恩赦の手続

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目次
1 政令恩赦及び個別恩赦
2 恩赦の出願
3 刑事施設の長等が行う上申
4 中央更生保護審査会等が行う手続
5 恩赦に関する法令及び訓令・通達
6 恩赦の実績
   
1 
政令恩赦及び個別恩赦
(1) 恩赦の方法で分けた場合,恩赦には以下の二種類があります(憲法7条6号,73条7号)。
① 政令恩赦
・   政令で罪の種類,基準日等を定め,該当する者に対して一律に行うものであり,大赦,減刑及び復権がこの方法で行われます。
・ 大赦令,減刑令及び復権令は政令恩赦です。
② 個別恩赦
・   特定の人に対して個別的に中央更生保護審査会の審査を経た上で行われるものであり,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権がこの方法で行われます。
(2) 個別恩赦には以下の二種類があります。
① 常時恩赦
   普段から随時,個別的に行われる恩赦です。
② 特別基準恩赦
   国家的慶弔などの際に,内閣が閣議決定で定める基準により,一定の期間に限り個別的に行われる恩赦です。
(3) 大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権の効果については,「恩赦の効果」を参照してください。
(4) 恩赦申請(恩赦願書の提出)をしない限り恩赦の対象とならないのは,個別恩赦です。

2 恩赦の出願
(1) 恩赦の出願先
ア 被収容者は刑事施設の長,保護観察中の者は保護観察所の長,その他の者は有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官(「有罪裁判対応検察官」といいます。)に対し,特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願(「恩赦の出願」といいます。)を行えます。
イ 例えば,保護観察が付いていない執行猶予中の人,執行猶予期間が満了した人及び罰金を支払った人の場合,それが大阪地裁の有罪判決に基づくものであった場合,大阪地検の検察官が有罪裁判対応検察官となりますから,大阪地検に対して恩赦の出願を行うこととなります。
(2) 恩赦の出願ができるようになる時期
ア 特別基準恩赦の場合
   例えば,即位の礼に当たり行う特別恩放基準(平成2年11月9日閣議決定)の場合,懲役又は禁錮の受刑者は平成2年11月11日(即位礼正殿の儀の前日)までに有罪判決を受け,平成3年2月12日までに有罪判決が確定していれば,直ちに個別恩赦の出願書を提出することができました。ただし,提出期限も平成3年2月12日でした。
イ 常時恩赦の場合

(ア) 懲役又は禁錮の受刑者の場合,特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願は,刑法28条所定の期間(有期刑の場合,刑期の3分の1であり,無期刑の場合,10年)が経過するまではすることができません(恩赦法施行規則6条1項3号及び4号参照)。
(イ) 復権の出願は,刑の執行を終わり又は執行の免除のあった後でなければできません(恩赦法施行規則7条)。
(ウ) 刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官が本人の出願によりした特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,その出願の日から1年を経過した後でなければ,更に出願をすることができません(恩赦法施行規則8条)。
(3) 恩赦の出願書の記載事項及び添付書類
ア   恩赦の出願書(書類の表題は「恩赦願書」です。)には以下の事項を記載し,かつ,戸籍の謄抄本を添付しなければなりません(恩赦法施行規則9条)。
① 出願者の氏名,出生年月日,職業,本籍及び住居
② 有罪の言渡しをした裁判所及び年月日
③ 罪名,犯数,刑名及び刑期又は金額
④ 刑執行の状況
⑤ 上申を求める恩赦の種類
⑥ 出願の理由
イ 恩赦願書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 無期刑仮釈放者の刑の執行の免除の例
② 対象刑が2刑ある有期刑仮釈放者の復権の例3 刑事施設の長等が行う上申
(1) 特赦,減刑又は刑の執行の免除の上申
ア 本人から出願を受けた刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は,意見を付して中央更生保護審査会更生保護法4条)
にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則1条の2第2項)。
イ 刑事施設の長等が行う,特赦,減刑又は刑の執行の免除の上申に当たっては,出願書に添えて,以下の書類を提出しなければなりません(恩赦法施行規則2条1項及び2項)。
① 判決の謄本又は抄本
② 刑期計算書
③ 犯罪の情状,本人の性行,受刑中の行状,将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
④ 恩赦願書の謄本
(2) 復権の上申
ア 本人から出願を受けた刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は,意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則3条2項)。
イ 刑事施設の長等が行う,復権の上申に当たっては,出願書に添えて,以下の書類を提出しなければなりません(恩赦法施行規則4条1項,4条2項・2条2項)。
① 判決の謄本又は抄本
② 刑の執行を終わり又は執行の免除のあったことを証する書類
③ 刑の免除の言渡しのあった後又は刑の執行を終わり若しくは執行の免除のあった後における本人の行状、現在及び将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類
④ 恩赦願書の謄本
(3) 恩赦上申書及び調査書の記載例
ア(ア) 恩赦上申書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 職権で刑の執行の免除の上申をする場合
② 出願を受けて復権の上申をする場合
③ 出願を受けて特赦又は復権の上申をする場合
④ 出願を受けて減刑の上申をする場合
(イ) 恩赦上申書(甲)は職権で上申をする場合の書式であり,恩赦上申書(乙)は出願を受けて上申をする場合の書式です。
イ 調査書の記載例を以下のとおり掲載しています。
① 罰金刑に処せられた者の特赦又は復権の例
② 無期刑受刑者の減刑の例
③ 無期刑仮釈放者の刑の執行の免除の例
④ 有期刑仮釈放事件の復権の例
(4) 検察官が行う上申における上申権者
   検察官の上申は,恩赦上申事務の重要性に鑑み,最高検察庁の検察官がすべきものについては検事総長,高等検察庁の検察官がすべきものについては検事長,地方検察庁の検察官又は区検察庁の検察官がすべきものについては検事正が行うものとされています(
恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)1の(1))。


