選挙違反者にとっての平成時代の恩赦

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目次
第1 平成時代の恩赦における公民権の回復方法
1 平成時代の恩赦の概要
2 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦における公民権の回復方法
3 平成2年の御即位恩赦における公民権の回復方法
4 平成5年の皇太子御結婚恩赦における公民権の回復方法
第2 公民権を有しない人,並びに選挙運動の禁止及び公民権の回復
1 公民権を有しない人
2 選挙運動の禁止及び公民権の回復
第3 選挙違反者が平成2年の御即位恩赦を受けるために必要であった条件
1 執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1以上を経過した人が恩赦を受けるために必要であった条件
2 (a)実刑判決を受けた人(刑の執行前の人を含む。),又は(b)執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1も経過していない人が恩赦を受けるために必要であった条件
第4 平成2年の御即位恩赦で必要であった条件の具体的内容
1 皇太子ご結婚恩赦について(法律のひろば1993年8月号及び同年9月号に掲載されたもの)の執筆者
2 「社会のために貢献するところがあること」の意義
3 「刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること」の意義
4 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」の意義
第5 平成時代に実施された,選挙違反者に対する特別基準恩赦の実績
1 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦の場合
2 平成2年の御即位恩赦の場合
3 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合
第6 関連記事

第1 平成時代の恩赦における公民権の回復方法
1 平成時代の恩赦の概要
(1) 平成時代の恩赦は以下の三つです。
① 平成元年 2月24日の恩赦
・ 昭和天皇の大喪の礼に伴い,大赦令及び復権令,並びに特別基準恩赦が実施されました。
② 平成 2年11月12日の恩赦
・ 現在の上皇の即位の礼に伴い,復権令及び特別基準恩赦が実施されました。
③ 平成 5年 6月 9日の恩赦
・ 皇太子殿下(徳仁親王)ご結婚に伴い,特別基準恩赦が実施されました。
(2) 特別基準恩赦は,特別恩赦基準に基づく恩赦のことでありますところ,平成時代の特別恩赦基準は以下の三つです。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
② 即位の礼に当たり行う特別恩赦基準(平成2年11月9日閣議決定)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
(3) 自治省選挙部長の通知を以下のとおり掲載しています。
① 昭和天皇の崩御に際会して行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成元年2月13日付の自治省選挙部長の通知)
② 即位の礼に当たり行われる恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成2年11月12日付の自治省選挙部長の通知)
③ 御結婚恩赦と選挙事務の取扱いについて(平成5年6月8日付の自治省選挙部長の通知)
(4) 公民権とは,選挙権及び被選挙権をいいます(労働基準法7条参照)。
2 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦における公民権の回復方法
(1) 罰金前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づき,当然に公民権の停止が解除されて公民権を回復しました。
(2) 公職選挙法違反の懲役前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づく公民権停止の解除は実刑期間経過後5年を経過したものに限られていました。
   そのため,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。
3 平成2年の御即位恩赦における公民権の回復方法
(1) 罰金前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づき,当然に公民権の停止が解除されて公民権を回復しました。
(2) 公職選挙法違反の懲役前科がある場合の公民権の回復方法
   復権令に基づく公民権停止の解除は罰金前科に基づくものに限られていました。
   そのため,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。
4 平成5年の皇太子御結婚恩赦における公民権の回復方法
   復権令が出ませんでしたから,特別基準恩赦としての特赦,復権等に基づき公民権の停止が解除されて初めて,公民権を回復しました。

