不起訴となった事件の記録は,刑事訴訟法47条により,公判が始まる前は原則として非公開である。もっとも,被害者等の保護のため,法務省の通達によって,実況見分調書などの客観的な証拠を中心に,開示の範囲は段階的に広げられてきた。本記事は,(1)非公開の原則と例外(ただし書)の判断枠組み,(2)開示範囲を広げた3つの通達の内容,(3)実況見分調書を文書送付嘱託で入手する際の検察庁の実際の取扱い,(4)送付嘱託・調査嘱託をめぐる実務上の注意点,(5)被害者への情報提供が拡充された経緯を,条文・通達・裁判例の原典に当たって整理する。
第1 不起訴事件記録は原則として非公開であること
1 刑事訴訟法47条による公判前の非公開の原則
刑事訴訟に関する書類は,公判の開廷前,すなわち通常は第1回の公判期日前は,これを公にしてはならないのが原則である(刑事訴訟法47条本文)。
そのため,不起訴事件記録の閲覧・謄写は,原則として認められない。
ここでいう不起訴事件記録には,次の3種類が含まれる。
①不起訴処分となった後の不起訴記録,②公訴が提起された後で第1回公判期日前の記録,③公判に提出されなかった記録(公判不提出記録)である。
2 47条本文の趣旨と,ただし書による開示の判断枠組み
刑事訴訟法47条本文が訴訟に関する書類を公にすることを原則として禁止しているのは,それが公にされることによって,被告人,被疑者及び関係者の名誉やプライバシーが侵害されたり,公序良俗が害されたり,又は捜査や刑事裁判が不当な影響を受けたりするなどの弊害が生じるのを防ぐためである(最高裁平成16年5月25日決定)。
もっとも,47条ただし書は,公益上の必要その他の事由があって相当と認められる場合には,訴訟に関する書類を公にすることができるとしている。
この相当性の判断は,当該書類が原則として公開を禁止されていることを前提に,これを公にする目的や必要性の有無・程度,公にすることによる関係者の名誉・プライバシーの侵害や捜査・公判への不当な影響といった弊害発生のおそれの有無などの諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,当該書類を保管する者(検察庁の保管検察官)の合理的な裁量に委ねられている(最高裁平成19年12月12日決定,最高裁平成31年1月22日決定)。
したがって,民事訴訟の当事者が不起訴記録の文書提出命令(民事訴訟法220条)を求めた場合であっても,その記録が同条各号の文書に該当するときは,保管検察官が刑事訴訟法47条ただし書に基づいて提出を拒否した判断が,上記の諸事情に照らして裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものと認められるときに限り,裁判所は提出を命じることができる。
平成19年決定は勾留請求の資料とされた告訴状・被害者供述調書について,平成31年決定は捜査書類の写しについて,いずれもこの枠組みを示している。
第2 法務省通達による開示範囲の段階的な拡大
不起訴事件記録の開示は,法務省刑事局長の3つの通達によって段階的に広げられてきた。まず全体像を示す。
| 通達 | 主な内容 |
|---|---|
| 平成12年2月4日 (法務省刑総第128号) | 被害者等に対する不起訴記録の開示について。開示対象を交通事故以外の事件に拡大し,写真撮影報告書・検視調書等の客観的証拠に拡大し,被害者・親族・代理人弁護士の請求にも応じる。 |
| 平成16年5月31日 (法務省刑総第627号) | 民事裁判所からの不起訴事件記録の文書送付嘱託等について。供述調書を開示できる場合の指針と,目撃者の氏名・連絡先を調査嘱託に回答できる場合の指針を示す。 |
| 平成20年11月19日 (法務省刑総第1595号) | 被害者参加対象事件について,被害者等が「事件の内容を知ること」等を目的とする場合でも,客観的証拠は原則として閲覧を認める。平成20年12月1日から実施。 |
これら3通達の内容は,法務省がまとめた「検察における被害者保護への取組みについて」及び「不起訴事件記録の開示について」で確認することができる。
