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実務修習地の決め方―国会答弁と情報公開答申から分かる考慮事情と配属割合(AI作成)

第1 本記事で扱う資料と結論

1 結論の要旨

司法修習生の実務修習地は,司法研修所が決定する。
平成29年3月22日の衆議院法務委員会では,最高裁判所事務総局人事局長が,修習生の希望を基本とし,各人の健康状態,家族状況の切実度など諸般の事情を考慮して決定していると答弁した。
同じ答弁は,修習地の希望を第六希望まで聴取していること,4分の3程度の修習生が第1希望又は第2希望の実務修習地に配属されていること,全く希望外の修習地に配属された修習生はほとんどいないことも説明している。

令和元年8月23日付の情報公開・個人情報保護審査委員会の答申は,第72期について,希望修習地及びその順位,健康状態,家族状況等を考慮して検討・調整を行い,名簿を作成して決定していたという最高裁判所事務総長の説明を前提に判断している。
この説明によれば,個々の検討・調整について個別の文書は作成されず,名簿を作成する段階で会議も開催されていなかった。

2 資料の時点と本記事の範囲

本記事は,令和8年10月17日時点で確認できた国会会議録,国会答弁資料,情報公開の答申書及び最高裁判所の理由説明書に基づく。
いずれも平成29年から令和元年までの時点の運用を説明した資料であり,第80期の実務修習地の決定基準,事情ごとの優先順位又は配属確率を示すものではない。
第80期の希望地申告の方法は当該期の司法研修所の案内で確認する必要があり,本ブログでは80期司法修習の希望地申告―希望順位・一任・家庭事情と旧資料の適用限界で扱っている。

第2 平成29年3月22日の衆議院法務委員会での答弁

1 質疑の経緯

この答弁は,修習給付金制度を創設する裁判所法の一部を改正する法律案を審議した第193回国会衆議院法務委員会第5号で行われた。
井出庸生衆議院議員は,住居給付金及び移転給付金に関連して,転居を要する修習生と要しない修習生の割合を尋ねるとともに,経済的な事情から出された希望が通るのかを質問した(発言番号48)。
答弁したのは,当時の最高裁判所事務総局人事局長であった41期の堀田眞哉である。

法務省大臣官房司法法制部が大臣答弁用に作成した国会答弁資料は,実務修習地の決め方(想定5問)及び転居を要する修習生の割合(想定7問)について,いずれも司法修習の運用に関わる事項であり,司法修習を所管する最高裁判所に尋ねてほしいとする結論を記載している。
このため,実際の答弁は最高裁判所の人事局長が行った。

2 実務修習地の決め方

会議録の発言番号49によれば,人事局長は次のとおり答弁している。
「実務修習地の決定は司法研修所の方でしておりますが、司法研修所において、修習生の希望を基本として、各人の健康状態、家族状況の切実度など、諸般の事情を考慮して決定しているものと承知しております。」

3 希望の聴取と配属の割合

同じ答弁は,希望の聴取方法と配属の結果を次のとおり説明している。
「司法研修所は、司法修習生にあらかじめ実務修習希望地の調査書というものを提出させまして、修習地の希望を第六希望まで聴取しておりますところ、四分の三程度の修習生が第一希望または第二希望の実務修習地に配属されている一方で、全く希望外の修習地に配属された修習生はほとんどいないものと承知しているところでございます。」

ここでいう「第六希望まで」は,答弁当時の調査書の様式に関する説明である。
4分の3程度という割合も答弁当時の運用についての概数であり,対象とした期や算出方法は示されていない。
第69期以前の希望倍率は実務修習地の希望倍率―過去の統計と第2希望選びの限界に掲載しているが,これらの過去の資料から現在の配属確率を求めることはできない。

4 経済的な事情と転居の負担の扱い

井出議員は,引っ越しを伴うと費用がかかるので近くにしてほしいという希望も考慮されるのかを重ねて質問した(発言番号50)。
これに対し,人事局長は次のとおり答弁した(発言番号51)。
「各修習生の具体的な経済状況の詳細な情報は、実務修習地の決定の際に詳しく調査をしているわけではないと承知しておりますけれども、先ほども申し上げましたような諸般の事情を考慮して決める中で、そういった面が、転居の負担というのは本人の希望の切実度と裏腹の関係になるというような意味合いにおいては一定程度考慮されるという結果になっているのではないかというふうに考えております。」

この答弁は,経済状況そのものを詳しく調査して配属に反映する仕組みを説明していない。
転居の負担は,本人の希望の切実度という形で一定程度考慮されるという説明にとどまる。

5 転居を要する修習生の割合と実態把握

転居を要する修習生の割合について,人事局長は,これまで調査したことはないとした上で,貸与制の下で住居加算を申請した者の割合が直近5年間でおおむね2割程度であると答弁した(発言番号49)。
住居加算の申請者には,実家等から修習先へ通勤できず,新たに住居を確保した者が含まれると考えられるという説明である。
また,井出議員が修習生の経済的な実態の調査を求めたのに対し,人事局長は,給付金の創設後はまず運用を安定的にすることを心がけ,実情把握の要否や項目はその時々に検討すると答弁した(発言番号52及び53)。
住居給付金の金額の根拠は,修習給付金の金額の根拠―基本給付金月額13万5000円・住居給付金月額3万5000円で扱っている。

