修習資金貸与制に関する最高裁判所の当初の案

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〇修習資金貸与制に関する最高裁判所の当初の案(修習資金貸与制の施行に伴う整備の概要(案)(資料41))と,実際に施行された制度とでは,①父又は母のいずれか1人を必ず連帯保証人とする必要はなくなったこと,及び②据置期間が3年から5年になったことの2点が異なります。
「司法修習生の修習資金貸与制」も参照して下さい。

林道晴司法研修所事務局長は,平成21年3月5日の司法修習委員会において以下の説明をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1(1) まず,資料41の前注に,今回このような議論をお願いする背景事情が書いてある。
   平成16年の裁判所法の一部改正によって,司法修習生に対し国から給与を支給する制度に代えて,平成22年,来年の11月1日から,司法修習生が修習に専念することを確保するための資金,これは裁判所法で「修習資金」と呼んでいるが,その修習資金を貸与する制度が導入される。
   この修習資金は,修習生からの貸与申請によって,修習期間中,無利息で貸与するというものであり,具体的な貸与金額や返還期限等については最高裁が定めることになっている。
(2)   災害,けが,病気等の事情により返還が困難となったときには,返還期限を猶予する制度が設けられており,被貸与者が死亡又は精神・身体の障害によって返還できなくなったときには,返還の一部又は全部を免除するという制度も用意されている。

(3)   それ以外の細目的事項についても最高裁が定めることになっており,私どもとしては,改正された裁判所法の委任を受けて,来年の実施に向けて,裁判所法の改正に対応する形での最高裁規則を制定する必要がある。
2 最高裁判所規則自体も当委員会にお諮りしたいと思っているが,その規則を作成する前提となる重要事項について,本日,審議をお願いするところである。
   平成16年12月3日に一部改正された裁判所法の立法過程においては,一定の方向性が示されており,後ほど関係する項目のところで説明したいと思うが,かなり具体的な事項が立法段階で議論されている。その後,特段事情変更は認められないことから,貸与制の制度を作るに当たって,この方向性を尊重するのが相当であると考えている。
3 また,国が修学資金として貸与する制度には,類似のものとして,矯正医官修学資金貸与制度(法務省),自衛隊貸費学生制度(防衛省),公衆衛生修学資金貸与制度(厚生労働省)がある。
 さらに,密接に関連するものとして,独立行政法人日本学生支援機構の奨学金があり,法科大学院生が奨学金として受け取っているものの大多数は,この学生支援機構の奨学金である。
4(1) 修習資金は国の債権になるので,回収という点については会計法上のスキームが適用され,納入告知書を被貸与者に渡して,被貸与者が納入告知書に現金を添えて,日本銀行の本店又は支店に納付する必要がある。
 したがって,民間の融資のような銀行口座等からの引き落としの方法では回収できないという制約がある。
(2)   具体的には,国が,返済金額・返済期限を,納入告知書に納入金額・納入期限として記入し,被貸与者にその納入告知書を送付して返還を請求する。
 納入告知書を受け取った元修習生は,その納入告知書に納入金額分の現金を添えて日銀の本店又は支店に提出し,納入(返済)の手続をとる。通常は,日銀の歳入代理店である市中銀行に赴くことが想定される。
 日銀ないしその代理店が現金を受け入れると,これを国に通知して,これによって回収が完了する。
5(1) 資料41に戻って,まず,一番重要な貸与金額の点について,平成16年の裁判所法改正当時の国会審議では,給費制における支給基準を参考に,1の(1)の23万円程度を基本額にして,(2)の18万円程度,(4)の28万円程度と,三段階の貸与額を設けることが想定されていた。これは当時の政府参考人の答弁の中で明確になっている。
(2)   (1)の23万円と(2)の18万円については,特段の要件を課すことなく,貸与を希望した者にそのまま貸与することがイメージされ,一方,(4)の28万円については,扶養親族がおり,住居を賃借しているといった要件を審査した上で貸与することがイメージされていた。
(3)   資料41は,そのような議論を踏まえ,23万円を基本金額とし,少ない金額は18万円,一番多い金額は28万円という三類型は維持した上で,23万円と28万円の中間的な類型として,(3)の25万5000円というオプションを追加している。
 これは,扶養家族がいるか,あるいは住居を賃借しているか,どちらかの要件を満たしている場合を対象としており,(4)の28万円は,扶養親族がいて,かつ住居を賃借している場合を対象にしている。
 現在の給費制の下で,扶養親族を有している修習生は約1割程度にとどまっているが,住居を賃借している修習生は約7割程度いることから,この中間的なオプションを用意したところである。
(4)   なお,司法修習生本人の資力要件については,特段の要件を設けない方向で考えている。
(5)   また,扶養加算の点について,現在の給費制の下での司法修習生の年齢構成を見ると,扶養家族として配偶者だけ,あるいは配偶者と子といった核家族の最小構成が最も多くなっているので,貸与制においてもニーズは同様と考え,まず,配偶者と子を扶養親族として掲げることにした。
(6)   配偶者と子以外の扶養親族については,(3)のアの(イ)にあるように,給与法に規定する人的範囲と同じものにする方向で考えている。
(7)   修習期間中に加算要件が生じることも想定されるので,これに対応できるように,1ページの最後の2行にあるように,修習開始後の修習資金の増額又は減額ができるようにするというスキームにしたいと考えている。
6(1) 次に,2ページの2,修習資金の返還期限等については,修習期間終了後,すなわち原則として貸与の終了後に,例えば3年間程度の据置期間を置いた上で,その後10年間の年賦均等返還の方法で返還することを基本にした上で,繰上返還も認める案になっている。
(2)   平成16年の裁判所法改正当時の国会審議では,3年から5年の据置期間を経過した後,10年間の年賦とするということが,政府参考人から示されていたところである。
 これは,法科大学院在学中に奨学金の貸与を受けていた者が,さらに修習生となって修習資金の貸与を受けることが十分考えられる,返済の負担が過重となってしまう可能性があることから,その負担を考慮したものと承知しており,資料41はそれを尊重した形になっている。
(3)   また,年賦が提案されている背景として,国会審議における議論からは必ずしも明確ではないが,国庫金の納入スキームからすると,返還のたびに納入告知書が発行され,それを日銀の代理店に持参して現金で納付することになり,これは返還をする人にとってかなりの負担になることが推察されるので,その負担感を緩和するためであろうと考えられる。
(4)   2ページの2のアスタリスクのところでは,返還が遅れた場合には,他の制度と同様に延滞利息がかかり,期限の利益を失うことがあるということを注意的に記載している。
7(1) 次に,3の保証人の関係であるが,類似の修学資金の貸与制度と学生支援機構の奨学金では,いずれも二人の人的保証,つまり保証人が貸与の要件となっている。
 したがって,修習資金についても,国の資金を扱う形になる以上,やはり二人の保証人を立てることを要件にせざるを得ないと考えており,3の(1)のような形になっている。保証人の要件については,父又は母があるときは,その保証人二人のうち一人は父又は母にしなければならないという仕切りになるかと思う。
(2)   資料には明示していないが,保証人の要件は民法の規定によるので,弁済の資力を有することが要件になる。
(3)   ただ,自然人の保証人を絶えず二人用意しなければならないということになると,被貸与者としては保証人が用意できない,用意しにくいということも考えられるので,日本学生支援機構の奨学金のように,機関保証というものを用意して,これを人的保証とは別に選択ができる形を提案している。
(4)   機関保証が導入された場合には,父母等に負担をかけずに貸与を受けられるメリットがある。実際に機関保証を受けてもらうのは民間の会社を考えているところであるが,用意できるかどうかは事務局の宿題ということで,正直申し上げて交渉はかなり難航しているが,何とか用意して,少しでも借りやすくすることを考えたいと思う。
8(1) 最後に,資料には記載していないが,修習生に対しては,この貸与制への移行に伴って国から給与が支給されなくなるので,国から給与が支給されていることを基本にする共済組合への加入ができなくなる。
 したがって,国民健康保険,国民年金に加入することになると考えられる。
(2)   ただし,公務災害や,第三者に修習生が損害を与えた場合の国家賠償については,従前どおりになると考えられる。