1 平成12年通達――交通事故以外の事件・客観的証拠への拡大(刑総128号)
(1) 通達前の運用
この通達が出される前は,検察庁は,従来から交通事故に関する実況見分調書等の証拠について,当該事件に関連する民事訴訟が係属している裁判所からの送付嘱託や,弁護士会からの照会に応じてきた,という取扱いであった。
つまり,交通事故事件の実況見分調書等に限り,裁判所からの文書送付嘱託又は弁護士会照会を通じて入手できるにとどまっていた。
通達前に交通事故の刑事記録を閲覧しようとした際の体験談としては,外部サイトの「「調書」が見たいという人のために」が参考になる。
(2) 新たな開示方針
平成12年通達は,被害者等に対する不起訴記録の開示について,次の新たな方針を示した。
①開示対象となる事件の範囲を,交通事故に係るもの以外の事件に拡大する。
②開示対象となる記録の範囲を,写真撮影報告書,検視調書等の客観的証拠で,かつ,代替性がないと認められるものに拡大する。
③被害者又はその親族からの請求,又はその代理人である弁護士からの請求についても開示に応じる。
(3) 閲覧・謄写の請求者等
開示に応じる請求者等は,次のとおり整理された。
①被害者又はその親族からの請求,その代理人である弁護士からの請求,又は弁護士法に基づく照会(ただし,当該事件が単なる民事紛争に係るものであって,刑事事件の実質を有しないと認められる場合等を除く)。
②裁判所からの文書送付嘱託。
③自動車保険料率算定会及び財団法人交通事故紛争処理センターからの照会。
④①から③以外の場合における開示の当否は,従前どおりの取扱いである。ただし,過失相殺の事由の有無等を把握するため,加害者側が閲覧又は謄写を求めるような場合には,正当な被害回復に資することも少なくないので,相当と認められるときは請求に応じる。
2 平成16年通達――供述調書と目撃者情報(刑総627号)
平成16年通達は,公判に提出されなかった記録に対する文書提出命令に関する最高裁平成16年5月25日決定を受けて出されたものである。
その内容は,平成12年通達とは対象を異にし,主に次の2点について新たな指針を示した。
①不起訴事件記録中の供述調書については,捜査・公判への支障や関係者の名誉・プライバシーの侵害のおそれがある場合が多いことから,原則として不開示としつつ,民事裁判所から特定の者の供述調書について文書送付嘱託がされ,その供述調書が当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど証明に欠くことができず,かつ,供述者の死亡・所在不明等によりその供述を民事訴訟で顕出できない場合などの要件を満たすときは,開示するのが相当であるとした。
②民事訴訟で事件の目撃者の証人尋問を実施しようとしても目撃者を特定できない場合に,裁判所からその調査の嘱託がされたときは,一定の要件の下で,目撃者の氏名及び連絡先を回答できるとした。
3 平成20年通達――被害者参加対象事件の客観的証拠(刑総1595号)
平成20年通達により,平成20年12月1日以降,被害者参加の対象となる事件(刑事訴訟法316条の33以下)の被害者は,「事件の内容を知ること」等を目的とする場合であっても,実況見分調書や写真撮影報告書等の客観的証拠については,原則として閲覧することができるようになった。
この通達は,被害者参加対象事件についての閲覧請求に係る部分を除き,平成12年通達及び平成16年通達で示した指針を変更するものではない。
つまり,供述調書の開示や目撃者情報の回答についての指針は平成16年通達のとおりに残り,平成20年通達は,被害者参加対象事件の客観的証拠を「事件の内容を知る」目的でも原則開示するという運用を上乗せしたものである。この平成20年通達に基づく開示が,現在も実施されている。
第3 実況見分調書を文書送付嘱託で入手する場合の検察庁の対応
交通事故の過失運転致傷事件などが不起訴となった場合に,民事訴訟の裁判所を通じて実況見分調書の文書送付嘱託を実施すると,検察庁は,おおむね次のような文面とともに実況見分調書の写しを送付してくる。
嘱託事項について(回答)