第3 情報公開の答申と理由説明書から分かる決定手続

1 第72期の決定に使われた文書

令和元年8月23日付の答申(令和元年度(最情)答申第40号)は,第72期司法修習予定者の実務修習地を決定する際に作成した文書等の開示申出についての判断である。
最高裁判所は,対象文書として,第72期司法修習生採用選考申込者の氏名,生年月日,性別,実務修習地,組,出席番号,修習班等が記載された名簿と,その決裁票を特定した(答申書6頁~7頁の別紙)。
開示された決裁票の件名は「第72期司法修習生採用選考申込者の実務修習地,組,出席番号及び修習班について」であり,起案日及び決裁日はいずれも平成30年10月17日である。
決裁欄には,所長,事務局長,事務局次長,企画二課の課長等の欄が設けられている。

2 考慮される事情と検討・調整の方法

答申書2頁は,名簿の作成過程についての最高裁判所事務総長の説明を次のとおり要約している。
「司法研修所では,司法修習採用選考申込者ごとの実務修習地について,実務修習希望地調査書に記載された希望修習地及びその順位,各人の健康状態,家族状況等の諸般の事情を考慮して検討・調整を行った上で,本件名簿を作成して決定している。」
「個々の検討・調整については,その後も変更が重ねられていく流動的なものにすぎず,個別に文書を作成する必要はないため,本件名簿以外の文書は作成又は取得していない。」
「なお,司法修習採用選考申込者の実務修習地を決定し,本件名簿を作成する段階で会議は開催していない。」

答申書3頁~4頁は,実務修習地がこのような検討・調整を経て決定されることを踏まえ,名簿以外の文書を作成又は取得していないという説明の内容は不合理とはいえないと判断した。
会議を開催していないという説明についても,実務修習地の決定に際して必ず会議が開催されているという事情はうかがえないとして,不合理とはいえないとしている。

3 組の数と組ごとの実務修習地の組合せ

別の開示申出は,京都修習と大津修習,神戸修習と奈良修習を同じ組にすることを決定した際の文書を求めたものであり,最高裁判所はこれを組の数及び実務修習地の組合せを決定した文書と整理した。
令和元年8月19日付の理由説明書によれば,組の数や各組の実務修習地の組合せは,「第二部の研修の企画その他の重要な事項」として教官会議の議を経なければならないとされている(司法研修所規程第4条第2項ただし書)。
第72期司法修習生の組の数,各組の実務修習地及びその担当教官は,平成30年10月12日の教官会議で決定され,その際に作成された文書は「第72期教官担当表」であると説明されている。
期ごとの組と実務修習地の対応は,実務修習地とクラスの対応関係(第67期から第79期まで)に掲載している。

4 名簿の記載事項の不開示

答申書3頁は,名簿に記載された申込者の氏名,フリガナ,戸籍名,生年月日,性別,実務修習地,組,出席番号及び修習班が,申込者ごとに一体となって個人識別情報に相当すると判断した。
このため,個々の申込者がどの実務修習地に配属されたかは開示されていない。

第4 国会答弁と答申を併せて読むときの注意

1 両資料が示す考慮事情

国会答弁は「希望」「健康状態」「家族状況の切実度」を挙げ,答申書が要約する最高裁判所の説明は「希望修習地及びその順位」「健康状態」「家族状況等」を挙げている。
両資料とも,希望を出発点としつつ,健康状態や家族の事情を含む諸般の事情を考慮する点で共通している。
もっとも,事情ごとの優先順位,点数化の有無及び実務修習地ごとの人数の割振り方法は,いずれの資料にも示されていない。

2 現在の希望地申告に当てはめるときの限界

国会答弁の「第六希望まで」という説明は,平成29年当時の調査書に関するものである。
希望地の記載方法や記載できる希望数は期によって変わり得るため,第80期の申告は当該期の正式な案内に従う必要がある。
また,4分の3程度という割合から,特定の申込者が第1希望又は第2希望に配属される確率を求めることはできない。
希望順位を決めるための生活条件の比較は,司法修習の場所―全国51の実務修習地一覧と選び方で扱っている。

第5 関連記事

①80期司法修習の希望地申告―希望順位・一任・家庭事情と旧資料の適用限界
②司法修習の場所―全国51の実務修習地一覧と選び方
③実務修習地の希望倍率―過去の統計と第2希望選びの限界
④実務修習地とクラスの対応関係(第67期から第79期まで)
⑤司法修習地の沿革―実務修習地が全国51か所へ拡大した経緯
⑥司法修習生配属現員表(48期以降)
⑦修習給付金の金額の根拠―基本給付金月額13万5000円・住居給付金月額3万5000円
⑧司法修習生の住居給付金――支給要件,7日以内の住居届,寮・実家・親名義及び二重家賃
⑨司法修習生の移転給付金―対象となる転居,路程別の支給額,7日以内の移転届及び対象外例
⑩修習給付金制度を創設した平成29年の裁判所法改正法に関する,衆議院法務委員会における国会答弁資料

第6 出典

①国会会議録検索システム「第193回国会衆議院法務委員会第5号」(平成29年3月22日)発言番号48~53
②法務省大臣官房司法法制部「平成29年3月22日井出庸生衆議院議員(民進党)に対する国会答弁資料」想定5問及び想定7問(PDF1頁及び6頁)
③情報公開・個人情報保護審査委員会「令和元年度(最情)答申第40号」(令和元年8月23日)2頁~4頁及び6頁~7頁
④最高裁判所事務総長「理由説明書(72期司法修習予定者の実務修習地を決定する際に作成した文書等)」(平成31年3月11日)
⑤最高裁判所事務総長「理由説明書(72期司法修習生の組及び実務修習地につき組の数を決めた上で,京都修習と大津修習を一緒にすること等を決定した際の文書)」(令和元年8月19日)1頁~2頁
⑥司法研修所「第72期司法修習生採用選考申込者の実務修習地,組,出席番号及び修習班について」(平成30年10月17日決裁)の決裁票