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第65期~第70期の修習資金貸与制と健康保険の被扶養者(AIリライト)

第1 この記事が扱う修習資金と結論

本記事が扱う「修習資金」は,平成29年法律第23号による裁判所法改正前の同法67条の2に基づき,第65期から第70期までの司法修習生へ貸与された資金である。
第71期以降の司法修習生には,裁判所法67条の2の修習給付金と,同法67条の3の修習専念資金という別の制度が設けられている。

旧貸与制の修習資金について,日本年金機構の疑義照会回答は,月額,資金の目的及び生活の実態を踏まえ,貸与を受ける司法修習生を健康保険の被扶養者として認定できないとしている。
公立学校共済組合愛媛支部及び大阪市職員共済組合も,司法修習資金を被扶養者認定上の収入に含める取扱いを公表している。

もっとも,被扶養者の認定を行うのは,家族が加入する健康保険組合,共済組合その他の保険者である。
司法研修所の第70期向け資料も,被扶養者認定が取り消されて国民健康保険への加入が必要となる「可能性」があると説明し,具体的な手続を各保険者又は市区町村へ確認するよう案内している。

第2 修習資金が被扶養者認定に影響する理由

1 健康保険法上の被扶養者と生計維持

健康保険法3条7項は,被保険者と一定の親族関係にあり,主としてその被保険者により生計を維持する者等を被扶養者としている。
被扶養者該当性は,収入額だけでなく,被保険者との関係における生活の実態を含めて判断される。

健康保険の被扶養者認定で用いる「収入」は,所得税法上の所得と同じ概念ではない。
返還義務のある借入金であるため所得税法上の所得に当たらないことと,その資金で生活する者が健康保険法上「主としてその被保険者により生計を維持するもの」に当たるかは,別の問題である。

2 日本年金機構の疑義照会回答と国会答弁

日本年金機構の「疑義照会回答(厚生年金保険 適用)」印刷22頁(PDF24頁)は,改正前の裁判所法67条の2に基づく修習資金を対象としている。
同回答は,修習資金が1か月ごとに23万円,最低でも18万円貸与されること,その目的及び生活の実態から,貸与を受ける司法修習生を被扶養者として認定できないとしている。

第185回国会衆議院法務委員会第2号では,平成25年10月30日,政府参考人が,月額23万円の貸与を受ける司法修習生は,一般的には被保険者により生計を維持する者に該当せず,被用者保険の被扶養者ではなく国民健康保険へ加入することになると説明した。
同じ答弁では,修習資金は所得税法上の所得には該当しないことも説明されており,税法上の所得と健康保険上の生計維持関係が区別されている。

3 共済組合が公表している取扱い

公立学校共済組合愛媛支部「被扶養者の認定の手続き」は,司法修習生に貸与される修習資金を,恒常的な収入の総額に含まれるものの例として掲げている。
大阪市職員共済組合「被扶養者認定の収入条件について」も,司法修習資金貸与金を生活補助的な収入に含める取扱いを示している。

これらは,各共済組合が公表している被扶養者認定上の運用資料であり,全ての保険者を法的に拘束する統一基準そのものではない。
そのため,実際の資格喪失日,必要書類及び届出方法は,家族が加入する保険者へ確認する必要がある。

第3 収入基準と旧貸与額の関係

1 現行の被扶養者認定基準

日本年金機構の現行案内では,年間収入の基準は原則として130万円未満であり,60歳以上又は障害者の場合は180万円未満である。
令和7年10月1日以降の認定では,19歳以上23歳未満の者について,配偶者を除き,年間収入の基準が150万円未満となっている。

同居の場合は収入が被保険者の収入の半分未満であること,別居の場合は収入が被保険者からの仕送り額未満であることも基準となる。
国内居住要件,親族の範囲及び同居要件もあるため,年収基準だけで被扶養者該当性が決まるわけではない。

2 月額18万円又は23万円の旧修習資金

旧修習資金を12か月間受ける場合,月額18万円なら合計216万円,月額23万円なら合計276万円となる。
いずれも,現在の被扶養者認定における最も高い年間収入基準である180万円を上回る。

この比較は,旧修習資金の金額規模を示すために現行基準を参照したものであり,現在の基準を過去の認定へ遡及適用する趣旨ではない。
日本年金機構の疑義照会回答が重視したのも,金額だけでなく,修習資金の目的及び被保険者との関係における生活の実態である。

3 第71期以降の制度とは区別する

平成29年法律第23号により,裁判所法67条の2は修習給付金を,同法67条の3は修習専念資金を定める現在の構成となった。
旧修習資金についての疑義照会回答を,第71期以降の修習給付金又は修習専念資金へそのまま当てはめることはできない。

最高裁判所の「第79期司法修習生に対する修習給付金案内」印刷18頁(PDF22頁)も,被扶養者として認定されている者について,個々の事情により国民健康保険への加入等の手続が必要となることがあると案内している。
第71期以降の制度については,本記事末尾の修習給付金及び修習専念資金の記事を参照されたい。