4 中央更生保護審査会等が行う手続
(1) 恩赦を実施しない場合の手続
ア   中央更生保護審査会は,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,上申をした者(=刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官)にその旨を通知しなければならず,この通知を受けた者は,出願者にその旨を通知しなければなりません(恩赦法施行規則10条)。
イ 中央更生保護審査会による恩赦不相当の議決に対する救済手段は設けられていません(「恩赦制度の概要」6頁及び7頁)。
(2) 恩赦を実施する場合の手続
ア 恩赦法12条に基づく中央更生保護審査会の申出は,刑事施設の長等の上申があった者に対して行われます(恩赦法施行規則1条)。
イ 中央更生保護審査会は,恩赦を実施すべきである旨の申出を法務大臣に対してする場合,あらかじめ,申出の対象となるべき者の性格,行状,違法な行為をするおそれの有無,その者に対する社会の感情その他の事項について、必要な調査を行う必要があります(
更生保護法90条1項)。
ウ 中央更生保護審査会は,刑事施設若しくは少年院に収容されている者又は労役場に留置されている者について,特赦,減刑又は刑の執行の免除の申出をする場合,その者が,社会の安全及び秩序を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮しなければなりません(更生保護法90条2項)。
エ 特赦,特定の者に対する減刑,刑の執行の免除又は特定の者に対する復権があったときは,法務大臣は中央更生保護審査会をして,有罪裁判対応検察官に特赦状,減刑状,刑の執行の免除状又は復権状(いわゆる「恩赦状」です。)を送付させます(恩赦法施行規則11条1項)。
オ   恩赦状の送付を受けた検察官は,自ら上申をしたものであるときは,直ちにこれを本人に交付し,その他の場合においては,速やかにこれを上申をした者に送付し,上申をした者は,直ちにこれを本人に交付しなければなりません(恩赦法施行規則11条2項)。
   
5 恩赦に関する法令及び訓令・通達
(1) 恩赦に関する法令
ア 根拠法令は以下のとおりです。
① 恩赦法(昭和22年3月28日法律第20号)
② 恩赦法施行規則(昭和22年10月1日司法省令第78号)
③ 更生保護法(平成19年6月15日法律第88号)
・ 犯罪者予防更生法及び執行猶予者保護観察法を整理・統合した法律であり,平成20年6月1日に施行されました。
④ 更生保護法施行令(平成20年4月23日政令第145号)
イ 恩赦法に関する政令はありません(
法務省保護局HP「関係法令」参照)。
   また,更生保護事業法(平成7年5月8日法律第86号)に恩赦に関する定めはありません。
(2) 恩赦に関する訓令・通達
① 恩赦上申事務規程(昭和58年12月23日付の法務大臣訓令)
・ 様式第8号が恩赦願書となっています。
② 恩赦上申事務規程の運用について(昭和58年12月23日付の法務省刑事局長・矯正局長・保護局長依命通達)
・ いわゆる「運用通達」です。
③ 
恩赦上申事務規程の解説の送付について(平成28年3月31日付の法務省保護局総務課長の通知)
・ 恩赦上申事務に関する一通りのことが書いてあります。
④ 恩赦事務処理要領の制定について(平成7年3月13日付の法務省保護局長の通達)
・ 保護観察所における恩赦に関する事務を定めています。
6 恩赦の実績
(1) 常時恩赦の実績
ア 平成9年以降の常時恩赦において,特赦及び減刑が認められたことはなく,刑の執行の免除及び復権が認められているだけです。
   刑の執行の免除は,主として無期刑仮釈放者について行われています。
   また,復権は,主として罰金刑受刑者に対する法令上の資格制限を取り除くために行われています。例えば,赤切符による罰金前科のある,医師国家試験合格者が欠格事由としての罰金前科(医師法4条3号)を抹消するために行われています(平成18年4月6日の参議院法務委員会における杉浦正健法務大臣の答弁参照)。
   そのため,このような限られた場合に該当しない限り,常時恩赦が認められることはありません。
イ 詳細については,「恩赦の件数,無期刑仮釈放者及び復権」を参照してください。
(2) 特別基準恩赦の実績
ア 平成元年以降,以下の3つの特別恩赦基準に基づく特別基準恩赦が実施されました(「戦後の政令恩赦及び特別基準恩赦」参照)。
① 昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦基準(平成元年2月8日臨時閣議決定)
② 即位の礼に当たり行う特別恩放基準(平成2年11月9日閣議決定)
③ 皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦基準(平成5年6月8日閣議決定)
イ 恩赦相当率(恩赦相当件数/総受理件数)につき,昭和天皇の崩御に際会して行う特別恩赦の場合,58.3%であり,即位の礼に当たり行う特別恩赦の場合,56.7%であり,皇太子徳仁親王の結婚の儀に当たり行う特別恩赦の場合,罰金刑の復権を除くと44.9%でした。
ウ 衆議院議員保坂展人君提出死刑と無期懲役の格差に関する質問に対する答弁書(平成12年10月3日付)には以下の記載があります。
   戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮出獄中の者を除く。)は八十六人である。なお、無期懲役が確定した後、昭和三十五年以降に個別恩赦により減刑された者はいない。
   また、戦後、無期懲役が確定した後、政令恩赦により減刑された者については、十分な資料がないため、総数は不明である。なお、最後に政令恩赦により減刑が行われたのは、昭和二十七年四月の日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)の発効に際してである。