不起訴事件記録の開示範囲の拡大

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目次
1 不起訴事件記録は原則として開示されないこと
2 通達に基づく,不起訴事件記録の開示範囲の拡大
3 実況見分調書に対する文書送付嘱託を実施した場合における検察庁の対応
4 平成9年当時の,検察庁の被害者対応
5 関連記事その他

1 不起訴事件記録は原則として開示されないこと
(1) 刑事訴訟に関する書類は,公判の開廷前(=通常,第1回の公判期日前)は,原則として非公開とされています(刑事訴訟法47条本文)。
    そのため,不起訴事件記録(=①不起訴処分となった後の不起訴記録及び②公訴提起後第1回公判期日前の記録並びに③公判不提出記録)の閲覧・謄写は原則として認められません。
(2) 刑事訴訟法47条本文が「訴訟に関する書類」を公にすることを原則として禁止しているのは,それが公にされることにより,被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーが侵害されたり,公序良俗が害されることになったり,又は捜査,刑事裁判が不当な影響を受けたりするなどの弊害が発生するのを防止することを目的としています(最高裁平成16年5月25日決定)。
(3) 刑訴法47条ただし書の規定によって「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は,当該「訴訟に関する書類」が原則として公開禁止とされていることを前提として,これを公にする目的,必要性の有無,程度,公にすることによる被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーの侵害,捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,当該「訴訟に関する書類」を保管する者(検察庁の保管検察官のことです。)の合理的な裁量にゆだねられています(最高裁平成19年12月12日決定,及び最高裁平成31年1月22日決定)。

2 通達に基づく,不起訴事件記録の開示範囲の拡大
(1) 被害者等に対する不起訴事件記録の開示について(平成12年2月4日付法務省刑事局長通知(法務省刑総第128号))(「検察における被害者保護への取組みについて」に中身が書いてあります。)
ア(ア) 本通知発出前は,「検察庁においては,従来から交通事故に関する実況見分調書等の証拠につき,当該事件に関連する民事訴訟の係属している裁判所からの送付嘱託や弁護士会からの照会に応じてきたところである」という取扱いでした。
    つまり,交通事故事件の実況見分調書等に限り,裁判所からの文書送付嘱託又は弁護士会照会を通じて入手できるに過ぎませんでした。
(イ) 本通知発出前に交通事故の刑事記録を閲覧しようとした際の体験談につき,外部HPの「-「調書」が見たいという人のために-」が参考になります。
イ    本通知により,以下の取扱いとなりました。
(ア) 被害者等に対する不起訴記録開示の新たな方針
① 開示対象となる事件の範囲を,交通事故に係るもの以外の事件に拡大する。
② 開示対象となる記録の範囲を,写真撮影報告書,検視調書等の客観的証拠で,かつ,代替性がないと認められるものに拡大する。
③ 被害者又はその親族からの請求又はその代理人たる弁護士からの請求についても開示に応じる。
(イ) 閲覧又は謄写の請求者等
① 被害者又はその親族からの請求又はその代理人たる弁護士からの請求若しくは弁護士法に基づく照会(ただし,当該事件が単なる民事紛争に係るものであって,刑事事件の実質を有しないと認められる場合等を除く。)
② 裁判所からの文書送付嘱託
③ 自動車保険料率算定会及び財団法人交通事故紛争処理センターからの照会
④ ①ないし③以外の場合における記録の開示の当否については,従前どおりの取扱いである。ただし,過失相殺事由の有無等を把握するため,加害者側が記録の閲覧又は謄写を求めるような場合には,正当に被害回復が行われることに資する場合も少なくないので,相当と認められるときは,請求に応じる。
(2)   民事裁判所からの不起訴事件記録の文書送付嘱託等について(平成16年5月31日付け法務省刑事局長通知(法務省刑総第627号))
ア 公判不提出記録に対する文書提出命令に関する最高裁平成16年5月25日決定を受けたものです。
イ 開示する条件自体は,平成20年11月19日付の法務省刑事局長通知と同じであると思われます。
(3)   被害者等に対する不起訴事件記録の開示について(平成20年11月19日付の法務省刑事局長通知(法務省刑総第1595号))
ア 平成20年12月1日以降,被害者参加対象事件である交通事故の被害者は,「事件の内容を知ること」等を目的とするときであっても,実況見分調書や写真撮影報告書等の客観的証拠について閲覧・謄写することができるようになりました(法務省HPの「不起訴事件記録の開示について」参照)。
イ 平成20年11月19日付の法務省刑事局長通知に基づき,現在,不起訴事件記録の開示が実施されています。