第2 公民権を有しない人,並びに選挙運動の禁止及び公民権の回復
1 公民権を有しない人
   以下の人は公民権を有しません(総務省HPの「選挙権と被選挙権」参照)。
① 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(公職選挙法11条1項2号)
② 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者は除く。)(公職選挙法11条1項3号)
・ 刑務所から仮釈放された場合であっても,刑期が満了するまでは公民権を有しないということです。
・ 政治家が詐欺罪,弁護士法違反等により執行猶予付の有罪判決を受けた場合,公民権は停止しません。
③ 公職にある間に犯した収賄罪により刑に処せられ,実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者(公職選挙法11条1項4号及び11条の2),又は刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項4号)
・ 平成 4年12月16日法律第 98号に基づき,同日以降の行為に基づく収賄罪により執行猶予付きの判決が確定した場合,公民権が停止することとなりました。
・ 平成 6年 2月 4日法律第 2号に基づき,収賄罪により実刑判決を受けた場合,実刑期間経過後5年間,公民権が停止されることとなりました。
   例えば,令和元年7月21日投開票の第25回参議院議員通常選挙・比例区で当選した鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)の場合,平成9年ないし平成10年の行為に基づくあっせん収賄罪等により懲役2年の実刑判決を受けたものの,刑期満了から5年が経過した平成29年4月30日に公民権を回復しました。
・ 平成11年 8月13日法律第122号に基づき,平成11年9月2日以降の行為により刑に処せられた場合,実刑期間経過後10年間,被選挙権が停止されることとなりました。
④ 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行猶予中の者(公職選挙法11条1項5号)
⑤ 公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により,選挙権及び被選挙権が停止されている者(公職選挙法11条2項及び252条)
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(公職選挙法252条4項)。
⑥ 政治資金規正法に定める犯罪により選挙権及び被選挙権が停止されている者(政治資金規正法28条)
・ 平成 6年 2月 4日法律第 4号に基づき,平成7年1月1日から適用されています。
・ 例えば,一定の罪で罰金刑に処せられた場合,裁判確定の日から5年間,選挙権及び被選挙権を停止されます。
・ 裁判所は,情状により,選挙権及び被選挙権を有しない旨の規定を適用せず,又はその規定を適用すべき期間を短縮する旨を宣告できます(政治資金規正法28条3項)。
2 選挙運動の禁止及び公民権の回復
(1)ア 公職選挙法252条又は政治資金規正法28条に基づき公民権を有しない人は選挙運動をすることもできません(公職選挙法137条の3)。
イ 公職選挙法239条1号の罪の構成要件である同法129条にいう選挙運動とは,特定の選挙の施行が予測せられ或は確定的となった場合,特定の人がその選挙に立候補することが確定して居るときは固より,その立候補が予測せられるときにおいても,その選挙につきその人に当選を得しめるため投票を得若しくは得しめる目的を以て,直接または間接に必要かつ有利な周施,勧誘若しくは誘導その他諸般の行為をなすことをいいます(最高裁昭和38年10月22日決定)。
ウ 政治活動とは,政治上の目的を持って行われる一切の活動から,選挙運動にわたる行為を除いたものをいいます(千葉県浦安市HPの「選挙運動と政治活動」参照)。
(2) ①ないし④の人は特赦を受ければ公民権を回復しますし,⑤及び⑥の人のうち,罰金刑を受けたにすぎない人は復権を受けるだけで公民権を回復します。

第3 選挙違反者が平成2年の御即位恩赦を受けるために必要であった条件
1 執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1以上を経過した人が恩赦を受けるために必要であった条件
(1) 特赦を受けるために必要であった条件
① 基準日の前日までに執行猶予期間の2分の1以上が経過していること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,特赦が特に相当であること
(2) 減刑を受けるために必要であった条件
① 基準日の前日までに執行猶予期間の3分の1以上が経過していること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,減刑が特に相当であること
2 (a)実刑判決を受けた人(刑の執行前の人を含む。),又は(b)執行猶予付きの有罪判決を受けた後,執行猶予期間の3分の1も経過していない人が恩赦を受けるために必要であった条件
(1) 特赦を受けるために必要であった条件
① 社会のために貢献するところがあること
② 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
③ 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,特赦が特に相当であること
(2) 減刑を受けるために必要であった条件
① 刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること
② 犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等にかんがみ,減刑が特に相当であること
(3) これらの条件につき,①過失犯を除く刑法の罪,②法定刑の短期が1年以上である特別法の罪及び③薬物に係る罪は恩赦の対象外でしたが,公職選挙法違反(以下「選挙違反」といいます。)等は恩赦の対象でした。

第4 平成2年の御即位恩赦で必要であった条件の具体的内容
1 皇太子ご結婚恩赦について(法律のひろば1993年8月号及び同年9月号に掲載されたもの)の執筆者
   当時の法務省保護局恩赦課長及び法務省保護局恩赦課長補佐です。
2 「社会のために貢献するところがあること」の意義

