,分限裁判による懲戒のような制裁的実質を含まない措置と位置づけます。裁判官の懲戒である分限裁判は確定すると官報で公告されるのに対し,21条の注意は公表が予定されていない点も指摘されています。
そのうえで答申は,この注意の運用は裁判官の個人的事情に関わる機微なものであり,どのような手続がとられ,どのような文書が作成・管理・保存されるかを公にすると,人事管理に関与する判断権者や職員に文書の作成・管理・保存について好ましくない影響が生じ,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある(法5条6号ニ)としました。したがって,対象文書の存否を答えるだけでこうしたおそれのある情報を開示することになるとして,存否を明らかにしないで不開示とすべきであったと結論づけています。注意が報道されたことも,取材対応にとどまり裁判所が公表したものではない以上,この判断を左右しないとされました。
3 東京高裁長官等と岡口判事との会話に関する文書
「平成30年5月24日午前11時頃から午後0時頃までに行われた,東京高裁長官・東京高裁事務局長と岡口判事との会話に関する〔1〕録音データを反訳した文書,及び〔2〕録音反訳のために外部業者に支払った費用が分かる文書」の開示申出に対し,存否を明らかにしないで不開示とされました(平成30年10月27日付の理由説明書)。
理由の要点は二つです。第一に,存否を明らかにすると,特定の日時に高裁長官等と特定の裁判官が会話をしたという個人識別情報(法5条1号)が公になること。第二に,高裁長官等が所属裁判官と会話をする目的は様々あり得るものの内容次第では人事管理に関するものとなり得るため,会話の有無を明らかにすると,その裁判官に対する人事管理上の指導方法や時期等が明らかとなる可能性があり,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある(法5条6号ニ)ことです。
4 「分限裁判の記録」ブログに関して作成・取得した文書
「東京高裁が,岡口判事が管理している『分限裁判の記録』と題するブログに関して作成し,又は取得した文書」の開示申出に対し,存否を明らかにしないで不開示とされました(平成30年10月27日付の理由説明書)。
理由の要点は,存否を明らかにすると特定の裁判官がブログを管理しているという個人識別情報(法5条1号)が公になること,及び,裁判官の私的領域における言動はその内容次第で裁判所の信用失墜につながり得るため人事上の措置等に関する文書となり得る性質を有し,存否を明らかにすると人事管理に関与する判断権者等に文書の作成・取得・管理・保存について好ましくない影響が生じ,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある(法5条6号ニ)ことです。
5 ツイート内容を印刷した文書
「裁判官のツイート内容を印刷した文書」の開示申出に対し,存否を明らかにしないで不開示とされました(平成30年10月3日付の理由説明書)。
理由は前項とほぼ同じ枠組みで,裁判官という身分を明らかにしたうえでの私的領域における言動は,その内容次第で裁判所又は裁判官の信用失墜につながり得ることから人事上の措置等に関係する文書となり得るとし,そのような文書の存否を明らかにすると人事管理に係る事務に好ましくない影響が生じ,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある(法5条6号ニ)としています。
6 分限裁判の審問期日に関して作成・取得した文書
「平成30年9月11日の岡口判事の審問期日に関して作成し,又は取得した文書」の開示申出については,前記の各項目と異なり,対象文書が存在することを認めたうえで内容を不開示としました(平成31年1月15日付の理由説明書)。
理由の要点は,探索の結果,裁判体の指示に基づき審問期日を滞りなく進行するために作成された司法行政文書が存在したものの,当該文書は裁判の運営に関する裁判体の判断等の内容を推知させるものであり,非公開手続である分限裁判の審問期日に関するものとしてその機密性は高い,というものです。これを開示すると裁判体の具体的な判断や職員への指示の内容等を対外的に示すことになり,今後の適正な裁判事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとして,標題部分や枚数を含め全体として法5条6号の不開示情報に該当するとされました。なお,開示申出で例示された「NHKその他のマスコミの傍聴要請を拒否した際に作成し,又は取得した文書」に該当する司法行政文書は,探索の結果,存在していなかったとされています。
7 分限事件担当の最高裁調査官氏名文書の「備考」欄
岡口判事の分限事件を担当した最高裁判所調査官の氏名が分かる文書の「備考」欄について,記載の有無を含めて不開示とされました(平成31年2月21日付の理由説明書)。
