修習資金貸与金の返還を一律に免除するために必要な法的措置,及びこれに関する国会答弁


目次
1 総論
2 特例法による債権免除の実例
3 修習資金貸与金の返還義務の一律免除を実現するのは,修習給付金制度の創設以上に難しいと思われること
4 貸与制に基づく借金額に関する評価の例等
5 新65期ないし70期に対する救済措置は予定していないとする国会答弁
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1 総論
(1)   新65期から貸与制に移行したため,国が修習資金貸与金の返還義務を遡及的に免除する場合,国の債権の管理等に関する法律32条1項(歳入徴収官等による免除を定めた規定)に関する特例法が必要になります。
   そして,裁判所主管の歳入予算概算見積書(裁判所の予算参照)によれば,修習資金貸与金償還金は政府資産整理収入(租税印紙収入と同様に,歳入予算の「部」の一つ)に含まれますから,修習資金貸与金の返還義務を免除した場合,将来の政府資産整理収入が減少することとなります。
(2) 最高裁判所の場合,歳入徴収官は最高裁判所事務総局経理局長です(裁判所会計事務規程3条1項及び別表第二・1項)。

2 特例法による債権免除の実例
(1) 国の債権の管理等に関する法律32条1項の特例法としては,カネミ油症事件関係仮払金返還債権の免除についての特例に関する法律(平成19年6月8日法律第81号)があります。
   これは,「昭和四十三年に九州地方を中心に発生したカネミ油症事件をめぐる損害賠償請求訴訟に係る判決の仮執行の宣言に基づき国が支払った仮払金の返還に係る債権の債務者が当該事件による被害の発生から現在までの間に置かれてきた状況及び当該債権の債務者の多くが高齢者となっていることを踏まえ」(同法1条),国が,一定の収入基準及び資産基準を満たすカネミ油症被害者について債権免除を認めたものです。
(2) 国の債権の管理等に関する法律(昭和31年5月22日法律第114号)32条1項によれば,歳入徴収官が債権を免除できるのは,債務者が無資力又はこれに近い状態にあるため履行延期の特約等をした債権について,当初の履行期限から十年を経過した後において、なお債務者が無資力又はこれに近い状態にあり,かつ,弁済することができることとなる見込みがないと認められる場合に限られます。

3 修習資金貸与金の返還義務の一律免除を実現するのは,修習給付金制度の創設以上に難しいと思われること
   71期以降について修習給付金制度が創設されたものの,新65期ないし70期の修習資金の返還義務を免除するためには特例法が必要になります。
   また,カネミ油症被害者と異なり,新65期ないし70期の修習生は何らかの損害を被った被害者ではありませんし,高齢者でもありません。
   さらに,仮に修習資金返還義務の免除を認めた場合,修習資金の貸与を受けなかった同期の元修習生との間で発生する著しい不公平を解決する必要があります。
   そのため,修習資金貸与金の返還義務の一律免除を実現するのは,修習給付金制度の創設以上に難しいと思われます。


4 貸与制に基づく借金額に関する評価の例等
(1)ア 平成29年7月22日現在,司法修習ナビゲーションHP「貸与金を受けるか?」には,以下の記載があります。
   貸与制の借金を払い終えるころというのは、弁護士15年目ということになると思います。
   弁護士経験15年目の弁護士が「返済に悩むレベル」というのは、3千万から3億円というレベルです。
   貸与制の300万円というのは、悩みというには少額すぎる金額です。
   ゴーマンをかますというわけでもありませんが,15年目の弁護士にとっては,300万というのは鼻クソです。
   鼻クソのことで悩む必要は,普通は,ないと思います。
   そういうわけで、悩むことなく、堂々と借金して、精一杯に修習を経験して、楽々と借金を返済してください。
イ シュルジーブログの「15年目の弁護士にとっては,300万というのは鼻くそです。」(2017年9月29日付)には以下の記載があります。
   借金の条件が破格だということと、給費が貸与と同じかどうかは、別のことでしょう。
   返済しなければならない債務としての負担の重さは、利息の有無や返済期間とは関係なく、人によるとしか言いようがありません。
   同じく、15年目の弁護士にとって300万が鼻クソかどうかも、人によるとしか言えません。
   気安く貸与を推奨して、もしその人の人生が狂ったりした場合に、この先生は責任を取れるんでしょうか。
   本当の論点は、「貸与を受けるかどうか」などということでは、もはやないのですよ。
   我々に突きつけられる問題とは、「法曹は目指すべき職業なのかどうか」です。
(2) 『気になるあの人のウラ側一挙ご開帳SP』(平成30年6月15日,テレビ東京放送分)には以下の記載があります。
   弁護士の通帳を見せてもらう。弁護士の平均年収は1000万円でテレビに出演している弁護士先生は5000万円から1億円になるそうだ。今回、通帳を見せてくれるのは福永活也弁護士。通帳には1週間で6億円の賠償金が入金されていた。独身の福永弁護士は旅行が趣味で今まで旅先は130ヵ国だそうで、登山も趣味で780万円でエベレスト山頂を行っていた。


5 新65期ないし70期に対する救済措置は予定していないとする国会答弁
   40期の小山太士法務省大臣官房司法法制部長は,平成29年3月31日の衆議院法務委員会において,以下の答弁をしていますところ,要するに,新65期ないし70期に対する救済措置は予定していないと述べています。
① 委員から御指摘がございました、修習給付金制度の創設に伴いまして、現行の貸与制下の司法修習生、これは新六十五期から第七十期まででございますけれども、これに対しましても何らかの救済措置を講ずべきとの御意見があることは我々としても承知しております。
   ただ、修習給付金制度の趣旨でございますが、これは、先ほど御答弁申し上げましたとおり、法曹志望者が大幅に減少している中で、昨年六月の骨太の方針で言及されました、法曹人材確保の充実強化の推進等を図る点にあるわけでございまして、この趣旨に鑑みますと、修習給付金につきましては、今後新たに司法修習生として採用される者を対象とすれば足りるのではないかと考えられたところでございます。
   それからまた、加えて、仮に既に貸与で修習を終えられたような方に何らかの措置を実施するといたしましても、現行貸与制下において貸与を受けていらっしゃらない方もいらっしゃいまして、この取り扱いをどうするかといった制度設計上の困難な問題がございます。また、そもそも、既に修習を終えている人に対して事後的な救済措置を実施することにつき、国民的な理解が得られないのではないかという懸念もあるところでございます。
   ということで、本制度につきましては、救済措置を設けることは予定していないわけでございます。
② 本法案が可決、成立いたしますと、本年十一月に修習が開始される第七十一期の司法修習生から修習給付金を支給することになります。まずは新たな制度を導入していただきまして、その後はこの制度について継続的、安定的に運用していくことが重要であろうと考えております。御理解を賜りたいと考えております。

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