〇大橋正春弁護士(後の最高裁判所判事)は,平成21年9月3日の第15回司法修習委員会において以下の発言をしています(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1(1) 据置期間については,ぜひ5年にしていただきたい。また,自然人の保証人につき,父母を保証人としなくてはならないとする要件は削除していただきたい。
(2)   まず,据置期間であるが,修習生の中には法科大学院修了時に奨学金等の債務を負っている者がかなりの数含まれており,現在の経済状況の中で,新人弁護士をめぐる状況はかなり悪くなっている。
 この2つを考え,据置期間は5年にしていただきたい。
(3)   以前の委員会で今申し上げた点を具体的なデータを示して説明してほしいという指摘もあったが,なかなかそういうデータはなく,また弁護士をめぐる状況の悪化はごく最近のことである。
 もっとも,例えば,法科大学院生が日本学生支援機構から借りることができる奨学金の上限額は,無利子・有利子を含めて月額約30万円であり,単純に計算すると3年間で1000万円を超える額の債務を負担することになる。
 最高限度額まで奨学金を借りる者はそう多くはないと思うが,奨学金を借りている者は多いので,かなりの修習生は債務を負っていると考えてよいのではないか。
(4)   新人弁護士の初任給については,日弁連でアンケート調査をしている。
 これによると,例えば,平成18年度に修習終了した旧59期の新人弁護士で,年収が500万円以下と答えた人の割合は7.6パーセントだったが,昨年修習終了した新61期の新人弁護士では,この割合が20.8パーセントと増加している。
 また,年収が400万円以下と答えた人の割合も0.3パーセントから3パーセントに増加している状況である。
(5)   これは,一面では新人弁護士が事務所を探すことが難しくなっている状況の反映でもあり,アンケートによれば,昨年の同時期に事務所が決まっていない人の割合は約17パーセントであったが,今年は24パーセントを超えており,修習生の就職状況が悪化しているのが分かる。
 このような就職状況が,新人弁護士の初任給を引き下げる方向に働いているのではないか。この傾向は,2,3年のうちに改善する望みは薄いと考えられ,少なくともしばらくの間は続くと思われる。
(6)   以上のようなことを考えると,すべての修習生が難しい状況にあるわけではないが,中にはそういう修習生も含まれており,据置期間は3年ではなく5年にしていただきたい。
(7)   修習資金は,国の資金であり,回収の面から言えば,据置期間を3年から5年にすることで回収が困難になる可能性が高くなるのではないかという懸念もある。
 しかし,多くの者は弁護士になるので,所在が不明になることは少ないといえる。そういった意味で,通常の奨学金等に比べれば回収リスクは低いのではないか。
2(1) 2点目は,前回,鎌田委員からも御指摘があったが,父母を保証人とすることを修習資金を貸与する要件とする必要があるのかという問題である。
(2) 修習生は,法科大学院を出ているので,ほかの奨学金等の貸与制度の被貸与者より年齢が少し高いと考えられるし,何らかの事情で父母に保証人になってもらえないということを理由に修習資金を貸与してもらえないということは,不合理ではないか。
(3) 父母を保証人にすることを修習資金を貸与する要件としていることについては,ぜひ削除していただきたい。

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