平成○○年○月○日付け書面にて送付方嘱託のあった被疑者○○○○及び○○○○に対する過失運転致傷事件(不起訴)記録は,刑事訴訟法第47条の公判の開廷前の訴訟に関する書類に該当し,原則非公開ですが,裁判所から送付嘱託があった場合,実況見分調書等客観的なものについては,嘱託に応じる取扱いとなっていますので,貴所より嘱託の下記書面を送付します(返却不要)。
なお,郵便切手○○○○円は返戻いたします。記 平成○○年○月○日付け実況見分調書(写し) 1通
不起訴となった交通事故事件の実況見分調書や物件事故報告書の具体的な入手方法は,別稿「不起訴事件記録(例えば,実況見分調書及び物件事故報告書)の入手方法」で解説している。
第4 送付嘱託・調査嘱託をめぐる実務上の留意点
1 調査嘱託の結果と,送付嘱託で得た文書の証拠化
不起訴記録に関する情報を民事訴訟に取り込む方法として,文書送付嘱託(民事訴訟法226条)のほか,調査の嘱託(同法186条)がある。両者は,証拠とするための扱いが異なる。
| 方法 | 証拠とするための扱い |
|---|---|
| 調査の嘱託 (民事訴訟法186条) | 嘱託によって得られた回答書等の調査の結果を証拠とするには,裁判所がこれを口頭弁論において提示して当事者に意見陳述の機会を与えれば足り,当事者が援用することを要しない(最高裁昭和45年3月26日判決)。ただし,実務上は,調査嘱託の結果を当事者に書証として提出させる取扱いもある。 |
| 文書送付嘱託 (民事訴訟法226条) | 送付嘱託で得られた文書は,当事者が書証として提出しない限り,証拠とはならない。 |
2 文書提出の際に誓約書・同意書を求めることの当否
文書の所持者が,文書を提出する際に,取得した資料を目的外に使用しない旨の誓約書や同意書を求めることがある。この点について,事故車両のドライブレコーダー映像を東京都が保有していた事案で,東京高裁は,当該映像が民事訴訟法220条2号の準文書に該当するとして文書提出命令を認めたうえで,次の趣旨の付言をした。
すなわち,民事訴訟法226条(文書送付嘱託)により文書を提出する際に,誓約書又は同意書を徴求することは,法令の規定よりも加重な義務を課すものであって,望ましい運用ではない,というものである(東京高裁令和2年2月21日決定・判例時報2480号7頁)。
この東京高裁決定は,裁判所ウェブサイトには掲載されていない。本記事では判例秘書で決定の全文を確認しており,付言の内容もその原文により確認している。
第5 被害者への情報提供が拡充された経緯
1 隼ちゃん事件と被害者等通知制度
不起訴記録の開示や被害者への情報提供が拡充された背景には,被害者やその遺族が,事件がどうなったのかを知る手立てをほとんど与えられてこなかったという事情がある。その転機の一つとされるのが,平成9年11月28日の朝,東京都世田谷区で,青信号で横断していた小学2年生の片山隼さん(当時8歳)が,渋滞で停車していたダンプカーにひかれて死亡した事故(隼ちゃん事件)である。
当時,東京地検はこの事故について過失を問うことが難しいとして不起訴とした。遺族が問い合わせても,検察は処分結果として「不起訴」と答え,理由を尋ねられても「嫌疑なし」「嫌疑不十分」といった裁定の主文しか答えない運用が続いていた。西川克行法務事務次官(当時)は,平成24年度初任行政研修の講話で,この事故を被害者への情報提供の不十分さが問題となった契機の一つとして挙げ,被害者への通知はその後相当に改善され,希望する被害者には事件の処理結果を,不起訴となった場合にはその理由も教えるようになった,と述べている。
実際に,検察では,被害者やその親族等に対し,事件の処理結果,公判期日,裁判結果のほか,希望があるときは不起訴裁定の主文や理由の骨子等を通知する被害者等通知制度が運用されている。この隼ちゃん事件については,ウィキペディアの「隼ちゃん事件」の項目も参照できる。
2 「被害者とともに泣く検察」