3 実況見分調書に対する文書送付嘱託を実施した場合における検察庁の対応
・ 私の経験では,以下のような文面と一緒に実況見分調書のコピーを送付してきます。
嘱託事項について(回答)
平成○○年○月○日付け書面にて送付方嘱託のあった被疑者○○○○及び○○○○に対する過失運転致傷事件(不起訴)記録は,刑事訴訟法第47条の公判の開廷前の訴訟に関する書類に該当し,原則非公開ですが,裁判所から送付嘱託があった場合,実況見分調書等客観的なものについては,嘱託に応じる取扱いとなっていますので,貴所より嘱託の下記書面を送付します(返却不要)。
なお,郵便切手○○○○円は返戻いたします。

平成○○年○月○日付け実況見分調書(写し) 1通

4 平成9年当時の,検察庁の被害者対応等
(1)ア  平成24年度初任行政研修「事務次官講話」「明日の行政を担う皆さんへ」と題する講演(平成24年5月15日実施)において,西川克行法務事務次官は以下の発言をしています(リンク先のPDF7頁及び8頁)。
    こういう状況(山中注:被害者は捜査公判を通じて何らかの権限が与えられるということはほとんどなく,それから情報もほとんど与えられないという状況)について一番初めに問題になったのは、平成九年だったと思いますけれども、片山君という小さな男の子がトラックの後輪にひかれて亡くなったという交通事故でした。難しい事件だったと思いますが、東京地検が、要は過失を問うことができないということで不起訴にしたわけです。
    当時、行政の国民に対する説明という点でも問題があったのは、被害者もしくは被害者の遺族から、あの事件はどうなりましたかという問い合わせが来ると、検察は「不起訴」としか答えていませんでした。次に、どうして不起訴になったのですかという理由を聞かれます。それに対しては、法学部の方は分かっていると思いますけれども、裁定主文しか答えませんでした。例えば、嫌疑がなかった場合は「嫌疑なし」と、これしか答えない。嫌疑不十分ということであれば「嫌疑不十分」と、この五文字しか答えない。このような時代が相当続いていました。
    この片山君の事件のときに、これでは余りにも不親切ではないか、罪を犯した被告人は、裁判において判決を受け、なぜこういう経緯になったのかという理由を聴くことができる。ところが、被害者のほうは何もすることができないではないか、こういう不満が非常に強くなったということです。この被害者への通知についてはもうすでに相当改善されていて、希望する被害者の方には事件の処理の結果を教えますし、不起訴になったときには、その理由も教えるということになっています。
(中略)
    特にこの被害者について刑事司法のほうで反省しなければならないのは、被害者というのは突然現れたわけではなく、いつの時代でも常に手続の側にいた、被害者というのは、加害者を除けば事件の最大の当事者で、かつ利害関係人ということです。ただ、その当事者の側の声は大きくなかったか、もし大きかったとしても、刑事司法の側がそれを真剣に聴かなかった時代が長く続いたということになると思います。
イ 「片山君の事件」というのは,平成9年11月28日朝,東京都世田谷区で青信号で横断中だった小学2年生の片山隼(当時8歳)が渋滞で停車中のダンプカーにひかれて死亡したという事件のことです(Wikipediaの「隼ちゃん事件」参照)。
(2) 横浜弁護士会新聞2001年9月号の「横浜地方検察庁 三谷紘検事正に聞く」には,「検察の仕事は、昔から「被害者とともに泣く検察」ということが言われていますが、今の検事にはその原点に戻り、実践して貰いたいと思います。」と書いてあります。

5 関連記事その他

(1)ア 調査嘱託によって得られた回答書等の調査の結果を証拠とするには,裁判所がこれを口頭弁論において提示して当事者に意見陳述の機会を与えれば足り,当事者の援用を要しない(最高裁昭和45年3月26日判決)のに対し,文書送付嘱託で得られた文書については当事者が書証として提出しない限り証拠となりません。
イ 実務上,調査嘱託の結果を書証として提出させる取扱いもあります(新民事訴訟法における書記官事務の研究(Ⅰ)60頁)。
(2) 東京高裁令和2年2月21日決定(判例時報2480号7頁以下)は,民訴法226条(送付嘱託)により文書を提出する際に,目的外使用はしないという趣旨の誓約書又は同意書を徴求することは,法令の規定よりも加重な義務を課すものであって,望ましい運用ではないことを付言しています。
(3) 以下の記事も参照してください。
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
 加害者の刑事裁判の判決が確定した後の,起訴事件の刑事記録の入手方法
・ 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧

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