第4 被扶養者から外れる場合の手続

1 保険者への確認と被扶養者(異動)届

司法研修所の平成28年10月14日付「司法修習生採用後の健康保険等について」は,健康保険に関する手続を各健康保険組合等へ,国民健康保険及び国民年金に関する手続を市区町村へ確認するよう案内している。
確認の際は,修習資金の貸与決定,月額,貸与期間,他の収入及び家族からの援助状況が分かる資料を準備すると,認定の前提を伝えやすい。

協会けんぽでは,被扶養者でなくなったとき,被保険者が事業主を経由して「被扶養者(異動)届」を提出する。
健康保険組合又は共済組合の場合は,それぞれの保険者が定める様式,提出先及び添付書類を確認することとなる。

2 国民健康保険及び国民年金の手続

被扶養者から外れ,他の被用者保険にも加入しない場合は,住所地の市区町村で国民健康保険の加入手続を行うこととなる。
資格の空白や重複を避けるため,被扶養者でなくなる日と国民健康保険の資格取得日を,保険者及び市区町村の双方へ確認することが有用である。

被扶養配偶者が国民年金の第3号被保険者であった場合は,第1号被保険者への種別変更が必要となることがある。
国民年金保険料の免除,納付猶予及び追納については,本記事末尾の国民年金の記事を参照されたい。

3 資格喪失後に受診した場合の医療費

被扶養者資格を失った日以後は,従前の保険証又は資格確認書を使用できない。
資格喪失後に従前の資格で受診した場合,協会けんぽ大阪支部の案内によれば,協会けんぽが医療機関へ支払った総医療費の7割又は8割を返還することとなる。

返還後に新しい加入先の保険者へ療養費等を請求できる場合があるが,必要書類及び請求期限は加入先の取扱いによる。
資格喪失日が判明した時点で,従前の保険者,新しい加入先及び受診した医療機関へ連絡することとなる。

第5 被扶養者非該当通知に対する不服申立て

1 最高裁令和4年12月13日判決

最高裁令和4年12月13日第三小法廷判決(令和3年(行ヒ)第120号,民集76巻7号1872頁)は,健康保険組合が被保険者に対して行う親族等の被扶養者非該当通知を,健康保険法189条1項所定の「被保険者の資格に関する処分」に当たると判断した。
この通知に不服がある場合は,社会保険審査官に対する審査請求の対象となる。

同判決の事案は,健康保険組合が,被保険者の妻の収入が組合の基準を満たさなくなったとして被扶養者非該当通知をしたものであり,司法修習生の修習資金を対象とした事件ではない。
また,同判決は,妻が被扶養者に該当するかという本案上の判断を示したものではなく,不服申立ての対象となる処分の性質を判断したものである。

2 審査請求期間と同判決の結論

社会保険審査官及び社会保険審査会法4条は,現在,処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に審査請求をすることを原則とし,被保険者の資格に関する処分については,処分日の翌日から2年を経過すると審査請求ができない旨を定めている。
通知を受けた場合は,通知書,封筒,受領日が分かる資料及び認定資料を保存し,早期に管轄の社会保険審査官へ手続を確認する必要がある。

最高裁令和4年12月13日判決の多数意見は,当該事案の審査請求が当時の法定期間を過ぎた不適法なものであると判断した。
そのため,通知取消請求に係る訴えは不服申立前置の要件を欠くとして却下され,国に対する上告も棄却されたが,宇賀克也裁判官は期間徒過について正当な事由を認めるべきであるとの反対意見を述べた。

第6 出典・参考資料

1 法令

健康保険法3条7項,189条及び192条。
健康保険法施行規則37条の2,37条の3及び38条。
社会保険審査官及び社会保険審査会法4条。
裁判所法67条の2及び67条の3並びに裁判所法の一部を改正する法律(平成29年法律第23号)

2 裁判例

最高裁令和4年12月13日第三小法廷判決,令和3年(行ヒ)第120号,処分取消等請求事件,民集76巻7号1872頁,判時2557号5頁,判タ1507号33頁。

3 所管機関等の解説・運用資料

①司法研修所「司法修習生採用後の健康保険等について」,平成28年10月14日,1頁。
②日本年金機構「疑義照会回答(厚生年金保険 適用)」,印刷22頁(PDF24頁)。
③日本年金機構「従業員が家族を被扶養者にするとき,被扶養者に異動があったときの手続き」,令和8年7月13日更新。
④厚生労働省「19歳以上23歳未満の被扶養者に係る認定について」,保発0704第1号・年管発0704第1号,令和7年7月4日。
⑤公立学校共済組合愛媛支部「被扶養者の認定の手続き」,令和7年12月2日更新。
⑥大阪市職員共済組合「被扶養者認定の収入条件について」。
⑦全国健康保険協会大阪支部「保険証・資格確認書はいつから使えなくなるの?」,令和7年3月17日更新。
⑧最高裁判所「第79期司法修習生に対する修習給付金案内」,印刷18頁(PDF22頁)。

4 国会会議録

第185回国会衆議院法務委員会第2号,平成25年10月30日,発言122~127。

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