被害者への配慮という検察の姿勢は,古くから語られてきた。横浜弁護士会新聞2001年9月号に掲載された「横浜地方検察庁 三谷紘検事正に聞く」では,検察の仕事について「昔から『被害者とともに泣く検察』ということが言われている」とし,検事にはその原点に戻って実践してほしい,という趣旨が語られている。不起訴記録の開示範囲の拡大も,こうした被害者保護の流れの中に位置づけることができる。
第6 犯罪被害者の慰謝料相場と関連記事
1 犯罪被害者の慰謝料相場
不起訴となった事件でも,被害者は,加害者に対して民事上の損害賠償を求めることができる。犯罪被害に関する慰謝料の相場を調べる資料としては,千葉県弁護士会が編集した「慰謝料算定の実務(第2版)」(ぎょうせい)の第16章「刑事事件(犯罪被害者)」が参考になる。同章は,性犯罪,傷害・暴行,殺人・傷害致死の各類型について,裁判例の調査と弁護士会へのアンケートに基づいて慰謝料額を整理している。
2 刑事記録の入手方法に関する関連記事
刑事記録の入手方法は,事件の段階(起訴前・公判係属中・確定後)や,請求する立場(被害者側・加害者側)によって手続が異なる。次の関連記事も参照されたい。
- 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
- 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
- 加害者の刑事裁判の判決が確定した後の,起訴事件の刑事記録の入手方法
- 不起訴事件記録(例えば,実況見分調書及び物件事故報告書)の入手方法
- 検番等の入手方法等
- 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧
出典
1 法令
- 刑事訴訟法(47条,220条,221条,226条,186条,316条の33以下)――e-Gov法令検索
2 裁判例
- 最高裁判所第三小法廷平成16年5月25日決定・民集58巻5号1135頁(平成15年(許)第40号) 裁判所ウェブサイト
- 最高裁判所第二小法廷平成19年12月12日決定・民集61巻9号3400頁(平成19年(許)第22号) 裁判所ウェブサイト
- 最高裁判所第三小法廷平成31年1月22日決定・民集73巻1号39頁(平成30年(許)第7号) 裁判所ウェブサイト
- 最高裁判所第一小法廷昭和45年3月26日判決・民集24巻3号165頁(昭和44年(オ)第1156号) 裁判所ウェブサイト
- 東京高等裁判所令和2年2月21日決定・判例時報2480号7頁(令和2年(ラ)第59号)(判例秘書で全文確認済み。裁判所ウェブサイト未掲載)
3 公文書
- 法務省「検察における被害者保護への取組みについて」 https://www.moj.go.jp/content/000005101.pdf
- 法務省「不起訴事件記録の開示について」 https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji23.html
- 被害者等に対する不起訴事件記録の開示について(平成12年2月4日付法務省刑総第128号刑事局長通達)
- 民事裁判所からの不起訴事件記録の文書送付嘱託等について(平成16年5月31日付法務省刑総第627号刑事局長通達)
- 被害者等に対する不起訴事件記録の開示について(平成20年11月19日付法務省刑総第1595号刑事局長依命通達)
4 文献
- 千葉県弁護士会編「慰謝料算定の実務(第2版)」(ぎょうせい)第16章「刑事事件(犯罪被害者)」
- 「新民事訴訟法における書記官事務の研究(Ⅰ)」(調査嘱託の結果を書証として提出させる取扱いについて) 国立国会図書館サーチ
5 ウェブ資料
- 西川克行法務事務次官講話「明日の行政を担う皆さんへ」(平成24年度初任行政研修,平成24年5月15日実施,7頁・8頁) 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)
- 「「調書」が見たいという人のために」 https://www.mika-y.com/journal_n/j_chosho.html
- 「隼ちゃん事件」 ウィキペディア
- 「横浜地方検察庁 三谷紘検事正に聞く」横浜弁護士会新聞2001年9月号