   法律のひろば1993年8月号53頁には以下の記載があります。
   「社会のために貢献するところがあり」とは、社会的に評価されるような功績が現に存在し又は過去に存在した場合をいい、その有無については、諸般の具体的状況から総合的に判断することとなる。例えば、市町村議会議員のほか、民生委員、PTA役員、自治会役員、消防団の役員、同業組合の役員等一定の地位に基づく社会への貢献のほか、過去に人命救助あるいは福祉施設や更生保護施設等に対しての物心の支援などの事実があり、それが社会的に評価されていることがこれに該当する。
   なお、この要件についても、その疎明資料(在籍証明書、表彰状等の写し等)を提出して根拠を明らかにする必要がある。
3 「刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害になっていること」の意義
(1) 平成5年の皇太子御結婚恩赦における「近い将来における公共的職務への就任又は現に従事している公共的職務の遂行に当たり、その刑に処せられたことが障害となっている」という記載は,平成元年の昭和天皇御大喪恩赦及び平成2年の御即位恩赦における「その刑に処せられたことが現に公共的社会生活上の障害となっている」という記載を明確にしたものであって,その内容に変更はありません(法律のひろば1993年8月号52頁)。
(2) 法律のひろば1993年8月号52頁及び53頁には以下の記載があります。
   公共的職務への就任又は公共的職務の遂行に当たっての障害とは、近い将来において具体的に一定の公職又はこれに準ずる役職(以下「公職等」という。)に就任する上で資格の制限その他の障害があること、及び現在従事している公職等を遂行する上で障害があることをいう。法令に基づき資格を喪失し、あるいは、これを停止されているため一定の公職等に就任できないなど法令上障害のある場合のみならず、刑に処せられたことによる負担から、現在従事している公職等において部下の指導、意見の表明、外部との交渉等が満足に行えない事情にあるなど事実上障害のある場合であってもよい。小地域又は小範囲の関係者の団体の役員も、公共的職務に含まれる。例えば、国会議員、都道府県知事、市区町村長又は地方議会議員の選挙への立候補はもちろんのこと、地元地域団体(消防団、自治会、土地改良区等)、同業組合(農業、漁業、畜産、森林、青果、古物商組合等)等の役員への就任、農業委員、教育委員、民生委員等への就任あるいはPTA役員への就任等が考えられる。
   公共的職務への就任又は公共的職務の遂行に当たり障害となっていることを理由として出願する際には、その事実を具体的に記載し、就任すべき公職等ないしその団体の名称、就任の時期等を特定することが必要である(例えば、公職への立候補の場合は「平成五年○月○日施行予定の○○市議会議員への立候補」、団体役員に就任する場合は「平成五年○月○日○○団体の○○役職に就任」などと記載する。なお、団体役員への就任の時期は現職者がいる場合はその者との交替時期、資格回復と同時に団体役員に就任する場合はその旨を明らかにする。)。また、これらを証するに足る資料(推薦者、関係団体等本人以外の者の推薦書、上申書、証明書等)を恩赦願書に添付することが必要である。
   選挙の期日は未定であるが当該選挙への立候補を理由とする出願は、数か月先にその選挙が行われることが客観的に確実である場合には、近い将来における公共的職務への就任に当たり障害となっていると解して差し支えない。
4 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」の意義
(1) 「犯情,本人の性格及び行状,犯罪後の状況,社会の感情等」は,恩赦を行うに当たっての一般的な判断基準であって,「かんがみ事項」といいます。
(2) 法律のひろば1993年8月号51頁には以下の記載があります。
   「犯情」とは、犯罪の軽重を含む犯罪の情状であり、「本人の性格」とは、本人の性質、素行、犯罪常習性の有無等をいう。「行状」とは、当該犯罪行為以外の一般的な本人の生活態度をいい、刑の言渡し以前のものも含まれる。「犯罪後の状況」とは、改しゆんの情及び再犯のおそれの有無のほか、服役中の行状、保護観察中の行状、保護観察終了後恩赦出願までの行状を含む。
   「社会の感情」とは、第一義的には犯行及び恩赦に対する地域社会(犯罪地、本人の居住地及び在監者の帰住予定地)の感情を指すこととなろうが、広い視野からの良識ある社会人の法感情に基づく評価も考慮され、また、応報感情の融和が刑罰の機能の一つであることにかんがみ、社会一般及び被害者(遺族)の応報感情が融和されているか否かについても判断されるものと思われる。

第5 平成時代に実施された,選挙違反者に対する特別基準恩赦の実績
1 平成元年の昭和天皇御大喪恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は773件であり,恩赦相当件数は635件であり,恩赦相当率は82.1%でした。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は545件であったところ,全体の特赦の件数は566件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は21件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は80件であったところ,全体の減刑の件数は142件でしたから,選挙違反以外の減刑の件数は62件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除の件数は4件(全体で56件),復権の件数は6件(全体で25件)でした。

2 平成2年の御即位恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は478件であり,恩赦相当件数は327件でしたから,恩赦相当率は68.4%でした。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は266件であり,全体の特赦の件数は267件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は1件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は54件であったところ,全体の減刑の件数は77件でしたから,選挙違反以外の減刑は23件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除の件数は1件(全体で10件),復権の件数は6件(全体で44件)でした。

3 平成5年の皇太子御結婚恩赦の場合
(1) 選挙違反に関する総受理件数は1255件であり,恩赦相当件数は945件でしたから,恩赦相当率は75.2%でした。
   このうち,罰金刑の復権事案の総受理件数は691件であり,復権相当件数は631件でしたから,復権相当率は91.3%でしたから,それ以外の総受理件数は564件であり,恩赦相当件数は314件であり,恩赦相当率は55.6%であったこととなります。
(2) 選挙違反に関する特赦の件数は82件であり,全体の特赦の件数は90件でしたから,選挙違反以外の特赦の件数は8件だけでした。
(3) 選挙違反に関する減刑の件数は231件であり,全体の減刑の件数は246件でしたから,選挙違反以外の減刑は15件だけでした。
(4) 選挙違反に関して,刑の執行の免除は0件(全体で10件),復権(禁錮以上の刑)の件数は1件(全体で30件),復権(罰金刑)の件数は631件(全体で901件)でした。

第6 関連記事
① 恩赦の手続
② 恩赦の効果
③ 恩赦に関する記事の一覧