理由の要点は,備考欄には裁判所が事件の進行管理を適切に行うために必要となる記載がされ,その情報は事件終局後もそのまま表示されるため,係属中か終局後かを問わず,これを開示して事件の進行等に関する内容が明らかになると適切な裁判事務の遂行に支障を来すおそれがある,というものです(平成30年度(最情)答申第35号を参照)。そのため,備考欄に関する情報は記載の有無も含め法5条6号の不開示情報に相当するとされました。
第4 不存在とされた文書
1 平成28年6月21日の口頭注意の際に作成した文書
「東京高等裁判所が平成28年6月21日付けで特定の裁判官を口頭注意処分した際に作成した文書」については,これを作成も取得もしていないとする最高裁判所事務総長の説明が合理的と判断され,不存在とされました(平成29年度(情)答申第1号(平成29年4月28日答申))。
答申は次のように述べます。下級裁判所事務処理規則21条に基づく注意は制裁的な効果を伴わない措置であり,注意の要否や態様は高等裁判所長官の責任において決することが予定されているところ,同条には注意の方法等についての規定がなく,文書の作成の要否等に関する定めも見当たらない。したがって,長官が口頭注意の意思決定を行うに際して文書の作成が必ず求められるものではない。加えて,本件注意は身分保障された裁判官に対する私的な事柄に関するものであること等を考慮すると,意思決定の過程で文書が作成されなかったとしても不合理とはいえず,他に文書の存在をうかがわせる事情もない,というものです。
2 ツイッター投稿に関し東京高裁が作成した全文書
「特定の裁判官がツイッターに投稿した件に関して東京高等裁判所が作成した全文書」については,その全部が不開示情報に相当するとされました(平成30年度(情)答申第22号(平成31年3月15日答申))。
この一連の情報公開の出発点には,岡口氏自身の次の投稿があります。平成29年9月29日付の司法行政文書不開示通知書によれば,最高裁が岡口判事のツイッターに関して作成し,又は取得した文書は存在しない,という内容です。
1 29年9月29日付の司法行政文書不開示通知書によれば,最高裁が岡口基一裁判官のツイッターに関して作成し,又は取得した文書は存在しません。
2 裁判所の情報公開https://t.co/mjBVVV8OxF
3 裁判所の文書管理https://t.co/13slOPIqGx pic.twitter.com/fNnQY18A3w— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) October 2, 2017
第5 原典・関連記事
1 引用した最高裁の理由説明書・答申
本文で根拠とした理由説明書(PDF)及び答申(最高裁判所ウェブサイト)は次のとおりです。答申のPDFは最高裁判所ウェブサイトの改装により所在が変わっており,以下は現在のURLです。
- 平成30年4月23日付の最高裁判所事務総長の理由説明書
- 平成30年10月27日付の理由説明書(東京高裁長官等と岡口判事との会話)
- 平成30年10月27日付の理由説明書(「分限裁判の記録」ブログ)
- 平成30年10月3日付の最高裁判所事務総長の理由説明書
- 平成31年1月15日付の理由説明書
- 平成31年2月21日付の理由説明書
- 平成29年度(情)答申第1号(平成29年4月28日答申・PDF)
- 平成29年度(情)答申第2号(平成29年4月28日答申・PDF)
- 平成30年度(情)答申第22号(平成31年3月15日答申・PDF)
- 平成30年度(最情)答申第35号(PDF)
2 岡口裁判官に関する関連記事
出典
法令
- 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)5条・8条(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
- 裁判所法(昭和22年法律第59号)48条(身分の保障)・49条(懲戒)(e-Gov法令検索で確認)
- 裁判官分限法(昭和22年法律第127号)2条(懲戒は戒告又は1万円以下の過料)(e-Gov法令検索で確認)
- 下級裁判所事務処理規則(昭和23年最高裁判所規則第16号)21条,裁判官の分限事件手続規則9条(いずれも最高裁判所規則であり,条文はe-Gov法令検索に収録されていないため,本文では引用元の答申・理由説明書に記載された文言により示した)
公文書・答申(最高裁判所)
- 最高裁判所事務総長の理由説明書(平成30年4月23日付,平成30年10月3日付,平成30年10月27日付〔2件〕,平成31年1月15日付,平成31年2月21日付)。いずれも山中理司のブログにPDFを掲載。
- 平成29年度(情)答申第1号・第2号(いずれも平成29年4月28日答申),平成30年度(情)答申第22号(平成31年3月15日答申),平成30年度(最情)答申第35号。最高裁判所 情報公開・個人情報保護審査委員会。同委員会の答申一覧。
ウェブ資料
- 日本経済新聞「SNS投稿の岡口基一判事を罷免,表現行為で初 弾劾裁判所」ほかの報道(令和6年〔2024年〕4月3日の罷免判決に関する記述の裏付け)。